2023年10月31日火曜日

西の魔女が死んだ(2008)

映画「西の魔女が死んだ」(2008)を見る。BSプレミアムでやってたので録画しておいた。初めて見る。
原作は梨木香歩。(読んだことない)
監督は長崎俊一。脚本は矢沢由美。制作と配給はアスミックエース。

2年前、不登校の女子中学生が田舎のおばあちゃんと一緒に過ごした回想。そして訃報。

おばあちゃん(サチ・パーカー)はなんと英国人。母(りょう)はハーフ。なのでヒロインまい(高橋真悠)はクオーターという設定。
祖母の1人暮らしの森の中の家がジブリアニメのよう。八ヶ岳山麓?アリエッティやトトロのよう。祖父はすでに亡くなってる。

祖母と母と娘で仲良くサンドイッチなど作ってる。畑のレタスにはでっかいナメクジ。クルマに荷物を取りにいけば汚らしく粗暴そうな不審者(木村祐一)がいる。そんなプチショックな出来事。
ママりょうはまいのために部屋を片付けた翌朝早くにクルマで東京へ戻っていく。

まいは祖母の勧めで裏山を散歩。山の中の草原でジャムをつくるための野イチゴを摘む。
どこか「思い出のマーニー」の雰囲気だが年代が同じ村人とか一切でてこない。ひたすら祖母との生活。理想的なイングリッシュガーテンと周辺の森歩き。ポジティブ田舎暮らし。
田舎で規則正しく早起きして勉強して祖母の手伝いをして生活することを「魔女修行」と呼ぶ。

ゴミ捨て場に行くと、近所の不審者が棄てた大量の古いエロ雑誌などを見て激しい不快感w 近所に気味の悪い男が住んでるとか微妙に嫌。この美しい世界の唯一の汚点。少女にとってストレス。

山の天候が急変するとか当たり前。そんな都会の子が初めて体験する出来事の数々。
郵便屋さん(高橋克実)は軽くて陽気。こういう人がいる田舎なら安心かもしれない。
そして少女が心配すること。それは、人は死ぬとどうなるの?怖い…。

野犬かイタチに家禽を食い殺される…というショッキングな出来事が起こる。
まいは隣近所のあの粗暴そうな男(その父親も似たようなもの)の家に家禽小屋の修理を頼む。修理代金を持っていくと、学校をサボってる子だと嘲笑われる。
その家で飼ってる犬が家禽小屋にあった毛と似ていることに気づく。この犬が家禽を襲ったのでは?と疑惑。こいつは他人の土地にも勝手に侵入してくる。不快感と激しい拒絶。
しかし祖母はやさしくまいの怒りの感情をたしなめる。すべて肯定してくれる祖母がこの粗暴な男に関してはまいの気持ちに同情を示してくれない。

パパ(大森南朋)がひとりやってくる。またパパママと3人暮らしに戻る?転校?
祖母は「ここに居たいのならずっといればいい」という。
いやこの映画、ドラマ性がほとんどなくて驚いた。ヒロインは中学校の女子たちとの人間関係に悩んでる…ということは示される。

祖母「自分が楽に生きられる場所を求めたからといって後ろめたく思う事はない。サボテンは水の中に入る必要はないし、白くまがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって誰が白くまを責めますか?」

子どものころに祖父母の家で過ごした想い出そのものを描いたような映画。誰しも思い当たるところはあるかもしれないが、正直、大人男性が見ても面白みは感じない。1回見ればいい感じ。

主題歌は手嶌葵「虹」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。

2023年10月30日月曜日

川口春奈「夫のカノジョ」(2013)

川口春奈と鈴木砂羽の主演TBSドラマ「夫のカノジョ」(2013)を今になって見る。
他に見るべき映画やドラマ、読むべき本がたくさんあるのに、あえて今このドラマを見る。
原作は垣谷美雨「夫のカノジョ」(双葉文庫)。脚本は江頭美智留と横田理恵。制作はホリプロ。

これ、本放送当時に第1話で大爆死して話題になったw 3%台で酷評された。だが今ならワンチャン面白いかもしれないと期待。冒頭ナレーションが鈴木福
だが、第1話を視聴開始早々に、なぜ多くの視聴者が見放したかわかった。いろいろありえなかった。
ギャル派遣OL山岸星見(川口春奈)を夫のカノジョと疑い尾行してた専業主婦小松原菱子(鈴木砂羽)の修羅場に、なぜか博多弁の魔法使い(渡辺えり)が唐突に表れてふたりを入れ替えてしまうというファンタジー。「何なんだこれ?!」
いい大人が見るドラマとは思えない。違和感だらけ。

菱子(鈴木砂羽)の夫で製粉会社営業部課長の麦太郎(田辺誠一)が仕事ができるにしてもにやけ顔で軽い。そもそもギャル派遣OLの正社員採用試験勉強に協力するために、年頃の若い女性のアパートに行くのが非常識。それを尾行してる気弱心配性妻も非常識。
それに川口春奈ギャルOLがもっとありえない。よほどお人よしばかりの職場じゃないと、どれだけスキルが高くともあの子は会社に置いてすらもらえない。部長柳沢慎吾はこの生意気派遣OLが気に入らず辞めさせたい。
しかも時には一緒に営業に外回りもする。この子にそんな仕事をさせる課長も部長も頭悪い。

しかも菱子が入れ替わってOLとして夫の職場に通勤する川口春奈がずっと可愛くないw ずっと怒り顔、困り顔のいずれか。このときから10年たった今の川口のほうがはるかにカワイイ。

気弱妻から蓮っ葉な妻に変身してしまう鈴木砂羽は適役かもしれないが、これはいつもの鈴木砂羽さんのイメージそのまま。しかもそんなにキレイじゃない。
第1話クライマックスの子ども(鈴木福)がPTA会長(山村紅葉)の息子(でぶ)に暴力を振るってしまい学校に呼び出されて、義侠心のようなものでスカッと解決…とか、ベタすぎ。

菱子が乗り移ったOL星見が心配性ヒステリックで職場を混乱させる。人間として専業主婦菱子よりもギャル里見のほうが成熟してる。
星美が本来自分の家である小松原家を訪問する場面はいろいろ面白かった。入れ替わり物として見たことないやつで新鮮だった。それなりに新しいアイデアが盛り込んである。これ、酷評するほどでもない。
第2回から専業主婦菱子も実は有能であることが示される。

麦太郎と星見の勤務する会社の開発部の柄が悪すぎる。態度が悪すぎる。売れ行きが悪いのをすべて営業部のせいにするとか、こんな会社ありえない。

パスタソースすべて菱子が作ったものが美味しさで勝ってしまう展開とか都合よすぎないか。派遣社員が一人で作ったものに開発部が負けてどうする。
PTA会長がウザすぎる。鈴木砂羽菱子がカッコよさを見せまくる一方、いつまでも夫の浮気疑惑から逃れられない川口春奈星見が困った人過ぎる。見ていてイライラする。

麦太郎が歩道橋の階段から転落して1週間入院…という事態での菱子と星見のやりとりは十分に面白かった。思いつめた星見(中身は菱子)が自暴自棄。ほぼテロリストのような発想。
5話では麦太郎の中学生娘実花(大友花恋)が父と星見がデキていると誤解し傷つく。
しかも星見とわだかまり母(片平なぎさ)も登場。(終盤に病に倒れる)

星見は麦太郎の部下石黒(古川雄輝)から告白される。さらに、ちょくちょく誰かと連絡を取り合ってる菱子を見て浮気を疑う。しかもずっと寝室も別。
ああ、めんどくさい!という試練が次から次へ。

大友花恋、当時中2。13歳から14歳になるころ。SEVENTEEN専属モデルになったころ。それはカワイイにきまってる。初期から若手女優として連ドラにも出演。それは期待されていた。今現在もドラマに映画に活躍中。
遊園地ダブルデート回はとくに子どもっぽい内容。パパママを尾行してた福くんに絡んで6人がかりでカツアゲする不良(30代ぐらいにみえる)は何なの?日本の治安はブラジルじゃない。不快なものを描くな。クローズアップするな。
このドラマ、全世代向けファミリードラマなの?

営業部の成績が上がらず柳沢部長が人事異動。替りにやってきた橋本じゅん部長が厳しいばかりで超絶嫌な人。
職場の雰囲気悪くして歓迎会でも嫌味。理不尽。
なのにクラブで「同期じゃないか。無礼講で行こう」とか言ってることとやってることがまるで支離滅裂だし何がやりたいのか意味不明。死を願いたくなるほど嫌な人。
人前で大声で叱責するのは完全にパワハラ。部の全員から嫌われてどうやって営業成績を上げるんだ?麦太郎は関西へ転勤の危機。
さらに、福くんの教室に転校生さくら(原菜乃華)がやってくる。この子は子役として10年前からがんばってたのか。
その母で夫が教育委員会だという高岡早紀も協調性のない嫌な人。親の側から学校を変えようとか異常なことを言う人。

さくらが異常に弱気で大人しく自分の意見を言えない。
高岡早紀「嫌がる娘に無理やりクリスマス会の白雪姫をやらせた。これはイジメでは?」とか異常すぎる論理を薄ら笑い浮かべて言い立てる。あまりに現実感がない。学校もそんなことでイチイチ母親を学校に呼び出すな。そんなことでクリスマス会を中止にするな。ああ、イライラする。
終盤はこのふたりに何かぎゃふんと言わせるような鉄槌が落ちることのみが、見続けるモチベーション。
なのに、え、そのタイミングで入れ替わってたふたりが元に戻るの?!

体育館での菱子と高岡早紀の直接対決が何らスッキリしないし爽快感がない。
星見と嫌味部長との対決も血反吐吐かせるぐらい攻め立てろ。なにが「俺も辞めます」だ。
こういうファンタジー異常展開見ていて何も楽しくない。

視聴者が求めるものが何も出てこない。スカッと倍返しの勧善懲悪がないドラマは見ていてイライラする。最後まで見てよかったことはあまりない。

2023年10月29日日曜日

日向奈くらら「私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。」(2020)

日向奈くらら「私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。」(2020)を読む。角川ホラー文庫書き下ろし作。

某県にある岩宮山は標高700mほどの山。とくに登山道も整備されていない。麓の駐車場に高校1年生7人が集まった。差出人不明の「名無し」メール。「山に登れば1年前の松原晴美の死の真相がわかる」

1年前の夏、受験勉強の息抜きにハイキングで仲良し中学3年生8人で岩宮山に登ったのだが、嵐で山小屋で一夜を過ごしている間に、成績も容姿もトップでリーダー各の晴美が行方不明。大規模な捜索によっても遺体も発見できなかった。
下山した7人の中に殺人者がいるのでは?と噂になり、7人全員が人生めちゃくちゃ。父親が自殺した生徒も。

7人は疑心暗鬼で山小屋へ。一夜明けると生徒の一人が串刺しで焚火で焼かれている…。
こいつはヤバいと下山しようにも、途中のつり橋が切られている。山小屋に戻ってカップラーメンを食べたひとりが仕込んであった毒によって死亡。

ヒロイン木下綾乃は二重人格だった。そのことは隠していたのだが、もう一人の自分が1年前に目撃したことを喋り出す。だが残り4人は信じない。夏とはいえ冷え込む山の中で、放置すれば死ぬかもしれないのに綾乃を木に縛り付けたまま立ち去る。(だが後に何者かが綾乃を縛っていた紐を切断)

しかし、焚火を囲んで相互に距離をとって寝ていた1人が首を切断され死んでいる…。
その現場に綾乃合流。その状況で双子の姉妹同士がお互いを犯人だと罵りながら片方を殺害。さらに男子生徒悠馬が生き残った双子の片割れに投石し殺害。

そして綾乃と悠馬の死闘。そして、意外な人物の出現。衝撃的で異常かつ意外な真相。高1でこんなにもぶっこわれてていいのか?

十代向けのライトなホラーを選んだつもりが、かなりエグい殺し合いに発展する山岳ホラーミステリーだった。これは高校生でもすらすら読めるし、きっと楽しい興奮と恐怖の読書体験になるだろう。

これはもうすぐにでも実写ホラー映画にできそうだ。登場人物たちがまるで高校1年生だと感じられないので、大学生ぐらいに置き換えて映像化してほしい。自分の中ではすでに映像化できている。

2023年10月28日土曜日

貴志祐介「黒い家」(1997)

貴志祐介「黒い家」(1997)を1999年角川ホラー文庫版で読む。この作家の本を読むのも初めて。

生命保険会社の京都支店で日々支払い査定とクレーム対応に追われる若槻慎二はある日、顧客の菰田から家に呼び出される。何の用かわからなかったのだが、息子和也が呼んでも来ないため、主人に言われるままに襖を開けると、そこに和也の縊死体。
菰田の態度と目つきがおかしい。自分の息子の遺体でなく、自分を観察してる…。

この菰田という不気味な男が保険金の支払いを求めて支店に毎日やってくる。本店からの決定が来ないことには支払いができないし、何より、この菰田が過去に何度も保険金を受けてる常習者。息子も菰田に殺害されたのでは?自分が呼び出されたのは、息子の死を保険会社の責任者に見せるためでは?状況が不審すぎる。

若槻が再三「捜査はどうなった?」と警察に問い合わせるのだが、さすが京都府警。何もしない公務員。のらりくらり。ぼんやりしたアリバイが確認される時点で何もできない。

菰田はサイコパスの恐れ。こいつにマークされるとか恐怖。とくに激高などしない菰田だが、応接室で切断して指のない手を噛んで血を流すなど異常。

若槻は母校の心理学教授を訪ねる。菰田は少年時代から異常。その妻も異常。やがて、支店を訪れ菰田を観察し尾行してた心理学研究室の助手が死体となって発見。若槻の自宅には執拗な無言電話。郵便物も開封された痕跡。

やがて本店は菰田への保険金500万円の支払いを決定。そのことに若槻は不満。
でもこれで菰田は支店にやって来ないだろうと安心するべきなのだが、若槻の恋人の猫が殺害される悪質な嫌がらせ。もう一刻も早く京都を離れ、菰田とこれ以上関わるな!

保険金支払いの障害となるやつらは躊躇なく殺す!というサイコパスすぎる常習的保険金略取者に逆恨みロックオンされた支払い査定担当の恐怖の体験。わりとベタなサスペンススリラー。

ラスボスが化け物並みに強すぎる。まるで「羊たちの沈黙」だし貞子。関係者(無関係者も)を次々と殺し、警戒をかいくぐって若槻の居場所に表れるとか都合いい。そこはリアリティーない。
死屍累々で怖い。京都府警はフィクションでも無能どころかむしろ邪魔で怖い。

読んでる最中、てっきり和歌山カレー事件の犯人夫婦を連想していたのだが、この小説は和歌山よりも1年早いと知って驚いた。
多額の生命保険を掛けてる人、掛けられてる人は常時監視対象にするべき。

あと、作者の貴志祐介は京大卒で生保会社勤務後に作家に転じた人。その経験をこの小説に活かしたといえるのだが、保険業は大学出たような人間がする仕事じゃないと感じた。

2023年10月27日金曜日

宮部みゆき「火車」(1992)

宮部みゆき「火車」(1992)を新潮文庫(平成28年80刷!)で読む。

実は自分、平成日本を代表する作家宮部みゆきを今まで一冊も読んだことなかった。今回やっとこの本を手に取った。面白いという人が多いらしいので。
第二外国語で中国語を選択した自分は「火車」を今までずっと「フオチュー」と読んでいた。「かしゃ」と読むのが正しいと知った。

脚の怪我で休職中の中年刑事本間は亡き妻の親戚和也(銀行勤め)から失踪した婚約者関根彰子の行方を捜すように依頼される。
この女性が突然失踪。勤務先もわけがわからない。だが、和也の話だと以前に信販会社の友人を通じてカードを作とうとなったとき、過去に自己破産していたことが判明。

自己破産を担当した老弁護士を訪ねる。日本におけるクレジットカード多重債務者の問題の現状について解説。交通事故が事故を起こしたドライバーだけの責任として追及するのは間違っているように、多重債務者は単に怠惰でだらしないというよりも、法の不備や社会のせいだという講釈。これが今もそのまま日本社会の諸問題に当てはまっている。
(SNS闇バイトとか、保育施設での不適切な保育とか、老人介護の現場とか、回転すしの動画炎上とか、これらの社会問題も様々な要因のすべてがそろわなければ起きえない問題)

そして最初の衝撃。彰子の勤務先で借りた履歴書写真が、弁護士によればまったくの別人。これはどういうことだ?
そこから先はもう本間の執念の捜査。警察官とはいえ休職中なので、関係者に話を聴くのにも一苦労。

失踪女性を捜すという事から判明する恐ろしい犯罪。たぶん宮部みゆきは「ゼロの焦点」「砂の器」といった松本清張作品から影響を受けているに違いない。「飢餓海峡」かもしれない。失踪した女性と、その女性が成りすました女性。このふたりの不幸な過去と半生。
とにかくずっと聴きこみ。その過程がやたらと細かくて、読んでて気が滅入る。

だが、そこまで緻密に人間ドラマを構成する必要が、この小説には必要。
本間が探し歩いたその女性が、ずっと証言だけにしか登場しないその女性が、最後の最後にその女性が姿を現した時は読者も興奮。
だが、その瞬間に読者は急にフッとその場に放置される。この辺の終り方もとても松本清張っぽい。

文庫裏面のあらすじで「山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作」とある。確かにその通りだった。
読んでる最中は、人探しのための聴きこみ捜査にすぎないのでミステリーといえないのでは?地味な社会派リアリズムでは?と思ってた。
だがそれは、本間刑事の孤独な執念とカンとひらめきによる勝利。その過程はミステリー小説ならでは。読後はとても満足感。

2023年10月26日木曜日

原菜乃華「こむぎの満腹記」(2023)

原菜乃華「こむぎの満腹記」が9月29日と10月6日の2週に渡って前後編として放送された。本放送は見逃してたのだが今は配信があるので見ることが出来た。
これ、またしても企画原案脚本が畑中翔太というテレ東飯テロ深夜ドラマ。監督は枝優花。

原菜乃華という旬の若手女優の主演ドラマ。今年「丸亀製麺」CM、大河ドラマ出演などでブレークの兆し。(え、今年の夏にもう20歳になってたの?!びっくり。)
映画女優として「罪の声」「ミステリと言う勿れ」、声優として「すずめの戸締まり」などで重要な役をしてるのですでに大物の活躍ぶりと雰囲気。

この全2回ドラマは「小麦粉グルメ立国 群馬」をフィーチャーした飯テロドラマ。
「群馬」とは言っても「高崎」のみ。(高崎は江戸の昔から中山道の宿場町で交通の要所。稲作に向いた土地が少なかった上州は昔から小麦粉の生産地。)

ヒロイン橘こむぎ(原菜乃華)は地方から上京し東京・青山の大学に通う女子大生。友人と話題の店へ出かけてインスタグラムにUPするような女子会に勤しむ。
で、実はこのヒロインの裏の顔が小麦料理LOVERというのがドラマの設定。 
この原菜乃華ちゃんが日向坂とかにいそうな顔。上村ひなのと区別つかなかったりする。

いつものようにラーメンをすすって満足という帰り、友人からもらったラスク菓子がフランス製?と思いきや、じつは群馬製だと知る。 
そして高崎へ遠征。まずは「焼きまんじゅう」
焼きまんじゅうは長年、群馬県民しか知らない謎フードだった。こいつを食べようと思うと苦労する。観光地の片隅に茶屋などがあれば提供してる率が高いのだが、いざ見つけようとしても見つからなかったりする。SAとかでも扱ってなかったりする。自分は過去何度も群馬に行ってるのだが、沼田に行ったとき食べたのが一度だけ。

このドラマ、他のテレ東飯テロドラマ同様、ほぼ小麦フードを食いながら心の声ナレーション。焼きまんじゅう(店主が池谷のぶえ)を一口食べるとヴェルディの歌劇「ナブッコ」から合唱曲「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」が流れる。群馬は日本のイタリアというわけだ。
高崎観音に参拝しこんにゃくアイスなどを食べた後に、いよいよパスタの街高崎を代表する老舗「デルムンド」へ。謎のパスタ料理ハンブルジョアを食す。
ハンブルジョアって何?店主(銀粉蝶)「ハンバーグが乗ったパスタでブルジョアの気分になってほしい」
ここでまた心の声食レポ。またしても「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」が流れる。 
大満足のこむぎちゃんは高崎に1泊することに。そしてDAY2。

ローカルを知るには地元個人商店を見ろ!と意気込んで平井精肉店で謎名物「オランダコロッケ」などを食してまたしても感動。「ああ、見える!聴こえる!感じる!小麦たちのときめきのハーモニーが!」
そこにふらっとやってきた客が富岡賢治高崎市長?!
次に普通の住宅街を散策。するとそこに小さなパン屋さん「江木食品」。「え、バンズパンって何?!」
店主(渋川清彦)によれば「バンズパンは高崎で食べられてるご当地パン」とのこと。
買ったパンを保渡田古墳群へ持って行き古墳を見ながら食するこむぎちゃん。そして孤独な食レポ。「焼きまんじゅうの味噌ダレの味だ!」「ああ、見える!聴こえる!感じる!小麦たちのときめきのハーモニーが!」
そして旅の最後「やっぱりパスタでしょ」ということでリストランテ・シャンゴさんへ。
他の客が注文してる「ベスビオって何?」それはシャンゴ発祥の群馬でしか食べられない魚介トマトソースパスタ。
「ん?こ、これは!?」「海のない群馬に海が見えるーー!」ほぼミスター味っ子のようなリアクション。
今回は群馬高崎編2回のみだった。今後、「孤独のグルメ」美少女JD版として本格的に連ドラとしての放送を期待したい。

2023年10月25日水曜日

原尞「私が殺した少女」(1989)

原尞「私が殺した少女」(1989)をハヤカワ文庫版で読む。第102回直木賞受賞作のハードボイルド探偵サスペンス小説。

原尞(1946-2023)は名前は知ってはいたけど一冊も読んだことがなかった。今年5月に訃報を聞いてこの本を思い出した。

渡辺探偵事務所の沢崎は、目白の高級住宅地の真壁邸を訪問するやいきなり刑事と警察官に誘拐事件の容疑者として逮捕され、取り調べを受けるはめになる。
真壁家の長女清香(ヴァイオリンの天才少女11歳)が身代金目的で誘拐され、犯人は身代金受け渡し実行を電話帳から渡辺探偵事務所に指名。

目白警察署の刑事たちがそれはもう酷い。読んでいて沢崎がとにかく気の毒になる。沢崎の探偵事務所所長は元刑事で囮捜査中にシャブと現金の両方を持ち逃げした過去。そんなやつのパートナー沢崎も警察から同類とみなされ蔑まされてる。

沢崎はもう警察に何も協力する義務はないのに真壁のために身代金受け渡し代理を積極的に引き受ける。
犯人の電話による指示で、沢崎は愛車ブルーバードに6000万円現金入りトランクを積んで飲食店を転々とたらい回し。そしてバイクに遮られ襲撃され頭を殴られ昏倒。(なぜに警察は犯人に気づかれないように尾行しない?)

ここまでがんばったのに、刑事たちから身代金をちゃんと犯人に渡せなかったと無能呼ばわりされ非難され、遺族からも非難。
後日、老人ホーム廃墟で清香の死後数日たった腐乱死体が発見…という最悪な事態。

ここから先は沢崎のハードボイルド探偵調査。この探偵がとてつもなく有能。
容疑者たちと接触するスキル、話を聴くスキル、探偵としてのカン、それにカッコ良い。
同業で頼りになる見方が一人もいない一匹狼にような探偵なのに、やさぐれてなくて真面目に仕事してるし金にがめつくないし女もいないようだし硬派。感心しかしない。
作者の原尞が九州大卒のインテリでジャズピアニストという上品かつ洗練された経歴だからこそ産まれたキャラだったのかもしれない。

その一方で目白警察署の面々がとにかく気位だけ高くメンツにこだわるのにまったくの無能で醜悪。なのに沢崎に対する態度が最後までずっと悪い。公務員として民間人に対する口の利き方がなっていないし、むしろ暴力団のように粗暴。

沢崎は超有能。事件の捜査が進展したのもほぼ沢崎の調査と思い付きのおかげ。警察は何もしてないしできてない。なのに感謝の言葉も態度もない。
警察は自分たちよりも有能なやつを憎む。自分たちの楽な仕事を脅かす存在を憎む。読んでいてひたすら気が滅入るし胸糞悪い。

この本、さすが名作だと感じた。予想外な展開でページをめくる推進力があった。面白かった。
だが、最後の最後に用意されていた真相はそれほど美しさを感じない。その点は予想を上回ってくれなかった。
内容と本のタイトルがあまり合ってないと感じた。これでは主人公がサイコパス殺人鬼みたいだ。

2023年10月24日火曜日

川澄浩平「探偵は教室にいない」(2018)

川澄浩平「探偵は教室にいない」(2018)を2021年創元推理文庫版で読む。初めて読む作家。この本は第28回鮎川哲也賞受賞作だと表紙に書いてある。

札幌・発寒の中学2年生・海砂真史は身長169cmもあることがコンプレックスだが緩いバスケ部に所属。ある日、教室の机のなかに差出人不明の印刷されたラブレター。一体誰が…。

そういうわけで、幼稚園からの幼なじみに頭のいい男子・鳥飼歩がいたことを思い出す。久しぶりに連絡を取ってみる。スウィーツをお土産に。
だが歩は不登校。真史の話を聴いて「こうだろう」とアドバイス。全4話、どれも予想の範囲を越えない。歩くんはそれほど頭がいいように感じないし鋭くもない。

自分、十代が主人公の「日常系ミステリー」に傑作はないということはわかっているのだが、たまにライトなものをさらっと読んで過ごしたくなることがある。そんでもってこの本を選んだのだが…。

やっぱり、少年少女たちの日常の謎と誤解が「こういうことでした」と判明する程度の薄味ドラマ。なにも嫌な事や怖いことは起こらない青春小説。推理小説ですらない。たぶんこんな毎日は日本中どこでも起こってる。

だが、第4話「家出少女」は面白かった。父と口論し家出した真史がいる場所はどこか?そこに気づく歩くんはやはり一般的中学生より頭が良い。

こういう本でもいいのだが、中高生ならアガサ・クリスティーやエラリー・クイーンや綾辻行人を読んでほしい。

2023年10月23日月曜日

大怪獣のあとしまつ(2022)

「大怪獣のあとしまつ」(2022年2月4日公開)をやっと見る。
監督・脚本は三木聡。主演は山田涼介。音楽は上野耕路。松竹と東映の共同製作。配給も松竹と東映。

これ、公開直後から大不評と酷評の嵐で大炎上するさまをSNS上で見ていた。配信で見れるようになってさらに被害を拡大。見たことを後悔する人続出。

自分は「いやいや待て」と思ってた。三木聡監督の映画って、どれもそんな映画だろ。寒くてスベるのが芸風の監督だろ。岩松了ふせえりがふざけるやつだろ。何を今さら。と思っていた。怖いもの見たさに見る。

この映画がとくに酷くて被害を拡大して要因が、主演がジャニーズで、若い女性やファミリー層まで見てしまったこと。土屋太鳳が見たかった人もいたかもしれない。出演してる俳優がわりと豪華だし、上映館の規模も大きかった。

それに、タイトルが何やら思考実験SFぽくもある。「シン・ゴジラ」で怪獣映画の面白さを知った多くの人が、間違ってこの映画にアクセスしてしまった。三木映画が間違った層に届いてしまった。その結果、被害を広げた。

このアイデアはやりようによっては十分に面白い名作映画にできる可能性はあったように思えた。
大怪獣の死体をどうする?という閣議がスベってるようでも、演劇として見れば面白いと感じる層はいるのではないか?
各大臣のキャストは絶妙だったように思えた。MEGUMI厚生労働大臣とか、ふせえり環境大臣とか、六角精児官房長官とか。各補佐官とか。

新興宗教の教祖ばあさんがいた!AKIRAパロディ笑った。
土屋太鳳環境大臣秘書官がかわいい。
怪獣の名前発表もすべってると酷評されてたけど、これってリアルにこうなりそう。そこ?ってところにこだわったりするのが日本。そういうとこにメディアも食いつく。
各国の反応として、某国っぽい報道官の質感w これまでに日本が経験してきたことのすべて。

怪獣死体処理専門家の菊地凛子の雰囲気だけの役立たず。
大震災のときの福島と東電と官邸もたぶんこんなものだったと想わないでもいられない。この箇所のパロディには悪趣味と批判する人もいるかもだが。
会話が全てすべってると酷評されてたけど、部分的に風刺が効いてて面白いと感じる箇所もあった。迷惑系YOUTUBER(染谷将太)とか。

怪獣の体液を調べる技官のマッシュボブ女優がわからず気になって調べた。片山友希という女優らしい。個性的な風貌。

ゴミは海に棄てろ!成功するかわからないけど!というメッセージを感じた。その後の日本の問題と国内外の対立を予見してたかもしれない。

需要がまったくない映画だとは思わない。昭和の怪獣映画クオリティ―と大して差を感じない。会話シーンがアニメで見るセンスだと感じた。
三木監督はさらに悪名を売ったかもしれない。作ってるときは楽しかったのではないか。下ネタは盛大にすべってた。(「亀は意外と速く泳ぐ」の岩松とふせの質感のまま変わってなかった)

正直、見る前は酷評しながら悪態をつきながらツッコもうと思ってた。この映画を面白いと感じる人は20人に1人かもしれないが、自分はその1人だったw 
「シン・ゴジラ」と同時上映で見てもかまわない。土屋太鳳は石原さとみと同じぐらいのテンション。

2023年10月22日日曜日

ジョン・ダニング「死の蔵書」(1992)

ジョン・ダニング「死の蔵書」(1992)を宮脇孝雄訳1996年ハヤカワ・ミステリ文庫版で読む。これ、以前からいつか読むべき積読リストだった。
「すべての本好きに捧げるネロ・ウルフ賞受賞作」とある。その賞が何かは知らないけど。
BOOKED TO DIE by John Dunning 1992
ジョン・ダニング(1942-2023)を読むの初めて。今年の5月に亡くなってたことを今知った。

1986年のデンヴァーが舞台。路地で古書の「掘り出し屋」中年男の撲殺死体が見つかる。
殺人課のクリフォード刑事が駆け付ける。聞き込みの結果、被害者男性ボビーは何か大きな商いの予定があったのだがダメになったらしい。その本は何か?

クリフォードは普通の刑事と違っていた。まだ36歳独身男なのに古書に異常に詳しい。古本の相場やら、初版本の特徴やら、古書取り扱いについて詳しい。被害者と取引のあった古書店同業者たちに聞き込みに行った先で、古書についての知識を披露。
驚いたのが、80年代中ごろの段階で、スティーヴン・キングの初版本は高値で取引。(そしてトマス・ハリスを褒めている。)

クリフォードには不倶戴天の天敵がいた。元詐欺師なのにランボルギーニに乗って金持ちで粗暴なジャッキー。こいつが掘り出し屋ボビー殺害犯かもしれない。ジャッキーはすぐカッとなって飼い犬も殺す。恋人バーバラにも暴力。
バーバラの身が危ない。ジャッキーをボコボコにして社会から非難され警察を辞める。
てっきり社会派刑事ドラマを見ていたつもりが、いつのまにか、刑事が古本屋を開業してしまう。飛び込みで食う事も住む家もないバイト娘ミス・プライドもやってくる。ここまでが第1部。

80年代アメリカには「セブンイレブン」があったことを知って、今さらだが驚いた。この本がアメリカ読者に向かれて書かれた当時、読者にはセブンイレブンがよく知られた街角風景だったに違いない。
あと、古書店業者格言のようなもの。「どういうわけか、野球のファンは本を読むのが好きで、フットボールのファンはビールを呑んで騒ぐのが好きなんだな。野球の本は売れる。」という箇所を読んで思わず笑ってしまった。

第2部、若くて美人の本の目利きリタにフラれた夜、店に戻ったクリフォードはバスルームでバイト少女ミス・プライドと掘り出し屋のピーターが折り重なるように頭を一発ずつ撃ち抜かれ死んでいる…のを発見。急に目の前に凄惨な場面。
元警官にすぎないクリフォードは独自にミス・プライドを殺した犯人を捜し始める…。

稀覯本をめぐる古書店業者たちの欲望の果ての殺人。元刑事の書店主が犯人を追うサスペンスドラマだけど、ページをめくる推進力があった。面白かった。名作だと感じた。ラストでちゃんとピタッとピースがはまっていく、上質のミステリーだった。

2023年10月21日土曜日

新木優子「SEE HEAR LOVE」(2023)

山下智久新木優子が主演したアマゾンプライムビデオ制作配信のドラマ映画「SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる」(2023)を見る。
ぜんぜん見たそうじゃないけど、新木優子なので見ておく。新木の主演作ってあまり見たことない。

監督はイ・ジェハン。「私の頭の中の消しゴム」で有名な人らしいけど、自分は韓国映画にまったく通じてないので知らない。監督もスタッフも多くが韓国人。韓国の手法で作られた難病ハンデキャップ恋愛ドラマだと予想して見る。

視力を失った漫画家と生まれつき耳が聞こえない女性響(新木優子)との支え合いラブストーリーらしい。
山Pを、実は自分は「ドラゴン桜」「プロ大」以来見たことなかった。

漫画家・泉本真治(山下智久)はアシスタント中村(山本舞香)と深夜まで作画中。時々頭痛。薬で押さえながら仕事に没頭。
連載マンガが映画化決定という漫画家として絶頂を迎えつつある。編集者菅原大吉から望まない展開を指示される。キャラを殺せば読者は感動する?難病や交通事故を盛ることを強要。

真治の漫画の熱心な読者で耳が聞こえない相田響(新木優子)は保育士(ろうあ者の施設の手伝い?)として明るく振舞い日々生活。だが発話の練習に挫折し休みがち。

喜んだのもつかの間。突然倒れ、視力を失う。連載漫画も休載。(診断した医師の態度が異常。これは韓国スタンダードか?)
偏屈ババア祖母夏木マリ(なんか汚らしい。この役は夏木さんの正しい使い方と言えない)の世話にも疲れる。失意のどん底。点字を学ぶ気も起こらない。もう、死のうか…。

そんな最悪な状況でふたりは出逢う。なんだこの出会い方。響は探偵のようなカンの良さ(?)で漫画家先生の自宅に到達。
しかし、耳の聞こえない響は筆談で語りかけるも、目の見えない真治は相手がただ黙ってるとしか思えない。響は閉じられたドアの向こう側で心が荒んで暴れる真治の出す物音も聞こえない。
しかし、ベランダから飛び降りようとする真治を察する。
駆け付けた響は寸でのところで真治を抱きとめ、ガラス破片で血まみれ格闘の末に抑え込む。

そしてなぜか響は真治の部屋へ毎日通い始める。男は相手が喋れない女なんだなとわかる。不思議な共同生活。
この男女のハンディキャップ設定は画期的アイデア。なぜに今までなかった?
今ならテクノロジーでコミュニケーション可能。響もタイピングができるなら読み上げソフトでなんとかなる。
このヒロインはかわいいし愛嬌もあるのでバイト先の同僚おばさんたちも優しい。

ジャズカフェやってる山口紗弥加(まるでコメディエンヌ)も接近してきてくれる。(この人の正体が驚き)
そして財閥社長みたいな高杉真宙(未成熟なクソガキ)も登場。いかにも韓国人監督らしい突拍子もない展開。

響はマンガを真治が望まない展開にされるのが気に入らない。お金のために仕方ないということで心のすれ違い。響は真治の角膜移植のためにモデルオーディションを受けることに?!

いっさい喋らない(喋ろうともしない)ソバージュにマフラー新木優子がとてつもなくオシャレだし笑顔美人。
高杉くんと山口と新木のモデル契約シーンが、たぶん笑わせようというつもりらしいのだが、意味がわからないほどヘンテコ。ヒロインも怪訝な顔になる。
一体何を企んでる?と思って見てたらやっぱりそんなオチか。

韓国人監督が演技指導すると表情や振舞も韓国ドラマ女優っぽくなる。日本人の感覚からするとヘンテコな人々が多い。

それにしても山Pと新木が美男美女。日々美男美女のラブストーリーばかり食って生きてる韓国らしいドラマ。美男美女鑑賞ドラマ。

2023年10月20日金曜日

遠藤周作「王妃マリー・アントワネット」(1979)

遠藤周作「王妃マリー・アントワネット」(1979)を新潮文庫上下巻で読む。

日本人のほとんどが名前は知ってる人物だが、その生涯を描いた伝記のようなものを読んだ人は少ないのではないか?せいぜい「ベルサイユのばら」なのではないか?というわけでこの本を手に取った。フランス留学生だった遠藤ならではの視点があるのではないか。

ウィーンからパリへ向かう花嫁の一団を歓迎するストラスブール市民。パン焼き窯の灰で薄汚れた孤児のマルグリットは、自分より1つ年下の美しく可憐なマリー・アントワネット14歳を見て嫌悪感。自分が買えないものを何でも自由に買えるアイツが憎い。「死ねばいい。早く、殺されたらいい。」

フランス国王ルイ15世の孫の皇太子ルイ・オーギュストは小太りで脚が短く顔にも目にも覇気がない。婚礼の夜、一緒のベッドなのに自分に手も触れない。失望する少女。
少女の潔癖と正義感で舅の国王の愛人デュ・バリー伯爵夫人を毛嫌いし無視。そのことが国王を困惑させ、フランスとオーストリアとの外交関係にも影響を及ぼす。駐フランス大使からオーストリア皇女マリア・テレジアの耳に入り叱責の手紙。

皇太子ルイはダンスなど王室の優雅な振る舞いができない。もっぱら狩りに出かけ、鍛冶場見学という謎の趣味も持っていた。マリー「そういうのやめて!」
マリーはマリーでハンサムなシャルトル公爵と恋の駆け引き。そんな中、国王ルイ15世は病で倒れる…。

一方、口うるさく怒鳴られることに嫌気がさしたマルグリットは家を飛び出す。路上で男から「パリに行けば仕事もあるし、金を貯めれば何でも買える」と声をかけられパリへ出る。
これがやっぱり私娼窟。客がマルキ・ド・サド侯爵だったり、医師マラーだったりする。

マルグリットは初めて男に買われる。客がないときはパリの街を歩く。人だかりがあるので行ってみると街角で罪人の処刑。処刑人サムソンと言葉をかわす。マルグリット「あの子(マリー・アントワネット)も罪人のように広場で吊りさげられればいいのに」

もしルイ15世が死ぬとヴェルサイユを追い出されるデュ・バリー夫人は気が気でない。反マリー勢力を育てよう。そのためにマリーの我儘を増長させ敵を作らねば。
仮面舞踏会でシャルトル公爵に冷めたマリーの次の恋はスウェーデンの貴族フェルセン伯爵。
その一方で、処刑人サンソンはギヨタン博士から新しい処刑装置についてのアイデアを相談される。「この方法で罪人の苦痛を取り除ける。中世以来の野蛮から前進できる」

サンソン家の前で行き倒れていたマルグリットはサンソン家で看病される。卑しい職業をしていることはお見通し。
マルグリットはゴマール神父に預けられる。神父さんにつきそって監獄へ。そこに優しかったおばさんの名前。サド侯爵の逃亡を手助けしたとして国王の名において広場でむち打ち刑。
マルグリットはさらに国王とマリー・アントワネットへの恨みをつのらせる。マルグリットはおばさんとパリを脱出。なぜかサド侯爵の脱獄も手伝う。

ルイ15世が崩御するとルイ・オーギュストとマリーは新国王と王妃に。たちまち始まる宮廷内の権謀術数。あることないこと噂を吹聴する人々。
マリーは派手に遊び王室の財政を悪化させていく。各地では農民一揆。

さらに詐欺師カリオストロ博士も登場。ラ・モット夫人と組んで、かつて自分をコケにしたマリー・アントワネットに恥をかかせたい。ネタはダイヤの首飾り。ターゲットはマリーが嫌うロアン大司教。
そんなコンフィデンスマン・フランスになぜかマルグリットも参加。ここで初めてマルグリットがマリーに似ていることが読者に明かされる。

フランス国民はロアン大司教に同情的。悪いのはオーストリアの女。カリオストロの詐欺事件が大スキャンダルの噂になるという、マリーに気の毒なもらい事故。
なんだか予想以上に通俗娯楽エンタメ時代小説的展開。司馬遼太郎とか読んでる気分。

そして下巻。ひたすらフランス革命。国王夫妻側から見てるので、どうしても暴徒側が品がなく粗暴で残虐。ヒステリックになってる革命軍側とはどうしたって話し合いになる余地がない。たぶんロシア革命も同じ事態。

そしてフェルセンの手引きで逃亡のヴァレンヌ街道。だが、命の危機という切迫した緊張感が足りない。ルイ16世がことあるごとに優柔不断。あともうすこしというところで敵に捕まる。歴史の大きな分岐点。
国王夫妻と子どもたちはパリへ連れ戻される。群衆は国王とその女を殺せと叫ぶ。それにしてもなぜにこれほどまで国民全員が敵になるまで事態を放置してた?

王妃に恋するフェルセンは幽閉されている国王夫妻を救出するべく危険なパリに潜入し仲間を探す。首飾り事件に関わったヴィレット、革命を行き過ぎと考える元修道女アニエス。
だが、これといって有効な策はない。

オーストリアとプロイセンはフランスと戦争。そしてパリは殺戮に狂った暴徒であふれる。こんな残虐な事態を今も巴里祭として祝うフランス人はどうかしてる。
長年高い年貢を払わされてた恨みから、貴族たちを殺せ!と叫ぶ暴徒。残忍な方法で殺害し首をかかげる。
日本で自民党と経団連、財務省、竹中平蔵が安穏と生きていられるのはなぜか?

革命指導者マラーが浴室で暗殺されたことは世界史でも美術史でも有名なのだが、犯人は革命の間違いを訴え、コルデという偽名で面談に来たアニエス。憐れ、断頭台の露と消えた。(史実ではシャルロット・コルデーという女性。)

ラストでまさかマリーとマルグリットが入れ替わる?!かと驚いたけど、そんなことは起こらなかった。誰もが知る通りの悲しい結果。

いや、これ想像してた以上に読みやすい。世界史の知識も必要ない。中学生でもすらすら読めるかと。通俗小説作家としての遠藤周作の力量を発揮した娯楽エンタメ小説。

2023年10月19日木曜日

ユメ十夜(2007)

夏目漱石「夢十夜」が2007年に「ユメ十夜」として劇場公開オムニバス映画(日活)になっていた。今になってやっと見た。

プロローグとエピローグ(監督:清水厚)に女学生役で戸田恵梨香が出演してる。「ギャルサー」に出演していた頃なので18歳ぐらい?かわいいはずなのだが、かわいさがあまりわからない撮り方。
以下、すべて「こんな夢を見た」で始まる全十夜。
第一夜はなんと監督が実相寺昭雄で脚本が久世光彦という注目作。2006年11月に亡くなった実相寺監督にとって最後の作品。久世光彦も2006年3月に亡くなってるのでこれも最晩年の脚本。
作家松尾スズキと妻小泉今日子いう豪華な出演。(あまちゃんか)
これは劇場公開作なのか?という実相寺監督のキテレツ演出。窓の外の観覧車とか謎。

第二夜もなんと監督が市川崑、脚本が柳谷治。
男(うじきつよし)と和尚(中村梅之助)によるモノクロサイレント怪談ムービー?
(中村梅之助は中村梅雀の父。テレビ時代劇でも活躍してたのである年代以上の人にとっては懐かしい。2016年に亡くなってた。)

これ、今までまったく知らなかった。市川監督が亡くなったのは公開の翌年2008年2月なので、これが監督として最後の作品? 
意味が解らないにもほどがある。何も才能を感じない映像作品。
第三夜は監督・脚本が清水崇というホラー映像作家によるこれまた意外な作品。
子だくさんにいらだつ夏目漱石(堀部圭亮)。そんな漱石をなだめる夏目鏡子(香椎由宇)。落ちた地蔵の首を戻した妻の話。そして子どもを背負って夜道を歩く漱石。ノイローゼ男が見るような恐怖な夢。

第四夜(監督:清水厚、脚本:猪爪慎一)
夏目漱石(山本耕史)は日向はるか(菅野莉央)から手紙でとある田舎町に呼び出されるのだが…。
これはもはや明治大正らしくしてもいない。風力発電の風車がそこにあったりする。これもノイローゼ男の見る夢のような神隠し怪談。

第五夜(監督・脚本:豊島圭介
これも現代が舞台。真砂子(市川実日子)が見る悪夢。悪霊ホラー?
庄太郎(大倉孝二)に何かを必死に訴えかけるのだが…。
これも何だこりゃ?という意味のわからない恐怖映像。ひたすら困惑。まるでウルトラQ。なんでこうなった?
第六夜(監督・脚本:松尾スズキ
モノクロ時代劇ふう。フザケすぎだろ!っていう阿部サダヲ主演の狂った舞台作品のような映像。運慶ってなんだよ。なんだこれ。口あんぐり。
しかし、このオムニバス映画で唯一金を払って見てもいい短編映画かもしれない。いや、でも舞台作品でいいかもしれない。
松尾スズキって自分が思ってた以上に頭おかしい。市川崑作品と並列されていい作品だとはとても思えない次元の短編。

第七夜(監督:天野喜孝、河原真明)
イラストレーターによるCGアニメーション映像作品。なぜか英語。夢というものをリアルに描いてるのかもしれない。

第八夜(監督:山下敦弘 、脚本:長尾謙一郎)
これも夢を見てるような困惑映像。田舎小学生が田んぼで化け物を拾うはなし。シュールすぎる。
藤岡弘さんが疲れ切ったおじいさん役という、何の意味がある?という映像作品。これ作った人も頭おかしい。
第九夜(監督・脚本:西川美和
幼い子を残して出征するピエール瀧と無事を祈る妻緒川たまき。その息子の見る幻想。

第十夜(監督・脚本:山口雄大、脚本:加藤淳也、脚色:漫☆画太郎)
村いちばんの色男の庄太郎(松山ケンイチ)の帰還。そして語り始める。
庄太郎の前にとつぜん本上まなみさんが美人として登場。豚丼を食べさせられる。これもふざけたCMのような質感の映像。
なんだこりゃ。くだらなすぎる。本上さんも石坂浩二さんもなぜこんなゴミ作品に?全10作中ワースト作。
とにかく他人の夢の話を聴かされるのって…迷惑!という映画。いや、映画ですらない。出演俳優たちもなぜこんな作品に?

なんでこんな企画が通ったのか?ヤバすぎ前衛バカ映像すぎた。途中からもはやまったく夏目漱石ではなかった。ふざけてしまった監督が多かった。100年経っても理解などできようはずもない。

2023年10月18日水曜日

碧野 圭「凛として弓を引く」(2021)

碧野 圭「凛として弓を引く」(2021)という本がそこにあったので読む。表紙から判断してガールミーツ弓道青春小説であろうと推測。文庫書き下ろし。
この作家の本を読むのは初めてなのだが、60代女性だとは思っても居なかった。

ヒロイン矢口楓は中学から高校へ上がるタイミングで名古屋市から東京郊外へ家族ごと引っ越し。近所の神社を散歩してて弓道に出会う。

なんと高校弓道部が舞台でない。神社の片隅の弓道場を借りてやってる中高年の弓道グループに勧誘されて弓道を始める少女が主人公。高校に入学したら硬式テニスをやるはずが、体育会系すぎて挫折。(高校に弓道部がない)

この本が、弓道初心者が出会う弓道世界をリアルに読者にも活字で見せてくれる。弓道を扱ったドラマや映画や小説も少なくないのだが、これほどに初歩の初歩から詳しく弓道とは何かを教えてくれた小説はなかった。

そんな弓道世界以外の登場キャラたちの個別の重たい事情とかも描かれてるのだが、弓道にくらべるとわずかしかない。弓道とドラマの分量のバランスがよい。読んでいて「そういうの要らない」と思う箇所がほとんどなかった。さくさくページをめくれた。

せっかく見つけた自分の居場所の弓道場が移転して無くなる?!という展開は「初森ベマーズ」的。
高校1年生ヒロインが真面目だしピュア。女子高生にしては学業や進路で悩むとか、憧れの先輩との恋といったありがち要素がほとんどない。ひたすら真面目に弓道世界を読者に伝えてくれる。

神奈川で弓道少女だった日向坂・高本彩花も段位を取るときはこんな感じだったんだろうかと想像。この本は暑苦しい青春が皆無。自分としては読んでよかったといえる。中学生以上にオススメする。

2023年10月17日火曜日

ルパン三世「風魔一族の陰謀」(1987)

ルパン三世「風魔一族の陰謀」(1987)を見る。10月1日にBSトゥエルビで放送されたので録画しておいた。この作品はテレビ放送されることがあまりないらしい。
東宝と東京ムービー新社制作のOVA作品として企画され劇場でも公開されたらしい。
製作は竹内孝次、脚本は内藤誠。音楽は宮浦清で主題歌は麻倉未稀「セラヴィと言わないで」。

自分、ルパン三世のオリジナル長編はカリオストロぐらいしか見たことない。マモーもバビロンもノストラダムスも、その後の日テレ長編ルパンも見たことがない。
だが今作は作画が大塚康生さんなので見る。画的にカリオストロを感じられるから。

なんと石川五右衛門が山奥の神社で多くの参列者を集めて盛大な神前結婚式。ルパン「なんで急に?」それは視聴者も同じ気持ち。礼服姿のルパンにも五ェ門にも違和感。

そこに賊徒が現れ儀式に使われるという壺が奪われる。まるでアメフトのようなパス。
さらに花嫁も奪われる。ロケットマンのように空中へ。花嫁は壺と交換の人質。
ちょっと時代を感じる場違いな歌謡曲が流れて、作画スタッフの名前が表示。
日本の田舎が舞台だとそれは宮崎アニメのような雰囲気。てか、カリオストロを踏襲してるように見える。
背景美術がルパンというより横溝正史のような世界。大きなお寺の風景。

そして今作一回かぎりのキャスト総入れ替え声優陣リスト。

ルパン三世が古川登志夫なのは自分としてはそれほど違和感なかった。
今作で実質主役の石川五ェ門が塩沢兼人。礼儀正しいのはよいとして、なんだか腰も低い。

次元大介が銀河万丈、峰不二子が小山茉美、銭形警部が加藤精三。ヒロイン紫が荘真由美。この時代の有名声優ばかりだが、自分としては次元がいちばん違和感。次に銭形。

今回の銭形はなぜか剃髪した僧形。直前の事件でルパンは死んだと思い込んでいる。ルパンを供養して余生を過ごしてる?しかし、岐阜でルパン出現の情報。

今回は五ェ門ラブロマンス?!相手の女性紫が80年代の雰囲気のイマドキ娘のような登場の仕方だが古風な娘。
銭形と一緒にルパンを追う悪人官僚顔刑事が千葉茂。
そして最初の見せ場の岐阜県警パトカーとのカーチェイス。カリオストロの使い回し表現もあるけど、そこそこクオリティのフザケたドタバタ。
それほど感心もしない。行動もセリフも違和感。
大人になってからルパンを見ると、五ェ門がムダに木を斬り倒してるのを見ると「それは誰かの大切な木材かもしれないのに」とか感じてしまう。

ルパンと次元の飛騨高山カーチェイスも住民に大きな迷惑だし、旅館の中まで車で侵入とか多大な損害。リアルさ皆無のギャグマンガにしてしまってる。
それに花嫁少女に困り顔とか、自分の知ってる五ェ門じゃない。銭形警部のルパンへの執着心がシャカリキすぎてバカだし異常でコミカル。

財宝への通路のギミックはインディジョーンズ「最後の聖戦」みたい。
五ェ門と敵ボス(仏像顔)との対決は白土三平の武芸マンガの劇画タッチ。
スタッフは日本が舞台の「カリオストロの城」が作りたかったらしい。
ヒロインと敵の壁をよじ登るシーンは「北北西に進路を取れ」みたいになってほしかった。
自分としては十分鑑賞に堪える作品だと感じた。オリジナル長編作としてかなりがんばってる。

2023年10月16日月曜日

逢坂剛「カディスの赤い星」(1986)

逢坂剛「カディスの赤い星」(1986)を講談社文庫上下巻で読む。自分、逢坂剛を手に取ったのも読むのも初めて。

国内楽器製造販売会社のPR担当事務所の経営者(いわゆる広告宣伝担当コンサル?)主人公の漆田亮(スペイン語が堪能、ハンサム)は、技術指導のためにスペインから招聘した老ギター職人ラモス氏から20年前に自宅工房を訪れた日本人ギタリストを探してほしいという依頼を受ける。この物語の舞台は1975年。

上巻はまるまる人探し探偵ハードボイルド。ライバル関係にある楽器メーカー同士の広告会社間の競争、消費者団体のクレーム処理と確執、ラモス氏の孫娘フローラ、行方知れずのフラメンコギタリストと関係者の人間模様、ライバルPRマンヒロイン理沙代との恋。

だが、下巻になるとそれはもう国際陰謀スリラーとハードボイルド。まるまる一編の映画のよう。フローラは本国スペインで反フランコ活動にのめり込む学生だった。
スペインの秘密警察、警備隊、過激派、まるでダイハードのようなテロと陰謀、仲間の裏切りな危機一髪大冒険に主人公は巻き込まれて行く。

そしてフランコ総統を暗殺する計画。それを阻止する勢力。漆田はギター製作者から頼まれただけなのに、ありとあらゆる危険に巻き込まれていく。

そして幻のギターの奪い合い。親と子の関係が暴かれる。面白くてページをぐんぐんめくっていける。ストーリーに推進力がある。

なんだこの大娯楽エンタテイメントは。まるで映画を2本見たような、どっぷり疲労感。それでいて爽快感。主人公がかっこよすぎる。
どうやらこの「カディスの赤い星」が逢坂剛の代表作で最高傑作という扱い。1986年下半期の直木賞など各賞を受賞。

著者の豊富なスペイン知識が盛り込まれてる。自分、スペインを舞台にした小説をあまり読んだことなかった。フランコ総統治世下のスペインを扱った映画やドラマは見たことなかった。

独裁者が死んでからスペインはいっきに変わった。つい50年前まで右派と左派双方がテロの応酬してたとか、秘密警察があったとか、欧州と世界から孤立していたとか、今のスペインを日本から見ていると気づいていない人も多そうだ。

2023年10月15日日曜日

AKIRA(1988)

大友克洋原作・脚本・監督の長編アニメ映画「AKIRA」(1988)を令和の今になってやっと見た。友人と一緒に初めて見た。制作は東京ムービー新社で配給は東宝。

これ、コロナパンデミック下の東京五輪のときにも大きな話題になっていた。海外でも有名な日本アニメーションの大作で金字塔的作品。
自分はマンガ原作も一度も見たことなかったのだが、芸能山城組によるケチャっぽい音楽は以前から好きだった。(猫ひ〇しのせいで寒く感じるようにもなったが)
なにか大規模な災害的なことが起こって復興したネオ東京(ブレードランナーみたい)が舞台。何か人類の手に負えない制御できない超能力のような力を持ったAKIRAをめぐる、化け物VS政府の徹底リアリズム表現による戦い。

ナウシカやマモーやシャイニングやもののけ姫のような、おぞましい化け物との戦いと幻想。
ほぼ「シン・ゴジラ」だと思った。一体何人死んでるのかわからない感じの描き方なのもシンゴジラ。

そして鉄雄と金田のいつ終わるのかわからない長い長い喧嘩。(崔洋一監督の「花のあすか組」も想いながら見た)
もう途中で「まだ死なないのかよ!」「まだ終わらないのかよ!」とツッコミを入れまくる。まるでドラゴンボールな戦い。ずっと幻想ホラーな壮大な戦い。
AKIRAとかいう意味不明な大いなるパワー。日本アニメーション史において見てきた要素テンコ盛り。その表現に新鮮な驚き。

あの大佐と呼ばれる軍人の声を聴いて、すぐに「カリオストロ伯爵だ!」とわかった。
この人、何度も爆発で吹き飛ばされてるのに平然としてる。死なないのかよ!とツッコミを入れ続けた。自信満々なのに事態を好転できていない。どんどん被害を広げてる。

左翼運動活動家テロリストの女の声を聴いて、自分はアニメ声優にまったく詳しくないのだが、ドクタースランプアラレちゃんの声優だ!と気づいた。
見ていて何度も「もう終わりだよこの国」「もう終わりだよこの世界」ってつぶやく。てか、シンゴジラを見ていたときに感じた「もうみんな死ぬの?」という絶望。宇宙創成の神のごときAKIRAにどう対処すれば正解なの?

あと、大友克洋の描く若者はみんなおでこが広いしアゴが大きいなと感じた。

2023年10月14日土曜日

齋藤飛鳥マウス

乃木坂46の17枚目シングル「インフルエンサー」(2017)Type-C盤もそこに55円で売られていたので救出。
部屋に置き場所がないので極力CDはこれ以上買いたくないのだが、これも特典映像ディスクを目当てに連れ帰る。

いつしか乃木メンは外番組に出演するとき乃木坂制服を着なくなっていた。それがいつごろからなのか?熱心な乃木オタでない自分にはわからない。
この盤を手に入れたことでアンダー楽曲「風船は生きている」の音源が手に入った。MVも手に入った。

だが今後、この曲を好んで再生することはあまりないかもしれない。自分はもうこのシングルのころには乃木坂楽曲に注目していなかった。
ジャケットの齋藤飛鳥がかっこいい。ポートレートの飛鳥もかっこいい。こんな衣装を着てポーズを取って様になるのは飛鳥ぐらいしかいないかもしれない。
この盤も各メンバーの個人PVを収録。自分が一通り見たところ、やはり齋藤飛鳥のものしか興味を引かなかった。乃木坂OBで自分が常に注視してるのは飛鳥と西野だけかもしれない。
この当時、乃木坂が出演していたマウスパソコンCMを博報堂協力のもと流用。カフェに独りのシソンヌ長谷川忍が、そこにふらっと現れたマウス齋藤飛鳥をひたすら心の声でツッコミ実況。
これ、公開当時に予告編を見たはず。初めてフルで見るのかと思ったのだが、あれ?全部見たことある。
当時も想ったのだが、齋藤飛鳥はキャラ的にマウスではない。きまぐれ子猫ちゃんである。黒いワンピースは異常に似合ってるが、マウス耳が似合わない。
「やべえ、目が合った。」飛鳥マウスがつかつかとこちらに歩いてきて長谷川の胸ぐらをつかむ。引き絵のカットがシュールで面白い。たぶん長谷川のメガネが光って映るよう計算されて撮っている。
「ちょっと!さっきから何ジロジロ見てるんですか?」という飛鳥のキレぎみ表情は良い。
だが、自分なら「オマエさっきから何チラチラこっち見てんだよ!あ?(怒)」と書き換えたい。些細なことだが。

長谷川が注意されて逆ギレぎみなのも趣味と合わない。それに直後に飛鳥が「怒りまちゅよ」とボケるのも自分の趣味と合わない。飛鳥が照れ笑いを浮かべるのも趣味と合わない。
しかし、ラストで「やれやれ」と言う飛鳥は良い。齋藤飛鳥たるもの、常に「やれやれ」と心の中で言っててほしい。
やはり天下の博報堂と気鋭のクリエイターが作るものなのだからこれが正解なのかもしれない。