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2025年8月2日土曜日

樋口有介「林檎の木の道」(1996)

樋口有介「林檎の木の道」(1996)を中央公論社単行本初版で読む。これはBOで200円で売られていたので連れ帰ったもの。

これも幼なじみ美少女が不審死した件で高校生17歳男子が独自に真相を調べて歩く青春ミステリー。
樋口有介の場合、ミステリーと言ってもミステリー要素はあまりない場合も多いのだが、この本はしっかりミステリー。方々を(美少女といっしょに)歩き回って絞り込んだ犯人候補のアリバイを調べたりしてる。

これも会話がひたすらドライでおしゃれで面白い。こんな会話を現代日本の10代が現実にしているとは思われない。

この本、平成初期の高校生の夏休みの風景を描いてる。その文体はわりと文豪のように凝ってる。樋口有介にはそれなりにファンがいただろうけど、その本は東野圭吾のようには売れなかった。なんで?どの青春ミステリーも代わり映えせず同じようなものだったからかもしれない。

しかし、この「林檎の木の道」は青春ミステリー文芸書としてはわりと完成度が高い気がする。自分としては最初に読むべき樋口有介として十分にオススメできる。「ぼくと、ぼくらの夏」が好きだと言う読者には同じテイストのワンスモアとして最適。

2025年6月28日土曜日

樋口有介「11月そして12月」(1995)

樋口有介「11月そして12月」を読む。1995年に新潮社より刊行、1997年にC★NOVELS、そして2009年に中公文庫化。
こいつも出かけた先にあったBOで「不良少女」といっしょに購入。110円。

オビや裏面のあらすじ書きを一切読まずにページをめくり始めた。これもミステリーとかハードボイルド探偵ものでない。大学中退後にカメラを持ってあちこちブラブラ歩いてるシロウくん(22)の家族を描くホームドラマ。
父は浮気、母は怒り、姉は不倫の恋に悩み自〇未遂で入院というハードな家族。

そして陸上アスリート少女と出会う。しかし、恋愛小説というわけでなく、22歳にしてはやたら落ち着いた大人な会話劇。
オビに青春小説とあるけど、それはこの本の説明としてあまり合ってない気がする。話にあまり起伏はない。静かな日本映画のような青春小説かもしれない。

シロウくんが出会った女の子の住んでいる場所が赤羽3丁目。赤羽駅、中央商店街、赤羽岩淵駅、荒川土手などの風景が登場。
樋口せんせいがあのあたりを取材に訪れていたらしいことを知った。南北線赤羽岩淵駅ができたばかりのころ。
すずらん通りに小さな本屋さんがあったことも描かれている。そういえば15年ぐらい前までその本屋さんへよく行ってた。調べてみても何という名前の本屋だったかもうわからない。

とても爽やかで苦い青春小説だった。この本は昨年に中央公論社から新装版で単行本が出てたことを知った。出版社の人たちも「この本を売らねば」と思ったに違いない。この本は自分もオススメしたい。

2025年6月27日金曜日

樋口有介「不良少女」(2007)

樋口有介「不良少女」(2007 創元推理文庫)を読む。こいつは出かけた先で110円で売られていたので連れ帰ったやつ。
1995-2001年に発表された柚木草平シリーズ短編4作をまとめて収録した一冊。
これによって創元推理文庫による柚木シリーズ復刊のラスト。
  • 秋の手紙
  • 薔薇虫
  • 不良少女
  • スペインの海
創元推理文庫だからてっきりミステリーなんだろうと思って読んだ人は失望するかもしれない。どれも元刑事フリーライター柚木の副業調査探偵稼業ドラマの断章フラグメンツといった感じ。ドラマの1話といった感じ。まるで事件全体を描く気がない。なので読んだ直後から内容を忘れていく。

この作家が好きで全部読まないとという読者にしかススメられない。ミステリーというより短編文芸。

2024年12月2日月曜日

樋口有介「誰もわたしを愛さない」(1997)

樋口有介「誰もわたしを愛さない」を読む。小説現代増刊メフィスト1996年4月、8月、12月増刊号に掲載された後、1997年5月に講談社より単行本化。2001年に講談社文庫化されたもの。2007年からは創元推理文庫で発売。

今作は元刑事のライター柚木草平38歳による青春私立探偵シリーズ第6作にあたるらしい。自分、もうだいぶ樋口有介を読んできたけど、順番通りに読んでないし、もうどれも似たような事件と展開ばかりで内容の区別ができていない。

柚木は小学生娘・加奈子の進級祝いに2万円以上するエアマックスを運動靴として買わされた後、月刊EYESの新編集者・小高直海と初対面。渋谷のラブホテルで女子高生が絞殺された事件のルポ記事の依頼。

警察は行きずりの犯行とみているが、柚木は関係者に被害者女子高生について聴いて回っているうちに計画的な犯行では?とカンが働く。有名な女性ライターの弟が被害者と最も親密な交際をしていたらしい…。

この本は読んでいて二時代ぐらい昔で古くさく感じた。テレクラ、ダイアルQ2、ポケベルといった90年代に社会問題になった援助交際がテーマ。
それに柚木と女子高生たちの会話も古くさい。今回の話は会話の軽妙さばかり焦点。ストーリーとしてはありきたりで構成も特に印象にない。

柚木がその結論に引っ張られて、結果やらかしてる。さらに、「じゃあこうだろう」という結論も強引。その真相も柚木の一方的な説明で、読者を置き去りにするかのように突然終了。

自分はこの本はあまり印象に残っていない。もし自分が樋口有介をこの本を最初に読んでいたら、たぶん読み進めてなかったかもしれない。

2024年11月17日日曜日

樋口有介「刺青白書」(2000)

樋口有介「刺青白書」を読む。2000年に講談社から刊行後、2007年に創元推理文庫から初文庫化。これも柚木草平シリーズ番外編という一冊らしい。

向島で生まれ育ち、日本史を専攻する地味なメガネ女子大生・三浦鈴女(21)が今作のヒロイン。卒論に悩み就職も決まらず焦る毎日。

隅田川リバーサイドの高層マンションで殺害された人気CMタレントアイドル・神崎あやが中学時代の目立たなかった同級生だったことを知り衝撃。後ろ手をガムテープで拘束され全裸で刺殺。全身に切り傷という凶悪事件に世間は騒然。

あやには、刺青を消した痕。
さらに、中学時代の同級生・牧歩(テレビ局の女子アナに内定)が隅田川で水死体として発見される。10日間のインターバルで中学時代の同級生が連続で事件に巻き込まれるとか異常じゃないのか?彼女にもあやと同じ場所に、同じ刺青があった…。これは一体?!

鈴女は中学時代の同級生で、かつて野球部エースのモテ男だった左近と一緒に、かつての同級生に聞き込みに。

父が中小規模出版社編集部にいる。芸能ゴシップを扱っている。柚木草平とかいう40がらみの男と話してる。ああ、今回はそういう登場の仕方なのか。

柚木草平(38)もジャーナリストとして独自の聞き込み捜査。被害者がかつて中学時代同級生で同じクラスの女子生徒がイジメ自殺していた過去を知る。さらに、自殺少女の父親で教育評論家の米山が中学生娘を性的虐待していたことも掴む。

今回の柚木は歌舞伎町性風俗店にも指名料払って突入聞き込み。

隅田川周辺にずっと張り付いたままの人々の人間ドラマと記者探偵ハードボイルド。中学生だったヒロインたちの21歳青春小説。21歳でこの人生はキツすぎる。樋口せんせいならではのイジメ問題への怒りと諦め。
たぶん西村京太郎なら隅田川殺人事件というタイトルをつけるに違いない。

ちなみに、この本は行きつけのBOで110円で購入したのだが…、もしかしていわゆるサイン本?!
本当に樋口有介の筆跡かどうかググって確認しようとしたのだが、どうも樋口先生のサインはいろいろな筆跡があるらしく判別は不能。「介」の筆記が違う気もする。
自分、有名人のサインというものは本人の目の前で書いてもらったもの以外は有難いと思わない。この本はもしかすると本人が手に触れたものかもしれないという、ただそれだけの想像だけでよい。もしかすると誰か(桂ちゃん?)がサイン会で購入したものかもしれない。そしてその誰かの遺品かもしれない。

2024年9月8日日曜日

樋口有介「ぼくと、ぼくらの夏」(1988 / 2007)

樋口有介「ぼくと、ぼくらの夏」(1988/2007)を読む。これがこの作家のデビュー作。昨年10月にこの創元推理文庫版で出て以来、いちばん読まれている樋口有介作品ではなかろうか。表紙イラストがこの作品の雰囲気にぴったりハマっていて感心しかない。

主人公の戸川春一は深大寺学園高校の2年生。見た目のだらしのない父は調布警察署の刑事。そんな父から同級生が稲城大橋から多摩川に飛び降りて自殺したらしいことを知らされる。文庫表紙は稲城大橋だったのか。

靴は脱いでそろえられていて短い遺書もあったことから自殺として処理。だが戸川くんは「そんなのおかしくない?」と調査開始。同級生でテキ屋で鳶職の酒井組の娘・酒井麻子と一緒にクラスメートの死とその真相を捜査。するとさらに同級生女子がひき逃げ事故死。

この二人のやりとりがおしゃれ。樋口有介の作風は会話がハードボイルドスタイルな赤川次郎。
「戸川くんは、どうして友達をつくらないの」
「喋るのが、たぶん、面倒なんだろう」
「どうして」
「喋ってもけっきょくは、なにも通じない気がする」
「懐疑論者みたい」
戸川くんのスカシた感じが異常。
あと、高校2年生の夏休みのけだるさがよく出てる。

父がビール飲みながらジャイアンツ戦とか昭和。小松が投げ篠塚が打つ中日巨人戦。巨人が勝つか負けるかは原が打つか打たないかにかかってる。
不良高校生はディスコへ行く。あと、高校生が酒飲むのもタバコ吸うのも普通。え、担任の先生の前なのに……?!

この本は樋口有介読者の間で言及されることが多いので期待してはいたのだが、自分としてはそれほど驚きも感心もしなかった。身近で不審死が起こる夏休み青春小説としてのみ有用。

2024年8月6日火曜日

樋口有介「プラスチック・ラブ」(1997)

樋口有介「プラスチック・ラブ」(1997)を読む。2009年創元推理文庫版で読む。
もうこの作家の本はどれを読んでも同じでそこそこ感がするので卒業かと思ってたのだが、未読の文庫本がそこに110円で売られていたので買わないわけにはいかなかったw

この連作短編集はまず第4話「ヴォーカル」が小説現代1989年3月号に掲載されたのに始まり、柚木草平シリーズと並行して週刊小説に次々と発表。1997年に登場人物名を変えたりして一冊の単行本にまとめて実業之日本社から刊行。

8本を収録しているのだが、どれも断章のような高校生男女の会話が中心。
木村時郎くん(高2)が何度も登場するので、この子が主役。
樋口有介の本はどれも主人公がスカしてるけど、この本も高校2年生とは思えないスカしかた。ほぼ村上春樹の登場人物。会話がとても高校生のものと思えない。中身は人生に疲れた40代。

読んでいてこれはいけないと思ったw 何もサスペンスがない。ほぼ文芸書。
だがしかし、第6話「団子坂」、第7話「プラスチック・ラブ」は中学の同級生女子の死の真相を探し歩く内容なので青春ミステリー&サスペンスといえるかもしれない。
しかしそれでも意外な真相などは用意されていない。

「プラスチック・ラブ」には38歳探偵柚木草平が、中学時代の同級生がラブホテルで絞殺された件で木村くんに接触してくる。ふたりの会話がハードボイルド。
「俺は三十八年も生きてるけど、気の弱い女になんか、一度も会っていない。」

巻末の作者あとがきで樋口有介が「短編は苦手」と語っている。それは読者もそうだろうなと感じる。正直、どう読んでいいのかわからず困惑した。これを青春ミステリーかと思って手に取った読者は「思ってたのと違う」と感じたに違いない。

高校生、大学生もこの本では読後の満足感は少なかっただろうと思う。よほど樋口有介の文体と登場人物たちの会話センスが好きな人にしかオススメできない。それより、樋口有介が今後10年後、20年後も読まれているか心配。

2022年11月30日水曜日

樋口有介「風の日にララバイ」(1990)

樋口有介「風の日にララバイ」を1997年ハルキ文庫で読む。初出は1990年10月徳間書店から刊行。
1990年は樋口有介が「風少女」「彼女はたぶん魔法を使う」「八月の舟」と立て続けに4冊発表した年。

この角川春樹事務所ハルキ文庫版の「今月の新刊」帯にはこう書いてある。
知りたくない真実と、知って欲しい恋心。佐原旬介39歳、無職、子連れのバツイチ、探偵の相棒はポニーテールの女子大生。宝石店店長の別れた女房が殺されて、真相の解明にのりだしたけれど…。
だいたい合ってるけど、「相棒のポニーテールは女子大生」という箇所は盛ってる。この女子大生はほんの脇役であまり出番も活躍もない。
そうでも書かないと何も売りになるものがない。(たぶんこの本はあまり売れてない。)

90年4月に発表された「彼女はたぶん魔法を使う」の柚木草平シリーズとほぼ質感が同じ。年齢もほぼ同じ。たぶん筆者と同じ。ハードボイルド質感の文章と、ときに人を食う洒脱会話。かっこつけてる感じ。
だが、柚木ほど佐原はお金に困っていない。もともと大学に在籍して本を書いたり発明の図面を書いたりしてた。離婚した資産家妻との間の15歳娘(美少女)と暮らし、お手伝いさんもやってくる。

別れて5年まったく会ってない妻は5年の間に経営する宝石店が急成長。たぶんそのことで殺されたに違いない。アマチュアバイト探偵として事件を調査していくうちに見えてきた闇。
今回も美女たちが登場し、樋口有介ならではの会話劇。だんだんと真相が明らかになっていく。ほぼ松本清張の徹底リアルな社会派ミステリードラマ。

ミステリーというのはあまり正確ではない。ほぼ三面記事にあるような事件がだんだん明らかになっていく顛末。読んでる間「あんまり面白くないな」と思ってた。最後まで読み通してもそれほど驚くこともなかった。

樋口有介という作家はほぼ30年の間、ほとんど作風が変化しなかった。この「風の日にララバイ」と柚木草平シリーズはどれを読んでもほぼワンパターン。だからこその安定感と安心感。それはそれで好きでつい読んでしまうというファンが多かったんだろう。
これをもって作者追悼読書に一区切り。

2022年11月29日火曜日

樋口有介「彼女はたぶん魔法を使う」(1990)

樋口有介「彼女はたぶん魔法を使う」を1990年の講談社単行本で読む。
カバー折り返しに著者の写真が掲載してあった。樋口有介ってこんな顔してたんだ。とは言っても30年前なので40ごろの顔写真。

これが元刑事で妻子と別居中のフリーライター探偵柚木草平シリーズの第一作。この人は初登場から30年ずっと38歳のままだった。

1990年の作品なので随所に80年代が見える。時代は電電公社からNTTになったころ。ケータイもない。パソコンで写真やデータをメールに添付してやり取りすることもない。そういう時代。

とある女子大生のひき逃げ死亡事故が、偶発的事故だったのか?それとも殺人か?を調査を始めると関係者が殺されて…という2時間ミステリードラマと言った感じ。
事件とその真相としては内容そこそこ。少しずつ真相が見えてくる多少の驚きはある。

今まで読んだものはすべて2000年以降の東京創元社刊だった。今回初めて1990年講談社版で読んだのだが、冗談やたとえ話が一時代二時代前で古くさい。でも、そのほうがかえって80年代を感じやすいかもしれない。

事件を調べる探偵(元刑事ライター)柚木草平と、なぜか20代美女ばかりの関係者との軽妙かつハードボイルドな会話。そこがこの作家の個性。
登場する美女たちが自分的には「きまぐれオレンジロード」のキャラとタッチで脳内イメージ。

自分、樋口有介の読み方がわかってきた。柚木の部屋での洗濯実況、料理実況、娘との会話実況などは華麗にスルーすれば、ゆっくり読んでも3時間で読み終わる。こういうのでいいんだよ的なライトでヤングな社会派ミステリー。対象年齢を若者にした松本清張。

魔法を使うのは誰なのか?と考えてしまいそうだが、樋口有介の場合、内容とタイトルがまるで関係ない。なので読み終わった後にタイトルから内容を思い出そうとしてもまるで思い出せない。

2022年11月28日月曜日

樋口有介「八月の舟」(1990)

樋口有介「八月の舟」(1990 文芸春秋社)を読む。このころの樋口有介は「ぼくと、ぼくらの夏」「風少女」というミステリー小説と、この「八月の舟」の文芸路線。この表紙と装丁はどう見ても文芸書。

樋口有介は群馬県前橋市出身の団塊の世代作家。窓の外の風景を眺めてぼんやりしていた少年時代を回想するような内容。なので1960年代後半。未成年があたりまえのようにタバコと酒。そういう時代。
母親「あたしは家に帰ってプロレスを見る。今夜はジャイアント馬場が出るからね」昔はテレビのプロレス中継は今と比べられないほど人気の娯楽。そういう時代。

これがもうアメリカ文学、とくにハードボイルド作品を読んでいた人の文体と会話センス。ある意味もうひとりの村上春樹。
「今怪我して入院しています」
「そうでしたか」
「石に躓いて転びました」
「元気が良すぎるんでしょうな。」
こういう会話を日本人はしない。日本人の会話は英米人にとっては「?」なように、英米人の会話をそのまま訳しても日本人は笑ってしまうようなスカした会話。
「俺、学校をやめようと思うんだ」
「真面目な話でか?」
「真面目な話でさ」
「いつ真面目になったんだ?」
自分、高校時代にこんな会話してない。今もしたことない。こういう会話をしてみたかった。
「葉山くんって、変わってるって言われない?」
「言われないさ」
「でもわたし、変わってると思うわ」
「誰の小説?」
「サリンジャー」
「面白いの?」
「葉山くんのほうがずっと面白いわよ」
こういう会話を女の子と教室でしてみたかった。
「ぼくのシャツとか、ズボンとかは?」
「洗って干してある」
「どうして?」
「どうして?覚えていないの?」
「覚えていない」
「よかったわね。都合の悪いこと、みんな忘れられる性格で」
こういう会話を遊びとして、ごっことして演じられるバーとかないのか?

2022年10月24日月曜日

樋口有介「魔女」(2001)

樋口有介「魔女」(2001)を読む。初出は2001年に文藝春秋より出た単行本。2004年に文春文庫化。2018年に改稿出版された創元推理文庫で読む。

これも3回目ワクチン打ちに行ったついでにBOで110円購入したなかの一冊。90年代、2000年代のミステリーは表紙を人気イラストレーターに任せればもっと売れる可能性がある。キレイなイラストなら人々の目に留まる。

この本の主人公広也は大学卒業後に定職についていない23歳就職浪人。洗足池の近くの南千束で母と姉と暮らしてる。(父はアフリカに行っている)
ガーデニングの専門家で5歳年上の現彼女美波の仕事をたまに手伝う。美波にはつき合ってる男性もいるのに川崎の部屋に泊まればセッ○スする関係。(どうやら樋口有介は村上春樹の影響を受けてるに違いない。やたら料理とセッ○スの実況中継が多い。)

広也の姉水穂は野心的女子アナでニュースキャスターを狙ってる。新宿区落合のアパート火災で女性が死亡した事件でスクープを狙い、弟広也に聞き込み調査バイトをさせる。広也は被害者女性千秋(23)と大学時代に2,3か月交際していた関係。水穂と美波は友人関係。

あの美人だった元恋人千秋が生きながらに焼かれ殺された理由は何か?
千秋がソーシャルワーカーとして働いていた病院の同僚や、千秋の現在の彼氏だった大手化粧品会社課長尾崎、千秋の行徳の実家を訪ねて話を聴く。
この主人公がとても23歳とは思えない。まるで40代ベテラン探偵みたいに見ず知らずの相手とアポなしで会って話を聴きだす。いつもの樋口有介ハードボイルド青春ミステリー文体。

美人で優等生だった千秋を調べるにつれ裏の顔が見えてきて困惑。ソーシャルワーカーでありながら冷酷な性格。
妹みかん(父が異なる)に言わせると「魔女」。妹は姉を憎んでいた。部屋には魔術関連書籍や呪いに使う道具などが大量に残されていた。

千秋の母の再婚相手(行徳の素封家)は夜釣りで堤防から落ちて溺死していた過去が。さらに千秋の高校時代の友人(男子)も自殺(溺死)していた?!千秋が魔術で殺したのか?!
そして事件後に容疑者に浮上し逃亡していた尾崎が河口湖で溺死体となって発見。千秋殺害の犯人としてほぼ確定。だが、失踪後の足取りがつかめない。

千秋はもしかして多重人格?ひょっとすると継父から虐待を受けていた?
「千秋の尻に痣があった」ことを思い出す。あれはタバコを押し当てた跡では?そのことに気づくのが現彼女美波とセッ○スしてる最中w なんだこの主人公。

千秋の妹みかん(16歳不良)が今回のヒロインか?学校にも行っておらず難しい性格。タバコも吸う。
この子と一緒に山形まで出かけたり、家で騒動を起こしたり。結果、主人公と恋に発展。(待て、16歳だろ)

そして最後の最後、エピローグで広也は真犯人と対決。樋口有介作品の主人公は真相を語るけど警察には知らせないというパターンが多い。だがいつもと違って今回は証拠も押さえ警察に提出してた。

「魔女」はいつもの樋口スタイル。期待したものが期待した通りに出てくる。ハードボイルド探偵主人公青年と美女たちの洒脱な会話とやりとり。
樋口有介はどれを読んでも雰囲気がほぼ同じ。巻末のあとがきで樋口はデビュー後に書いても書いても本が売れず、危機感から文体を変えたことも語っている。
なぜ樋口有介は東野圭吾のようになれなかったのか。

2022年10月23日日曜日

樋口有介「海泡」(2001)

樋口有介「海泡」を読む。2001年に中央公論社より単行本、2004年に中公文庫化。そして2018年6月に大幅に改稿され創元推理文庫よりこの新装版が出た。カバーイラストは海島千本。
ちょっと古いミステリーはこういったキャッチ―でキレイなイラストで出すほうがきっと若い読者の目に留まる。文庫と同時に電子書籍でも発売。

これ、3回目のワクチン接種に出かけた帰りにそこにあったBOで110円で売られていたので即購入。(すまん)
なんと、小笠原・父島が舞台。大人になる過渡期の少年少女たちの青春ミステリー。ミステリーというよりもサスペンスのある青春小説。

主人公木村洋介(20)は大学のもとは東京の子だったのだが両親離婚。母と暮らしていたのだが母は再婚。わりと有名な画家の父が小笠原へ移住。洋介が中1の2学期。
島には学校がひとつしかないしクラスもひとつ。同年代はみんな同級生。

育った故郷へ帰省。竹芝から26時間という遠すぎる船旅の末に港に着くと、もう同級生に出会う。
樋口有介作品は作者本人の願望なのか、出てくる女性がみんな美女。美少女。宿泊客を出迎えに来ていた旅館の娘旬子(ボーイッシュ)も同級生で美少女。

さらに、トンネルで前村長の娘和希を見かける。この子も美少女。やはり東京へ進学している。主人公は東京で何度かデートもした。だが、和希もこっちに戻ってたとは知らなかった。噂によればストーカーから逃れてきているらしいのだが、そのストーカーも島のペンションに宿泊中?!

さらに、白血病で余命宣告されたクラスNo.1美少女翔子(明治から続く財閥令嬢。洋介よりやや遅れて島に転校してきた)をお見舞い。かつて島の男子はみんな夢中だったのだが、やせ細っていて心が痛む。
この子が大金持ち。自分で探偵社に調査を依頼する。身の回りの世話をする女性も同居。さらに看護婦。父は小笠原まで水上艇でやってくる?

さらに、画家父の家(実家)には銀座の画廊から送られてきたヌードモデル雪江(24ぐらい?)も同居。やっぱり美人。最初の出会いが裸。(エスパー真美かよ)
さらに親友の漁師浩司が通うスナックには東京からやってきたバイト可保里(やっぱり美人で20代)がいる。

樋口有介の主人公はたいていかっこよくてモテ男。その気がなくてもムフフなことが向こうからやってくる。複数の女性とふつうにセッ○スする。20歳学生とは思えない。まるで40男のような落ち着きぶりと常識を持つクール紳士すけこまし野郎。
和希の妹夏希は高校生なのに不良娘。島にやってきた男たちと遊ぶし、主人公の画家父(60)ともセッ○スしてる関係。(樋口有介作品の登場人物は性が乱れすぎケースが多い。)

で、島一番の秀才だった藤井は医学部受験に失敗して島に戻ってるのだが、ちょっと頭がおかしい。意味不明なことを言うようになってる…。(これと同じようなキャラは「風少女」にもいた)

やがて和希が島の山の上から崖下に転落死してるのが発見される。自殺か他殺か?
この国の中枢にまで入り込んでる一族の翔子には、和希が妊娠していたという情報も入ってくる。
島に滞在中の噂のストーカー真崎(東京の不動産会社役員)に洋介は直撃。ストーカーというのは噂にすぎず実は恋人?!和希のお腹の中の子の父親は真崎?
この真崎もやがて墓地で頭を割られた死体となって発見。凶器はスパナ?藤井の実家は自動車整備工だ。

この小説、いちおう殺人が発生して主人公と白血病で寝たきり少女が調査してるけど、普通に青春小説になっている。
やっぱり樋口有介作品なので20歳の登場人物たちがみんな30代中ごろの男女のような会話をしている。バカ会話ですらもオシャレ。みんな簡単にセッ○スする。まるで村上春樹。

犯人さがしミステリーがなくとも十分に読んでいて楽しい娯楽作。だんだん見えなかった人間関係が明らかになっていくサスペンス。アガサ・クリスティーの田舎ラブコメみたいな作風かもしれない。(なぜにこの本も映像化されていないんだろうか)
何かじっくり読める面白い本を探してる十代二十代にオススメ。

あと小笠原の住民は、明治以降に八丈島から移り住んだ「旧島民」、戦後の小笠原本土復帰(1968)後に移住したよそ者の「新島民」、あとは明治以前からの米英系「在来島民」の3種類あるということを学んだ。

2022年9月18日日曜日

樋口有介「うしろから歩いてくる微笑」(2019)

樋口有介「うしろから歩いてくる微笑」(2019)を創元クライム・クラブ版で読む。
樋口有介は2021年10月に急死したので、柚木草平シリーズは今作がラスト。

自分、手に取ったものから読んでるので、第1作「彼女はたぶん魔法を使う」をまだ読んでいない。しかし、これまで順番バラバラで柚木草平シリーズを読んでとくに困ったことはない。

柚木はいつものように別居中の小学生娘とデート。自分、柚木シリーズがこれで3回目なのだが30年このパターンで年齢も38歳のまま主人公。
そして前回の事件で知り合った東急文化村の裏にあるビル所有者母娘の家で鍋などしていると、鎌倉在住の薬膳研究家・藤野真彩を紹介される。この人はアルバイト医師でもある。

10年前、高校の同級生が失踪した事件を調査してほしい。最近になって鎌倉周辺での目撃情報が増えている。失踪当時は駅周辺で「探してます」というビラも配ったが、事件が風化しそう。
柚木は鎌倉の「探す会」事務局を訪ねて聴き込み開始。
だがその夜、事務局で詳細を尋ねた女性(鎌倉タウン情報誌を編集発行)が何者かによって殺害される。

柚木草平シリーズはどれも毎回主人公中年男性ライターが、なぜか美女たちに構われて、楽しく会話したり酒のつまみを作ったりしながら事件の全体像がわかっていくスタイル。今回も地元警察署の刑事など美女が登場。
展開が遅い。とくに劇的な展開や、驚愕のトリックがあったりするわけでもない。むしろ2時間刑事ドラマとして普通にリアルな展開。樋口有介は警察内部の事情になぜこうも詳しい?

樋口有介には少なくないファンが今もいるのだが、読者のほとんどが「こういうのでいいんだよ」的なワンパターンの安心感を得ているのかもしれない。自分も読んでいて楽。
なかなか展開がなくてイライラもするのだが、サクサク読み進められる。話の本筋と関係なさそうな箇所は読み飛ばすこともできる。

残りページ数が少なくてなってもぜんぜん話の全体像が見えてこなかった。女子高生失踪の理由はそんなに驚くことでもないのだが、このボリュームの社会派ミステリーとして、最低限の驚きの真実ぐらいはある。

樋口有介柚木シリーズは軽妙な会話を盛り込んだ松本清張と言っていいかもしれない。
はたして「うしろから歩いてくる微笑」というタイトルが合っていたかどうか?タイトルを見ても読後に内容をまるで思い出せない。

2022年9月17日土曜日

樋口有介「少女の時間」(2014)

樋口有介「少女の時間」(2014)を東京創元社の創元クライム・クラブ版で読む。

これも元刑事の中年フリーライター柚木草平が未解決事件を追う長編社会派ミステリー。月刊誌編集者からもたらされた2年前の、大森駅近くの神社境内の植え込みの中から16歳女子高生の絞殺死体(強姦未遂の末に殺された?)が見つかった事件を調査。

この作家の本はどれも中年男(離婚した妻と中学生娘あり)の周囲が美女だらけ。女編集者、事件を独自に追う所轄の女刑事、元上司で恋人の警視庁キャリア組美女(人妻)、などなど。それは男の願望。

殺された女子高生が出入りしてたベトナム留学生の支援と交流のNGOに聞き込み。
さらに、その事務所のあるビルオーナー(姉)は若くしてかなり年上の資産家夫を手に入れ悠々自適。さらにその娘がものすごく美人。

女刑事から被害者女子高生は処女でなかったことを知らされる。一見普通の女子高生の裏の顔とはいったい?!(女子高生が死体となって発見されると司法解剖の結果、警察にそういうことまで調べられてしまう。)

調査を開始するタイミングでNGOの1階アジアン雑貨店員が自宅浴槽で事故死。部屋にはマリファナ…。これは事故に見せかけた殺人かもしれない。
事件後地元に帰った被害者女子高生と殺された店員はともに地元が栃木県佐野市?
ベトナム留学生支援組織がなぜか全員女性ばかりなのは偶然?
都庁からの天下り先になってるけど、実はベトナムにおける対韓カウンター工作組織とも関係が?

この作家の作風は中年男と美女たちとの軽妙ユーモア会話で事件のあらましと経過がよくわかるということ。ほぼアガサ・クリスティーのようであるし、ハードボイルドでもある。

2時間ミステリードラマのような正しい娯楽小説。正直なところ推理小説とは言えない。新聞三面記事によく見るようなリアル路線。世の中はこんなにも世知辛い。

最後はどうでもいい酒のつまみの話に終始し真相はふわっと放置。
真相とかどうでもよく、気の利いた男女の会話がメイン。このスタイルで故樋口有介には今も多くの読者がいる。

2022年9月16日金曜日

樋口有介「ピース」(2006)

樋口有介「ピース」を読む。2006年中央公論新社の単行本(書き下ろし)で読む。
BOで樋口有介を物色すると、これが最も目にすることが多い。おそらく一番売れた?
自分は今まで青春ミステリー樋口有介しか読んでない。だがこれは帯を見ると、田舎で起こった連続バラバラ殺人を扱ったミステリーらしい。

群馬出身の樋口有介は上京後に一時期秩父の山の中で暮らしていたらしい。秩父暮らし経験を活かしたのがこの本。
寄居、長瀞、両神で発見されたバラバラ死体という事件。被害者もバラバラ。歯科医、スナックのピアニスト、生コン工場の臨時雇い、それぞれに何も接点がない。ただ、秩父周辺で1か月ごとに発生している。
自分、これまでに何度も秩父方面に出かけたことがあるのでイメージしやすい。

被害者たちがこれまでの自分の思うようにならなかった人生を心の声で独白。そして犯罪に巻き込まれる直前まで描かれる。これは犯人側に動機がない連続殺人か?

そして品のない秩父出身の老刑事。バーの常連客。少年院にいた孤独青年、地元タウン誌記者。それぞれの主観。多くの登場人物たち。やたらこまかい設定。何がどうなってるのやら?

終盤に突然犯人が明かされる。そのサイコパスな動機が空前絶後。そこになんとなく気づけた老刑事のカンのよさがすごい。次の被害者は小学校の先生か?!
人間、どんなことで恨まれるかわからないが、こんなことで殺されたらたまったもんじゃない。

ずっと犯人らしき人物をなんとなく示しているようなのだがそれはミスリード。最後でさらに事件の黒幕的な事物が示される。ちょっと事件の全体像をもやっとぼかす。それはそれで余韻を残すのかもしれないが、これはちょっと無理がある気がする。この老刑事が暇にしても色々と各方面綿密に調査しすぎのような気がする。

オールド・グランド・ダッドというバーボンが老刑事の口を滑らかにする「安い酒」として登場する。これ、自分も最近40度のやつを飲んだことあった。樋口有介はいろいろと庶民的。あまりお行儀のよくなさそうで、お高く留まってない作家で親近感。

社会派刑事ドラマ映画を見ているような感覚。ミステリー小説とはいえない。最後のほうになってかろうじてサスペンスホラー感はした。綿密に推敲を重ねた感じがしない。傑作とまでは言えない。
レビューではわりと酷評してる人が多い。おそらく「鮮やかなどんでんがえし系ミステリー」を期待して読んだ人たちだろうと思う。サスペンス風味のある田舎人間模様を描いた文芸書だと思って読んだ人なら、たぶんそれなりに評価しただろうと思う。

単行本の表紙イラストはこの本の雰囲気を何も伝えていないが、読者に内容を何も予想させないという点では良い。文庫版は読者に想像する余地を与えていて逆に良くない。

2022年8月5日金曜日

樋口有介「風少女」(1990)

樋口有介「風少女」(1990)を2007年創元推理文庫版(大幅に改稿した決定版とある)で読む。
これはたまたま立ち寄ったBOが半額セールやってたので、文庫棚を隅から隅までじっくり見て選んで買った一冊。55円。
これを読もうと思った理由は裏に書いてあるあらすじを読んで。
「赤城下ろしが吹きすさぶ風の街・前橋を舞台に、若者たちの奇蹟を活き活きと描き上げた、著者初期の代表作。」
とあったから。この作家は群馬出身の団塊世代。自分も過去何回か前橋周辺には行ったことがあるので興味を持って手にとった。

主人公斉木亮は父危篤の報を受け、赤城おろしの吹き荒れる二月の前橋に帰郷する。
駅で女の子から声をかけられた。かつて好きだった川村麗子の妹・千里(女子高生)から。数日前に姉が睡眠薬を飲んだ後に風呂に入って転倒し頭を打って溺死していたことを知らされる。警察では事故死として処理。

斉木は納得できない。「自分がかつてあれほど好きだった、美人だった麗子の死に方としてそれはふさわしくない。」
で、かつての高校の同級生たちを訪問して聴き取り調査。
警察が見逃したことがあるのでは?と、20歳そこそこの三流大学生が探偵のごとく事件を調べて回る。

樋口有介の文体はハードボイルドのそれ。まず、登場人物のほとんどが21歳か高校生なのに、喋り方がぜんぜん子どもじゃない。クールでニヒル。ほぼみんな社会の現実と人生に疲れ切った40代のような話しぶり。男女の事がわかりすぎ。思慮分別がありすぎ。
嘘だろ。20歳って、好きなアイドル歌手とかマンガとかテレビとかそんな話しかしてないぞ。女子だってもっとキャッキャしてるぞ。

青春ミステリー小説としてはそこそこ。だがこの本の価値は、風の街・前橋での青春ミステリーだということ。ほぼ前橋の中で起こる青春人間模様。
ドラマや映画だと登場人物たちが一流の名門校とか、親が金持ちとかばかりというものが多いのだが、そんな人は誰も出てこない。普通に人生に挫折した庶民若者のみ。

戯曲としての会話センス。とにかくアメリカ文学っぽいしハードボイルド探偵ものばかり読んできた人のしそうな会話。十代の子が読めば「こんな会話がしたい!」と憧れるにきまってる。

期待したクオリティとボリュームで期待したものが出てくるほろ苦い青春ミステリー。直木賞の候補作にもなったそうだから、これまでにそれなりに多くの人に読まれた作品だろうと思う。
「初恋よ、さよならのキスをしよう」は38歳になった高校生たちの物語だが、「風少女」は21歳になった高校生たちの物語。

たぶん前橋市民はより楽しめる。だが、巻末のあとがきで作者は書いている。「たまたま前橋が故郷だっただけ」「歴史も文化も何もない。愛着もない。」「実家を離れて東京へ出たときはほっとした。」「この本を読んで、ちょっと前橋に行ってみようかなどゆめゆめ思うな」と辛辣w 
これからは前橋と聞いたらこの小説を思い出すようになるかもしれない。「風の街」といえば前橋!

これまで読んだ樋口有介作品の中でこれが一番好き。樋口有介がぜんぜんドラマや映画になってない理由って何?と思った。いったいなぜ樋口有介は東野圭吾のようになれなかったんだろう。

2022年8月4日木曜日

樋口有介「初恋よ、さよならのキスをしよう」(1992)

樋口有介「初恋よ、さよならのキスをしよう」(1992)を2006年創元推理文庫版で読む。
この本は図書館リサイクル無償配布本をいただいてきたもの。
樋口有介(1950-2021)の訃報を昨年10月に聞いてちょっと驚いた。71歳だった。自分がこの作家の本を読むのは2冊目。

主人公柚木草平は元警察官でフリーライター。妻とは別居中の38歳。娘(10歳)とスキーに来ていて高校時代の初恋の卯月実可子と再会。色々と昔話。実可子は病院の家に生れ、高校時代は女王様とよばれるほどの美人。輸入車ディーラーでホテル経営の夫と結婚し大きな家に住み、本人は輸入雑貨販売店(目黒)を経営する人生の成功者。

だが、実可子は経営する店で死体となって発見される。実可子の中学生の娘梨早に「自分に何かあったら柚木さんに相談するように」と言い残し柚木の名刺を渡していたという。そのことを実可子の姪のケイ(大学に研究職勤務の27歳で美人)経由で柚木の元へ。初恋の人であるし犯人を知りたいということで調査開始。

強盗殺人にしては盗まれた物が出てこない。それに娘にもしものことを話しておくということは身近な誰かに殺された可能性もある。柚木はかつての同級生たちから話を聴いて歩き回る。そんなハードボイルド探偵2時間ドラマ。

高校の同級生たちが中年になったら闇が見えてきて……という悲哀に満ちたビターな話。1990年ごろの雰囲気を伝えるミステリー。登場人物はケイ(27)以外はみんな38歳。

ミステリーとしてはそこそこだが、主人公のキャラがよい。主人公一人称で会話してるか心で毒づくかしてる。会話センスがおしゃれ。サクサクと読みやすい。ほぼ一晩で読み終わった。十代の読者にもオススメ。

2019年7月9日火曜日

樋口有介「ぼくはまだ、横浜でキスをしない」(2016)

樋口有介「ぼくはまだ、横浜でキスをしない」(2016 角川春樹事務所)という本があるので読む。
樋口有介は相当にベテランでそこそこ有名な作家なのだが、自分はまだ1冊も読んだことがなかった。今回初めて読む。

高2の主人公が幼なじみ美少女と一緒に電動アシスト自転車で横浜を駆け巡る。
10年前に不審死した少女と、大学助教授だった父親の横浜駅盗撮事件の冤罪、神奈川県警の犯罪をあばく、17歳高2のひと夏の冒険を描いた横浜青春ミステリー。

主人公アキオは木彫芸術家の母(副業のランプシェードづくりで生計)と黄金町で裕福でない生活。
幼いころに、テレビにも出演するタレント学者だった父がつい出来心で美人の女子高生のスカート内を盗撮。たまたまそこに居た私服警察官に逮捕され、社会的地位を失う。母とは離婚。

現在は官能小説作家の父から横浜マリンタワーに呼び出された僕。隠し子を名乗る神奈川県警の女刑事の身元調査を5万円で引き受ける。直接訪ねていって勝手に毛髪を採取。DNA鑑定へ。だが同時に父親の盗撮逮捕は冤罪だったらしいことを知らされる。

さらに、人間の言葉を喋る化け猫にも遭遇。何か成仏できない理由があって猫に乗り移った幽霊か?おそらく20歳前後で10年前に不審死した少女?この子の正体も調査。

さらに港の見える丘公園で小学生時代の同級生だったメイに話しかけられ再会。このフェリスに通う美少女がイカレている。会話と論理回路が普通じゃないのだが、IQ125で東大にも受かるという手に負えない天才。仲良く一緒に捜査開始。

官僚の天下り、警察官僚のワタリと利権を批判していた目障りな学者だった父親は、警察の罠に嵌められていた!そして被害者女子高生は警察官の娘だった?!何か巨大な陰謀?

植草教授手鏡事件(2004)から着想を得たに違いない。

読んでいてとても楽しかった。ふたりの会話のヘンテコさが面白い。そしてラブコメ。
多くの横浜の具体的地名が出てくる。横浜の人はさらに面白いだろうと思う。

映画やドラマの話はないのか?
主人公の少年はいかがわしいDVDをデリバリーするバイトをしているのだが、古書店の28歳人妻(旦那と別居中)と高校入学以来、つきあってるわけでもないのに一年半にわたってただなんとなく性交渉をしている関係なのは違和感。それでは普通の高校生とは言えない。
それに高校生が普通にビールを飲んでいる。ドラマにするには改めないといけないかもしれない。

表紙を飾るモデルは多屋来夢というスターダストのモデルらしい。たしか、広瀬すずが好きだと言っていたモデルのはず。