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2026年9月14日月曜日

ジェフリー・アーチャー「ロシア皇帝の密約」(1986)

ジェフリー・アーチャー「ロシア皇帝の密約」(1986)を永井淳訳新潮文庫で読む。
A MATTER OF HONOUR by Jeffrey Archer 1986
ジェフリー・アーチャー(1940 ―)はこの当時は英国下院議員で世界的人気作家だったので発表と同時に邦訳が出てた。
自分は高1のときこの新潮文庫で読んで以来の再読。今回読み返してみて、まるで内容を覚えていないことが判明。当時の自分の知識ではその内容がよくわかっていなかったのかもしれない。

英国陸軍を退役し休職中のアダム・スコット君は父のわずかばかりの遺産を相続。父はかつてニュルンベルクでナチス戦犯の警護を担当した将校だったのだが、ヘルマン・ゲーリング元帥の自死を手助けした疑惑により汚名を背負ったまま亡くなった。

相続したものに15世紀のリュブリョフのイコン「聖ジョージが竜退治」のニコライ2世時代の複製品があるのだが、この小さな絵画に米ソ二大国の諜報員が追いかける秘密が?

皇帝ニコライは自身と家族の命を守るために、イコンの複製をつくって本物のほうに重要な契約書面を隠した?!なんとそれはロシアがアラスカを米国に売却したときの買い戻し条項?!それはクレムリンは必死。アラスカを買い戻すことができたなら、ミサイル基地でソ連が有利。しかし条項の期限が迫ってる。

あとはスパイスリラーエスピオナージ。アダムくんは仲良くなったドイツ娘は殺されるし、スイス警察から追いかけ回されるし、なによりKGBの冷酷非情のロマノフが迫って来る。

このKGBの工作員たちがスイスでもフランスでもイギリスでも主権無視の我が物顔で自由に活動。偽警官になって権限もないのにバスを停めて捜査したり、ライフル銃で撃ってくる。ロンドンに帰れると思ったのもつかのま、銃撃され墜落。

たぶんアダムくんはハンサム。じゃなければ出会う女たちから親切にされない。相当に人たらし。英国外務省の諜報セクションに就職しようとしてるのだからそういう人材。

1966年が舞台の話。ブレジネフ書記長、リンドン・ジョンソン大統領、ハロルド・ウィルソン首相といった人物も登場。CIAの偉い人にブッシュという人がいるのだが、もしかして後の父ブッシュ大統領?

アダムくんはローレンスくんという友人も敵じゃないかと疑心暗鬼。こいつが外務省筋なのに頼りない。アダムくんはロマノフに捕らえられ拷問を受けるハメに。
最後の最後まで「皇帝のイコン」の行方とロマノフとの闘いにハラハラとイライラ。
2日でイッキ読み。「ジャッカルの日」「エトロフ発緊急電」のような面白さ。

「A MATTER OF HONOUR」という原題と邦題はまるで違う。原題は主人公の父の名誉と、ロシア人たちの祖国への忠誠と出世がかかった頭脳戦を表してる。
英国人は昔も今もロシア人が嫌い。はやく雌雄を決するべき。

2026年9月10日木曜日

シェイクスピア「ヴェニスの商人」

シェイクスピア「ヴェニスの商人」を1967福田恆存訳新潮文庫で読む。この戯曲も正確な初演日時がわかっていない。1597年以前だろうと言われている。

たぶん日本人の多くがシャイロックとアントーニオの人肉裁判のシーンしか知らない。あたりまえだがこの2人以外にもたくさん登場人物がいる。

キリスト教徒を憎むユダヤ人金貸し業シャイロックは酷い人格を持った悪役…という描き方。
落語「大工調べ」に出てくる大家さんにキャラクターがとても似ている。些細な言葉尻のとらえ方からへそを曲げての裁判沙汰。もしかすると「大工調べ」が作られた時すでに日本にシェイクスピアが伝わっていた?!

指輪ラブコメパートは完全な初読だった。この戯曲はコメディだったのか。

2026年9月9日水曜日

酒見賢一「墨攻」(1991)

酒見賢一「墨攻」(1991)を新潮文庫(平成6年)で読む。1992年中島敦記念賞。

戦国時代の中国、趙の軍勢2万のが攻め込む弱小城邑国・梁に墨子教団から派遣されたひとりの男・革離が、墨子の教えに基づいた軍略理論で城を護る。

キングダムの時代と世界観なので、日本の戦国時代以上に非情で残虐な人命軽視世界。
これ、塩野七生「コンスタンティノープルの陥落」のような歴史小説だと思って読み始めた。
だが、不明な点の多い墨子教団を自由に想像して描いた作家の創造した城攻戦。タイトルも「墨守」を逆手に取った造語。

多大な犠牲を払いながら敵将・巷淹中の攻撃を防禦。しかし、城を護る革離には内側に敵がいた。ビターな結末。

この本を読んだことでやっと酒見賢一(1963-2023)を追悼。

2026年9月5日土曜日

小川裕夫「封印された東京の謎」(2017)

小川裕夫「封印された東京の謎」(2017 彩図社)を読む。これは「何か読む本ないかな」と立ち寄ったBOの安価文庫本棚から132円で拾った本。
ちなみに自分はこの著者の「封印された鉄道史」という本は読んだことがある。部屋のどこかにある。あまり内容は覚えていない。

この本の表紙は遠い昔、渋谷東急にロープウェーがあった時代の写真。これって今もあったらいいのに。

自分はいつもこういう東京の雑学を探して仕入れてる。いつかここぞという場所でドヤ顔でその知識を披露したい。だが、そんな機会はほとんどない。

自分としてはあまり目新しい知識は得られなかったのだが、東京が日本の「首都」になったのは「前島密」のせいだったかもしれない…というのは初めて知った。

あと初めて知ったのが、虎ノ門金刀比羅宮は丸亀藩の京極家が江戸の庶民を参拝させて金儲けしようと三田の江戸屋敷に勧請させたやつ。
日本橋蛎殻町の水天宮も久留米の有馬家がサイドビジネスとして三田にあった屋敷に勧請させたやつ。へえ。

あと、「かわいそうなぞう」でよく知られる、戦争中に上野動物園の象さんが殺処分されたのは、軍部の命令でなく内務官僚だった大達茂雄東京都長官の命令。

2026年9月1日火曜日

宇佐見りん「推し、燃ゆ」(2020)

宇佐見りん「推し、燃ゆ」(2020)を読む。コロナ禍の真っ最中の第164回芥川賞受賞作という話題の一冊だった。河出文庫(2023)で読む。

これが綿矢りさ「蹴りたい背中」を初めて読んだときのような困惑。女子高生が主人公なので、冒頭から語り口がJKポエム文体。たぶん男性中高年は状況を考えながら読まないと理解できない。それが文学作品というものだが。

日本中、世界中でよくある「生きづらい」から「推す」というティーンエイジャー。人生で一度でもアイドルとか歌手とかバンドとか追いかけたことがある人なら誰でも身につまされる。バイト何時間で生写真、CD、コンサートとかつねに計算。

正直、自分としてはそれほど面白さを感じない。ただただこういう人がその後どうなるのか心配。自分はもう誰かを応援するためにお金を浪費するとか一切していない。どこかのある地点でそういうことは止めた。

2026年8月28日金曜日

東野圭吾「白銀ジャック」(2008)

東野圭吾「白銀ジャック」(2008)を2010年実業之日本社文庫版で読む。

自分は東野圭吾をなんでもかんでも読むという読者じゃなかったけど、それでも7月に68歳での訃報を聞いた時は絶句した。まだまだあと15冊ぐらいは新作を書き残してくれることを疑ってなかったから。これほどの国民的人気作家を60代で死なせてしまうとか、医者が無能すぎる。

で、追悼のために8月中にこの本を選んで読んだ。友人の本棚にあったので借りて読んだ。これはすでにドラマ化されている。渡辺謙、岡田将生、広末涼子、他で。すでに自分はドラマ版を見ているのであらすじを知っている。雰囲気もわかっている。主要キャストをドラマキャストで脳内再生されてしまう。

スキー場へ現金を要求する脅迫と爆破予告。スキー場に隠された爆弾が爆発すると雪崩が起こる!?それはスキー客の命の危機。そしてスキー場経営陣にとって深刻な痛手。

このスキー場で妻をスノーボーダーとの接触事故で亡くした親子が怪しいのでは?とマークするも、犯人の正体が終盤までなかなかわからない。

で、その事件の背後には陰謀。社会派サスペンス的な作風だったかもしれない。娯楽作として手堅くテンポも良く楽しめる一冊。

2026年8月27日木曜日

スタインベック「怒りの葡萄」(1939)

スタインベックの「怒りの葡萄」(1939)を伏見威蕃訳2015年新潮文庫上下巻で読む。

ジョン・スタインベック(JOHN STEINBECK 1902-1968)は自分が中学生のころから名前は知っていたけど未読だった作家。「怒りの葡萄 THE GRAPES OF WRATH」は1940年のピュリッツァー賞受賞作。後にノーベル賞も受賞。

世界恐慌後のアメリカ中西部、零細個人農業と小作農は不況と強欲銀行とトラクターによって土地を追われて一家で流浪する。
日本も世界恐慌では東北の農村が立ち行かなくなって娘を売ったりする悲劇があったし新卒大学生は就職できなかった。アメリカも多くの人々が失業し路頭に迷う。

オクラホマのジョードー家も家を失い一家でカリフォルニアを目指す。その理由が、果樹園で果実を摘む季節労働のビラを見て。それって…頼りにしていいのか?
昭和初期の日本と違ってアメリカの農民はトラックがあるだけマシ。一家とわずかな家財道具を積み込んで国道66号を西へ。

だが、この時期のアメリカのオクラホマ、アーカンソー、ミズーリ、テキサスでは多くの家族が砂嵐によって耕作不能になった土地を棄て新天地カリフォルニアへ流入。
これがまさに現代のアメリカ・メキシコ国境やヨーロッパ・中東・アフリカで起こってること。

あまりにも大量の経済難民が押し寄せる。カリフォルニアの果樹園も季節労働者を必要としてても、やってくる人々が多すぎる。一日で20セントにしかならない労働を、募集をはるかに上回る求職者がやってくると、どんどん労賃を安くする。その仕組みに怒りと絶望。ほぼ竹中平蔵。

しかも、労賃を上げてくれるように団体交渉しようものならアカ(共産主義者)呼ばわりで牢屋にぶちこまれる。時と場合によっては殺される。
ぜんぜん仕事も見つからない。やっと見つけて家族で1日1ドルにも満たない。必要な食事もとれない。もうどうしようもない。

もう労使の関係がほぼアメリカ版「蟹工船」。読み進めることが苦痛。それに、文体が英米文学の文豪そのもの。読むのに慣れと忍耐が必要。芸術性と格調が高い。

アメリカ人の多くが世界恐慌はフーヴァーのせいで起こったと考えていた。なので、カリフォルニアに流入したオクラホマ人たちが棲んだ掘立小屋村スラムをフーヴァーヴィル(フーヴァー村)と呼んだ。
日本も十数年間にリーマンショックで仕事を切られた人々が「派遣村」を作ったことがあったのだが、竹中村とかヘーゾー村と呼ぶべきだったかもしれない。

このちょっとあとに日本はアメリカと戦争して敗れる。日本人は豊かな国アメリカに負けたと思ってたのだが、アメリカの貧困は日本、中国、ソ連、欧州のどことも変わらないレベル。

貧しい者は貧しい者同士で助け合うのだが、富を持つ者は多すぎる貧しすぎる者に恐怖する。それは今の日本も同じ。
持つものが持たざる者に対して冷たいし侮蔑的。まあ、カリフォルニア人もこんなにも大量の無一文労働者が流入してきたら恐怖から排斥に全力になるのもわからないでもない。日本も流入する貧しい外国人への寛容の心はとうに失ってる。これを許すと自分たちの賃金も押し下げられる。

「怒りの葡萄」は世界中の多くの読者に強い印象を与えた。こんなことではいかん!社会を改革する必要を感じる。
とくに労働者を使役する側に倫理観が必要。この本をある程度の知性があるアメリカ人はみんな読んでるはずだが、現代のアメリカは「怒りの葡萄」から何かを学んだり進歩してるように思われない。共和党の議員たちとICEや警察官はたぶん読んでない。

終盤の畳みかける様な酷い出来事の連続は言葉を失う。この状況でも平静を保って再拝する母親の強さに感心しかない。普通なら途中で精神が狂うと思う。

いやあ予想以上に名作。読んだことない人は読むべき。自民党議員は全員読むべき。

PS. ジョードー家が西へ進むルート66の途中に「バーストウ」という地名が出てくるのだが、これって第6回アメリカ横断ウルトラクイズに出てくる「バーストー」のことか!
自分にアメリカの地理を教えてくれたウルトラクイズは偉大。

2026年8月20日木曜日

ディクスン・カー「悪魔のひじの家」(1965)

ジョン・ディクスン・カー「悪魔のひじの家」(1965)を白須清美訳の創元推理文庫(2024)で読む。
もしかして新訳?と思ったのだが、1998年新樹社から刊行されたものを創元推理文庫に収録するにあたっての改版。
THE HOUSE AT SATAN'S ELBOW by John Dickson Carr 1965
ディクスン・カーっててっきり戦前の1930年代のミステリー作家だと思ってた。1960年代中ごろになってもまだこんな歴史的因縁のある英国お屋敷での偏屈老人と遺産相続と男女のミステリーを書いていたことを知らなかった。今現在の日本もこのパターンにあえて挑む作家は少なくない。
もう自分はカーの作品は何を読んでもそれほど感銘は受けない。この本もあまり期待しないで読んだ。

今回は悪名高い判事が所有していた屋敷を手に入れたバークリー家の当主が死亡し、アメリカで長男の孫ニックが遺産相続のために帰国。旧友のガレット(劇作家で伝記作家)と「悪魔のひじ」にある緑樹館を訪問。

そこに至るまでにガレットがパリで出会って恋に落ちた後に姿を消した女が現れる。え、もしかして緑樹館の現当主ペニントンの妻ディドラってこの女か?!
だが、本名かもわからないフェイという女はペニントンの秘書?!

で、緑樹館にたどりつくやいなや当主ペニントンが銃撃?密室?!空砲で無事?!
そしてさらにフェル博士とエリオット警視も登場。そしてまたしてもペニントン銃撃?!

なんとこのディクスン・カー作品は誰も死なない。まじか。タイトルはおどろおどろしいのに。
またしてもフェル博士は、こんなん誰も言い当てられないだろ!という大して面白くもない真相を、わかりずらく説明する。納得しがたい。

お屋敷主治医にフォーテスキューという人がいるのだが、どこかで名前を聞いたことあるような気がする。ああ、アガサ・クリスティー「ポケットにライ麦を」にも出てきた名前だ。
もしかしてカーはクリスティーの影響を受けたのかもしれない。

2026年8月15日土曜日

ドストエフスキー「賭博者」(1866)

ドストエフスキー「賭博者 Игрок」(1866)を原卓也訳(1979)新潮文庫で読む。

読み始めはやっぱり人間関係が分かりづらいいつものドストエフスキー。ロシア人将軍とその一行の関係性がまるで見えてこない。フランス人の男女、イギリス人もいる。主人公青年はどういう関係?
しかし読み進めると明らかになってくる。それが文学というもの。ドラマや映画を想定していない。

南ドイツの温泉地ルーレテンブルク(架空のルーレットタウン)のホテルに長期逗留してるような階級なので、登場人物はみんな貴族たち。みんな不労階級。主人公は将軍の義理の娘の家庭教師なのでこの人だけは労働者。しかし3か国語を話せるのでエリートかもしれない。この人はお金はないけどお金に困ってないし執着もしてない。

だがしかし、将軍が遺産をアテにしてるモスクワの祖母が、車椅子でないと動けないのにモスクワから急にやって来る。そしてこの強烈な婆さんがカジノでビギナーズラック。さらに大金を得る。インパクトのあるストーリー。

しかししかし、カジノのディーラーというものはこういう素人老婆はカモでしかない。この婆さんが換金処分しやすい債券までも身ぐるみ剥ぎ取られる様は読んでてほんとに怖かった。日本にカジノなんて作ったら絶対にダメ!(笑)

登場人物たちがみんなおかしい。主人公アレクセイもおかしい。アレクセイが恋するポリーナ(ドストエフスキーが同じように欧州を旅したときの愛人がモデル)が性悪。

英国人アストリー氏が唯一まともな紳士青年。この人が出てくると安心だが、それでもみんな破滅的で危険。頽廃の香り。

なんか、あまり期待してなかったのに、今まで読んだドストエフスキーでいちばん面白かった。
この本を読んだことで、プロコフィエフの歌劇「賭博者」をようやく聴く気になった。まあそのうちに聴こう。

この本を手に取った理由のもうひとつは、ロシア人の破滅的なギャンブル熱について知りたかった。ウクライナ戦争がどうなるのか?
たぶんプーチンとロシア人は身が破滅しようとも、航空機と戦車が残り1台になっても、ミサイルが在庫数発になってもウクライナと西側に突入させてくるし打ち込んでくる。なにか一発逆転の望を掛けて。露助はそこにいるだけで迷惑。そしてロシアは中国にカモにされるだろう。

2026年8月12日水曜日

アンディ・ウィアー「アルテミス」(2017)

アンディ・ウィアー「アルテミス」(2017)を小野田和子訳ハヤカワ文庫SF(2018)上下巻で読む。「火星の人」に続く、かつて天才プログラマー少年だった作家の第2長編。「火星の人」は読んだことないが映画で見たのでよしとする。
ARTEMIS A NOVEL by Andy Weir 2017
人類はすでに月面に2000人が生活するドーム都市を作っていた。非合法な運び屋女ジャズ(溶接工のスキルもある)が主人公。このヒロインはどうやらサウジ系?月面に住むようになってもイスラム教はまだ存在するのか。

月面に住むようになっても人々はお金のために労働しないとならないのか。闇バイトみたいなことをしないといけないのか。
この女のやることが月面都市アルテミスを悪徳企業から守るというぼんやりした動機だけで破壊工作を犯す。それは2000人すべての命と社会の根幹を揺るがす重大な危機。

重力が地球の1/6で真空で紫外線と放射線と熱線の月面で何かをしようとする困難さを、この作家らしい物理と化学の視点で教えてくれるエピソードとアイデアには感心はした。

しかし、令和の今を生きる日本人なら、果実や金属を盗む外国人のことが頭をよぎる。こんなやつを社会の一員として迎えたらとんでもないことになるという小説。

2026年8月9日日曜日

サラ・パレツキー「サマータイム・ブルース」(1982)

サラ・パレツキー「サマータイム・ブルース」(1982)山本やよい訳ハヤカワ・ミステリ文庫(1985)の江口寿史イラスト表紙の1994年22刷で読む。2年前に無償でまとめてもらってきたサラ・パレツキー(1947 - )。そろそろ読む。
INDEMNITY ONLY by Sara Paretsky 1982
え、「サマータイム・ブルース」って邦訳が出たときにつけられた邦題?!原題とまるで違うが、原題では日本人読者にはまるでイメージできなかったに違いない。

元弁護士で脇のホルスターにスミス&スウェッソンを忍ばせたシカゴの女探偵V.I.ウォーショースキー(通称ヴィク)が活躍する探偵ハードボイルド第一弾。

シカゴは19世紀の昔からギャングの街。暗黒街のボスも登場。チンピラと女探偵(40代ぐらい?)のアクションもある。そしてシカゴ・カブスの試合を気にする。

シカゴ財界の大物セイヤー氏から息子ピーターのガールフレンド(父は労働運動の左翼闘士?)の行方を探してほしいという依頼。調査を開始するとすぐに額を撃ち抜かれたピーターの死体を発見。第一発見者になってしまう。女探偵を認めないマロリー警部補(かつて父の同僚)から大目玉。

しかも依頼したセイヤー氏は偽者?そしてセイヤー氏も殺害。幼い娘のジルの身にも危険が?背後に大規模な保険金詐欺事件が?

という探偵ドラマ。この本が書かれ出版された時代はアメリカ横断ウルトラクイズの時代。シカゴは冬は天候の荒れる寒い都市というイメージだったけど、夏は今も昔も暑かった?!
80年代初頭のシカゴを思い描きながら読書を楽しんだ。

2026年8月5日水曜日

藤谷治「船に乗れ③独奏」(2009)

藤谷治「船に乗れ③独奏」(2009)を読む。シリーズ最終巻を読む。

チェロと音楽と格闘し苦悩する津島くんはついにこの道をあきらめる。家族としてはこれまでの多くの投資がムダ。

上の音大へは進まずに一般受験で大学を目指して予備校通い。この時代は今よりももっと大学受験は厳しい道。高3で受験勉強始めても一流どころは無理では?

音楽一家に生まれて音楽教育を受けてきた少年の挫折がつらい。
そして津島くんが酷い仕打ちをした哲学教師との再会。
この3巻がいちばん青春小説としてはつまらないシビアな現実。

たぶん多くの人がこの少年と同じような道を歩んで大人になってる。あんなに努力して打ち込んだことは今でな何も役にたってない…ってゆう。
しかし、それでも読後は爽やか。

この本はクラオタのための青春小説といえる。クラシック音楽のことはもうたいていわかってるけど、音楽の専門教育の現場にいなかったというクラオタも読んでみることをすすめる。

2026年8月4日火曜日

藤谷治「船に乗れ②独奏」(2009)

藤谷治「船に乗れ②独奏」(2009 ジャイブ)を読む。

音楽高校でチェロを学ぶ津島くんは相変わらず学生オケで怒鳴られる日々。だがしかし、南さんという美少女ヴァイオリン少女といい感じ。
なんと初デートが上野でオペラ魔笛。そんな高校生カップルがいるのか?!

そして、津島くんは親類の根回しでドイツへ留学。高名な先生にチェロを学ぶのだが大きな挫折。完全なダメ出し。音階練習しかやらせてもらえない。それは気分が落ち込む。

帰国したら南さんの様子がヘンだ。何があった?!南さんが冷たい理由が誰にも分らない。もしかして病気なのか?

もうチェロとかどうでもいいと感じ始める。自暴自棄。そして心で通じ合っていた倫理・哲学の先生への愚かで非道な八つ当たり。最後の授業は「ソクラテスの弁明」。

この本は発売当時にも話題になった青春音楽小説の名作。著者が読者を完全に上回ってる。読んでいてほぼ漱石、太宰、ミシマ、ハルキをおも思わせる、ほぼ文豪による青春小説。うぬぼれ男子高校生17歳の孤独と苦闘の日々。いやあ、読んでて面白い。

2026年8月3日月曜日

藤谷治「船に乗れ①合奏と協奏」(2008)

藤谷治「船に乗れⅠ合奏と協奏」(2008 ジャイブ)という本があるので読む。もらって5年ぐらい経つのでそろそろ読む。この本って出たころわりと話題になったように記憶してる。

主人公が高校生の青春小説らしい。てっきり児童向けかヤング向けかと思ってたけどそうでもなかった。40代になったかつての少年が音楽高校でチェロを学んで過ごした青春を回想している。

「のだめカンタービレ」は音大だったけど、この本は中学から高校へ上がる時期から始まってる。自分とはまるで縁遠い音楽学校での体験がリアルに描き綴られている。そこはとても新鮮だし興味深い。

ただし、主人公の津島サトルくんが横浜本牧に豪邸を構える資産家一家の子。小学生のころからヨーロッパの小説や哲学書を読む。一族は東京藝大を出てる音楽一家。父は慶応卒の社長。30畳の居間にベーゼンドルファーのグランドピアノがあるような家。嫌悪感しかないw 

ピアノを学ぶも才能が足りず、祖父の提言によりチェロに転向。中学は普通の公立校。上流階級の子なので高名な先生に学ぶ。東京芸大付属受験には失敗するのだが、祖父が理事の音大付属の高校へ。そこは女子が100人以上なのに男子は数名という世界。

そして強制的にオーケストラでしごかれる。両家の子女が集まるのぬるい環境なので音楽学校としては二流かもだが、なにせ音楽家に育てないといけない虎の穴。指導担当教師が現在の水準では許されないパワハラ気質。

音楽を学ぶ高校生たちがLPレコードとかカセットテープでしか海外の有名演奏家の演奏に触れていない。まだカセットウォークマンも家庭用ビデオも存在しない時代。なのでたぶん、1980年ごろの高校生の青春を描いているのかと。当時のアイドルスターとか世相とかいっさい触れられていない。

この時代のクラオタのアイドル演奏家たちの名前も登場するので、たぶん今のクラオタ大人が読んでも「わかる~」という感じで楽しいかもしれない。おそらく今現在60代という年代のピュアな青春。ラブ要素もちょっとある。

もしこの本がドラマ化されていたら、たぶんメンデルスゾーンのピアノ・トリオが世間の知名度と人気が上がっていたかもしれない。
面白かったので引続き第2巻も読もうかと思う。

2026年7月30日木曜日

三浦綾子「泥流地帯」(昭和52年)

三浦綾子「泥流地帯」(昭和52年)を新潮文庫(平成15年50刷)で読む。実は三浦綾子(1922-1999)を読むのはこの本が初めて。この作家は旭川出身。

文庫裏のあらすじがきによれば、大正15年5月の十勝岳大噴火と山津波による被害を描いてるらしい。なのでてっきりディザスター小説かと思ってた。
だが、大正年間の上富良野日進沢の貧しい小作農一家の日々の暮らしを描いた「北の国から」だった。もしかすると倉本聰はこの本を読んでいたのかも?と思った。

小作農家に生まれた兄弟の拓一と耕作。祖父母と一緒に十勝岳の見える土地で日々農作業労働。父は事故で他界し母は髪結い見習いとして札幌へ出て不在。
耕作は学業が優秀だが中学へやる金はない。日進部落の人々は年数回しか米を食べられない。
拓一が気持ちを寄せる幼なじみの女の子も親の借金のカタに妓楼に売られる。それは悲しい。

みんな貧しいので助け合って生きている。馬も貴重な労働力だし家族の一員。ある日いきなり苦しんで死んでしまうと悲しい。
唯一の嫌な人は女郎屋の亭主で高利貸しの深城。威張ってるし。
小学校教員の先生も自分勝手に不機嫌だったり嫌な人。

十勝岳の噴火と山津波の泥流が集落を襲うのは終盤。

大災害とその後の箇所はつらくて読んでられない。この本を読む人は誰もが3.11東日本大震災等でもリアルにあった悲しい場面を想わずにいられない。あと少しで助けられたかもしれない家族のことを想わずにいられない。

2026年7月27日月曜日

北村薫「盤上の敵」(1999)

北村薫「盤上の敵」(1999 講談社)を読む。1年ぐらい前にもらってきた本。

何の予備知識もなく読み始めた。てっきりチェス対局ミステリーなのかと思ってた。各章のタイトルもそんな感じだったしで、なかなか本を開こうと思えなかった。
だが、猟銃立てこもり凶悪殺人犯と、事件を独占的に取材したい番組制作スタッフの酷い職業倫理と、酷いイジメをされた女の独白が交互に続くやつだった。

もう「何を読まされてるんだ?」という感じで現在地が分からず、誰が誰かわかりずらく、読んでてひたすらイライラする。
あまり頭を使いたくなくて読書に逃避してるのに、何がどうなってるのか考えながら読まないといけない。

しかし、そのストレスから終盤に解放される。おお、そういうサスペンス作だったのか。十分に意外で驚きの展開。

松本清張だと、こういうのはどこかで失敗して露見する。だが、そうならない分、多少の爽快さはあったかもしれない。正義は自分の手でしか守れないっていう嫌なミステリー。

苦行のような時間もあったけど、これは十分に傑作と呼べるかもしれない。
これは映画化とかいけそうな気がするのだが、なぜか誰もやってない。

2026年7月26日日曜日

吉屋信子「花物語」第一巻(大正九年)

吉屋信子「花物語」第一巻を読む。大正九年に東京市麹町區隼町洛陽堂より出版されたもの。当時の価格は「定價金壹圓五拾錢」。
こいつもBOで110円で見つけて連れ帰った昭和49年ほるぷ復刻本。「第一巻」とあるが、第二巻以降があるのかどうか不明。

吉屋信子(1896-1973)を読むのはこの本が初めて。20本の短編を収録。すべての作品名が花の名前。すべての主人公が十代の少女。

読み始めた最初の頃は、幻想ファンタジーなのかな?と想ったのだが、どれも「もののあわれ」とペーソスあるれる詩情。どれもが日常の一場面。ストーリーよりも場面と登場人物の設定。ほぼ清少納言。

読み終わったすぐから内容を忘れていくのだが、文体が素朴で味わい深い。大正女学生の話言葉と書き言葉はこういうものであったのかと想いを馳せる。
登場する音楽教師はなぜか伊太利人であるケースが多い。

2026年7月24日金曜日

ローマ人の物語「すべての道はローマに通ず」(2001)

塩野七生「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」(2001)を読む。新潮文庫では27巻と28巻に相当。

この巻の前の「賢帝の時代」で「もう飽きてきたな…」と感じてしまったものの、もうゴールを目指すしかない状況でこの巻を開いたら、これまでとは装いを変えて、これまでのローマ人のインフラ整備についての講義。カラー図版ページでローマの史跡観光ガイドつき。

上巻ではローマの街道、橋、水道といったハードなインフラ。
ローマの街道を人が移動する速度は19世紀に鉄道、20世紀に自動車が登場するまでほとんど変化がなかった。それはすごい。ローマの水道橋の技術もすごい。

3世紀のローマ帝国地図「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」(11世紀の写本が現存)の存在を今まで知らなかった。

下巻では浴場、さらに医療と教育というソフトなインフラ。
ここを読んでると古代ローマ人は現代人とあまり変わらないなと感じた。

2026年7月21日火曜日

ローマ人の物語「賢帝の世紀」(2000)

塩野七生「ローマ人の物語 賢帝の世紀」(2000)を読む。新潮文庫(2006)では上中下、24、25、26巻に相当。

ダキア戦役とパルティア戦役、インフラ整備と公共建築にがんばりすぎたトライアヌス帝。

最大版図帝国の周辺部を視察して回った旅人皇帝ハドリアヌス。ユダヤ戦役でユダヤ教徒をイェルサレムから放逐しディアスポラ開始。旧臣を粛清もしてるなど苛烈。
60過ぎで歩くこともままならない病苦に苦しむ。いったい何の病気だったのか?

26巻は何も新しいことはしないので特筆するべきこともないのに23年続いた長命温厚紳士皇帝アントニヌス・ピウス。阪神でいったら吉田監督の時代か。

全巻読み通すことを目指してるのだが、いいかげんもう飽きてきたw 長すぎる。

2026年7月17日金曜日

片島紀男「三鷹事件 1949年夏に何が起きたのか」(1999)

片島紀男「三鷹事件 1949年夏に何が起きたのか」という文庫本を昨年11月に群馬方面にキャンプに出かけた帰りにそこにあったBOで見つけて連れ帰った。110円でゲット。

NHKディレクターによる本。ETV特集で三鷹事件を扱ったら好評だったので本になった。1999年6月に日本放送出版協会より刊行。自分が手に入れたものは2005年新風舎文庫版。なんと、あとがきと年表を合わせて全990ページ。すごいボリューム。
(調べてみたら新風舎は2008年に経営破綻してた。)

自分、遠い昔、下山事件と三鷹事件と松川事件に関心持ってて、下山事件と三鷹事件の現場まで出かけたことがあった。JR労組による記念碑も見てきた。三鷹の禅林寺の慰霊碑も見てきた。だが、三鷹事件に関しては今まで適当な本を見つけられず読めないでいた。

今回手に入れたこの本のほとんどは、竹内景助の取り調べから一審無期懲役判決、そして控訴審での死刑判決。再審請求中の獄死までを扱う。
事件当夜の竹内の目撃証言やアリバイや物証にも触れてはいるけど、あまり「1949年夏に何が起きたのか」というタイトルは合ってない気がする。

昭和24年はもう遠い昔で事件の関係者たちも多くが鬼籍に入ってる。令和の今を生きる我々現代人にとって関係ない事件かもしれないが、令和の今も検察と司法にはイライラさせられる。

もう取り調べ検察官が怖い。国鉄から首を斬られた竹内がいったいなぜ一人だけ犯人にさせられたのか?その責任のほとんど全て検察官たちが「こいつに罪を着せよう」と選んだいち弱者市民。
なぜにそこまで「こいつが犯人だ」と100パー信じて、シャカリキに罵詈雑言浴びせかけ追い詰めて自白させるのか?
最高裁裁判官も怖い。容疑者絶対殺すマンになってる。とにかく自供がすべて。物証が何もない。たぶん竹内に有利な証拠は隠蔽して明かさない。信じられない。

この時代は占領時代。朝鮮戦争勃発を前に、共産党と労働運動を弱体化させる方針に政府が舵を取った時期。
暴走車両が三鷹駅のホームと交番を突き破って6人死亡という大惨事。自分はてっきり竹内は共産党員かと思っていたのだが、党員ですらなかった。なのになぜ竹内が選ばれた?

東京拘置所の所長も看守も怖い。頭が痛いと訴える竹内を「拘禁反応」「詐病」と放置。結果、脳腫瘍で死亡。これはほぼ殺人。酷い。人間性を疑う。
大川原化工機事件をも連想。警察と検察は今も変わってない。

竹内は裁判で単独犯行→無実→単独犯行と主張を変えた。そこは自分は知らなかった。竹内はあまりに無知。ことの重要性がわかってなかった?そんなピュアな竹内を騙して自供させた検察官は重罪だし、担当弁護士たちも無能。

当時の国鉄労組は共産党系と民同系に別れて双方いがみ合っていた。民同にも不審な容疑者がいたらしいのだが、竹内単独犯行一本に突き進んだ検察と司法はもう他に犯人がいる可能性にもはや関心ない。なので追及もしてない。

三鷹事件はもう真犯人がわかることはないかもしれないが風化させてはいけない。司法関係者たちに罪を認めさせ責任を追及しないといけない。謝罪と補償をさせないといけない。