2023年10月20日金曜日

遠藤周作「王妃マリー・アントワネット」(1979)

遠藤周作「王妃マリー・アントワネット」(1979)を新潮文庫上下巻で読む。

日本人のほとんどが名前は知ってる人物だが、その生涯を描いた伝記のようなものを読んだ人は少ないのではないか?せいぜい「ベルサイユのばら」なのではないか?というわけでこの本を手に取った。フランス留学生だった遠藤ならではの視点があるのではないか。

ウィーンからパリへ向かう花嫁の一団を歓迎するストラスブール市民。パン焼き窯の灰で薄汚れた孤児のマルグリットは、自分より1つ年下の美しく可憐なマリー・アントワネット14歳を見て嫌悪感。自分が買えないものを何でも自由に買えるアイツが憎い。「死ねばいい。早く、殺されたらいい。」

フランス国王ルイ15世の孫の皇太子ルイ・オーギュストは小太りで脚が短く顔にも目にも覇気がない。婚礼の夜、一緒のベッドなのに自分に手も触れない。失望する少女。
少女の潔癖と正義感で舅の国王の愛人デュ・バリー伯爵夫人を毛嫌いし無視。そのことが国王を困惑させ、フランスとオーストリアとの外交関係にも影響を及ぼす。駐フランス大使からオーストリア皇女マリア・テレジアの耳に入り叱責の手紙。

皇太子ルイはダンスなど王室の優雅な振る舞いができない。もっぱら狩りに出かけ、鍛冶場見学という謎の趣味も持っていた。マリー「そういうのやめて!」
マリーはマリーでハンサムなシャルトル公爵と恋の駆け引き。そんな中、国王ルイ15世は病で倒れる…。

一方、口うるさく怒鳴られることに嫌気がさしたマルグリットは家を飛び出す。路上で男から「パリに行けば仕事もあるし、金を貯めれば何でも買える」と声をかけられパリへ出る。
これがやっぱり私娼窟。客がマルキ・ド・サド侯爵だったり、医師マラーだったりする。

マルグリットは初めて男に買われる。客がないときはパリの街を歩く。人だかりがあるので行ってみると街角で罪人の処刑。処刑人サムソンと言葉をかわす。マルグリット「あの子(マリー・アントワネット)も罪人のように広場で吊りさげられればいいのに」

もしルイ15世が死ぬとヴェルサイユを追い出されるデュ・バリー夫人は気が気でない。反マリー勢力を育てよう。そのためにマリーの我儘を増長させ敵を作らねば。
仮面舞踏会でシャルトル公爵に冷めたマリーの次の恋はスウェーデンの貴族フェルセン伯爵。
その一方で、処刑人サンソンはギヨタン博士から新しい処刑装置についてのアイデアを相談される。「この方法で罪人の苦痛を取り除ける。中世以来の野蛮から前進できる」

サンソン家の前で行き倒れていたマルグリットはサンソン家で看病される。卑しい職業をしていることはお見通し。
マルグリットはゴマール神父に預けられる。神父さんにつきそって監獄へ。そこに優しかったおばさんの名前。サド侯爵の逃亡を手助けしたとして国王の名において広場でむち打ち刑。
マルグリットはさらに国王とマリー・アントワネットへの恨みをつのらせる。マルグリットはおばさんとパリを脱出。なぜかサド侯爵の脱獄も手伝う。

ルイ15世が崩御するとルイ・オーギュストとマリーは新国王と王妃に。たちまち始まる宮廷内の権謀術数。あることないこと噂を吹聴する人々。
マリーは派手に遊び王室の財政を悪化させていく。各地では農民一揆。

さらに詐欺師カリオストロ博士も登場。ラ・モット夫人と組んで、かつて自分をコケにしたマリー・アントワネットに恥をかかせたい。ネタはダイヤの首飾り。ターゲットはマリーが嫌うロアン大司教。
そんなコンフィデンスマン・フランスになぜかマルグリットも参加。ここで初めてマルグリットがマリーに似ていることが読者に明かされる。

フランス国民はロアン大司教に同情的。悪いのはオーストリアの女。カリオストロの詐欺事件が大スキャンダルの噂になるという、マリーに気の毒なもらい事故。
なんだか予想以上に通俗娯楽エンタメ時代小説的展開。司馬遼太郎とか読んでる気分。

そして下巻。ひたすらフランス革命。国王夫妻側から見てるので、どうしても暴徒側が品がなく粗暴で残虐。ヒステリックになってる革命軍側とはどうしたって話し合いになる余地がない。たぶんロシア革命も同じ事態。

そしてフェルセンの手引きで逃亡のヴァレンヌ街道。だが、命の危機という切迫した緊張感が足りない。ルイ16世がことあるごとに優柔不断。あともうすこしというところで敵に捕まる。歴史の大きな分岐点。
国王夫妻と子どもたちはパリへ連れ戻される。群衆は国王とその女を殺せと叫ぶ。それにしてもなぜにこれほどまで国民全員が敵になるまで事態を放置してた?

王妃に恋するフェルセンは幽閉されている国王夫妻を救出するべく危険なパリに潜入し仲間を探す。首飾り事件に関わったヴィレット、革命を行き過ぎと考える元修道女アニエス。
だが、これといって有効な策はない。

オーストリアとプロイセンはフランスと戦争。そしてパリは殺戮に狂った暴徒であふれる。こんな残虐な事態を今も巴里祭として祝うフランス人はどうかしてる。
長年高い年貢を払わされてた恨みから、貴族たちを殺せ!と叫ぶ暴徒。残忍な方法で殺害し首をかかげる。
日本で自民党と経団連、財務省、竹中平蔵が安穏と生きていられるのはなぜか?

革命指導者マラーが浴室で暗殺されたことは世界史でも美術史でも有名なのだが、犯人は革命の間違いを訴え、コルデという偽名で面談に来たアニエス。憐れ、断頭台の露と消えた。(史実ではシャルロット・コルデーという女性。)

ラストでまさかマリーとマルグリットが入れ替わる?!かと驚いたけど、そんなことは起こらなかった。誰もが知る通りの悲しい結果。

いや、これ想像してた以上に読みやすい。世界史の知識も必要ない。中学生でもすらすら読めるかと。通俗小説作家としての遠藤周作の力量を発揮した娯楽エンタメ小説。

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