2024年4月27日土曜日

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」(1984)

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」(1984)を1994年光文社文庫版で読む。島田荘司を読むのは久しぶり。
この本は文庫本でいくつか出てるけど、この版は「ウィリアム・モリスのラッピング・ブック」から採られた表紙装画が良い。

事件の舞台はプライオリィ・ロードのリンキィ家のお屋敷。資産家の老人と結婚したのだが子のないまま夫を亡くしたリンキィ未亡人。召使夫婦と三人暮らしであったが、若いころに行き別れ長年行方不明だった弟キングスレイと再会し一緒に住み始めた。
この弟が中国に滞在してたときに事件に巻き込まれ、中国人から呪いをかけられたという。数々の奇行と精神錯乱。そして屋敷の部屋で一晩のうちにミイラになって死んでいたという怪奇事件。

明治33年、夏目金之助は留学生として単身、遠い異国のロンドンに居る。気難しく憂鬱な気質の若者はホームシックだしノイローゼ気味。家賃の節約のためにアパートを転々としてるのだが、「出て行け」という幻聴を聴いている。
相談相手もいない夏目は大学の先生に相談。ロンドンで有名なシャーロック・ホームズに相談することを勧められる。

この夏目漱石目線のシャーロック・ホームズが、コカイン中毒のせいで精神に異常。ホームズが天然だし推理もてんで的外れ。落語好きで後の文豪にはホームズがこう見えていた?ひねくれて辛辣な漱石ならではの人間観察と描写。

漱石主観で綴られた場面が、次の章ではワトソン目線になる。ワトソン主観だとホームズは風変りであっても割とマトモな紳士。
漱石主観のホームズが捧腹絶倒。ホームズは頭の切れるワトソンによって創られたイメージ?!

てか、漱石がヴィクトリア女王が亡くなる前後にロンドンに滞在していたのは歴史上の事実だが、ホームズとワトソンは創作上の人物。漱石がホームズに会った事実はもちろんない。序文の段階でもっともらしくて笑う。フィクション世界に読者を引き込む。

二次創作ホームズパロディでありながら夏目漱石パロディ。感心しかない。
それに、いかにもホームズとワトソンのしそうな会話と文体。未発表のホームズ譚としてリアルにありそうな内容。
そしてしっかり夏目漱石の個性も掴んでる。楽しい読書の時間をくれた一冊だった。余韻を味わった。ラストで笑えた。

2024年4月26日金曜日

浜辺美波「アリバイ崩し承りますスペシャル」(2024)

2020年1月期に放送された浜辺美波主演のドラマ「アリバイ崩し承ります」がなぜか2024年4月6日になって突然新作が放送。なんと4年ものインターバルで一夜限りの復活。

このドラマ、本放送中にロケ地巡礼もしたのでよく覚えている。このドラマ放送中に世間はコロナパンデミックだった。もうすでに懐かしいドラマ。
なぜこれほど長い間お蔵入りしていたのか?テレ朝側から詳しい説明はないのだが、自分が今スペシャル版を見たところ、続編にあたる「シーズン2」をドラマ第2話まで制作した段階で力尽きたからではないか?
コロナで凍結されていた企画が続々と再開され、ドラマ制作スケジュールに人気俳優たちを押さえることが出来なくなったためではないか?
第3話以降、浜辺と安田の秘密をつかんだ何者かがシリーズを通して黒幕として暗躍していた…というストーリーになっていた気がする。
時計修理の傍ら、1回5000円で事件に関わるアリバイ崩しを引き受ける時計店の若き店主・美谷時乃(浜辺美波)という設定。コメディエンヌ浜辺が活きるヒロイン。

このヒロイン、今どき時計修理だけでやっていけるのか?田舎警察署に修理で出入りしてるけど、そんなにおよびがかかるか?警察幹部たちに高級時計とか売りつけないでいいのか?
せめてあのプライドだけ高い虚栄心の権化警察からは成功報酬を取れ。着手金が5000円で、世間の注目度に応じて50万は取れ!

今回の2時間SPは実質90分ぐらいだった。真ん中付近でもう犯人がわかってしまい、え、2本立て?って思った。
そしたらほどなく意外な急展開。そしてさらなる真犯人が!という展開。なので45分の2本立て。
矢本悠馬、雛形あきこ、山本涼介、高梨臨がSPのゲスト俳優。ヒロインと高校が同じだった葉山奨之はもしかするとシリーズを通して出演するはずだったキャラかもしれない。

まあ、2時間ミステリードラマらしいクオリティ。ときにふざける。そしてアリバイトリックが流して見るにしては複雑。
正直、なんでそんな回りくどい面倒なトリックをわざわざ?と思わないでもない。

ヒロイン大ピンチ?!90年代以降よく見るあの手法は視聴者を最低限驚かすやつ。でも、そこをがんばってどうする?
事件現場が90度回転してる設定も、こういったミステリーでよく見る手法ではある。とってつけたようなやつ。
結局、浜辺美波演じるヒロインを鑑賞して萌えるドラマ。ベレー帽とか、下手な歌を口ずさむとか、バスタブにつかりながら食事とか、そういうところが見どころ。
時計修理でこんなにもテイクバックとる?
浜辺美波はこのドラマ以降、女優として大きく成長。なにせ朝ドラヒロインも務めた。
浜辺はキメ顔が上手。これ以上ないハマった表情をビシッと繰り出す。
今回のドラマSPは何やら不穏なラストだったので、視聴者は次回作を期待した。
だが、おそらくもうこのシリーズはこれで打ち止めな気がする。

2024年4月25日木曜日

柳美里「JR品川駅高輪口」(2016)

柳美里「JR品川駅高輪口」(2016)という本がそこにあったので読む。柳美里を読むのは今作が初めて。
この作品は2012年に単行本「自殺の国」として刊行後、2016年に河出文庫「まちあわせ」として刊行。そして2016年新装版で現タイトルに改題。

16歳高1少女が主人公。偏差値50の公立校に入れず滑り止めの偏差値40私立校で無気力。クラスではヒソヒソ陰口。両親は不仲。
そんな少女の逃げ場は匿名ネット掲示板。自殺願望を書く仲間。

この山手線シリーズのテーマは「自殺」らしい。それは純文学としても相当に踏み込んだ内容。
ネットで一緒に死んでくれる仲間を募って合流し、車を持ってる人が死に場所を提供。隙間を目張りし練炭。ここ15年ほど日本で不気味に流行した異常な死に方。

このシリーズはどれもそうらしいのだが、ヒロイン周辺の会話とノイズがすべて録音から書き起こされたかのよう。女子高生たちの会話口語をそのまま書き起こしてる。電車の車内アナウンス、テレビのニュースまで執拗に書かれてる。
掲示板もそのまま見せられる。この時代を生きた人しかよくわからない文体ではないか?
中高生は理解しやすいのかもしれないが、大人、中高年男性は読みにくい。

純文学というより映像作品の台本ぽい。読んでいて脳内イメージ映像がカットバックの連続になる。なんか「ラブ&ポップ」という映画を想い出した。
死の淵に立った少女の話ではあるのだがPOPな雰囲気。ラストには生きる希望。

2024年4月24日水曜日

芦辺拓「少年少女のための ミステリー超入門」(2018)

芦辺拓「少年少女のための ミステリー超入門」(2018 岩崎書店)を読む。

ミステリー作家芦辺拓氏がやさしく語りかけるように、ミステリー小説をまだ読んだことのない少年少女世代をミステリー小説ファンに誘導するべく執筆したミステリー小説入門ガイド本。8冊の本を紹介してる。
  1. 緋色の研究
  2. マルタの鷹
  3. オリエント急行の殺人
  4. 獄門島
  5. 九尾の猫
  6. ドクター・ノオ
  7. 羊たちの沈黙
  8. ビブリア古書堂の事件手帖
自分、ダシール・ハメット「マルタの鷹」(1930)はまだ読んだことない。イアン・フレミングも読んだことないし、映画「007」シリーズもあんまり見たことない。トマス・ハリス「羊たちの沈黙」は映画しか見ていない。
この3作を十代向けファーストチョイスに選んだのは意外。

アガサ・クリスティー「オリエント急行の殺人」「アクロイド殺し」「そして誰もいなくなった」はネタバレ踏む前に「なるべく早く読め!」と急かしてくるw 
自分もオリエントとアクロイドは犯人を知った状態で読んだけど、それで酷い目に遭ったとは思わなかった。

2024年4月23日火曜日

遠藤さくら「引越し探偵サクラ」(2024)

遠藤さくら「引越し探偵サクラ」(2024)全10話を見る。4月改変期に日曜テレ東坂道3番組が15分ずつ後ろにズレる…という告知5分間オビドラマ。
遠藤さくらが今後さらにスターになってくれないと、こういった番組はほとんどが数年で忘れ去られる。
遠藤さくら以外のキャストが芸人のみという、たぶんコストを最小限に収めた番組。見ていてお金がかかってない感。
それに近年バラエティでよくみる芸能人謎解きクイズ番組のテイスト。
ヒロインが名探偵名刑事に憧れている。引越し先の集合住宅で起こる不審事件を考える。
こういった鋭い人がSNSニュースで活躍してるのも近年の特徴。もうマスメディアは世間をダマせない。
今回驚いたのが、遠藤さくらが自分がイメージしていたよりも演技が上手いということ。てっきり、おっとりぼんやりしてるだけの少女だと思ってた。
たぶん声量はないけど、台詞が聴き取りやすい。表情も適切だった。
遠藤さくらは美人というより素朴なごく普通の家庭のお嬢さんという感じ。これはこれで人気女優になれる可能性もある。誰か偉い人はもっと大きなドラマ映画仕事に押し込んでほしい。

最後に一同が集まった場所で推理を披露し犯人を指摘する。それがミステリーの王道。
このときの遠藤さくらが美しかった。髪の毛サラッサラだった。正義だった。
もうこういうドラマでいい。50分のドラマを全10話とか見る気力が続かない。
まだまだ映像化されていないミステリー小説をこの手法でどんどんドラマにしていってほしい。

2024年4月22日月曜日

松本清張「山中鹿之助」(1958)

松本清張「山中鹿之助」を読む。この作品は小学館発行の少年学習誌に1957年4月から1958年3月まで連載されたジュブナイル歴史小説。2015年5月に小学館P+D BOOKSとして刊行されるまで、一度も単行本化されていなかったという。(2016年8月に小学館文庫化)

戦国時代の山陰地方を治めた尼子氏には勇猛さと才知で優れた武将・山中鹿之助幸盛(1545?-1578?)がいた。(自分、この武将をこの本を見るまでまったく知らなかった。そもそも尼子氏すらもほとんど知らない。)

天文十四年に出雲富田に尼子の家臣の子に生れた鹿之助。父は若くして病死。
母と子で貧しい暮らし。そして16歳になると逞しい若武者に成長。晴久の子義久の月山城へ登城。

長子隆元を亡くした毛利元就は月山城の出城白鹿城を攻める。救援に駆け付けた鹿之助は初陣で敵将の首を挙げる殊勲。だが、白鹿城は毛利の手に落ちてやるせない。
元就の兵糧攻め持久戦にじっと我慢の尼子勢。だが唯一の補給路の弓ヶ浜も敵襲で死屍累々の大損害。元就は汚い手を使う。こうなれば元就討つべしの鹿之助の意見も通るはず!

鹿之助は善戦はするものの慎重に攻め寄せてくる毛利の大群になすすべがない。毛利は隆元の遺児が元服するのを見計らって月山城を攻めてくる。もう決戦しかない。
だが尼子勢の予想外の強さに元就はさらに慎重。小さな城は攻めるが天然の要害月山城は攻めない。
その間に鹿之助と小早川隆景の家臣の一騎打ちがあり鹿之助が勝つ。だが、6年の籠城の間に投降する兵も増え、食料も尽き、ついに開城。城主義久らは城を降りる。鹿之助らは義久に従う。
尼子の家臣は散り散り。鹿之介は他で仕官することもなく農民になるでもなく尼子の再興を誓いその時を待つ。

毛利元就の策略によって尼子晴久に討たれた新宮党の尼子国久の子は皆殺しに遭ったが、孫の1人は生き延びた。この子が後の尼子勝久。乳母によって脱出し東福寺で成長。
それを聞きつけた家臣たちは再び集結。
隠岐にはかつて尼子経久の助けで島を統一できた隠岐為清がいた。為清が尼子の再興のために力を貸してくれる。

尼子再興と出雲奪還のチャンスは毛利が大友を攻めるとき。忠山城を奇襲で奪還し勢いのままに秋山城も落とし、白鹿、末次、そして月山。
月山城を調略で落とそうとするのだが、秋宅庵之介の軍勢は老獪な城代・天野隆重の城を明け渡すと見せかけた罠にかかり全滅。
そして毛利輝元総大将と雪の布部合戦。

脚を負傷し生き残った鹿之助の望みは元就の死。果たして元就は老齢で死んだのだが、鹿之助は吉川元春に捕らえられる。勝久は隠岐へ脱出。

京都に逃げた鹿之助。あとは信長と秀吉の駒として使われ見捨てられる。戦国時代の倣いとは言え尼子は不運の連続。毛利の攻撃により上月城で尼子は滅ぶ。そして鹿之助の最期。哀れ。

この本はそんな戦国の山陰と中国地方で起こってたことを駆け足で教えてくれる。文庫198ページではあっという間に読み終わってしまう。
あと、尼子に使えていた亀井茲矩(これのり)という武将は豊臣に使えて生き残ったことを今日までまったく知らなかった。

2024年4月21日日曜日

染井為人「滅茶苦茶」(2023)

染井為人「滅茶苦茶」(2023 講談社)を読む。どんな話なのかまるでわからないタイトル。

コロナで人生狂わされた見ず知らずで世代も違う男女3人が、重大な選択の分岐点ですべて最悪な方へ間違って行ってしまう「滅茶苦茶」なドタバタ悲劇。

仕事もできるし毎日それなりに楽しく暮す37歳独身女性が、コロナの寂しさからついマッチングアプリに手を出して、中華系マレーシア人と親しくなり、暗号資産を薦められ、最初の内は儲けがでていたのだが、ここぞという勝負のために500万を注ぎ込んだら…という。

読んでいて、ことごとく「ああバカ!」って悪態が口をついて出てくるw これぞドツボ。国際ロマンス詐欺とチャイニーズマフィアの蟻地獄に落ちていく。
男の姉が見るからに不自然な整形顔とかリアルだなと感じた。人間に必要なのは断る勇気だな。

そして県下NO.1進学校に通うと落ちこぼれてしまった高校生が、電車で不良にからまれる嫌な話。
この不良が小学生時代の同級生。そのヤリ〇ン彼女といい感じになったり、チンピラ大学生に絡まれ、逆に不良たちでボコボコにして金を請求したらヤクザが出てきて…という、こちらもハードな転落人世。バカ不良仲間とつきあうとろくなことにならないという事例。

こいつもことごとく分岐点で間違えたほうを選んでる。しかし、不良と接することのない地域に生まれ育ってさえいればこんな目に遭っていない。
この高校生が上毛電鉄の下りに乗って、コロナでリモートになってしまった高校に久しぶりに行く。しかも男子校。この高校ってたぶんぜったいに群馬県の前○高校?!

そしてコロナによってニッチモサッチも行かなくなった、沼津のラブホテル経営者50代男性。
ラブホテルだからという理由だけで行政から助けてもらえず、コロナの持続化給付金の不正受給に手を染めていく。
そもそもコロナって本人に何の責任もないのに、給付金で差別され、給付金というエサを撒かれ、しょうがなく不正手段を採った人間が転落していく。これはもう完全に日本国が仕組んだ罠。

そして、3人の群像劇がついに同地点に収束していく。これがもう「滅茶苦茶」なド派手なカオス展開。
こういうの、映画やドラマでたまに見る。みんなコロナの犠牲者。憐れ。
だが、なんだかラストは希望。みんな死ぬなよ!っていうメッセージ。

2024年4月20日土曜日

ある閉ざされた雪の山荘で(2024)

映画「ある閉ざされた雪の山荘で」を見る。原作は東野圭吾。監督は飯塚健。脚本は加藤良太。音楽は海田庄吾。主演はたぶん重岡大毅。ファインエンターテイメントの制作で配給はハピネットファントム・スタジオ。

この映画、2024年1月12日に大々的に公開されて、まだ3か月も経たないうちにもうアマプラ配信。早すぎる。劇場公開時に見に行こうか迷ったのだが、そうこうしてるうちに家で見れるようになってた。友人と酒飲みながらつっこみながら見た。

自分は原作を2回読んだ状態での映画鑑賞。原作があまりパッとしない印象。それを実写ドラマにしてもたぶんそんなに面白くない。唯一感心したし語れるポイントはこのドラマの構造。ここは新しい。東野圭吾の発明。

普通の路線バスみたいなバスでオーディション参加者が運ばれてくるのだが、そんな簡単な目隠し?バスで全員降りてから「もう目隠しを外してもいいよね?」目隠しのまま手荷物持って降りたのか。
自分なら、あの雑な目隠しの隙間から周囲を観察するw 東京出発でずっと右側車窓が海だったら、まず南房総じゃないかと推測する。問題の合宿場所は庭に蘇鉄が植えられていた。

主人公重岡大毅の登場の仕方が怪しすぎる。普通の2時間サスペンスミステリーだとこいつが犯人だが、…。

こういうミステリー映画で、まず自己紹介が始まるのが興ざめ。なんだ劇団「水滸」って。劇団員たちを有無を言わせず従わせるとか、自分なら無理。倉本聰か?蜷川幸雄か?つかこうへいか?オーディションに受かるとよほどの旨味が俳優側になければこんなの無理。
宿泊する部屋が、若手劇団俳優たちに割り当てられたものにしては豪華すぎる。

主催者側からの指示ナレを聴いて「ゆるキャン」かよと思った。
オーディション参加者で若手俳優として注目舞台で主演を張れそうなのは間宮祥太朗だけだろ。
岡山天音は個性派俳優すぎ。いつもフランケンシュタインにしか見えない。こいつに好意を持たれる女子は恐怖を感じるに違いない。

中条あやみが天然。この女優、既婚でIT社長妻という雰囲気を消している。なのに若手アイドル女優みたいな雰囲気を出すな。

堀田真由、森川葵、間宮祥太朗の3人はとても演技が立派だ。
とくに堀田は、この物語の元凶となったあの場面での嫌がらせドッキリの声の演技が、原作小説を読んでイメージしていたよりも迫真すぎた。結果、すごく悪質に見えた。

この映画を見ようと思った最大の理由は元村由梨江役が西野七瀬という点だった。
実家がお金持ちで美人だけど演技の実力には疑問…という役どころ。なのであんまり目立ってない。
西野はこの春突然結婚を発表してしまった。もう可愛らしい若手女優としては見れない。この映画でもぜんぜん可愛く見えるシーンがなかった。

原作を読んだときも動機がバカに見えた。このストーリーに真実味を持たせるには役者たちの暑苦しい演技が必要。

しかし、自分が殺される場面を見て笑みを浮かべていたようなやつと、今後どうやってつきあっていけるというのか?あの場面は自決させるべきだった。

ミステリー小説を読む人なら誰でも見たことある邸内見取り図に役者たちをそのまま配置した映像にはちょっと驚いた。なんか舞台の芝居を見てる感じ。あまり映画らしくないし、それほど効果的だったとも思えない。

2024年4月19日金曜日

岡嶋二人「ダブルダウン」(1987)

岡嶋二人「ダブルダウン」(1987)を読む。これは週刊ポストに連載後、小学館から刊行。そして1991年に集英社文庫化され1999年に講談社文庫化。

ボクシングの試合中、ともに4回戦ボーイの若いボクサー二人が、青酸中毒で相次いで倒れ死亡した事件。
雑誌記者の中江と編集者麻沙美、そしてボクシング評論家の八田が事件と真相を調査開始。

ボクシングの試合中にそこにいた人物、毒物が体内に入っていく過程を追う本格推理か?と思いきや、人間関係の聴きこみの末に、女の姿と脅迫。事件は伊豆山中へという社会派ミステリー。

80年代末、推理小説といったらこういうスタイルが流行り。爛熟期を迎えていた。これはそれなりに力作。真犯人も意外にして、2時間ドラマに適切なミステリードラマ。
中江と麻沙美の男女コンビが発端をつかんで真相に迫っていく過程を楽しむ娯楽作。だが今作はそれほどユーモア会話は少ない。

まあ、真相はそんなことだろうという感じ。だが、こんなことで死んだ被害者は気の毒。

2024年4月18日木曜日

岡嶋二人「眠れぬ夜の報復」(1989)

岡嶋二人「眠れぬ夜の報復」(1989)を読む。これは双葉社より刊行後に1999年に講談社文庫化。

プロボウラー草柳は16年前に押し込み強盗に両親と妹を殺害され人生を狂わされていた。代打ちの仕事で訪れた大阪のレーンで、かつて盗まれたボールを発見したことで、公訴時効を過ぎていた事件が再び動き出す…。

聴きこみの末に、盗品ボールは輸入商社の倉庫の廃棄物置き場で拾われたものらしい。草柳はなぜかこの商社の商品であるオレンジに針を混入させる事件を起こして、世間の目を商社に向けさせることで事件が再び注目されることを狙っていた?!

途中から脅迫された商社の社長室秘書が主人公になる。過去の社員を調査してるうちに、とあるスポーツ用品店に行きつくのだが、おびき出されて拉致監禁。

これ、「眠れぬ夜の殺人」とタイトルが似てるなと感じつつ読んでたら、あの捜査0課が登場。頭脳派指揮官の菱刈、お色気潜入捜査アクションの聡美、後方支援の相馬の3人が登場するヤツじゃん!

盗聴したり尾行したり、敵を騙してハニートラップなどほぼスパイ大作戦な爽快な勧善懲悪ドラマ娯楽作。事件の発端からだんだん予測不能な全体像が見えてくるやつ。

このシリーズは岡嶋二人のコンビ解消により、たった2作で終了。こんなに面白いのに。
聡美は長○まさみでやってほしいけど、海街のころなら適任だった。てか、コンフィデンスマンJPみたいな雰囲気。
誰か、こんなふうに敵を罠にはめる形式で、自民党の裏金議員たち悪党をこてんぱんにやっつけてほしい。

2024年4月17日水曜日

新海誠「すずめの戸締まり」(2023)

新海誠監督の「すずめの戸締まり」をやっと見る。すでに金ローでも放送されている。音楽はRADWIMPS。配給は東宝で 2022年11月の公開。

日本各地に存在する「災いの出口」を閉じていく17歳の女子高校生・岩戸鈴芽の解放と成長を描くロードムービー…という内容らしい。だからタイトルはすずめの戸締り。

宮崎県で叔母と暮らす17歳の女子高校生・岩戸鈴芽(原菜乃華)は巨大災害で廃墟となった町で泣きながら母を探し歩く悪夢を見る。背後から女性が近づいてくる…というとき目を覚ます。

夏の田舎町が暑そう。坂道を自転車で下る。長髪の宗像草太(松村北斗)とすれ違うその時、「廃墟ない?」と尋ねられる。
やっぱり気になって引き返す。え、この田舎町には廃墟があるの?なんだか鬼怒川温泉みたい。
水たまりの中になぜかドア。開けるとそこは幻想世界。ヒロインはパニック。
土偶のようなものを拾う。そんなものを拾ってはいけない。何かの封印?

高校へ遅れて登校。窓から山の中腹から煙が出てる。見えてるのは自分だけ?
そして緊急地震警報アラーム。なんだかすごく怖いホラー展開。ヒロインはさらに焦燥パニック。
さっきのドアへ駆けていくと、そこにあのロン毛男。「これはマズイ」あきらかに邪悪な何かが放出されている。まるでシン・ゴジラのしっぽ。ここから離れろ!と言われても。
このアニメは悪霊ホラーSFなの?
要石で封印していたミミズ?香取神宮のナマズでなく?

怪我したロン毛男草太を自宅で手当してると不気味なネコがやってくる。ネコの呪いで草太は3本脚の椅子に姿を変えられる。
ネコと椅子、そしてヒロイン鈴芽のチェイスが始まる。なりゆきでフェリーに乗り込んでしまうけど、乗車券とかいらないの?

どうやらあのネコが封印だった。捕まえて元に戻さないと…というストーリーらしい。
ヒロインと椅子は宮崎から四国の愛媛へ。ツイッターにUPされるネコ情報を追いかけて廃墟をめぐるロードムービー?!

民宿で働く千果17歳と出会う。再び煙のようなミミズを目撃。また必死で追いかける。
イス草太があんまり有能でないし頼もしくない。なんだかよくわからないけどふたりで協力して対処したらしい。
千果の民宿に一泊。叔母(深津絵里)がヒステリックにスズメを追及。スマホで。

テレビの情報により神戸をめざす。ヒッチハイクしようにも上手くいかない。
どしゃ降りの雨。バス停にいると神戸へ向かうルミ(伊藤沙莉)と出会い本四連絡橋を渡る。ルミの子どもたちが騒々しい。
すずめは成り行きでルミの店(スナック?)を手伝っているとルミを目撃。そして今度は廃墟遊園地の観覧車にミミズ出現。
またしても追いかけっこアクション。廃墟遊園地なのに観覧車が動くとかある?すずめはなぜか母の幻影。

なんだかわからないけど草太が祝詞のようなものをつぶやくと戸締り完了?「また逃げられた」いや、本気で捕まえる気あるのか。
そして東京へ。田舎女子高生なのに新幹線に乗れるのか。スマホでお金払えるのか。

怪獣アニメ映画。なんかすごいことが次々起こってるのだが、展開に飽きてきた。AKIRAみたいになってた。
草太が見掛け倒しで無能でイライラした。と思ってたら、芹沢(神木隆之介)という草太の友人が補って余りある存在感。
早くその可愛くないネコを土中に埋めろ!

中高生はこういうのでいいのかもしれないが、自分はひたすら長く感じた。あまり感心することもなかった。暑苦しいわりに内容が薄い。

2024年4月16日火曜日

中公新書2442「海賊の世界史」(2017)

中公新書2442「海賊の世界史 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで」桃井治郎(2017)を読む。
ヘロドトスが英雄視し、キケロが「人類の敵」と呼んだ「海賊」に焦点を当てた世界史。

ガレー船団でエーゲ海イオニア沿岸を征服していたポリュクラテス、キリキア海賊と戦ったカエサルとポンペイウス、ヴァンダル族のガイセリック王、イスラム海賊、ヴァイキング、ノルマンディー公国、十字軍、オスマントルコ、ウルージとハイルッディン、カール5世のチュニス遠征、プレヴェザ海戦、レパント海戦とセルバンテス、新大陸発見とスペインの略奪、といった世界史のおさらい。

スペイン帝国とオスマントルコの北アフリカでの衝突に、レスボス島出身のウルージとハイルッディンという「バルバロッサ兄弟」という大海賊がいたことはこの本を読むまで知らなかった。

古代史、中世史って人間の欲望が酷いのだが、新大陸発見後の人類の歴史もさらに酷い。
イングランド人ジョン・ホーキンズ、フランシス・ドレーク、ヘンリー・モーガンといった人々は、スペインが新大陸から本国に運ぶ巨万の富は奪ってもかまわないという思想と国是によって、殺戮と強奪で名をあげて英雄。(西側諸国はロシアに向かう船は襲っていいと思う)

エスパニョーラ島にフランスが進出するようになると、野生の牛と豚を燻製にして船に売る輩が現れた。燻製用網ブーカンから、フランス語でブーカニエ、英語でバッカニアと呼ばれるようになる。やがてスペイン船を襲撃するカリブ海の海賊をバッカニアと呼ぶようになる。NFLのタンパベイ・バッカニアーズってそういう英雄たちをニックネームにしているって初めて知った。

しかし、キャプテン・キッド(ウィリアム・キッド)は時代をやや過ぎてしまったが故の哀しい末路。縛り首になるまでの経緯が、海上ゆえの本国の情勢がわからず、行き違いと誤解と運名の歯車が狂ってしまった感。

18世紀、スペイン継承戦争では再びイギリスはフランスに対する私掠を開始。ウッズ・ロジャーズ私掠船長が活躍し英雄に。

そしてジョージ1世の時代になると海賊討伐を開始。チャールストン沖の英国船を襲う黒髭エドワード・ティーチに対してヴァージニアのロバート・メイナード大尉艦隊が砲撃し最後は肉弾戦。結果、黒髭の首が舳先に掲げられ、海賊たちは縛り首。

例外的に表れた2人の女海賊がいる。アン・ボニーメアリ・リード。英国と米国の人には馴染みがある名前かもだが、日本人は世界史で習わないので知らない名前。
カリブ海族黄金期の最後の大物がバーソロミュー・ロバーツ。なりゆきで海賊船に乗せられ海賊になってしまった人物。400隻を捕獲。最期は壮絶戦死。船員54人に死刑。カリブ海族の終焉。
これらはすべてチャールズ・ジョンソン「イギリス海賊史」(1724)によって今に伝えられている。

カリブ海の海賊問題が解決に向かう一方で、地中海は北アフリカ諸領(アルジェ、チュニス、トリポリなど)のガレー船「バルバリア海賊」に悩まされ続けてた。
アメリカは以前は英国船だったけど、独立後はアメリカ独自に海賊対策が必要になる。この対策が、厳しい財政から「貢納」を払うか、戦争か。
どちらもお金がかかる。第2代大統領アダムスと副大統領ジェファーソンの間で弱気の相談。少しずつ海軍を増強していくしかない。

1803年5月、ジェファーソンは交渉が決裂したトリポリにフリゲート艦フィラデルフィア号を派遣するのだが、座礁させて兵員も捕らえられる。なにやってんだ。

だが、翌年にスティーブン・ディケーター率いる小型艇イントレピッド号が商船を装ってトリポリに接近しフィラデルフィア号を焼き払うことに成功。
トリポリのイーフス・ベイに対して交渉しながら武力もちらつかせる。だが、軍事攻撃はあまり効果をあげられない。するとイーフス・ベイを失脚させ親米政権を樹立するクーデターを画策。そして交渉。これがアメリカの今日までの伝統か。実際に反乱に加担させた町をアメリカはあっさり見捨ててる。酷い。
(トリポリ戦争がアメリカ最初のの対テロ戦争?!)

てか、北アフリカ諸国って海賊による拿捕と人質を取って貢納を求めることが基幹産業だったのかよ。このころからアメリカは砲艦外交。しかしまだ圧倒的軍事力は持っていない。
アメリカのやり方を学んだヨーロッパでは、英国の海軍中将シドニー・スミスが各国の王侯貴族に対し、人道に反し商業活動を妨げるバルバリア海賊の根絶のために結束して戦うことを提案。

1816年、イギリス海軍提督エクスマス卿は艦隊を率いてアルジェでオマール・デイと交渉。キリスト教徒を奴隷にするな!これからは戦争捕虜として扱え!という要求を飲ませる。
しかし国内では主戦派がエクスマスを批判。やがて大艦隊がアルジェを砲撃。

1818年のアーヘン会議で初めてバルバリア海賊問題が議題となる。英仏露墺普の5か国が議定書に署名。オスマントルコにバルバリア海賊問題をなんとしないと直接行動に出る!

1830年6月、デュペレ提督率いる3万7000フランス軍がアルジェ近郊のシディ・フルージュ湾に上陸しアルジェに進軍。アルジェはフランスに降伏。以後、アルジェリア植民地支配へ。
さらに、チュニス側が一方的に義務を負う不平等条約を課した。これが古代から続いて来た地中海海賊の終焉。

1856年のパリ宣言で私掠行為が禁止され、1907年ハーグ会議で民間船が戦争行為に加わることが禁止され、1958年に公海に関する条約で海賊の定義と対処が規定、1982年の国連海洋法条約へとつながっていく。国家による暴力の独占が海上においても進んだ。
アウトローとしての海賊の存在がヨーロッパ諸国に協調を促し、国際社会の形成に寄与した。

そして21世紀、失敗国家ソマリア沖での海賊問題。主権国家体制としてのウェストファリア体制のほころびによって海賊問題ふたたび。

いや、この本面白かった。高校世界史でまったく海賊史は習っていない。アメリカ建国初期にバルバリア海賊問題があったことをほとんど意識してなかった。