原尞「私が殺した少女」(1989)をハヤカワ文庫版で読む。第102回直木賞受賞作のハードボイルド探偵サスペンス小説。
原尞(1946-2023)は名前は知ってはいたけど一冊も読んだことがなかった。今年5月に訃報を聞いてこの本を思い出した。
渡辺探偵事務所の沢崎は、目白の高級住宅地の真壁邸を訪問するやいきなり刑事と警察官に誘拐事件の容疑者として逮捕され、取り調べを受けるはめになる。
真壁家の長女清香(ヴァイオリンの天才少女11歳)が身代金目的で誘拐され、犯人は身代金受け渡し実行を電話帳から渡辺探偵事務所に指名。
目白警察署の刑事たちがそれはもう酷い。読んでいて沢崎がとにかく気の毒になる。沢崎の探偵事務所所長は元刑事で囮捜査中にシャブと現金の両方を持ち逃げした過去。そんなやつのパートナー沢崎も警察から同類とみなされ蔑まされてる。
沢崎はもう警察に何も協力する義務はないのに真壁のために身代金受け渡し代理を積極的に引き受ける。
犯人の電話による指示で、沢崎は愛車ブルーバードに6000万円現金入りトランクを積んで飲食店を転々とたらい回し。そしてバイクに遮られ襲撃され頭を殴られ昏倒。(なぜに警察は犯人に気づかれないように尾行しない?)
ここまでがんばったのに、刑事たちから身代金をちゃんと犯人に渡せなかったと無能呼ばわりされ非難され、遺族からも非難。
後日、老人ホーム廃墟で清香の死後数日たった腐乱死体が発見…という最悪な事態。
ここから先は沢崎のハードボイルド探偵調査。この探偵がとてつもなく有能。
容疑者たちと接触するスキル、話を聴くスキル、探偵としてのカン、それにカッコ良い。
同業で頼りになる見方が一人もいない一匹狼にような探偵なのに、やさぐれてなくて真面目に仕事してるし金にがめつくないし女もいないようだし硬派。感心しかしない。
作者の原尞が九州大卒のインテリでジャズピアニストという上品かつ洗練された経歴だからこそ産まれたキャラだったのかもしれない。
その一方で目白警察署の面々がとにかく気位だけ高くメンツにこだわるのにまったくの無能で醜悪。なのに沢崎に対する態度が最後までずっと悪い。公務員として民間人に対する口の利き方がなっていないし、むしろ暴力団のように粗暴。
沢崎は超有能。事件の捜査が進展したのもほぼ沢崎の調査と思い付きのおかげ。警察は何もしてないしできてない。なのに感謝の言葉も態度もない。
警察は自分たちよりも有能なやつを憎む。自分たちの楽な仕事を脅かす存在を憎む。読んでいてひたすら気が滅入るし胸糞悪い。
この本、さすが名作だと感じた。予想外な展開でページをめくる推進力があった。面白かった。
だが、最後の最後に用意されていた真相はそれほど美しさを感じない。その点は予想を上回ってくれなかった。
内容と本のタイトルがあまり合ってないと感じた。これでは主人公がサイコパス殺人鬼みたいだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿