2023年3月31日金曜日

太宰治「お伽草紙」(昭和20年)

太宰治「お伽草紙」を新潮文庫で読む。太宰にとって中期にあたる戦争中に書かれた、中国や日本の伝承を太宰ならではの視点で太宰らしく新たに再構成し書き上げた作品を集めた一冊。
これはなかなか読もうという気が起きなかったのだが、そろそろ読まないとと思って読む。掲載順に読んでいく。

盲人独笑(昭和15年)
江戸時代の葛原勾当なる盲人で琴の名人という人物の日記を、太宰が抽出しアレンジしたというていの短編。

清貧譚(昭和16年)
聊斎志異からとられた一篇。菊を育てることだけが趣味の独身で貧乏な男が、菊の苗を手に入れるために沼津に行った帰りに、菊を育てる名人の若者とその姉を向島の自宅に住まわせる話。
こだわり強くて気位の高い貧乏人がめんどくさい。そしてファンタジー。

新釈諸国噺
昭和19年1月より諸雑誌で発表された5編、そして書き足された7編で昭和20年1月に刊行。太宰の井原西鶴リスペクト。日本各地の実録昔ばなし。
やたら気位の高い貧乏人、武士の一分へこだわりすぎる哀しみ、大岡裁き、浅ましい犯罪、実話系週刊誌ネタのような顛末、落語のような噺。
などなど時代小説っぽい短編。それも太宰らしい独特のテンポとリズムを持った文体。

竹青(昭和20年)
聊斎志異ふうな話。郷試に落ちる青年。努力が報われず不幸せ。死のうと思ったら烏になって…という人生の悲哀。太宰が憧れてた芥川の杜子春のような話が書きたかったのか?

お伽草紙
終戦直後の昭和20年10月に筑摩書房より書き下ろしで刊行。防空壕で子どもに読み聞かせしてた昔話を太宰が自由に妄想。
  • 「瘤取り」こぶとりじいさんってこんな話だったっけ?!という驚き。
  • 「浦島さん」竜宮城から戻った太郎がお土産を開けたら三百歳のおじいさんになっていたのを不幸と考えるのはおかしくない?という太宰の問題定義。
  • 「カチカチ山」子どもに読むにはあまりに陰惨な事件。そもそも狸って何も悪くなくない?って問題定義。処女の残忍性、中年男の悲哀。太宰の同情。
  • 「舌切雀」この昔話がどんな話だったかまるで思い出せない。きっとこんな話じゃない。
お伽草紙は太宰作品の中でも人気作かもしれないが、どれを読んでも悲しさでため息が出る。生きるって辛いし孤独。

2023年3月30日木曜日

広瀬すず、パリ10区を行く

広瀬すず(24)が3月8日放送の日テレの「笑ってコラえて 2時間SP」内の企画コーナー「半径300m内の旅」に登場。すずはドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」に出演中だし、日本アカデミー賞授賞式に出てたしで大忙し。

広瀬すずはなんとパリにも行っていた。ファッションショーを観るための滞在?滞在ついでに「半径300m内の旅」で日本のバラエティ番組を代表して突撃レポをさせられてたw 
この企画が所さんがダーツで当てた場所とその半径300mを歩いて何か面白いものを探して…という日本のバラエティ番組でよくある企画。タレントには食レポや対人コミュニケーションスキルを問われる企画。
「フランス語はできるんですか?」「…しゃべれると思いますか?」

ディレクター(普段着すぎる)とカメラマンと音声と通訳が同行してる。しかし、すずとパリ市民の会話はおおむね翻訳アプリ。そこが画的に面白い。
さっそく取材スタート。そこを通りかかったおじさんにオススメのお店がないかと質問。
この黒い平べったい石によって日本女子とフランス紳士がちゃんとコミュニケーションできてることがすごい。ドラえもんの「ほんやくコンニャク」が実現してて感慨深い。

行き当たりばったり取材なので、言われた通りの場所に行ってみても目当ての店がなかったりする。そこはフットワークが軽い取材班。すぐに諦めつぎのネタ探し。今度はそこにあったパン屋に突撃。
さすが多文化社会のフランス。国際都市パリ。瞬時に求められていることを理解し、日本人少女が差し出すスマホに耳を近づける。フランス人はそのパンが日本人からフランスパンと呼ばれていることを知っているだろうか。
そしてワインとチーズのお店を見つけて突入。日本のテレビが取材に来たというので店主が対応。チーズやワインの好みという繊細な会話もアプリで成立。
コンテ・チーズを試食。さらにクセの強いものも試したい。クセって何て言えば?臭いって言えばいいのか?
「胡散臭い」?w それでもだいたいは意味が通じる。

すずがカワイイからなんだろうけど、フランス人たちがみんな親切対応。さらにチーズを試食させてくれる。この店主が何万本もあるワインの中からピンポイントで1本を選んだのがすごい。
だが、「そのチーズに合うワインも試食させてくれませんか?♥」には緊張w。スタジオからも笑い。すずがバラエティを理解して率先して図々しいことまで。
すずに日本のセレブインフルエンサーを感じた店主。試飲OKと即答。いやあ、フランス人は余裕がある。
つい最近まで中学生のイメージだったすずが、パリでチーズやワインを食レポ。そのスキルに感心。
次に目に飛び込んできた店をのぞいていると店員と目が合ってしまった。気まずい…。そこは白シャツの専門店。中に入る。店員がすごくオシャレ。日本からテレビ局の取材が来たと知ってオーナーのマダムが登場。金髪で日焼けしてて明らかにフランス人の実業家マダムという風情。
このマダムが店の裏手にあり商品のインスピレーションを与えてくれているという大邸宅オテル・ド・ブリエンヌを案内。19世紀にアムラン夫人が住んでいたという国の文化財。たぶんこのエリアではそれなりに名前の知られた観光地なのかもしれない。
お店の白シャツから1着選ぶ。試着してみるすず。
いやもう何着ても似合ってしまう。刺繍も凝っていて、襟の形デザインも凝っている。おそらく、お高そう…。
だが、このオーナーマダムが訪問してくれたお礼にと1着をすずにプレゼント。すずの愛嬌と魅力のせいだな。オーナーはすずが日本のセレブでインフルエンサーであることを見抜いての振舞だったかもだが。このシーンを見て自分は思わず「Vive la France!」と叫んでしまったわ。
その後、お腹空いたから何でも食べたいというすず。ウィンドーに市川崑監督の「獄門島」ポスターが貼られたラーメン店を発見するも閉まってる。次に、そこにあったガレットのファストフードらしき店に突入。
この店の若い店員がクールでかわいらしい風貌。返しが面白いかもしれないが、これは翻訳アプリを介した間合いのせいもあるかもしれない。
フランス女性はみんなフランス映画女優に見えてしまう。スタイルが良いのだから仕方ない。
表情としぐさで「おいしい!」と伝えるすず。まるでアニメキャラのようにかわいい。
パリ女「学生さん?」すず「こう見えて24歳なんです」パリ女「おぉ~」
この可愛らしい日本娘はカンヌにも招待されたことがある女優なんです!と教えたい。
最後に雑貨屋さんでネメシス共演者や所さんへのお土産選び。調子に乗ったすずはここでも店員さんに「私のお土産のセレクトどう思う?」とアプリで聴いてみるw

スタジオで観覧していたゲストたちも、すずの旅レポと人々との出会い力を絶賛。どれも日本人になじみのない現地人のみが知るパリ。すずもご満悦。すずを選んだ番組も、視聴者もみんなハッピー。

2023年3月29日水曜日

ジェヴォーダンの獣 Le pacte des loups(2001)

ジェヴォーダンの獣 Le pacte des loups(2001)をついに見る。18世紀のフランスで実際にあった魔獣事件「ジェヴォーダンの獣」事件を描いたフランス映画。全編フランス語。
監督脚本はクリストフ・ガンズ。2002年に日本でも公開(GAGA)されている。

これ、ずっと見ようと思ってた。日本では最悪な獣害事件といったら三毛別羆事件。フランスではジェヴォーダンの獣事件。
歴史のお勉強のために見ようと選んだのだが、史実とフィクションを交えた娯楽アクション作らしい。

1764年のフランス。ジェヴォーダン地方に出没し、女・子どもばかり100人以上の犠牲者をだしている謎の獣の正体を突き止めるべく、フランス国王ルイ15世は、王室博物学者のグレゴワール・ド・フロンサック(サミュエル・ル・ビアン)を派遣する。
最初の犠牲者シーンから怖くて見てらんない。ほぼホラー映画。

フロンサックは新大陸で出会い義兄弟の契りを交わしたネイティヴアメリカン(モホーク族)のマニ(マーク・ダカスコス)を連れ、ジェヴォーダン地方に赴く。いきなり悪人退治シーンなのだが、襲われてる老人と娘、村人たち。どちらが真実を語ってるのかよくわからない。

住人たちは獣に恐怖。女ははらわたを食いちぎられる。フランス貴族(ファンサン・カッセル)たちは顔に頽廃の色が出てる。
フロンサックは会食でカナダから運んだ毛の生えた鱒の標本など見せて関心を得た後にそれが作りものだという話をする。

そして数千人の大規模な獣討伐隊。マニとごろつき悪党とのカンフー対決シーン。こいつは無敵な強さ。
なんだかぜんぜん魔獣退治の話にならない。どこか焦点の合ってない娯楽映画の雰囲気。フランスのスター俳優鑑賞のための映画?

事態が好転しないので国王は新たにアントワーヌを指揮官とする討伐隊が派遣される。
フロンサックは獣は狼ではないと断言するのだが、アントワーヌは獣を狼と決めつけ。殺した狼を「ジェヴォーダンの獣」に加工して国王に献上するよう命じる。アントワーヌは英雄として迎えられる。これで魔獣事件は解決したことにされたのだが…。

ジェヴォーダンのことを忘れアフリカに旅立とうとするが、ジェヴォーダンの侯爵家のトマがやってくる。獣が今も村人たちを襲っている!内密に戻ってきて!でも、それは無理な相談。
しかし、愛する伯爵令嬢マリアンヌ(エミリー・ドゥケンヌ)からの手紙に予定変更。マニを連れて再びジェヴォーダンへ。
もう怪物は村の家の中にまで襲撃してくる。獣を操る男が存在?なにこの怪獣映画。

あんなに周到な計画と罠をも突破されるとか絶望。
なんか、史実とまったく違う悪の組織の陰謀。マニがやられてしまうとか、もう勝ち目ない。
と思ってたらフロンサックが無敵に強いw まるでショッカーと戦う仮面ライダーみたいだった。

なんだか思ってたのと全然違う内容の映画だった。映像、演出、脚本、音楽、すべて自分と合ってなかった。やはり「何がやりたいんだ?」というフランス映画だった。面白ければ整合性とかどうでもいいという中国韓国映画みたいだなと思った。たぶん若者向けな感じ。
モニカ・ベルッチ、胸でかすぎ。

2023年3月28日火曜日

三角寛「山窩奇談」(1966)

三角寛「山窩奇談」という文庫本がそこにあったので読み始めた。1966年東都書房から刊行されたもの。2014年に初めて河出文庫化されたもの。
オビに「サンカは生きていた!三角寛の古典的作品、初めての文庫化。サンカの実態に最も精通した三角寛の取材記録。」と書いてある。

三角寛(1903-1971)はなんとなく名前は知っていた。著作を読むのは初めて。三角寛といえば山窩、山窩といえば三角寛。
本名は三浦守。大分県出身。1926年に朝日新聞社に入社。(板橋区役所の裏に住んでたらしい)

自分はてっきり学者なんだろうと思ってたのだが、昭和初期に「説教強盗」記事で名をはせた朝日新聞記者だった。え、そうなの?
正直、今になって三角寛を読むことにそれほど価値を見出せないかもしれないが、学術的価値は置いておいて、それでも面白いという人がいるので一度読んでおこうかと。

山窩について詳しい人は刑事だった。三角寛は取材してるうちに親しくなった刑事たちから山窩について知り興味を持ち、警視庁の大塚大索刑事から紹介され、昭和7年11月13日に東京麻布狸穴(ソ連大使館の裏側)に隠遁していた元諜者の国八老人(当時76歳)を探し当て訪ね話を聴いた。
大正時代には既に姿を消していたが、明治の終りごろまでは、警視庁の刑事のもとに諜者というものがあった。つまり、刑事の補助になって犯罪捜査をして役職である。いわば江戸時代に十手をあずかった町同心の手先きであった岡っ引きにあたる者たちである。
国八老人は、その諜者をながくつとめて、主として山窩関係の事件を扱った、というより山窩専門の諜者となり、山窩の仲間に入り込んで、彼らと親戚づきあいをして来た老人で、本名を小束国八というところから、「オツカん旦那」といえば、山窩仲間では誰一人知らぬものはない存在であった。私が会った時は、既に引退されていた。
とある。この国八老人の元へ通って聞いたノートをまとめたものがこの本。「蛇崩川の殺人事件」から話始める。老人によれば山窩は間者の子孫だという。

驚いた。まるで実話系三面記事読物。明治東京警視庁捕物帳。思ってたのと違った。
そもそも明治日本の犯罪新聞記事ってこんな感じ。娯楽よみもの色が強い。どこが「奇談」だ。
刑事とその部下、容疑者のやりとりが落語講談。ほぼ浪曲とか歌舞伎のような会話。

鋭利な刃物を使った凶悪殺人事件(山梨、信州を含む)では、東京警視庁はとりあえずサンカを捜査の対象にしてた?!
自分、サンカってなんとなく山の中に住んでる人だと思ってた。この本を読むと、瀬振とかいう天幕小屋を作って住む定住所を持たない人々のこと?(数世代前まで籍がなかった人々のこと?)

池上本門寺の墓地とか、川原に「瀬振ってた」らしい。「瀬振」が何なのかまったくイメージできないのでググったのだが、出てくる情報が三角寛と映画と横浜のリストランテだった。
あと、山刃(うめがい)もなんだかわからずググった。サンカの使う両刃のナイフらしい。

明治の警察の捜査が酷いw 裏付けをとらずにしょっ引いてきて怒鳴りつけて自白させ、あとは供述調書をつじつまが合うように作成する簡単なお仕事。
日本の各県警は平成に至るまで(現在もだが)、刑事はお上(将軍、公儀、天皇陛下)から十手を預かった偉い存在だと自身を誇らしく思っていたらしい。卑しい身分のやつらに対する態度が横柄で酷い。何を勘違いしてるのか身の毛がよだつ。

第18代反正天皇(タジヒノミツハワケ)の「タジヒ」とは「蝮」?反正天皇を蝮天皇と呼んでいた?サンカは蝮を捕獲し飼って漢方薬や強壮剤を作ってた?

この本を読んでも結局サンカが何なのかよくわからなかった。東京西部、多摩川、鎌倉街道に昭和初期までそんな人々がいたのか?
文庫あとがき解説を読んでも、「三角の『サンカ研究』は研究として鵜呑みにできない」と書かれてる。

2023年3月27日月曜日

山下美月「スタンドUPスタート」(2023)

乃木坂46の山下美月がフジ1月期水曜10時枠連続ドラマ「スタンドUPスタート」第3話(2月1日放送回)に登場。チェックした。
主演は連続ドラマ初主演となる竜星涼。投資会社の社長という主人公のドラマ。

スーツ姿で出勤中のメガネ美月。いかにも性格キツそう。
朝からパチンコ屋に並んでるチンピラ風の男たちを見て嫌悪感で身の毛がよだつ。
美月がなんと銀行の融資担当者。パチンコ業界を嫌悪する美月。冷たい笑みを浮かべて融資を断る。このシーンの美月がすごく良い。
20代で銀行の融資担当者ってそうとうに出来るエリート社員では?

母一人娘一人の美月の家庭にはパチンコ依存症の毒親国生さゆりがいた。
坂道のエース美月と、おニャン子クラブのエース国生が共演。
この母親が娘の稼いだ金でパチンコ?パチンコは日本を不幸にしている。
仕事中に母親がパチンコ店で玉を拾ってたというだけで呼び出される。え、それってまるで万引きしたかのように扱われるような案件なの?
だとしたらパチンコ屋に立ち入ろうなんて自分は思わない。自分が落とした玉を拾っただけでも犯罪者のごとく怒られそう。
山下美月の演技力には感心しかしない。「舞いあがれ!」でも重要な役でレギュラー出演中。もうどこに出しても恥ずかしくない立派な若手女優。

2023年3月26日日曜日

小栗虫太郎「人外魔境」(昭和14年-16年)

小栗虫太郎「人外魔境」を読む。昭和14年から16年まで「新青年」に連載された全13話を収録した角川ホラー文庫(1995)で読む。
小栗虫太郎(1901-1946)を読むのは初めて。「黒死館殺人事件」(昭和9年)はいずれ読もうと思ってるのだがまだ手を出していない。

では順に読んでいく。小栗は同時代の乱歩、横溝に比べて格段にオカルトでペダントリー。読んでいてぜんぜん頭に入ってこない文体で読みにくく難渋の558ページ。秘境中の秘境を行く怪奇冒険小説。

第1話「有尾人 ホモ・コウダツス」英領スーダンと白(ベルギー)領コンゴの境にあるという秘境「悪魔の尿溜 ムラムブウエジ」で捕獲された有尾人ドドと人間たちの欲望渦巻く探検。

第2話「大暗黒 ラ・オスクリダツト・グランデ」チュニスから仏領象牙海岸の監獄、罪なき捕らわれ人、首に赤い痣と大きな肩甲骨を持つアトランチス人、地底の海にあるアトランチスの黄金。ボアルネーと山座の先陣争い。

第3話「天母峰 ハーモ・サムバ・チョウ」西域とチベットの未踏地帯は越えられない大氷河と70mの暴風。雲湖で墓海。モンゴロイドの顔を持つ欧州人白痴女を連れた探検隊。クレバスの中、そして雪崩。

第4話「太平洋漏水孔 ダブツクウ 漂流記」第3話と同じく日本人探検家折竹孫七の語る話というてい。ドイツ兵キューネ、日本人5歳児ハチロウ、サモア人娘の3人が漂流し太平洋の不侵海にある大渦潮に飲み込まれて…という奇譚。

第5話「水棲人 インコラ・パルストリス」アルゼンチン・パラグアイ国境の沼地での人探し。
第6話「畸獣楽園 デーザ・バリモー」再びアフリカ。野武士シフタスと仏領ジブチから来たダイヤン夫人の喋り言葉がいかにも昭和初期の日本。味わいがあるけど珍妙。
第7話「火礁海 アーラン・アーラン」スマトラ西海岸と「離魂の森ウータン・サキジ」での「人類ならぬ人間 コチョ・ボチョ」探し。

第8話「遊魂境 セル・ミク・シユア」グリーンランド中央高原にある「冥路の国」は無主地なので先占すれば日本領?!イタリアマフィアの喋り言葉が博徒みたいで調子狂う。
第9話「第五類人類 アンソロポイド」アマゾン奥地の大魔境「神にして狂う」河リオ・フォルス・デ・ディオス。インカの黄金、殺人疑惑のある女。
第10話「地軸二万哩 カラ・ジルナガン」英ソ緩衝地帯。地下の晦冥国。女王ザチ。大油田。「大地軸孔」の怪焔って、トルクメンの「地獄の門」のこと?

第11話「死の番卒 セレーノ・デ・モルト」パナマ地峡の運河と白金鉱はアメリカの国家機密?急にスパイ小説展開。これが一番好きだった。
第12話「伽羅絶境 ヤト・ジヤン」仏印ラオス・タイ国境。香木の伽羅を採集するモイ族、タイ警察、そして折竹。これも好き。
第13話「アメリカ鉄仮面 クク・エー・キングワ」ニューヨークの地下隧道掘削現場からアラスカの秘境「霧神の大口」。天才黒人青年技師、アメリカ石油資本、成層圏機、メリケンから禄を食む事をやめた折竹。非情なスパイ小説。

驚いた。読む前はなんとなく「川口浩探検隊」みたいなものを想像していた。子どもっぽい素朴なものを想像していた。だが、文体も内容も大人向け怪奇冒険譚。

第4話以降はすべて日本人冒険家の折竹孫七が主人公。
SFぽくもある。かと思っていたらスパイ小説。インディ・ジョーンズぽくもある。

小栗虫太郎が、戦前の日本人が、これほど世界情勢と地理を理解していたことが驚き。戦前って自分が思っていたのとだいぶ違うことが大人になるにつれだんだんわかってきた。

文体とカタカナふりがながついた造語の多さが読みにくくしてる。だがこれは溢れる知性。
1行先にはもうまったくの別場面になっていたりして戸惑った。アート系短編映画を見るよう。
正直、自分の想像を超えてしまい、イメージしがたい。まさに「昭和の奇書」としかいいようがない。

2023年3月25日土曜日

芦田愛菜「メタモルフォーゼの縁側」(2022)

2022年6月公開の映画「メタモルフォーゼの縁側」を見る。原作は鶴谷香央理によるウェブ配信コミック。監督は狩山俊輔。脚本は岡田惠和。制作は日テレアックスオン。配給は日活。
主演は芦田愛菜宮本信子。孫と祖母ほどに年の違うふたりを結び付けたものはBLマンガというヒューマンドラマ。時代ならではの攻めた企画。

亡き夫の三回忌から戻り、暑い暑いと書店に涼みに入った老婆宮本信子はいつも料理本コーナーに行くと、そこはマンガコーナーに変わっていた。
「あら、きれいな絵」ということで手に取ったマンガ。それはBLだった。レジ店員芦田愛菜は思わず「あっ」と声を上げてしまうw

さてと、寝る前に買ってきた漫画でも読もうか。だが、男子高校生同士でキスシーンが始まる。「あらららら…」
一方そのころ佐山うらら(芦田愛菜)は風呂上りに同じマンガを読んでいる。薄ら笑いを浮かべながらw

習字教室をしてる市野井雪(宮本信子)はマンガにドハマリして「待ちきれない!」というように2巻、3巻と買い求めていく。
うららはそこで初めて同じジャンルのマンガを愛読する趣味の合う友を見つける。
同じく、夫を亡くしてしょんぼりしてた老婦人も、この漫画を読む楽しみを見つけた。
だがこの老婆はまだ知らない。世間がBLをどう見てるのかを。

1年半に単行本が1冊というペースでは退屈な毎日を紛らわせることができない。ならば、同じ作家の違う作品を読みたい。うららにオススメを訊ねてくる。だが、他の作品は引くほどハード。進路を決めないといけない時期にいらんことで悩む。

うららにはいちおう幼なじみクラスメート高橋恭平(なにわ男子)がいる。(この男でBL妄想はしないのか?)
だがその横にはヒエラルキー上位の長身美女(汐谷友希)。

うららは老婆の家を訪問し思う存分好きなマンガについて語り合う。ユキさん(宮本信子)はBLには過激なものもあることに理解が早かった。
同じ趣味で語り合える相手をみつけたうららは日々が充実w
うららが普段読んでるBLマンガを、久し振りにうららの家(カギっ子母子家庭)に遊びにやってきた高橋恭平に発見されて読まれてるのを見て冷や汗。
この男経由でクラスの美人JKにもBLマンガが広まってることを知って、うらら不機嫌。レジで美人同級生がBL買いに来てもBLにまったく関心がないフリ。
さらに、ユキさんの娘生田智子も母がBLを読んでることを知ってしまう。

このふたりが愛読するBL漫画家コメダ優は古川琴音。この人は昨年末の「岸辺露伴」でストーカー押しかけファンだった人だ。

そのころうららはユキさんから「自分で描いてみようとは思わないの?」かと。
いやいやいや、読む専門だし、そんな才能ないし、マンガの書き方もわからない。でも、なんとなく書き始めてみる。

ふたりは同人誌販売会に一緒に行く約束。しかしユキさんは腰が痛い。コミケ会場は若者でもキツイという混雑と長蛇の列。うららは受験勉強を口実に約束を断る。しかし勉強に身は入らない。進路、どうしよう…。

ふたりで茶飲み話しるうちにうららはマンガを描いて販売会に参加する決意。
しかし、これを本にして人に売る?正気か?さらに悩む。

オフセット印刷所(光石研)も紹介される。ユキさんは自分で揚げたてんぷらをもっていく。贈り物にはお返しが必要になるという重みにうららはたじろぐ。この1分ほどのやりとりは深い重要なシーンだと感じた。
残された日はあとわずか。あまりに素人作風。見てる視聴者が不安になる。

うららは会場で自分の本を売ることにビビる。(このヒロインはずっと呆然とした顔をしてる)
ユキさんは腰をやってしまったのに光石の車で駆けつけるのだが途中で故障。
結局売れたのは2冊だけだったのだが、ちょっとした奇蹟が起こってることを視聴者は知る。(ここ、もっと劇的感動的な何かを予想してたのだがそうならなかった。そこもリアル。)

何かをやり遂げた若者は輝いてる。爽やかな余韻を残した。
これほど作品を愛してくれた読者ファンがいるって作者は幸せだ。ちょっと泣いた。
主題歌はうららと雪「これさえあれば」。芦田愛菜の歌声を聴いたの初めて。
この映画に第14回TAMA映画賞特別賞を与えたのは正しい。青春映画として、日本映画の良作。情熱を傾けられる趣味を見つける素晴らしさは年齢と無関係だという励ましとメッセージ。

あと、この映画は自分の知ってる北区の風景だらけ。ファーストカットの宮本信子が立っている駅の風景がJR王子駅だとすぐわかった。かつて自分は毎日のように見た同じ風景。芦田愛菜が立ってた歩道橋も王子駅。

やっと描き上げたマンガ原稿を入稿した後、歩きながら「楽しかった」とつぶやいた場所は、王子警察署から十条駐屯地へ登っていく455号と旧岩槻街道の交差点、北区立パノラマプール十条台のところだ!
あと、昔は池袋ジュンク堂に毎日行ってた時期があった。

2023年3月24日金曜日

佐藤賢一「黒王妃」(2012)

佐藤賢一「黒王妃」(2012 講談社)を読む。小説現代2011年9月号から2012年8月号まで1年連載されたものの単行本。

ヴァロワ朝フランス王アンリ2世にフィレンツェ・メディチ家から嫁いだ黒衣の王妃カトリーヌ・ド・メディシス(1519-1589)を描いた歴史小説。この人物については高校世界史でも重要人物なので名前は知っていた。
息子フランソワ2世が夭逝すると、シャルル9世、アンリ3世と2代のフランス国王の摂政として政治を担う。
この人の時代はフランスも宗教戦争。カトリックとユグノーによる流血の争い。

アンボワーズ事件の主犯ラ・ルノーディを処刑し城壁に吊るし、叛徒たち52名斬首処刑の現場に幼い国王夫妻。
カトリーヌはすでに夫を亡くした黒衣の未亡人。息子フランソワ2世の嫁マリー・ステュアール(スコットランド王女メアリー・スチュアート)には「平民の娘なんでしょ?(笑)」みたいに陰口。
プロテスタント勢力はすでに欧州全土へ。マリーの叔父ギーズ公が宮廷を仕切る。
そして蓄膿症少年王フランソワの急死。この時代、膿を耳から切って出すことすらない医療レベル。

さらに幼い弟シャルルが即位しシャルル9世に。カトリーヌは自ら摂政へ。フランス人に嫌われたイタリア女がフランスの政治の実権を握る。(カトリーヌは健啖家で肥満ぎみだったのか)

カトリーヌが意外に無口。メディチ家出身なのでてっきり気の強い腹黒キャラなのかと思ってたら意外にそうでもない。心の声独白パートは黒太字。過去と現在を解説。
ずっと夫アンリ2世の愛人ディアーナ・ド・ポワチエのことばかり愚痴ってる。

この本、別名「小説ユグノー戦争」と言っていい。ユグノーを徹底弾圧するべきか?それとも宥和か?
ギーズ公、モンモランシー大元帥、ナヴァール王アントワーヌ、コリニィ提督、そしてコンデ公。スペインとフランドル。宗教対立から起こる内戦。日本には宗教戦争がなくてよかった。

王女マルゴにギーズ公アンリが夜這い。そこにカトリーヌ、シャルル9世、弟アンジュー公アンリがやってきて現行犯で押さえるのだが、ギーズ公逃亡。シャルルはマルゴを平手打ち。その後の家族のやり取りが面白かった。ほんとにそんな会話があったのかよ。

マルゴはその後ナヴァール王アンリ・ド・ブルボンと結婚。
このアンリはひどかった。なにがひどいって、新教派の次代を担う指導者というのは、垢抜けない田舎者を絵に描いたような男だったのだ。
と書かれてる。
まじか。後のブルボン朝フランス国王アンリ4世はフランス人にとって歴代フランス国王でいちばん人気があると聞いている。

この時代はアンジュー公もコンデ公もみんなアンリ。どうやって覚えればええのん?
その点でこういった小説は理解する上で助かる。それぞれのキャラをつかみやすい。

婚礼のためにパリに集まったコリニィ提督とプロテスタント貴族たち。コリニィ暗殺未遂事件を発端に三日三晩続いた聖バルテルミーの大虐殺。宗教対立の恐ろしさに震える。
黒衣のカトリーヌは夫を失ったあの恐ろしい騎馬槍試合惨事を回想。

中世末フランス史とイタリア史に多少は慣れ親しんだ人でないと現在地を失うと思う。事前に佐藤賢一「ヴァロワ朝」を読んでいてよかった。

2023年3月23日木曜日

薔薇の名前(1986)

ジャン=ジャック・アノー監督の映画「薔薇の名前」(1986)を見る。すごく久しぶりに見た。
ウンベルト・エーコ「薔薇の名前」を原作とする、フランスFR3フィルム、ドイツ(西ドイツ)ZDF、イタリアRAIが制作した中世サスペンススリラーミステリー。
アメリカでは20世紀フォックスが、日本ではヘラルドエースが配給。映倫R15+

原作上下巻は未だに未読。これ、いまだに文庫化もされていない。1980年に発表されるや世界的ベストセラー。1990年に東京創元社より邦訳が発売されたとき、日本でもかなり売れた。だが、日本人にはまだ馴染みがない内容で、上巻と下巻で販売冊数に差があったらしい。

ショーン・コネリーやクリスチャン・スレーターといったスターを起用したために映画は英語で演じられている。
1327年、北イタリアの修道院で発生した連続不審死事件を修道士ウィリアム・ヴァスカヴィルと弟子アドソ(ホームズとワトソンか)が追うという雰囲気ばつぐんミステリー。

これ、子どものころから数回見てる。キリスト教がすべてという中世ヨーロッパというものを映像でリアルにイメージした最初がこれ。中世キリスト教世界というものをネガティブにとらえる最初。とにかく暗くて怖くて不気味だった。ショックだった。

大人になって人生で初めて海外ひとり旅というやつをやったとき、フランスの田舎町のホテルのテレビで、この映画を放送(仏語字幕だったのでまるでわからず)してたのを見て以来で見る。
冬の寂しい山道を旅してきたフランチェスコ会修道僧ふたり。ウィリアムショーン・コネリー)アドソクリスチャン・スレーター)。小高い場所にあるベネディクト会修道院の門が開かれ二人を出迎える僧侶たちの顔つきと目つきからして異様。この時点で怖い。
まるで「シャッター・アイランド」。この修道院には何か恐ろしい秘密があるらしい。そんなひそひそ話。

来客のウィリアムがめちゃくちゃ鋭い。経験と知識からいろんなことを見抜く。若いアドソがトイレに行きたくてもじもじしてる様子からトイレの場所を教える。え、ここ初めてでは?部屋に案内されるまでにいろいろ見た情報からその場所も知ってる。

墓地には新しく土をかぶせた十字架。修道院長に質問すると、まだ若いアデルモ写字生が亡くなったらしい。
修道院長はウィリアム修道士が来たことを歓迎。聡明なウィリアム修道士は「人の心にも悪魔の策略にも通じておられる慧眼」だから。
写字生が塔から突き落とされ殺された事件を、教皇使節が到着する前に解決し闇に葬りたい。でないと異端審問官に捜査を依頼しないといけない。

ウィリアムは修練士アドソを助手に、まずウベルティーノ司教に話を聴いてみる。「ウィリアムよ、直ちにここから立ち去られよ!」えぇぇ…。まるで「八つ墓村」。若いアドソはびびりまくり。

現場検証すると「あちらの塔から落ちたのでは?」その方がつじつまが合う。修道院から棄てられたものを村の貧しい人々が我先にと争い拾い漁る。貴族の子弟で育ちのいいアドソはどん引き。野性的な娘を見て衝撃。
「写字生の死は自殺だろう」「神の安息の場所で?」「そんな所があると思うか?」ウィリアム修道士が中世人らしくない合理的論理的思考力。

夜の修道院では修道士のそれぞれがいろんなことをしてる。そのへんの描写がもう子どものころそれは不気味だった。
たぶん、金田一耕助シリーズと同じような文脈で見てた。豚小屋でまたしても死体発見。甕から脚を突き出した逆さ死体。猟奇殺人。検死解剖みたいなシーンがあってさらに怖い。

アドソが寺院の不気味な彫刻などをビビリながら鑑賞してると、「ペニテンツィアジテ!」と語りかけてくる異形の男(猿ヴァトーレ)がまた不気味。こんな形態をした人間がいていいのか?って初めて見た当時は思った。端正なアドソくんが「えぇぇ…」とビビリまくり。
中世は高貴な人と下賤な者の見た目の差が激しかった(今もそうかもだが)のかもしれない。

極度に笑いを慎む教義を持つベネディクト派のホルヘ師が煮魚の目玉みたいで怖い。図書館写字生たちがみんな異常な顔つきをしてるのも怖い。
捜査中に証拠を持ち逃げされ不審者を追いかけてると、アドソ少年は物陰に潜む野性的な村娘(たぶん僧侶と関係を持って食べ物を得ていた?)と出会う。
娘の獣のような情欲が、高貴で美しい少年の童貞を貪るように奪い媾う。たぶんこのシーンがあるので「R15+」。お茶の間で見るには適さない。

司書助手ベレンガーリオ(でぶ)の死体発見の場面も金田一のように恐ろしい。
ここですでにウィリアム修道士は事件のだいたいのあらましを理解したようなのだが、院長から事件の捜査から手を引くようにいわれる。
ここからは異端審問官ベルナール・ギー(F・マーリー・エイブラハム)の登場。この人は「アマデウス」でサリエリ役だった俳優だ!
石棺の下に図書室への通路を見つけるところとか、インディ・ジョーンズみたいでわくわく。古書の宝の山を見つけたウィリアムははしゃぐ。人間は東西問わずどの時代も同じ。
図書館迷路で迷うシーンは横溝や乱歩での洞窟シーンと同じ。

異端審問官が到着したタイミングでサルヴァトーレの悪魔崇拝儀式の現場が押さえられる。その場にいた村娘(食べ物が欲しかっただけ)も取り押さえられる。これが修道院で起こる忌まわしい事件を起こした悪魔の正体だ!
これでサルヴァトーレと村娘、そして隠れ異端の破戒坊主3人は火あぶりの刑。異端審問官に異を唱えたものは異端となる。ウィリアムは黙っているしかない。

聖書と矛盾するギリシャ語の本を翻訳しただけで罪になる時代。翻訳者をかばったとして、かつて異端審問官だったウィリアムも拷問され判決を撤回した過去がある。ウィリアムは以前ギーと論争したことがある。異端審問は怖ろしい。中世キリスト教は怖ろしい。

だが、ウィリアムは異端審問で殺人については無罪を主張。誰も合理的に証拠を評価する能力がない。拷問するか、アヴィニョンの教皇の裁定を仰ぐしかないだと?

無実の少女に死刑判決が出ても表情を変えなかったウィリアムが、炎上する図書館タワーに涙する。人類の千年の英知が失われることに涙する。
北イタリアですらこんなに寒そうなら、中世イングランドはどれだけ寒かったのか。

大人になってから見ると理解が進む。世界史知識が増えた状態で見ると理解が進む。暗黒中世サスペンスミステリーとして面白く見れた。

2023年3月22日水曜日

集英社新書「テンプル騎士団」佐藤賢一(2018)

集英社新書0940D「テンプル騎士団」佐藤賢一(2018)を読む。佐藤賢一せんせいの本なので読む。
最近になって中世ヨーロッパのことが少しずつイメージできるようになってきた。こういった本のおかげ。

この団体に所属するテンプル騎士団パリ本部のジャック・ド・モレー以下138名が、1307年10月13日、フランス国王フィリップ4世よって一斉に逮捕され、幹部以下多くがが異端であるとされ火刑に処された事件が発生。
そもそもテンプル騎士団とは何だったのか?

テンプル騎士団とは十字軍によって奪還されたエルサレムへの巡礼者を保護警備するために、1119年から1120年にかけて、ユーグ・ド・パイヤンら修道請願を立てた騎士9人から設立された団体。

テンプル騎士団をスターウォーズのジェダイに例えて説明するのは人気作家ならではだが、自分、スターウォーズを一作も見てなくてかえってわからなかったw

この本では、宗教的熱狂にかられ200年も続けらた十字軍の混乱とぐだぐだを前半半分かけて解説。
西欧的な封建制度は日本の御恩奉公と違ってかなりドライな契約。40日の契約が終われば領地に帰っていくし、明日からは他の主君の為に戦う。
イスラムという強敵に対しても戦略もなくバラバラに戦う。家名を高めるために勝手な抜け駆け。これでは勝てる戦いも勝てない。その結果、200年経っても混乱の極み。

200年の間にテンプル騎士団は巨大な国際銀行のようになっていた。清貧の修道士で騎士のボランティア活動がいつのまにかカネカネカネ!
中世の王様の仕事は征服戦争だったのだが、テンプル騎士団の金庫から金を借りなければ戦争ができない。
イングランド国王ジョンが家臣の身代金をフランス国王フィリップ2世に支払ったときもロンドンのテンプルに入金しパリのテンプルから支払い。それは帳簿のやりとり。

アナーニ事件を起こしてもはや誰も対抗できないフィリップ4世が強大な権力を持つ時代になると、テンプル騎士団がもはや邪魔になる。
法律顧問ギョーム・ド・ノガレらを使ってテンプル騎士団を一斉逮捕。財産を押収。
有名なトリノ聖骸布ってジャック・ド・モレーがキプロスから運び込んだものだったの?!

逮捕者たちは苛烈な自白強要拷問で命を落とす者が多かった。1310年5月12日パリ城外のサン・タントワーヌ僧院近くの野原で54人のテンプル騎士たちが火刑により処刑。

長期裁判の末に1312年3月13日、モレーとノルマンディ管区長シャルネイのふたりは自白を取り消した罪(カトリックでは一度自白したことを取り消すのは再堕落といってさらに重い罪?!)によって、シテ島西端(今日のポン・ヌフあたり)に火刑台が設置され処刑。パリは怖い。

2023年3月21日火曜日

西野七瀬「恋は光」(2022)

2022年6月17日公開の映画「恋は光」を見る。青年コミック誌連載漫画の映画化作品。脚本監督は小林啓一。ハピネットファントム・スタジオ、KADOKAWAが配給。主演は神尾楓珠。文学青年と4人の女性たち。まるで文豪の書く恋愛小説のような内容。

主人公西条(神尾楓珠)が初登場のときから顔つきが異常。なんだこいつ。明らかに普通じゃない。眉毛の角度がすごい。

北代(西野七瀬)は華奢ノースリーブ姿がまぶしい。眩しすぎる。動いて喋ってる西野、それだけで奇跡。神。イントネーションが面白い。こんな美少女につっこまれる日常が尊い。
西野の会話口調が「電影少女」とほぼ同じ。

宿木(馬場ふみか)は気の強そうなビッチギャル女子大生。胸がばーんと全面に飛び出しててすごい。
東雲(平祐奈)「恋というものを知りたい」この一言だけで主人公は恋に?この子が浮世離れしてる。スマホも持ってない。
開始数分でみんな魅力的。3人ともあか抜けすぎてる。できれば3人ともと付き合いたい。
大学生ってみんなこんなに色白で美肌で小ぎれいなの?肌の質感がすべすべ陶器のよう。
セリフなし画面だけで説明とかユニーク表現。以後ずっと会話劇。

「恋とは何か?」そんな文学的テーマで美人女子大生と会話するとか、大学とはそんな場所であるべき。そんなことはけっしてないけど。

主人公に東雲さんとの恋の相談アドバイスをする役どころが幼なじみ北代西野。西野が淡い色合いで登場するたびにちょっと面白くてすごく良い気分になれる。たぶんこれも恋。
恋とは西野七瀬のようなものである。と言って間違いない。自分にも西野は光って見える。
恋をしている人がわかる能力があると人はもっと上手く立ち回れるに違いない。
馬場ふみかの表情がとても良い。まるでおしゃれOLのような女子大生。西野と馬場のnonnoモデルペアのやりとりが貴重で尊い。
このふたりに対して平祐奈が幼く見える。たぶんそれも適切。西条と東雲のやりとりがまるで夏目漱石の時代のよう。

そんなやりとりを邪魔しない野村卓史の音楽も良い。タイミングと間合いの演出も良い。見ていてまったく雑味や不快感のようなものを感じない。
ロケ場所も今まで見たことがないようで新鮮。ほぼ岡山でロケしたらしい。路面電車のある街で大学生活を送りたかった。
日本映画として色合いがとても良い。そして、この3人の女優を選んだ監督のセンスがとても良い。

学生のとき昼間からオシャレな店で酒を飲むという発想はなかった。縁側で飲んで親睦を深めるとか楽しそう。パジャマ姿の西野の後ろ姿がすごくときめく。上半身の華奢さのわりに腰から下がどっしりしてる感じが好き。とにかくスタイルが良い。どんな服装も似合ってる。
恋する西野七瀬。それはすさまじいパワーワード。尊く美しい。そして女優としてのポテンシャルの高さよ。見ていてずっと感心。

平祐奈が酒飲んでゲロ吐くシーンがリアルすぎて貴重だと思った。
伊東蒼と宮下咲の女子高生カップルも新しい発見だった。

恋という謎解き。見ていて飽きることがなかった。恋する女性たちを監督が適切に美しく撮ってた。とてもセンスがよい。
3人の女優を鑑賞する映画。中でも西野七瀬は輝いていた。
絵を見る限り、岡山の夏がカラッとしてるように感じた。
主題歌はShe & Him「Sentimental Heart」「In the Sun」(Merge Records / Bank Robber Music)

2023年3月20日月曜日

久保史緒里「左様なら今晩は」(2022)

乃木坂46久保史緒里主演映画「左様なら今晩は」(2022年11月11日公開)を見る。青年コミック誌連載のマンガを実写映画化。脚本監督は高橋名月。制作はSDP、配給はパルコ。共演は「電影少女2」で山下美月と共演した萩原利久

同棲していた恋人に振られたサラリーマン・陽平と、彼の部屋に突如姿を現した若い女性の幽霊・愛助の共同生活を描くニューマンドラマ映画。

陽平(萩原利久)と彼女(永瀬莉子)はすでに破局。2年つきあった彼女は引っ越していく…という場面から始まる。酒でも飲むしかない。広い部屋に住んでる。
そこに突然怒りモード幽霊女性出現。「女性にフラれたのはお前が悪い」という説教幽霊。
なぜずっとそこに住んでたのに急に怪奇現象?なんとこの部屋は事故物件?出て行った彼女の霊的バリアが強くて出現できなかったと説明する幽霊。いや、動きも質感も人間なんだけど。

まるで舞台演劇。かなり主演二人の演技力に依存したドラマ映画だ。雄弁すぎると映画としてリアルを感じない。
職場の同僚女(小野莉奈)とのやりとりも雄弁すぎる。会話のセンスが合わない気がする。
レジ脇に線香置いてるコンビニってある?お彼岸の田舎ならあるかもしれないけど。と思ったら舞台は尾道?
だから幽霊女が「じゃけえじゃけえ」言うのか。男は東京人だったのか。
なんか、BGMがヘンテコで合ってない。

陽平は幽霊に「おとなしくしてって言いましたよね?」とキレる。幽霊「私、そんなキレられることしてます?」と逆ギレ。この幽霊は部屋から出られない。
結局、男のほうが弱気になって謝る。そしてベランダで外の風景を眺めながら身の上話。やっぱり演劇っぽい。

陽平は幽霊から逃れるために引っ越したい。不動産屋(宇野祥平)が「アパートが事故物件では?」という話題を避ける。
幽霊が見えて怖い!って言ってるのに、「今は個人情報とかうるさいでしょう?」と言い訳。死んだの誰?

会社の送別会。同僚女が陽平の部屋に行きたがる。この女はずっと陽平を狙ってた。
で、部屋でいい感じになっていくのだが、なんと、同僚女も幽霊が見える?!女は逃げるように帰宅。
男はつきあってなくてもキスぐらいはすると弁明。幽霊「自分もキスとかしてみたかった」ついに幽霊女と生きてる男のラブコメ展開へ。幽霊と人間は肌で触れ合えるのか?

同僚女は「あの部屋はヤバい」と、叔母のスナックママ霊能力者(中島ひろ子)を紹介。自分はこの女優を「桜の園」で見た女優というぐらいの知識なので、ああ、おばさんになったなあって。でも「ババア」呼ばわりは酷い。

霊能力者は幽霊女に語りかける。「このまま男といると、男は死ぬ。」もうこの部屋に縛り付けられていない。部屋から外に出られる箇所を教える。

幽霊も落ち込む。幽霊は男に一緒にデートしたいとお願い。
裸足はマズイと街でサンダルを買ってきたら、幽霊にぴったりサイズ。
自転車二人乗りしたり、映画館に行ってみたら休みだったり、海行ったり。
でも、「元気なくない?」
元気な幽霊って何?幽霊が「今日のこと一生わすれない」って言うの?幽霊になってから恋ってできるの?

98分という長くない映画ではあるのだが、内容のわりに長いと感じた。でもこういったヒューマンドラマ映画はたいてい長く感じるもの。
陽平に気がある同僚女がキャラ的に面白くてスパイスになっていた。この子は「アルプススタンドのはしの方」に出てたあの子か!

久保を大河ドラマにキャスティングしたプロデューサーはおそらくこの映画を見たんじゃないかと感じた。セリフに自分の間合いと余裕を感じる。広島方言にして正解だったかもしれない。

2023年3月19日日曜日

ハインライン「ダブル・スター」(1956)

ロバート・A・ハインライン「ダブル・スター」(1956)を森下弓子訳1994年創元SF文庫版で読む。ヒューゴー賞を受賞した「太陽系帝国の危機」を改題したもの。
DOUBLE STAR by Rober A. Heinlein 1956
形態模写芸人俳優ロレンゾ・スマイズは酒場で飲んでると、そこに一目でスペースマンだとわかる男がやってくる。話をするとスペースマンのダク・ブロードベントから仕事の依頼。ロレンゾが吹っ掛けた金額を即受けいれるとか、急を要する仕事か?

ホテルでゆっくり交渉しようと思ったら敵からの襲撃。急いで逃げようとしたらロレンゾは準備もないまま火星へ連れていかれる。ロレンゾに与えられた仕事は誘拐された太陽系帝国のボンフォート元首相(野党党首)の替え玉。なんか、展開が黒澤明「影武者」みたい。
ロレンゾは必死でボンフォートの動きと喋りを習得。言語も習得。

50年代のSF作品は地球人類が火星人と一緒に太陽系帝国を形成したいるような数千年未来でもケータイスマホは想像の範囲になかったようだ。この作品でも急な連絡はバーのマスターから呼び出されブースで応答。
あと、主人公ロレンゾは火星人とその体臭に恐怖と嫌悪感を抱いている。それでは仕事がままならない。その対処法が催眠術で笑った。火星人の体臭が香水の匂いに感じるように暗示。

中盤でボンフォートは廃人同然で発見。ロレンゾは首相就任。そして皇帝に拝謁。どうするどうなる?
共和制アメリカ合衆国に生れたハインラインの描く立憲君主制国家の政治劇。読んでいてあまりSF作品を感じないかもしれない。

2023年3月18日土曜日

北川景子「Mr.サンデー」に登場

カンテレの情報番組「Mr.サンデー」(2月26日放送回)北川景子(36)が主演ドラマ「女神の教室」番宣ゲストとして登場し、女優としてのこれまでについて宮根誠司とトーク対談した。
貴重だと感じたので書き留めて忘備録とする。(ドラマは見てない。すまん。司法ドラマは見る気が起こらない。 )
「素直すぎ!?天真爛漫すぎ!?北川景子の虜になるワケ」というタイトルがついていた。Mr.サンデーがドラマ現場に密着したのだが、番組カメラマンが「セーラー・ムーン」撮影当時の技術スタッフのひとりだったという。そのことを北川が20年ぶりだというのに覚えていたという奇蹟。採石場でナパーム撮影をした間柄。セーラー・ムーンは14か月も撮影してた。
撮影現場で一緒の若手俳優たちは北川に質問したりする。南沙良「いつセリフを覚えているのか?」北川「ずっと考えている セリフのことを」15分長回しの台詞でも頭から最後まで1回もかまずにOKということがあるらしい。若手から尊敬される存在。それが北川景子。

テレビ放送には対談インタビューが収まりきらなかったらしく、放送終了後にインタビュー完全版がTVer、FODで配信。こちらのほうがテレビ放送版よりも内容が濃かった。

宮根誠司とは関西人同士。そもそも宮根や!を知ってる人は関西の人だけ。自分もこのアナウンサーは急に出て来た人としか認識してなかった。北川「それが不思議」
今回初めて知ったことがある。北川景子が17歳(高2)のときに「関西系のバラエティ番組に出てる子が所属する関西の事務所」で「神戸のモデル事務所の社長」にスカウトされた場所が神戸のJP灘駅だったということ。
宮根「あんなとこにスカウトいるんですね」自分は神戸に行ったことがまだ一度もなく、どんな場所なのか見当もつかない。宮根さんのリアクションを見ると、灘駅って怖い場所なの?
学校帰りの制服姿の景子を見つけたスーツ姿のおじさんが追いかけて来たという。それは怖い。景子は走って逃げたという。歩道橋の上で名刺をもらったという。

その時まで芸能界に入るという考えはまったくなかったという景子。実家から通える関西圏の大学に入って就職する人生になるはずだった。だが、景子は受験勉強が上手くいってなかった。悩んでいた時期のスカウトだった。まず所属してみた。何か自分を現状打破できるのではないか…と。
最初に撮った宣材写真を事務所が雑誌セブンティーンに送ったところ、それだけで合格?!「そこからどうしよう?ってなりました」
そして17歳で即「セーラー・ムーン」。セブンティーンがモデルとして初めて受けたオーディション、セーラームーンが女優として始めて受けたオーディション。景子の芸能界でのスタートは順調すぎた。
演技の経験がまったくないまま、ぜんぜんできないまま現場に放り込まれた景子。東映がかなり厳しい指導をしたらしい。演技もアフレコもアクションも、すべて現場で学んだ。歌のCDも出したし、踊りもやった。すべてを一気にたたきこまれた感じだった。鍛えられた。「特撮でデビューできたことは、デビューが遅かった私にとってすごく有利だったと思う」
景子は「厳しい現場が合っていた」と語る。

セーラームーンは全国区放送で1年以上やっていた。だが、北川景子にはその後のドラマや映画、CMのオファーがまったくなかった…。それはドラマウォッチャーにも本人にも予想外。
セブンティーンを19歳で卒業し女優一本でやっていくつもりが、オーディションに連戦連敗。
セーラームーンをやっていたのに何もオファーが来なかった。それはつまり、北川の演技をドラマをキャスティングする偉い人は何も評価してなかったということか。
あまり仕事してる景子を見ない…と心配してくる友人には「今は受験に専念してる」「大学の勉強に専念してる」「仕事は抑えてる」などと言い訳していたという。そんなことまで語る景子は偉大。
そんな仕事のない不遇状態が終わったきっかけが森田芳光監督の「間宮兄弟」。大切な大学の授業を休んでオーディションに来てる。どうせ落ちるとなげやり。そんな景子が監督の目に留まった。「もう明らかに森田監督のおかげで」
だから景子は監督の葬儀で周囲の目線をはばからずに泣いた。あの号泣は女優北川景子を語るうえで外せない。
景子は今も森田監督からの言葉を忘れていない。「そのままでいい」「とにかく女優をやめないでください」それは聴きようによっては残酷にも聴こえるけど。

なんと森田監督は北川景子主演映画も企画してたらしい。それは惜しいことをした。
関西出身の若手女優はまず標準語イントネーションで苦労する。景子も例外ではなかった。「標準語で自然にセリフを言うっていうことが若いころはもう本当に難しくて」「自分が標準語を話してる気持ち悪さがぬぐえなくてw」

「アクセントにいつも迷いがあった」「怒られて落ち込むし、ただ立ってセリフ吐いてくれるだけでいいという監督には諦められているという悲しさもああるし」「自分本当にダメなんだな」とため息。
景子は今も演技の正解にはたどり着けていないという。しかし「演技って楽しいんだなと感じられたのは31歳とかそれくらい」とも語る。
「10代20代は見た目の若さを求められる役が多かった。しかし、30歳を超えたぐらいからいただける役の幅が広がった。」「自分が興味がある役みたいなのをいただけることが増えて来た」「年齢的にちょうどよくなってきた」「結婚したこともイメージがかわるいいきっかけだったと思う」

「女神の教室」で丸いメガネをした裁判官と言うキャラは北川の提案だった?とんかつ大好きキャラも北川からの要望?
あと、結婚生活について語ってる箇所はぜんぜん聴く気にならなかったw
関西人景子はバラエティに出たときは必ず何か爪痕を残したいタイプw

あと景子は「舞台に挑戦したい」とずっと言ってるらしい。なんでも挑戦したいのが景子。自分、以前から景子はまさみと似てるところがあると思ってた。若いうちからいきなり演技させられて苦労してたところとか。