小栗虫太郎(1901-1946)を読むのは初めて。「黒死館殺人事件」(昭和9年)はいずれ読もうと思ってるのだがまだ手を出していない。
では順に読んでいく。小栗は同時代の乱歩、横溝に比べて格段にオカルトでペダントリー。読んでいてぜんぜん頭に入ってこない文体で読みにくく難渋の558ページ。秘境中の秘境を行く怪奇冒険小説。
第1話「有尾人 ホモ・コウダツス」英領スーダンと白(ベルギー)領コンゴの境にあるという秘境「悪魔の尿溜 ムラムブウエジ」で捕獲された有尾人ドドと人間たちの欲望渦巻く探検。
第2話「大暗黒 ラ・オスクリダツト・グランデ」チュニスから仏領象牙海岸の監獄、罪なき捕らわれ人、首に赤い痣と大きな肩甲骨を持つアトランチス人、地底の海にあるアトランチスの黄金。ボアルネーと山座の先陣争い。
第3話「天母峰 ハーモ・サムバ・チョウ」西域とチベットの未踏地帯は越えられない大氷河と70mの暴風。雲湖で墓海。モンゴロイドの顔を持つ欧州人白痴女を連れた探検隊。クレバスの中、そして雪崩。
第4話「太平洋漏水孔 ダブツクウ 漂流記」第3話と同じく日本人探検家折竹孫七の語る話というてい。ドイツ兵キューネ、日本人5歳児ハチロウ、サモア人娘の3人が漂流し太平洋の不侵海にある大渦潮に飲み込まれて…という奇譚。
第5話「水棲人 インコラ・パルストリス」アルゼンチン・パラグアイ国境の沼地での人探し。
第6話「畸獣楽園 デーザ・バリモー」再びアフリカ。野武士シフタスと仏領ジブチから来たダイヤン夫人の喋り言葉がいかにも昭和初期の日本。味わいがあるけど珍妙。
第7話「火礁海 アーラン・アーラン」スマトラ西海岸と「離魂の森ウータン・サキジ」での「人類ならぬ人間 コチョ・ボチョ」探し。
第8話「遊魂境 セル・ミク・シユア」グリーンランド中央高原にある「冥路の国」は無主地なので先占すれば日本領?!イタリアマフィアの喋り言葉が博徒みたいで調子狂う。
第9話「第五類人類 アンソロポイド」アマゾン奥地の大魔境「神にして狂う」河リオ・フォルス・デ・ディオス。インカの黄金、殺人疑惑のある女。
第10話「地軸二万哩 カラ・ジルナガン」英ソ緩衝地帯。地下の晦冥国。女王ザチ。大油田。「大地軸孔」の怪焔って、トルクメンの「地獄の門」のこと?
第11話「死の番卒 セレーノ・デ・モルト」パナマ地峡の運河と白金鉱はアメリカの国家機密?急にスパイ小説展開。これが一番好きだった。
第12話「伽羅絶境 ヤト・ジヤン」仏印ラオス・タイ国境。香木の伽羅を採集するモイ族、タイ警察、そして折竹。これも好き。
第13話「アメリカ鉄仮面 クク・エー・キングワ」ニューヨークの地下隧道掘削現場からアラスカの秘境「霧神の大口」。天才黒人青年技師、アメリカ石油資本、成層圏機、メリケンから禄を食む事をやめた折竹。非情なスパイ小説。
驚いた。読む前はなんとなく「川口浩探検隊」みたいなものを想像していた。子どもっぽい素朴なものを想像していた。だが、文体も内容も大人向け怪奇冒険譚。
第4話以降はすべて日本人冒険家の折竹孫七が主人公。
SFぽくもある。かと思っていたらスパイ小説。インディ・ジョーンズぽくもある。
小栗虫太郎が、戦前の日本人が、これほど世界情勢と地理を理解していたことが驚き。戦前って自分が思っていたのとだいぶ違うことが大人になるにつれだんだんわかってきた。
文体とカタカナふりがながついた造語の多さが読みにくくしてる。だがこれは溢れる知性。
1行先にはもうまったくの別場面になっていたりして戸惑った。アート系短編映画を見るよう。
正直、自分の想像を超えてしまい、イメージしがたい。まさに「昭和の奇書」としかいいようがない。
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