2023年3月24日金曜日

佐藤賢一「黒王妃」(2012)

佐藤賢一「黒王妃」(2012 講談社)を読む。小説現代2011年9月号から2012年8月号まで1年連載されたものの単行本。

ヴァロワ朝フランス王アンリ2世にフィレンツェ・メディチ家から嫁いだ黒衣の王妃カトリーヌ・ド・メディシス(1519-1589)を描いた歴史小説。この人物については高校世界史でも重要人物なので名前は知っていた。
息子フランソワ2世が夭逝すると、シャルル9世、アンリ3世と2代のフランス国王の摂政として政治を担う。
この人の時代はフランスも宗教戦争。カトリックとユグノーによる流血の争い。

アンボワーズ事件の主犯ラ・ルノーディを処刑し城壁に吊るし、叛徒たち52名斬首処刑の現場に幼い国王夫妻。
カトリーヌはすでに夫を亡くした黒衣の未亡人。息子フランソワ2世の嫁マリー・ステュアール(スコットランド王女メアリー・スチュアート)には「平民の娘なんでしょ?(笑)」みたいに陰口。
プロテスタント勢力はすでに欧州全土へ。マリーの叔父ギーズ公が宮廷を仕切る。
そして蓄膿症少年王フランソワの急死。この時代、膿を耳から切って出すことすらない医療レベル。

さらに幼い弟シャルルが即位しシャルル9世に。カトリーヌは自ら摂政へ。フランス人に嫌われたイタリア女がフランスの政治の実権を握る。(カトリーヌは健啖家で肥満ぎみだったのか)

カトリーヌが意外に無口。メディチ家出身なのでてっきり気の強い腹黒キャラなのかと思ってたら意外にそうでもない。心の声独白パートは黒太字。過去と現在を解説。
ずっと夫アンリ2世の愛人ディアーナ・ド・ポワチエのことばかり愚痴ってる。

この本、別名「小説ユグノー戦争」と言っていい。ユグノーを徹底弾圧するべきか?それとも宥和か?
ギーズ公、モンモランシー大元帥、ナヴァール王アントワーヌ、コリニィ提督、そしてコンデ公。スペインとフランドル。宗教対立から起こる内戦。日本には宗教戦争がなくてよかった。

王女マルゴにギーズ公アンリが夜這い。そこにカトリーヌ、シャルル9世、弟アンジュー公アンリがやってきて現行犯で押さえるのだが、ギーズ公逃亡。シャルルはマルゴを平手打ち。その後の家族のやり取りが面白かった。ほんとにそんな会話があったのかよ。

マルゴはその後ナヴァール王アンリ・ド・ブルボンと結婚。
このアンリはひどかった。なにがひどいって、新教派の次代を担う指導者というのは、垢抜けない田舎者を絵に描いたような男だったのだ。
と書かれてる。
まじか。後のブルボン朝フランス国王アンリ4世はフランス人にとって歴代フランス国王でいちばん人気があると聞いている。

この時代はアンジュー公もコンデ公もみんなアンリ。どうやって覚えればええのん?
その点でこういった小説は理解する上で助かる。それぞれのキャラをつかみやすい。

婚礼のためにパリに集まったコリニィ提督とプロテスタント貴族たち。コリニィ暗殺未遂事件を発端に三日三晩続いた聖バルテルミーの大虐殺。宗教対立の恐ろしさに震える。
黒衣のカトリーヌは夫を失ったあの恐ろしい騎馬槍試合惨事を回想。

中世末フランス史とイタリア史に多少は慣れ親しんだ人でないと現在地を失うと思う。事前に佐藤賢一「ヴァロワ朝」を読んでいてよかった。

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