三島由紀夫「永すぎた春」(昭和31年)を新潮文庫(平成10年83刷)で読む。これ、裏に書いてあるあらすじを読むと、自分と合ってなさそうで長年避けていた。おそらく通俗恋愛ドラマ小説。ようやく気合を入れて読んだ。
T大法学部の学生郁雄は大学門前の老舗古書店の娘百子が美人だというので見に行く。そしてあっという間に婚約。
大学に行くと婚約者の実家部屋でお茶飲んでキス。まったく何という学生だ。で、大学を卒業してから結婚するまで1年3か月。子ども同然の二人の永い婚約期間が、1か月ごとのピリオドで描かれていく。
婚約したら郁雄は法学部の試験勉強期間。二人は会わないようにするのだが、百子は親戚の男(古書店同業者)と歩いているのを大学の窓から郁雄に目撃され嫉妬されたりする。郁雄がとても単純。その理由を知るとすぐ納得。
この本の重要な脇役登場人物が主人公の母宝部夫人。身分違いの婚約に反対したものの容認。だが、神田古書店本田の息子が「カゴ抜け詐欺」で捕まったことを婦人会的な集まりで知らされ慌てる。百子の実家に駆け込んで文句と苦情。(実は逮捕された男は親戚)
だが、夫の実弟(高級官僚)が汚職で捕まると逆に恐縮。百子を歌舞伎に誘って和解。
あとは、友人画家高倉(郁雄の中学からの友人)の婚約者との逢引き、熱海の別荘などのエピソード。
百子には東一郎という小説家志望の兄がいた。実家の2階にいる「雲の上人」。この人が終盤の重要人物。
病気入院してるときに看護婦浅香さんと恋仲。この二人を婚約させたのが宝部夫人だったのだが、浅香の母が「花柳界にいたに違いない」という貧しい婆さん。この婆さんが娘に結婚の持参金を持たせいために奸計を使う。百子に懸想する吉沢に金をせびり関係を取り持とうと密会させる。
この計画は百子が逃げ帰って失敗するのだが、あさましい母は宝部家を訪れて郁雄に百子と吉沢が一夜を共にしたように嘘をつく。だが、郁雄はすこしも信じない。
宝部夫人は怒り心頭。あんな女と親戚づきあいしたくない!東一郎に浅香を別れろ!と迫る。だが、東一郎は浅香を愛していた。別離を断ると、郁雄と百子の婚約も解消すると脅す。
どうしよう?二人は郁雄の数少ない大学の友人宮内(28歳妻子持ち若禿げ学生)に相談するも「駆け落ちしたら?」というような納得しがたいアドバイス。
東一郎は百子を誘って浅香母子の住む貧乏アパートへ。浅香さんから「母のしたことを何も恥じていない」「母がけしかけるから東一郎を愛してるようにふるまった」と衝撃の告白。東一郎ブチギレ。
12月の黄色くなった銀杏のキャンパスを歩く郁雄と百子。どうして兄東一郎は百子を浅香のアパートに連れていったのか?百子が思いもよらない心理を解説。
さすがT大法学部。世間知らずのおぼっちゃまかと思われていた郁雄22歳が、これほど人間心理の機微に深く考えが及んでいたとは…という衝撃で幕が下りる。
これ、朝ドラでやるようなドラマ。内容が平易で誰でもスラスラ読める。
あと、宮内の下宿を説明する場面で、三島は「積読主義」という言葉を使っていてびっくり。積読って昔からあった言葉なんだ。
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