ウンベルト・エーコ作「薔薇の名前」を原作とする、フランスFR3フィルム、ドイツ(西ドイツ)ZDF、イタリアRAIが制作した中世サスペンススリラーミステリー。
アメリカでは20世紀フォックスが、日本ではヘラルドエースが配給。映倫R15+
原作上下巻は未だに未読。これ、いまだに文庫化もされていない。1980年に発表されるや世界的ベストセラー。1990年に東京創元社より邦訳が発売されたとき、日本でもかなり売れた。だが、日本人にはまだ馴染みがない内容で、上巻と下巻で販売冊数に差があったらしい。
ショーン・コネリーやクリスチャン・スレーターといったスターを起用したために映画は英語で演じられている。
1327年、北イタリアの修道院で発生した連続不審死事件を修道士ウィリアム・ヴァスカヴィルと弟子アドソ(ホームズとワトソンか)が追うという雰囲気ばつぐんミステリー。
これ、子どものころから数回見てる。キリスト教がすべてという中世ヨーロッパというものを映像でリアルにイメージした最初がこれ。中世キリスト教世界というものをネガティブにとらえる最初。とにかく暗くて怖くて不気味だった。ショックだった。
大人になって人生で初めて海外ひとり旅というやつをやったとき、フランスの田舎町のホテルのテレビで、この映画を放送(仏語字幕だったのでまるでわからず)してたのを見て以来で見る。
冬の寂しい山道を旅してきたフランチェスコ会修道僧ふたり。ウィリアム(ショーン・コネリー)とアドソ(クリスチャン・スレーター)。小高い場所にあるベネディクト会修道院の門が開かれ二人を出迎える僧侶たちの顔つきと目つきからして異様。この時点で怖い。
まるで「シャッター・アイランド」。この修道院には何か恐ろしい秘密があるらしい。そんなひそひそ話。
来客のウィリアムがめちゃくちゃ鋭い。経験と知識からいろんなことを見抜く。若いアドソがトイレに行きたくてもじもじしてる様子からトイレの場所を教える。え、ここ初めてでは?部屋に案内されるまでにいろいろ見た情報からその場所も知ってる。
墓地には新しく土をかぶせた十字架。修道院長に質問すると、まだ若いアデルモ写字生が亡くなったらしい。
修道院長はウィリアム修道士が来たことを歓迎。聡明なウィリアム修道士は「人の心にも悪魔の策略にも通じておられる慧眼」だから。
写字生が塔から突き落とされ殺された事件を、教皇使節が到着する前に解決し闇に葬りたい。でないと異端審問官に捜査を依頼しないといけない。
ウィリアムは修練士アドソを助手に、まずウベルティーノ司教に話を聴いてみる。「ウィリアムよ、直ちにここから立ち去られよ!」えぇぇ…。まるで「八つ墓村」。若いアドソはびびりまくり。
現場検証すると「あちらの塔から落ちたのでは?」その方がつじつまが合う。修道院から棄てられたものを村の貧しい人々が我先にと争い拾い漁る。貴族の子弟で育ちのいいアドソはどん引き。野性的な娘を見て衝撃。
「写字生の死は自殺だろう」「神の安息の場所で?」「そんな所があると思うか?」ウィリアム修道士が中世人らしくない合理的論理的思考力。
夜の修道院では修道士のそれぞれがいろんなことをしてる。そのへんの描写がもう子どものころそれは不気味だった。
たぶん、金田一耕助シリーズと同じような文脈で見てた。豚小屋でまたしても死体発見。甕から脚を突き出した逆さ死体。猟奇殺人。検死解剖みたいなシーンがあってさらに怖い。
アドソが寺院の不気味な彫刻などをビビリながら鑑賞してると、「ペニテンツィアジテ!」と語りかけてくる異形の男(猿ヴァトーレ)がまた不気味。こんな形態をした人間がいていいのか?って初めて見た当時は思った。端正なアドソくんが「えぇぇ…」とビビリまくり。
中世は高貴な人と下賤な者の見た目の差が激しかった(今もそうかもだが)のかもしれない。
極度に笑いを慎む教義を持つベネディクト派のホルヘ師が煮魚の目玉みたいで怖い。図書館写字生たちがみんな異常な顔つきをしてるのも怖い。
捜査中に証拠を持ち逃げされ不審者を追いかけてると、アドソ少年は物陰に潜む野性的な村娘(たぶん僧侶と関係を持って食べ物を得ていた?)と出会う。
娘の獣のような情欲が、高貴で美しい少年の童貞を貪るように奪い媾う。たぶんこのシーンがあるので「R15+」。お茶の間で見るには適さない。
司書助手ベレンガーリオ(でぶ)の死体発見の場面も金田一のように恐ろしい。
ここですでにウィリアム修道士は事件のだいたいのあらましを理解したようなのだが、院長から事件の捜査から手を引くようにいわれる。
ここからは異端審問官ベルナール・ギー(F・マーリー・エイブラハム)の登場。この人は「アマデウス」でサリエリ役だった俳優だ!
石棺の下に図書室への通路を見つけるところとか、インディ・ジョーンズみたいでわくわく。古書の宝の山を見つけたウィリアムははしゃぐ。人間は東西問わずどの時代も同じ。
図書館迷路で迷うシーンは横溝や乱歩での洞窟シーンと同じ。
異端審問官が到着したタイミングでサルヴァトーレの悪魔崇拝儀式の現場が押さえられる。その場にいた村娘(食べ物が欲しかっただけ)も取り押さえられる。これが修道院で起こる忌まわしい事件を起こした悪魔の正体だ!
これでサルヴァトーレと村娘、そして隠れ異端の破戒坊主3人は火あぶりの刑。異端審問官に異を唱えたものは異端となる。ウィリアムは黙っているしかない。
聖書と矛盾するギリシャ語の本を翻訳しただけで罪になる時代。翻訳者をかばったとして、かつて異端審問官だったウィリアムも拷問され判決を撤回した過去がある。ウィリアムは以前ギーと論争したことがある。異端審問は怖ろしい。中世キリスト教は怖ろしい。
だが、ウィリアムは異端審問で殺人については無罪を主張。誰も合理的に証拠を評価する能力がない。拷問するか、アヴィニョンの教皇の裁定を仰ぐしかないだと?
無実の少女に死刑判決が出ても表情を変えなかったウィリアムが、炎上する図書館タワーに涙する。人類の千年の英知が失われることに涙する。
北イタリアですらこんなに寒そうなら、中世イングランドはどれだけ寒かったのか。
大人になってから見ると理解が進む。世界史知識が増えた状態で見ると理解が進む。暗黒中世サスペンスミステリーとして面白く見れた。
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