2024年7月31日水曜日

雫井脩介「望み」(2016)

雫井脩介「望み」(2016)を角川文庫(2019)版で読む。
この作家の本を読むのは初めて。「クローズド・ノート」の作家だということだけ知ってる。これも読みたくて読んだというわけでなく、無償でいただいてきた本なのでなるべく早く読む。

この本はすでに映画になってるらしい。ぜんぜん知らなかった。自分が好き好んで読まないジャンル。たぶん、表紙から判断して崩壊寸前家族サスペンス。

思春期の高校生息子と高校受験を控えた中学生娘を抱える石川夫妻。夫は注文住宅のデザインが仕事。妻は在宅で建築雑誌の編集。
息子規士は夏休みになってから外泊が増えた。顔にあざを作ってたり、ナイフを購入してたりして父は不安を覚える。
9月の週末の夜、息子の規士が帰ってこない。一晩中連絡もつかない。近所で乗り捨てられた車のトランクから若い男性の遺体が見つかったというニュース。もしかしてその死体って?!

警察に電話。被害者少年は集団で暴行された痕跡。特徴はどうやら息子と違うようだ。
だが、妹の話だと被害者は兄と同じ高校で、その少年の名前を兄が話してたことがあるらしい。殺されたのは息子の友人?!もしかして息子は加害者なんじゃ…。
息子の友人たちと連絡を取ろうにも誰もわからない。

捜索願を提出。近所には雑誌記者がうろつき始めてる。少年2人が逃走中。そして3人が行方不明。息子は加害者か?被害者か?不安な父と母。
地元高校生たちの噂話を母親が匿名掲示板で探るのが現代ぽい。

少年事件の加害者かもしれないという状況に置かれた一家。メディアスクラム、取引先の決めつけ。夫婦で怒鳴り合い。絶望の妹。嫌がらせとしての卵投げ。
読んでいて気が滅入るし何も楽しくない。最後に何かスカッとする展開だけを期待してページをめくる。

父は息子が被害者であってくれと願う。母はただ生きていてくれれば加害者でもよいという心構え。そう信じこもうとする心理。

犯罪の被害者と加害者の家族の風景。こういうの、たぶん日本中で起こってる。憶測で犯人を特定して、冤罪家族に嫌味や嫌がらせをした側がいちばん罪深い。表面上の謝罪だけでいいのか?

あと、2012年に起こった「パソコン遠隔操作事件」で無実の罪で4人が誤認逮捕されたことも想い出した。うち少年Aの父は息子の無実を信じてやれなかったという後悔。こうして神奈川県警は日本を壊していってる。人間相互の信頼も壊してる。

2024年7月30日火曜日

推理アンソロジー「絶海」(2002)

推理アンソロジー「絶海」という古いノベルス本を無償でいただいた。
祥伝社文庫創刊15周年を記念特別書き下ろし4作品を一冊にまとめて祥伝社ノン・ノベルとして2002年に出版されたもの。
4人の人気作家がそれぞれ腕を振るった「絶海の孤島」ミステリー4本。順番に読んでいく。

恩田陸「puzzle(パズル)」
長崎県の廃墟で有名な「鼎島」を訪れた廃墟探索マニアが島で発見した3人の遺体…という新聞記事。

そして「さまよえるオランダ人」「宇宙を舞台にしたスタンリー・キューブリックの新作映画製作発表」「新元号”光文”誤報」「ターシャ・テューダーの料理レシピ」「2万5000分の一地形図のつくりかた」という脈絡のない記事を引用。

廃墟の各地でそれぞれ餓死、墜落死、感電死で見つかった遺体。それぞれに以上の記事のコピー。それ以外に身元を示すものは何もない。
島にふたりの中年に差し掛かった検事が上陸。遺体発見現場を見て歩き、真相パズルを解き明かす…。

これ、とても雰囲気が良くて面白いと感じた。だが、その真相は誰も予想できないしハチャメチャな怪談ホラー。

歌野晶午「生存者、一名」
鹿児島県の東シナ海に浮かぶ「屍島」で「生存者一名、死者5名」で捜索打ち切りという短い報告の後、なんでそうなった?という回想。

重大な爆弾テロ事件を起こした終末思想カルト団体の実行グループと幹部。ほとぼりが冷めるまで絶海の無人島で過ごすようにとの教祖からの指示。
だが、当面の食料と5人の男女を残して幹部は船で脱出。自分たちは事件の口封じのための犠牲として取り残された?
やがて迫りくる餓死の恐怖。島を出ても司直によって死刑になるし、このまま島に居ても飢え死に…という極限。

1人、また1人と殺されていき、疑心暗鬼の男女のたどる戦慄と恐怖。ただ一人生き残った女の独白…。
だと思ってたら、完全に予想を裏切られた!そもそもタイトルからして読者をダマす気まんまん。終盤で新聞記事からの引用が挟まれ読者はイメージを修正しながら読むのだが、それでもこの結末は予想できないエグさ。
ここ数年で読んだサスペンスホラーミステリーで屈指の傑作。読め!

西澤保彦「なつこ、孤島に囚われ。」
レズビアン官能小説作家の奈津子は、強引な美女に迫られ連れ込まれた飲み屋で昏倒。目を覚ますと、白い砂浜と青い海に囲まれた孤島の洋館。冷蔵庫には酒と高級食材。
近くに同じような島があり同じような洋館。その一室に男がいて双眼鏡でこちらを見ている。
やがてその島に警察。男が殺されたらしい。その男はこちらを見ていた男?自分は目撃者にされた?

実在する作家がそのままのキャラで登場。奈津子の主観で物語は語られるのだが、この作家が変態。数行おきに変態エロ妄想してる。
そして、事件の主役の姉と弟も変態。変態が変態的欲望を満たすには金が要る。最後の独白はほぼ乱歩のそれ。

近藤史恵「この島でいちばん高いところ」
17才同級生5人組JKが夏休みに海水浴へ。穴場のビーチへ連絡船で向かう。だが帰りの便に乗り遅れる。そして島にいる何者か殺人鬼に襲撃され、1人1人と殺される…という死屍累々ジェイソン型ホラー。
中学時代にレ〇プに遭ったという少女が強メンタルで犯人をおびき出して交渉し罠にかけるとか逞しい。

4本すべて高水準だったのだが、自分としては歌野晶午「生存者、一名」がベストだと感じた。

2024年7月29日月曜日

二階堂黎人「吸血の家」(1995)

二階堂黎人「吸血の家」(1995)を講談社文庫(1999)で読む。1995年10月に立風書房から立風ノベルスとして出版されたものを加筆修正して文庫化。
こいつもコロナ期にBOで110円で購入しておいた3年積読本。なにせ583Pの大長編でなかなか読み始めれなかった。

プロローグで文政年間の八王子、甲州街道にあったという妓楼での狂った遊女の悲劇をささっと紹介。
そして昭和44年1月の東京国立。一橋大学生の二階堂蘭子と黎人。同じ年の血のつながらない兄と妹。父は警視正。喫茶店で探偵小説談義。みんな東西の古典ミステリーオタ。
そこに狂った女がやって来て、「近々、八王子の料亭久月で殺人が起こる」と言い残して姿を消す。

元妓楼から料亭に商売を変えた久月。女系家族でみんな美人。二階堂家とは親戚。
24年前、戦争末期の昭和20年に久月では、脱走兵が短刀が首に刺さった状態で死んでいる…という事件が発生。雪面には被害者の足跡しかない…というミステリー。だが、軍部からの圧力によって迷宮入り。

この久月で起こる連続猟奇殺人。蘭子と黎人、事件を担当した中村警部、若手刑事の村上が事件に挑む!

降霊会、悪魔の笛、日本刀、密室、過去の因縁により呪われた一族、出生の秘密、すごく横溝正史「悪魔の手毬唄」へのオマージュ感がする。著者による巻末解説を読むとまさにそれ。

さらに、被害者と第一発見者の足跡しかないテニスコートの刺殺体。これもディクスン・カー「テニスコートの謎」へのオマージュ。自分、この2作が既読でよかった。
あと、八王子田町の遊郭跡へ行ったことある自分としては興味深くページをめくれた。文体も読みやすくわかりやすい。

もう、過去の英米・日本の古典名作ミステリー小説への愛であふれた探偵小説の大力作。とにかく雰囲気が良い。お約束の世界観。
もう横溝も、カーも、エラリーもすべて読んでしまって読む本がないよ~というミステリー愛好家向け。とくにディクスン・カー延長戦という感じ。

新本格に登場する探偵たち、とくにこの二階堂蘭子は大学生とは思えない頭脳と人間的成熟。そこはスーパー名探偵が活躍した古きよき探偵小説への愛。

2024年7月28日日曜日

吉村昭「落日の宴」(1996)

吉村昭「落日の宴 勘定奉行川路聖謨」(1996)を読む。講談社文庫2005年2刷で読む。これもBOで108円購入した5年積読本。「群像」誌に1994年1月号から95年10月号まで連載。

幕末、ペリー来航に続くプチャーチン提督来航という日本の重大局面で勘定奉行だった川路聖謨(かわじとしあきら 1801-1868)によるギリギリの手探り対露交渉を描いた歴史記録文学。

自分、この人を初代警視総監の川路利良とごっちゃになってた。こっちの川路は薩摩の人。川路聖謨は豊後国日田の内藤家出身で江戸に出てから小普請組の川路家の養子となり、小官吏から幕閣へ大出世した人物。この二人の間にとくに血縁関係はないようだ。

嘉永六年十月に老中阿部正弘の命によりロシア全権プチャーチンのいる長崎へ向けて出立。老齢な筒井政憲と共に、通商交渉と樺太・択捉の国境策定を要求するプチャーチンとの交渉の記録を、吉村昭らしく淡々と事実を列挙するように読ませられる。

江戸へ戻ると幕府はペリーと下田函館開港の交渉。アメリカと日米和親条約。その一方でロシアと誠意をもって交渉してきた川路。アメリカとロシアで異なる対応はできない。
いったん上海へ引き上げたプチャーチンは日本がアメリカの強硬な態度に折れたことを知っている。ならば強引に浦賀へ凸しよう!

プチャーチンと川路は下田で国境交渉を再開。そこまで双方が意見の違いで丁々発止。ロシアもクリミア戦争中で英仏と敵対。早く交渉をまとめたい。
プチャーチンの要求は通商だが、それは日本の国法に反するので絶対に拒否。
そんな押し問答の最中に安政の大地震。津波襲撃で下田も甚大な被害。プチャーチンの艦にも被害。

プチャーチンはディアナ号修理は波風強い下田じゃ無理!と主張。幕府は下田でやれ!→ムリ!という何度も同じやりとり。
で、ロシア側が戸田村がいいというのでそちらに船を回そうとしたら難破。地元住民が懸命に救助。ディアナ号は放棄せざるをえない。で、戸田村で新造艦を作ることに。
そんな状態で日露交渉再開。エトロフは日本で合意したのだが樺太島で国境線を画定するには双方の主張に隔たり。だがそこは棚上げし1855年2月、下田において日露和親条約締結。

とにかくアメリカもロシアもずうずうしいw 条約文にないことは拡大解釈。通商はしないって言ってんだろ!勝手に上陸して寝泊まりするな!女こどもを連れてくるな!教会を建てるな!

乗組員500人連れて勝手に難破してるのにロシア側がどうしてそんな強気になんでも要求できるん?川路も幕府も困惑。何度も何度も飛脚が行き交う。ロシアは本国と緊密な連絡は無理。
プチャーチンをカムチャッカへ、残留士卒をアメリカ船で帰国させ、京都で焼け落ちた禁裏の普請に取り掛かり、すると今度はアメリカからハリスが領事として押しかけてくる。やれやれ。

ハリスが超絶強引で幕府のやり方にイチイチ怒り心頭でやかましく抗議してくる。それが頼んでもないのに勝手にやってきてお願いする立場か!

水戸の斉昭という非常識な論客には「もう口を出さない」と言わせ、一橋家の慶喜を時期将軍に推すつもりだったのだが、紀州の慶福を推す井伊直弼が大老となったことによって川路は閑職である西丸留守居へと左遷。安政の大獄が始まると川路は蟄居。
万延、文久、元治、慶応、と駆け足で激動の幕末史をおさらい。老いによって登城できなくなりお役御免を願い出る。
大政奉還と幕府の崩壊を見届けて、病床の川路は短銃で自決。68歳。

この本、プチャーチンと川路のタフな外交交渉がメイン。その後は淡々と出来事の列挙。読む人によってはそれほど面白いものではないかもしれない。

2024年7月27日土曜日

三崎亜記「廃墟建築士」(2009)

三崎亜記「廃墟建築士」(2009 集英社)を読む。建物をめぐる奇妙な4本の短編を収録した作品集。
もう15年前の本。こいつもいただいてきた本なので読む。自分がいただいてから5年積読。では順番に読んでいく。

七階闘争(小説すばる 2008年7月号)
この作家の本を読んだのは「となり町戦争」以来で11年ぶりなのだが、もしかしてこの作家は地方自治体の行政と市民がテーマの作品しかない?!

その市の7階での犯罪事件率と事故率が高いというデータから、市長が「可及的速やかにすべての七階を撤去する」と方針を表明。え、七階をないことにする?
で、その市の七階に居住する人々は他の階へ移住を促される。やがて半ば強制。そこで七階住民たちが連携し七階護持運動が巻き起こる。

何を読まされているんだ?という架空のディストピア社会風刺小説?
とにかく読んでいて感心しかしなかった。行政と相対する市民運動。まさに今現在の日本を問題定義している作品。

廃墟建築士(オール読物 2007年3月号)
これも架空のその道の専門家を設定したディストピア行政小説。廃墟に魅せられた人々が働き掛けたことで「廃墟」を建設していく架空だけどリアルな話。
これも五輪レガシーと称した神宮外苑再開発、宮下公園再開発、晴海フラッグなどの小池都政と、一部の業界だけが得をする誰も望まない施策をごり押しする大阪維新や自民党政権日本を風刺しているように感じた。ぶっちゃけ傑作。高校現代文の教科書に載せたいぐらい。

図書館(小説すばる 2008年10月号)
図書館の夜間開館を、動物園の夜間開園と同じようにとらえた妄想ファンタジーだが、図書館と自治体の役人と図書館運営コンサルの描き方がやっぱり上の2作と同様なリアルさ。
図書館長って市役所から降ってきた偉い人で本に思い入れのない人であることが多い。ただただ運営が支障なく継続できたら次の上位ポストへ移動していく。たぶん図書館の現場で日々業務を担当してる人にとっては邪魔さえしなければいい透明人間。

蔵守(小説すばる 2008年11月号)
蔵守なる仕事を使命としている者によるファンタジーポエム。それともディストピアSF?

以上4本。どれもが世にも奇妙な短編。個人的には「七階闘争」「廃墟建築士」は読んでる最中も驚きと感心しかなかった。

2024年7月26日金曜日

本多孝好「FINE DAYS」(2003)

本多孝好「FINE DAYS」(2003 祥伝社)を読む。21年前の本。無償でいただいてから5年積読本だった。ようやく読んだ。ラブ・ストーリー4本を収録とオビに書かれている。

本多孝好は1971年生まれ慶大法卒のミステリー作家としてデビュー。調べてみたら、この作家原作の映画は過去に3本見ている。本を読むのは今回が初めて。

FINE DAYS(小説現代 2002年3月号)
高校の教室で居残り反省文を書いている男子生徒、教師を叩いて反省文を書かされる美少女、夜遊び不良少女。青春のよくある風景…かと思ってたら、教師の飛び降り自殺。
うーん、それほど好きじゃない。

イエスタデイズ(小説NON 2000年5月号)
病床の父から頼まれた人探し。結婚する以前につき合っていた女性との間に子どもがいる…という告白。

眠りのための暖かな場所(小説NON 2001年4月号)
幼少時に妹を亡くしたことで今も苦しんでいる法学研究室の大学院生「私」は、刑法の老教授の仕事を手伝いつつゼミ生の面倒も見る。結城というスラっとした学生が周囲と関係を持とうとしない。この学生は姉と二人暮らしなのだが、この姉の存在が確認できない。

結城の周辺で不審な事故が起こってる。結城に気がある女学生も交通事故。やがて結城と同じ村出身だという男が現れ、結城の姉はすでに死んでいるのでは?殺されているのでは?という持論を聞かせてくる…。
これ、読んでいてどう展開するのか?どういうジャンルなのかわからなくて困惑してた。どう読んだらいいのか不安定な気持ちにさせる。
社会派サイコ超能力ミステリー?!ま、世にも奇妙な物語系のドラマ。力作で味わい深いともいえるが、自分はあまり納得もしてない。

シェード(書下ろし)
アンティークショップの老婆主人から聴かされるガラス職人の話。
これがいちばん短くて評判がいいようだが、自分はこれがいちばんダメだった。

うーん、4本すべてどれも自分と合ってないw 

2024年7月25日木曜日

ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」(1869)

ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」(1869)を読む。荒川浩充訳(1977)創元SF文庫(2010年32版)で読む。挿絵は南村喬之。創元文庫版を選んだ理由は他社だと上下巻に別れてるから。
これは7年前にBOで見つけて108円で買っておいたもの。かなりキレイな個体。7年積読本をようやく読み始めた。
VINGT MILLE LIEUES SOUS LES MERS by Jules Verne 1869
世界中の海で目撃される燐光を発する謎の巨大な黒い物体。ついには鋼鉄の船舶にも傷をつける事態。
パリ博物館のアロナックス教授は未確認の巨大なイッカク説を主張。アメリカ海軍最速の戦艦アブラハムリンカーン号に乗り込み、海面下の謎の物体を追い求め世界の海を駆ける。

そしてついに謎の物体を発見し交戦。アロナックス教授は衝撃で海に落下。氏の生物分類学助手で忠実な従僕コンセイユも一緒に氏を助けに海に飛び込む。やがて波間を漂うベテラン銛打ち名人ネッド・ランドと合流。巨大な黒い物体の上。ネッドによればこれは鯨などの生物でなく鋼鉄製の船。

アロナックスら3人は何人かわからない男たちにより軟禁。フランス語、英語、ドイツ語、ラテン語で話しかけるのだが通じない。こいつら何人なんだ?!
やがて船長らしき人物がやってくる。わりと温和そう。得体の知れない食事も与えられる。取って食われる心配はなくなった。

この人がネモ船長。そして捕らわれた海底の船がノーチラス号
すべて海面下でエネルギーを賄っている。押川春浪「海底軍艦」を読んだときも感じたけど、この時代の人々は未来のエネルギーに関して楽観的。それほど巨大な船を高速で移動させ熱と光と衣食住を賄ってくれるエネルギーが海水から得られるとすれば、人類のたいていの不安は解決。

ネモ船長はアロナックス教授らの話す言葉がすべてわかっていた。これほどの巨大艦を建造し大量の書籍や絵画美術品も積み込んでいる。海底を自由に動き回ってる独立国のような存在。どうやら地上の人類に絶望し関係を断った様子。3人にはノーチラス号内部を自由に歩き回れるが、元の欧州世界に帰ることは許されない。

あとはひたすらネモ船長がアロナックス教授を世界中の海を案内して説明ガイドしてくれる話。それは未来人が劣った文明人に語って聴かせるような内容。
それだと退屈なので、狩りに上陸した島で土人に襲撃されたり、セイロンに真珠とりを見学に行って鮫に襲われたり…。

地理学はよいのだが、当時の生物学による知見と教授独白による説明部分が多すぎる。長すぎる。それを全カットすればボリュームを半分にできる。現代人がこの箇所を活字で読んでもそれほど楽しいものではない。

この冒険小説の舞台となってる世界ではまだスエズ運河が開通していない?!調べてみたらスエズ運河開通は1969年11月17日。
で、そのスエズ地峡の地下には、ネモ船長だけが知る紅海と地中海を結ぶ海底トンネルがあるという設定は驚いた。

海底火山、アトランティス、そしてクライマックスはたぶん南極点への到達。
この時代の南極知識がどうやら現代と比べてたぶんおかしい。接岸してから2時間で南極点に到達している。
そしてノーチラス号は厚い氷に閉じ込められ、酸素濃度低下による窒息死寸前にまで追い詰められ危機一髪。
そして、オオダコとの格闘。

ネモ船長による3人の幽閉は7か月。以前からネッドは脱出の機会を窺っていた。アロナックスもネッドに同調しネモ船長に交渉するのだが相手にされない。しかも不機嫌になってる。
そして軍艦との交戦、アロナックス博士とネッド、コンセイユの3人は脱出を決行。しかしそこはノルウェー沖の大渦巻!どうするどうなる?

想像力とスケールがハチャメチャにでかい。さすが150年の時間を耐えた名作。アロナックス、コンセイユ、ネッドの3人のキャラが良い。
一方でネモ船長の得体の知れなさ、ノーチラス号のその他の船員の存在感のなさ。現代の作家がこんなキャラ描写だったら、文が下手と批判されるかもしれない。
訳が19世紀の古典をそのまま訳したようで古風な感じだった。挿絵はできればヴェルヌの時代のリウーのものが見たかった。

2024年7月24日水曜日

相原実貴 / 西崎めぐみ「ホットギミックS」(2005)

相原実貴 / 西崎めぐみ「ホットギミックS」(2005 小学館パレット文庫)を読む。
こいつもそこにたまたまあったのでもらってきて読む。自分、タダのものはもらって読まないといけない気になる性分。

「ホットギミック」は別冊少女コミック誌に2000年から2005年まで連載された相原実貴による少女漫画。
自分が「ホットギミック」を知ったのは、堀未央奈、間宮祥太朗主演の映画「ホットギミック ガールミーツボーイ」(2019)。
こいつを見たので登場人物のキャラと相関関係はわかってる。
しかし、この小説版は原作者相原が用意したコミック版とは異なるラストのもの。

ヒロイン成田初16歳高2の住居が父(単身赴任中)の勤務する商事会社社宅。会社での上下関係がそのまま子どもたちにも当てはまるとか地獄。社宅妻たちは常務の妻に頭が上がらない。

しかも初は常務の息子橘亮輝に所有物のように扱われる。こういっちゃなんだが奴隷。なんでそんな異常な設定なん?
社宅は子どもたちが高校生になるまでに出るべき。

ヒロインの血のつながらない兄成田凌はなぜか優秀で一橋大学の学生。
てかなんで一橋?てかなんで東京商科大だったのに一橋?一橋家と関係ある?もしかして田安大学とか清水大学になっていた可能性もある?徳川家と繋がりそうな名前が名門ぽいって戦後民主主義と相いれなくない?東京工業大があるのに商業大はなぜない?

で、兄凌は血のつながらない妹初を好き。キスしたり抱きしめたり。そういう兄だときっと狂気のような熱い目線で妹を見ているはず。なのにそういう記述はない。

てか、16歳ヒロイン主観の考えと喋りなので、いい大人が読むには読みにくくてたまらない。女子中高生が対象にしても、谷崎や三島のような文体でも今の子は十分理解できるはず。
このヒロインが、兄が家に連れてきた同じ大学の同じゼミ生女を見て、即座に自分の胸の大きさと比較し評価判定をするの、なんなん?

保護司母が引き取って養子にした兄は家を出るためにバイトをしている。この兄の生れたときから引き取られるまでが描かれていて地獄。てか児童虐待JAPANという地獄。
いろんなバイトをしてるのだが、ツアコンのバイトで遭難者救助で自身も遭難?もしそんな危険な仕事をさせて一橋大学生を骨折の重傷を負わせたら、旅行会社の責任はどうなる?

この小説版は原作者が挿絵イラストも描いているのだが、ラストシーンは日本語が読めない人が見たら「死んだ?」と思うに違いない。
短いし、1ページの活字密度が低い。結果、内容が薄い。中学生でもすぐに読み終わる。

2024年7月23日火曜日

中川右介「世界の10大オーケストラ」(2009)


中川右介「世界の10大オーケストラ」(幻冬舎新書 2009)を読む。これ、無償でいただいてきた本。新書なのに500P以上あって大ボリュームな内容。噛み砕きながら読むとすごく時間がかかった。この著者はコンサートプログラムとクラシック音楽演奏家の経歴から近現代史を教えてくれる。

世界の名門オーケストラ、とくに指揮者の帝王カラヤンと関係が深かったオケの歴史についての本。オーケストラ設立からカラヤンの死、東西冷戦終結あたりまで。

だが、カラヤンとほとんどなじみのないオケも章をさいて解説。
この著者は長年カラヤンやフルトヴェングラーについて調べてるうちにため込んだ知識でさらに別の本を書いた感じ?

有名指揮者たちの音楽性や芸術性についてはまったく触れないw 名門オケの首席指揮者や音楽監督といったポストをめぐる人事と政治のダイナミクスのみに焦点。戦争、ライバル、批評家筋、太客、文化担当当局、権力者、運不運、…。

ベルリンPOやウィーンPO、ニューヨークPOといった歴史のある名門オケのことは、これまで聴いて多くのCD解説書や書籍なんかでおよそのことは知っていた。しかし、それでもこの本(他の中川右介書籍)から得られた知識は膨大。「へえ!?」の連発。

ベルリンPOってせいぜいニキシュの時代ぐらいまでしか知らなかった。ベンヤミン・ビルゼ楽団?なにそれ。

とくに、コンセルトヘボウO、イスラエルPO、ロンドンのオーケストラ事情についてはほぼ初めて知ったことだらけ。
  • アムステルダムのコンセルトヘボウは老指揮者にとって退出のとき階段を登るのが大変?!
  • 日本がサンフランシスコ条約で独立して最初に国交を結んだ国はイスラエル?!
  • トマス・ビーチャムってあのスミスクライン・ビーチャム製薬のビーチャム?!
そういったことに驚きながらページをめくった。

2024年7月22日月曜日

夏目漱石「坑夫」(明治41年)

夏目漱石「坑夫」(明治41年)を読む。新潮文庫(平成10年25刷)で読む。これは春ごろに110円で購入したもの。
昨年、村上春樹「海辺のカフカ」を読んだとき、この「坑夫」が出てきたのだが自分は読んでなく居心地悪かった。今になってやっと読む。

漱石が朝日新聞入社後「虞美人草」に次いで連載した第2作。
タイトルから勝手にてっきり炭坑労働者ルポみたいなものを想像していた。かなり違っていた。
家を出奔した世間知らず主人公19歳(いちども働いたことのない中流家庭)が、東京郊外まで徒歩でやってきたところ、茶屋にいたどてら姿の斡旋屋(ポン引)に下から上まで見られて「お前さん、働く了簡はないかね」と尋ねられる。
「働いても善いですが」そして汽車と徒歩で足尾銅山へと連れていかれ、そこで坑夫として働く青春小説。

漱石の小説の主人公らしい視野の狭い自分勝手な心の声で、読んでいて笑いとツッコミが絶えない。
銅山で働く若者を斡旋する男を服装から心の中で「どてら」と呼ぶ。途中、浮浪者のような若者もスカウトするのだが、こいつは身にまとっていたものから「赤毛布」。さらに、途中で芋を与えた小僧も連れて行く。それ、ほぼ人さらいでは?明治の職業政策はどうなっている?ほぼ江戸時代と変わってない?

銅山にたどり着くまで、牛小屋のような家で寝たり、たどり着いたら、書生みたいな見た目の主人公には無理だと止められる。
布団には南京虫。とにかく不衛生。でも他に行くところもない。
仕事開始まで全体のほぼ半分のページを費やしてる。とにかく主人公の心の声が長い。呆れるほど長いw 漱石の書く若者と文体には毎回感心させられる。

労働条件や仕事の説明もないまま現場に投入。坑夫は明治時代の社会の最底辺の仕事かもしれないが、暗闇の坑道で働くには事前に十分な安全教育と訓練がなければいけない。危ない。(シキって何?どうやら「間歩」のことらしい。)
初さんというベテランにくっついて、抗の一番深いところまで行く。こちらを試してくる。
ここ読んで、「千と千尋」を連想。たぶん、本人の意思と関係なく兵士として軍に入れられた若者もこんな感じかもしれない。

初さんとはぐれた後、坑夫らしくない知的な安さんと出会って、安さんの話を聴く。主人公はここを出て東京に帰るように諭される。

「海辺のカフカ」で大島さんが語ってたように、「坑夫」は誰しもが一度は身に覚えがあるようなヘンテコなバイト体験記だった。とくにストーリーというものはない。
短い準備期間で取材して連載小説に取り組まないといけなかった漱石の苦労も感じた。
でも、自分としては明治の若者の奇妙な体験記として面白く読んだ。一度は読むことをオススメする。

2024年7月21日日曜日

赤川次郎「三姉妹探偵団②キャンパス篇」(1985)

引続き赤川次郎「三姉妹探偵団②キャンパス篇(1985 講談社NOVELS)を読む。
処分するというので無償でもらい受けてきた赤川次郎をすべて読むという修行13冊目。そろそろゴールが見えてきた。
この表紙イラストはいかにも80年代。こういうイラストを掲載する意味も効果もわからない。

またしても佐々本三姉妹は父が米国出張中。長女綾子の通う女子大の文化祭に落ち目歌手を呼んだらマネージャーが殺され、過去の事件が浮上し、爆弾騒ぎがあり、鉄アレイが落ちてきたり、警備員が自殺未遂するなどの騒動に巻き込まれる話。

三姉妹(主に長女と次女)主観で、刑事や大学関係者なども登場し、わりと散漫な内容であんまり没入して読める感じじゃなかった。
事件としても、その背後関係も、あまり納得いかなかった。
アイドル女優主演のライトなミステリー連ドラのあまり出来の良くない第2話といった感じ。

若い女を3万円で買った中年男がパンツ一枚でホテルの廊下に出てきて女子高生夕里子を見つけて迫ってくるとか、現実的にありそうもないシーン。そんなの野生のイノシシと出くわすぐらいありえない。やはり40年前の感覚で書かれたユーモアぽい。

「三姉妹探偵団」は人気シリーズらしくて多少は期待したのだが、とくに新鮮なこともなく、やはり自分とはあっていなかった。暇だからめくったにしても失望。もうこのシリーズは自分から求めて行って読むことはないなと。

2024年7月20日土曜日

赤川次郎「三姉妹探偵団①失踪篇」(1982)

赤川次郎「三姉妹探偵団①失踪篇」(1982)講談社ノベルスを読む。これも処分されるという中からキレイなものだけ選んでいただいてきたもの。
「ユーモアミステリー」と銘打ってある。昭和57年当時はそういうジャンルだと明記しないといけない雰囲気だったのかもしれない。

佐々本家の三姉妹は夜に自宅が火事で逃げ惑う。父は札幌出張で不在。
親戚もいない三姉妹。長女で大学生の綾子、三女で中学生の珠美は中学教師の家に、次女夕里子は友人の家にとりあえず泊めてもらう。

焼け跡の父の部屋の押し入れから女性の全裸焼死体が見つかる。検死の結果、刺殺されたらしい。
そして父は出張ではなく、会社に休暇を申請して行方知れず。警察は指名手配。家もお金もなくどうやって生きていけば?途方にくれる三姉妹。

頼りにならない長女、しっかりした次女、会計係になった中学生三女、父の冤罪をはらすべく調査開始。

80年代初頭だからか?父の会社の人々が酷い。父を殺人事件の犯人と決めつけてる。殺された女性の調査のためにバイトとして潜入した長女も「仕事ができねえ」とパワハラ。

中学校で三女は金を奪われそうになる傷害事件。夕由子は浮浪者から襲撃。この時代の日本の治安、悪すぎんか。
さらに長女綾子はやっかになってる中学教師が自分のこと好きになってるぽくて、奥さんに罵られる。こんなの地獄。読んでてぜんぜん楽しくないw
今のZ世代がこの本読むと、姉妹の会話が狂ってると感じるかもしれない。これが80年代ユーモアだ。

3ぶんの2あたりから、姉妹の身近な人物の造形が犯人のそれらしくなっていく。いや、これは読者を陽動する作戦か?とも思ったのだが、やっぱりそうなっていく。なので犯人はそれほど以外でもない。無計画で粗暴すぎる犯人。
それより、三姉妹の父が天然でどうしようもない。どんだけ娘たちに心配と苦労をかけてるんだ。

標準的で典型的な赤川次郎サスペンスだった。それほど評価もできない娯楽作。
自分、この1年でだいぶ赤川次郎を読んだけど、面白いなと感じるものに出会う確率は1割台だと思う。

2024年7月19日金曜日

原武史「レッドアローとスターハウス」(2012)

原武史「レッドアローとスターハウス もうひとつの戦後思想史」(2012 新潮社)という本をいただいたので読む。
なぜに表紙デザインがロシア構成主義っぽい?それはこの本を読めばわかる。

西武線沿線の「ひばりが丘団地」と「滝山団地」で生まれ育った筆者による、西武沿線と巨大集合住宅における戦後思想史…という触れ込み。

自分も長年東京に暮らしているので、王子、豊島、神谷、赤羽台、桐ヶ丘、北赤羽なんかで集合住宅というものは見ている。しかし、東京西郊の西武新宿線、池袋線に挟まれたエリアはあまり馴染みがなくて、「ひばりが丘」は名前はなんとなくしか知らなかった。スターハウスという存在も、この本を読むまでなんとなく聞いたことあるなという程度だった。

23区の劣悪な木賃宿から西郊へ脱出した戦後の若い家族たちが、無味乾燥なプレキャストコンクリート製の箱のような集合住宅が立ち並ぶ団地に住み、バスや鉄道で都心の職場へ通うというライフスタイルは、本人たちはアメリカ化してると思っていたかもしれないが、実はフルシチョフ時代モスクワの集合住宅ノーヴィ・チェリョームシキと似たものだった!それ、自分は気づいてなかった。

この本、思想史というけれど、その大都市郊外の団地で日本共産党が党勢拡大していく様子が詳しく書かれてる。ま、同じランクの学歴と所得層が同じ場所で均一な生活を送っているのなら、その婦人たちが市民運動と政治に関心を持ち、公民館に集まり自治会をつくり、革新左翼政党支持になっていくのはわかる気がする。

戦前から結核病院やらハンセン病の療養所が作られた清瀬から東村山。そして田無、保谷、の団地では共産党支持層が多かった…ということを知った。

そして西武鉄道の堤康次郎。この人は衆院議長を務めるうちに、1億国民の代表者で天皇と対等だと自身を思い込んでしまい、ついには鎌倉霊園に巨大な墳墓を作ってしまったもうひとりの天皇。

池袋と秩父を結ぶ特急レッドアローは運行開始が1969年10月13日。開通式で運転士に花束を渡したのは女優の酒井和歌子。
今まで考えたことなかったけど、レッドアローってどこかネーミングセンスがソ連ぽい。康次郎の息子・辻井喬はモスクワとレニングラードを結ぶ夜行列車クラースナヤ・ストレラーに乗ったことがあったらしい。そういうことだったのか。

2024年7月18日木曜日

与田祐希「量産型リコ 最後のプラモ女子の人生組み立て記」

与田祐希主演のテレ東ドラマ「量産型リコ」もついにシーズン3で最終章「最後のプラモ女子の人生組み立て記」が6月28日から放送中。
テレ東深夜アイドルドラマはどれも畑中プロデューサーによる原案脚本。
このドラマシリーズはすごい。そのシリーズすべてがキャストが変わらないのに設定と役回りと世界観が微妙に違うパラレルワールド。ある年代以上の人にわかりやすく説明すると市川崑の金田一耕助シリーズ。
今回は祖父が亡くなって葬式で実家に帰り、そのまま夏休みという設定。前作ではリコのベンチャー企業で同僚(元銀行員)会計係だった矢柴俊博が父に、同僚でつき合いにくいお姉さんだった市川由衣もそのままヒロインの姉に収まってる。
そして新レギュラーとして浅香唯ママが登場。
このドラマ、てかテレ東深夜ドラマはとくにストーリーがない。なので途中から見てもいいし、途中で離脱してもかまわない。説明できるような内容がない。今回はいなかでまったり過ごしてるのみ。ゆるキャンみたいなもの。

矢島模型店の田中要次は毎回変わらない質感でそこにいる。それは安心感。
あと、アルバイト店員石田悠佳(LINKL PLANET)もそこにいる。
ヒロイン璃子は派遣社員という設定らしいのだが、第3話でアイドル推し活にのめりこむ母を尾行するシーンでたすき掛けしていたカメラはフジフィルムX100Vという高級機で30万円ぐらいするやつで驚いた。なぜにこんな田舎中学生みたいな風貌でそんなプロユース機材を持っている?
で、第3話に登場する小向家行きつけの「スーパー ナカムラ」が東京西多摩の瑞穂町に実在するというので、友人とBBQ食材を買いに立ち寄った。地元密着の小規模なスーパー。
撮影当時とまったく変わらない風景がそこにあった。
店内には「ロケ地になりました!!」という告知ポスターまでも。
小向家で三姉妹が食べていたスイカを買い求めた。さらに、晩御飯のオカズ類と、地元東京瑞穂産のとうもろこし、スーパーナカムラオリジナルの今川焼と、鰻入りおいなり4個パックも買って帰った。「量産型リコ」視聴者で、ここまでどっぷりリコ世界を楽しんだ者は他にいない気がする。

2024年7月17日水曜日

ジョン・ダニング「封印された数字」(1975)

ジョン・ダニング「封印された数字」(1975)を松浦雅之訳ハヤカワ・ミステリ文庫(1998)で読む。
べつに読みたい本というわけでなく、無償でもらってきた文庫本。数年積読していたものをやっと読む気になった。
THE HOLLAND SUGGESTIONS by John Dunning 1975
ジョン・ダニング(1942-2023)を読むのはこれが2冊目。この本が「死の蔵書」「幻の特装本」に続く邦訳3冊目?書かれたのは1975年。「死の蔵書」で話題の人気ミステリー作家が、まだ駆け出しの「作家もどき」が初めてフィクション小説を書いたという苦労を、序文で書かれてる。

建設会社社員ジム・ライアンは16歳娘ジュディと父娘で暮らしてる。ジムと妻ヴィヴィアンはかつて心理学者(催眠術の研究?)のロバート・ホランド教授の実験に参加し、ホランドは妻と不適切な関係。ホランドは教授職を追われ、ヴィヴィアンはジュディがまだ幼いうちに出て行ってしまい以後17年間音信不通。

ジムはジュディに妻のことをあまり話していない。年頃の娘の性に悩む父。秘書と不仲。酒の量が増え、仕事で重大なミスを犯しそうになりボスから休暇を命令。

差出人不明の封筒。中から写真。山中の洞窟と崖路。え、どこかで見たことあるかも…というデジャヴュ。気づいたら、無意識にマルタ十字と「50、96、12」という謎の文字も書いてしまう。それは催眠術によって脳に埋め込まれた記憶?

ヴァージニアからマイカーの旅。途中でヒッチハイカー娘エミリーを拾う。そしてコロラドのヒッピー村隣接のゴーストタウンへ。
主人が趣味でやってる人けのない宿なのに、なぜか他にマックスという登山家とジルという女性。途中からなぜか雪山の山小屋。

スペイン時代の廃金鉱山の伝説。黒いオールズモビルが行く先々で目撃。散弾銃で撃たれた死体。そして写真で見た洞窟。
読んでいてハラハラはするのだが一体何がどうなってるかわからない見通しの悪さ。主人公の行動も周囲の人々の行動も謎。まあこれがサスペンス小説というものだが。

70年代アメリカは中西部各地に金鉱ゴーストタウンが今よりもたくさん現存してたに違いない。埋蔵金伝説とか、大人の冒険小説の雰囲気。終盤は死屍累々。そこはホラー。

この本を褒めてるひとはほとんどいない。終わり方もスッキリしない。
たぶん作者本人もそれほど気に入っていない。この本の価値は今後も低下していくだろうと思う。

2024年7月16日火曜日

倉田百三「出家とその弟子」(大正6年)

倉田百三「出家とその弟子」(大正6年)の平成7年新潮文庫を無償でいただいたので読む。積読2年なので読む。

倉田百三(1891-1943)は広島県比婆郡庄原出身の劇作家だが、ほぼ「出家とその弟子」しか知られていない。22歳で結核のために一高を中退、闘病中の26歳でこの日本文学史で有名な宗教戯曲を書き上げた。
自分はこの人を高校時代から作品をセットで名前だけ知っていた。現国でなく日本史の先生がこの作品を語っていたのを覚えている。

戯曲なので読んでいてそれほど読みにくさを感じない。それほどボリュームはないし文体も平易なのだが、なにせ日本思想史の巨人・親鸞(1173-1263)の話す言葉なので、ゆっくり読むので時間がかかった。

常陸の国を行脚中の親鸞と慈円(?)と良寛(?)。雪の夜、一晩の宿泊を家主に請うのだが、日々の境界争いに疲れ、厭世気分で酒を飲んで虫の居所が悪かった日野左衛門に追い出される。妻と11歳の息子がお坊さんにそんなことしちゃダメと制止するのに。このシーンがちょっとショック。
だが酔いがさめると後悔。まさかまだその辺に居ないよね?と外を見ると、雪の中で寝ている。思い直して親鸞一行を部屋へ。左衛門は悔い改める。この息子が後の唯円。

唯円は親鸞の忠実な弟子で側近。だが、この若者が遊女との恋愛に悩み苦しむ。その救いを信仰に求める。親鸞「恋は人間誰しも避けて通れない」
この戯曲、名前のある登場人物は少ない。修行僧たちと女たちもいるけど、ほぼ親鸞と唯円の会話。恋愛と性愛。宗教戒律との相克。

自分、浄土真宗じゃないので親鸞という人にそれほど馴染みがなかったのだが、この戯曲を読んで「ええ人やん」って思った。唯円を「けしからん!」「追い出せ」と苦情を言ってくる弟子たちに「怒るな」「善悪を裁くな」「赦せ」
これ、悪罵が行き交うSNSで親鸞が何か言ったとしても、世間は「ごもっとも」と思えるかどうか。

親鸞には善鸞という不肖の息子がいる。こいつは仏を信じなくなっている。唯円はほぼ勘当されていて弟子たちからも嫌われている善鸞を、赦しを得て親鸞と会わせようと努力。悪人に対して「赦せ」と言うのに、なぜに息子は許さない?

そして親鸞の最期。自分、親鸞が90歳と長寿だったことを知らなかった。多くの弟子たちに見守られながらの大往生。だが、やってきた善鸞。集まった人々の視線と期待を集めるのに、「仏を信じる」という一言が言えない。なんで?
しかし、鷹揚な親鸞。「それも良い。調和した世界だ。南無阿弥陀仏」

倉田百三による歎異抄の舞台作品。歴史に名を残す宗教家の言葉は聴いていて心持が良い。感動的。

親鸞の弟子の名前が慈円と良寛ってどういうこと?親鸞の時代に鉄砲ってあった?!親鸞の時代に三味線ってあった?!と読んでいて混乱したのだが、大正時代に「時代考証」というやつはたぶんなかった。つい批評しながらドラマや映画を見ることに現代人は慣れすぎて毒されている。

2024年7月15日月曜日

小池美波が初めて読んだ伊坂幸太郎

ダ・ヴィンチ2020年8月号「伊坂幸太郎の20年」を特集。各著名人たちが伊坂幸太郎を語っているのだが、その中に当時欅坂46の小池美波のページがある。

小池美波が小学生時代に初めて読んだ伊坂幸太郎は「死神の精度」。当時の小池美波はまだ読書の習慣がなかったそうだが、母親が買ってきたので「じゃあ読んでみよう」というものだったらしい。
これ、よほどのオタじゃないと知らない豆知識なので、ここに備忘録として記録。

この本を読んだことで小池は「死」というものを考えるようになったらしい。

そして、小池がもう一冊名前を挙げたのが「グラスホッパー」
  • 「自分とは全然違うタイプの人だってちゃんと感情があるんだなって改めて思い知りました。」
  • 「自分と100パーセント違う人なんて本当はいないのかもしれない」
  • 「『人生を有意義にする一番の武器は礼儀だ』というセリフが、今の私にとって大事な言葉になっています。」
とのこと。
そしてもうひとつ、田村保乃(Nobody's faultリリース期)もダ・ヴィンチ2021年1月号小川糸「ライオンのおやつ」という本を一冊選んで紹介している。
  • 「この本を読むまで、死について考えたことがなかったんです。」
  • 「私よりも幼いのに余命宣告されている子も出てきて、号泣してしまいました。」
  • 「いま生きていることは奇跡なんだなと思えたんです。」
  • 「私は過去のことでクヨクヨしたり、未来を思っては不安になったりしがちなんですけど、まずは今を精一杯生きようと考えさせられました。」
田村も本で「死」のことを考えていた!
正直、自分は小川糸を読もうと思えない。というのも「食堂かたつむり」という映画を見たとき、なんと品のない浅い作品なんだ…と感じたのを今も引きずっているから。
そして田村保乃といったら「マザー・テレサ」の伝記。田村は美人なのにピュア。

2024年7月14日日曜日

恩田陸「光の帝国 常野物語」(1997)

恩田陸「光の帝国 常野物語」(1997)の2000年集英社文庫をもらったので読む。
裏書を読むと、超能力ファンタジー連作短篇?たぶん自分とは合わないだろうと予想。

膨大な日本古典を暗唱している春田家の人々、未来を見通す力を持つ少女、神隠しが頻発する山、何かと戦っているキャリアウーマン、200年生きる老人、……。

常野一族をめぐる連作短篇ということだが、相互にあまり関連はないように想えた。
筒井康隆とか、そういう特殊能力ファンタジーSFか?
街を行く人に草が生えていてツタで覆われるイメージは新鮮だと感じた。この本を楽しめる人はイメージを楽しめる人。

だが、それ以外は「…」と無になっていた。とくに感想はない。

2024年7月13日土曜日

高山一実「トラペジウム」出版時のインタビュー記事

アニメ映画「トラペジウム」が公開直後こそ出遅れたものの、じわじわとSNS口コミでその内容の文学的素晴らしさに気づく人が増え始め、劇場に足を運ぶ人が増えた。日々、X上では「〇〇回目の鑑賞」を報告するリピーターも散見。もうこれは2024年上半期の邦画とアニメ映画の話題作と呼んでよいのではないか?ひょっとして映画賞ノミネートとかも夢でないかもしれない。

「トラペジウム」は2016年5月号に初掲載され、2018年9月号まで隔月連載された後に、大幅に加筆修正され単行本化。
発売時の高山一実インタビュー掲載の「ダ・ヴィンチ」(2019年1月号)が部屋の片隅にあることに気づいた。ぱらぱらとめくってみて、改めて「おぉ」と思った箇所に注目。
  • 「この本を読んでいただくことによって、私のアイドルとしての一幕が終わる。今までの高山一実が、アイドルとしてやってきたことの区切りがひとつつくのかなって……」
  • 「普段読む者はミステリーが多かったので、さわやかな小説というよりは、非日常的なぞわぞわしたやつを書こうかなって最初は思っていたんです。でも、本当にそれを書きたいのかなって何回も自分自身に確認したら、しっくりこなかった。本当に自分が書きたいもの、自分だから書けるものは何かなと考えていったら、アイドルという題材に辿り着きました。私は実際にアイドルをさせてもらっているし、もともとアイドルが好きだし、アイドルになりたいという気持ちもよく知っている。そこを書けるのは、自分の強みなんじゃないかなって思ったんです」
  • 「地元でカワイイと噂されている子たちって本当に最強にかわいい。でも、その子たちはアイドルになっていない。私はずっとアイドルになりたかった人だから、こんなにかわいいのに、なんでアイドルになりたくないんだろう?って疑問が昔からあったんですよ。」
  • 「私自身がアイドルになった後で、アイドルになれるんだったらもっとこういう生き方をしておけば良かったと思ったことを、東には全部させてみたんです。英語がしゃべれる、とか(笑)」
  • 「(東は)策士だと私も思います(笑)。特に最初のほうは、他の女の子には気付かれないように、よろしくない態度をたくさん振りまいているんですけど、本当はもっと策士で嫌な人にする予定だったんですよ」
  • 「学校も個性も違うこの4人が一緒にいるのはなぜか?東としては自分の計画のための、嘘の優しさだった部分もたくさんあると思うけど、その優しさに助けられていたんですよね、他の3人は。表面的に仲良くしているだけの、薄っぺらい関係ではなかった。だから、東が間違った行動をした時に、他の3人が正してくれるようになっちゃったんですよ。そのおかげで、東の計画がなかなかうまく進まなくて大変だったんです」
  • 「ダ・ヴィンチさんから小説を書きませんかというお話をいただいた時に、気持ちをぶわーっとスマホのボイスメモに喋った音声が残っている」
  • 「連載終了後に本にするため第1話から読み直してみたらぜんぜんダメで、全部書き直さなきゃ!って絶望しました。まず、最初の頃の文章がかなり恥ずかしくて。今の私はこの文章は認められないっていう書き方ばっかりだったし、全部書き終えたうえで東の性格がやっとわかったので、東はこの状況でこういうことを言わないなと。連載を始めた頃から時間も経っているので、その時見ていたアイドルの世界と、今思うアイドルの世界はちょっと違う。削ったり足したりを、半年近くずっとやっていました」
  • 「この小説で出し尽くした感じがするので、しばらくは吸収したいなって思います。本を読む期間にしたいです。語彙力もまだまだなので、勉強もしたい。でも……みなさんが読んでくださった反応で、小説をすぐまた書きたくなるかもしれないです!(笑)」
高山一実、いまもまだ新作は出ていない。今年の夏、結婚を発表。
自分、今まで一度も高山一実を女として見たことはないwのだが、誰と結婚したのかとか興味がないのだが、相手の男のXアカウントを探し出しブロックしたw 

さらに、クイズノックのアカウントもブロックしたw 以前から、クイズノック製作の芸能人クイズ番組が多すぎると思ってたし、バラエティ番組での「さて、ここで問題です」という要らないやりとりが多すぎるなと思ってた。もうそういうのやめよう。
なお、この「トラペジウム」特集では、中村文則羽田圭介湊かなえの3氏が書評と激励の一文を寄せている。この3氏が高山一実を作った作家たち。

だが、自分がさらに興味を持って読んだ箇所は西野七瀬、齋藤飛鳥、長濱ねるの3にんが寄せた文。わりと長文なので一部のみ抜粋すると
西野七瀬「どの人物にも乃木坂メンバーの面影がにじんでいるように感じました。目標に向かって一生懸命な東ちゃんには、かずみんの性格が表れているように思います。」「表紙のイラスト、自分で言うのもおかしいけど、私に似てますよね(笑)」 
齋藤飛鳥「非常に羨ましい。見事だとしか言いようがない。アイドル兼小説家として歴史に刻まれてもいい。それ程までに素晴らしい。」 
長濱ねる「見透かされているようでどきっとしたり、ふと、ぽつんとした孤独を感じたり、最後にはどばどばと温かいものが流れ込んでくる丁寧で優しい物語だった。」
西野はマンガとゲームばかりなので本の執筆とか考えづらいが、長濱は今後いずれ本を書くだろう(昨年すでに初エッセイ集を出版)と思う。飛鳥は旅行記とか出せばいいのに。

2024年7月12日金曜日

京極夏彦「百器徒然袋・風」(2004)

京極夏彦「百器徒然袋・風」(2004 講談社NOVELS)を読む。これも無償でいただいてきた一冊。
オビに「薔薇十字探偵が撃砕する3つの怪事件!」とある。なので3本の短編を収録した一冊なわけだが、こいつが呆れるほど分厚い。なので普通に長編3本を収録したお得な一冊ともいえる。

自分、京極夏彦を読むのはこれが2冊目。2冊目がこれでいいのかわからないのだが、読み始めたら心地よく流れに身を任せられた。

第4番「五徳猫」(小説現代 2001年5月増刊号メフィスト掲載)
薔薇十字探偵・榎木津礼二郎の助手だという本島は、世田谷・豪徳寺で美津子という不幸な半生を持った29歳の女と出逢う。一家離散後に9歳で置屋に売られ、器量が良くもないために芸者にもなれず客もとれず、三業地・円山町の飲食業を経営する家で20年に渡って家政婦として奉公している。それって、戦後の新憲法日本で許されるのか?

美津子は空襲で焼け野原となった八王子に産みの母を20年ぶりに訪ねるのだが、母は自分のことがわからないという。
中野の古書店・京極堂の主人中禅寺秋彦の元を本島は訪ねる。民俗伝承蒐集家の沼上が先客として来ていた。ここから先は日本各地の怪猫伝説、猫と日本人の関係などの豊富な知識を聴かされる。招き猫の歴史を知る。
え、美津子が母を訪ねて行ったら母が母でなくなっているのは、日本各地でよく見られる猫伝承と同じ?!
終盤はドタバタ喜劇。

第5番「雲外鏡」(週刊アスキー 2001年8月7日号~10月30日号)
「五徳猫」で暴かなくていいことを暴いたせいで銀信閣が破産。出資者の加々美興行から恨みを買った薔薇十字探偵・榎木津。神田の事務所に出入りしている本島が拉致され神田のビルに監禁。
そこに駿東という老紳士(ヤクザ?)が耳打ち。縄を切って逃がしてくれるのだが、それだと裏切り者になってしまうからナイフで刺したフリという茶番を何者かに見せて逃がされる。

その話を中禅寺にする本島。中禅寺が本島の話を聴いて困惑。ひたすら榎木津を「バカ!」「迷惑!」「恥!」と本人不在の場所で罵倒しこき下ろす。
この話を読んで、このシリーズの主人公は榎木津ではなくて本島なんだと気づいた。

そして駿東は刺殺体で発見。権田という男が逮捕されるのだが否認。そして、名探偵の座をかけて神無月という探偵が榎木津に挑戦してくる…。
こちらも、困惑のドタバタ。

第6番「面霊気」(小説現代 2003年9月増刊号メフィスト~2004年5月増刊号メフィスト)
本島の友人で紙芝居描きの近藤の部屋に空き巣が入った。盗まれたものもあるのだが、近藤にも覚えのない封印された箱の中から翁の能面。

薔薇十字探偵社の元刑事探偵・益田が巻き込まれた窃盗犯疑惑。そして凡人・本島。すべて榎木津に関わったための騒動。最後は窃盗犯を懲らしめるドタバタ。

今回、京極夏彦の榎木津スピンオフ短編(ぜんぜん短編じゃない。むしろ長編。)3本を続けて読んだ。ああ、こういうものかと。3本すべてハチャメチャな榎木津が周囲を混乱させるというもの。
いい意味で冗長だなと感じた。いかなる状況も説明が不足しない。わかりやすい。

2024年7月11日木曜日

浜辺美波「ちょっと前まで暗かったのに180度変わった」

表紙が浜辺美波「ダ・ヴィンチ 2021年1月号」もいっしょにもらってきた。もう3年半も前。映画「約束のネバーランド」宣伝期。

浜辺は当時20歳。コロナ期間中にアニメを見たり初めての作家の本を読んだりと充実のステイホームを送ったという。結果、下半期は濃縮した仕事時間を過ごせたと満足気。
  • 「少し前までは、暗かったんです。自分の中で苦手だなと思うことが多くて、そっちばっかりに意識が向かってしまって。失敗することが本当にイヤな子だったんです。」
  • 「でも、周りに明るい人が多かったおかげで影響されて、性格が180度ばっと変わりました。例えば、「崖っぷちホテル!」(2018)でご一緒させていただいた戸田恵梨香さん。すごく笑う方だったんですよ。」
  • 「私も主演のお仕事をいただけるようになったこともあり、暗いままではいけないな、と。変わりたい、明るくなりたいという気持ちがどんどん大きくなったおかげで、今はもう失敗しているところを人に見られても全然気にしないです(笑)」
こうやって浜辺はさらに人気女優へと成長。表情が自身に満ち溢れて輝いてるし大人になってる。明るくなっていつもへらへら笑っているのは、酒飲みになったのも影響してるんじゃないか?
そんな浜辺が選んだ2020年の本が阿部智里「楽園の鳥」だという。自分、その作家を知らない。

2024年7月10日水曜日

長濱ねる新連載「夕暮れの昼寝」

ダ・ヴィンチ 2020年10月号もいただいた。4年前のイシューなので処分するというので。
この号から長濱ねる新連載「夕暮れの昼寝」を開始。第1寝「長崎の銭湯にて」を掲載。

自分は知らなかった。長濱ねるが角川書店からエッセイ集「たゆたう」(2023年9月1日)を出版していたことを。
ツイッターフォローしていたのに、日々膨大なタイムラインのうちに見逃していた。
21歳を目前にした長濱ねるが、いきなり短編小説でなく、まずエッセイを選択したことは正しい。エッセイはブログの延長線といった感じ。

この連載1回分しか読んでない。ねるは長崎に帰省するとかならず、高台にある銭湯に行くという。へえ。

あと、初めて知ったのだが、長濱ねるの右わき腹には1センチほどの大きさの穴が開いているという。中学生の時、通学路の藪でマダニに噛まれパニックになったという。医者に行って除去してもらったらしい。マダニは怖い。
さて、「たゆたう」をどこかで買ってこないといけない。

2024年7月9日火曜日

長濱ねるは「ハライチのターン」のヘビーリスナー


BRUTUS 特集「なにしろラジオ好きなもので③」2021年3月15日号を無償でいただいてきた。持っていることを忘れないためにここに備忘録として記録する。

ちなみに、自分はもう15年来ほとんどラジオを聴いていない。友人と遠くへ出かけたときFMを聴くぐらい。昔はYUI LOCKSとかPerfume LOCKSは必ず聴いていた。
たまに気になるゲストが出たと後で知ったとき、ネットで聴けるようになって久しい。世の中便利になったものだ。

ブルータス誌面で多くの人々が日本のラジオ文化愛を語っている。内容豊富で充実。とても語り切れない。
その中で、長濱ねるが自身のラジオ愛について語っている箇所が興味深い。

長崎で3人兄弟で育ったねるは、兄の影響で「SCHOOL OF LOCK!」を聴くようになったという。自分よりも上の年代のリスナーからの悩み相談などを聴いて、「地元を超えた友達がいる感じ」と表現。

東京で芸能活動をするねる。タイムフリーで「ハライチのターン」を毎週欠かさない。ま、昔は澤部に世話になったし。
メークの時間、移動の時間に聴いている。岩井のひねくれ方にいつも感心。「テレビと違ってラジオは攻めたことが言える」それがラジオの魅力。

2024年7月8日月曜日

谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のおんな」(昭和11年)

谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のおんな」(昭和11年)を読む。新潮文庫(平成8年61刷)を無償でいただいたので読む。
今まで気づいてなかった。谷崎の新潮文庫版の表紙デザインは加山又造(1927-2004)だったということを。

これ、123ページと短いのであっという間に読めてしまう。蘆屋の荒物屋の若主人庄造がリリーという雌猫を飼っているのだが、鯵を口移しで与えるなど異常な溺愛ぶり。
その一方で現妻の福子は呆れてるのか?とくに猫を可愛がるでもない。

福子に庄造の前妻・品子から手紙。「せめてリリーだけでもくれ」
福子の説得で庄造はリリーを品子へ渡す。品子は庄造の母おりんによって離縁させらていた。

品子は妹夫妻の家に身を寄せてお針子で生計をたてている。猫が心配でこっそり見に行く。リリーは庄造が20歳から30歳まで飼っていたので、もう老猫。だいぶ弱ってるので心配。
そこに品子が帰ってきて、慌てて逃げ出す…という、上方コトバによる男1人女2人の三角関係を描いた文芸。

読んでいて愉快ではあった。ドラマとして風景が頭に浮かびやすい。

昭和11年というと帝都では2.26事件が起こったりとピリピリした時代。だが、この庄造という男は想像を絶するダメ人間w なんだか覇気もないし母に甘えてるし従順のようでいてずるいというボンクラ旦那。蘆屋ではこれでよかったのかもしれない。戦前の関西はこんな人でも許されていたのかもしれない。

2024年7月7日日曜日

梓林太郎「北岳 殺意の岩壁」(1992)

梓林太郎「北岳 殺意の岩壁」というノベルス本を無償でいただいてきたので読む。こいつも図書館で除籍処分された本を無償でいただいてきたもの。

梓林太郎(1933-2024)という推理作家の名前はちらちら斜め視界に入ってはいたのだが読むのは今回が初めて。1992年11月に青樹社より刊行されたものを2004年にワンツーマガジン社ポケットノベルスより出版。

長野県警豊科署の刑事道原は、山梨県警から南アルプス北岳の「北岳バットレス」で落石遭難事故死亡者の連絡を受ける。所持していた保険証から豊科町の西島利広という名前が判明したのだがすでにその住所にない。松本市の妹にも現住所を知らせていない。

岩に血で文字を書いた形跡。殺人の線が浮上。西島は偽名を名乗って仙台市の建設作業現場で働いていた。いったいなぜピッケル職人だった西島が夜逃げ同然で仙台に?
所持していた写真には女性の姿が。新潟、小樽、各地で撮影したらしい写真も。

後日、穂高岳の涸沢で頭を割られて死んでいるカメラマンが発見。このカメラマンは西島が死んだ同じ日に北岳に登っていた?!予定を1日短縮して帰宅していた?

消えた男女の足取りを探る地道な出張聴きこみと裏取り。事件の全体像を解き明かす警察のお手並み拝見という硬派な刑事ドラマ。
正直、特に驚くような展開はなかったのだが真犯人にたどり着いたときは爽快感があった。末期がんの女を連れて流浪する男。「砂の器」を連想。

最近読んだ西村京太郎よりは楽しめた。北岳バットレスをググった。こんな山は自分は登れないなと思った。
驚くことに、この本を読んだ感想を述べている人がツイッターで検索してもほとんど誰もいない。

2024年7月6日土曜日

ロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」(1959)

ロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」(1959)を1979年矢野徹訳ハヤカワSF文庫(1996年31刷)で読む。
BOの100円棚で見つけて5年積読しておいたもの。108円の値札が貼られている。
STARSHIO TROOPERS by Robert A. Heinlein 1959
ようやく重い腰を上げて読んだ。読み通した。これ、結論から先に言って、自分はぜんぜん面白くなかったし楽しくなかった。苦痛だった。軍国主義者ハインラインが前面に出ちゃってるやつ。

そもそもぜんぜんSFじゃない。18歳ジョニーが軍に志願し、新兵シゴキに遭い、下士官イジメに遭う。こちらの人格を完全否定してメンタルを破壊しにくる上官たちの長広舌。そんなのいらねえ。
現代日本人は徴兵制がなくなってつくづくよかったと思う本。

たぶん老ハインラインの世代のアメリカ人は、アメリカ市民に生れた男の子は兵士になり祖国のために死ぬことが当然の美徳と考えていた。ジョニーの高校の恩師も父親も、ジョニーが軍に入隊したことは当然のことのように褒めそやす。
たぶん、ベトナム戦争までのアメリカはこんな感じ。若い兵士の犠牲で国が繁栄。

クモ怪獣と戦っている。一兵卒仲間も死んでいる。その前の訓練の段階で死んでいる。上官を殴り返した奴は兵籍剥奪で除隊。もう残りの人生はアメリカ社会では生きていけない。最悪なのは脱走兵の処刑。これが軍隊。

ハインラインからすると共産主義者は卵で増殖する蜘蛛と同じ存在。ソ連人も中国人も。
だがその思想と予想は合っていたかもしれない。現在のロシアと中国を見る限り。話の通じなさにおいてクモ怪獣と同じ。

自分が手に入れた文庫本は108円値札の下に560円の値札が貼られている。そんな値段で買わなくてよかった。

2024年7月5日金曜日

桐野夏生「錆びる心」(1997)

桐野夏生「錆びる心」(1997)を読む。2000年文春文庫で読む。桐野夏生を読むのはこれが初めて。
6本の短編を収録。1994年から1997年にかけて「オール読物」「小説現代」「小説すばる」誌などに掲載された後、1997年に文藝春秋社から単行本化。

こいつも処分するという中から無償でいただいてきた一冊。自分の場合、読みたい本があるから読むのでなく、読まれない本がそこにあるから読む感じ。本は山に似ている。
表紙から判断して、嫌な味のするサスペンス的な内容だと期待して読む。

「虫卵の配列」
ミミズやヤスデといった不気味な生物は触っても平気なのに、規則正しく生みつけられた虫の卵はダメだという女性の生物教師が友人に語る、とある劇作家との失恋打ち明け話。だが、その実態は話に聴いていたのとはまるで違っていて…。

「羊歯の庭」
学生以来再開した中年男女の不倫。女は陶芸を、男は絵を描くために田舎に家を買おうとするのだが、実はその家は事故物件だった…。

「ジェイソン」
自覚のない酒乱の女子大助教授。昨晩なにかやらかしたようだ。妻も家を出て行った。自分が何をやったのか友人たちに聴いて回るが、みんな口をつぐむ…。

「月下の楽園」
荒廃していく庭を見るのが好きという変態塾講師による独白。男に離れを貸した偏屈ババアの大家のカオスな争い。なんか乱歩っぽい。こういうクセの強い大家がいる物件を借りてはいけないと思った。

「ネオン」
歌舞伎町の中の小さなシマでシノギをやってる桜井組に、「仁義なき戦い」オタの若者が組員にしてくれとやってくる。似非広島弁を話す島尻に不安を感じつつも組に入れることを決定した桜井だったのだが…、というヤクザ映画の一場面のような読物。

「錆びる心」
家出妻が住み込み家政婦の仕事を探すのだがなかなか条件のいいところは見つからず。やっと見つけた家には知恵遅れの20歳ぐらいの娘と、癌で余命宣告された40男…。

なんか、世の中みんな大変だな…という短編文芸読み物。

2024年7月4日木曜日

恒川光太郎「秋の牢獄」(2007)

恒川光太郎「秋の牢獄」(2007)を角川ホラー文庫で読む。こいつも無償でいただいてきた文庫本。この作家の本を読むのは初めて。3本の短編を収録。

「秋の牢獄」
「11月7日水曜日」を何度も何度も繰り返す大学2年生女子。寝て起きればまた昨日と同じ。なにこれ?20回繰り返すともう数えるのも止めた。
だが、自分の他にも同じ体験をしている人々と知り合う。みんな一緒に公園で過ごしてる。
中には数百回繰り返してる人もいる。

だが、全身白いウェディングドレスのようなヒラヒラした「北風伯爵」と呼んでいる怪物が街をすべるようにさ迷い歩いている。こいつにつかまると、「リプレイヤー」は消える。もしかして11月8日に送られる?

今まで読んだことのない不思議な話。世にも奇妙な物語。使ったお金も翌朝目を覚ますと財布に戻ってる。ということは、自分なら朝一で競馬場へ行って大きく増やしてから豪遊に行けばいいのにと思った。

「神家没落」
知らない路地に迷い込み、藁葺屋根の家から出てきた「翁」の仮面をつけたおじいさんに導かれ家に入ると、おじいさんは消え失せ、代わりに自分がその家に閉じ込められて…という、これもやっぱり「世にも奇妙な物語」。

衣食住の心配はいらないのだが、次の身代わりを招き入れるために工作してカフェを装う。こいつなら…という身代わり男を自分の代わりに家に閉じ込めたのだが、どうやらこいつは殺人犯だった…という意外な展開。味わいのある怪談。

「幻は夜に成長する」
小さな幻術を使う祖母と暮らしていた幼女リオとその後の話。これもファンタジー童話的。アナザーみたいなジャンルかもしれない。それほどホラー要素はない。これはあまり印象に残らなかった。

以上3本、どれも不思議怪談系童話。芥川の杜子春、漱石の夢十夜のようでもあった。
内容も文体も平易。中高生向けかもしれない。

2024年7月3日水曜日

新田次郎「アラスカ物語」(昭和49年)

新田次郎「アラスカ物語」(昭和49年)を読む。新潮文庫平成20年51刷で読む。BOで110円で購入して6年積読だった。

明治元年、東北石巻の医家に生れた安田恭輔。15歳で両親とも失い、長男と次男はなんとか医学の勉強ができたのだが、三男恭輔のころには父が連帯保証人になっていたせいで山林田畑を売ってしのぐようになり家が傾く。淡い恋も失う。
そして三菱汽船石巻支店に就職。そして船員としてアメリカへ。東洋人として差別され農奴のような生活。そしてアメリカ沿岸警備船にコックとして乗り込みフランク安田となる。

ベアー号はエスキモー部落を襲撃強奪する海賊船(こいつらが酷い)を取り締まるための警備船。だが、氷に閉ざされ身動き取れなくなる。順調に海面を走っているうちは船員の誰も東洋人に目もくれなかったが、手違いと不正により6カ月あるはずの食料が2カ月しかないという状況がわかると、疑いと憎悪の目がフランクに向く。

この船にいると自分はリンチに遭うかもしれない。頭が良く有能なフランクのことを理解してくれた船長に、自分が単身で南にあるアラスカ・ポイントバローへ徒歩で救援要請に向かうと告げる。これはほぼ見込みの少ない自殺行為。

頭上で輝くオーロラをなるべく見ないで雪原を歩く。わずかな食料しかない。極地方ではコンパスはあまりアテにならないが、ときどき方位を確認しマッチを擦り、星を見てだいたいの感覚で南へ。やがて幻覚幻聴。だがエスキモーの犬橇に発見されポイントバローへ。現地交易所に駐在するチャールス・ブロワー氏と出会う。

食料を積んだ救助が向かう。フランクは英雄だが、かつての自分の船室はすでに荒らされている。以後、船を降りブロワー氏をたよってポイントバローでの生活。
ブロワー氏の仕事を手伝うためにエスキモーの言葉を覚える。そのためにはエスキモーたちの生活へ溶け込む必要が…。

19世紀末から20世紀のエスキモー社会がほぼ古代。客人に妻(年をとってる場合は息子の嫁)を客人にふるまうだとか、シャーマンの予言で漁の占いだとか、イグルーのトイレが個室になってなくて臭いが酷いとか、江戸明治日本人が忌み嫌った土人の風習。白人がやってきて鉄や銃をもたらすまでほぼ石器時代。

頭の良いフランクはエスキモーの言葉を覚え、鯨に銛を撃ちこみ活躍し、ときに占いで不吉だからと追い出されもしたのだが、やがてポイントバローのエスキモーたちのリーダーのような存在へ。
エスキモー娘ネビロ(初恋の千代に似ていた)と結婚し娘も生まれる。フラックスマン島交易所も任される。

だがエスキモー集落は鯨が捕れないとすぐに飢餓の恐怖。海獣を乱獲し密漁捕鯨をする海賊が野放しのせいで鯨が回遊してこない?
米政府の支援で小麦、大豆、玉ねぎが届くのだが、エスキモーたちは生肉を食わないとやっていけない。
フランクが狩ってきた獲物もリーダーに許可も挨拶もなく勝手にすべて貪り食われたときは、フランクも呆れる。こんな未開人種は有史以前から滅亡を繰り返してきたんだろう。
さらに、白人が持ち込んだ麻疹でポイントバロー500人のうち120人が死んでしまうという大惨事。フランクのひとり娘も幼くして死んでしまう。

ポイントバローから見て南側にブルックス山脈がある。フランクは猟の腕を見込まれて砂金採り山師カーターに仲間として加わるよう求められる。金鉱が見つかれば権利を山分け。この男にうさんくささを感じていたのだが、悪党に命を狙われたときに命がけで助けてくれた。こいつは武士道を持っているに違いないと参加を決意。

ジョージ大島という日本人と出会う。この人はインディアンの言葉が話せる。
ジョージは白人に不信感を持っていて、フランクに忠告アドバイス。カーターはジョージを嫌う。
しかし、カーターもジョージも正直でいい人。ジョージの尽力で後にフランクとアラスカインディアン大酋長との間に、ポイントバローのエスキモー移住交渉がまとまる。

さらにジェームス・ミナノという日本人とも出会う。広大なアラスカで三人の日本人が出会ったことは奇跡。日本を遠く離れたアラスカでみんな苦労したようだ。(上州出身のジョージは日系人収容所で亡くなったらしい。出身地も不明なミナノについては農業をやった後にフェアバンクスでコックをしてたらしい。新田次郎がこの本を出版した後も何の情報も寄せられなかったとのこと。)

アラスカの山と沢を歩き回り、ついにフランクは、ネビロの偶然の発見から、シャンダラー河で多くの砂金のある場所をつきとめた。カーターへ急いで知らせる。暗号をつかって。この時代にアラスカに入っている砂金採りはほぼみんな浮浪者のようなもので粗暴。いさかいや略奪、殺人も起こってた。用意周到にカーターは権利を確保してシャンダラー金鉱の経営に乗り出す。
そしてフランクはポイントバローのエスキモーの移住を本格化。

だがそこはインディアンの勢力圏。インディアンってエスキモーを生肉を食うからと忌み嫌う。エスキモーはインディアンを恐れる。両者にはそんな敵対関係があったって今日まで考えたことなかった。

あと、エスキモーは樹木の存在は知っていても実際に見たことがなく、エゾマツの臭いに強い抵抗を示す…という箇所が意外だった。
アザラシからとった脂で灯明を静かに燃やすエスキモーは、薪を燃やして焚火も初体験…という箇所も興味深かった。
仕留めた野生動物をその場で切り開いて生のまま食べるエスキモーが、ムースの肉は臭くて生で食べない…という箇所も意外。氷点下40度で暮らしてた人々が氷点下20度の世界に来ると寒暖差にやられて風邪を引くとか意外。

シャンダラー金鉱もやがて終りがやってくる。フランクは毛皮取引に活路。野生動物に頼る産業は動物が減ると危機を迎える。やがて農業経営にも手を出すのだが船は持っていなくて失敗。

ビーバー村の古老となったフランク。日露戦争も第一次大戦も関係なくアラスカの自然と戦っていたのだが、日本とアメリカが開戦したことのみで逮捕され飛行機に乗せられ収容所へ。アメリカは酷い。今も酷い。
しかしフランクの人柄を知る人々から当局には多くの嘆願書。

アメリカに渡りアラスカにたどり着き、生涯で一度も日本に帰ることのなかったフランク安田90年の生涯。巻末に新田次郎せんせいの取材ノート的なあとがき。石巻の安田家の当主女性が検察事務官でとても冷たい対応でびっくり。新田先生以前に取材に来たジャーナリストがとても失礼だったとはいえ、人気作家だった新田先生にけんもほろろでびっくり。

2024年7月2日火曜日

伊坂幸太郎「砂漠」(2005)

伊坂幸太郎「砂漠」(2005)を2017年実業之日本社文庫で読む。伊坂幸太郎をひさしぶりに読む。
これもべつに読みたい本というわけでなく、不要だというのでもらってきた本のうちの一冊。そんな本ばかり読んでるとお金もかからないが、面白い本に出合える確立も低いw

結論から言って、今年読んだ本の中でいちばん内容の薄い、これといったストーリーのない本。
大学1年生のコンパシーンから始まって、麻雀、ボーリング、合コン、駅周辺で起こってる通り魔事件、超能力、そんな会話ばかり。

日本各地から学生が集まる法学部のある仙台の大学というとあそこしか思いつかないのだが、ほとんど勉強してる気配がない。なのに将来への夢を語る。アメリカの戦争を批判する。(イラク戦争前夜が舞台。ということはゼロ年代中頃)
将来のエリート予備軍なら、嘘であっても、ハイデガーがー、サルトルがー、フーコーがー、とか知のマウントを取り合っていてほしい。この本の会話がひたすらどうでもいい。底辺高校が舞台のマンガとまるでかわらない。

最後まで読んでもあまりいいことがなかった。18歳のバカ会話を楽しめる年齢でなくなったからかもしれない。まさに砂漠。
しかし、西嶋のキャラは嫌いじゃない。

大人の読者にはオススメしない。これから大学生になる希望に満ちた高校生には刺さるかもしれない。こういう大学生活に憧れるかもしれない。

2024年7月1日月曜日

G.K.チェスタトン「ポンド氏の逆説」(1936)

G.K.チェスタトン「ポンド氏の逆説」(1936)を読む。福田恆存訳の創元推理文庫で読む。全8編の短編集。
昨年秋に処分するという古本をもらい受けてきた。1977年に初版というから相当に古い。文庫裏に当時の価格が220円と書かれている。読み終わったらページをのりづけ修復しないといけない。
THE PARADOXES OF MR. POND by G. K. Chesterton 1936
自分、G.K.チェスタトンを読むのがこれで2冊目なのだが、1冊目で相当に苦手な作家だと感じた。読みづらい、わかりづらい、典型的な英文和訳だった。今回も相当に覚悟して読み始めた。

三人の騎士
小柄で見た目はさっぱりした紳士ポンド氏は穏当で筋の通った話の途中で、奇妙な発言をする。外交官ウォットン卿にプロシャ軍で起こった逆説的な出来事を語って聞かせる。

ポズナンを占領したプロシャ軍。グロック将軍はポーランドの国民的詩人ペトロウスキーの死刑執行命令を伝達。だが、それを聴いて不機嫌になった殿下が執行停止命令と詩人の釈放命令を早馬で出す。それを見て将軍は伝達が届かないようにせよと命令。結果、詩人は釈放され生きている。何が起こった?部下が全員忠実に命令を守った結果?え、これって何かの寓話?

ガーガン大尉の犯罪
ポンド氏の友人ガーガン大尉にかけられた殺人容疑。詩を愛するアイルランド人青年が3人の女性それぞれに言った言葉が同じものだったのに、それぞれによって解釈が違うことに気づいていて…。

博士の意見が一致すると……
スコットランドでの事件を話し合う。意見の一致したふたりが片方を殺して…というものだが、これは今読んでもあんまり得たものはなかった。

道化師ポンド
官吏のポンド氏がまるで現代のITセキュリティ担当者のよう。日本もこれぐらいスパイには注意するべき。「情報が漏れちゃった」で担当者を無罪放免すべきでない。

名ざせない名前
牡蠣を食べながらウォットン卿とのパリでの想い出話。逮捕追放すべきだが、逮捕追放が難しい人物とは誰か?これは時代を感じる。古い欧州ならでは。

愛の指輪
ガーガンが居合わせたクローム卿夫妻パーティーでの宝石消失と死亡事故。

恐るべきロメオ
ガーガン大尉は逃亡中の殺人犯!と友人から聞かされ困惑のポンド氏。私的に法廷形式でガーガンと関係者の話を聴くと…。

目だたないのっぽ
これも外交機密を守るために奮闘するポンド氏。オチはそんなこと?!

うーん、どれも短編ミステリーという気がしない。オススメできるものはない。自分としては、「三人の騎士」「名ざせない名前」が短編小説として味わいがあって好き。