夏目漱石「坑夫」(明治41年)を読む。新潮文庫(平成10年25刷)で読む。これは春ごろに110円で購入したもの。
昨年、村上春樹「海辺のカフカ」を読んだとき、この「坑夫」が出てきたのだが自分は読んでなく居心地悪かった。今になってやっと読む。
漱石が朝日新聞入社後「虞美人草」に次いで連載した第2作。
タイトルから勝手にてっきり炭坑労働者ルポみたいなものを想像していた。かなり違っていた。
家を出奔した世間知らず主人公19歳(いちども働いたことのない中流家庭)が、東京郊外まで徒歩でやってきたところ、茶屋にいたどてら姿の斡旋屋(ポン引)に下から上まで見られて「お前さん、働く了簡はないかね」と尋ねられる。
「働いても善いですが」そして汽車と徒歩で足尾銅山へと連れていかれ、そこで坑夫として働く青春小説。
漱石の小説の主人公らしい視野の狭い自分勝手な心の声で、読んでいて笑いとツッコミが絶えない。
銅山で働く若者を斡旋する男を服装から心の中で「どてら」と呼ぶ。途中、浮浪者のような若者もスカウトするのだが、こいつは身にまとっていたものから「赤毛布」。さらに、途中で芋を与えた小僧も連れて行く。それ、ほぼ人さらいでは?明治の職業政策はどうなっている?ほぼ江戸時代と変わってない?
銅山にたどり着くまで、牛小屋のような家で寝たり、たどり着いたら、書生みたいな見た目の主人公には無理だと止められる。
布団には南京虫。とにかく不衛生。でも他に行くところもない。
仕事開始まで全体のほぼ半分のページを費やしてる。とにかく主人公の心の声が長い。呆れるほど長いw 漱石の書く若者と文体には毎回感心させられる。
労働条件や仕事の説明もないまま現場に投入。坑夫は明治時代の社会の最底辺の仕事かもしれないが、暗闇の坑道で働くには事前に十分な安全教育と訓練がなければいけない。危ない。(シキって何?どうやら「間歩」のことらしい。)
初さんというベテランにくっついて、抗の一番深いところまで行く。こちらを試してくる。
ここ読んで、「千と千尋」を連想。たぶん、本人の意思と関係なく兵士として軍に入れられた若者もこんな感じかもしれない。
初さんとはぐれた後、坑夫らしくない知的な安さんと出会って、安さんの話を聴く。主人公はここを出て東京に帰るように諭される。
「海辺のカフカ」で大島さんが語ってたように、「坑夫」は誰しもが一度は身に覚えがあるようなヘンテコなバイト体験記だった。とくにストーリーというものはない。
短い準備期間で取材して連載小説に取り組まないといけなかった漱石の苦労も感じた。
でも、自分としては明治の若者の奇妙な体験記として面白く読んだ。一度は読むことをオススメする。
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