2024年7月27日土曜日

三崎亜記「廃墟建築士」(2009)

三崎亜記「廃墟建築士」(2009 集英社)を読む。建物をめぐる奇妙な4本の短編を収録した作品集。
もう15年前の本。こいつもいただいてきた本なので読む。自分がいただいてから5年積読。では順番に読んでいく。

七階闘争(小説すばる 2008年7月号)
この作家の本を読んだのは「となり町戦争」以来で11年ぶりなのだが、もしかしてこの作家は地方自治体の行政と市民がテーマの作品しかない?!

その市の7階での犯罪事件率と事故率が高いというデータから、市長が「可及的速やかにすべての七階を撤去する」と方針を表明。え、七階をないことにする?
で、その市の七階に居住する人々は他の階へ移住を促される。やがて半ば強制。そこで七階住民たちが連携し七階護持運動が巻き起こる。

何を読まされているんだ?という架空のディストピア社会風刺小説?
とにかく読んでいて感心しかしなかった。行政と相対する市民運動。まさに今現在の日本を問題定義している作品。

廃墟建築士(オール読物 2007年3月号)
これも架空のその道の専門家を設定したディストピア行政小説。廃墟に魅せられた人々が働き掛けたことで「廃墟」を建設していく架空だけどリアルな話。
これも五輪レガシーと称した神宮外苑再開発、宮下公園再開発、晴海フラッグなどの小池都政と、一部の業界だけが得をする誰も望まない施策をごり押しする大阪維新や自民党政権日本を風刺しているように感じた。ぶっちゃけ傑作。高校現代文の教科書に載せたいぐらい。

図書館(小説すばる 2008年10月号)
図書館の夜間開館を、動物園の夜間開園と同じようにとらえた妄想ファンタジーだが、図書館と自治体の役人と図書館運営コンサルの描き方がやっぱり上の2作と同様なリアルさ。
図書館長って市役所から降ってきた偉い人で本に思い入れのない人であることが多い。ただただ運営が支障なく継続できたら次の上位ポストへ移動していく。たぶん図書館の現場で日々業務を担当してる人にとっては邪魔さえしなければいい透明人間。

蔵守(小説すばる 2008年11月号)
蔵守なる仕事を使命としている者によるファンタジーポエム。それともディストピアSF?

以上4本。どれもが世にも奇妙な短編。個人的には「七階闘争」「廃墟建築士」は読んでる最中も驚きと感心しかなかった。

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