祥伝社文庫創刊15周年を記念特別書き下ろし4作品を一冊にまとめて祥伝社ノン・ノベルとして2002年に出版されたもの。
4人の人気作家がそれぞれ腕を振るった「絶海の孤島」ミステリー4本。順番に読んでいく。
恩田陸「puzzle(パズル)」
長崎県の廃墟で有名な「鼎島」を訪れた廃墟探索マニアが島で発見した3人の遺体…という新聞記事。
そして「さまよえるオランダ人」「宇宙を舞台にしたスタンリー・キューブリックの新作映画製作発表」「新元号”光文”誤報」「ターシャ・テューダーの料理レシピ」「2万5000分の一地形図のつくりかた」という脈絡のない記事を引用。
廃墟の各地でそれぞれ餓死、墜落死、感電死で見つかった遺体。それぞれに以上の記事のコピー。それ以外に身元を示すものは何もない。
島にふたりの中年に差し掛かった検事が上陸。遺体発見現場を見て歩き、真相パズルを解き明かす…。
これ、とても雰囲気が良くて面白いと感じた。だが、その真相は誰も予想できないしハチャメチャな怪談ホラー。
歌野晶午「生存者、一名」
鹿児島県の東シナ海に浮かぶ「屍島」で「生存者一名、死者5名」で捜索打ち切りという短い報告の後、なんでそうなった?という回想。
重大な爆弾テロ事件を起こした終末思想カルト団体の実行グループと幹部。ほとぼりが冷めるまで絶海の無人島で過ごすようにとの教祖からの指示。
だが、当面の食料と5人の男女を残して幹部は船で脱出。自分たちは事件の口封じのための犠牲として取り残された?
やがて迫りくる餓死の恐怖。島を出ても司直によって死刑になるし、このまま島に居ても飢え死に…という極限。
1人、また1人と殺されていき、疑心暗鬼の男女のたどる戦慄と恐怖。ただ一人生き残った女の独白…。
だと思ってたら、完全に予想を裏切られた!そもそもタイトルからして読者をダマす気まんまん。終盤で新聞記事からの引用が挟まれ読者はイメージを修正しながら読むのだが、それでもこの結末は予想できないエグさ。
ここ数年で読んだサスペンスホラーミステリーで屈指の傑作。読め!
西澤保彦「なつこ、孤島に囚われ。」
レズビアン官能小説作家の奈津子は、強引な美女に迫られ連れ込まれた飲み屋で昏倒。目を覚ますと、白い砂浜と青い海に囲まれた孤島の洋館。冷蔵庫には酒と高級食材。
近くに同じような島があり同じような洋館。その一室に男がいて双眼鏡でこちらを見ている。
やがてその島に警察。男が殺されたらしい。その男はこちらを見ていた男?自分は目撃者にされた?
実在する作家がそのままのキャラで登場。奈津子の主観で物語は語られるのだが、この作家が変態。数行おきに変態エロ妄想してる。
そして、事件の主役の姉と弟も変態。変態が変態的欲望を満たすには金が要る。最後の独白はほぼ乱歩のそれ。
近藤史恵「この島でいちばん高いところ」
高校の17才同級生5人組JKが夏休みに海水浴へ。穴場のビーチへ連絡船で向かう。だが帰りの便に乗り遅れる。そして島にいる何者か殺人鬼に襲撃され、1人1人と殺される…という死屍累々ジェイソン型ホラー。
中学時代にレ〇プに遭ったという少女が強メンタルで犯人をおびき出して交渉し罠にかけるとか逞しい。
4本すべて高水準だったのだが、自分としては歌野晶午「生存者、一名」がベストだと感じた。
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