2024年7月25日木曜日

ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」(1869)

ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」(1869)を読む。荒川浩充訳(1977)創元SF文庫(2010年32版)で読む。挿絵は南村喬之。創元文庫版を選んだ理由は他社だと上下巻に別れてるから。
これは7年前にBOで見つけて108円で買っておいたもの。かなりキレイな個体。7年積読本をようやく読み始めた。
VINGT MILLE LIEUES SOUS LES MERS by Jules Verne 1869
世界中の海で目撃される燐光を発する謎の巨大な黒い物体。ついには鋼鉄の船舶にも傷をつける事態。
パリ博物館のアロナックス教授は未確認の巨大なイッカク説を主張。アメリカ海軍最速の戦艦アブラハムリンカーン号に乗り込み、海面下の謎の物体を追い求め世界の海を駆ける。

そしてついに謎の物体を発見し交戦。アロナックス教授は衝撃で海に落下。氏の生物分類学助手で忠実な従僕コンセイユも一緒に氏を助けに海に飛び込む。やがて波間を漂うベテラン銛打ち名人ネッド・ランドと合流。巨大な黒い物体の上。ネッドによればこれは鯨などの生物でなく鋼鉄製の船。

アロナックスら3人は何人かわからない男たちにより軟禁。フランス語、英語、ドイツ語、ラテン語で話しかけるのだが通じない。こいつら何人なんだ?!
やがて船長らしき人物がやってくる。わりと温和そう。得体の知れない食事も与えられる。取って食われる心配はなくなった。

この人がネモ船長。そして捕らわれた海底の船がノーチラス号
すべて海面下でエネルギーを賄っている。押川春浪「海底軍艦」を読んだときも感じたけど、この時代の人々は未来のエネルギーに関して楽観的。それほど巨大な船を高速で移動させ熱と光と衣食住を賄ってくれるエネルギーが海水から得られるとすれば、人類のたいていの不安は解決。

ネモ船長はアロナックス教授らの話す言葉がすべてわかっていた。これほどの巨大艦を建造し大量の書籍や絵画美術品も積み込んでいる。海底を自由に動き回ってる独立国のような存在。どうやら地上の人類に絶望し関係を断った様子。3人にはノーチラス号内部を自由に歩き回れるが、元の欧州世界に帰ることは許されない。

あとはひたすらネモ船長がアロナックス教授を世界中の海を案内して説明ガイドしてくれる話。それは未来人が劣った文明人に語って聴かせるような内容。
それだと退屈なので、狩りに上陸した島で土人に襲撃されたり、セイロンに真珠とりを見学に行って鮫に襲われたり…。

地理学はよいのだが、当時の生物学による知見と教授独白による説明部分が多すぎる。長すぎる。それを全カットすればボリュームを半分にできる。現代人がこの箇所を活字で読んでもそれほど楽しいものではない。

この冒険小説の舞台となってる世界ではまだスエズ運河が開通していない?!調べてみたらスエズ運河開通は1969年11月17日。
で、そのスエズ地峡の地下には、ネモ船長だけが知る紅海と地中海を結ぶ海底トンネルがあるという設定は驚いた。

海底火山、アトランティス、そしてクライマックスはたぶん南極点への到達。
この時代の南極知識がどうやら現代と比べてたぶんおかしい。接岸してから2時間で南極点に到達している。
そしてノーチラス号は厚い氷に閉じ込められ、酸素濃度低下による窒息死寸前にまで追い詰められ危機一髪。
そして、オオダコとの格闘。

ネモ船長による3人の幽閉は7か月。以前からネッドは脱出の機会を窺っていた。アロナックスもネッドに同調しネモ船長に交渉するのだが相手にされない。しかも不機嫌になってる。
そして軍艦との交戦、アロナックス博士とネッド、コンセイユの3人は脱出を決行。しかしそこはノルウェー沖の大渦巻!どうするどうなる?

想像力とスケールがハチャメチャにでかい。さすが150年の時間を耐えた名作。アロナックス、コンセイユ、ネッドの3人のキャラが良い。
一方でネモ船長の得体の知れなさ、ノーチラス号のその他の船員の存在感のなさ。現代の作家がこんなキャラ描写だったら、文が下手と批判されるかもしれない。
訳が19世紀の古典をそのまま訳したようで古風な感じだった。挿絵はできればヴェルヌの時代のリウーのものが見たかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿