2022年8月31日水曜日

リュック・ベッソン「ジャンヌ・ダルク」(1999)

リュック・ベッソン監督、ミラ・ジョボヴィッチ主演の仏米合作映画「ジャンヌ・ダルク」(1999 コロンビアピクチャーズ)をやっと見る。原題は「The Messenger: The Story of Joan of Arc」。
これまで何度かちょっと見かけたりしたのだが、ようやく英仏百年戦争やジャンヌ・ダルクについての予備知識がついてきたのでしっかり見る。

1420年、百年戦争下のフランス。信仰心の強い少女ジャンヌは毎日のように教会に通って懺悔。何かこの世の者でない姿が見え声が聴こえる。牧草地で剣を拾う。
狼の群れの幻覚。村は焼き討ち。姉カトリーヌは惨殺。
中世に人権とか道徳とかいう観念は希薄。中世フランスの食事風景が汚い。

絶望のジャンヌは神父にヒステリックに思いのたけを叫ぶ。なんかこの子怖い…。
神父は「いつか神が、お前を必要とする日が来る」と答えるしかない。

そして数年後、フランス王太子シャルル(ジョン・マルコヴィッチ)にロレーヌのジャンヌからの手紙が届く。神の使いを称する乙女のことはすでに国中の噂。中世フランスの王宮にいる人々が品のない笑い。

そして有名なジャンヌが王太子を偽物だと見抜くシーン。映画開始から30分以上経過してやっとミラ・ジョボビッチ(ジャンヌ)登場。大勢の中からひとりシャルル王太子を探し当てる。そしてジャンヌは王太子とふたりきりになってこれまでに体験した不思議な奇蹟を語って聴かせる。

反対する側近たちの要求でジャンヌが処女かどうか確かめるというシーンが異常。まあ中世ヨーロッパは異世界だから。
字も読めず剣術も持たないジャンヌに軍を持たせるべきか?なおも疑う人々は言葉によって説得。

オルレアンは敵から投石機で攻撃を受けている。ジャンヌは戦略を語らない。ただ予知夢や幻覚を見たことで神の御意思をヒステリックに叫ぶ。やっぱりこの娘が怖い。
中世合戦シーンがすごい。この時代の要塞攻防戦ってこんな感じだったのか。
この映画ではイギリス側のヘンリー6世やタルボット卿といった人々は名前しか登場しない。

ランスでシャルル7世の戴冠を陶酔したように見つめるジャンヌ。次の瞬間にはもう戦場。
ヴァロワの王には援軍を送る金もない。王にはもうジャンヌは手に負えない。一時の熱狂は去った。
そしてコンピエーニュでジャンヌは見捨てられ敵の手に落ちる。ジャンヌはもうしどろもどろ。

てっきりジャンヌの神がかり的大活躍を描いてるのかと思ったけど、ちょっと頭のおかしい哀れな女に見える。むしろ戦況悪化。空気の読めない独りよがり社員が現場を混乱させている。
コーション司教の救う努力をすべて自らたち斬ってる。このへんの論理は日本人にはよくわからない。人を焼き殺すなど人間のすることではない。

2022年8月30日火曜日

山下美月「ほんとにあった怖い話」(2022)

山下美月がフジテレビの伝統番組、視聴者投稿恐怖体験ドラマ「ほんとにあった怖い話」(夏の特別編2022)に主演で登場したのでチェック。(8月20日の放送)
山下美月はすでに23歳なのだが全寮制高校(共学)の女子高生という役どころ。
美月は友人たち3人といかにもJKという恋バナ。いかにも地味な顔をした友人がバスケ部男子に密かに恋してる。いかにもJKのノリで「告白しなよ!」
だが、以前は仲の良かった別の友人がなぜか自分を避けている。双方がわだかまり。上手く話せない。
すると最近になって耳元でガサガサなにかがこすれる音がする。人の声がする。

「それってもしかしてあの子の生霊では?」という恐怖体験映像で視聴者をビビらせた後、わだかまり友だちと話し合って双方が和解。え、傷ついた理由がそんなこと?
そして夏休み。学生たちはみんな帰省。自分一人だけが寮に残される。そんなの恐怖の前触れに決まってる。
そして数日後、夜中に目が覚めると、そこには…という、さらなる恐怖!

ちょいサゲが弱いなと感じた。人はそんな逆恨みで生霊を飛ばせるものなのか?自分も嫌なやつに生霊飛ばしてビビらせたい。
山下美月は乃木坂加入時から目力がすごくて美少女だったのだが、23歳の現在もこの美少女っぷり。すごい。

いつもへらへら笑ってて陽気。あざとかわいくて面白い。「乃木坂工事中」における「齋藤飛鳥と山下美月」のやりとりは令和の「歌丸と小円遊」と言って過言ではない。
山下美月はバラエティ能力が異常に高いが、女優としてもっとドラマに映画に出てほしい。まだまだこんなもんじゃないはず。
PS. わだかまり友だち役としてnon-noモデル鈴木ゆうかが登場。以前は「鈴木優華」という名前だったのだがいつのまにか変えたようだ。(2019年5月より変更)

正直、今回のゆうかはあんまり可愛く見えなかった。生霊疑惑を掛けられる不気味生徒だったし。
鈴木ゆうかはもうすでに25歳なのか。今年の10月1日には26歳になるのか。数年前にnon-noに出始めたときはもっと早く世間に知られるようになる存在だと感じた。
2021年11月には「JKからやり直すシルバープラン」というドラマに出ていたのだが自分は見てない。あまり話題にもなってなかった気がする。

4年前の鈴木優華はこんなにもスーパー美少女だった。韓国中国でウケそうな顔をしてる。もっと活躍できるはず。世間は早く鈴木ゆうかを見つけなくてはいけない。

2022年8月29日月曜日

夏目漱石「倫敦塔・幻影の盾」(明治38年)

夏目漱石「倫敦塔・幻影の盾」を新潮文庫(平成19年76刷)で読む。7本の漱石初期短編を収録。掲載順に読んでいく。

「倫敦塔」
漱石は五高教授在籍時代の明治33年から35年にかけて英国留学。ロンドン塔見物をした。漱石らしいひねくれた観光地見聞録だが、ときに大英帝国歴史絵巻を幻想的に織り込む。これはぜひ映像化するべき。

この作品はできることならイングランド王国の歴史、シェイクスピアについて知識があったほうがスラスラ読める。リチャード3世、エドワード4世のふたりの幼い王子、9日間の王女ジェーン・グレイなどの予備知識があるほうが理解がすすむ。
漱石はロンドン滞在中にイギリス絵画も見ていた。ナショナルギャラリーでドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」に強い印象を受けてた様子。

「カーライル博物館」
こちらもロンドン名所案内紀行文。自分、カーライルという歴史家評論家をまったく知らなかった。

「幻影の盾」
これは読み始めてすぐに戸惑った。あまりに漱石のイメージと違っていた。アーサー王時代の騎士の戦争おとぎ話を幻想的に描いた作品。翻案?「夢十夜」を想わせる作風。味わい深い。

アーサー王の物語に慣れ親しんだ人には「倫敦塔」よりもこちらが親しみやすいらしい。
自分はアーサー王についてまだよく知らなくて全然イメージできなくて激しく戸惑った。ぜんぜんストーリーと状況が頭に入ってこない文体と構成で3度4度と同じ箇所を読んでいった。これもぜひ映像化するべき。

「琴のそら音」
こちらも怪談ファンタジーか?と予想しつつ読むのだが、明治の人々の日常やりとりが活き活きと伝わってくるホームドラマ。

「一夜」
固い漢語調の文体による男女のスケッチ。読み終わった瞬間にもう内容を覚えていないw

「薤露行(かいろこう)」
これもアーサー王の時代のエレーンとランスロットの悲恋を漱石なりの解釈で固い明治文体で勿体つけて格調高く書き上げたもの。「幻影の盾」よりもさらに読みにくいし分かりにくいしで頭に入ってこない。

「趣味の遺伝」
漱石と日露戦争。硬派かと思いきや、やたら言葉数が多い。新橋停車場に凱旋将軍や兵士を見物、満洲の塹壕で戦死した旧友の墓参り先で美人を目撃し、興味本位でその正体を探る…という、軽薄さと落語っぽさもある短編。

以上7本でオススメできるのは「倫敦塔」と「幻影の盾」そして「琴のそら音」ぐらいかな。

2022年8月28日日曜日

押井守「アヴァロン」(2001)

「アヴァロン」(2001)を見る。監督は押井守、脚本は伊藤和典。全編ポーランドで撮影され、俳優も全員ポーランド人、撮影スタッフも多くがポーランド現地スタッフ。会話も全てポーランド語という映画。配給は日本ヘラルド映画。

ジャンル的に仮想空間メタバース映画。「レディ・プレイヤー1」もこのジャンルだったかもしれない。公開当時にテレビか何かで紹介映像は見た記憶がある。なんとなくしか覚えていない。
「花束みたいな恋をした」で有村架純演じるヒロインが押井守を熱く説いていた。それでは見てみようかと。

低予算映画だがポーランド陸軍が協力し戦車、ヘリなどを登場させている。エキストラとしてポーランド軍兵士が多数出演している。

現実の実写映像をアニメに近づけるエフェクトにおいて特異な作品。押井守のアニメ表現を持ち込んでる。映像に現実感がない。人々がのっぺりしてる。

最初からカルト映画の雰囲気。まるでタルコフスキーの「ストーカー」のような色合い。超絶退屈作の予感w
押井守のアニメを見る層しか見てないかも?商業的に成功してる感じがまったくない。
真夜中に一人で見るタイプの映画。こんな色合いの世界にいたらたぶん気が狂う。

近未来の若者は仮想空間アヴァロンでのゲームの勝利者という名誉を求める。アヴァロンの凄腕プレイヤー・アッシュはかつては最強のパーティ「ウィザード」の戦士。現在はソロプレイヤーとして「アヴァロン」に参加。愛犬と暮らす日々。
ゲーム中のミッションをこなすことで、現実世界で報酬を得る。だが、ゲームから抜け出せずに「未帰還者」となる危険もあるため非合法ゲームとされている。

ある時、ビショップという正体不明のプレーヤーが出現。アッシュを挑発?
元「ウィザード」のスタンナと再会し。元リーダー・マーフィーがソロで廃人「未帰還者」となったことを知る。クラスAの隠れキャラ少女「ゴースト」のせいで。

廃人マーフィーは病院でアッシュに何も語らない。「ゴースト」とは何者か?バグなのか?
廃墟での戦闘シーンが現在のウクライナ戦争を連想しないわけにはいかない。

アッシュは「九姉妹」へとたどり着く。ゲーム中でダメージを負うと現実でも吐き気。
アッシュは「九姉妹」の正体が「アヴァロン」の管理者であることを知る。
スタンナは「ゴースト」の出現条件に気づいてアッシュに知らせる。そのシーンでなぜかスタンナがむしゃむしゃ食事シーンの口元だけを映す。なんで?

そしてビショップがアッシュを訪問。パーティメンバーを招集。そしてクラスAでの戦闘が始まる。
クラスA最強の敵を倒し「ゴースト」との遭遇を果たす…。

自分、ここで一回寝落ちw 翌日、続きから見る。
廃工場で襲ってくるメカ造形のありえない感じが良い。若者が廃工場でコスプレして写真を撮りたがる理由がわかった。
ゴーストが軽やかに駆け抜ける質感がやっぱりタルコフスキーのソラリスを連想。

ゲートをくぐったアッシュはクラス・リアルへ。コンプリートしないと出られない?!
ここから急にビビッドなフルカラー現実リアル映像に切り替わる。ここはワルシャワ?背後にスターリン様式の文化科学宮殿が見える。アッシュはキャミ姿で地下鉄に乗る。アヴァロンというポスターに導かれるままにクラシックコンサート会場へ。正装した中年男女が集うロビーでこちらを見つめるマーフィーと出会う。「なぜ来た?」やっぱりすごくタルコフスキーっぽさを感じる。
マーフィーを撃つことでコンプリート?だが「事象に惑わされるな」と告げられる。
そしてコンサートホールでふたたび邪悪な笑みを浮かべるゴーストと対峙。え、ここで終わり?!
なんか、かっこよさは感じた。圧倒されたかもしれない。あ、このテーマ音楽聴いたことある!

あと、本田翼はハガレンでなくこういうのに出てほしかった。

2022年8月27日土曜日

中公新書2445「物語 ポーランドの歴史」

中公新書2445「物語 ポーランドの歴史 東欧の大国の苦難と再生」渡辺克義著 (2017)を読む。このような新書をどんどん読む。
東欧において存在感のある大国であっても、日本の世界史教科書にはポーランドリトアニア王国、ポーランド分割、第二次大戦、ワルシャワ条約機構、自主管理労組連帯…ぐらいしか記述はない。なのでこの本を手にとった。

今のポーランドのあたり(ヴァルタ川流域)に人が定住するようになったのが7世紀ごろ。ポラニェ族とヴィシラニェ族(9世紀にモラヴィア編入)。
このころ誕生した王権がピャスト朝という。記録に残る最初の王でキリスト教の洗礼を受けた人物がミェシュコ1世。すでに10世紀後半。

13世紀はタタールに国土を荒らされる。そして今度はドイツ騎士団との戦い。このころのポーランド王がカジミェシュ3世。ポーランド史において唯一「大王」と呼ばれる。ポーランドが「木の国から煉瓦の国へ」変化した。このころクラクフに大学が作られる。

大王が亡くなると王朝は断絶。一時的にハンガリー王ルドヴィグが王となり、次女ヤドヴィガがリトアニア大公国と結婚。ヴワディスラフ2世がカトリックの洗礼を受け王となる。1386年、ポーランド・リトアニア連合王国が誕生。これをヤギェウォ朝という。(自分は高校世界史でヤゲロー朝と習った)

15世紀になると重要議題は王、元老院、下院で話し合って決める民主制となる。16世紀初頭から18世紀の「分割」までポーランドはシュラフタ共和国とも呼ばれる。ドイツ騎士団との戦いは1525年に初代プロイセン公アルブレヒトがジグムント1世に臣従を誓ったことで終了。
1596年にジグムント3世はクラクフからワルシャワへ遷都。(日本でいうと秀吉が慶長の役をやってたころ。)

だが今度はスウェーデンとの戦争。ロシアとの戦争。オスマントルコとの戦争の時代。コサック(ボフダン・フメリニツキー)の叛乱などなど。
18世紀にザクセン選帝侯アウグストがアウグスト3世となる。以後、選挙王政。そして1772年にオーストリア・プロイセン・ロシアによる第一回ポーランド分割。以後、ポーランド人は祖国を失い果てしない独立への戦いを内外で繰り広げる。
このころアメリカ独立戦争にポーランドから独立の闘志コシチュシュコとプワスキが参加。ジョージア州プラスキ郡はプワスキの名前にちなんで名づけられた。

5月3日憲法を制定。選挙王政を廃止、王のリベルム・ヴェトの廃止。だが、ロシアが介入し第三回ポーランド分割(1795)。王は退位しポーランドは地図から消滅。
ナポレオン戦争でプロイセンが敗北するとフランス支配下のワルシャワ公国が誕生。オーストリアからかつての領土(クラクフ、ラドム、ルブリン、シェドルツェ)を奪還。
だがナポレオン敗北後はウィーン会議でロシア支配下のポーランド王国が誕生。1930年パリ七月革命が飛び火。蜂起は鎮圧。ロシアによる圧政。以後、ポーランド人は世界へと散らばる。

第一次大戦後にポーランドは復活。このときポーランド・ソヴィエト戦争。ボルシェビキ赤軍ロシア人の残虐行為が目立つ。

そして第二次大戦。ポーランドの敵はナチスドイツとスターリンソ連。ポーランドはなすすべなく4回目の分割。
以後、映画や文学でよく見る地下レジスタンスの歴史。蜂起すると鎮圧と報復。人類の歴史でもっとも過酷で悲惨な戦い。この本の半分以上が第二次大戦と独ソの狭間。多くのポーランド人が殺された。何か暗殺事件や強奪事件が起こるとゲシュタポは報復で収容所の囚人を大量に処刑する。酷すぎる。

この本を読んで「クチェラ暗殺事件」を初めて知った。国内軍総司令部が1944年2月1日にワルシャワのSS長官(在任中に大量処刑を実行)の乗った車を襲撃し殺害。(これは映画にもなっている有名な事件らしい)

亡命政府とソ連、シコルスキとアンデルス軍、ワルシャワ・ゲットー蜂起、などなどを押さえる。
多くの一般市民を巻き込み長期化し多くの犠牲者を出したワルシャワ蜂起の意味は今も論争。自分もまだよくわからない。軍事的に反ドイツであり政治的に反ソ反共。スターリンによるワルシャワ市民の見殺し。
ユダヤ人の収容所での虐殺を世界に伝えようとしたヤン・カルスキの存在をこの本で初めて知った。

ポーランド統一労働者党、ゴウムカ、スターリン批判、ポズナン暴動、ヤルゼルスキ、ワレサ、戒厳令、そんなポーランド現代史を駆け足で学ぶ。

この本でいちばん「お?!」って思ったのがポーランド人の姓は40万種以上もあること。そのパターン分析が面白い。
-ski/ckiという型が全体の35.6%でもっともポピュラー。シュラフタ(中小貴族)由来で地名由来のものが多い。
-akで終わるものは11.6%。〇〇の息子という意味合い。
-ik/ykで終わるものは7.3%。先祖の職業に由来。
-iczで終わるものは2.3%。人名から派生したもの。
ちなみに、ショパンはポーランド人の姓ではなくフランス人の父の名前。

2022年8月26日金曜日

黒島結菜「孫のナマエ〜鷗外パッパの命名騒動7日間〜」(2014)

黒島結菜が出演した2014年7月23日BSプレミアムで放送のドキュメンタリー+再現ドラマ教養番組「孫のナマエ〜鷗外パッパの命名騒動7日間〜」が今年7月10日になって再放送された。録画して見た。これは存在も知らなかった。

文豪森鷗外の長女森茉莉はフランス文学者の山田珠樹と結婚。長男が生まれるのだが、鷗外は世にも珍妙な名前を付けようとする…という騒動を描いたもの。
山田と茉莉は27歳と17歳。「産まれるゥッ」とクルマで病院(産院?)に急行。
現在では交際しただけで逮捕されるのだが、結婚してしまえば16歳でも合法。ふたりが出会ったとき茉莉は16歳。大正8年、森家でのクリスマス。

2014年というと黒島結菜はテレ東「アオイホノホ」を撮っていたころ。明治女は上流階級でも16で結婚17で出産が普通で驚いたのだが、黒島は17歳でもう出産する役をやってたことにも驚いた。
森鷗外はキラキラネームの元祖。そもそも「茉莉」という名前もそれまでの日本にはまったくなかった西洋風な名前。
なんでもドイツ留学時代に本名森林太郎の「りんたろう」がまったく通じなかったことによるものらしい。
で、鷗外が単身勤務先の奈良から手紙(この当時は巻物?)で示した孫の名前がこれ。読めない。「ジャク」と読ませる。「雀」という意味らしい。

そして山田は困惑。奇をてらいすぎだと懸念を示す。そこから先は手紙の往復。鷗外からの手紙がどんどん長くなる。この手紙を読むと鷗外が「変態」だとわかる。
鷗外の長女茉莉は父に似てやはり変わった人だったっぽい。子どもの名前に夫ほど拒否感はない。
鷗外は与謝野鉄幹・晶子夫妻の双子の娘にも「八峰(やつお)」と「七瀬(ななせ)」という名前を付けていた。七瀬って筒井康隆か相川七瀬が最初じゃなかったのかよ!と驚いた。
抱いてる赤ん坊がまるでそう見えない。タオルでぐるぐる巻きにした何かでしかない。人形すらも用意しない。
あと、街の様子がまるで大正を感じない。小径すらもアスファルト舗装。

こういった歴史番組の再現ドラマでは手抜きも許されるのだが、現在放送中の「ちむどんどん」でこういうことをやると非難ごうごう。ドラマ視聴者はこわい。
大正時代も人名で使える漢字は決まっていた。結果、この字で届け出。いくら家父長制であっても、自分なら鴎外には嘘をついておく。別の名前でしれっと届け出しておく。

2022年になってまさかこの番組が見れるとは思ってなかった。再放送を企画してくれた人に感謝したい。17歳黒島結菜がかわいい。
SP.「ちむどんどん」が放送開始からずっと不評で「面白い」という人をほとんど見かけない。脚本と演出によっては朝ドラはこうも崩壊するものなのか?と学び知った。

ドラマのことよりも心配なのが、黒島結菜の女優として人気の起爆剤となる期待をしていたのに、ほぼ無風すぎること。女優として人気も高まってないようで心配。

2022年8月25日木曜日

レマルク「西部戦線異状なし」(1929)

レマルク「西部戦線異状なし Im Westen nichts Neues, 1929」を読む。秦豊吉訳の1955年新潮文庫の2007年新装版で読む。

これも110円で購入。自分、たまに110円だけ握りしめてBOに行って何か1冊買って帰ってくるというお金のかからない趣味を持っているw ドイツ文学を読むのはたぶん学生の頃以来。今出てる新装版は1ページあたりの文字数が少なく活字が大きくて読みやすい。

エーリヒ・マリア・レマルク(Erich Maria Remarque, 1898 - 1970)はオスナブリュック(ニーダーザクセン州)の労働者階級に生れたドイツ人。名前の綴りがドイツ人らしくないのだが、これは本人がフランス風に改名したものらしい。第一次大戦に従軍した戦場体験記を書いてベストセラー。映画にもなった。だがドイツが右傾化しナチスが台頭すると身の危険を感じてアメリカへ亡命。

ドイツ軍の志願兵パウル・ボイメル目線の第一次大戦のドイツ西部戦線。友人たちはみんな19歳。戦場に教科書を持って来てたりするのがドイツ人。
第一次大戦はじつは英国やフランスは第二次大戦よりも死亡した兵士の数がかなり多い。もちろんドイツもかなり多い。
そして塹壕戦。しかも毒ガス戦。毒ガスは低い穴に溜まるのだが高い場所へいくと砲弾。どうしようもない。

粗末な食料、性格の悪い上官、糞尿、虱、食料のパンを奪う鼠、棺桶と死体袋、仲間の死は明日は我が身。
貫通銃創を負って脚を切断される若者。腰骨が砕けあと1日2日の命のかわいらしい金髪少年兵、塹壕から出たくて精神が狂う塹壕病。日本人があまり知らない塹壕戦の世界。(ノモンハンで戦った日本兵は塹壕戦をしたらしいのだが)
負傷した馬の叫び声を農民の兵士は聴いていられない?楽にしてやるためにすぐに始末。

鋸刃が付いた銃剣を持っていると、敵に捕まったら鋸刃で鼻を切り落とされ目を繰りぬかれ口にはおが屑詰め込まれ惨殺されるから、普通の銃剣と取り換える?など現場の人間しか知りえない知恵。地獄。
食料にチーズが出されると突撃が近い?など兵士は食料には敏感。

新兵がくると世話でかえって骨が折れる。1古兵に新兵が5人から10人。猛烈な戦場では手も足も出ずに蠅のように死んでしまう。榴散弾と炸裂弾の音の区別がつかず死んでしまう。防毒マスクをはずすのが早すぎて死んでしまう。とかも最前線兵士ならではの学習能力。

気付いたら中隊が30人ちょっとになっていた。主人公は休暇で一時帰郷。威張った憲兵みたいなやつ呼び止められ敬礼をやり直したりさせられる。
銃後の人々の生活も食料物資不足で困窮。第一次大戦中からドイツ国内がこんな状態なら、戦後の都市部労働者はもっと惨めな暮らしだったに違いない。
戦友の死を報告に行ったら母親に「なんでおまえは生きている?」とか罵られる。理不尽。こんなことなら報告に行くな。これと同じようなシーンを「男たちのYAMATO」という映画でも見た。

軍服装備もみすぼらしい。カイゼルが視察に来るというので新品の軍服を支給されるのだが、カイゼルが帰ると軍服も返却?みてくれ重視の泥縄。

あとはひたすら戦場の惨禍。弾や砲弾が当たるか当たらないかは運しだい。ドイツ兵の死、敵フランス兵の死、転がる死体。疾病兵であふれる野戦病院でも仲間たちの死、級友の死といった悲惨な場面とエピソード。19歳20歳でこんな目に遭うとか今では考えられない。

フランスの村での略奪(寝具とか子豚とか)、避難民の様子とか、そのまま今のウクライナと同じだと感じた。
兵士にはなりたくないものだ。避難民になるよりも確実に悲惨。今現在ウクライナで戦っている男たちもみんな普通の市民。この本と同じような目に遭ってるかもしれない。

訳者あとがきによれば、秦豊吉氏は昭和8年5月にスイス・アスコナでレマルク氏を訪問面会したそうだ。満州事変に揺れる日本と国連について質問するも「日本のような遠い国のことはわからない」と無関心だったとのこと。

2022年8月24日水曜日

エクソダス : 神と王(2014)

リドリー・スコット監督「エクソダス:神と王 Exodus: Gods and Kings」(2014 20世紀フォックス)を見る。脚本はスティーヴン・ザイリアン、アダム・クーパー他。

自分、デミル監督のチャールトン・ヘストン総天然色リメイク版があるのにまたさらにリメイクするのか?と思ってた。今の技術ならより良いものがつくれるとスコット監督が考えたのなら良いものができたに違いない。ようやく重い腰を上げて見た。

紀元前1300年、ヘブライ人は400年間エジプトで奴隷。ファラオのために巨大な像やら神殿やらの建設に駆り出されるという民族の悲しみ。ヒッタイトがエジプトに迫っている。
人類の歴史はずっと戦争で嫌だねえ。ファイトシーンは現代の撮影編集技術なので大迫力。王子が一目でそれとわかる金ぴか鎧で最前線にいるとか危険。

モーゼ(クリスチャン・ベール)が間一髪ラムセス(ジョエル・エドガートン)の命を救う。父王は息子が王の器でないことに気づいてる。モーゼが有能な知将で一目置かれてる。

石切り場の奴隷長老ヌン(ベン・キングズレー)から二人きりで会って話がしたいと告げられる。モーゼの出生の秘密が語られる。ヘブライ人の幼児虐殺の悲劇を生き延びたモーゼ。
なんだか雰囲気がデミル版とかなり違う。展開が速い。テンポがよい。

石切り場総督を不正で逮捕したいモーゼだが、総督は新王に上手く取り入る。そういうずるそうな顔してる。モーゼがヘブライ人だという噂を報告。王はモーゼに疑いを抱く。

王の側近将軍だったモーゼは追放。荒野をさまよう。やがて紅海ティラン海峡へ。そこで出会った娘ツィポラ(マリア・バルベルデ)と結婚。(この個性的な顔をした女優はスペイン人。なんと夫はベネズエラ人指揮者グスターボ・ドゥダメルだと知ってびっくり。)

羊を追って山の中で嵐。土砂崩れに埋まるモーゼは少年から神のお告げ。同胞を救え!なんで神の使いが子どもなんだ。
モーゼは妻と息子を残して再びエジプトへ。ヨシュアとヌンに再会。アロンと兄弟の名乗り。

これでもかと邪知暴虐の狂王。ラムセスとモーゼの対決が始まる。モーゼと家族を探したけど見つからない腹いせにファラオは無関係な奴隷を見せしめ処刑。モーゼはレジスタンス義勇兵に軍事訓練。

デミル版のユダヤの神とエジプトの神の戦いは現代からするとやや滑稽であったのだが、巨大ワニが人間を襲うシーンとか何なの?魚の大量死とか何なの。カエルの大群。虻の大群。家畜も死んでいく。(虻に刺されて顔がぼこぼことか可哀想なんだけど滑稽)
雹が降ってバッタが襲来しエジプトが惨状に。ファラオの権威を失墜させる天変地異。

神に祈ったところで無駄。てかエジプトの神々は何やってる。連戦連敗なのになぜその神を信じれる?
ユダヤ人たちの信じる荒ぶる神はラムセスの幼い王子の命も奪う。これって、そういうパニック映画なの?
で、ラムセスはやっとユダヤ人たちに「エジプトから出て行け!」と発令。

ラムセスは腹いせに軍勢率いて殺戮にくる。モーゼは山ルートを決断。たった1人の決断に数万人の運命がかかってる。これは心細い。よくこの男の言うことを信じることができる。

前に海、後ろにエジプト軍という絶望。ああ、海がぱっくり割れるのでなく干潮によって道が現れるという解釈なのか。このアイデアを映像化するための映画だったのか。
デミル十戒で見て知ってる内容展開とまるで違ってた。リドリー・スコットの現実合理的路線。なので旧作見てる人も一度見るべき。
しかしあれだけ大人数が定住できる土地がどこかにあるのか。

2022年8月23日火曜日

梁石日「夏の炎」(2003)

梁石日「夏の炎」(2003)を読む。幻冬舎文庫で読む。これは2001年に朝日新聞社から出版された「死は炎のごとく」を改題したもの。524ページ長編。

今回これを読もうと思った理由はやはり山上徹也。大物政治家を暗殺した男は本人が意図しようがしまいが歴史に名を残す。この「夏の炎」は1974年の韓国・朴正熙大統領暗殺未遂事件(文世光事件)をモデルにしたフィクション小説。

以前から文世光事件には関心があったのだが、この本はあくまでフィクションなので、一度手に取ったものの元に戻した。今回やっと読む気になった。
梁石日(ヤンソギル 1936 - )の小説を初めて読む。梁は大阪出身の在日朝鮮人作家。

主人公・宋義哲(21)は妻里美と子どもができてから結婚して1年。毎晩飲んだくれて長屋に帰ってくる。生活能力がない読書家。「消防署のほうから来た」と言って消火器訪問販売で日銭を稼ぐ。千里ニュータウンで主婦に売りつける。1年ぐらい何もせずに暮らしていける金が溜まった段階で商売をスパッと辞める。

以後は在日韓国人青年たちと左翼運動の活動家。朴正熙軍事独裁政権打倒と南北朝鮮の統一を夢見るも、同志たちが日和見野郎。組織と支部の主導権争いを垣間見てウンザリ。主人公は独自の行動。
金大中事件に激怒。こうなったら在日本韓国大使を拉致し金大中と交換し日本かアメリカに亡命させ臨時政府を樹立させよう!と言いだして周囲から危ないやつ扱い。しかも支部組織を飛び越え、手紙をしたためて東京の在日組織に訴え。

その手紙が大使館一等書記・李慶仁(KCIA)に伝わり、日本の公安外事課、さらにアメリカ大使館にも伝わる。「この宋義哲って誰だ?」と調査と内偵、尾行。
尾行したエージェントが「あいつやべえ」ってなる理由が宋の「無表情」だった。感情を表に出さないやつは決意を実行する可能性が高いものらしい。(たぶん山上もそう)

李はアメリカ大使から「我々も宋義哲という若者に関心を寄せている」と警告も受ける。李も本国に召還され殺されそうになって政権に忠誠を示す。軍事独裁政権はみんなつらいよ。

宋義哲が出入りする小島商店って何だ?KCIA李の部下が必死で写真を撮って東京へ。日本公安外事課長に見せたら「アジア解放民族戦線」幹部の小島義徳(阪大理学部卒でアル中)だ。さらにラブホテル経営者・高達成(情報通で宋に資金も提供)とも知り合う。そこにいた金淳子(美人)とも知り合う。話し合いはこのラブホテルを利用。

そして左翼運動活動家たち。同じ高校だった門脇律子(人妻)には夫名義パスポートを取得させ偽造パスポートを用意。このパスポートで出国入国ができるか確かめるために律子と香港へ旅行(新婚旅行というてい)。妻子がありながらこの女とも何度もセッ○ス。
この主人公が今まで読んだどの本の主人公よりも性欲に限りがなく絶倫。金淳子にも「やりたい」と要求。妻とも一晩に何度も。律子とも求め合う。性風俗店にも行く。

やがて一命を賭して1974年光復節式典で朴正熙を暗殺するしかないという決意。手段はどうする?「警官の銃が欲しいんです。」「日本の権力の銃弾を使って殺りたいんです。」

大阪中の交番の中から盗み出すのに都合がよさそうな1交番を選らび、毎日ずっと交番の警察官たちの行動パターンを観察し研究。まんまと盗み出す。
東京の病院に入院し夜に抜け出し奥多摩で試射。(実はその様子はずっと日本公安部によって観察されている。泳がされてる。)

韓国に入国後、ウォーカーヒルのキーセンでも毎日のように女を買う。こいつの性欲は異常。これが韓国人か?
ソウルのウォーカーヒルは調べてみても今では華やかなカジノリゾート情報ばかり。ここはアメリカ第八軍司令官W.H.ウォーカー中将の名前を取ってUN軍兵士と外国人向けに1963年に作られたリゾートエリア。

梁石日氏はウォーカーヒルを朴正熙政権が外貨獲得のために作った「最も汚辱に満ちた場所、国を特定の外国人に売り渡した場所」と断罪。(朴正熙はベトナム派兵でも自国の若者の命と引き換えに外貨を獲得。)
日本の戦後経済成長に朝鮮戦争の軍需もあったのは確かだが、韓国の経済成長はさらに闇。

そして運命の光復節。宋義哲は現地で金淳子から拳銃と式典の座席を与えられ、その瞬間を迎える。
文世光事件とはだいぶ違う。小説として脚色。暗殺者が暗殺に失敗するノワール小説。
F.フォーサイス「ジャッカルの日」のようなラスト。「夏の炎」も十分に面白く満足度が高かった。
日本の子どもたちは見た目だけに惑わされ、韓国の恐ろしさを知らなすぎる。

2022年8月22日月曜日

ねるそん提督

長濱ねるがレギュラーコメンテーター出演をしている人間ドキュメンタリーバラエティ番組「セブンルール」の長濱ねるスピンオフSPともいうべき「7 ROOTS」が7月22日にフジテレビ系で放送された。自身のルーツである長崎・五島列島に里帰りした他、8か月密着取材したねるドキュメント。

長濱ねるは4歳から7歳まで4年間に渡って幼少時を五島列島・新上五島町で育った。両親ともに教師であることは知られていた。父親が英語教師らしい。新上五島町に赴任していたということは中学教師?両親の出身地かなにか?
7歳までいたというだけではこれほど島集落に思い入れもないかと思う。その後も夏休みのたびに島に滞在していないと、島の仲良し家族との楽しい思い出も記憶もないはず。

ねるは以前にも「欅って、書けない?」で仲良しの齋藤冬優花と一緒に五島を訪れ、長崎(諫早?)の長濱家にお泊りする様子が放送された。その時も島の奈良尾集落の住民たちから歓迎を受けていた。
ねるが通った奈良尾図書館。少女ねるお気に入りの児童文学はロアルド・ダール
4歳から7歳まで過ごしたのでは図書館に入り浸るようになるか疑問。
ねるが道行くと婦人たちが声をかけて歓迎してくれる。なつかしいかき揚げをふるまわれる。
ねるは写真集も五島で撮っている。その場所もほとんど公開され特定されている。多くのオタたちが現地を訪れ写真を撮りまくったはず。番組では普通の民家までそのまま映ってた。
8歳当時のねるを見て「リアル思い出のマーニーじゃん!」って思った。ジブリ感が強い。
ねるが欅坂オーディションを受けたのが高2の夏。あの有名な母親による東京から長崎への連れ去り事件が発生したころ。
この顛末がやがて「ひらがなけやき」になる。ねるの中途半端な立ち位置が後にねるを苦しめる。「芸能界は向いていない」と思い詰めるようになる。
欅坂を辞めた後は1年ほどスローな生活を送っていたという。「夜中にカップ麺食べたり一日中映画見たり」
ねるは通信制大学で司書資格をめざしていたはず。通信制だと通わなくて暇だったのかもしれない。

芸能界を引退するつもりだったのだが、事務所の人たちが制止。辞めるなんて決めることはない。
そのことが2020年7月の芸能活動再開へとつながった。「セブンルール」出演オファーがやってくる。やるかやらないかの返事を1週間でしないといけなかったという。本人はそのときのスローな生活を放棄してまたあの喧騒の日々に戻ることを躊躇したらしい。だが、ねるはテレビの現場に戻った。
そんなねるの傍らにいた高校時代からの親友が「おーしゃん」。今回の取材のためにカフェの個室スペース的な場所に呼ばれた。
ふたりは長崎西高の家庭科部。(それってほぼ帰宅部では?)
この子もねるを追って東京の大学に進学したらしい。高2でねるが東京に行ってしまうと知ったときは泣いたという。

この子を見て「もしかして…」と思った。長濱ねるは高校生クイズ長崎県大会に高1と高2のときに出場して、高2のときには決勝まで進出しているのだが、この「おーしゃん」こそが一緒にペアを組んで出場した相棒か?!そうなのか?!
ネット上の出演時の画像を比較してみると、どうやらそうらしい。顔の形と顎の形状がほぼ同じ。
ねるそんとおーしゃんはガチ親友。ふたりとも「漠然とあの環境から逃げ出したい、抜け出したいというのはたぶんお互い共通で持っていた」
(逃げ出したい?そんなにも長崎にいたくなかったのか?外の世界を見たかったのか?まあそれが若者として普通か。)

東京でひとりぼっちのねるはおーしゃんにLINEで助けを求めた。ねるの「いつも近くにいてくれてありがとうね」に対しおーしゃんは「いつでも助けに行くために東京にいるんだからね」と返したという。そんなにも気が合った親友がいるなら東京での生活にも希望がある。

番組最後では「いちばん好きな場所」だという「矢堅目公園」へ。ここがねるの「原点に立ち返れる場所」だという。
そういう場所がある人は幸せだ。自分は何処も思い浮かばないw
そんなすばらしい番組だった。俺とねるそんとのねるちんすく条約がまだ有効だと再確認した。

2022年8月21日日曜日

F.フォーサイス「ジャッカルの日」(1971)

フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」(1971)を篠原慎訳1979年角川文庫版で読む。543ページの大長編。

フレデリック・フォーサイス(1938 - )を読むのは高校のとき「第四の核」を読んで以来これで二冊目。国際スパイスリラー物の巨匠。英国はスパイ物がさかん。てっきりもう故人かと思っていた。83歳の今も現役?!
THE DAY OF THE JACKAL by Frederick Forsyth 1971
この本を今になって読もうと思ったきっかけは山上徹也事件。衝撃的な暗殺事件をニュースで知ってこの本を思い出した。読むことにした。大物政治家暗殺の立案、計画、実行のリアルな展開とその結末の物語が読みたくて。

フランスの秘密軍事組織OASが、アルジェリアに関しては裏切り者の独裁者ドゴール大統領暗殺を企て、凄腕の英国人殺し屋「ジャッカル」(コードネーム)を起用して…というフィクション国際陰謀スパイ(殺し屋)スリラー。

物語は1963年3月のパリ、フランス空軍中佐が大統領暗殺未遂事件に関与した罪で銃殺刑になる場面からスタート。
さらに幹部も拉致され逮捕。反ドゴール派組織は追い詰められじり貧。
主要メンバーのロダンは当局から名前も顔も割れていない一流の外国人殺し屋を雇うことにする。この件はトップ3人しかしらない。

で、オーストリア・ウィーンで30代ブロンドの英国人と接触。やはり超一流らしい眼光と能力を持っているらしい。こいつに依頼しよう。

だが、要求額が法外な50万ドル。なんとか25万ドルを宝石強盗銀行強盗で稼ぐ。残りはドゴールさえ亡き者にすれば再び右翼銀行家たちからなんとか借りることができるだろう。
呼び名が必要だ。暗号名はジャッカルということになる。「自分は絶対に失敗しない。残りを払わなかったらお前らを殺す。」

あとはひたすらジャッカルの下準備。まずドゴールの著書や新聞記事などを入念に調査。とくに性格を知っておきたい。そして決行日と場所を決定。

あとは外国人パスポートを盗んだり、偽造したり。英国では墓場でそれらしい名前を手に入れ書類を用意しなりすまし。ベルギーの闇の武器ブローカーに狙撃用の武器を細かく指定し作らせる。森の中でテストする。このへんのやり取りは徹底リアル。読んでて感心しかない。
それに英国人作家の書く文章が、訳者の技量にもよるのだが、とても読みやすい。わかりやすい。

読んでいてゴルゴ13のモデルってジャッカル?って感じた。だがゴルゴのほうが古い。1968年から連載が始まってる。一流の殺し屋のスタイルとはそういうものか。

だが、読者は知っている。ドゴールは暗殺されることもなく自宅で息を引き取るまで生きた。ということは、どこかで計画は失敗する。一体どうして?!それは読者には明かされる。
ロダンら3人はローマのホテル最上階フラットを借り切ってるのだが、対外治安総局SDECEのローラン大佐らエージェントチームが、ロダンのアジト警備担当ポーランド人を身内が病気であるとマルセイユにおびき出し捕らえ拷問し自供を録音。どうやら、ブロンドの殺し屋を雇ったらしいことがバレる。

真ん中あたりから第2部が始まる。フランス当局とジャッカル、双方の目線で描かれる。イギリス側もフランスに協力。
フランスは国家の威信をかけて長身ブロンドの英国人殺し屋ジャッカルを手探り状態で探す。ルベル警視とその同僚部下が、大統領を狙う殺し屋のフランス潜入という情報を隠しながら、一歩一歩ジャッカルを包囲していく。
アレグザンダー・ダッガン名義パスポートで潜入していることが判明してから、かつてドミニカ共和国で将軍を暗殺した凄腕スナイパーのチャールズ・カルスロップへとたどり着く。

ジャッカルはミラノからアルファ・ロメロのスポーツカーをレンタルしフランスへ。ここから先は田舎ホテルから男爵夫人の館へ。ハンサムを活かして男性としての能力も使う。そのへんはジェイムズ・ボンドの英国の伝統。

ジャッカル自身に落ち度はないのに、OASのユルユル秘密保持能力のせいで仕事がしづらくなってるし窮地。ほんとうの敵は無能な身内。
まるで「逃亡者」みたくなってる。(警察に協力しない農家とかも逃亡者で使われるパターン)
だが、殺し屋ジャッカルは姿を知られたら女であっても殺す。
さらにデンマーク人牧師へと身分と姿を変え、フランス警察網を掻い潜りいよいよパリへ。

第3部は全体の10ぶんの1ぐらい。いよいよジャッカルの標準器にドゴールの頭部が…という段階。計画が完成する…と思いきや、英仏の思わぬ習慣の違いがまさにその瞬間に勝敗を分ける要因に?!
ジャッカルも超有能なのだが、ルベル警視も超有能。まるで湾岸署の青島ぐらいカンがいい。間一髪でその現場に踏み込む。

ああ、さすが古典的名作。読んでる最中も面白かったし、後味と余韻が濃い。多くの人にオススメする傑作!

2022年8月20日土曜日

長澤まさみ「マスカレード・ナイト」(2021)

映画「マスカレード・ナイト」(2021)を見る。「マスカレード・ホテル」(2019)の第2弾フジテレビ制作娯楽映画。主要キャストもほぼほぼ前回と変わらず木村拓哉と長澤まさみの主演映画。
原作は東野圭吾。監督はまたまた鈴木雅之。脚本は岡田道尚。音楽は佐藤直紀。

またまた都内で連続殺人が起こっている…という状況。そしてまさみ演じるホテルマン山岸の勤める一流ホテルに犯行予告。
そこでまたキムタク演じる刑事新田がホテルマンに扮する潜入捜査…という話。
今回はダメだろと思った。日本でいい歳した男女が仮装パーティーとかバカなの?かと。そんなのリアリティない。そもそも重大な事件の捜査をするなら中止だろ。

初登場シーンの新田浩介刑事(木村拓哉)のヘアスタイルが公務員としてありえない。こんなヘアスタイルの50歳とはつきあえないw 
なぜ冒頭からけっこう長い時間ソシアルダンス踊ってるんだ。そのシーンが何度も何度も。中村アンがきれい。(なんと冒頭ダンスシーンのみの出演)

ホテルマン山岸尚美(長澤まさみ)が今回もビシッと立ち姿が決まってる。
だが、一流ホテルのブランドを守るために必死すぎ頑張りすぎ堅物すぎ。こんな人っているの?ほぼマンガキャラ。自分ならぜんぶ上層部のせいにしてテキトーに流してやっつけ仕事にする。
このシリーズのまさみはずっとホテル制服姿で衣装に変化がなくて、そこはオタとして見ていて面白みがない。
で、ホテル客クレーマー田中みな実(ほぼ不審者)もやっぱりほぼマンガキャラ。たかだか数万円の宿泊費で王侯貴族のように振舞うな。なにこのとんち問答。落語なの?
てか、警察幹部たちもほぼマンガキャラ。渡部篤郎も芝居がかってイキってる。篠井英介さんはほぼ歌舞伎。また梶原善いんのかよ。

山岸と新田、またピリピリしながらマナーの闘い。警察とホテルのせめぎ合い。日本の二大スター。このふたりが出てるカットだけで高級な感じがする。

フロントマン同僚が今回は石黒賢なのか。偉そう。この二人が一緒の画面にいればコンフィデンスマン。ホテルマンは客の守秘義務があるにしても、絶対に推測すらもさせない義務もあるのか。
小日向文世さんも出てる。もうフジテレビ感がすごく強い。

沢村一樹が最初から不審者。金さえあればどんな要望も許されるのか?日本はそういう国になった覚えはない。色恋に金をかけるな。コンシェルジュは舞台演出家でも心理カウンセラーでもないぞ。

てかやってくる客が全員セレブ気取り不審者。身の毛がよだつ。
一流ホテルが宿泊客に不倫という公序良俗に反する場を提供していいのか。なにがラブアフェアーだ。
いい話風エピソード、事件と関係ない目くらましヒューマンドラマをいくつも盛り込むな。
そもそも異常すぎる仮装は他の一般客に迷惑。

大不審者2が麻生久美子。表情も雰囲気も不気味。まさみと麻生のやりとりも女優として一流を感じる。
石黒賢が一見正論を言ってるけど、ホテルは治外法権じゃないんだぞ。こいつも不審者。
山岸は「マスカレード・ホテル」で身分を偽った客に殺されそうになったっていうのにどうしてそんなに純真無垢に客を信用できるんだ?と思ってたら、そこは新田も指摘。
新田は頭がキレてカンが鋭い。山岸は鈍い。
やはり名探偵まさみが事件の謎を解く映画のほうが見たい。

博多華丸さんは異常にオドオドしてる不審客3。視聴者への目くらまし。木村佳乃と高岡早紀はどう絡む?!
ホテル潜入捜査の刑事たちは真犯人に振り回され右往左往、二転三転。またしても山岸の命が狙われる?!またまたまさみ大ピンチ!またまた新田のカンの鋭さ独壇場。

意外過ぎる真犯人と意外な展開を用意した東野圭吾フジテレビ娯楽作映画。
ぺらぺら喋りすぎる箇所は2時間刑事ドラマぽくて好きじゃない。ポアロみたくドライに犯人に徹底的敗北を与えて自決させるのがベスト。
犯人の動機がとってつけたようでキャラ造形が弱い。ここが欠点。
あと、新田が犯人が怒鳴りつけるシーン、自分は昔からキムタクが突然大声出す演技が好きじゃない。「ああ、またか」って思う。

ロスってそんなに行きたいか?日本と客の性質がまったく違うんだからジャパンドメスティック山岸イズムは通用しないぞ?(石川恋、かわいい。)
「無理ですは禁物」のサゲがちょっと印象薄い。新田が強引なだけのヘンな人に見える。

2022年8月19日金曜日

アガサ・クリスティー「蒼ざめた馬」(1961)

アガサ・クリスティー「蒼ざめた馬」橋本福夫訳1979年ハヤカワ文庫版(1991年第20刷)で読む。
これも4年前に100円で見つけてずっと積んであったもの。手に入れたときからあまり状態はよくなかった。私的クリスティーマラソン83冊目。
THE PALE HORSE by Agatha Christie 1961
主人公のマーク・イースターブルック氏は著述を仕事にする学者らしい。オリヴァ夫人と仲良くしてるのでてっきり中高年かと思ってたら、読み進めるうちに青年だとわかる。
チェルシーのカフェでコーヒーを飲んでると若い女同士のケンカを目撃。後日、その当事者のトミイ21歳が病院で自然死してたことを知る。

場面が変わる。感冒から肺炎になって危篤の女性(謎めいてる)のアパートで最期を看取り懺悔に立ち会ったカトリック司祭が、霧の夜の路地で撲殺。この人の良い優しい神父は靴の中にメモ書きを残していた。その人名リストにある名前を調べると、何人かすでに亡くなっている…。

コリガン医師からその件を知らされたマークは不審なものを感じる。ステディな彼女もいるのだが、赤毛娘のジンジャと一緒に調査。
ルジュヌ警部は殺された神父を尾行していた男を探す。調剤薬局の主人がその男をしっかり見ていたのだが、その男は数年前から小児麻痺によって下半身がマヒしていて歩けない。

マークは三人の魔女が住むという宿屋兼居酒屋「蒼ざめた馬」が人々の死に関わっている疑惑を強める。いろんな人々のところへ出向いて話を聴いて確信。その仲介をしているのが弁護士のブラッドリィ氏?

マークは遂に潜入囮捜査のようなマネをする。赤毛のジンジャを巻き込んで。
「蒼ざめた馬」の三人の婦人がオカルト的な方法で人を自然死させている?!

これ、今まで読んできたクリスティ女史の作品とは一線を画すサスペンスホラー長編?
自分は読んでいてずっと困惑してた。場面が断片的で映画っぽい目線。
もし中学生時代の自分が最初にこの本を選んでいたら、アガサ・クリスティーにはそれほどハマらなかったかもしれない…などと考え始めた。それほどまでに独特な一冊。

だがしかし!ジャジャが大ピンチ?!そしていよいよ事件の黒幕に迫る!という段になって予想外な真相!さすがクリスティ女史だったわ。

でも、ずっとどんなジャンルなのかわからず読んでいた時間が長くてストレスだったw 全体としては退屈だったのに最後の最後で何かがスパークするような作品。
主人公よりも陰で動いていた刑事のほうが実は冷静沈着で有能だったという肩透かしパターンでもあった。そしてセンス高いおしゃれなラブコメエンド。

ちなみに、この物質を使った殺害事件は日本でも実際に起こっていた。
あと、邪知暴虐のプーチンが反体制的人物やジャーナリストを「--」によって殺害する事件が英国で最初に発覚したのは、英国人がクリスティのこれを読んでたからじゃなかったかと思った。

2022年8月18日木曜日

与田祐希「量産型リコ 」(2022)

6月30日からテレビ東京系列で乃木坂46与田祐希主演ドラマ「量産型リコ」が始まってる。
これが7月期ドラマで唯一見てる楽しいドラマ。第1話の脚本がマンボウやしろさんだった。

ヒロインは広告代理店に勤めてるのだが、暇な部署でそれほどやる気もない。同期の暑苦しい男性社員から「量産型」と呼ばれ、心の底で気になってる。
そして帰り道の商店街にある矢島模型店で「量産型ザク」のプラモと出会う。
近年とても多い「ガール・ミーツ・ホビー」ドラマ。新しい趣味と出会って新しい自分を発見するドラマ。そして、その趣味がおっさんしかやってないものならなおさら良い。

当初は「ガンプラ」だけ作るドラマかな?と思ってた。スポーツカーなどいろいろなジャンルに挑戦。
このヒロインが会社では窓際おじさんたち(マギー、森下能幸)と一緒に仕事していながら、なぜか熱い若手社員(前田旺志郎)に挑戦的にヘラヘラしてる。不適な薄ら笑いを浮かべてる。端正ですべすべした与田の顔の質感を捉えるカメラワークがよい。
矢島模型店の田中要次さん初めて見たときから今現在もやってる役が変わってない。イメージが変わってない。出会ったときからおじさんな人はずっとおじさんのまま。
その助手女店員(石川恵里加)がなぜか与田ちゃんには「~ッス」口調。

与田ちゃんはまだまだ女優としてこれから。もっと活躍してほしい。できれば「TRICK」の山田みたいに謎を解く探偵役がいい。やりようによっては浜辺みなみとかに勝てる…気がする。

2022年8月17日水曜日

江戸川乱歩「陰獣」(昭和3年)

江戸川乱歩「陰獣」角川ホラー文庫「江戸川乱歩ベストセレクション④」(平成20年)を手に入れた。たまたま立ち寄ったBOが半額セールをしてたので文庫棚を右から左へじっくり見て選んだ3冊のうちの1冊。55円でゲット。「陰獣」と「蟲」の2本の中編を収録。

どちらかいうと「蟲」を読みたくて購入。陰獣は前回読んでからまだ数年しかたってない。現在のミステリー読者からすると素朴かもしれないが、自分はこれが乱歩の最高傑作だと思ってる。
「陰獣」は光文社の江戸川乱歩全集を、「蟲」は春陽堂文庫の江戸川乱歩文庫を底本とする。

「陰獣」は博文館の「新青年」に昭和3年に3回に渡って掲載されたもの。昭和3年というと奉天近くで張作霖が爆殺された年。日本でラジオ放送が始まった年。この当時の「新青年」編集長が横溝正史。乱歩と編集者横溝の二人三脚で生まれた傑作。
発表当時から大きな話題になったし今でも乱歩のベスト扱い。自分も本格推理小説としては陰獣がベストだと思ってる。

探偵小説家の寒川は上野の帝室博物館で、寒川の探偵小説の愛読者だという小山田静子という婦人と偶然知り合う。この婦人が妖艶エロス。うなじの下から背中に酷い蚯蚓腫れがあるのをチラ見。
静子は実業家小山田六郎の妻なのだが、かつて静岡の女学校時代に若さゆえの過ちを犯してしまった平田一郎から脅迫されていると語る。この平田が謎の探偵作家・大江春泥

寒川は静子を守るために奮闘。それでも静子は日々平田の影におびえる。
そして小山田氏の水死体発見。天井裏で見つかったボタン、運転手の手袋の件、乗馬用の鞭とSM。
小山田氏の帰国と大江の作品発表のタイミングなどから寒川は世間に姿を見せない大江の正体について推理。
現在のミステリーでもよくある二重のどんでん返し真相。

陰獣は乱歩のメタ小説。これまでに発表した乱歩作品らしきものが随所に出てくる。乱歩がこのレベルの本格中編をあと5本ぐらい書いてくれていれば、さらに神レベルのレジェンドになっていた。

「蟲」は昭和4年「改造」に掲載。昭和4年は世界恐慌の始まる年。
主人公・柾木愛造は27歳。幼少の時から極度の厭人病者。両親が相次いで亡くなると大学も辞め、親の残してくれたわずかな財産で郊外の土蔵のある家で雇い人の婆さんと暮らしている。世間との接触を断っている。
ある日、唯一の友人池内の紹介で小学校時代の初恋の相手・木下芙蓉と再会。この子が有名な舞台女優になっている。初恋を再燃させる。

芙蓉に自らの想いを必死に伝えたのだが、彼女は彼を嘲笑う。そして柾木は芙蓉を拉致し殺害する計画を立てる。運転免許を取り中古フォードを購入しタクシーに改造。座席に空洞を作る。芙蓉をタクシーに招き入れ首を絞めて殺害。自室である土蔵の二階にその死体を運び入れる。

ここから先が異常。死体は急速に腐ってゆく。微細にその様子を描写。そして死体に防腐処理を施そうと奮闘し焦燥し徒労。ミイラの製法書を読んだりするのだが、もうどうにもならない。そして柾木の精神は狂う。そして数日後、腐敗した死体と一緒に死んでいる柾木が土蔵の中から発見される。というノワール小説ホラー。
今までに読んだ乱歩作品の中で一番ヤバイ狂った作品だと感じた。これは子どもに読ませてはいけない。これは発禁相当。

コロナと戦争の現在に読む本じゃないなと思った。柾木はある意味でプーチン。甘い見通しで戦争を初め、ロシアと世界を取返しのつかない状態まで破壊していく…。

2022年8月16日火曜日

ドラえもん のび太の恐竜(1980)

ドラえもん映画第1作「ドラえもん のび太の恐竜」(1980 東宝)を見る。監督は福冨博、脚本は藤子不二雄、松岡清治。制作はシンエイ動画と小学館。
小学生のころ以来で見る。今は思い立ったら配信でちゃちゃっと見れる。便利な世の中になった。

てんとう虫コミックス10巻収録の「のび太の恐竜」は発表当時から感動の名作という扱い。もともと他作品よりも長めだったのをさらに長編化。
1980年を最初に2006年、2020年と3回も劇場公開映画になってる。それはすごい。

先日、「日向坂で会いましょう」を見ていたら、渡邉美穂が「ドラえもん」のモノマネをしていた。だがそれは水田わさび版ドラえもんだった。ちょっとショックだった。ドラえもんというと当然大山のぶ代だと思ってたから。これからの世代とは大きなギャップがある。
ドラえもん声優キャストといったら大山のぶ代小原乃梨子野村道子たてかべ和也肝付兼太は永遠に不動。ルパン三世キャストと同じぐらいに不動。

本当にアニメ版ドラえもんを小学生以来で見たのだが、大山のぶ代ドラえもんの声と喋りを今聴くと、わりとクセが強いなと感じた。活舌と喋り方が落語家っぽいなとも感じた。
あと、しずかちゃんの声ってこんなだったんだと思い出した。懐かしすぎた。

ストーリーをツッコミながら見た。そもそも「のび太の恐竜」はていのいい捨て猫捨て犬だと思ってた。だが、化石をタイム風呂敷で当時の状態に戻して孵化させ育てたのなら、野生に戻してやるしかないか。

たしか野比家は世田谷だったはず。フタバスズキリュウの成体を放し飼いできるような大きな池自体が東京では不忍池、洗足池、石神井池、井の頭池ぐらいしか思い浮かばない。

そもそも成長促進剤を与えることが良くない。てか、スモールライトがあるのなら、小さくしておいて家で飼えばいいのでは?

ドラえもんはとても頼りがいがあるように思えたのだが、大人になってからドラえもんを見るとかなり子どもっぽい。タイムマシンが故障して見るからに焦燥してぼんやりしてる。これはいくら鈍感小学生であっても見る者を不安にさせる。
あと、白亜紀の海って人間が泳いでも大丈夫なのか?

あと、崖を掘り返して土と石を落としたとしても、小学生に穴を掘らせるような労役を課すのは現在ならどうなの?

敵キャラが全員覆面レスラーのようだった。これは一目で悪人だとわかる。さらに、恐竜ハンターの最大顧客がいかにも欧米の金持ちという悪人。かなりトランプ大統領っぽい。

オープニングテーマが大山のぶ代の歌う「ぼくドラえもん」、エンディング主題歌が武田鉄矢さん作詞の「ポケットの中に」。どちらも強烈に懐かしい。
自分は今年になって初めて「ドラえもんプラス」というてんとう虫コミックス全6巻(2005)の存在を知った。あまりに長い間ドラえもんから離れていた。

ドラえもんというとてんとう虫コミックス全45巻がすべてだと思っていた。(ちなみに自分はたぶん23巻ぐらいまでしか読んでないが、幼少時は他に読むものがなくほんとうに何度も繰り返し読んだ。)
実はあれは選集で、こんなにも未読作があったとは知らなかったし考えたこともなかった。そんなことがあるって子どもには想像も及ばない。(2019年にはさらに「ドラえもん0巻」も発売)

1巻と2巻には1970年から1990年にかけて小学館の学年誌(二年生から四年生)に掲載された「てんコミ」未掲載作品を一気に収録。
おそらくほとんどの人がこの本で初めて読む、時代を超えて蘇った懐かしくて新鮮なエピソードの数々。面白かった。童心に帰れた。

自分は今回、1巻と2巻を読んだ。(3巻以降もいずれ読むだろうと思う)
のび太がとにかく酷い。ダメ人間に対して人はどこかシンパシーを感じるのだが、のび太はすぐに増長して調子に乗る。悪戯と悪ふざけ。これはうんと懲らしめないといけない。
さらにジャイアンが酷い。第1巻「ココロチョコ」のジャイアンは今読むと完全に習近平中国そのもの。ちなみに習近平とジャイアン剛田武の誕生日は同じ6月15日。

2022年8月15日月曜日

ローランド・エメリッヒ「ミッドウェイ」(2019)

ローランド・エメリッヒ監督の「ミッドウェイ Midway」(2019)を見る。
日本での公開は2020年。配給はキノフィルムズ。脚本はウェズ・トゥック。日本にとって太平洋戦争が負けに転じた分水嶺。あまり見たくなるものでもないけど、歴史のお勉強も兼ねて見ておく。

映画は1937年東京清澄庭園から始まる。アメリカ海軍駐日武官レイトン少佐(パトリック・ウィルソン)は山本五十六(豊川悦司)から「日本を追い詰めるな」と警告される。「分別のある日本人もいるからチャンスをくれ」
(山本五十六は豊川悦司よりも國村隼のほうがイメージに合ってるだろ。)

ハワイの西にいる空母エンタープライズのベスト中隊長(エド・スクライン)は発着訓練中。日本と違ってガム噛みながら無駄口が多いのが米兵。あまり軍人らしくない連中。なんかカッコつけすぎだろ。
そして真珠湾の戦艦アリゾナの新兵たち。そこに日本海軍の機動部隊がとつぜん奇襲攻撃。みんな日本の逆ギレを予想してなくて呆然。(日本を追い詰めたアメリカも悪いんですよ。)
アリゾナのすぐそばで幼い少女が見物中。この子はレイトン少佐の娘?

ハルゼー提督は日本艦隊の追撃に向かうが空振り。若い米兵たちの戦死がテンポよく描かれる。
戦艦アリゾナに乗艦していたベストの親友も地獄のような惨状で部下を救おうと奮闘するも戦死する。遺体は黒焦げ。

山本はまるで飛騨高山みたいな雪国日本でルーズベルトのラジオ演説を聴いているw このへんはアメリカ側のイメージ。山本「眠れる巨人を起こしてしまった…」とつぶやく。
山本は山口多聞少将浅野忠信)に南雲忠一中将(國村隼)が真珠湾の燃料タンクを破壊しなかった不満を述べる。
陸軍との会議から戻る車の風景がまるでヨーロッパの森のよう。まるで日本らしくない。
一方そのころハワイではアメリカ野郎らしい仲間を失った愁嘆場。

新任の太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ(ウディ・ハレルソン)は、日本軍の攻撃を防げなかった責任を感じるレイトンに引き続き情報分析を担当させる。「山本の考えを読み次の行動を予測しろ!」

ハルゼー提督のエンタープライズはマーシャル諸島を攻撃。ベスト隊は飛行場を破壊する。日本兵がキビキビしてなくて中国人にしか見えない。
真珠湾でアメリカは一丸となったが、日本は窮鼠。早くも爆撃機で自爆攻撃。機転を利かせて艦載機から機銃掃射して間一髪で艦の撃沈を防いだ機関士はすぐにその場で昇進。
反撃の準備をしないといけないのにハワイは将校クラブでダンスパーティー。まあ日本も偉い人は芸者と飲んでたわけだが。

空母ホーネットからドゥーリトル中佐(アーロン・エッカート)が一か八かの日本本土を報復空襲。食事中の昭和天皇も怯えながら慌てて防空壕。このシーンを見ただけでとてもB級感がする。

ドゥーリトルと中国人の邂逅。このシーンも中国資本の影響。国民党軍が隠れ住んでるんだから日本軍の人家空襲も当然なのにさも酷いことのように描くな!と思ったのだが、アメリカ人はドゥーリトル隊の攻撃への報復だとわかっている様子。

レイトン暗号解読班のロシュフォート中佐(ブレナン・ブラウン)が日本海軍の攻撃目標はミッドウェー島だと断言。ニミッツたちはなかなか情報の価値をわかろうとしない。信用しない。
だが、アメリカ軍が太平洋を奪い返したのはこういった優秀な情報将校たちのおかげ。日本にはその価値観がなかった。

珊瑚海海戦で損傷した空母ヨークタウンを突貫工事で修復。湿疹が酷いハルゼーを療養させ、スプルーアンス少将に第16任務部隊を任せ空母3隻をミッドウェーに配備。
空母から攻撃機を発着させるのは難しい。戦闘でないのに操縦士が無駄に死ぬ。

そして1942年6月4日。映画開始から1時間20分、やっとアメリカは日本艦隊を迎え撃つ。
南雲中将が敵を見下す。この人には空母と戦闘機をつかった海戦の経験も素質もなかった。魚雷切り替えタイミングに敵機に発見されるという不運もあった。
日本海軍の将校にも日本語イントネーションのおかしいアジア系俳優がいる。それがわかるのは日本人視聴者だけ。まあ、これもハリウッドなので。

日米双方が多大の犠牲。若い命を散らした結果、日本はヨークタウンを大破(そのシーンはあまりなかった)させたものの、アメリカは赤城、加賀、蒼龍の空母3艦を撃沈。さらに飛龍も航行不能で自ら沈没。
ミッドウェイ海戦は日本にも勝ち目はあったのだが情報の差で負けた。

ラストのベスト隊長の帰還は都合よすぎないか?だが、米国の苦戦ぶりと薄氷の勝利が、日本にリスペクトしつつ、感動的(アメリカ人にとって)に描かれた映画。
ミリタリー戦術オタの評価は知らないしわかりようがない。CGにリアルを感じた人もいるようだが、自分はトラトラトラのほうがリアルを感じた。
日本側の主役は山口多聞だった。敗軍の将が艦と一緒に沈むという伝統はバカの極み。経験のある人材を次に活かせ。

日本とアメリカはガチで空母同士の死闘をした唯一の二か国。その経験は双方で共有されているはず。双方にリスペクトがある。中国、ロシアにはそれがない。
だが次の時には、80年前の経験は活かせないかもしれない。きっと何か別の要素が戦況を変える。

2022年8月14日日曜日

文春新書1320「ラストエンペラー習近平」(2021)

文春新書1320「ラストエンペラー習近平」エドワード・ルトワック著 奥山真司訳(2021)を読む。著者はルーマニア出身で米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問という人物。

欧州では2020年末の中国との投資協定が2021年5月に欧州議会で否決され、半年の間に日本のステータスが上がったという。
それは中国の外交戦略の根本的失敗のせいだと著者は語る。それはつまり自国内では自由化民主化を退化させた「皇帝」習近平の全方位強硬路線「戦狼外交」のせい。
中国の意思決定はたったひとりの頭の中で成される。一度欧米から嫌悪の目で見られた人物が名誉を回復するのは難しい。

巨額の財政出動でいちはやくリーマンショックから立ち直った中国はカン違いをしてしまった。「このままいくと10年で経済力で世界一になれる!」と。
だが、経済力がそのまま国力にはならない。日本はかつて世界第2位の経済力があったのだが、「国力」が世界第2位だったことはない。だが中国は金の力で小国はなんでもいうことを聞きかせられると思ってしまった。

で、登場したのが「九段線」。これは蒋介石国民党の「願望」にすぎないものだった。結果周辺国は反発。反中包囲網となっていく。
楊潔篪「中国は大国だ。あなたがたは小国だ。」中国国内でしか通用しない論理を外交で吐く。

思わぬ反発をくらった中国は日本やインドを避けて弱そうな国を狙う。だがここでも間違った。もともと中国系が多く反米だったフィリピンと領土問題を発生させ敵にしてしまった。実力の伴わないヤツが相手かまわずイキり回ってる。何目的?

そしてコロナ。習近平は大国の指導者らしくない不安定な言動。スウェーデン、インド、ベトナム、オーストラリアとも関係悪化。戦略上、最も愚かなことは周囲のすべてを敵にすること。
そして香港国家安全維持法と海警法。中国は国内の法律を世界に適用させる。世界、どんびき。結果、世界規模の反中国包囲網。
人権意識の高い欧州各国の中国への反発が思っていた以上にえぐい。

中国はアメリカが共和党トランプ政権から民主党バイデン政権に変われば対決姿勢を弱めるはずだと思っていた。それもカン違い。対中国対決姿勢は党派を超えた国家戦略。

この著者は日本の安倍首相を高く買ってる。中国への最適な対処はNOを突きつけること。小さいものは大きなものに従うのが当たり前という思想を持つ中国は安部に戸惑う。だから安倍は中国からも韓国からも北朝鮮からも蛇蝎のごとく嫌われた。これこそが小国のとれる方法。対決はアメリカに任せて置けw

習近平は世界的IT企業のトップですらも、皇帝である自分よりも下にあることをはっきりさせる。どうしてこういう人格になってしまったのか?それは少年時代に家族が味わった文革の酷い経験。酷い目にあったからこそかえって毛沢東を妄信。自分もそうなりたいと願った?

著者は最新軍事テクノロジーも専門。もうすでに戦車や水上艦は役に立たない。的にしかならない?もう有人機の開発はやめろ?(それは2022年開戦のウクライナ戦争を見ると納得)
そして中国を倒すための楽しいアイデアの数々w
世界がこの世界を守るためにできること、それは習近平のメンツをことごとく潰すことw

この本、日本の読者に向けて語りかけるように書かれてる。内容がとてもわかりやすく平易。たぶん中高生でもすらすら読める。たぶん外交国防とも無縁なサラリーマンの通勤電車の読物。
ずっと「中国は大したことない」「恐るるに足りず」という楽観論調。日頃中国にムカついている人には爽快な本かもしれない。