2022年8月21日日曜日

F.フォーサイス「ジャッカルの日」(1971)

フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」(1971)を篠原慎訳1979年角川文庫版で読む。543ページの大長編。

フレデリック・フォーサイス(1938 - )を読むのは高校のとき「第四の核」を読んで以来これで二冊目。国際スパイスリラー物の巨匠。英国はスパイ物がさかん。てっきりもう故人かと思っていた。83歳の今も現役?!
THE DAY OF THE JACKAL by Frederick Forsyth 1971
この本を今になって読もうと思ったきっかけは山上徹也事件。衝撃的な暗殺事件をニュースで知ってこの本を思い出した。読むことにした。大物政治家暗殺の立案、計画、実行のリアルな展開とその結末の物語が読みたくて。

フランスの秘密軍事組織OASが、アルジェリアに関しては裏切り者の独裁者ドゴール大統領暗殺を企て、凄腕の英国人殺し屋「ジャッカル」(コードネーム)を起用して…というフィクション国際陰謀スパイ(殺し屋)スリラー。

物語は1963年3月のパリ、フランス空軍中佐が大統領暗殺未遂事件に関与した罪で銃殺刑になる場面からスタート。
さらに幹部も拉致され逮捕。反ドゴール派組織は追い詰められじり貧。
主要メンバーのロダンは当局から名前も顔も割れていない一流の外国人殺し屋を雇うことにする。この件はトップ3人しかしらない。

で、オーストリア・ウィーンで30代ブロンドの英国人と接触。やはり超一流らしい眼光と能力を持っているらしい。こいつに依頼しよう。

だが、要求額が法外な50万ドル。なんとか25万ドルを宝石強盗銀行強盗で稼ぐ。残りはドゴールさえ亡き者にすれば再び右翼銀行家たちからなんとか借りることができるだろう。
呼び名が必要だ。暗号名はジャッカルということになる。「自分は絶対に失敗しない。残りを払わなかったらお前らを殺す。」

あとはひたすらジャッカルの下準備。まずドゴールの著書や新聞記事などを入念に調査。とくに性格を知っておきたい。そして決行日と場所を決定。

あとは外国人パスポートを盗んだり、偽造したり。英国では墓場でそれらしい名前を手に入れ書類を用意しなりすまし。ベルギーの闇の武器ブローカーに狙撃用の武器を細かく指定し作らせる。森の中でテストする。このへんのやり取りは徹底リアル。読んでて感心しかない。
それに英国人作家の書く文章が、訳者の技量にもよるのだが、とても読みやすい。わかりやすい。

読んでいてゴルゴ13のモデルってジャッカル?って感じた。だがゴルゴのほうが古い。1968年から連載が始まってる。一流の殺し屋のスタイルとはそういうものか。

だが、読者は知っている。ドゴールは暗殺されることもなく自宅で息を引き取るまで生きた。ということは、どこかで計画は失敗する。一体どうして?!それは読者には明かされる。
ロダンら3人はローマのホテル最上階フラットを借り切ってるのだが、対外治安総局SDECEのローラン大佐らエージェントチームが、ロダンのアジト警備担当ポーランド人を身内が病気であるとマルセイユにおびき出し捕らえ拷問し自供を録音。どうやら、ブロンドの殺し屋を雇ったらしいことがバレる。

真ん中あたりから第2部が始まる。フランス当局とジャッカル、双方の目線で描かれる。イギリス側もフランスに協力。
フランスは国家の威信をかけて長身ブロンドの英国人殺し屋ジャッカルを手探り状態で探す。ルベル警視とその同僚部下が、大統領を狙う殺し屋のフランス潜入という情報を隠しながら、一歩一歩ジャッカルを包囲していく。
アレグザンダー・ダッガン名義パスポートで潜入していることが判明してから、かつてドミニカ共和国で将軍を暗殺した凄腕スナイパーのチャールズ・カルスロップへとたどり着く。

ジャッカルはミラノからアルファ・ロメロのスポーツカーをレンタルしフランスへ。ここから先は田舎ホテルから男爵夫人の館へ。ハンサムを活かして男性としての能力も使う。そのへんはジェイムズ・ボンドの英国の伝統。

ジャッカル自身に落ち度はないのに、OASのユルユル秘密保持能力のせいで仕事がしづらくなってるし窮地。ほんとうの敵は無能な身内。
まるで「逃亡者」みたくなってる。(警察に協力しない農家とかも逃亡者で使われるパターン)
だが、殺し屋ジャッカルは姿を知られたら女であっても殺す。
さらにデンマーク人牧師へと身分と姿を変え、フランス警察網を掻い潜りいよいよパリへ。

第3部は全体の10ぶんの1ぐらい。いよいよジャッカルの標準器にドゴールの頭部が…という段階。計画が完成する…と思いきや、英仏の思わぬ習慣の違いがまさにその瞬間に勝敗を分ける要因に?!
ジャッカルも超有能なのだが、ルベル警視も超有能。まるで湾岸所の青島ぐらいカンがいい。間一髪でその現場に踏み込む。

ああ、さすが古典的名作。読んでる最中も面白かったし、後味と余韻が濃い。多くの人にオススメする傑作!

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