2022年8月17日水曜日

江戸川乱歩「陰獣」(昭和3年)

江戸川乱歩「陰獣」角川ホラー文庫「江戸川乱歩ベストセレクション④」(平成20年)を手に入れた。たまたま立ち寄ったBOが半額セールをしてたので文庫棚を右から左へじっくり見て選んだ3冊のうちの1冊。55円でゲット。「陰獣」と「蟲」の2本の中編を収録。

どちらかいうと「蟲」を読みたくて購入。陰獣は前回読んでからまだ数年しかたってない。現在のミステリー読者からすると素朴かもしれないが、自分はこれが乱歩の最高傑作だと思ってる。
「陰獣」は光文社の江戸川乱歩全集を、「蟲」は春陽堂文庫の江戸川乱歩文庫を底本とする。

「陰獣」は博文館の「新青年」に昭和3年に3回に渡って掲載されたもの。昭和3年というと奉天近くで張作霖が爆殺された年。日本でラジオ放送が始まった年。この当時の「新青年」編集長が横溝正史。乱歩と編集者横溝の二人三脚で生まれた傑作。
発表当時から大きな話題になったし今でも乱歩のベスト扱い。自分も本格推理小説としては陰獣がベストだと思ってる。

探偵小説家の寒川は上野の帝室博物館で、寒川の探偵小説の愛読者だという小山田静子という婦人と偶然知り合う。この婦人が妖艶エロス。うなじの下から背中に酷い蚯蚓腫れがあるのをチラ見。
静子は実業家小山田六郎の妻なのだが、かつて静岡の女学校時代に若さゆえの過ちを犯してしまった平田一郎から脅迫されていると語る。この平田が謎の探偵作家・大江春泥

寒川は静子を守るために奮闘。それでも静子は日々平田の影におびえる。
そして小山田氏の水死体発見。天井裏で見つかったボタン、運転手の手袋の件、乗馬用の鞭とSM。
小山田氏の帰国と大江の作品発表のタイミングなどから寒川は世間に姿を見せない大江の正体について推理。
現在のミステリーでもよくある二重のどんでん返し真相。

陰獣は乱歩のメタ小説。これまでに発表した乱歩作品らしきものが随所に出てくる。乱歩がこのレベルの本格中編をあと5本ぐらい書いてくれていれば、さらに神レベルのレジェンドになっていた。

「蟲」は昭和4年「改造」に掲載。昭和4年は世界恐慌の始まる年。
主人公・柾木愛造は27歳。幼少の時から極度の厭人病者。両親が相次いで亡くなると大学も辞め、親の残してくれたわずかな財産で郊外の土蔵のある家で雇い人の婆さんと暮らしている。世間との接触を断っている。
ある日、唯一の友人池内の紹介で小学校時代の初恋の相手・木下芙蓉と再会。この子が有名な舞台女優になっている。初恋を再燃させる。

芙蓉に自らの想いを必死に伝えたのだが、彼女は彼を嘲笑う。そして柾木は芙蓉を拉致し殺害する計画を立てる。運転免許を取り中古フォードを購入しタクシーに改造。座席に空洞を作る。芙蓉をタクシーに招き入れ首を絞めて殺害。自室である土蔵の二階にその死体を運び入れる。

ここから先が異常。死体は急速に腐ってゆく。微細にその様子を描写。そして死体に防腐処理を施そうと奮闘し焦燥し徒労。ミイラの製法書を読んだりするのだが、もうどうにもならない。そして柾木の精神は狂う。そして数日後、腐敗した死体と一緒に死んでいる柾木が土蔵の中から発見される。というノワール小説ホラー。
今までに読んだ乱歩作品の中で一番ヤバイ狂った作品だと感じた。これは子どもに読ませてはいけない。これは発禁相当。

コロナと戦争の現在に読む本じゃないなと思った。柾木はある意味でプーチン。甘い見通しで戦争を初め、ロシアと世界を取返しのつかない状態まで破壊していく…。

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