2022年8月29日月曜日

夏目漱石「倫敦塔・幻影の盾」(明治38年)

夏目漱石「倫敦塔・幻影の盾」を新潮文庫(平成19年76刷)で読む。7本の漱石初期短編を収録。掲載順に読んでいく。

「倫敦塔」
漱石は五高教授在籍時代の明治33年から35年にかけて英国留学。ロンドン塔見物をした。漱石らしいひねくれた観光地見聞録だが、ときに大英帝国歴史絵巻を幻想的に織り込む。これはぜひ映像化するべき。

この作品はできることならイングランド王国の歴史、シェイクスピアについて知識があったほうがスラスラ読める。リチャード3世、エドワード4世のふたりの幼い王子、9日間の王女ジェーン・グレイなどの予備知識があるほうが理解がすすむ。
漱石はロンドン滞在中にイギリス絵画も見ていた。ナショナルギャラリーでドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」に強い印象を受けてた様子。

「カーライル博物館」
こちらもロンドン名所案内紀行文。自分、カーライルという歴史家評論家をまったく知らなかった。

「幻影の盾」
これは読み始めてすぐに戸惑った。あまりに漱石のイメージと違っていた。アーサー王時代の騎士の戦争おとぎ話を幻想的に描いた作品。翻案?「夢十夜」を想わせる作風。味わい深い。

アーサー王の物語に慣れ親しんだ人には「倫敦塔」よりもこちらが親しみやすいらしい。
自分はアーサー王についてまだよく知らなくて全然イメージできなくて激しく戸惑った。ぜんぜんストーリーと状況が頭に入ってこない文体と構成で3度4度と同じ箇所を読んでいった。これもぜひ映像化するべき。

「琴のそら音」
こちらも怪談ファンタジーか?と予想しつつ読むのだが、明治の人々の日常やりとりが活き活きと伝わってくるホームドラマ。

「一夜」
固い漢語調の文体による男女のスケッチ。読み終わった瞬間にもう内容を覚えていないw

「薤露行(かいろこう)」
これもアーサー王の時代のエレーンとランスロットの悲恋を漱石なりの解釈で固い明治文体で勿体つけて格調高く書き上げたもの。「幻影の盾」よりもさらに読みにくいし分かりにくいしで頭に入ってこない。

「趣味の遺伝」
漱石と日露戦争。硬派かと思いきや、やたら言葉数が多い。新橋停車場に凱旋将軍や兵士を見物、満洲の塹壕で戦死した旧友の墓参り先で美人を目撃し、興味本位でその正体を探る…という、軽薄さと落語っぽさもある短編。

以上7本でオススメできるのは「倫敦塔」と「幻影の盾」そして「琴のそら音」ぐらいかな。

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