2024年6月30日日曜日

アンリ・トロワイヤ「ユーリーとソーニャ」(1992)

アンリ・トロワイヤ「ユーリーとソーニャ」(1992)山脇百合子訳、太田大八画、福音館書店(2007)を読む。
これは括りでいうと児童書?漢字のほとんどにフリガナがふってある。おそらく小学高学年以上向け。
山脇百合子って「ぐりとぐら」の絵を描いた人?!

アンリ・トロワイヤ(Henri Troyat 1911-2007)は現代フランスの作家だが本名をレフ・タラーソフというロシア人。幼少時にロシア革命を逃れてパリに移住。19歳より作家活動。

これ、図書館廃棄処分本だというのでもらってきた。あまり読まれた形跡がないキレイな本。読んであげないともったいないので読む。SNS上でもあまり読んでる人がいない。

ロシア帝国モスクワから約100km、トヴェリ県クフシーノヴォのサモーイロフ家はなめし皮工場を経営する裕福な一家。この時代のロシアは田舎でも電気が通ってたのか。
1916年クリスマス、父の帰りを待つユーリー少年11歳が主人公。小間使いドゥニャーシャには父親が誰かわからない娘ソーニャ(11)がいる。母はこの小間使いを気に入りソーニャを家族同然に扱う。
家庭教師の婦人がいるのだが、ユーリーはこの怒った顔をした堅苦しい性格の悪い家庭教師が嫌い。進歩的な思想を持っていて皇帝を批判してる左派。

ドイツとの戦争で物資が不足。馬は軍にとられて痩せた馬しかいない。それに父親の工場では日に日に労働者の不満の声。皇帝はすでに退位。ボルシェヴィキ勢力が強まっている。ペトログラードのケレンスキー政府ももう持ちこたえられない。

赤衛隊が当局の命令だからと勝手にサローイモフ家の林の木は切り倒されるし、工場監督は殺され吊るされるし、家宅捜索されるし(あの家庭教師が密告か?)、父は人民の敵として告発され連れていかれるし、家も接収されるし、皇帝とその家族はエカテリンブルクで処刑されたと聞くし。これがロシア革命のときの有産階級がたどった道か。

小間使いドゥニャーシャが有能だし交渉上手。執事と父を取り戻す。何もできない母に代わって通行証や鉄道切符を手に入れる。心づけを渡して粗暴なボルシェヴィキ男たちを手なずける。

そして母、小間使い、ユーリー、ソーニャはゆっくり鉄道で10日以上かけ、父の待つハリコフまでの旅。
列車が農民たちで超満員だし、体臭が酷いし、トイレもない。食事は自分たちでなんとかしないといけない。途中で取り調べを何度も受ける。衣服に縫い付けてある紙幣や宝石がバレないか心配。ニコライ二世の肖像を持っていた男は途中で降ろされ銃殺。

これがロシア革命の混乱。レーニンは罪深い。ボルシェヴィキもその支持者もみんな品がなく粗暴。今のロシア人はこんなやつらの末裔。品のある人々は殺されたか海外へ逃げた。

大人たちはみんな暗い顔だが、ユーリーとソーニャはどこか非日常を楽しんでる風。

ドゥニャーシャがとにかく有能だしたくましい女性。ナイフをちらつかせる危険な酔った男を夜の間に始末する。当局に見つかったらどうする?「男が1人増えようと消えようと何の問題もない」他の乗客もなんとも思わない。

機関士が途中の野原で列車を停止させ、乗客を棄ておいてそのまま帰宅w もう自分の仕事を続ける理由もない。ま、社会が変革するとき誰もが自由。
ドゥニャーシャが次の駅まで歩いて汽車を動かせる人を連れてこようと提案。居酒屋にいた飲んだくれ元機関士見習い老人を連れてくる。なんというコミュ力。

ウクライナは二つの勢力が争ってる。しかもドイツ軍もいる。途中から鉄道の線路が取り払われていてもう先へは行けない。まるでカオス。
そこに地元の馬車が裕福な客を求めてやってくる。だが、そんなものに乗って大丈夫か?
御者が「近道だから」と他の馬車と違う近道を行く。やっぱりドイツ軍につかまる。鉄条網の収容所へ。

さらに酷い境遇。スペイン風邪が蔓延中で母も感染。薬もない。うわごとを言うようになる。これは相当にヤバい。なのに子どもたちは自由に遊び回る。楽しそう。

ユーリーはドイツ兵と知り合うのだが、この人はユーリーと同じ年の子どもを残してアルザスから出征。ドイツ人を憎んでる。収容所内でウォッカを密造。ユーリーの母がスペイン風邪と知って、「スペイン風邪にはウォッカが効く。だが値が張る。」という。ドゥニャーシャに相談すると、その額なら払えるという。

待て待て、そんな代物に残り少ない金を使ってしまって大丈夫か?と思ってたら、母は快方へ向かう。あのドイツ兵は詐欺師じゃなくてよかった。
だが、衛生上の理由でこどもたちは全員丸刈り命令。坊主頭になってしまったソーニャをドゥニャーシャは慰める。「ターバン帽をつくってあげる」

やっとのことでハリコフに着くと、そこにいるはずの父がいない。ホテルにいくと置手紙。ボルシェヴィキ警察から逃れるためにオデッサへ行ったらしい。
親切な紳士の協力で必要な書類を手にいれ、さあオデッサへ出発。だがその直後に列車は脱線。どんだけ試練が続く?!

フランス軍が駐留するオデッサで父と再開。え、ユーリーとソーニャは恋?
子どもなのに裸になって抱き合ったり?!ここ読んで児童向けとしてどうなの?って思った。ユーリーはソーニャにプレゼントする本を万引きしてるし。(ここ、日本の少年少女向けにするならカットしてもよかった)

だが、ユーリーが盗んだ本を贈り物にするという箇所は、ずっとサモーイロフ家のために尽くして有能ぶりを発揮したドゥニャーシャの最後での悪女な振舞と対になってるなと感じた。そこに気づける児童っている?

現実リアルでビターな結末。この本、やっぱり大人向けじゃん。

読んでいてスピルバーグ映画「太陽の帝国」を思い出す内容と構成だった。
実質ヒロインといっていい未婚の母ドゥニャーシャが、まるで「崖の上のポニョ」のおっかさんで脳内再生していた。絶望的な状況であっても諦めないし逞しい。
てか、この本を福音館さんはもっと本気でがんばって売って欲しい。なんならジブリアニメにならないか?宮崎駿翁はこういう女性が好きだろ。

2024年6月29日土曜日

竹宮ゆゆこ「知らない映画のサントラを聴く」(2014)

竹宮ゆゆこ「知らない映画のサントラを聴く」(2014)を読む。平成26年新潮文庫NEX
で読む。
もうしわけないがこの本はBOを物色してて110円で見つけたので連れ帰ったもの。ちょいタイトルが気になった。文庫書き下ろし作。

ヒロイン錦戸枇杷23歳は大学卒業後に就職に失敗し自宅警備員。ネトゲにはまるわけでもアニメ、マンガに現実逃避するでもなく、ただひたすら家でゴロゴロ。両親と兄と兄嫁は全員歯科医師。何もしてない申し訳なさから掃除や洗い物はする。冷房はつけないというこだわり。頭はぼさぼさでヨレヨレのジャージとTシャツに便所サンダル。友人はひとりもいない。

夜な夜な、街を徘徊。ある目的をもって。セーラー服(テロテロ素材のコスプレ用)を着た「ヤバイ栗山千明」のような女に、自転車に乗ってるといきなり襲撃され、あるものを奪われる。その奪われた物をとり返すために、そのセーラー服を探して夜の街へ出る。

枇杷にはただ一人の親友がいた。小学三年の夏のプール授業。向かい合って手をつないでぐるぐる回転する遊び…で知り合った朝野。帰国子女なのであだ名が「アメリカ」w
この子が頭がよく超美少女。高校で別々になり、朝野には彼氏ができる。

てっきりラノベ的なものを読んでストレスなく過ごしたい…と思って選んだ。この23歳無職女の独白文体がPOPでテンポとグルーヴ感が若者のそれ。
だが、内容は純文学だったかもしれない。友人朝野の突然の自死、その元カレ女装変態男昴、そして贖罪。
太宰治や林芙美子を読んでるような感覚だったかもしれない。もしかするとこの作者は天才かもしれない。

いや、面白かった。高校生、大学生、二十代女子は読むべきだと思った。ふつうに青春映画を1本見終わった感じ。今すぐアイドル主演で映画かドラマにするべき。

2024年6月28日金曜日

ローマ人の物語「ハンニバル戦記」(1993)

塩野七生「ローマ人の物語」の平成14年新潮文庫版3と4と5「ハンニバル戦記」上中下巻を読む。

上巻では第一次ポエニ戦役(前264-前241)を扱う。
シチリアの西半分は当時の地中海最強国カルタゴ勢力圏。その東側のメッシーナとシラクサは新興国ローマにつくか、それともカルタゴにつくか。
自分は知らなかったのだが第一次ポエニ戦役の主な戦場はシチリア島の陸上と近海。

メッシーナ、シラクサを勢力下に置くためカルタゴとの衝突は避けられない。海軍どころか輸送船団もないローマが、国力十数倍の経済大国、軍事大国カルタゴに立ち向かうのは無謀ですらある。
アグリジェント攻撃を機に両国激突。ローマは無能な執政官を送り込む。なのに初戦の海戦で連戦連勝。なぜだ?

慢心からかその後、2年連続嵐で軍船(ガレー船)を大量遭難。
カルタゴは敗戦の責任を将軍を処刑することで片付けるのだが、ローマはぐだぐだ敗戦であっても執政官たちの責任は問わない。なので軍事で大失敗しても1年後に再びそいつが現場の指揮をとる。名門貴族出身者なので現場は何も言えない…。

カルタゴは成熟した国。有利な講和を結べそうなタイミングで外交交渉を持ち掛けるのだが、ローマはプライド高すぎ。講和はまとまらない。

あと、カルタゴ側はゾウさんを戦車替わりに使う。ゾウさんにビビるローマ兵だったのだが、槍投げでゾウさんを狙う。傷を負って怒り狂ったゾウは暴走しカルタゴ兵を踏み潰す。
古代の昔から戦争のたびに牛馬が犠牲になっているのだが、ポエニ戦争でも戦場でゾウさんがたくさん死んでいる。輸送途中に嵐で遭難して死んでいる。かわいそうなゾウさん…。

傭兵頼みのカルタゴに対して、市民全員が兵士のローマはシチリアを得たので、23年におよんだ第一次ポエニ戦役はローマの勝利といえる。
シチリアを得た後にサルデーニャ、コルシカ島も得た。地中海の西半分の制海権を失った。
ローマ人はギリシャ文化と平和を享受。

上巻後半は戦後の両国。ローマの税制、軍制の解説。
ローマの軍規の厳しさにどんびき。古代のこととはいえ、居眠りしたら集団で殴り殺されるとか、軍規に反した一団からくじびきで10人のうち1人を選んで処刑するとか怖すぎる。まるでミッドサマー。

ローマ市民17歳から60歳まで兵役。なので戦争も召集も嫌う。
ということは日本も国民皆兵だったり徴兵だったりすればむしろ戦争は起こらないかもしれない。てか、国民に銃の撃ち方覚えさせたら、自民党や政商の偉い人はむしろ身の危険を感じるようになるかもしれない。

その一方でカルタゴは傭兵への給与支払いを渋って傭兵が叛乱。

中巻は第二次ポエニ戦役(前219-前206)。第一次でカルタゴの指揮をとったハミルカルの息子ハンニバルが29歳になっていた。スペインから北上しエブロ河を渡河。そしてピレネー超え。ローマ側に緊張走る。

自分、ハンニバルというとゾウを引き連れてアルプスを越えイタリアに攻め入ったとだけ聞いていた。スペインを出発するとき30頭だったゾウさん戦車部隊。アルプスを越えてイタリア北部に入ったときはたったの1頭?ゾウさんが可哀想。
ハンニバルがとったルートが2200年経った今も不明。

ハンニバル軍はティチーノでローマ軍と最初の衝突。トレッビア会戦、トラジメーノ湖畔での戦い。ガリア人たちを味方につけて連戦連勝。ローマと属州からの軍と衝突するたびに殺戮。そしてカンネの戦いでローマ軍に圧倒的勝利。

第二次ポエニ戦争のとき、カルタゴ側についたシラクサを執政官マルケルスの軍が攻略。このときシラクサの住人アルキメデスがローマ兵に殺されている。

ハンニバルの弟たちはスペイン戦線で優勢。スペインで司令官の父と叔父を失った息子スキピオ24歳「おれにやらせろ」スキピオはコルネリウス一門で美男子で魅力的でローマ市民から人気。スキピオはさっそくカルタヘーナを攻略。

南部イタリアを動き回るハンニバルに何もできなかった老マルケルスもついに戦死。しかし、ローマ連合を離散させられなかったことはハンニバルの誤算。ターラントを失いプーリアへ引っ込む。
スペインから駆け付けるハンニバルの弟ハシュドゥルバルのカルタゴ軍に対してローマはベクラ会戦、メタウロ会戦で迎え撃ち。

ハンニバルは29歳から44歳まで過ごしたイタリアを去る。ファビウスの持久戦法がハンニバルを追い出したわけだが、時代は凱旋将軍の若武者スキピオの時代。
前202年のザマ会戦でアウェーに乗り込んだローマ軍が敵を壊滅させる圧勝。ザマに投入されたゾウさん部隊はあんまりローマ相手に効き目なかった。

以後、スキピオ・アフリカヌスと呼ばれる。
カルタゴは厳しい講和条件を飲むことに。ローマ側は16年で10万人以上の戦死者、10人以上の司令官を失っただけにこれぐらいの要求は妥当。

さらに、シリア、マケドニアを征服。しかしスキピオは病弱。「自分ひとりで勝ったと思うなよ」という反スキピオ派のカトーが台頭。以後、ローマは帝国主義的に変貌。
穏当な対処を続けてると相手にナメられる。マケドニア王が反抗的。執政官エミリウス・パウルスを派遣しマケドニアを滅ぼす。
ローマを文化後進国で弱腰とナメてかかるギリシャ人に見せしめのためコリントを破壊。

さらに不誠実に約束不履行を続けるカルタゴも犠牲。カトー「滅ぼすべし!」
前146年、スキピオの養孫スキピオ・エミリアヌス司令官は炎上するカルタゴを見て涙。

自分、高校世界史でローマがカルタゴを滅ぼしたの「酷い!」と思ってたけど、カルタゴはいくらでも生存していく可能性はあった。ダメなほうの選択肢ばかり選び続けて、最後は玉砕。
700年続いたカルタゴは徹底的に破壊され更地。(現在のカルタゴ遺跡はアウグストゥス帝時代の再建された植民都市。)

「鐙(あぶみ)」って古代ローマ時代にはなく、中世以降の発明だと知った。ローマ騎兵はたぶん無様な動きしかできなかったらしい。

長大だった全3巻「ポエニ戦争」を読み終えた。これは太古の昔にあった出来事だが、現代の国際情勢にも当てはまることが多いように感じた。数百年続いた国も亡ぶ。日本国の運命、台湾の運命はいかに。

2024年6月27日木曜日

ローマ人の物語「ローマは一日にして成らず」(1992)

塩野七生「ローマ人の物語」の平成14年新潮文庫版1と2「ローマは一日にして成らず」上下巻を読む。
今までずっと斜め視界に入っていた本だった。ようやく重い腰を上げて、読破を目指して読み始める。

エトルリア人のいるイタリア半島に紀元前8世紀にギリシャ人たちがやってきて植民都市を作っていく。
自分、ロムルスとレムスが現在のローマにある7つの丘に国を建国したとか、てっきり神話世界だと思ってた。その前にトロイがあってアエネアスがいるわけだが。

ロムルスの後に2代目ローマ国王がいるわけだが、王政ローマの王って一人も名前を知らなかった。たぶんよほど受験勉強強者でもこの時代のローマ王たちの名前を全部言えるという人はいないのではないか。
2代目の王はヌマという。ローマが征服しローマに住まわせたサビーニ族の神官を、元老院が説得して王にした?ローマは建国当初から多民族国家だった?
この時代の王は選挙王政。今でいえば終身大統領みたいなもの。ローマ市民の意見のまとめ役。第2代王のときのローマは平和。

3代目王トゥルス・ホスティリウスはアルバを征服。やっぱり奴隷にするのでなくローマ市民として融合。(アルバ王は2頭の馬にそれぞれの脚を引き裂かれる極刑)
4代目はアンクス・マルキウス。テヴェレ河に初めて橋をかける。
5代目はタルクィニウス・プリスコ。ギリシャ人とエトルリア人の混血。自ら王になるべく選挙運動をした王らしい。エトルリア人の技術を使って都市建設を本格化。丘と丘の間の湿地帯を干拓。フォロ・ロマーノ、ユピテル神殿を建設。

6代目は先代王に拾われ育てられたセルヴィウス・トゥリウス。ローマの7つの丘を囲い込む城壁を建設。ディアナ神殿を建立。軍政を改革。このころになってローマは周辺の部族の中でも抜け出た存在。

7代目タルクィニウスは5代目の実の子。(セルヴィウス王を殺害)
前6世紀、7代244年で王政は終了し共和制へ。
共和制ローマの創始者(王政の打倒)はルキウス・ユニウス・ブルータス。2人の執政官を選ぶスタイル。以後、共和制ローマは500年続く。

日本古代史における弥生時代みたいなもの?ヤマトにクニが誕生し周辺国を平らげていく。

だがエトルリア人流出により国力低下。そして貴族と平民の争い。
当時のアテネとスパルタを視察。中高世界史で記憶の奥底にある古代ギリシャのおさらい。
ミケーネとかドーリア人とかダリウス1世とかクセルクセスとか、ペロポネソス同盟とかレオニダスとか、アテネのペリクレスとか、今日までほとんど思い出す事もなかった単語。

リキニウス法って名前しか覚えてなかった。貴族と平民の抗争にいちおう終止符。執政官、護民官、独裁官、みんな高校世界史以来思い出した単語。

前390年にケルト族が襲来。ローマは建国以来初めて異民族に攻略され炎上。ギリシャ視察で作られたものの市民を失望させた十二表法って、このとき消失?
以後、サムニウム族との戦い。ターラントとの戦い。エピロス王ピュロスとの戦い。このときローマ人は初めて象を見る。

ロムルスによる建国から500年、前270年をもってイタリア半島をほぼ手中。
高校生はこの本の1巻2巻を読めば、ほぼほぼ古代ギリシャ・ローマの受験知識は得られるのではないか?

巻末で塩野せんせいはローマ研究家が必ず読むべき一次資料としてリヴィウス「ローマ史」、ポリビウス「歴史」、プルタルコス「列伝」、ハリカルナッソスのディオニッソス「古ローマ史」を挙げている。

ローマ市民リヴィウスをのぞく3人はすべてギリシャ人。没落し始めたギリシャ人はローマ興隆に高い関心。
80年代にアメリカで日本関連書籍が、90年代以降の日本で中国関連書籍がたくさん出版されたのと同じようなことか。

塩野先生は日本人にとって、キリスト教とフランス革命史の影響を受けていない当時のギリシャ人目線のローマ史はしっくりくると語ってる。
え、リヴィウスのローマ史って全142巻のうち33巻しか現存してないの?!ディオニッソス「古ローマ史」は全20巻のうち9巻しか残ってない?!

ちなみに、ユリウス・カエサル暗殺以前に7月は「July」とは呼ばれていない。3月から数えて5番目の月ということで「Quintilius」。
さらに、アウグストクスにちなんでつけられた8月Augustも、共和制時代は3月から数えて第6月「Sextilis」と呼ばれていた。

2024年6月26日水曜日

西村京太郎「松本美ヶ原殺意の旅」(2002)

西村京太郎長編トラベルミステリー「松本美ヶ原殺意の旅」(2002 実業之日本社JOY NOVELS)を読む。2001年に週刊小説に連載されたものを単行本化。

自分、自ら好んで西村京太郎を読もうと思えないのだが、この本もそこに無償でいただいてきたので読む。
今年のGWもとくにどこへも出かけなかったので、こういう本で出かけた気分になろうかと。自分が西村京太郎を読むのはブログ開設以来これが3冊目。

十津川警部は妻直子の大学の後輩笠原由紀から事件について調べてもらうよう依頼。由紀の兄で画家の笠原功は中野のアパートで焼死体となって発見され、事前に灯油20リットルを購入していたことから、恋人との別れ話に悩んだ末の焼身自殺とされていた。

灯油を販売したというGSでの目撃証言もしっかりしていて疑問の余地がない。だが十津川は「証言がしっかりしすぎている」と不信感。これは何か組織的な殺人では?
笠原は事前に信州松本の美ヶ原高原へスケッチに行くと話していた。その約束が人の生死にかかわる重大なものだったという口ぶりだった。

笠原の恋人・坪井アキコによれば、笠原とは信州行の件で口論はしたけど、別れ話なんてまったくない。そして坪井は美ヶ原へスケッチに行くことをFAXで知らせてくる。
だが、坪井は諏訪湖畔で鈍器で殴られ昏睡状態で病院へ搬送。
十津川が病院を訪ねると、笠原はなんで諏訪湖にいたのかも覚えていない。FAXしたことも覚えていない…。

半分あたりでもう事件の概要はだいたい出そろった。あとは事件の推移を見せられる。殺人のアリバイ、証人、総会屋、恐喝、まあ、普通に刑事ドラマを見てる感じ。
こういうの、暇をつぶすのに安心して読めるという人もいるかもしれないが、自分としては何も刺激がない…。

公判後、十津川警部は2人の才能があったのに事件に巻き込まれ死んでしまった画家の肖像画を見比べる。そして本当を真相を求めていくと、画家同士の友情が…という、意外なラストが用意されていた。

2024年6月25日火曜日

アーサー・C・クラーク「3001年終局への旅」(1997)

アーサー・C・クラーク「3001年終局への旅」(1997)を伊藤典夫訳ハヤカワSF文庫(2001)版で読む。
3001:THE FINAL ODYSSEY by Arthur C. Clarke 1997
子どものころに初めて「2001年宇宙の旅」を見て以来、長い年月を経てついにシリーズ完結編を読んだ。それ自体が宇宙の旅。

「2001年」でコンピューターHALの叛乱により、哀れ宇宙の果てまで漂う遺体となってしまったフランク・プール。まさか遺体が回収され、蘇生復活させられるとは。だが、2001年に死亡したはずの人間が、目覚めたら3001年とか、一体どうすれば?

なんか、ノリが「地球帝国」に似ている。あれは植民星で数世代経て地球に里帰りして、目にするものすべてに驚くという展開だった。今度は一気に未来へ跳ばされるという悲喜劇。
宇宙エレベーターはまだまだ素材の分野で実現が難しい。

ACクラーク氏の未来予測は当たっていたものもあり、そうでもなかったものもあり。
てか、木星があんなことになってしまってる時点で、もう人類はどうなるのか予測つかない。
フランクは、人類が決して着陸してはいけないとされていたエウロパに、デイブ・ボーマンの意思に導かれるように着陸を強行。

なんか、「2061年」からそうだったように、この「3001年」も、「2001年」の続編ではなく、「同じ主題による変奏曲」だという。60年代に書き始めたころと比べて、宇宙への知識がどんどん更新されていってるので、細部でつじつまが合うわけでもない。そのへんは自由。

あとがきを読んで、「HAL」とはIBMを1文字づつ前へずらしたものと噂されたことに、ACクラーク氏は悩まされていた…ということを知った。

あと、ミスター都市伝説関の言うように、人類はいつの日かトランスヒューマノイドを経て、機械になり、やがて宇宙を自由に飛び交う意識のような存在になるんだろうか。

ACクラークの著作は読んでないものがまだまだある。すでに手に入れて積読してるものもある。あと、「宇宙のランデブー」シリーズもある。まだまだ今後ゆっくり読んでいこうと思う。

2024年6月24日月曜日

綾辻行人「鳴風荘事件 殺人方程式Ⅱ」(1995)

綾辻行人「鳴風荘事件 殺人方程式Ⅱ」を読む。1995年にカッパノベルスより刊行後、1999年に光文社文庫化、2006年に講談社文庫化。自分が読んだものは2017年5刷。

東京警視庁捜査一課の明日香井叶刑事は学生時代まで天体観測を趣味とする理工学部の学生だったのだが、マンションの窓に殺人事件を目的して駆けつけて、そして運命的に出会った女性が現妻の深雪。

深雪は中学時代の美術部顧問で恩師(事故で左足切断後、教師を辞めて画を描いて過ごしてる独り暮らし中年)や、かつての仲間たちと再開するために八ヶ岳山麓の海ノ口へ。タイムカプセルを掘り返して、かつての夢がかなったかどうかなど思い出話に花を咲かせよう。そして自慢の敏腕刑事(?)をみんなに自慢しよう。

だが、明日香井叶刑事はボンクラ。直前になって虫垂炎で入院。代わりに双子の大学院生兄・響(哲学)と夫婦を装い信州へ。途中でかつて深雪の家庭教師だった五十嵐という美青年と出会う。深雪の実家は資産家。

かつての秀才は建築家(肥満)、かっこよかった男子はビデオ映像制作会社、スチュワーデスを目指していた美人はOL。そして、かつて深雪と女流作家兼イラストレーターで予言者みたいなこともする霊能力者(?)姉紗月殺害現場に出くわした妹夕海がやってくる。すっかり成長して姉そっくり。

建築家蓮見が祖父から受け継いで、現在妻が外装にキテレツな絵(ポップアート)を描いている別荘へ移動。これが鳴風荘。八ヶ岳から強風が吹くと「ぎょおおおおおっ」という音が鳴る。(それ以外は抜け穴とか変わったギミックがあるわけでもない)

そして翌日、宿泊してた夕海が、かつて姉が殺されたときと同じ状況で死んでいる。長かった髪を切り取り持ち去られている。衣類の入ったカバンも。

で、その後は身分を弟の叶と偽ったままの兄響が捜査。そこに県警もやってくるけど、バレるまではこのまま叶でいよう。

深夜に地震があってペンキがこぼれて川にようになってる。犯人はこの川を越えられなかった?という、エラリー・クィーンのような些細なパズラー。
さらに、恩師の先生も死後数日たって腐臭を放った状態で発見…。

2007年文庫新装版が出たときの綾辻先生のあとがきによれば、読み返しても「悪くない仕上がり」というから、たぶん自信作。

自分としては、520ページは長いなという印象。それに、弟の明日香井叶刑事がなぜかまったく活躍してない。兄響が身バレしないまま真犯人を名指し。そんなこと可能か?

2024年6月23日日曜日

綾辻行人「殺人方程式 切断された死体の問題」(1989)

綾辻行人「殺人方程式 切断された死体の問題」を読む。
この本は1989年にカッパノベルスより刊行後、1994年に光文社文庫化、そして2005年に講談社文庫化。自分が読んだものは講談社文庫2018年11刷。

線路で轢死体となって発見された新興宗教団体教祖。そして教主継承の儀式で教団ビルのドーム型ペントハウスに籠っていた夫も、なぜか対岸マンション屋上で頭部と左腕が切断された状態で発見。

押しの弱い明日香井刑事が捜査。京都で大学院生をやっている双子の兄と、動機が有ってアリバイが亡くて、遺体切断に使われた道具一式が車から発見され最重要容疑者となった教祖息子のカノジョが捜査。

刑事を主人公にするとたちまち社会派の雰囲気になる。
講談社文庫化にあたって綾辻先生が巻末にあとがきを書いて弁明しているように、デビュー2年目の若手作家がカッパノベルスという、推理小説のトップブランドから本を出させてもらえるというので、推理作家としてこういうのも書けないとな…という作品だったらしい。

後半に登場する主人公刑事の兄によって、間接的に「読者への挑戦」が発令してる。
物理的な死体運搬トリックは、まあそんなものか…という感じだが、その他、娯楽作品としてまとまっていて、ミステリーとして「こういうのでいいんだよ」的で、ちょうど良い感じ。

実際、発表当時から読者から好評。
とくに、遺体を切断した理由と、川の対岸で遺体発見されるようにしたくだりは、「おお」と驚けた。
続けて「殺人方程式Ⅱ」を読む。

2024年6月22日土曜日

塩野七生「十字軍物語 4 十字軍の黄昏」(2011)

塩野七生「十字軍物語 4 十字軍の黄昏」(2011)を平成31年新潮文庫版で読む。

文庫第4巻は「皇帝フリードリヒと第六次十字軍」(1228-1229)から始まる。
フリードリヒ2世はなかなか十字軍に出発せず、なんとローマ法王から2回も波紋。
イスラム教徒のいるシチリアで育ったフリードリヒはアラビア語ができた。それすごい。

で、もう最初から講和を目指して話し合い。イスラム側代表アル・カミールとの間で講和が成立(1229)するのだが、これがイスラム側からは「屈辱」という評価。そしてキリスト教徒側からはさらに反発。そしてさっさと南イタリアへ帰国。フリードリヒは1人のイスラム教徒も殺さなかった。そこがローマ法王は不満。
しかし、キリスト教徒たちがイェルサレムへの巡礼ができるようにはなった。十字軍さえ来なければ、中東でイスラム教徒とキリスト教徒の共存は可能。

「フランス王ルイと第七次十字軍」(1248-1254)
今回の主役はルイ9世。ローマ法王から嫌われたフリードリヒと違って理想的なキリスト教君主。
イェルサレム奪還のためにエジプトを攻めるためにダミエッタ上陸。そして弟のアルトワ伯と、ソールズベリー伯が敵の罠に落ちて殺され、ナイル川に流される。このマンスーラの惨劇で聖堂騎士団290人全滅。
さらにルイ7世以下全軍が捕虜。こんなことは十字軍が始まって以来初。以後、パレスチナのキリスト教徒全体が弱体化。

そして1258年、バグダッドがモンゴル軍によって陥落。モンゴル兵はありとあらゆる残虐行為。1260年にはアレッポ、ダマスカスも陥落。イスラム世界には十字軍に代わる新たな敵。

アユーブ朝最後のスルタンを殺してマメルーク朝へと代わっていた。モンゴルの騎馬軍団を止めたのは、元奴隷のバイバルス。アイン・ジャルー会戦での勝利がイスラム世界西半分を救った。
このマメルーク朝のスルタンたちが、パレスチナ沿岸のキリスト教国を締め上げていく。

第7回十字軍から20年、56歳になっていたルイ9世は2回目の十字軍に起つ。だがもう十字軍を勧める人は誰もいない。
今回はチュニジアを攻める。しかし疫病蔓延。そして国王ルイも倒れる。
チュニスの太守から立退料をせしめて帰国する時期が悪く、船が遭難沈没事故。とにかくなにからなにまで悲惨。

1291年5月18日、スルタン・カリルがキリスト教徒最後の拠点アンコンを総攻撃し陥落させ奪還。
塩野七生せんせいは、その後のヨーロッパとイスラム世界をささっと解説してこの本を終える。それにしてもフィリップ4世は酷い。聖堂騎士団への仕打ちは残酷な中世史らしいっちゃらしいが。この時代のキリスト教原理主義者は現代のイスラム過激派並みの思考。

200年存続した国がなくなるってよっぽどのこと。幕末から現代までより長い。アヘン戦争から現代中国までより長い。そりゃあ数々のドラマがあったに違いない。

いや全4巻面白かった。中学高校での十字軍知識で止まってた。キリスト教徒がどばーっと攻撃して盛大にやらかして失敗…という知識以上のものはなかった。この本はもっと読まれるべき。いや、みんな読め。

2024年6月21日金曜日

塩野七生「十字軍物語 3 獅子心王リチャード」(2011)

塩野七生「十字軍物語 3 獅子心王リチャード」(2011)を平成31年新潮文庫版で読む。

第3次十字軍(1189-1192)は英国王リチャード獅子心王、フランス国王フィリップ2世、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世が到着する以前、イェルサレム奪還の翌年の1179年のティロス攻防戦が第1戦。かつてアレクサンダー大王も手こずった海に突き出た島。

そしてアッコン攻防戦。サラディンの元に信じられない知らせ。小アジアを進軍するフリードリヒ赤ひげ皇帝が渡河中に落馬し鎧の重さで溺死。まじか。65歳皇帝、年寄りの冷や水。

英国王リチャードはアッコンを目指す途中で、これまで十字軍国家に非協力的だったキプロス島を征服。これは大きな収穫。さらにサラセンの船も拿捕。リチャードは戦う前から大活躍。
キリスト教徒側は初めて軍事作戦の最高司令官として血筋も能力も王としての徳も兼ね備えたリーダーを得た。第3次十字軍はリチャードとサラディンの一騎打ち。

フランドル伯の戦死など犠牲を払いながらアッコンを奪還。アルスーフへの行軍中にサラディン軍の攻撃も確かな戦況把握で撃退。このときアヴェーヌ伯が戦死。
リチャードはヤッファも奪い、あとはイェルサレムを攻めるだけ。サラディンは5失点6失点してもマウンドに立ってる投手の状態。

戦争が得意じゃないフランス王フィリップはリチャードの指揮下でいるのに嫌気がさしてティロスからジェノヴァ船で帰国。
ドイツ騎士を連れて来ていた皇帝代理のオーストリア公も帰国。しかし残されたドイツ騎士たちはチュートン騎士団を結成。

ルジニャンはアモーリー王の娘シビッラの夫だったからイェルサレム王になれた。だがもうシビッラは亡い。今は王女イザベルが王家に近い血筋。そのイザベルがモンフェラート候コラードと結婚。よってコラードがイェルサレム王にふさわしい。よってルジニャンは王位をはく奪。哀れに想ったリチャードはルジニャンをキプロス王につける。ルジニャン朝はヴェネツィアに奪われるまで300年続く。

コラードは王になって1週間で暗殺?展開がカオスすぎる。
20歳イザベルには52歳コラードのつぎに、26歳のシャンパーニュ伯アンリが次の夫として迎えられる。アンリがイェルサレム王となる。

リチャードはガザ、アスカロンも奪う。キプロス、ティロス、アッコン、ヤッファ、これでパレスチナ沿岸はすべて十字軍側が制海権。海上輸送と兵站線も安心。
だが、リチャードは本国で危機。帰国してたフランス王フィリップが、アッコンで戦死したフランドル伯領を奪うわ、末弟ジョンを立ててイングランド王領に侵攻するわの不審な行為。ああ、早く本国に帰りたい。このままでは本国を失った王になってしまう。

イェルサレム攻撃を早いとこやっつけたい。バリアーノ・イベリンがリチャードのアラビア語通訳として側近になりサラディン弟アラディールと何度も和平交渉。しかし、両者ともイェルサレムには強いこだわり。
だが、リチャードはサラディンの弟アラディールと気があう。そして講和が成る(1192年)。

その後、サラディンは55歳で死去(1193年)。本国へ戻る途中にオーストリア公レオポルドに幽閉され行方不明になるハプニングがありつつリチャードは何とか本国へ帰還。獅子心王の名声は本国にも届いていて英雄の凱旋。ジョン王の味方をしていた貴族も帰順。後はフランス王との戦争。奪われた領地もとり返した。だが、胸に受けた矢の傷によって死亡(1199年)。

第4次十字軍(1202-1204)の主役は史上最強で38歳という若さの教皇インノケンティウス3世、サラディンの弟でイスラム勢力の後継者アラディール、そしてヴェネツィア共和国元首のエンリコ・ダンドロ
呼びかけに応じたのはフランス諸侯。これほどの規模で騎士と兵、馬、食料を輸送する船舶を用意できるのはヴェネツィアしかない。ヴェネツィアにとっても国力を総動員。

シャンパーニュ伯ティボーが主力になるはずが急死。よってモンフェラート候ボニファーチョに変更。フランス王フィリップは王領拡大にしか関心なくて参加せず。どういうわけか約束しても参加しない諸侯が多い。もはや第1回十字軍のときの情熱は期待できない。ちゃんと準備したヴェネツィアからすると憤り。もはや金目当て。

ヴェネツィアに集まった騎士たちにダルマツィアのザーラ攻略を提案。それ、もはや十字軍と関係ないやん。さらにヴェネツィア側の意向によりコンスタンティノープルを攻撃。これには参加してた諸侯も何が何だかわからない。ローマ法王も激怒。何やってんの?バカ!
悪名高いラテン帝国が誕生。もうほぼ東ローマ帝国は滅んでる。ヴェネツィアは東地中海海上ネットワークを構築。

第5次十字軍(1218-1221)
リチャードとアラディールの1192年の3年8か月の講和はその後もずっと更新され続け、1211年に最後の更新がされていた。キリスト教徒が平穏にイェルサレムを巡礼できるんだし、もうこれでよくないか?イェルサレム王位継承者を見つけ出すことすらも困難。聖地のキリスト教徒も現状に慣れてしまった。
その間に、少年十字軍の悲劇のようなことも起こる。

インノケンティウス3世が死にホノリウス3世が継ぐ。この法王が危機感。
十字軍を呼びかけようにも、もはやフランス諸侯も自領を守るのに必死。

イェルサレム王ブリエンヌはなんとか第5次十字軍をしつらえてエジプト北部ダミエッタに上陸する。今回は失地回復をめざすジェノヴァが協力。だがイスラム側はもはや戦争する気も起こらない。
賢明なスルタン・アル・カミールが十字軍側に有利な講和条件を出すのに、法王代理ペラーヨ枢機卿がことごとく反対しぶっ潰す。なんだこいつ。結果、第5次もムダな徒労。以後、また8年の講和。

2024年6月20日木曜日

塩野七生「十字軍物語 2 イスラムの反撃」(2011)

塩野七生「十字軍物語 2 イスラムの反撃」(2011)を平成31年新潮文庫版で読む。
仲間内で醜い争いに終始し、キリスト教徒の軍隊がキリスト教世界が一団となって攻め込んできていることに気づかなかったイスラム勢力側の本格的な反転攻勢を扱う。

三代目イェルサレム王となったボードワン2世は名門の出というわけでなく他にいないから選ばれた。絶対的な兵力不足と創業第一世代がいない状況で王領を防衛していく使命がのしかかる。

ヤッファからイェルサレムへの巡礼道を守備する兵員が不足。
そこにシャンパーニュ出身のユーグ・ド・パイヤンが名乗り出る。これがテンプル騎士団の始まり。この団体のモットーが「イスラム教徒を見たら即座に殺せ」
そして、アマルフィ商人から発足した医療サービスを提供する聖ヨハネ騎士団も登場。

ボードワン2世が亡くなると相続人メリゼンダの夫・アンジュー伯フルクが王になる。
ジョスラン・ド・コートネーが亡くなり、エデッサ伯領、アンティオキア公領が同時にリーダー不在。
十字軍国家で支持されてなかったフルク王はアンティオキアをビザンチンの属領にしてしまい、さらに求心力を失う。

1144年、エデッサ伯領はモスール太守ゼンギによって奪還され要人は殺され市民は奴隷。半世紀の間キリスト教国だったエデッサを徹底的に破壊し地上から消し去った。

第1次十字軍がクリュニー修道会関係者主導だったのに対し、第2次十字軍はシトー会のベルナールが言葉巧みに働きかけ、フランス国王ルイ7世が十字軍参加を表明。これにより諸侯も参戦。さらにホーエンシュタウフェン朝神聖ローマ皇帝コンラッド3世も説得。

コンラッド軍は小アジアに入るとすぐにトルコ軍の待ち伏せゲリラ攻撃に敗れ負傷。以後は甥のフリードリヒが行軍。
このいきさつでフランス王ルイがビザンチン皇帝を敵視するようになる。実はビザンチン皇帝マヌエルはキリスト世界の皇帝でありながらイスラム世界のトルコと密約。

フランス王とドイツ皇帝がイェルサレムにやって来てるというのに、第1次を大きく下回る戦力。この時代は国王皇帝といえども動員できる兵力は限られていた。諸侯のほうが領地が広かった。
なのに1次十字軍も手をつけなかったダマスカスを攻める。イェルサレム王ボードワン3世は初陣。

しかも中東の酷暑。攻城器を持ってきてないなどのグダグダでやっぱり失敗。なんと戦闘開始から4日で撤退。十字軍VIP貴族の戦死行方不明者は113人。惨憺たる結果。
ヨーロッパでの影響は少なかったが、十字軍国家のキリスト教徒たちは見捨てられたという衝撃。
イスラム側の士気が上がる。アレッポの太守ヌラディンはモスール、そしてダマスカスも手中。次の世代の主役へ。

カイロのファティマ朝滅亡とともに台頭してきたクルド族青年がサラディン。学者のような風貌の青年をとくに何とも思ってなかったヌラディンだったのだが、ヌラディン死後、ダマスカス、アレッポ、モスルからメディナ、メッカ、イエメンまでを支配下。末席大名が将軍になったようなもの。やっとイスラム勢力が一枚岩。

その一方、第2次十字軍の主要キャストだったルイ7世は英国王ヘンリー2世と戦争。ドイツ皇帝コンラッドは北イタリア都市と戦争。ヘンリー2世はトマス・ベケット暗殺の件で教皇から破門。もう十字軍にかまってられない。

一方でイェルサレム王アモーリーは息子ボードワンはらい病。長くない命で絶望。
アモーリー死後、「癩王」と呼ばれた少年王が即位しボードワン4世となる。病を押して銀仮面をつけ戦場へ何度も出る。24年の短い命を燃やす。
アスカロンにいたボードワンはエジプトから北上したサラディン軍をモンジザールで退ける。しかし2年後の戦いではサラディンが雪辱。以後、このふたりの間には休戦協定。

姉のシビッラがまともな夫を持ってくれればよかったのだが、夫のギー・ド・ルジニャンはハンサムなだけの男。亡き夫・モンフェラート候との息子ボードワン5世(6歳)を王につける。後見人はトリポリ伯レーモン3世とバリアーノ・イベリン。(ボードワン5世は1年後に死亡。)
そして暗殺者集団「ハッシシを吸う男たち」を率いる「山の上の老人」ルノー・ド・シャティヨン。メッカ巡礼者を襲撃する強盗。イェルサレムとサラディンのつかの間の平和を脅かす存在。
このへんの十字軍を描いたリドリー・スコット監督の「キングダム・オブ・ヘブン」(2005)はいつか見たい。

1187年3月13日、十字軍時代になって以来、初めてサラディンがダマスカスでイスラム側からの異教徒排斥を高らかに訴えた「聖戦」ジハードを宣言。
十字軍側に心理的打撃を与える第一の目標はイェルサレム。

ガリラヤの「ハッティンの戦い」でサラディン軍4万は、おびき出したイェルサレム1万8千を相手にほぼ計画通りの完勝。
逃げおおせたレーモン3世とバリアーノ・イベリンをのぞいて、国王ギー・ド・ルジニャン以下ほぼすべてのイェルサレム王国幹部と、ルノー・ド・シャティヨンが捕虜となる絶望。
シャティヨンだけはサラディンによって引き立てられその場で斬殺。トルコ人でありながらキリスト教徒だったトルコ兵と、イスラムへの改宗に応じない(応じるわけがない)テンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団の騎士も皆殺し。

兵力をすべて決戦につかってしまったイェルサレムは守備のしようがない。アラビア語が堪能なイベリンはサラディンとフランク人救出の直接交渉。ときに脅し。金での解決。サラディンがすごく寛容だったためにフランク人たちは無事脱出。
そして88年間カトリックの都になっていたイェルサレムはふたたびイスラム教の都へ。十字架が掲げられていた岩のドームもイスラム寺院へ改修。

イマームたちの主張に耳を貸さずにサラディンは、コンスタンティヌス大帝が建てた聖墳墓教会には手をつけなかった。おかげでこの教会は今もそのままイェルサレムに残る。
サラディンは1187年だけで十字軍国家をアンティオキアとトリポリとティロスの周辺のみに追い詰めた。あまりに有能過ぎる。

聖都イェルサレムが奪還されたことはヨーロッパには衝撃。今度は自発的に立ち上がる。しかも、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世、フランス国王フィリップ2世、イングランドのリチャード獅子心王、というオールスターの第3次十字軍へと続く。

2024年6月19日水曜日

塩野七生「十字軍物語 1 神がそれを望んでおられる」(2010)

塩野七生「十字軍物語 1 神がそれを望んでおられる」(2010)を平成31年新潮文庫版で読む。
カトリック世界 VS.イスラムの全力ガチンコ対決「十字軍遠征」は人類史の中でも重要トピック。中世史における最大の事件。お勉強のために読む。

イスラム勢力がすぐそこまで迫るという状況でビザンチン皇帝アレクシウスは、今まで仲良くつきあってこなかったローマ法王に救助を要請。「俺たち同じキリスト教徒だよな」

1095年、クレルモンでの法王ウルバン2世の演説を要約すると、「これまでヨーロッパ内でキリスト教徒同士でやってた戦争を止め、これからはオリエントへ行って、キリストの戦士としてイスラム教徒相手にやれ」
出発は1096年8月15日聖母マリア昇天祭の日に決定。

先代のグレゴリウス7世はハインリヒ4世を雪の外に3日間立たせることでローマ法王の権威を知らしめたが、ウルバンは「キリスト教徒をイスラム勢力と戦わせて権勢を示すわ」
これが熱狂的に受けいれられる。メッカへ巡礼することを重要視してきたイスラム教徒にはイェルサレムへ巡礼するキリスト教徒に理解があったというのに。

隠者ピエールと「貧民十字軍」のフライング出発というハプニング。饒舌なピエールに乗せられた武器も持たない貧民の群れは小アジア上陸の段階で多くが死に絶え、勇猛なトルコ兵の草刈り場になってほぼ全滅。

この第1巻の主役たちはヨーロッパの諸侯たち。
  • トゥールーズ公サン・ジルと法王代理ル・ピュイ司教アデマール
  • ロレーヌ公ゴドフロアと弟ボードワン
  • プーリア公ボエモンドと甥タンクレディ
この時代の人々は肖像画とかないのでどんな容姿をしていたのかわからない。だが、プーリア公47歳はモテ男だったらしく女たちがその風貌を記録していた。長身やせ型頑強金髪碧眼。冷静で悪賢く、何とも言えない愛嬌があったらしい。
トゥールーズ公は50代なかばでこの時代では老人なのに人望がないw ゴドフロアは唯一のドイツ人36歳。これらの人々が仲良くケンカしながらイェルサレムを目指す。

意外だったのが、この時代のセルジューク・トルコは群雄割拠で内輪もめ中。十字軍をどうせいつものようにビザンツが送ってきた傭兵部隊だと思ってた。

この十字軍遠征でギリシャ人はヨーロッパ人(フランク人)を嫌うようになる。フランク人たちはギリシャ人を軽蔑するようになる。これは現代のEUとギリシャの関係にも影響を与えてる?!

ニケーア攻略戦で16歳の若き王アルスランを敗走させ、ドリレウムでは重装備の騎兵と歩兵(弓矢を跳ね返すので敵困惑)が軽装備のトルコ兵を槍で蹴散らし、エデッサ伯領爆誕、などほぼ連戦連勝。指揮命令系統が一元化されていないとか、相互の連携が取れてないとか、兵站輸送とか機能していないだとか、勝てそうな要素がないのに。

ビザンツ皇帝も信仰に熱狂する諸侯の頼るばかりで後方支援してない。なのにカトリック戦士に乗っかって失地回復を企むとか、やりがいボランティアをタダ働きさせて儲けようとする経営者みたい。
イェルサレム奪還とかより、諸侯の目当ては領地。なので侵略戦争。

イスラム側もアレッポやダマスカスの太守が兄弟で仲悪いとか、カリフがカイロとバグダッド2か所に分裂両統してて、エジプト側(シーア派)から十字軍支援を申し出てくるとか、まとまり皆無。

第1巻のクライマックスはアンティオキア攻防戦。12キロに及ぶ城壁で囲まれた大城塞都市。攻める側が慎重にならざるをえない。しかも食料不足で飢餓。
しかし市民はギリシャ正教のギリシャ人。内通者も出てくる。塩野七生らしくこの戦いの記述が事細かい。

アンティオキア奪還したのはいいけど、食糧庫も焼いてしまう大失態w そこにモスール太守ケルボガの軍10万が逆にアンティオキアを包囲。それ聞いて皇帝アレクシウスは後方支援するでなく引き返すって酷すぎる。
だが、はっきりした戦略もないトルコ軍は2万の戦死者を残して敗退。

そしてイェルサレムへ。これまで活躍したボードワンはエデッサ守備に、ボエモンドはアンティオキア守備にのために当地に残留。アデマールは疫病により死亡。

1099年7月15日、イェルサレム「解放」。城門を開いてなだれ込んだ十字軍は、異教徒を見れば殺していく。殺戮につぐ殺戮。そして強奪。中世の軍人に人権という言葉はない。
ロレーヌ公ゴドフロアがイェルサレム王(キリストの墓所の守り人)に選出。気分を害した最年長サン・ジルはジェリコへ行ってしまう。イェルサレム解放という目的を達したとしてノルマンディー公とフランドル伯も帰国を希望。
だが、エジプト軍3万がパレスティナに侵攻。
危機に際して一致団結。重い鎧を脱ぎ捨てて奇襲攻撃。これが大成功しエジプト軍を撃退。

イェルサレム周辺の諸都市との講和、支配。そしてゴドフロアの急死。ボエモンドの捕囚。ボードワンが新イェルサレム王になり、コンスタンティノープルに去っていたサン・ジルがトリポリの獲得を目指したり、若きタンクレディの活躍。

エデッサ伯領、中近東の地中海沿岸にアンティオキア公領、イェルサレム王領、トリポリ伯領という十字軍国家が成立し安定。
著者は第一次十字軍主要キャストそれぞれの退場と最期をささっと記して、そんなこんなで第1巻を終わる。

2024年6月18日火曜日

松本清張「失踪の果て」(昭和34年)

松本清張「失踪の果て」を昭和62年角川文庫版(平成12年32刷)で読む。6本の短編を収録。
これ、高校生のころ1回読んで以来。当時持っていたものと表紙が違ってる。たぶんこれが「点と線」「Dの複合」の次に読んだ、人世で3冊目の松本清張。

失踪の果て(週刊スリラー 昭和34年5.1-5.29)
地質学の大学教授が大学から自宅へ帰宅する途中に失踪。後日、縁もゆかりもない赤坂のアパートの一室で縊死してるのが見つかった事件。睡眠薬を飲んでいることと、手帳をしまってる場所がいつもと違う…という不審点から他殺で捜査。
部屋の借主は27、8ぐらいの女性「北原良子」。この女性のことが不明。中年の教授はとにかく真面目でどれだけ調べても女性関係が出てこない。財産も特にない。
迷宮入りして捜査本部は解散。主任警部補は警部になり、そしてハッと動機を思いつく。

額と歯(週刊朝日 昭和33年5.14)
昭和7年、三井の團琢磨が右翼に殺害されてから2日後、向島寺島町のどぶ川で通りかかったペンキ職人が、ぼろきれとハトロン紙に包まれた男性のバラバラ死体を発見。玉の井から近いことから浮浪人かとも思われたのだが、切り傷も刺青もないことから普通の生活者かと推測。
切断された頭部も発見された。富士額と八重歯が特徴。全国紙に波及し被害者の特定と犯人検挙も近いと思われたのだが、被害者の身内が誰も名乗り出ない。
昭和初期の日本の世情と、東京警視庁の捜査を感じられるルポのような読物。

やさしい地方(小説新潮 昭和38年12月号)
感が良くたちまち要点をつかみ弁が立ち、無類の女好きで中身のない弁護士が代議士になって…という半生。ひたすら色と欲。
資産のある醜い女と婚約して、妊娠した女が邪魔になる。かつて別の女と歩いた信州飯田の個人経営助産院が身重の妻を預かる商売をしているのを見つけたことを思い出し、そこに女を預けるのだが、…。
すごくすごく松本清張らしい短編。まるで仏教説話にあっていいような悪人の転落。

繁昌するメス(週刊文春 昭和37年1.1)
軍隊で見様見真似で覚えた医療で、戦後のどさくさに無免許のまま外科医院を開業し繁昌させた男。ある日、かつての上官(すごく厭なやつ)が現れて、すべてわかったうえで恐喝してくる…。これもザ・松本清張。

春田氏の講演(週刊女性 昭和38年4.10)
評論家春田氏の講演会に現れる若く美しい女。そしてふたりの弟。読者はナニコレ?美人局?と思うのだが、その真相は予想したよりもたいしたことなかった…。

速記録(別冊文春 昭和54年12月号)
ちょっと頭の弱い新人代議士。初めての国会質問で官僚側が用意した作文で挑むのだが、内容を暗記するために大きく清書したものを、若い女性秘書との逢瀬で使ったラブホテルに置き忘れ…。
清張からすると、こんなことあったら愉快だな…という事件。

6本すべて人間って嫌だな。社会って怖いな。という清張らしいホラーな作風。とくにオススメはしない。

2024年6月17日月曜日

湊かなえ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(2016)

湊かなえ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(2016)を2019年乃木坂文庫(光文社文庫)版で読む。これ、数年前に一度読もうとしたのだが「今はこれを読む気分じゃないな」と放置していた。今、読む気になった。

6本の厭な鬱短編を収録。5本が「宝石ザ・ミステリー」誌2012年~2015年に掲載されたもの。最後の「ホーリーマザー」のみ単行本化時の書き下ろし。では順番に読んでいく。

「マイディアレスト」(初出時のタイトルは「蚤取り」)
妊婦の妹が暴行通り魔に襲われた姉の独白。毒親母に厳しく育てられ、男子と付き合うことすら許されなかった姉。この母が妹には全てにおいて甘く、しかもだらしなさそうな男と付き合って妊娠したことすらも容認。なぜ姉妹でそこまで接し方が違う?という恨み。最後はサスペンス。
これ読んだだけで湊かなえが天才だとわかる。嫌な後味しか残らないけど味わい深い。

「ベストフレンド」
新人賞に応募したヒロイン。優秀賞に選ばれたけど、大賞に選ばれたのはあの女。アイツさえいなければ…。
同期の新人ということでメールアドレスを交換したけど、あの女がどんどん出世していく。その一方で不運な自分。やがてアイツを殺してやろうと考えるのだが。
これも意外なラスト。これを読んでも湊かなえの天才ぶりがわかる。

「罪深き女」
毒親母子家庭に育った少女。住んでいたボロアパートの上の階には6歳年下の男子児童とその母親が住んでいたのだが、男を連れ込むなどして子を外に放置するネグレクト母?
その男児がやがて家電量販店で無差別殺傷事件を起こす。
本人がそう感じていたことと実際は大きな乖離と誤解があった…という厭な話。これも湊かなえに感心しかしない。

「優しい人」
誰にでも優しくという教育をされた女子の末路。これも毒親テーマか?

「ポイズンドーター」
平成日本の毒親母子家庭という地獄。勉強だけ強要され、男子と喋ることも許されず…という家庭で育った女優の回想告白。
「ホーリーマザー」
ポイズンドーターの後日談。書き下ろし。この2作はセット。
母親が毒親だったと告白して反響。その後、母が交通事故で死亡。母を知る人々が「あの人は毒親なんかじゃなかった!」「子を心配してちょっと干渉したらそれだけで毒親なの?」という反論。

すべて読後に嫌な気分。すべて若い女性が主人公。湊かなえは平成令和の松本清張。
PS. 高山一実「トラペジウム」が思い込みの強い腹黒ヒロイン東ゆう主観だったのは、高山が湊かなえの熱心な読者だったことも影響しているのでは?と思った。ヒロインの質感が似ている気がする。

2024年6月16日日曜日

我孫子武丸「殺戮にいたる病」(1992)

我孫子武丸「殺戮にいたる病」(1992)を講談社文庫2017年新装版で読む。
この作家の本を読むのはこれが2冊目。グロいサイコスリラーと聞いていたのだが、読んでいる人が多いのでそろそろ自分も読んでみた。

性倒錯者のシリアルキラー、息子が殺人鬼なのではと疑う母、妻を亡くした初老の元刑事、三者それぞれの主観で断片的に綴られていく。
これが明らかに時系列が前後しててわかりづらいし読みづらい。読んでいて違和感だらけなのだが、たぶんきっと叙述トリック的なものだろうと、細かいところは気にせずさっさと読み飛ばす。

初出が1992年。このころは宮崎勤事件があり、「羊たちの沈黙」がヒットした翌年。実在する事件以上に醜怪でおぞましい変態による、若い女性を狙った連続殺人。

ホテルで絞殺された後に、屍姦、そして局部を切り取って持ち去るという、ホラー耐性のない人は活字であっても読んでるだけで気分が悪くなりそう。

初老の元刑事が被害者女性の妹と一緒に犯人捜し。そして犯人に最接近。ここから先が急展開すぎて意味が解らない。カオスすぎんか?
最終ページに到達したとき、説明がなさすぎて自分はしばらく意味がわからなかった。

爽快にダマされたというより、強引過ぎてスッキリしない叙述トリックだった。しばらく考えないと意味がわからないラスト。ああ、そういうことなのね…程度の驚き。

読者をミスリードすることに120%全力な記述がずっと続いていた。いや、事件の顛末というだけでべつにミステリー要素はなかった。
ケータイ電話のない時代なので終盤はハラハラした。
この構成って上手いの?これが最高傑作というのなら、もうこの作家の本は読まなくてもいいかな。

2024年6月15日土曜日

陳舜臣「闇の金魚」(1977)

陳舜臣「闇の金魚」を2000年徳間文庫版で読む。この作品は1977年に講談社から刊行されたもの。
陳舜臣(1924-2015)の小説を読むのは今回が初めて。神戸出身の中国人作家。
これも処分するというのでもらってきた本。自分の意思で読みたいという本をぜんぜん読んでない。

童承庭くんは早くに両親を亡くしたが、読み書きを覚えるのが速い。農民のままでいるのは惜しいからと上海の商社「永源昌」の谷瑞書にあずけられる。時代は辛亥革命で清朝が倒れたばかり。激動の中国。

日本語を学ばせればめきめき上達。日本へ留学に出される。当時の日本の学生知識人は無政府主義者やら社会主義者やら。上海から一緒にやってきた学友の徐友岳は童よりも年上だが、役者を目指したこともあるやさ男。闇の中で畸形の金魚を育ててる。こいつが徐に社会の変革を説く。

やがて谷星子という日本語が上手な中国人女性と出会う。政治運動に傾倒していく過程で、なぜかこの星子と偽装結婚し上海へ戻ることに。やがて正式に結婚するのだが、星子は失踪。え、拉致誘拐?やがて星子の手紙を持った目の細い男が脅迫にやってくる。北京に行け。

陳先生が当時の北京の政治と軍閥、日本、英国、米国の勢力争いを優しく解説して教えてくれる。
袁世凱の死後、段祺瑞総理は日本と取引する祖国の裏切り者扱いで民から人気がない。安徽派と直隷派(曹錕、呉佩孚)の争いは直隷派に傾く。そこに日本はさらに人気のない軍閥・張作霖に接近。

童は謎の日本人・大垣に接触するために、まず薬草を扱う市川に接触。するとそこにあの自分を脅迫してきた目の細い男。妻は目の病気で治療を受けている?!

敵と味方の組織のスパイ小説?殺人も発生してるけど、あんまりスリラー要素もサスペンス要素もなかった。童承庭という中国人青年の青春と冒険を描いた文芸作品という感じ。
近現代中国史を活字として読むだけでなく、こういった小説を読むとより理解が進む…気がする。

2024年6月14日金曜日

高橋ひかる「週刊 元恋人を作る」(2024)

6月8日放送のフジテレビ「世にも奇妙な物語2024夏の特別編」の第4話に相当する「週刊 元恋人を作る」の主演アクトとして高橋ひかる(22)も初めて呼ばれた。

夏の特別編で自分が見たのは原菜乃華と高橋ひかるが主演した2本のみ。ともに既に多くのドラマに出演した経歴を持つ若手有名アイドル女優。
原「友引村」が26分ほどだったのに対し、高橋「週刊元恋人」は13分ほどの尺だった。
「週刊 元恋人を作る」というタイトルからして笑った。それは週刊デアゴスティーニ商法に片足を乗せてしまった女子大生の不安と焦り。

ヒロインななみは起業セミナー講師をしていた大谷(竹財輝之助)と付き合いを継続していることになっている。友人たちの前ではそう振舞っている。だが誰もその彼氏を見たことがない。(てか学生ってそんなセミナーに参加するものなの?)
部屋でしょんぼりため息のななみ。どうやら顔写真すら持っていない。
寂しさからつい「週刊元恋人」を注文クリック。

で、翌朝「週刊元恋人」が届くのだが、創刊号は「目玉」のみw 次号からは6,980円。その設定がリアルw
そしてヒロインはウーバーイーツのバイト開始。なんだこのコメディ。
同じ大学のあいり(日向坂46・富田鈴花)には企業準備で忙しいと言ってる。こういう虚勢を張るヒロインは憐れで見て居られないw
パーツが届くたびに少しずつ組み立て上がっていく。まるで解剖学のようでグロい。
この全裸アンドロイド竹財輝之助がキモすぎる。
「次号からいよいよ下半身ですね!♥」「でも、付属品は付いてないらしいんで(照)」
なんだこの下ネタ。
配達先で大谷を目撃。連れの友人に前彼女が「ガチ恋っぽくなって意味のないメールとか大量に送ってくるようになって困ってた~」とか語ってるのを聴く。泣きながらその場から逃げる。あれ、想い出よりおじさんぽくて胡散臭いやつだったと気づく。

大谷アンドロイドを友人富田鈴花にカミングアウト。唖然呆然となる富田の演技がすばらしい。富田ってこんなに演技が上手かったのかという衝撃。
「もう大谷アンドロイドを壊してしまおう」とするななみを、あいりは引き留める。もうすでに25万円を注ぎ込んでる。壊すのはもったいない!くれ!部屋に飾る!
ルームライトとして飾ることを提案。それは天才的な思い付きだ。
富田と高橋のやりとりシーン、高橋がくみてんに見えるw
そして笑撃のオチ!これは激しくキモい。

2024年6月13日木曜日

岩波新書243「塩の道を探る」(1983)

岩波新書(黄判)243「塩の道を探る」富岡儀八(1983)を読む。友人が読んでいたものを途中で取り上げて読む。

人間の生活に欠かせない必需品である「塩」は、日本の場合、海水から塩田で作られるしかなかった。なので内陸山間部に住む人々は、定期的に塩を求めて山を下り、農産物だったり木地だったり椎茸だったりを塩と交換して村まで持ち帰るしかない。
そんな日本の近世から明治にかけての塩の交易物流陸運ルートを探る本。

塩は降水量が少なく高温な地域が生産に適している。江戸時代は瀬戸内の塩が日本各地の港に運ばれた。
家康が江戸に入府したとき、塩を独自に生産するために、行徳に塩田がつくられたことを自分は知らなかった。
だが、すぐに瀬戸内の塩が大坂を経て、江戸の日本橋まで運ばれる。今まで江戸の町民がどこの塩を使っていたのか考えたこともなかった。

塩は河川を舟で遡上。そこから先は平地なら馬、急峻だと牛、狭い間道峠道は人が担いで運ぶ。そんな苦労をして塩を入手していたことを現代の日本人はすっかり忘れている。

信州松本、平家の落人伝説のある臼杵郡椎葉村、会津若松、そして北海道の入植地。新潟から会津へ塩が運ばれた道がそのまま現在の磐越道であることは感動的ですらある。
川を舟が運び、塩を背負った馬を連れた馬子が運び、そして人が運ぶ。そんな風景を思い出させてくれる本。

2024年6月12日水曜日

原菜乃華「友引村」(2024)

原菜乃華がフジテレビの名物企画ドラマ「世にも奇妙な物語2024夏の特別編」(6月8日放送)の第1話「友引村」に主演ヒロインとして呼ばれた。女優としてだんだんステップアップしてることを感じないわけにはいかない。
わりとベタな因習ホラー。
大学の友人からの交際を求める告白を断ったら、その友人は自殺してしまった…。
モテたかったらそのチリチリ頭をなんとかしろ。
で、その母親から葬儀へ参列を促すメール。こんなの、一定以上ホラー映画(トリックとかミッドサマーとか)を見てる人なら、「絶対に行っちゃダメ!」な案件だ。
で、「友引村」バス停で降りたら、さっそく不気味な第一村人と遭遇。さらに、喪主の母親とも遭遇。
自分なら、こいつらを一目見た段階で帰るw それに、道の両側に奇妙な人形のような飾りつけ。そんな村に立ち入ってはいけない。
帰りのバスの時刻、ケータイ電波が来ているエリアかどうか、いざというときの逃走経路を把握しておけ。
もう葬儀のときの風景が珍妙。参列者が全員老人。しかもヘンテコな踊り。もう完全に「TRICK」な村。
一見、当たりが柔らかいが、不気味だし強引。そんなやつらのペースには絶対に乗るな!w
通夜の席上に出ている料理がみんな黒い色合いで不気味。ほぼ「インディ・ジョーンズ / 魔宮の伝説」。
ヒロインと行動を共にする男、この村の葬礼風習についての古文書を読んでしまうw
逃げ出そうとするのだが、ずうずうしくてずる賢い村人たちに捕らえられ拘束。まんまトリックの上田と山田。
ミッドサマーのホルガ村の村人はただ全員狂った宗教観を持っていただけなのだが、友引村の村民は不気味儀式で死者を操り利己的。そして衝撃的で最悪なバッドエンド。

しかし、近年の視聴者はホラー映画に対してはとても目が肥えている。脚本も演出も、映像も音響も、すべてが高得点じゃないと「怖さ」を感じさせることは難しい。やはりテレビドラマのクオリティにすぎない。

こういう村はただちに空爆して地図上から消さないといけない。そして、あまりよく知らない友人の誘いに乗っかってヘンテコ風習のある田舎村に出かけてはいけない。

2024年6月11日火曜日

アーサー・C・クラーク「2061年宇宙の旅」(1987)

アーサー・C・クラーク「2061年宇宙の旅」(1987)山高昭訳1995年ハヤカワSF文庫で読む。
2061:ODYSSEY THREE by Arthur C. Clarke 1987
序文で作者が2010年も2061年も、「2001年」の続編のように思われるかもしれないが、同じ主題を元にする変奏曲とみなすべき…と前置きしてる。

「2010年」でディスカバリー号が最後に発した送信で「エウロパに着陸してはならない」という戒めは一体…という疑問を持ちながらページをめくっていくのだがヘイウッド・フロイド博士はハレー彗星に着陸(?!)。そして探検?ハレー彗星ってそんなにデカかったのか。

エウロパの海にハイジャックテロにより着水してしまった宇宙船の救助に向かう間、ヘイウッド老人(クラーク氏)による未来人のしてそうな会話の予測。本筋とあまり関係のない話が断章のように続く。
小説読んでたつもりだったのだが、終盤はほぼ自由な原稿を読まされれてる感じ。

木星と衛星エウロパに関して、そこまで素朴な空想イメージが広げられることは、それはそれで偉大かもしれない。エウロパの氷の下の海に鮫のような生物はいるんだろうか?
そして、ミューオン駆動宇宙船はいつできる?

2024年6月10日月曜日

アーサー・C・クラーク「2010年宇宙の旅」(1982)

アーサー・C・クラーク「2010年宇宙の旅」(1982)伊藤典夫訳ハヤカワSF文庫「新版」2009を読む。「2001年宇宙の旅」を読んだことでようやく次に進める。
2010:ODYSSEY TWO by Arthur C. Clarke 1982
なおこの本はソ連の宇宙飛行士アレクセイ・レオーノフ将軍とノーベル賞物理学者アンドレイ・サハロフ博士のふたりに献呈されている。

「2001年」でハルの叛乱によって遭難したディスカバリー号。何があったのか?地球側はだいたいのことを掴んではいたのだが、デイブ・ボーマンは一体どこに行ったのか?ハル9000に何が起こったのかはわからない。

で、アメリカが協力を要請するのがソビエトの宇宙船レオーノフ。やっぱり有人木星探査。
クラーク先生もまさかソ連が崩壊するという予測はまったくできていなかった。
米ソも有人で宇宙船を木星に送る技術が2010年になっても全然実現できそうにないことも予測できていなかった。てか、ロシア人が信用できるパートナーと考えている時点で甘かったw

あと、まさかの中国。いずれ宇宙産業が発達するだろうとは予想してたのかもしれないが、まだ文革やってんのかよ。高すぎるプライドと秘密主義で勝手に自滅する事故とか、ある意味予想通りなのかもしれない。

で、あのディスカバリー号にコンタクト。内部で食材が腐ってて異臭がするとあるけど、宇宙空間ではすべて凍り付いてないのか?居住スペースの室温はオートで保たれるのか。

あと、ハルによって宇宙を漂うようになってしまったフランク・プールは船内にいないことはわかっていたけど、生命維持装置を止められ死亡した宇宙飛行士3人の遺体をボーマンは宇宙空間に投棄してたのか。

木星の衛星にはどんな秘密があるんだ?とにかく木星がでかすぎる。
木星に落下する前にディスカバリー号を地球へ戻す算段がついたのだが、まさか木星に異変が!?
そんなことになったら、レオーノフ号の乗組員は無事なはずないだろう。
そもそも、地球は温暖化や気候変動どころの騒ぎじゃない。地上の風はどうなる?海洋だってどうなるかわからない。食料生産がプラスになるはずがない。

面白かったか?うーん、それほどページをめくる推進力はなかった。ボーマンはもはや人間ですらなかった。地球人とのコンタクトはインターステラーという映画を想い出した。

2024年6月9日日曜日

内田有紀さん、上高地帝国ホテルに泊まる

6月1日放送の「新美の巨人たち」内田有紀さんが上高地帝国ホテルを訪れる…という内容なのでチェックした。
この番組はたまにだらだらと見ていたりしたのだが、それほど熱心に見ていない。今回は、内田有紀、上高地帝国ホテル、この2つが重なったので録画して見た。
実は自分、学生時代に上高地へ行ったことがある。中の湯から釜トンネル、大正池、そして河童橋まで行って引き返すというハイキング。たぶん11月ぐらいじゃなかったか。
人付き合いの為に同行して行ったという感じ。当時の自分は山とかあまり興味なくw、そこにどんな山があるのかも知らなかった。当時はカメラも持ってなくて何も写真を撮ってない。バカ!
だが、ルートの途中に印象的な建物が突然現れたことは覚えている。そのときに「上高地帝国ホテル」の存在を知った。以後、このホテルのことをたまに見聞きしたりしたとき、注意して見るようにしていた。学生時代は上流階級の泊まるホテルに何も関心なかったw

さわんど駐車場&バスターミナルからホテル前バス停まで片道1500円。うーん、まあそれぐらいかかるか。どんなお金持ちもこのバスに乗らないとこのホテルには行けない。もしかすると事前に連絡するとポーターの人が荷物を運ぶために出迎えてくれるのかもしれない。
上高地帝国ホテルのラウンジロビーにはこんなでっかい排煙煙突のある暖炉。選び抜かれたホテルマンが様式美のような動きで薪を足して燃やす。
日本各地世界各地の絶景スポットに行ってるだろうけど、東京中央区で生まれ港区六本木で幼少時を過ごして育った内田有紀さんにとって、こういった風景は今も新鮮なのかもしれない。いちいちリアクションが少女のようでかわいらしい。現在48歳という事実に世間がざわつくのも無理はない。
山岳リゾートの時代が来ることを見越して、この地に帝国ホテルを建設することにしたのが帝国ホテル会長大倉喜七郎。
そして設計は高橋貞太郎。川奈ホテル、帝国ホテル東京本館をつくった人。
しかし、昭和6年に満州事変。世相は暗くなっていく。政府からの融資も滞る。
突貫工事の末、昭和8年10月6日に開業。自分、大正池がホテル建設資材運搬に利用されたって知らなかった。
周辺散策にはクマよけの鈴が必須らしい。自分、奥武蔵や秩父を歩くときにはリュックにつけるけど、学生当時はつけてなかったw 
三角屋根の下にあるデラックスツインが74,635円~(1泊2名室料のみ サービス料・消費税込み)。たぶん紅葉シーズンは爆上がり。それでもたぶん予約は取れないであろう上流階級向け。
特選の飛騨牛を使った料理コースも35,000円。バーラウンジで出されるノンアルコールカクテルも2,650円。そりゃ至福でしょうよ。
内田有紀さんは神宮でのヤクルト戦始球式で「どんどん若返ってる!」と世間をざわつかせた。美魔女っぷりがすごい。声質もかわいい。

内田有紀さんがアイドル時代に出演した「その時、ハートは盗まれた」「17才」「じゃじゃ馬ならし」「時をかける少女」「花より男子」「キャンパスノート」をどこか配信してくれないか。4Kブルーレイとか企画して発売してくれないか?

2024年6月8日土曜日

平谷美樹「虎と十字架」(2023)

平谷美樹「虎と十字架 南部藩虎騒動」(2023 実業之日本社)を読む。何やら自分の好きな歴史ミステリー風らしいので手に取った。著者のことは何も知らない。「ひらたにみき」だと思ってたら「ひらやよしき」と読むのが正しいらしい。

「徳川実紀」巻八の寛永三年(1626)此年条に、「南部信濃守利直は、慶長十九年に駿府城にて給わりし虎二疋有りしが、其の一は去年死しければ、其の皮をはぎて、利直父子鞍帕につくり、許しを得て御上洛供奉の時より用ゆ」とあるらしい。この虎はカンボジアから家康に贈られ、南部利直は大坂夏の陣後の元和元年八月に拝領したらしい。この二頭の虎は乱菊丸、牡丹丸と名付けられ城内で飼われたと記録にあるらしい。

その短い記録から作者が自由に創作した娯楽歴史小説?

山道を逃げる女二人に追手。そして虎に与えられる囚人の屍肉。なんと虎目線。何かいつもと違う。死体に腐臭を警戒し、開け放たれた扉から虎は逃走。
徒目付の平四郎の機転によって一頭は捕らえられたのだが、もう一頭は藩主の三男の若君によって射殺。

虎籠番の1人は責任を取って自刃したものと思われたのだが、どうやら眠り薬を飲まされ殺されていた?何やら急に陰謀の臭い。
若殿の重直は狩り好きで日ごろから「虎を狩ってみたい」などと言っていた?!
南部藩でも切支丹は取締対象。捕らえられ仕置きされた死肉を虎に与えられていた?それは恨みを買うに違いない。遺体をとり返そうとした切支丹の線もある。

米内平四郎がいろんな人々に聞き込み調査。すごく有能。論理的な判断ができる人材。
平四郎が名刑事というよりも、ほぼ下山事件を追うジャーナリストのよう。虎籠を開けて虎を逃がして、最終的に得をするのは誰か?

クライマックスがわりと派手。ええぇつ?!そう来る?
いや、楽しかった。面白かった。よくこんな壮大なミステリー時代劇ドラマを創作できる。天才かよ。ミステリー小説としても十分に面白い。映画化希望。

2024年6月7日金曜日

椎名林檎とのっち「初KO勝ち」CDTVライブライブに登場

話題騒然の椎名林檎「放生会」でのコラボユニット「椎名林檎とのっち」「初KO勝ち」CDTV ライブ! ライブ!(6月3日放送)で初披露。
まさかこんなものが令和の今になって見れるとは思ってもなかった。
MVもかっこいいのだが、テレビ収録ライブ映像でもかっこよかった。
自分の知ってるのっちじゃなかった。