2024年6月18日火曜日

松本清張「失踪の果て」(昭和34年)

松本清張「失踪の果て」を昭和62年角川文庫版(平成12年32刷)で読む。6本の短編を収録。
これ、高校生のころ1回読んで以来。当時持っていたものと表紙が違ってる。たぶんこれが「点と線」「Dの複合」の次に読んだ、人世で3冊目の松本清張。

失踪の果て(週刊スリラー 昭和34年5.1-5.29)
地質学の大学教授が大学から自宅へ帰宅する途中に失踪。後日、縁もゆかりもない赤坂のアパートの一室で縊死してるのが見つかった事件。睡眠薬を飲んでいることと、手帳をしまってる場所がいつもと違う…という不審点から他殺で捜査。
部屋の借主は27、8ぐらいの女性「北原良子」。この女性のことが不明。中年の教授はとにかく真面目でどれだけ調べても女性関係が出てこない。財産も特にない。
迷宮入りして捜査本部は解散。主任警部補は警部になり、そしてハッと動機を思いつく。

額と歯(週刊朝日 昭和33年5.14)
昭和7年、三井の團琢磨が右翼に殺害されてから2日後、向島寺島町のどぶ川で通りかかったペンキ職人が、ぼろきれとハトロン紙に包まれた男性のバラバラ死体を発見。玉の井から近いことから浮浪人かとも思われたのだが、切り傷も刺青もないことから普通の生活者かと推測。
切断された頭部も発見された。富士額と八重歯が特徴。全国紙に波及し被害者の特定と犯人検挙も近いと思われたのだが、被害者の身内が誰も名乗り出ない。
昭和初期の日本の世情と、東京警視庁の捜査を感じられるルポのような読物。

やさしい地方(小説新潮 昭和38年12月号)
感が良くたちまち要点をつかみ弁が立ち、無類の女好きで中身のない弁護士が代議士になって…という半生。ひたすら色と欲。
資産のある醜い女と婚約して、妊娠した女が邪魔になる。かつて別の女と歩いた信州飯田の個人経営助産院が身重の妻を預かる商売をしているのを見つけたことを思い出し、そこに女を預けるのだが、…。
すごくすごく松本清張らしい短編。まるで仏教説話にあっていいような悪人の転落。

繁昌するメス(週刊文春 昭和37年1.1)
軍隊で見様見真似で覚えた医療で、戦後のどさくさに無免許のまま外科医院を開業し繁昌させた男。ある日、かつての上官(すごく厭なやつ)が現れて、すべてわかったうえで恐喝してくる…。これもザ・松本清張。

春田氏の講演(週刊女性 昭和38年4.10)
評論家春田氏の講演会に現れる若く美しい女。そしてふたりの弟。読者はナニコレ?美人局?と思うのだが、その真相は予想したよりもたいしたことなかった…。

速記録(別冊文春 昭和54年12月号)
ちょっと頭の弱い新人代議士。初めての国会質問で官僚側が用意した作文で挑むのだが、内容を暗記するために大きく清書したものを、若い女性秘書との逢瀬で使ったラブホテルに置き忘れ…。
清張からすると、こんなことあったら愉快だな…という事件。

6本すべて人間って嫌だな。社会って怖いな。という清張らしいホラーな作風。とくにオススメはしない。

0 件のコメント:

コメントを投稿