2024年6月19日水曜日

塩野七生「十字軍物語 1 神がそれを望んでおられる」(2010)

塩野七生「十字軍物語 1 神がそれを望んでおられる」(2010)を平成31年新潮文庫版で読む。
カトリック世界 VS.イスラムの全力ガチンコ対決「十字軍遠征」は人類史の中でも重要トピック。中世史における最大の事件。お勉強のために読む。

イスラム勢力がすぐそこまで迫るという状況でビザンチン皇帝アレクシウスは、今まで仲良くつきあってこなかったローマ法王に救助を要請。「俺たち同じキリスト教徒だよな」

1095年、クレルモンでの法王ウルバン2世の演説を要約すると、「これまでヨーロッパ内でキリスト教徒同士でやってた戦争を止め、これからはオリエントへ行って、キリストの戦士としてイスラム教徒相手にやれ」
出発は1096年8月15日聖母マリア昇天祭の日に決定。

先代のグレゴリウス7世はハインリヒ4世を雪の外に3日間立たせることでローマ法王の権威を知らしめたが、ウルバンは「キリスト教徒をイスラム勢力と戦わせて権勢を示すわ」
これが熱狂的に受けいれられる。メッカへ巡礼することを重要視してきたイスラム教徒にはイェルサレムへ巡礼するキリスト教徒に理解があったというのに。

隠者ピエールと「貧民十字軍」のフライング出発というハプニング。饒舌なピエールに乗せられた武器も持たない貧民の群れは小アジア上陸の段階で多くが死に絶え、勇猛なトルコ兵の草刈り場になってほぼ全滅。

この第1巻の主役たちはヨーロッパの諸侯たち。
  • トゥールーズ公サン・ジルと法王代理ル・ピュイ司教アデマール
  • ロレーヌ公ゴドフロアと弟ボードワン
  • プーリア公ボエモンドと甥タンクレディ
この時代の人々は肖像画とかないのでどんな容姿をしていたのかわからない。だが、プーリア公47歳はモテ男だったらしく女たちがその風貌を記録していた。長身やせ型頑強金髪碧眼。冷静で悪賢く、何とも言えない愛嬌があったらしい。
トゥールーズ公は50代なかばでこの時代では老人なのに人望がないw ゴドフロアは唯一のドイツ人36歳。これらの人々が仲良くケンカしながらイェルサレムを目指す。

意外だったのが、この時代のセルジューク・トルコは群雄割拠で内輪もめ中。十字軍をどうせいつものようにビザンツが送ってきた傭兵部隊だと思ってた。

この十字軍遠征でギリシャ人はヨーロッパ人(フランク人)を嫌うようになる。フランク人たちはギリシャ人を軽蔑するようになる。これは現代のEUとギリシャの関係にも影響を与えてる?!

ニケーア攻略戦で16歳の若き王アルスランを敗走させ、ドリレウムでは重装備の騎兵と歩兵(弓矢を跳ね返すので敵困惑)が軽装備のトルコ兵を槍で蹴散らし、エデッサ伯領爆誕、などほぼ連戦連勝。指揮命令系統が一元化されていないとか、相互の連携が取れてないとか、兵站輸送とか機能していないだとか、勝てそうな要素がないのに。

ビザンツ皇帝も信仰に熱狂する諸侯の頼るばかりで後方支援してない。なのにカトリック戦士に乗っかって失地回復を企むとか、やりがいボランティアをタダ働きさせて儲けようとする経営者みたい。
イェルサレム奪還とかより、諸侯の目当ては領地。なので侵略戦争。

イスラム側もアレッポやダマスカスの太守が兄弟で仲悪いとか、カリフがカイロとバグダッド2か所に分裂両統してて、エジプト側(シーア派)から十字軍支援を申し出てくるとか、まとまり皆無。

第1巻のクライマックスはアンティオキア攻防戦。12キロに及ぶ城壁で囲まれた大城塞都市。攻める側が慎重にならざるをえない。しかも食料不足で飢餓。
しかし市民はギリシャ正教のギリシャ人。内通者も出てくる。塩野七生らしくこの戦いの記述が事細かい。

アンティオキア奪還したのはいいけど、食糧庫も焼いてしまう大失態w そこにモスール太守ケルボガの軍10万が逆にアンティオキアを包囲。それ聞いて皇帝アレクシウスは後方支援するでなく引き返すって酷すぎる。
だが、はっきりした戦略もないトルコ軍は2万の戦死者を残して敗退。

そしてイェルサレムへ。これまで活躍したボードワンはエデッサ守備に、ボエモンドはアンティオキア守備にのために当地に残留。アデマールは疫病により死亡。

1099年7月15日、イェルサレム「解放」。城門を開いてなだれ込んだ十字軍は、異教徒を見れば殺していく。殺戮につぐ殺戮。そして強奪。中世の軍人に人権という言葉はない。
ロレーヌ公ゴドフロアがイェルサレム王(キリストの墓所の守り人)に選出。気分を害した最年長サン・ジルはジェリコへ行ってしまう。イェルサレム解放という目的を達したとしてノルマンディー公とフランドル伯も帰国を希望。
だが、エジプト軍3万がパレスティナに侵攻。
危機に際して一致団結。重い鎧を脱ぎ捨てて奇襲攻撃。これが大成功しエジプト軍を撃退。

イェルサレム周辺の諸都市との講和、支配。そしてゴドフロアの急死。ボエモンドの捕囚。ボードワンが新イェルサレム王になり、コンスタンティノープルに去っていたサン・ジルがトリポリの獲得を目指したり、若きタンクレディの活躍。

エデッサ伯領、中近東の地中海沿岸にアンティオキア公領、イェルサレム王領、トリポリ伯領という十字軍国家が成立し安定。
著者は第一次十字軍主要キャストそれぞれの退場と最期をささっと記して、そんなこんなで第1巻を終わる。

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