2024年6月22日土曜日

塩野七生「十字軍物語 4 十字軍の黄昏」(2011)

塩野七生「十字軍物語 4 十字軍の黄昏」(2011)を平成31年新潮文庫版で読む。

文庫第4巻は「皇帝フリードリヒと第六次十字軍」(1228-1229)から始まる。
フリードリヒ2世はなかなか十字軍に出発せず、なんとローマ法王から2回も波紋。
イスラム教徒のいるシチリアで育ったフリードリヒはアラビア語ができた。それすごい。

で、もう最初から講和を目指して話し合い。イスラム側代表アル・カミールとの間で講和が成立(1229)するのだが、これがイスラム側からは「屈辱」という評価。そしてキリスト教徒側からはさらに反発。そしてさっさと南イタリアへ帰国。フリードリヒは1人のイスラム教徒も殺さなかった。そこがローマ法王は不満。
しかし、キリスト教徒たちがイェルサレムへの巡礼ができるようにはなった。十字軍さえ来なければ、中東でイスラム教徒とキリスト教徒の共存は可能。

「フランス王ルイと第七次十字軍」(1248-1254)
今回の主役はルイ9世。ローマ法王から嫌われたフリードリヒと違って理想的なキリスト教君主。
イェルサレム奪還のためにエジプトを攻めるためにダミエッタ上陸。そして弟のアルトワ伯と、ソールズベリー伯が敵の罠に落ちて殺され、ナイル川に流される。このマンスーラの惨劇で聖堂騎士団290人全滅。
さらにルイ7世以下全軍が捕虜。こんなことは十字軍が始まって以来初。以後、パレスチナのキリスト教徒全体が弱体化。

そして1258年、バグダッドがモンゴル軍によって陥落。モンゴル兵はありとあらゆる残虐行為。1260年にはアレッポ、ダマスカスも陥落。イスラム世界には十字軍に代わる新たな敵。

アユーブ朝最後のスルタンを殺してマメルーク朝へと代わっていた。モンゴルの騎馬軍団を止めたのは、元奴隷のバイバルス。アイン・ジャルー会戦での勝利がイスラム世界西半分を救った。
このマメルーク朝のスルタンたちが、パレスチナ沿岸のキリスト教国を締め上げていく。

第7回十字軍から20年、56歳になっていたルイ9世は2回目の十字軍に起つ。だがもう十字軍を勧める人は誰もいない。
今回はチュニジアを攻める。しかし疫病蔓延。そして国王ルイも倒れる。
チュニスの太守から立退料をせしめて帰国する時期が悪く、船が遭難沈没事故。とにかくなにからなにまで悲惨。

1291年5月18日、スルタン・カリルがキリスト教徒最後の拠点アンコンを総攻撃し陥落させ奪還。
塩野七生せんせいは、その後のヨーロッパとイスラム世界をささっと解説してこの本を終える。それにしてもフィリップ4世は酷い。聖堂騎士団への仕打ちは残酷な中世史らしいっちゃらしいが。この時代のキリスト教原理主義者は現代のイスラム過激派並みの思考。

200年存続した国がなくなるってよっぽどのこと。幕末から現代までより長い。アヘン戦争から現代中国までより長い。そりゃあ数々のドラマがあったに違いない。

いや全4巻面白かった。中学高校での十字軍知識で止まってた。キリスト教徒がどばーっと攻撃して盛大にやらかして失敗…という知識以上のものはなかった。この本はもっと読まれるべき。いや、みんな読め。

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