2023年5月31日水曜日

フォーサイス「オデッサ・ファイル」(1972)

フレデリック・フォーサイス「オデッサ・ファイル」(1972)を篠原慎訳1980年角川文庫(1994年29刷)版で読む。
THE ODESSA FILE by Frederick Forsyth 1972
この本のオデッサとはウクライナの港町のことではない。元SS(ナチ親衛隊)隊員の組織を表すドイツ語「Organisation Der Ehemaligen SS-Angehörigen 」の頭文字を繋ぎ合わせた造語。なので日本語訳にするなら「ナチス親衛隊残党ファイル」とすれば間違いなく意味が伝わったかと。

敗戦の屈辱と困難は一般ドイツ人に押し付け、自らは大量の金塊を持ち出し海外へ逃亡し自由な生活を送る元隊員たちを再びドイツ国家の中枢と要職に戻し、現在行われている元ナチ党員らへの問責は不当であると一般ドイツ国民に宣伝したい。それがオデッサの使命。
フォーサイス氏はこの本を書くために元SS隊員に取材したのだが、取材協力した人々から名前を公表することは拒否された。

ケネディ大統領が暗殺された同じ日の夜のハンブルク。ジャガーを乗り回すやり手のフリージャーナリストのペーター・ミラーは、アパートでガス自殺した老人が搬送される現場に居合わせる。
このタウバー老人がナチス占領時代のラトビア・リガのユダヤ人収容所で看守をやらされていた。地獄のような虐殺の日々を生き残った。自分はあの日以来もう死んだも同然。
手記を残したけど、同じようなものはもうすでにたくさん発表されている。いまさら世間も注目しない。だが、看守だったロシュマンの冷酷な微笑は忘れない。ぜったいにナチスを弾劾する法廷に立たせたい!

この60年代当時、イスラエルはアイヒマン裁判を世界に中継。あと残された最重要お尋ね者はマルティン・ボルマンとヨーゼフ・メンゲレ。
英国人作家の書いたこの本では、ロシュマンはメンゲレ以上のランクのお尋ね者という設定。

エアハルトとベングリオンとの西独とイスラエルの武器供与契約に怒り心頭のオデッサ。戦争に負けたとはいえ、西独にはまだまだイスラエル人を「ブタ野郎!」と罵るような已然メンタルはナチ野郎がたくさんいたらしい。
イスラエルと敵対するエジプトをドイツの伝統的友人として支援するオデッサ。コードネーム・バルカンというロケット技術研究者に近づくやつは何が何でも阻止。

ミラーはタウバー老人唯一の友人マルクスを探し当ててエルベ川辺のベンチで話を聴く。生前にタウバーが「ロシュマンを見かけたことがある」と話してた。野心的ジャーナリストのミラー「こいつを探し当てて法の裁きを受けさせたい!」

英国人フォーサイスが描く60年代ドイツ人たちの戦争とユダヤ人虐殺への罪悪感が興味深い。この時代のドイツ人たちは「あれはポーランドやチェコのような遠い場所で起こった自分たちとは無関係な不幸な出来事」「学校では習うけど、積極的に知りたいとは思えない。」と考えたかったらしい。
50代の母は息子が誰も求めていないナチスの過去を掘り起こすことに反対。仕事をもらう新聞社の上司からも「そんなの読者は求めていない」「ドイツ人はフランス人やスペイン人やソ連人よりもユダヤ人に寛容だった。誰もがユダヤ人の知己はいた。ヒトラーが出てくるまでは…」そうだったのか。

日本の場合、アジア各地の現地で捕まったBC級戦犯がいちばん過酷な目に遭った。国内で子どもたちを兵士として送り出した教育界、特高刑事たちはとくに罰っせられることもなかった。それはドイツも同じだった。甘々な対応。
戦争犯罪を起訴する担当は各州の検事長。十分な証拠があってやっと警察が逮捕できる。そのへんのことは「アイヒマンを追え!」という映画で見た。ナチの戦争犯罪訴追にがんばっても政官財と市民から白い目。

SSの戦争犯罪者の捜査はシュトゥットガルト北方15マイルにあるルートヴィヒスブルクにあるツェントラーレ・シッテレこと通称Z委員会。ここの刑事になると出世はできないらしい。予算は雀の涙らしい。
ドイツもナチスの戦争犯罪に関わった人が多すぎて、どこかで線引きしてなあなあで済ませるしかなかった。ドイツ人はみんなナチスの責任追及に消極的。出版マスコミも脅迫や広告の取り下げなど嫌がらせを受けるので消極的。

ミラーはアウトバーンをすっ飛ばしてベルリンへ。米軍の資料を閲覧。英軍が閲覧した記録がある。なのに裁判はされていない?
資料のコピーを受け渡ししていたそのときオデッサのメンバーがロシュマンの資料を閲覧していた若い男がいると上司に報告。以後、ミラーは近辺を調査される。嫌な予感。

ミラーはボンの英国大使館から英軍管轄地区で戦争犯罪裁判に関わったラッセル卿を紹介されロンドンへ飛ぶためにケルンへ。そこでオデッサメンバーから最初の警告。「調査をやめろ。後悔するぞ。」「きみも同胞じゃないか」
(ボンが西ドイツの首都になったのはコンラート・アデナウアーの故郷だから?!)

ウィンブルドンでラッセル卿に面会。ロシュマンは別の名前で投降し捕虜収容所にいたのだが1947年に釈放。ロシュマンを探していた老ユダヤ人が発見尾行。英軍に逮捕されていた。ソ連の別案件で証人として輸送中に逃亡。以後不明。
ロンドンからウィーンへ。ホテルでシモン・ウィーゼンタールに面会。こちらが調べたロシュマン情報を伝える。ウィーゼンタール氏もロシュマンを追っていた!(この本、有名な人物の多くが実名で登場)

収容所を生き延びたウィーゼンタール氏は、29歳のドイツ人青年ミラーに虐殺に関わった組織について正しい知識を講釈。
6000万ドイツ人全体に罪があるとする考え方は、もともと、連合国で生まれたものですが、元SS隊員たちにとってまことに都合のよい理論なのです。というのは、全体に罪があるという考え方が流布されているかぎり、だれも特定の殺人者を追求しない、少なくとも真剣に努力しようとしないからです。
ドイツ人は戦争責任をナチスに押しつけたと聞いていた自分は目からうろこ。
ハンブルク警察も検察庁も偉い人たちはみんな元SSだったと知らされて唖然。そりゃあ消極的なわけだ。(ドイツで裁判ができないなら、こういった本で元SSたちを告発するしかないか)
ナチスの重要人物に関する知識はだいぶ増えたつもりだったのだが、SS中将ブルーノ・シュトレッケンバッハという人物については初めて名前を知った。ナチス残党のアルゼンチン逃亡を手助けしたアロイス・フーダル司教という人物も初めて知った。

ミュンヘンでリガの生存者を探す。ユダヤ人地域センターへ。そこでリガの生き残りでロシュマンを追っている男と接触。指定された場所へ行くと目隠しされ車に押し込まれる。ユダヤ人たちのSS狩り組織のオデッサ逆スパイになるよう説得。
過去に潜入した者は爪を剥がされ運河に浮かんだ。もう一人は跡形もなく消された。でもそれはユダヤ人だから失敗した。ドイツ人の君ならできるよ!
元SS隊員から元SSらしく見えるように厳しい訓練を受ける。「ホルスト・ヴェッセルを歌えるようにしよう」これはもう明らかに深入りし過ぎだ…。

終戦時に19歳だったSS曹長になりすます。でも、向こうも知らない小物の新メンバーは警戒するのでは?あまり質問にすらすら澱みなく答えると逆に怪しいのでは?
だが、あまりにあっけない処から身バレ。電車で移動する約束なのに、ミラーは自慢のスポーツカーを運転してるところを目撃されてしまう。逆に追われる展開。アホか!

オデッサの殺し屋マッケンゼンが切れ者。さすが元SSなので即席で時限爆弾を作ってミラーのスポーツカーにセット。
興味本位で元SSとイスラエルの戦いに闖入してしまったジャーナリスト青年の運命やいかに?!

大胆無謀ミラー青年の予想外の行動に諜報のプロたちが双方で慌てふためく。オデッサ・ファイルとは何だったのか?ミラー青年の真の目的は?意外な展開。意外な結末。

結論から言って、「オデッサ・ファイル」は「ジャッカルの日」と同じぐらい傑作。天才的に面白い。今もまだ読む価値を失っていない。なんなら映画として今リメイクしたっていい。

2023年5月30日火曜日

加藤小夏「君たちはまだ長いトンネルの中」(2022)

加藤小夏主演映画「君たちはまだ長いトンネルの中」が5月7日にTOKYO MX2で地上波初放送(CMなし中断なしで)された。劇場公開からまだ1年も経っていないのに。有難く録画した。

脚本監督はなるせゆうせい。
原作・原案は「こんなに危ない!?消費増税!」 消費税増税反対botちゃん著 (ビジネス社刊) 経済監修は藤井聡。
これ、紙芝居アニメがネット配信されていたときからリアルタイムで見ていた。その後、いつのまにか実写映画化が決定してたことに驚いたし、主演が加藤小夏に決まったと知ったときも驚いた。小夏は原作マンガキャラにまったく似ていない。
公開された予告編がなかなか魅力的だった。キャッチ―だし爽快感がありそう。

内容が政治的そのもので、小さなヒット以上のものにはならないことはわかりきっていた。1989年の消費税導入から日本の失われた30年はそのまま政権与党と財務省が国民を欺き続けた30年だったことを示す映画。
高校の授業風景がぞっとする。担当教諭が日本をやたら経済大国と呼ぶし、アベノミクスが成功したと事実のように、洗脳するように復唱し、先生を疑うことを知らない子どもたちに刷り込む。
高校生に向けた授業であるならば、事実関係を確認し、経済指標を分析し、そして判定評価する内容であってほしい。これではまるで北朝鮮。

「現代貨幣理論(MMT)は理論的裏付けのないいかがわしい理論」だという意識を植え付けられた人々は、たぶんこの映画を楽しめない。自分の信じるものと異質な主張を繰り返すこのヒロインを、不気味な何かとしか受け止められない。
この分野を専門的に学んだ人以外は、どちらの言い分が信用できるか?にこの映画の受け止め方がかかってる。

財務官僚は日本の予算を一手に握って他省庁を支配。その使命は政府の財政を健全に保つこととされている。国民の生活が困窮しようが知ったこっちゃない。その辺が執拗に強調されている。
日本が中国北朝鮮と違うところは、その政策を各自が自由に評価し、批判する意見を自由に述べられることにある。だが、この国のテレビはアベノミクスが一般国民にはごく限られた指標でしかその成果を確認できない…ということをあまり報道してこなかった。それは恐怖でしかない。ある意味で日本らしい。表面上だけ糊塗すればよい。

官僚というものは学歴に裏打ちされた高い現実認識力と理解力と分析力と、組織としての経験から粛々と過去の事例に基づいて実務を継承していくものでしかない。何か新しい事態に柔軟に新しい手法で対応していくことや、経験のない事態に方針を転換していくことは最初から望まれも期待もされていない。

よって今後も事態は変化しようがない。政権交代して経済政策の方針が変わらないかぎり。
この映画、見ていてまるで映画らしくない。財務省と政権与党の消費税増税に反対するというイデオロギー啓蒙宣伝ドラマなので。
そのやり方がお役所がつくる教育ビデオのよう。政権と財務省の逆の主張をしているのに。

ずっと出ずっぱりで長いセリフを求められた加藤小夏はプレッシャーとストレスを感じたに違いない。
それにしても女子高生夏服白シャツ姿が美しすぎて眩しい。顔が高貴さを感じさせるし、体型が華奢で可憐。何もかも好き。初めて見た瞬間から「あ、この子のために死にたい」と想わずにいられなかった。それぐらいに加藤小夏はいろいろなものを超越した存在。天使で女神。

2023年5月29日月曜日

松井玲奈「累々」(2021)

松井玲奈「累々」(2021 集英社)を読む。オビ情報によれば恋愛小説集らしい。

1 小夜
美大を卒業してカフェでアルバイトしてる23歳。真面目会社員にプロポーズされたけど、なんか気乗りしない。これはマリッジブルー?
30歳になる松井が23歳で結婚してたら?という空想を短編にしたのかもしれない。

2 パンちゃん
犬猫の去勢や不妊手術をしてる獣医の男。手術の後は自分が去勢される夢を見て恐怖する。
アイドルだった松井玲奈が男性目線からセッ〇スを描いていて衝撃。彼女ももう30歳越えてるし、恋愛小説を書くという覚悟。

3 ユイ
パパ活女子と45歳男。男主観で書かれてることが意外だし驚き。アイドル時代におじさんファンたちの行動を見て、こういうふうに考えてたのかもしれない。

4 ちぃ
特定の彼女をつくらないというのに自分にキスしてくるセンパイ。この主人公小夜は「1 小夜」の美大生時代か。

5 小夜
「1 小夜」のカップルの結婚式。それぞれ独立した短編のようで登場人物たちが共通してた。各短編の登場人物が集結。

1話目がマリッジブルー女子短編でわりと普通というか凡庸に感じて、これを読むのはどうかと思い始めたのだが、2話以降で盛り返した。
松井玲奈はもうこれから松井玲奈女史と呼ばなければいけないかもしれない。

PS. 松井玲奈嬢は今年の夏にミュージシャンと結婚するらしい。という報道があったかと思いきや、本人がそんな予定はまだないと否定。
だが、自分はてっきり松井は可愛い女の子しか愛せない人だと思っていたのに裏切られた。

2023年5月28日日曜日

太陽(2016)

2016年4月公開の「太陽」を見る。制作はアミューズ、配給はKADOKAWA。
「劇団イキウメ」前川知大作の舞台作品を入江悠が脚本監督で映画化。
なんの予備知識もないのだが、たぶん近未来社会派SFサスペンス。たぶん主演は神木隆之介と門脇麦。

太陽光に当たると焼け死ぬNOXという感染症に感染し夜しか生活できなくなったノクスと、NOX抗体を持つために隔離政策で原始社会の置かれた旧人類「キュリオ」村の人々、差別意識、人口減少、そのへんがテーマか。

キュリオの村で青年がノクス駐在員を殺害し逃亡。その後の村人たちの行動と焼き討ち。まるで八つ墓村。ほぼ廃村と廃墟、廃道。

ただ見ていてその世界観とストーリーはわかるけど、地味な演劇ドラマすぎる。ほぼ今現在の田舎でよく見るやつ。衣服もリアルに日本の農村。トリックとかに出てくる村人。

チンピラ迷惑叔父さん村上淳のせいで国境警備隊員古川雄輝の大ピンチ…というシーンでは誰もが「タイヨウのうた」のことを思い出さずにいられない。
村上淳ってもういい年した息子がいるのにいつまでもこんな役。
こいつを襲撃する村人たちも棒きれで叩いたってダメ。竹やりみたいに集団で突きにいかないと。

あと、絶叫しながら斧で友の手首を切断する神木隆之介。こういうときは一定以上の教育がないと危機に対処できないんだなと。
地獄カオスで哀しいクライマックスって、こんな映画を何目的でつくった?何も感心しない。

なんでこんな病院セットを?なぜに「わが祖国」?見てよかったことは何もない。

最初からずっと普通に昭和30年代40年代の農村風景。ほぼ大江健三郎「万延元年のフットボール」で読むような世界観。
古舘寛治はいつも同じ質感で古舘寛治で感心する。ほぼこの人が主演だったのでは?

2023年5月27日土曜日

江戸川乱歩「人間椅子」(大正14年)

江戸川乱歩「人間椅子」の春陽文庫(2001年新装28刷)がそこに110円で売られていたので購入。
この春陽文庫版は表題作他9本の短編を収録。すでに読んだことあるものが多く重複。だが、春陽文庫版も持っていたいと考え購入。自分、乱歩の最高傑作は何か?と問われたのなら、「人間椅子」と答える。

人間椅子、お勢登場、双生児、夢遊病者の死、灰神楽、木馬は回る、人でなしの恋、は最近も読んだばかりで他で感想も書いたので、今回は「人間椅子」以外はぱらぱらと読むだけにして、未読だった短編3作について。

人間椅子(苦楽 大正14年9月号)
外務省書記官を夫に持つ美しい閨秀作家である佳子。毎日のように未知の崇拝者読者から手紙が届く。その中に原稿を送りつけてくるやつもいる。この原稿に書いてある恐ろしい告白に目を通した佳子の、じっとりと冷や汗がふきだすような恐怖。そしてあっけにとられる意外なラスト。

やっぱり名作。江戸川乱歩を最初に読むなら「人間椅子」か「屋根裏の散歩者」のどちらかをオススメしたい。

毒草(探偵文芸 大正15年1月号)わずか9ページの短編
小川が流れ雑草が生い茂る近所の野原へ友人と散歩に行った折、ついなにげなく友人にそこに生えている野草が、昔に産婆が堕胎の妙薬として用いた毒草であるという話を語って聴かせ、産児制限についてや裏の貧乏長屋の子だくさんぶりについてひとしきり話をした。
友人と別れたら、すぐ近くにある貧乏長屋の6人の子だくさん郵便配達夫のお腹の大きい40妻がすぐ傍で立ち聞きしていたことを知る。
夜に気になって野草の生えていた辺りを探ってみたら、1本折られていた。

数日経ってその奥さんと細い路地で出会ってしまった。恥ずかしそうにニヤニヤ笑ってる。そのお腹を見たらペチャンコになっていた。
さらに近所でも郵便配達夫以外でお産が流れた夫人が2人いるという…。やはり野原に行ってみたら、どの茎も折られていた…。

どうってことない短編かもしれないが、時代の雰囲気を表してるかもしれない。そういう知識をむやみやたらにひけらかしてはいけないという話かもしれない。
自分、いつもBSプレミアム江戸川乱歩短編集でドラマに出来そうなものはないか?と探してるのだが、この短編は無理かもしれん。

指輪(新青年 大正14年7月号)わずか5ページの短編
再会した男ふたりの会話。以前に列車内での指輪盗難事件の嫌疑をかけられたとき、どうやって上手く逃れたのか?これは超短編なのでどうってこともない。それほど価値を見出せない。

幽霊(新青年 大正14年5月号)21ページ短編
一代で大身代を築いた平田氏は辻堂という老人に強く恨まれつけ狙われていた。常に用心していたのだが、その辻堂が死んだという知らせ。辻堂の家を探ってみたり、戸籍を調べたりしたけど、辻堂の死は間違いないようだ。
だが、辻堂から脅迫の手紙。「自分は死んだがこれからは怨霊となってお前をとり殺す」

それからは出かけていくあちこちで辻堂の顔を見てノイローゼ。人のススメで転地療法。しかしそこでも辻堂を目撃。これは一体…と思ってたら、話の面白い青年と出会って…。

これ、まさしくその青年を自分は満島ひかりで脳内再生してた。昔のお役所の戸籍謄本の扱い方という、やや時代を感じる短編ではあるが、ドラマ化は可能。

この春陽文庫版で未読だった短編は以上3本だったのだが、今回「灰神楽」も読み返してみて映像化できそうだと感じた。キャッチボールをしていた弟が連れて来た男を明智探偵に置き換えることが可能。

2023年5月26日金曜日

吉岡里帆「ハケンアニメ!」(2022)

ハケンアニメ!(2022 東映)を見る。辻村深月の同名原作小説の映画化。監督は吉野耕平、脚本は政池洋佑。主演はたぶん吉岡里帆と中村倫也。

初監督作品を制作中の斎藤瞳(吉岡里帆)。現場がギスギスしてて修羅場。ため息。もうこの時点でメガネ吉岡がかわいい。
柄本佑プロデューサーがヤな人。自分がいちばん偉い。
ライバルプロデューサー尾野真千子がもうすっかりおばさん。

この映画、最初に登場人物がテロップつきで紹介される。アニメ業界の人たちなので、当たり前のようにみんなアニメの常識で行動。制作現場をテンポよく説明。「バクマン」を思い出す。

神作画アニメーターらしい並澤和奈(小野花梨)とのやりとり。このアニメーターの名前だけが必要。こんなこともアニメの現場ではあることなのか。

現場のベテランたちがみんなめんどくさいしヤな人たち。吉岡カントクがつらそうだし可哀想。トホホの連続。
アフレコ現場でも声優が監督のダメ出しに泣いてキレてとび出してく。開始からずっと新人無名監督の悲哀。

中村倫也がカリスマ人気アニメ監督らしい。そういえばこいつはアオイホノオにも出てた。

夕方5時台の同じ時間帯で王子千晴(中村)の復帰作「運命戦線リデルライト」と斎藤瞳「サウンドバック 奏の石」が放送。それはテレビ局の対決。
でもアニメを見る層は話題作はどっちも録画して見るのでは?
話題作として盛り上げるための対談イベントの女性MCがすごく嫌な人だが、ブチギレて放談するアニメ監督もどうなの。
黒衣装の吉岡が誰が見てもかわいいし魅力的だろ。

日本人はみんなアニメの話題しかしてないの?

なんか、想像してたのと違ってた。重苦しい。暑苦しい。ユーモアとか笑える要素がほとんどない。
アニメと同じで登場人物それぞれのキャラを立てたドラマ。
どんなアニメも制作現場がギリギリの状況で苦労してつくったもの。どのシーンも真剣に見ないといけないなと思った。

主題歌はジェニーハイ「エクレール」(unBORDE / WARNER MUSIC JAPAN)

2023年5月25日木曜日

アーサー・C・クラーク「地球帝国」(1975)

アーサー・C・クラーク「地球帝国」(1975)を読む。山高昭訳の1978年早川書房海外SFのヴェルズ版で読む。
今回自分が入手したものはさすがに45年経ってるだけあって、ページにところどころシミがあって古さを感じるものだった。
IMPERIAL EARTH by Arthur C. Clarke 1975
土星の衛星タイタンへ人類が植民し数世代。有力者マッケンジー一族のダンカンは30歳にして初めて地球へと帰還する。合衆国500年祭に参加するために。

タイタンのメタンとアンモニアが巻き起こす気象環境や、地球へと向かう宇宙船の技術的な説明は詳しく書かれているのだが、なにせ45年前の知識。それが今も正しいのかは自分にはわからない。

タイタン人はすでに子どもができない場合はクローンを作り出す技術を持っている。だがやっぱりクラーク先生であっても、数十年後にはスマホのような端末を全員が持ってる未来は想像できてなかった。(電卓、辞書、カレンダー、情報を送受信するカメラ端末は存在する)
宇宙船に図書館があったり、民主的投票で上映映画が決まったり。このへんは今現在の少年たちが読んだら「?!」ってなる可能性がある。

宇宙で数世代を過ごした人類が地球に帰還することで起こる最大の試練が重力であることは想像がつく。それは解決が難しい問題だ。トレーニングを積むだけでなんとかなるだろうか?
文明世界を数世紀、何十世代と蓄積した地球人に対するタイタン人の眼差しは、田舎から都会を見るようなもの?!

地球の日差しの強さに驚き、動植物に感動。ヒラヒラ舞う蝶に感動。初めて口にする蜂蜜の味に感動。大きな馬に感動。そういうの、タイタンでは映像作品とかで見てなかったの?
蜂蜜の味にノスタルジーのようなものを感じた。なぜ?
以前地球からやってきてダンカンとカールの兄弟と三角関係になったキャリンディーのカラダの味?そこはエロス。

人類がタイタンと往復できるようになる遠い未来、2276年になってもウォーターゲートビルがあるし、ワシントンナショナルギャラリーに「ジネーヴラデベンチの肖像」がある。「タイタンに戻ったら友人たちに俺は本物のダヴィンチを見たと自慢できる!」
けど、水運が廃れているというのは理解できない。21世紀になっても水運は資材運搬の主力。

「地球帝国」というタイトルからまるで想像できない内容だった。タイタン石と何か法律違反?サイクロプス計画、カールの目的、アーガス計画?
表紙に描かれた土星とウニのようなもの。こいつは何だ?やっぱりウニなのか。

この本を読んだことでしばらくアーサー・C・クラークから離れていいと思った。面白いというより、昔の人が考えた未来がぜんぜん遠いなと感じることが多い。

2023年5月24日水曜日

乃木坂46「生れたままで」(2014)

2014年4月2日発売の乃木坂8枚目シングル「気づいたら片想い」タイプC盤を手に入れた。
4月中頃、友人とカレーを食べに出かけ某リサイクルショップで何か面白いものはないか?と物色。で、袋もかけずに乱雑に箱に入れられたジャンクCDの中からこいつを手に入れた。55円だった。(じつはこの店で25枚ほどCDを買ってしまったw)

乃木坂46のCDは音源がほしくて手に入れることはない。付属するDisc2の特典映像が目当て。アンダー楽曲「生れたままで」MVが手に入った。これはなんとなく見たことはあったかもしれないが、じっくり見たことはなかった。
これは伊藤万理華センター曲らしい。このMVが酷い。楽曲にキラキラした映像がまったく相応しくない。違和感しか感じない。
ここに映ってるメンバーの全員がもう乃木坂46からいなくなってる。それも酷い。卒業なんてシステムのない、どんどん人口増加していくアイドルグループがあったっていい。
このMVはアンダーメンバー全員に脚光が当たるように作られている。自分としては齋藤飛鳥にだけ注目。(この8枚目シングル期は星野みなみもアンダーだったことが驚き)
中学生から高校生になる時期の飛鳥がかわいい。今見返しても圧倒的レベチな存在。
なのにアンダーに置いておくとかどうかしてる。乃木坂はSONYという巨大メジャーなことがすごいだけで、別に運営が能力高いわけでもない。たくさんかき集めたから何人か人気が出た。その漁法をこれからも続けていくつもりか。
齋藤飛鳥は空だって飛べるはず。実際飛んでる。
最年少でみんなから可愛がられたのに、どんどん暗くなって、ひねくれていった飛鳥。誰の責任か?運営だろう。
そして東京ドーム2DAYS卒業コンサートという儀式をもって、飛鳥は完全にアイドルを卒業しソロでの活動となる。今後はどんな活動になるのか?
25歳で女優活動を本格化させるのは遅い。幼く見えても女子高生や女子大生役ができなくなっていく。なんとか西野七瀬のように早く話題作を引き当ててほしい。
ちなみにこの初回盤を手に入れると、乃木坂メンバー4人、西野、松村、樋口、伊藤万理華に密着した映像を見ることができる。
密着とは言っても演技レッスン風景。CDデビューから3年目に突入し8枚目シングルを出そうという時期なのに、まだ売り出し中のアイドルと同じようなことをやっていて驚いた。
自分としてはやはり西野七瀬にしか目がいかない。このころの西野はまだまだ隙だらけの美少女。表情が固いしキツそうな印象。(内面はまったくそうでないところがこの人の魅力。この1年後にノンノモデルデビュー。)
演技レッスンでエチュードに取り組んでいる4人をずっと撮影。このシングルリリースの直前に西野はマカオで番組ロケをしてバンジージャンプをしてるはず。この映像とマカオとどっちが先なのか前後関係がわからない。
西野が眼帯してて驚いた。独眼竜ツインテールななせまる、なんかカッコイイし萌える。

2023年5月23日火曜日

杉本苑子「玉川兄弟」(昭和50年)

杉本苑子「玉川兄弟 江戸上水ものがたり」(昭和50年)を1994年文春文庫(第1刷)で読む。584ページの大長編。昭和48年春から1年余り「赤旗」紙に連載されたもの。
(これは5年前にBOで108円で購入し積読しておいたもの。ようやく読む。杉本苑子の文庫本はいつも探してるけどあんまり見かけない。)
東京都民なら誰しもが知ってる偉人玉川兄弟(羽村堰には銅像がある)についての歴史小説。

4代将軍家綱の時代。家康の江戸入府から60年、人口の増えた江戸は水不足。もともと低地で井戸を掘っても水が塩辛い。良い水を得るには付け届けが必要だったり人々の間でトラブルと苦労が絶えない。神田、下谷、浅草、青山、牛込、四谷、麹町付近の町民は水に困ってた。そこで、多摩川から水を引く普請の計画。

武州羽村出身の庄右衛門は普請人足供給を請け負う枡屋の親方。まだ31歳。その7つ下の弟が清右衛門。人足たちを必要なときに集めるためには日ごろから面倒を見て侠気と温情が必要。
そんな枡屋に大きな儲けの機会。多摩川から四谷大木戸まで水路を引く。

これがもう現代日本の大型公共工事受注で巻き起こる事態とほとんど変わらない。ライバル土木業者も見積を出すため現地を視察。地元民たちは何かを感じ取り工事に必要な資材価格が高騰する。工事の予定地はどこか?地元民たちは利益にあやかろうと必死で探り合い。取水堰ができれば川での漁業にも影響。筏を流すのにも支障。

業者選定における幕閣たちの思惑。伊奈半十郎忠治は枡屋の欲のない誠意の見積もり額に注目し心配。何か災害があったり工期が伸びれば6000両で収まらないかもしれない。出費が増えるかもしれない責任を負わない老中たちに不満。
周辺地域の人々からの陳情。ライバル業者からの讒言悪口嫌がらせ。幼いこどもに危険な吹き矢。資材への付け火。
取水堰をどこに置くか?福生・熊川、青柳、日野、そして羽村。霜の害で人足が1日200文でも足りないと不平。ぜんぜん開削工事が始まらない。ああ、嫌だ。

伊奈半十郎さまが厳しく監視に来た嫌なお役人に違いないと庄右衛門は煙たく感じたのだが、じっくり話し合ってみると、それは清廉で志の高い立派な方。いろんな陳情に困り迷っていた心がスッと晴れた。今回は水に困った江戸の町民たちを助けることが第一。

で、工事が始まって見ると初日から怪我人と死者。そして大雨。仮水門工事で決壊目前。兄と弟で工事の進め方に関して口論。工事はいきなり暗礁に。
駆り出された人足たちはみんな土木工事素人。なかなか仕事がはかどらない。でもまあそれは予想できたことだな。

刃傷沙汰も発生。そこは半十郎さまが収めてくれたのだが、掘割の掘削はついに断層へ行き着く。水が地の底へ吸い込まれていって水が流れて行かない。これは堀筋を変えるしかない。(古代ローマみたいにコンクリート水道橋をつくる技術があれば…)
ということは、これまで掘ってきた費用(総費用見積もりの6分の1)という損害。

老中がたは追加の費用を出してくれるだろうか…。しかし半十郎の説明では、枡屋が諸人を救うために願い出たから公儀は許したということになっている。ビタ一文追加はない。だまし討ちのようなやり方に庄右衛門は呆然。まあ、それが江戸幕府だな。
さらに、プラン変更で利益にありつけず不平不満の地元住民からも妨害。公共事業と反対派住民みたいなものだな。

そして福生側からの開鑿も岩盤に行き着いて枡屋第2案も頓挫。
ここでまさかの半十郎自刃。(史実ではないらしい)絶望と嗚咽の庄右衛門。
だが、私利のために野比止へ用水を引こうと画策してると疑念を持っていた川越藩の松平伊豆守信綱への誤解が解けたことで、いっきに羽村案が実現。ここからは羽村案による測量図面を持つ安松金右衛門と協力。
工事費用が底をつく。しかし、多くの人々の協力で工事完了までこぎつける。

承応二年1653年4月4日から11月15日まで、わずか8か月余りの工事。羽村から四谷大木戸まで十里三十一町四十六間(約43キロ)の素掘りの上水路。設計通りに水が流れてきたのを見たとき、たぶん多くの人々が感動したに違いない。

掘削当時の技術資料が少なく、杉本苑子せんせいは苦労したらしい。なので多くが創作。
清右衛門には波之介という美少年の恋人がいるのか?!それは江戸時代の常識なのか。

吉村昭みたいな硬派な歴史小説とはだいぶ雰囲気が違う。娯楽時代小説の雰囲気もある。
幕府の命令は絶対だと思ってた。逆らったり文句言ったりしたら殺されると思ってた。意外に地元住民は不満を自由に表明するし反抗的。

2023年5月22日月曜日

「クロスファイア」の劇場パンフを手に入れた

花見ついでに友人と立ち寄ったBOでこいつを見つけた。映画「クロスファイア」(2000 東宝)のパンフ。
他に買うものも見当たらなかったので、これ1冊だけ持ってレジへ。110円。
たぶんそれほどめずらしいものでもない。だが、映画公開から23年の時を経て、自分の手元にやってきた。

この表紙メインビジュアルが好きじゃない。公開当時が清純派若手美人女優としてキャリア史上絶頂だった矢田亜希子さんが、まるでチベット仏教の仏像に見える。それはそれで超能力者として適切なのかもしれないが。
見開きページのこのビジュアルのほうがたぶん良い。こちらのほうがたぶん視聴者層に合っていた。

内容は宮部みゆきと金子修介監督の対談、スタッフインタビューなど。初主演映画ということでがんばった矢田亜希子さんインタビューが1P。それ以外の出演者、伊藤英明ほかは6人まとめて1ページ。

だが、自分がこれを買った理由(この映画を見た理由もだが)、当時13歳の長澤まさみに関する情報がほしくて。
まさみインタビューが小さく掲載。だが、脇役にしては活字数が多い。簡潔にまとめると
  • たくさんの撮影スタッフが、ひとつのカットを撮るのにすごく時間をかけることに驚いた。
  • もしも私がそんな能力(パイロキネシス)を持っていたら?お菓子を作る時にその力を使ってみたい。
  • かおりちゃんは心の扉を閉めて感情を表に出さない寂しい女の子。
  • お父さんもお母さんもいなくてかわいそうだと思いました。
  • かおりちゃんの気持ちを作ることは難しかった。
とのこと。中1女子なので、素朴でかわいらしい感想だ。これが後の国民的人気美人女優の最初の一歩だ。まさみは第一歩目からジャイアントステップを踏んだ。

2023年5月21日日曜日

ハインライン「栄光の星のもとに」(1951)

ロバート・A・ハインライン「栄光の星のもとに」(1951)を鎌田三平訳1994年東京創元文庫版で読む。この文庫が「待望の完訳版長編登場!」と銘打ってある。この作品は「BETWEEN PLANETS」という原題。地球のニューメキシコにある寄宿学校に通う少年ドン・ハーベイを主人公とするジュブナイルSFらしい。

金星植民地と地球連邦が対立し戦争間近という状況。ドンの両親は息子を中立の火星へ避難させようと宇宙船の搭乗券を用意するのだが、宇宙ステーションで金星軍部隊に制圧接収され、強引な軍隊によって金星に連れていかれる。

ハインラインの少年が主人公のSF小説は見知らぬ土地で酷い目に遭うものが多い。それがアメリカ人の開拓民スピリッツ。地球連邦のお金が紙切れで両親に「電報」すら打つことができない。

1950年代のSFは素朴というか、スマホのような個人端末の登場は誰も予見できていない。ロボットタクシーは存在しても支払いは小銭。
ロケットに登場するための保安検査場で係員からカメラを持っていないか注意されるのだが、その理由がフィルムがX線に感光するから。今の若者はもう20年ちょっと前まで空港でそんな注意書きがあったことすらも知らない。
そして、窓口係員がみんな横柄。子ども相手に治安警察の刑事みたいなやつが乱暴。

少年が戦争に巻き込まれる。ハインラインの考えるアメリカの青少年のあるべき姿が描かれる。愛国心を尊いもののように描いていて当然のように兵士になろうとするドン・ハーベイはアメリカ軍国主義的理想。

金星ってたぶん人類が住むことは不可能に思えるのだが、1951年の知識では致し方ない。ドラゴンとよばれる金星人がいるとか、やはり子ども向けか。

アメリカ人少年たちにとって軍人は身近な存在かもしれないが、日本においては稀。軍隊は子どもたちからほど遠いので、この小説が今の子どもたちに読まれ受け入れられるかはわからない。ガンダムとか見てる子なら楽しく読めるかもしれない。
この作品は日本では1957年に講談社より「宇宙戦争」のタイトルで抄訳版が出てたそうだ。表紙イラストは小松崎茂で当時の少年たちの心を躍らせるものがあったらしい。

2023年5月20日土曜日

高橋ひかる「青野くんに触りたいから死にたい」(2022)

昨年3月にWOWOWで放送された高橋ひかる主演の連続ドラマ「青野くんに触りたいから死にたい」各話25分全10話を放送から1年以上経ってやっと見る。なぜかシネスコサイズで製作?16:9でいいだろ。

第1話冒頭、ヒロイン刈谷優里(高橋ひかる)が15冊ぐらいの図書を抱えて廊下を歩いてると、やんちゃそうな男子青野くん(佐藤勝利)がよそ見して飛び出してきて衝突。散らばる図書。いかにもベタ。
だが、このヒロインが「男の人と初めて話しちゃった…」「わたし、彼氏ができちゃうのかもしれない」という箇所には、視聴者全員つっこむかもしれない。高校生になるまで何をしてたんだ?それにバカ男子生徒を「おとこのひと」って!

この子がずっと教室でひとりぼっちで心の中でずっと「青野くん、青野くん♥」「私のこと好きだったらどうしよう」怖いわ!これ、ギャグマンガ原作なの?

青野くんにはこの少女がまったく眼中にない。男子たちの会話が「ゲームあるからうち来る?」
自分が高校生のときはクラスの男たちと「オリジナル数学どこまでやった?」みたいな話以外いっさいしてないw
このヒロインは読書が趣味らしい。キレイな部屋にガンガンamazonの箱が届く。一度に何冊も単行本を買ってる。え、恋愛ハウツー本?
今の子はそんななのか?自分が高校生のころを月の小遣いから1000円とか握りしめて書店に行って文庫本とか買ってたのに。

次のカットではもう校舎の片隅で少女から告白。早いだろ。案の定、男子は少女を覚えていない。喋ったこともない女の子から告白され、男子困惑。少女は明らかにコミュ障。会話の間合いがおかしい。なのに、「じゃ、つきあってみますか?」となる。なんでそうなる。

一緒に図書委員の仕事したり、一緒に帰ったり。だが「青野くんは交通事故で亡くなりました」と担任から報告。付き合い始めてたったの2週間。ささっと暗転。これは教室で泣き叫んでもいい案件。
部屋で手首にカッターナイフを当ててみる。このドラマ、ツイッターで世間の反応を調べてみようとすると、その手の検索をするとその手の相談窓口がトップに出てくる…。
で、青野くんの幽霊が突如出現。自傷行為を止めさせる。「死ぬなんていわないで」しかし幽霊なので触れ合おうにも体はすり抜ける。
そしてこの少女は幽霊となった彼氏とつき合い始める。男は枕などの個体物に乗り移って「来て」。君を抱いてるのに私の匂いだ。以後、この少女は学校でも青野くんの幽霊と語り合う。それ、周囲からしたら恐怖でしかない。

え、教室で「青野くんへの想いを語る会」みたいなイベント?担任主導?なにこれ。そんなものいらない。大人はショックを受けてる生徒たちを早く立ち直らせて授業に復帰させろ。

これは第1話見ただけで相当にキツイ。暗いしテンポ悪い。部屋でふたりきりで見てる映画がベッドシーン多くて焦るなど、エピソードがことごとくつまらない。かなりつまらない予感。

ヒロインのカラダの中に憑依するというシーンで大量出血など突然のホラー謎展開。女の子の生理に戸惑う男シーンとか、マンガならアリかもしれんが映像で長々と見せるのどうなんだ。
元気いっぱいでお喋りな高橋ひかるのキャラに合ってない。タイトルからもっとPOPなものを想像してたのだが。

第2話もおかしい。音楽での歌のテストでヒロインが音痴であることが判明するのだが、音楽教師が吹奏楽部の生徒に指導を丸投げとかおかしい。
「よそのクラスの人が何してんの?」って、藤本(神尾楓珠)がぶっきらぼう無神経。ヒロインが青野くんの彼女だと知ってて聴くことか?しかもセクハラ質問。おどおどしすぎてるヒロインを見るのはキツい。
電柱と一体化した青野くんと抱き合うシーンもユーモアシーンの気がするのだが、ヒロインが暗すぎて笑えない。
第2話はヒロインと青野がいっしょにピアノを弾くというシーンの為の回。
1話25分なのに50分ぐらいに感じる。

第3話、クラスメートたちに「彼氏でもできた?」「…う、うん」てゆうやりとりがおかしい。
不登校生徒堀江(里々佳)の家にプリント届けに行くのだが、婆さんが異常。制服姿なのを見れば状況がすぐわかるだろ。嫌々来てるのに家に入れるな。しかもこの家が結界のようなものを張ってる。
堀江がホラー映画ばかり見てる。ホラー映画の専門家として青野くんが時々見せる変化について質問するヒロインに答える。

この里々佳という女優は26歳なのに女子高生役ってすごい。この人は6年前に竹内涼真と交際熱愛報道があったらしい。
ポップな幽霊ラブコメみたいなものを想像してたらガチ悪霊ホラー展開になる。なにせヒロインは死者とつきあってる。
女子トイレの個室でパンツ降ろしてるヒロインの前に青野くん。なにこれ?意味不明。(じつは意味があった。後に堀江が解説。)不穏に怖い。どう見たらいいのかわからない。

第4話では青野が藤本の肉体に憑依して優里とキス。このヒロインが大量に鼻血。サスペリアか。
会話が意外に性的。高橋ひかるのオ〇ニー告白。想像の中で青野くんがどんなふうに自分を触るのか?藤本の告白。「私はスケベな女です」とか、これはファンをざわざわさせる。こういうの、マンガだとアリかもだが、実写ドラマで高橋ひかるに言わせるのはどうかと思う。

第5話、青野という悪霊に関する謎解き。堀江の家に優里の姿をした化け物が?!
第6話では分析と対処。なんだかコメディタッチ。やっぱりドキドキえっちな会話あり。遊園地デート。
第7話にしていきなり優里のヒステリック姉みどり(水沢エレナ)登場。勝手に自分の服を着たことに激怒。玄関で優里を下着姿にさせる。一部始終を見てた青野激怒。
そして優里を学校から追い出そうとする勢力の悪意。
第8話、優里と藤本は体育倉庫に閉じ込められる。そこに雰囲気の怖いほうの青野。なんだかわかりづらい謎解き呪いホラーの展開。優里はメッシュ白髪に。
幽霊ラブコメだと期待して見始めた視聴者は離れてしまうのではないか?

第9話も超絶嫌な話。刈谷家の雰囲気が悪すぎ。姉が性悪なだけだと思ってたら母親も最悪。
藤本と堀江がいい人なことだけが救い。かと思いきや、優しい人はふたりだけじゃなかった。みんなから生前の青野くんの写真を集めて青野家を訪問。祖父母に喜んでもらえた。

だが、やっぱり悪霊ホラー展開もみせる。こんなのクラスメートも担任もみんな恐怖。(待ちなさい!とか叫ぶのに追いかけてこない教師なんなの)
エロラブコメ要素もぶっこんできて笑わせる。なんだこのドラマ。

藤本と優里は青野を追って裏山へ。異世界に送られたようでスマホで通話はできる。堀江が地上管制の役割で有能さを発揮。
え、これで万事うまく解決?!あの厭味姉と母はそのままなのか。性悪姉の仕込みかと思われたコン〇ーム事件、あれは藤本の私物の可能性が捨てきれない。
あんな騒動を起こしておいて、悪意のクラスによくしれっと復帰できた。
高橋ひかるが熱演。この子は真横から見ると体型がすごくうすっぺらい。顔がユニークで愛くるしい。
神尾楓珠が役者として上手。このふたりは地力がある。
このドラマぜんぜん話題にならなかった気がする。ツイをチェックしてみても誰も感想を述べてない。

2023年5月19日金曜日

岡嶋二人「焦茶色のパステル」(1982)

岡嶋二人「焦茶色のパステル」(1982)を講談社文庫2012年新装版で読む。
この作品が岡嶋二人のデビュー作にして江戸川乱歩賞受賞作

ただ、どう見ても内容が自分と馴染みのない競馬の世界。なんとなく自分とは合わないだろうなと数回スルーしていたのだが、「クラインの壺」が面白過ぎたので作者のデビュー作も読んでおかなくてはと手にとった。

競馬評論家(記者?ライター?)の大友が東北の牧場で射殺されたという事件。牧場長もともに撃たれ死亡。さらに同じ牧場でサラブレッドの母子モンパレットとパステルまでも撃たれて死亡しているのが発見。巻き添えで銃弾を浴びたのか?

大友とは夫婦関係の冷え切った妻香苗が夫の死に疑問を抱いて関係者に話を聴き回る。
なんだか松本清張のような社会派ミステリーサスペンスの様相。
競走馬生産と売買という狭い世界で起こったきな臭い事件。どうやら競走馬の血統と種付けをめぐるトラブル?人は数千万円の金が関わるとなると人を殺す…かもしれない。

結論から言って、やっぱり自分とはあまり合ってなかったように思った。途中からおそらく競走馬の血統と遺伝に関する隠ぺいと陰謀だろうと想像がついた。
自分は白い馬を「芦毛」と呼ぶ…という知識すらなかった。調査する妻香苗とその友人芙美子も競馬素人なので、そのへんの説明はわかりやすくしっかり念を押してくれる。だが、話が展開するにつれ、どうしても競馬常識がないとピンとこなくなっていった。

香苗と芙美子のふたりが牧場に潜入していく箇所は、まるでヒッチコックの「裏窓」みたいに「あ、バカ!」って思ったw よくそんな危ない状況で大胆無謀にずんずん入っていける。
案の定、TRICKの上田と山田が村人に追いかけられるのと似た状況。だが、タクシー運転手が有能だった!w そして相互不信の心理戦。ここはハラハラできた唯一の箇所。

岡嶋二人の著作を全て読まないと気が済まないという人は読むべきだが、「クラインの壺」が大好き!という人にはそれほどオススメもしない。自分、まだディック・フランシスの競馬シリーズも手に取ったことがない。

2023年5月18日木曜日

岡嶋二人「クラインの壺」(1989)

岡嶋二人「クラインの壺」(1989)を新潮文庫(平成5年)で読む。平成初期のVR仮想現実空間サスペンス。

主人公上杉彰彦は大学生。趣味で書いたゲームブックを公募に出す。規定の4倍も長いため落選するのだがイプシロン・プロジェクトというゲーム会社(?)から5年間で200万円で権利を譲る契約。就職先も決まっていなかったので渡りに船。
これが時代の先端を行く画期的に新しいゲーム。実際に体験したように映像を見て肌に刺激。現実と区別がつかないほど。

しかし、連絡がこない。ようやく連絡が取れた。だが、溝の口の事務所から目隠しされたバンで30分かけて研究所へ移送され、そこでゲームの最終確認的にモニターとしてプレイさせられる。
自分で書いたアドベンチャーなので展開は知ってる。アフリカの小国に失踪した博士を救出に行くスパイアクション。

だが、ゲームにはまだ未完成の部分がある。バグのような?途中で画面が消え暗闇を落下するような不快な衝撃。そして「戻れ」という男の声が聴こえる…。

義理の兄が事故に遭ったと連絡。試験を中断し病院に駆けつけるも、そんな人は救急搬送されていない。もしかして、ライバル社がさぐりを入れるためにおびき出された?

美人でカワイイ高石梨紗という女の子もバイトで参加。だが梨紗が急にバイトを辞めると連絡?あれだけ一緒に仲良く話をしてたけど、そんなそぶりはまったくなかった。

梨紗の親友だという真壁七美という美少女が登場。梨紗と同じ学校でデザインを学んでる。家出少女同然で梨紗の部屋にいる。メモ帳に電話番号があったということで上杉に連絡してきた。梨紗と連絡がまったく取れなくなったという。

上杉と七美の間でこれまでの状況を照らし合わせるのだが、事実関係がまったく合わない。
梨紗はいったいどこへ?イプシロン社の言うことがだんだん信用できなく感じ始める。上杉は疑惑を深めていく。
上杉と七美はふたりで調査を始める。イプシロン社の正体とは?アメリカの病院での死亡事故とは?「クラインの壺」とは?!

なにせ平成元年の作品なので、ケータイ電話のない時代。安否確認ですれ違いのもどかしさを感じる。
しかも、VR空間で体験した虚構と現実とのギャップによって、登場人物たちが混乱に巻き込まれて行く。そして、驚きのラスト。

これ、今ではこの展開に慣れてしまった読者もいるかもしれないが、自分は予想以上に面白かった。
ページをめくってる最中もわくわくハラハラできた。語り口が巧み。読者も主人公と同じように戸惑いを感じるはず。
話の内容をあまり上手く説明できない。じわじわ怖いし、ラストもふわっと怖い。
VR世界の胡蝶の夢とでも言うべき内容。島田荘司「異邦の騎士」と並ぶ80年代の名作。併せて読みたい。

とにかく、まだ読んでない人には「読め!」と言いたい。てか、これはぜひ映画で見たい。自分の中で映像ができている。
もしかすると、ロシア中国北朝鮮は政権与党がつくりだした虚構の脅威なのかも…、ってそんなことはないか。

2023年5月17日水曜日

本田翼「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」(2023)

1月14日からテレビ朝日で放送されていた「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」(2023)を録り溜めたものを2晩で完走した。本田翼が出演しているので見た。脚本は橋部敦子

第1話は1999年夏から始まる。花火師として夏の花火大会の現場にいる望月親子。橋爪功、高橋一生。
そして23年後の2022年夏へ。父と息子の二人暮らし。コロナのせいで花火の仕事がなく、父「今日も暇だなあ」息子は食事の準備しながら今後の仕事について父と談義中。これからは個人の客もとらないと。ゴミ出ししないと。
しかし、父は突然倒れるのであった。
そして2023年1月。望月星太郎(高橋一生)は荒んだ一人暮らし。仕事は相変わらず暇。友人がバイトしない?体力仕事はできないなと断る。
そこに「打ち上げ花火を上げてもらいたい」と本田翼が店へ。「うちはそういうのやってないので」

どうやら水森ひかり29歳(本田翼)は父望月航(橋爪功)の撒いたチラシを見てやってきたようだ。それでも断るのだが、突然大きな音。作業場で何か起こったか?!と駆け付ける。するとそこに亡き父の幽霊。
泡食って事務所に戻る。まだ本田翼がいる。30万円現金で「花火を打ち上げて」

本田翼が「望月煙火店」に花火を注文した理由は、ウェブページとかあるご時世にこんな雑な手書きチラシを見て「よほど花火に自信のある店」だと思ったらしい。そのへん、脚本がちゃんと練られてる。
けだるい感じの女の依頼は「素敵なもの」花火の目的など一切明かさない。
そして星太郎は独りで花火の製作を始める。花火職人ドラマって初めて見る。新鮮。
で、花火打ち上げというその日その時間。女は独りでやってくる。「連れは?」「いません」この女は「私だけの花火」が打ちあがるところが見たかっただと?!
30万円にしてはかなり豪華な花火シークエンスだったのでは?
だが、この女は「フッ」と鼻で笑う。なんで?
プライドが傷ついた星太郎。やるんじゃなかった。

しかし翌日、女「私をここで働かせてください。住み込みで。」「えっ?!」
ドラマとして第1話のつかみが完璧。これは面白いドラマの予感。
この女はすべてを棄ててきた。行くところがない。
「困ってることは全部やります。」なんと理想的な人材だ。
本田翼の目がずっと座ってる。あと声がずっと低い。テンション低い。ほぼ桃井かおり。

「もしかして望月さんに気があって押しかけて来たと思ってます?」
花火を打ち上げたとき鼻で笑ったことを問いただすも、覚えてない…。
アラフォー独身男の一人暮らしに妙齢の女性。それは戸惑いしかない。だが、お手洗いを勝手に掃除。食事もあるものでちゃちゃっと、ちゃんとしたものを作ってくれる。

シャワーを借りる女。もしかして幽霊父、見た?星太郎は「それ、犯罪だからな!」と釘を刺す。
受け入れ態勢もないのに勝手に向こうから住み込みで働かせてくれ!と言ってきた女を多少のぞき見したところで犯罪か?そもそも幽霊には法は適用されない。
ちゃちゃっとホームページが作れてしまう。でも、映像とか写真とか載せたいのに撮ってない。「もうどんな花火だったか覚えてない」男はいちいち女の言葉がひっかかる。

「あ、鼻で笑った理由がわかった」本田翼がもうまるで個性派女優。茶をすすりながら身の上話独り語り。まるで白石加代子のよう。本田翼の演技が下手というやつを自分は認めない。このヒロインのキャラがすごく納得できる。
それはきっとたぶん脚本家の力量と本田翼の演技力。これこそ女優本田翼の正しい使い方。
この女がわりとするどくて、星太郎がいつも誰かと喋ってることに気づいてる。「誰と喋ってるんですか?」バレちゃった?
女には幽霊が見えていない。もしかして、この幽霊父は星太郎の深層心理が見せている幻覚?

第3話にしてついにひかりが花火作りを始める。女のほうが心理的に強いし星太郎を圧迫してる。脅して花火づくりを教えさせる。
ドラマ中盤、第5話あたりからなにやらサスペンスタッチ。星太郎と父、母にはいったいどんな秘密が?!4年付き合った彼女と別れた理由は?

このドラマ、星太郎の幼少の時からのあらゆる心理面の影響も描いてる。そのへんが深くて感心。ずっと疑問に思っていたことをひかりが代弁して星太郎につっこみを入れる瞬間には震えたw まさかのサイコ展開?!
「お父さんは本当に幽霊?」「え、どうゆうこと?」カメラが引くとこにちょっと笑った。
高橋一生と本田翼という人気俳優と人気女優の会話シーンはずっと素晴らしいと感じたし、このドラマの宝。星太郎と母の件での本田の低い声でのつっこみがすごくいい。とても感心。

この主人公とヒロインは仕事場も住むところも同じで、ふたりきりで暮らして(幽霊はいる)、田舎でどこにも遊びに行く場所もないのに、男女の関係になりそう感が最後までまったくなかった。
ずっとしみじみ。ほぼ星太郎の内面心理ドラマ。
エンディング主題歌はケツメイシ「夜空を翔ける」

2023年5月16日火曜日

常盤新平「山の上ホテル物語」(2002)

常盤新平「山の上ホテル物語」(2002)白水社を読む。数年前に無償でもらった積読本をようやく読んだ。常盤新平(1931-2013)を読むのは初めて。

昔の自分は秋葉原・お茶の水・神保町が散歩買い物コースだった。秋葉原でCDやDVD、家電PC用品なんかを見た後に神田明神の階段を上って聖橋を渡り、お茶の水の丸善、ディスクユニオンをひやかし、坂を下って神保町の書泉ブックタワー、グランデ、東京堂書店、神田古書センター、最終的にキッチン南海でカツカレーというのが定番だった。
けど、自分用のパソコンを手に入れてスマホを持つようになってから、ほとんど書店巡りや中古CD漁りをやめてしまった。

明治大学の手前の角で右方面に登っていく坂の上をちらっと見ると、そこに山の上ホテルがあることは知っていた。そのホテルが多くの文士、作家たちが原稿を書くために籠ったりするホテルだということはなんとなく知っていた。新しいカメラを買ったときに数回、山の上ホテル正面の写真を撮りにいったこともある。

この「山の上ホテル物語」によれば、池波正太郎山口瞳が日記やエッセイに頻繁に取り上げていたそうだ。ここのてんぷら、ステーキ、コーヒーはとても美味しいらしい。

そして、川端康成や三島由紀夫もここを利用。三島は
「東京の眞中にかういう静かな宿があるとは思わなかった。設備も清潔を極め、サービスもまだ少し素人っぽい処が実にいい。ねがはくは、ここが有名になりすぎたり、はやりすぎたりしませんやうに。」
という一文を書いた。

石坂洋二郎も山の上ホテルへの賛辞を書いた。檀一雄、松本清張、中村眞一郎、吉行淳之介、五味康祐、小林秀雄、吉田健一、舟橋聖一、高見順、安岡章太郎、丸谷才一、といった作家がここに泊まったそうだ。
池波正太郎は直木賞選考のために候補作を読むため3日間過ごしたりしたらしい。(読書のためにホテルを利用ってすごい贅沢)

昭和12年ごろに建てられた本館35室、昭和45年に建てられた新館40室、食堂バー宴会場が5つという、都心でありながら落ち着いていてリラックスできる丘の上の小さなホテル。両国の花火、後楽園のナイター、そして富士山も見える高台のホテル。

昭和12年の建設時の施主は炭鉱王佐藤慶太郎。都美術館を寄贈する金持ち。ここで食生活を改善する目的で日本生活協会を組織。戦後は米軍に接収され、返還後に山の上ホテルとなる。なんと昭和50年ごろまでホテルの所有者(佐藤慶太郎の女婿で東北大教授)が売ってくれず、賃料を払っての営業だった。

山の上ホテル創業者吉田俊男は、明治の国定教科書編纂で知られる吉田弥平の息子。見た目は学者のような風貌だったという。(そして、義理の兄は俳人水原秋櫻子。)
東京商大(現一橋大)卒業後の昭和12年に旭硝子入社。昭和28年に退社し、昭和29年より山の上ホテルを開業。ヨーロッパの一流ホテルを見て回って研修。超一流じゃないけど程よいサービスをめざす。この社長が大正二年生まれで頑固でわがままでこだわりの強い変人社長。

社員を叱り飛ばし、説教が長くて困らせるw ついていけない社員従業員はどんどんやめて行く。山の上ホテルに合う人だけが残った。

礼儀を知らない客は願い下げ。品の良い客が自然と集まってくるホテルをめざす。料理の食材には社長自らチェック。

あと、この本は昭和30年代のホテル業がどのようなものだったのかも教えてくれる。昔の日本人はホテルの予約なんてしなかった?上野駅や横浜港で降りてくる客をつかまえて客引きをする「駅前旅館」スタイル。社員はそういう営業をやらされる。
昭和32年に日本ホテル協会に57番目に加入。つまり当時の日本には全国で57つしかホテルがなかった。ホテルになるには風呂、ロビー、ダイニングなどの基準があったそうだ。

トーベ・ヤンソンも泊ったと知って驚いた。エベレストに初登頂したエドモンド・ヒラリーとテムジンも泊った。バレーボールが盛んだったころはソ連、チェコの選手も泊った。
あと、受験シーズンは受験生の予約で埋まり、一般客は予約がとれないほどだったらしい。

この本、構成が整ってなくて、好き勝手に話したいところから話してる感じ。あまりよくまとまっていない。「山の上ホテル物語」というタイトルから、てっきりエッセイ集のようなものかと思っていた。違ってた。従業員、支配人たちによる「ホテル屋」吉田俊男伝とでもいうべき一冊だった。

2023年5月15日月曜日

Perfume「音楽と人 2016年5月号」

Perfumeが表紙の「音楽と人 2016年5月号」が新品状態でそこに110円で売られていたので連れ帰った。まだ寒かったころ。

COSMIC EXPLORERのアルバムとツアーのときのイシュー。これはたぶん発売時に買ったものが部屋のどこかにある。当時も思ったことだが、この表紙の3人が美しい。美しすぎる。
このポートレートとインタビューページ写真はGAMEジャケットを撮影したアミタマリ氏によるもの。
インタビュアーは金光裕史氏。スタイリストは三田真一氏。Perfumeオタにはおなじみの面々。

驚いたことが、COSMIC EXPLORERから7年経ってしまっていたこと。もうそんな経つのか。自分はこのときのツアー幕張が実質Perfumeのツアーに参加した最後。
自分は今もPerfumeが好きではあるけど、もうライブコンサートは2018年ごろをもって卒業。
巻頭見開きで金光氏がCOSMIC EXPLORERへ献辞。「ずっとPerfumeとして居ることを、3人で夢を見続けていくことを、はっきり決意したような気がする。」「サウンドは、海外での公演やステージ上のエフェクトを決意した部分が楽曲に表れ、歌詞はストーリー的なものが少なくなり、より、リズムやノリを重視した部分が強くなってきた。」と書いている。

あと、今作からアートディレクションに吉田ユニ氏が参加。これまでのチームPerfumeとは違うアプローチ。

3人個別にインタビュー、まずはのっち。要約すると、
  • 昨年のツアーで過去を完全に吹っ切ったきがする。広島で彼氏募集中をやって、やっと成仏で来た(笑)。
  • そして、私たちにはまだ未来があったんだ!って思った。
  • 今、27歳の私はここにいるけど、小さいときの私は、若いお母さんになって、子どもの授業参観に行きたかったよな、って。
  • 今から頑張って婚活しても、たぶん授業参観に行く私は若いお母さんじゃない(笑)。そういう人生の選択肢はもうないんだなって思ったら、凄く寂しくなったんです。でもその選択肢がない分、またいろんな選択肢が増えたんだなって、今は思っていて。
  • 最近よく品を保つことが大事だな、と思う。私たちは結果的に品を大事にしてきたし、今それがPerfumeらしさになってる気がする
  • グラビアやったり、朝ドラやおはスタとかいろんなオーディション受けて、全部落ちて、でも、私たちがなりたいアイドルはこうじゃないなって思ったんですよ。落ちたくせに(笑)。そうやっていくうちに、私たちがアイドルとしてやりたいのはこれだな、この道が合ってるんだなって、見えてきたんです。だから一貫して、品を保つことが出来たというか。
  • 今回のアルバム、Baby Faceは衝撃でした。あの年下の男の子、ちょっと可愛くない?みたいな、年上目線の歌詞(笑)。
つぎにかしゆか。かしゆかのポートレートがミストレスを感じさせる。まるで貴婦人の肖像画。
  • すごく自由になってきてる。これまでずっと不安が先に立って、守りに向かうことが多かった。ライブはこうでなくちゃいけないとか、無意識に決まった型があった。でも、ここ1年くらいはどんどん型から外れて来た。もっと自由に楽しいことをと思えるようになった。
  • 2回目のドームを終えたとき、なんて楽しいんだ、なんて幸せなんだ!と思えた。
  • 以前はライブを楽しめていなかった。ライブでよく泣いていたけど、あの頃の涙は感動や喜びというより、緊張から解放された安堵感からきていた。
  • 今一番やってみたいこと?育ててる植物を大きくしたい(笑)
  • 1月から2月のお休みに免許を取った。車庫入れが出来なくてキャーキャー騒いで、通りがかった大学生に助けを求めた(笑)
  • ネガティ部を卒業してポジティ部に入った(笑)
最後にあ~ちゃん。
  • ここ2,3年は昨年のアニバーサリーライブが目標だったから、あれが終わったらぽっかり胸に穴が開いて抜け殻状態になると思ってた。それが逆にいろんなアイデアが浮かんできた。早くそれを試したかった。
  • 昔の曲を今やるとダサイんじゃないか?クオリティ的に今の曲と並べるのはどうなんだ?と思ったけど、イメージなんてどうだっていい。
  • Perfumeの3人はわかり合える感が半端ないから、逆にある程度距離感を保ってる。Perfumeは絶対的なもので、人間関係で解散することはない。事務所が倒産したとか(笑)、それぐらいのことがない限りは
  • (以前は変わっていくこと、結婚を含めて人生設計から外れていくことに戸惑ってる様子が見られたけど?)それは女の子なら誰しもあること。普通に仕事してる人もどこかで夢を諦めたり、いろんな選択をしている。今はいろんな人の夢を背負ってる。その期待に応えたい。
  • 以前は、自信がないという事すら恥ずかしいと思ってた。ここ2,3年はそれが言えるようになった。ストイックになりすぎてた。
そして3人での対談。これから始まるツアーへの期待と抱負。初めて訪れる場所の話になって、あ~ちゃん父は和歌山出身であることが判明。
この一冊もオタは必ず本棚に所持してないといけないものだと感じた。

最後に古参オタ掟ポルシェ氏からのCOSMIC EXPLORERの印象とこれからへの提言。
「30過ぎても子供であり続けるっていうのは、世界サイズで見たとき、日本人の特性に合っている表現の形」「Perfumeっていうアイコンから外れないでほしい」「ギターウルフを見習え!」