2023年5月12日金曜日

金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲(2002)

金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲(2002)という本が角川文庫(2012)にあるので読む。横溝正史生誕100年を記念した、9人の作家による金田一耕助アンソロジー本。

自分はあまりこの手の本、いろんな作家による本というやつをあまり読んだことがない。これはBO110円選書に出かけてたまたま目についたので連れ帰った。わりとキレイな文庫初版。

赤川次郎、有栖川有栖、小川勝己、北森鴻、京極夏彦、栗本薫、柴田よしき、菅浩江、服部まゆみ、この9人による金田一短編。
栗本薫とかもうだいぶ昔に故人になったという印象。10年前の本だとそうなるか。
では収録順に読んでいく。

京極夏彦「無題」
夏の暑さと鬱病で出版社の帰りに道端でうずくまっていると、心配した初老の紳士から話しかけられて…という短編。
この紳士ってももしや…と思ってたら、その通りだった。京極夏彦作品に出てくる関口くんと、横溝正史せんせいがしそうな探偵小説をめぐる会話。

有栖川有栖「キンダイチ先生の推理」
推理小説大好き少年の金田耕一くんと、同じ町内の安アパートに住むあまり売れない30代半ばの推理作家錦田一せんせい。同じ町内で起こった男性歌手が自宅で撲殺された事件を話し合う。
金田少年が被害者を事前に電話ボックスで目撃。そのことと先生が岡山真備町の横溝正史疎開先を取材してきた耕助石との絡め方が面白い。

小川勝己「愛の遠近法的倒錯」
この作家を読むのは初めてなのだが驚いた。読んでる最中はほぼ横溝正史のまだ読んだことのない短編を読んでる感覚だった。たぶん近未来にAIに「横溝正史風な作品を」と依頼したらこんな短編ができてくるんじゃないかという短編。横溝正史短編集に混じっていても他の作家の作品だとはまるで気づかないかもしれない。
昭和初期、岡山の村で二大勢力の旧家同士の反目。そして戦争という悲劇。連続殺人。書簡による犯人からの告白。

北村鴻「ナマ猫邸事件」
東京上野にある「ナマ猫教」教祖宅兼教会で、教祖が首なし死体となって発見された事件。犯行当日の朝に新聞配達少年が教会前で「教祖様、おりんでございます。おりんが帰って参りました」と呟く老婆の姿を目撃していた!w
登場人物たちが横溝作品を愛するオタというメタ構造コメディータッチ。
首なし死体事件のひとつの新しいパターン。その動機に驚いた。

栗本薫「月光座 金田一耕助へのオマージュ」
これは「幽霊座」という作品を読んでない人は何がなんだかわからないかもしれない。読んだことのある自分もあまり細かいことは覚えておらず困惑した。あの事件から50年が経った現場に再び90歳近い金田一が現れて、しかも「鯉つかみ」が上演され、またしても失踪事件。そして栗本薫が創出した名探偵伊集院大介も登場。
これは正直、自分としてはあんまり評価できなかった。

柴田よしき「鳥辺野の午後」
新緑の京都、白いシャツにジーンズ姿の殺人専門の私立探偵だという50代の男性が石段に座ってる。「犯人を教えてもらいたい事件がある」と作家の女性が自身の過去を語り始める。
大学時代からいっしょの女ふたりの相克。決闘、そして死。金田一さんの人間観察と洞察力。なかなか味わいのある佳作短編。

菅浩江「雪花 散り花」
廃屋のような京町家で探偵事務所を開業した韓国からの留学生金さん、パソコンでつながってる田さん、そして一(にのまえ)に持ち込まれた最初の事件。祇園のクラブに勤める女からの相談。漬物屋の大店の会長がマンションを買ってくれると約束したのに頭金を持って来るはずが来ないまま自殺?
これもあんまり自分には合ってない作風だった。

服部まゆみ「松竹梅」
風邪を引いた金田一さんは住まいから徒歩5分の荏原病院へ。ここの入り婿院長(30代)が愛人作ってもめてる?
チケットをもらった金田一さんは等々力元警部と新橋演舞場へ。観劇中に起こった殺人。
これもほぼそのまま横溝正史作短編として掲載してもわからないほど横溝な短編。横溝正史は芝居とか歌舞伎とか好きだけど、自分はまったく慣れ親しんでない世界でイメージがつかめず多少は読みにくさを感じた。

赤川次郎「闇夜にカラスが散歩する」
夜汽車に乗ってた青年が巻き込まれたクライムサスペンス。「俺は金田一耕助の息子だ」という人物が2人も登場。登場人物全員が正体不明。白黒時代のヒッチコック映画のような展開。

自分が好きだったのは有栖川有栖と小川勝己の2作。次点は柴田よしき。

0 件のコメント:

コメントを投稿