2023年5月10日水曜日

モーム「月と六ペンス」(1919)

モーム「月と六ペンス」(1919)を読む。昭和34年の中野好夫訳新潮文庫で読む。
自分、今までウィリアム・サマセット・モーム(William Somerset Maugham 1874-1965)がいつの時代の人でどこの国の人かも知らなかった。パリ生まれの英国人作家だった。

で、この「月と六ペンス」が有名作で代表作であろうと手に取った。たぶんこれよりも新しい訳もあるに違いないが、たまたま手に取ったのがこの版。
画家ポール・ゴーギャンの伝記に暗示を受けて、モームがチャールズ・ストリックランドという画家を創出、主人公にした小説。
これは発表されるや英米でベストセラーになったらしい。「月と六ペンス」の「月」とは人間を狂気へと導く芸術的創造の情熱、「六ペンス」はくだらない世俗的因習を意味してるらしい。

シティの株式仲買人ストリックランドは17年連れ添った妻子を突然棄ててパリへ出奔。若い作家の「僕」は夫人にお願いされパリのストリックランド氏を探し訪ねると、安ホテルでひとり暮らし。
話を聴きだすと、「妻はもう愛してない」「子どもはもう可愛くない」「画家になりたい」。

「妻子が乞食になってしまうのでは?」「今まで楽させた」、「それ、酷くね?」「まあそうだな」、「扶養する義務は?」「金はない。石を絞っても血はでない」、「恥ずかしくないの?」「恥ずかしくないねぇ」非難しても暖簾に腕押し。
開き直ってるのか?話にならない。こういうトラブルの間に入ってもいいことない。

いきなり画家になろうとしてもなれるものでもない。生活に困窮。病気で瀕死という状態を見かねた貧しく優しい三流オランダ人画家が、妻が猛反対するのに、自室アトリエで看病。

妻が看病して元気になった。だが、ストリックランドは住む場所を提供してくれたストルーヴを絵を描くのに邪魔だと追い出し、ストルーヴが愛する妻をも奪う。奪う?いや、この妻が勝手にストリックランドを好きになってしまい、勝手について出ていく。なにしてんの?

さらに、この妻が自殺。ストルーヴが憐れ。
で、ストリックランドは浮浪しタヒチへ。現地妻も持つ。子どももできる。
傲岸不遜、傍若無人、嫌われストリックランドだったのだが、タヒチの現地人と交じって生活すると、変わり者だけど「そういう人」として受け入れられ馴染む。
だが、ストリックランドに恐ろしい不治の病。

モームの文体がいかにも英米文学らしいのだが、意外に平易で読みやすい通俗的小説。自分は1日で読んでしまった。

この小説は有名なので読んでみたのだが、結論として、誰もが一度は読まないといけない名作だと感じた。
天才芸術家に社会の常識とか期待してもしょうがない。話し合おうにも話がかみあわない。人を人と思ってない。社会的に無能力で無責任。もしかしてゴーギャンもこんな感じの人?

死の間際に書き上げた壁画を目の当たりにした医者の感想
「それは人間として知ることを許されない、ある神聖な秘密を知ってしまった人間の作品であった。なにか原始的な、そして恐怖に充ちたものがあった。もはや人間のものではなかった。」
が、そのままゴーギャンの「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」を見たときの感想のように感じた。

0 件のコメント:

コメントを投稿