2023年5月3日水曜日

泡坂妻夫「迷蝶の島」(1980)

泡坂妻夫「迷蝶の島」を読む。1980年に文藝春秋社から刊行、1987年に文春文庫化されていらい長く絶版で、2018年に河出文庫から復刻された。
自分が今回手に入れたものは2018年河出文庫版。110円でキレイな状態のものを見つけたので連れ帰った。

八丈島に向かう漁船が救難信号をキャッチ。波間を漂う救命ボートから30前後の女性を救助。衰弱しているものの命に別状はない。収容し海上保安庁のヘリに引き渡しほっと一安心。だが女性は出血していた…。

山菅達夫は東京の大学に通う経済学部2年生。家業の食品販売チェーンが成長し兄が家業を継いで不自由のない裕福な家庭。文学部志望だったのだが家族の反対で経済学部を選択。その代わりに自分のクルーザーヨットを買ってもらった。で、マリーナから出航。
だが洋上であわや衝突事故。目の前をかすめていったヨットには二人の女性。指のキレイさが忘れられない。

マリーナの街の書店で本を取ろうとしたら同じ本に伸びた手が洋上で見た手だった。二人の女性と再会。達夫は恋。
本にメッセージを挟んで渡したのだが、ここで名前の読みで些細な誤解と行き違い。指がキレイで可憐な大学生モモコ(大病院の令嬢)に伝えたつもりが、逞しい年増女の桃季子に渡ってしまった。

モモコ所有のクルーザーに呼び出されたひ弱文学青年は間違いだったと伝えられず、強引な桃季子に押し倒されて関係を持ってしまう。好きなのはモモコなのに。
で、この桃季子(離婚歴のある32歳)がストーカー化。実家に電話してきた。関係の継続を迫る。

だが男はモモコとイイ感じ。もともと初対面から相思相愛。すぐに結ばれ家族ぐるみの付き合い。一緒にハワイにも行った。
だが、桃季子はそんな男を許せない。妊娠したことで男を脅す。男はもう桃季子を周到な計画で殺す決意。モモコが服用してる睡眠薬をもらい受け、桃季子を八丈島へのクルージングへと誘う。

男が自分を殺害する気でいることを悟った女は、強く男を恨む。そして逆に殺してやると強く決意。洋上で男と女が対決。双方で心理バトル。

無人島にたどりついた男は生死をさ迷う。正気を保つためにノートに日記を書く。
その後、気象観測のために無人島に立ち寄った船が、島の松の木に逆さづりになって激しく腐乱し頭部が落ちた男性の遺体を発見する。歯並びや所持品から遺体の身元は大学生山菅達夫だと判明。

遺品ノートにそうなる直前までの告白が書き込まれていた。だが、ノート終盤になると事実関係と異なる矛盾する記述が出てくる。島に桃季子が現れ、体を交え、殺し殺されという展開。これは幻覚?
だがそのころ桃季子は遭難漂流し病院に収容されていた。生霊となって男を呪い殺したとでもいうのか?

男のノートと女の証言の矛盾。そして、桃季子も自室で睡眠薬を大量に摂取し死亡してるのを発見される…。

これ、読んでる途中も面白い。ラストの女の告白手記で真相が明かされると、「ぐげぇ…」とため息が出た。えぐい。
男と女の相克。大学2年生の20歳が女と出逢ってしまったことで起こった恐ろしい顛末。
トリック自体は「え、そんなこと?」って感じるかもだが、「太陽がいっぱい」のようなヨットクルーズサスペンス。
なぜこれがもっと有名になっていない?もっと広く読まれていい傑作。40年前の作品なのに色あせていない。強くオススメする。

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