2023年5月21日日曜日

ハインライン「栄光の星のもとに」(1951)

ロバート・A・ハインライン「栄光の星のもとに」(1951)を鎌田三平訳1994年東京創元文庫版で読む。この文庫が「待望の完訳版長編登場!」と銘打ってある。この作品は「BETWEEN PLANETS」という原題。地球のニューメキシコにある寄宿学校に通う少年ドン・ハーベイを主人公とするジュブナイルSFらしい。

金星植民地と地球連邦が対立し戦争間近という状況。ドンの両親は息子を中立の火星へ避難させようと宇宙船の搭乗券を用意するのだが、宇宙ステーションで金星軍部隊に制圧接収され、強引な軍隊によって金星に連れていかれる。

ハインラインの少年が主人公のSF小説は見知らぬ土地で酷い目に遭うものが多い。それがアメリカ人の開拓民スピリッツ。地球連邦のお金が紙切れで両親に「電報」すら打つことができない。

1950年代のSFは素朴というか、スマホのような個人端末の登場は誰も予見できていない。ロボットタクシーは存在しても支払いは小銭。
ロケットに登場するための保安検査場で係員からカメラを持っていないか注意されるのだが、その理由がフィルムがX線に感光するから。今の若者はもう20年ちょっと前まで空港でそんな注意書きがあったことすらも知らない。
そして、窓口係員がみんな横柄。子ども相手に治安警察の刑事みたいなやつが乱暴。

少年が戦争に巻き込まれる。ハインラインの考えるアメリカの青少年のあるべき姿が描かれる。愛国心を尊いもののように描いていて当然のように兵士になろうとするドン・ハーベイはアメリカ軍国主義的理想。

金星ってたぶん人類が住むことは不可能に思えるのだが、1951年の知識では致し方ない。ドラゴンとよばれる金星人がいるとか、やはり子ども向けか。

アメリカ人少年たちにとって軍人は身近な存在かもしれないが、日本においては稀。軍隊は子どもたちからほど遠いので、この小説が今の子どもたちに読まれ受け入れられるかはわからない。ガンダムとか見てる子なら楽しく読めるかもしれない。
この作品は日本では1957年に講談社より「宇宙戦争」のタイトルで抄訳版が出てたそうだ。表紙イラストは小松崎茂で当時の少年たちの心を躍らせるものがあったらしい。

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