2022年11月30日水曜日

樋口有介「風の日にララバイ」(1990)

樋口有介「風の日にララバイ」を1997年ハルキ文庫で読む。初出は1990年10月徳間書店から刊行。
1990年は樋口有介が「風少女」「彼女はたぶん魔法を使う」「八月の舟」と立て続けに4冊発表した年。

この角川春樹事務所ハルキ文庫版の「今月の新刊」帯にはこう書いてある。
知りたくない真実と、知って欲しい恋心。佐原旬介39歳、無職、子連れのバツイチ、探偵の相棒はポニーテールの女子大生。宝石店店長の別れた女房が殺されて、真相の解明にのりだしたけれど…。
だいたい合ってるけど、「相棒のポニーテールは女子大生」という箇所は盛ってる。この女子大生はほんの脇役であまり出番も活躍もない。
そうでも書かないと何も売りになるものがない。(たぶんこの本はあまり売れてない。)

90年4月に発表された「彼女はたぶん魔法を使う」の柚木草平シリーズとほぼ質感が同じ。年齢もほぼ同じ。たぶん筆者と同じ。ハードボイルド質感の文章と、ときに人を食う洒脱会話。かっこつけてる感じ。
だが、柚木ほど佐原はお金に困っていない。もともと大学に在籍して本を書いたり発明の図面を書いたりしてた。離婚した資産家妻との間の15歳娘(美少女)と暮らし、お手伝いさんもやってくる。

別れて5年まったく会ってない妻は5年の間に経営する宝石店が急成長。たぶんそのことで殺されたに違いない。アマチュアバイト探偵として事件を調査していくうちに見えてきた闇。
今回も美女たちが登場し、樋口有介ならではの会話劇。だんだんと真相が明らかになっていく。ほぼ松本清張の徹底リアルな社会派ミステリードラマ。

ミステリーというのはあまり正確ではない。ほぼ三面記事にあるような事件がだんだん明らかになっていく顛末。読んでる間「あんまり面白くないな」と思ってた。最後まで読み通してもそれほど驚くこともなかった。

樋口有介という作家はほぼ30年の間、ほとんど作風が変化しなかった。この「風の日にララバイ」と柚木草平シリーズはどれを読んでもほぼワンパターン。だからこその安定感と安心感。それはそれで好きでつい読んでしまうというファンが多かったんだろう。
これをもって作者追悼読書に一区切り。

2022年11月29日火曜日

樋口有介「彼女はたぶん魔法を使う」(1990)

樋口有介「彼女はたぶん魔法を使う」を1990年の講談社単行本で読む。
カバー折り返しに著者の写真が掲載してあった。樋口有介ってこんな顔してたんだ。とは言っても30年前なので40ごろの顔写真。

これが元刑事で妻子と別居中のフリーライター探偵柚木草平シリーズの第一作。この人は初登場から30年ずっと38歳のままだった。

1990年の作品なので随所に80年代が見える。時代は電電公社からNTTになったころ。ケータイもない。パソコンで写真やデータをメールに添付してやり取りすることもない。そういう時代。

とある女子大生のひき逃げ死亡事故が、偶発的事故だったのか?それとも殺人か?を調査を始めると関係者が殺されて…という2時間ミステリードラマと言った感じ。
事件とその真相としては内容そこそこ。少しずつ真相が見えてくる多少の驚きはある。

今まで読んだものはすべて2000年以降の東京創元社刊だった。今回初めて1990年講談社版で読んだのだが、冗談やたとえ話が一時代二時代前で古くさい。でも、そのほうがかえって80年代を感じやすいかもしれない。

事件を調べる探偵(元刑事ライター)柚木草平と、なぜか20代美女ばかりの関係者との軽妙かつハードボイルドな会話。そこがこの作家の個性。
登場する美女たちが自分的には「きまぐれオレンジロード」のキャラとタッチで脳内イメージ。

自分、樋口有介の読み方がわかってきた。柚木の部屋での洗濯実況、料理実況、娘との会話実況などは華麗にスルーすれば、ゆっくり読んでも3時間で読み終わる。こういうのでいいんだよ的なライトでヤングな社会派ミステリー。対象年齢を若者にした松本清張。

魔法を使うのは誰なのか?と考えてしまいそうだが、樋口有介の場合、内容とタイトルがまるで関係ない。なので読み終わった後にタイトルから内容を思い出そうとしてもまるで思い出せない。

2022年11月28日月曜日

樋口有介「八月の舟」(1990)

樋口有介「八月の舟」(1990 文芸春秋社)を読む。このころの樋口有介は「ぼくと、ぼくらの夏」「風少女」というミステリー小説と、この「八月の舟」の文芸路線。この表紙と装丁はどう見ても文芸書。

樋口有介は群馬県前橋市出身の団塊の世代作家。窓の外の風景を眺めてぼんやりしていた少年時代を回想するような内容。なので1960年代後半。未成年があたりまえのようにタバコと酒。そういう時代。
母親「あたしは家に帰ってプロレスを見る。今夜はジャイアント馬場が出るからね」昔はテレビのプロレス中継は今と比べられないほど人気の娯楽。そういう時代。

これがもうアメリカ文学、とくにハードボイルド作品を読んでいた人の文体と会話センス。ある意味もうひとりの村上春樹。
「今怪我して入院しています」
「そうでしたか」
「石に躓いて転びました」
「元気が良すぎるんでしょうな。」
こういう会話を日本人はしない。日本人の会話は英米人にとっては「?」なように、英米人の会話をそのまま訳しても日本人は笑ってしまうようなスカした会話。
「俺、学校をやめようと思うんだ」
「真面目な話でか?」
「真面目な話でさ」
「いつ真面目になったんだ?」
自分、高校時代にこんな会話してない。今もしたことない。こういう会話をしてみたかった。
「葉山くんって、変わってるって言われない?」
「言われないさ」
「でもわたし、変わってると思うわ」
「誰の小説?」
「サリンジャー」
「面白いの?」
「葉山くんのほうがずっと面白いわよ」
こういう会話を女の子と教室でしてみたかった。
「ぼくのシャツとか、ズボンとかは?」
「洗って干してある」
「どうして?」
「どうして?覚えていないの?」
「覚えていない」
「よかったわね。都合の悪いこと、みんな忘れられる性格で」
こういう会話を遊びとして、ごっことして演じられるバーとかないのか?

2022年11月27日日曜日

本田翼「君の花になる」(2022)

本田翼の2022年地上波民放連ドラ主演作はTBS「君の花になる」だけ。TBSのドラマは2017年「わにとかげぎす」以来久しぶり。
本田翼演じるヒロインは仲町あす花は高校教師を挫折して退職。姉の移動販売を手伝ったりしてるうちに、なぜかボーイズグループ「8LOOM」が共同生活する寮の寮母になる。というドラマ。
これが企画を読んだ瞬間から「あ、ダメだな」と思った。
若い男たちの中に30歳ばっさー紅一点という状況。視聴者はアイドルグループ役男性を見るために見るだろう。そうなると本田翼が邪魔だろう。

で、初回放送中から世間がザワつきはじめる。思いもよらなかった方向から。なんと「本田翼の演技が下手すぎる!」というもの。ハッシュタグまでつけられ、延々と12時間以上トレンド入り。それは予測できなかったわ。
もともと本田翼は喋り方がヘンだが、むしろギクシャク演技が魅力。かつて「アオハライド」の三木監督から「いい意味で落ち着きがなかった」と言わしめるほど。

自分は本田翼をヘンテコ挙動不審女を演じさせたら第一人者だと思っていた。このドラマでも社会で居場所を失いつつあった女性を適切に演じている。これを「演技が下手」と一刀両断する人は見る目がなさすぎる。
本田翼のポニーテール&エプロン姿はこの国の至宝。色白でスタイルが良い。

だがやっぱり脚本と演出が、見てて恥ずかしくなる主要な原因。
屋上で洗濯ものを干すシーンはこういったドラマや映画のベタシーン。え、ばっさーが十代の男子たちの下着とかも洗うの?!そもそも、性欲がいちばん強い時期の男の子たちしかいない現場に若くかわいい女を1人で置くという状況はありえない。

それに苦労の末になれた高校教師を簡単に棄てるな!挫折ったっていっても辞めるな。
芸能界サクセスストーリードラマって難しいと思う。簡単に成功すれば絵空事だし、現実を描くと爽快感がなくなる。このドラマに出演してる内田有紀さんはかつて自身が主演した「翼をください」を思い出してるかもしれない。
このドラマのために本田は多くの番宣番組に出演した。どれもかわいい。
かわいい。だから初回から「演技下手」と炎上。ほとんどが根拠のない嫉妬とやっかみ。
圧倒的にかわいい。

2022年11月26日土曜日

集英社新書「消えたイングランド王国」(2015)

集英社新書0814「消えたイングランド王国」桜井俊彰(2015)を読む。英国史を理解するためにこの手の本をじゃんじゃん読む。

1066年のヘイスティングズの戦い以後、イングランドはほぼフランス人(それも元をたどるとバイキング)であるノルマン朝となる。現在のイギリス王家の人々まで連綿と血がつながっていく。
だがそれ以前、11世紀、10世紀以前のこととなると日本人のほとんどは馴染みがない。高校世界史ではヘプターキー(七王国)時代はせいぜい2行とか3行ぐらいしか書かれてなかった。

たぶんアルフレッド大王の名前は知ってても、エゼルレッド無策王とかクヌートとか、ゴドウィン、ハロルド庶子王、エドワード聖証王(証聖王?)とか、よほどイングランド王国史に関心のある人しか名前すらも知らないかと思う。自分もつい最近まで知らなかった。(ちなみにアーサー王はケルトの伝説上の王。)

10世紀以前のイングランド、エセックス、サセックス、ウェセックス、ケント、マーシア、イーストアングリア、ノーサンブリアの七王国の名前をすべて挙げられるのはよほど優秀な生徒。たぶんこのころのイングランドは日本で言ったら卑弥呼とその後の倭国大乱みたいなものか?国内でそれぞれが争ってる。
だがやがて、デーン人(バイキング)たちが船団組んで収奪にやってくる。イングランドは戦闘能力に長けたデーン人の草刈り場となる。収奪され街は焼かれ、さらに銀貨を収めないと帰ってくれない。
金を払うしかなく戦わず逃げるようなウェセックスの王からは臣下と国民の心が離れていく。無思慮王とか無策王と後世の歴史家から蔑まれた。

だが、イングランドにも勇猛果敢な騎士はいた。モルドンの戦いにおけるビュルフトノース、イーストアングリアのウルフケテル・スニリング、このふたりを自分はこの本を読むまでまったく知らなかった。この武人についてSNSで触れているひとはこの本を読んだ人だけっぽい。

そして無策王と非難されたダメ王の子とは思えないエドモンド剛勇王もデーン人に対して善戦。
だが、イングランド王にはクヌート以後、ハロルド庶子王、ハルタクヌートと三代デーン人が続く。その間にウェセックス伯ゴドウィンの台頭。

ノルマンディーに亡命していたエドワード聖証王が帰国。この王がノルマン人を重用したのでアングロサクソン人たちから不人気。やがて内乱。
王はずっと表舞台から隠遁。子をなさず、なぜかノルマンディー公国のギョーム(ウィリアム)を後継王に指名。
これ、以前から納得できなかった歴史トピック。ウェストミンスターで戴冠したハロルドを、ウィリアムは外交で包囲。カンタベリー大司教自体が正統でないからハロルド戴冠は無効というロジックでローマ法王の言質を得る。さらに神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世の支持も得る。そういうことだったのか。

サンヴァレリ湾から700隻の船団でやって来たウィリアム軍は、ハロルドの軍勢がいないこと幸いにヘイスティングズに陣地を形成。
ヨーク・スタンフォードブリッジでハーラルのノルウェー軍を破った後にハロルドは南下。これが秀吉の「中国大返し」よりも速い?!この時代のイングランドに騎兵はいない?!
ハロルド軍はセンラックヒルという丘に陣地。密集陣形で敵を迎える。これがまる1日かかった戦いだったのだが、最後の最後で敵の矢がハロルドの眼に刺さる不運。ノルマン軍の勝利。

その後、たして抵抗もしないままイングランドはノルマン人に支配される。すでに三代に渡ってデーン人の王に支配されてて、王が外国人でもかまわなくなってた?!
さらにエドワード証聖王の甥エドガーの数奇な生涯を紹介してこの本は終わる。巻末に古英語で書かれた「モルドンの戦い」の詩訳を掲載。

結論から言ってこの本は大変に面白く有益だった。著者は「歴史家」ということだが、その語り口が中学生高校生に語りかけるように優しくわかりやすい。まるでジュニア新書を読んでるかのよう。
いままでこの時代のイングランド国王は活字と記号でしかなかった。どんな王様だったのか?この本を読んだことで初めて活き活きとイメージできるようになった。強くオススメする一冊。

2022年11月25日金曜日

賀喜遥香「最初はパー」(2022)

10月28日からテレ朝「金曜ナイトドラマ」枠で放送中の「最初はパー」賀喜遥香がレギュラー出演してるのでチェックしてる。
主演はジェシー(SixTONES)。企画原作脚本は秋元康。総合監修は佐久間宣行。たぶん、お笑い芸人を目指す人々の群像ドラマ。
賀喜遥香さんの役は雨宮すみれ。美人ばかりのアイドルグループにいるよりもピン芸人で目立ちたい。初回から乃木坂をメタ視点でツッコむ小籔千豊にキレまくる表情がいい。
いきなり水をぶっかけられて一言。韓国語でまくしたてる韓国ドラマあるあるキャラが新鮮。
小藪さんはかつて日向坂冠番組MCをやってて、お笑い入門者にガチのお笑いノウハウを伝授していた。たぶん秋元はそれをみて着想を得たに違いない。
お笑い芸人を目指す生徒をいちいち完全否定。賀喜さんの怒った顔が毎回見れることがこのドラマの魅力。
紅一点のかわい子ちゃんキャラ。(正確には紅一点ではないのだが)
賀喜遥香さんは坂道アイドルオタの間ではすでにスター。しかし世間一般人にはまだまだ浸透してるとは言い難い。こういった深夜の小さなドラマからコツコツとヒットを重ねて行くのが若手女優の進む道。
自分の見たところ賀喜さんには女の嫌な部分がまったくない。誰からも好かれるタイプ。次世代の有村架純を目指せる逸材だと思う。今後も応援する。

PS. ちなみにこのドラマの主人公の父は有力政治家という設定。豪邸実家のロケ地が見てきたばかりの入間市旧石川組製糸西洋館だった。

2022年11月24日木曜日

柊サナカ「谷中レトロカメラ店の謎日和」(2015)

柊サナカ「谷中レトロカメラ店の謎日和」(2015)宝島社文庫を読む。
これは春ごろにワクチン3回目接種に出かけた先でBOに立ち寄って本棚眺めてつい買ってしまったもの。110円。

この本は1話完結短編7本から成っている。
第1章、ヒロイン24歳来夏(らいか)は父が死んでひとり。現在無職。カメラ大好き父の遺品を遺言に従って、谷中にある今宮写真機店さんに引き取ってもらうことになる。
で、家にやって来た青年が愛想がないと思いきや、カメラのこととなると知識が豊富で話がはずむ。

父の遺品にダイヤルロックの鍵がついた箱がある。父によれば「今宮さんならわかる」とのこと。出張買取にやって来た今宮(息子)に相談してみたら、あっという間に正しい鍵番号で開錠。中からでてきたものは…。
そして、思い切ってバイトに雇ってくれないかとお願い。今宮は工房、来夏は店番という日々が始まる。

あとはどれもフィルムカメラが仲介する客との日常系ミステリー人情噺ドラマ。正直どれも内容はそこそこ。
最終第7章はヒロインの過去について明かされるので他と雰囲気が違う。
ミステリーを読みたいというよりもフィルムカメラについて誰かと話がしてみたい…というような理由でこれを選んで読んだ。

自分、昔は赤羽、新宿、中野、各地の中古カメラ屋さんのウィンドーを眺めてばかりいた時期がある。最新のカメラでなく古いカメラばかり。
古いカメラに関する本やムック本なんかをよく読んでいた。昔の映画やドラマに出てくるようなクラシックカメラで写真撮ってる人なんて周囲にいなかった。「こんなカメラで写真撮ってる俺すげー」って自分に酔ってた。

そして金属製クラカメが10台ぐらい、プラカメが20台ぐらいになって置き場所がなくなって止めた。自然にフィルムカメラに興味がなくなったw 
でもたまに思い出したようにときどきカメラにフィルムを入れて持ち歩く。最近はフィルムが高くて困る。

2022年11月23日水曜日

日向坂46「飛行機雲ができる理由」ロケ地 旧石川組製糸西洋館

埼玉県入間市にある旧石川組製糸西洋館を見学してきた。月に何回か内部を見学できる公開日カレンダーを確認して友人と行ってきた。まるで夏のような日差しの10月下旬の日曜日。

正面玄関で検温しスリッパに履き替え、受付で入館料200円を払う。どこから来たのかアンケートを聴かれる。わりと県外から来てる人も多いみたいだった。
大正時代に建てられた製糸業大手石川組の迎賓館的な建物。立派な木造西洋館なので多くの映像作品なんかにも使われているらしい。
自分がここを知ったのは、日向坂46「飛行機雲ができる理由」MVが撮影されたから。
実はあんまりこのMVを見ていない状態でロケ地に行ってしまった。
なのでそれほど入念に場面ごとにピンポイントに押さえてこなかった。
坂道グループはどれも昭和レトロなビジュアル作品を撮りたがる。秋元と今野の趣味なのかもしれない。
ここは戦後、GHQに接収され米国人将校3家族が一緒に住んでいたらしい。バルコニーがあったのだがキッチンに改築されたらしい。建設当時はシャンデリアがあったりしたらしい。
瓦屋根の別館とつながっている。自分は「そこに怪人二十面相がいたら似合うな」などと想っていた。なぜか細くて長い煙突もある。
滞在30分ほどでもうすることもなくなったので、近くにあるラーメン屋に立ち寄った。わりと混んでた。

2022年11月22日火曜日

東川篤哉「館島」(2005)

東川篤哉「館島」(2005)を創元推理文庫(2011年第8刷)で読む。これは友人とBOに立ち寄ったときに友人が買ったもの。わりと本棚でよく見かける本。110円。友人よりも先に自分が読んでしまった。
この作家の本を読んだのは初めて。てっきり「ひがしかわあつや」かと思っていたら「とくや」と読むらしい。

町工場から一代で成り上がった天才建築家で建設会社社長・十文字和臣氏は、瀬戸内海の孤島に建てられたドーム型展望台屋上を頂く六角形で4階建て、真ん中円筒部に巨大螺旋階段、各階に台形型の6部屋があるという異形の別荘1階踊り場で変死体となって発見される。
死因は階段から落ちたというような傷でなく、3階以上から墜落したような脳挫傷が致命傷。だが、墜落現場が見当たらない。島に3階以上の建物もない。

1980年代が舞台。まだ本四連絡橋はない。事件から半年以上経った8月のお盆、康子未亡人は同じ別荘に当時の関係者とは他に、岡山市の美人探偵・小早川沙樹と、岡山県警捜査一課の若手刑事・相馬隆行(主人公)を招待する。このふたりが事件の探偵役?
島を巡回するフェリーで島に着いた時から最悪な出会い。
ふたりが議論(ときに喧嘩)しながら事件を解くというミステリー小説。しかも「館」と「島」という、「新本格」の王道な要素。

亡き夫の跡を継いで県会議員になった妻・野々村淑江、その美しい19歳娘奈々江には亡き十文字氏と県議の間で交わされた息子たちのいずれかとの結婚の約束があった。奈々江をめぐって兄弟たちは相争っている。

朝食の時間だが長男と三男の姿が見えない。屋上展望室内側からかんぬきが掛かった密室状態だったのだが、部屋の中から三男(現妻康子との子)がかんぬきを抜いて出現。そして、展望室で長男(前妻との子)が死体となって発見。三男「これは罠だ!奈々江との逢引きをエサに手紙でおびき出され睡眠薬入りワインで眠らされていた!」

そして台風で県警が来れないという状況。これも本格推理物の常道。たまにふざけシーン。
だが、犯行時刻が真夜中で誰もアリバイがない。最重要容疑者となってしまった三郎を部屋に軟禁。
そして館を取材に来ていた建築雑誌記者が転落死。館の立つ土地と、本四連絡橋の橋脚を設置する土地の取引をめぐる黒い噂。

これ、5分の4ほど読むと犯人が判明するのだが、その後の展開は自分が苦手とするバカミスだった。刑事と探偵、そして美少女の3人のやりとりがずっと面白かったのだが、肝心のトリックが大ネタすぎて自分の好みと相いれない。
やはりこういうのは「それ」を映像で示してくれないとモヤモヤしたまま。それほど納得もできない。ちょっと失望。会話がずっと全員標準語なのはクドさがなくて良い。

これは映像作品にするのが大変だと思う。島田荘司「斜め屋敷の犯罪」と同じ理由で。それを実際に建てるしかない。

2022年11月21日月曜日

黒島結菜「クロサギ」(2022)

黒島結菜がヒロインを務める「クロサギ」が始まってる。黒島にとって朝ドラ後初の民放連ドラ。
このドラマって確か山Pと堀北真希でやってたはず。自分は見てなかったけど、最終回で赤羽岩淵水門がロケ地だったことで覚えてる。
黒島が朝ドラクランクアップしてクロサギクランクインしたインターバルが4日。その間に台本を覚えないといけないとか、俳優は大変だ。

黒島演じるヒロイン氷柱(つらら)は法学部の生真面目学生で検事志望。実家は行田の畳屋だが父は家業を継いでない。この父(船越英一郎)が定年退職しどうしようかと思っていたところで起業セミナー詐欺に引っかかる。
シロサギを喰うクロサギ黒崎とヒロインのファーストコンタクト。「アキハバラ駅、ドコデスカ?」そんなもんスマホあれば人に聞くまでもないだろう。
父親がだまし取られた金を逆にだまして取り返すぐらい問題ないだろ。このヒロインが父が詐欺師に加担するのは良くない!と必死。
ヒロインがいつもカリカリ怒ってるドラマはたいてい面白い。怒ってるヒロインはかわいい。そういえば堀北真希もそんなイメージ。天然世間知らずなのにいつも怒ってた。

このヒロインも法学部学生にしては世間をわかってない。詐欺被害は「警察に言うもん!」では解決しない。警察に相手にされなくて結菜困惑。
このドラマ、各回で様々なタイプの詐欺師が登場。ほぼウルトラ怪獣。そいつらを黒崎が食っていく。詐欺師が詐欺師を騙すのはコンフィデンスマンぽい。
黒島は顔がシュッとしてて眉が濃くて黒髪で華奢で美人。護りたい。
ヒロインの普段着ファッションが個性的でかわいい。

とりあえず第4話まで見た。今後も脚本がクオリティを保てばいい感じに進みそう。
番宣特番に出たときの黒島もかわいい。
やったぁ!という結菜がかわいい。

2022年11月20日日曜日

中公新書1547「物語 オーストラリアの歴史」(2000)

中公新書1547「物語 オーストラリアの歴史 多文化ミドルパワーの実験」竹田いさみ(2000)を読む。
近年、自分の中でオーストラリアの存在感が増している。たぶん日本にとっても重要度が増している。22年前とちょっと古い本だがここ20年ほどの歴史にはそれほど関心もないのでこれでよい。建国から20世紀あたりまでの通史を知りたくて読む。

オセアニア連盟からAFCに移動してやってきて以来、サッカー日本代表のアジア内での新たなライバルとして存在感が大幅UP。
以前は中国と蜜月だったのに、今では国民の大多数が中国を嫌っている。対中国という国是においても日本の新たなお友だち。
だが、日本人はどのぐらいオーストラリアを知っているのか?オーストラリアの州をすべて言えるか?首相の名前を知っているか?代表的企業名を知っているか?

まず冒頭でオーストラリアには独立記念日や建国記念日というものがないと知らされる。え、そうなの?!建国記念日的なオーストラリアデーは1月26日。1788年にアーサー・フィリップ提督がシドニー・コーブに上陸しイギリス国旗を掲揚した日を記念日としている。

この手の歴史本はたいてい先史時代に人類部族が定住するようになってから書き始めるのだが、この本ではまったく先住民アボリジニについてまったく触れていない。まったくアボリジニが見えていない。見てもいない。

オーストラリアは黒人問題に苦しむアメリカを反面教師として見て学んでいたので、アフリカ系を絶対に入れなかった。
中国人、インド人は廉価な労働力として入れざるを得なかったのだが、固まって暮らしたり街を歩かれるのが嫌だったらしい。移民ではなく契約労働者。とにかくアジア系を国内に入れることに慎重だし恐怖心すら抱いてた?
オーストラリアはつい近年まで白豪主義政策が国是だったわけなのだが、とにかく頑な。

日本人はサトウキビ農園や真珠貝採取などごく限られた場所にしか入れてない。地元民と接触してない。
中国人労働者がプアホワイト層と作業労働で仕事を奪い合うので規制が必要だが、日本人は優秀だから恐れた。そうこの本では何か所にも書かれてる。

この本、前3ぶんの1は移民政策について。歴史の本を読むつもりだったのだが、開拓時代エピソードなど皆無。タスマニア島でアボリジニに対して行った非道など一切皆無で肩透かし。

オーストラリア人の歴史知識を共有するべくこの本を読み始めたのだが、どうやらオーストラリア人は学校で英国史から学んでいるらしい。なにせアメリカのように独立戦争を戦ったりしていない。たぶん英国の海外植民地人としかアイデンティティがない。
1970年代にジョン・カー連邦総督(名誉職だと思われていた)が労働党ウィットラム首相を罷免したことがあったのだが、これにはオーストラリア人も「えっ?!」と驚いたらしい。オーストラリアは英国の慣習法と連邦憲法と2つの憲法が存在する?!オーストラリア人たちもそのへんは手探り感。

日本人は戦後までオーストラリア人を英国人だと思ってた?オーストラリアが連邦国家を形成したのは1901年。連邦政府の役割は移民、出入国管理、国防、電信郵便、灯台ぐらい。あとは6つの植民地政府と州がそれぞれ勝手にやってた。

オーストラリアは19世紀後半になってやっと連邦政府の必要性を認識し運動を始める。(シドニーやメルボルンとは遠隔の西オーストラリア州は連邦加入に気乗りしなかった?!)
国際政治に本腰を入れ始めたのは、南太平洋に列強が進出し始めたから。仏、独、米が島々をそれぞれ植民地化。
クリミア戦争では英国の敵ロシアがオーストラリアにとって脅威。独立国として最初の敵。その後、英国に忠誠を誓う形でボーア戦争にも義勇兵。義和団事件にも出兵。(ニューサウスウェールズ軍、ビクトリア軍、南オーストラリア軍など)

当時は日本が新興国として台頭。不況に苦しんでいたオーストラリアは羊毛や軍馬を輸出したいのに、白豪政策で有色アジア人の日本人ビジネスマンであっても国内に入れたくないというジレンマ。(日本人は特別に商業・教育・観光目的で入国できる日豪パスポート協定が1904年に成立)

日露戦争では英国の同盟国日本を支持。だが、戦後にカリフォルニアの日本人排斥と満洲利権をめぐってアメリカと日本の関係が悪化の一途。オーストラリアは焦る。日本とアメリカが戦争したら英国は日本を支援するの?オーストラリアはアメリカと戦うの?(第3次日英同盟ではアメリカは例外になる)

英国は同盟国日本に極東を任せて主力艦隊を置かなくなる。もし日本にオーストラリア北部を占領されたら?不安になってやっと独自に海軍を創設。
日露戦争後の仮想敵はドイツと日本。第一次大戦ではオーストラリア・ニュージーランドは欧州に義勇兵を送る。(徴兵制はカトリック勢力の反対で実現せず)
4年間で5万6000の兵士が死亡。15万6000が負傷。
それまで外交は英国が代表してたのだが、血を流すと発言権が増す。国際連盟規約がオーストラリアの国名で署名した初めての国際条約。
太平洋のドイツ領の島々は北が日本、南がオーストラリア。ついに日豪は国境を接するようになり以後、日本が仮想敵国。

パリ条約で日本は国際連盟規約に人種差別撤廃条項を入れるよう提案。これにはアメリカも乗り気だった。英国を説得しようとしたらカナダとオーストラリアが強く反対。以後、オーストラリアは白豪主義ナショナリズムが燃え上がり反日。

1942年2月からダーウィン空襲、5月のシドニー湾潜水艦攻撃で日本とオーストラリアは交戦。以後、オーストラリアの国防はアメリカを頼ることになる。シンガポールを放棄した英国との決別を宣言。自国兵士を中東や北アフリカから本土防衛のために帰還させる。ウェストミンスター憲章を批准し英国植民地から完全に独立国となる。
抗日戦を戦ってるのになんでカイロ会談にオーストラリアは呼ばれない?大国主導の戦後秩序に不満。

1944年にニュージーランドとアンザック協定を締結。以後、オーストラリアとニュージーランドが南太平洋島嶼部での安全保障を主導。そして1947年に地域協力機構である南太平洋委員会を設立。大英帝国は溶解していく。国連にも原加盟国として参加。

戦後オーストラリアのイメージをつくったのはメンジース首相。前労働党エバット外相時代にギクシャクした英米との同盟関係を再構築。英米の大国主導の国際秩序を容認。反共主義で自由主義で民主主義においてアメリカの片腕。(朝鮮戦争にも派兵)
好景気に沸くオーストラリアは1956年にメルボルンオリンピックを開催。
オーストラリアは保守系二政党連立と労働党の勢力が拮抗していたのだが、メンジースは社会主義的な労働党を分裂状態にし弱小化に成功。長期政権を築く。
1966年には英ポンドスターリング経済圏から離脱して十進法ドルへ移行。

1957年7月に国内の反対を押し切って日本と日豪通商協定を締結。英国との貿易を見切って日本との貿易に活路。当時の日本は社会党が強くてメンジースはやきもき。
だが、反共のためのベトナム派兵が保守政権の命取り。国内で反戦の機運。

労働党ウィットラム政権で中国との国交正常化。デタント期。東欧、ベトナム、アルジェリア、北朝鮮と次々に国交正常化という独自外交。その一方で対米関係悪化。ANZUS同盟にヒビ。
石油ショック期に日本と経済紛争。3年に満たない間に国内で次々と改革。アジア系移民に門戸開放。歳出が増大し予算案を通せずに総督が首相罷免の大権。

戦後のオーストラリアは国防のための兵員と労働力を確保するために年2%の人口増を計画。イタリア、ユーゴ、ギリシャ、ドイツからの移民増大。都市部でギリシャ人街、イタリア人街が生まれた。
移民審査を熟練労働者のポイント・システム(カナダの制度を参照)に移行。すると副産物として望まない優秀なアジア系が増大し白人系移民が伸び悩む。
結果、白豪主義と決別。南アのアパルトヘイトを批判。ジンバブエ独立の功労者。

ほぼ白人しかいなかったオーストラリアが初めて経験する外国人が1970年代のインドシナ難民。国際社会の圧力もあって多くのベトナム人難民を受け入れたのもウィットラム政権。
続く保守連立フレーザー自由党政権は新冷戦期の長期政権。ベトナム難民を積極的に大量に受け入れる仕組みを作った。ミドルパワー第三世界外交。

ベトナムからのボート・ピープルが大問題。ASEANから「広大な国土を持つオーストラリアが難民を受け入れず平和と繁栄を享受してるのはけしからん」と圧力。ボートピープルを送り出したのはASEANの組織的プレー?!
以後、ASEAN諸国の難民キャンプからインドシナ難民「エア・ピープル」を自国に空輸。
ベトナム人、ベトナム出身の中国人、カンボジア人、ラオス人(ラオ族、モン族)の多文化社会が出現。

1983年からの13年間はホーク=キーティング労働党長期政権。日本と東アジアNIEs、東南アジアASEANとの一体化の重要性を認識。APEC構想にオーストラリアの将来を託す決断。
キーティング政権の外相エバンスはカンボジア和平でオーストラリアのプレゼンスを高めた。

1996年には再び保守のハワード政権。前政権の過度なアジア重視からアメリカと共に「世界の副警察」として軍事介入もするようになる。東チモールPKOではオーストラリア軍が主力。インドネシアとの関係が悪化。ASEAN諸国からも批判される。
君主制から共和制への転換を問う国民投票(1999)を否決。国内にはアジア系移民流入に反対する勢力が増大。さらにASEANからイメージ悪化。

という2000年までのオーストラリア史の流れを押さえる。この本を読んだことで多くのことを学んだ。とくに移民政策。

2022年11月19日土曜日

山田杏奈「山女」(2022)


山田杏奈主演「山女」がBSプレミアムで10月17日に放送された。事前に何らも予備知識がない状態で見た。NHK国際共同制作ドラマ。監督は福永壮志。脚本は福永、長田育恵。

山田杏奈が出てるのでチェック。「遠野物語」にインスパイアされたオリジナルストーリーだという。遠野物語は読んだことあるけど、もうあまり覚えていない。どの話がどうアレンジされているのかわからない。
18世紀末、冷害と飢餓に苦しむ東北の貧しい村が舞台。ひょっとしてそれは天明の飢饉?
永瀬正敏とその家族は先祖の起こした火事によって村では「とが人」とされている。

父と娘で墓堀や死体処理のような仕事をしてる。もう最初から生まれたばかりの赤子を「口減らし」のために殺す最悪なシーン。山田杏奈が布にくるまれた赤子の遺体を引き取り川に流す。「次は人さ生れてきたらだめだよ」
予想はしていたのだが、江戸時代の貧しい農村がとにかく惨めで暗い。
みんな貧しすぎて呆けたような顔をしてる。死んだような目で村長(品川徹でんでん)らの指示通りに動く。
さらに惨めな生活をおくる永瀬正敏一家に村人たちの誰も同情したり親切にしたりしない。井戸に水を汲みに行くと「ここでくむな」「けがれる」と罵倒。
米の救援配布ですら与えられない。なにせ先祖の罪によって田畑を取られている。絶望。

米を盗んだ父の罪を背負ってヒロイン凛は山へ入る。神隠しにあったことにする。そして、夜の山の中で山男(森山未來)と出会う。
屍肉を貪って生きている。こいつは化け物のようだが、今もふつうにいる世捨て人では?
ヒロインはこの山男と一緒に生活。
山の祠より先は誰も入ってはならないのだが、獲物が捕れないマタギが立ち入って凛は目撃される。捜索隊が組織され凛は村に無理やり連れ戻される。山男はマタギによって狙撃。

ずっと厚い雲に覆われた村を救うために凛は人身御供にされる。そうすれば永瀬正敏父は先祖の田畑を取り戻せる。「しっかりお勤めを果たせ!」
この父親がとにかく人間性が酷い。今ならバットで殴られる親。
そして最悪に怖い儀式。こういうの「TRICK」とか「ミッドサマー」で見るようなやつ。

そして奇跡。早池峰山は人々を見ている。だが、これは最悪でないだけでハッピーエンドでもない。
ずっと画面が真っ暗。気分が沈む。この時代に比べたら今の日本はマシかもしれないけど、貧しい庶民の生活が惨めなのは変わらない。