2022年11月10日木曜日

ゴヤの名画と優しい泥棒(2022)

「ゴヤの名画と優しい泥棒」(2022)を見る。原題はThe Duke1961年ロンドン・ナショナル・ギャラリーからフランシスコ・デ・ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた事件と真相。犯人とその家族の視点から描いたコメディ。
2020年に制作。日本では今年2月に公開。配給はハピネットファントム。

ロジャー・ミッシェル監督の長編映画の遺作。脚本はリチャード・ビーンとクライヴ・コールマン。
製作総指揮に名前を連ねる一人クリストファー・バントンはなんと事件の犯人ケンプトン・バントンの孫。

朽木ゆり子「盗まれたフェルメール」(2000)という本にこの事件のことも少し触れられていた。絵画窃盗はこっそり自分で楽しむか、政治的要求が理由だったりする。この事件は盗んだ動機がレアなケース。

1961年、ニューカッスルの老タクシー運転手ケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)さん61歳はBBCの料金を払えず徴収人から逃げ回ってる。
英BBCも日本NHKと同じなのか。テレビを持ってることを電波で検知するのか。BBCを受信しないようにテレビを改造しても無駄なのか。
で、ダーラムに13日間収監。気の毒な偏屈老人。法を犯したことを墓前に謝罪するシーンがあるのだが、英国の墓地ってこんなにも荒れ放題なの?!

家計を支えるために家政婦として働くバントン夫人がヘレン・ミレン。今まで見てきたこの女優とかなり印象が違う。この夫人は夫が変わり者なことを十分知っている。
老夫妻の息子ジャッキーはフィン・ホワイトヘッド。若いので孫に見える。
家族3人、物も持たずに質素な暮らし。

この映画、すごく1961年の英国を忠実に再現しててとにかく感心。街並みも、子どもたちの衣服も、車も、会話も。
英国も英国市民もこのころはみんな金がない。クリスティーとか読んでいても、一部をのぞいてみんなお金に困ってる。

タクシー運転手の仕事もクビになり(お喋りなだけで?)、自作の戯曲を売り込むためにロンドンへ出る。みんなこの老人に冷たい。悲哀を味わう。英国人って年齢に関係なく他人を馬鹿にする。映像がすごく1961年のロンドンに見える。

ウェリントン公爵は対ナポレオン戦争に勝利をもたらし、出世の末に初代ウェリントン公爵となった大英帝国の国民的英雄。
邦題がやはりセンスない。なぜに「公爵」ではダメなのか?
公爵の肖像画が国外に買われるのを防ぐために英国政府は14万ポンドを支出。
その金を払ったのは納税者だ!なのに年金生活者からも料金を取るBBCは許せん!

で、ナショナル・ギャラリーに夜間忍び込んで「ウェリントン公爵」を盗み出す。この時代はまだ美術館の警備は手薄。あっさりすぎる。なのに警察は国際的な窃盗団の仕業だとみなす。

パン工場で働くようになったバントンさんはインド人が公然と差別されているのに義憤にかかれて主任に反抗。それだけのことでクビ。他の従業員もみんな黙ったまま。英国もぜんぜん憧れるような国じゃなかった。なのに人権先進国面するな。

なぜ息子の悪友(女づれ)を部屋に泊めなきゃいけないのか。書斎で情事をするな。この女が勝手に棚を開けて中を見て「公爵」を見つけてしまうとか最悪。

弁護士(マシュー・グッド)がバントンさんを弁護。この弁護人が証人に対して何も質問しない。やる気あるのか。英国の法廷は議会のように傍聴してる人々がくすくす聴こえるように笑う。1961年にはもう英国には女性判事がいたのか。

英国人はみんなバントンさんが好きな様子。自分だけのものにしたい美術コレクターでもなし、私利私欲のためじゃなし。
弁護士のスピーチも感動的。英国人のユーモアは尊敬できる。
え、実行犯は息子のジャッキー?!孫が映画のプロデュースに参加しているのなら、そういう話を父から聴かされてた可能性はある。

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