樋口有介「風の日にララバイ」を1997年ハルキ文庫で読む。初出は1990年10月徳間書店から刊行。
1990年は樋口有介が「風少女」「彼女はたぶん魔法を使う」「八月の舟」と立て続けに4冊発表した年。
この角川春樹事務所ハルキ文庫版の「今月の新刊」帯にはこう書いてある。
知りたくない真実と、知って欲しい恋心。佐原旬介39歳、無職、子連れのバツイチ、探偵の相棒はポニーテールの女子大生。宝石店店長の別れた女房が殺されて、真相の解明にのりだしたけれど…。
だいたい合ってるけど、「相棒のポニーテールは女子大生」という箇所は盛ってる。この女子大生はほんの脇役であまり出番も活躍もない。
そうでも書かないと何も売りになるものがない。(たぶんこの本はあまり売れてない。)
90年4月に発表された「彼女はたぶん魔法を使う」の柚木草平シリーズとほぼ質感が同じ。年齢もほぼ同じ。たぶん筆者と同じ。ハードボイルド質感の文章と、ときに人を食う洒脱会話。かっこつけてる感じ。
だが、柚木ほど佐原はお金に困っていない。もともと大学に在籍して本を書いたり発明の図面を書いたりしてた。離婚した資産家妻との間の15歳娘(美少女)と暮らし、お手伝いさんもやってくる。
別れて5年まったく会ってない妻は5年の間に経営する宝石店が急成長。たぶんそのことで殺されたに違いない。アマチュアバイト探偵として事件を調査していくうちに見えてきた闇。
今回も美女たちが登場し、樋口有介ならではの会話劇。だんだんと真相が明らかになっていく。ほぼ松本清張の徹底リアルな社会派ミステリードラマ。
ミステリーというのはあまり正確ではない。ほぼ三面記事にあるような事件がだんだん明らかになっていく顛末。読んでる間「あんまり面白くないな」と思ってた。最後まで読み通してもそれほど驚くこともなかった。
樋口有介という作家はほぼ30年の間、ほとんど作風が変化しなかった。この「風の日にララバイ」と柚木草平シリーズはどれを読んでもほぼワンパターン。だからこその安定感と安心感。それはそれで好きでつい読んでしまうというファンが多かったんだろう。
これをもって作者追悼読書に一区切り。
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