2022年11月12日土曜日

W.L.シャイラー「第三帝国の興亡」第3巻 第二次世界大戦(1960)

W.L.シャイラー(1904-1993)による「第三帝国の興亡」全5巻(1960)第3巻「第二次世界大戦」を読む。昭和36年井上勇訳版の1976年第16刷で読む。第3巻はいよいよポーランドの悲惨な末路。
The Rise and Fall of the Third Reich by William L. Shirer 1960
ヒトラーの要求はダンチヒ(東プロイセン)への道路と鉄道だがポーランドへの脅迫も同時進行。その前にリトアニアのメーメルラント(現クライペダ)をちょこっと脅して侵略し併合。ベルサイユで奪われたすべてを取り返すのは当然の権利という態度。やりかたが汚いw 
ソ連ではリトヴィノフ外相が罷免されモロトフにスイッチ。ポーランドの運命が急に変わり始める。

第3巻の前半はすべて第二次大戦前の外交交渉。1939年9月1日に至るまで、ヒトラー、スターリン、ムッソリーニ、チェンバレンといった人々が何を望んでいたのか何を発言したのか、そしてリッベントロップ、モロトフ、チアノ伯、ハリファックス卿ら外相たち、そして現地の大使たち、誰が誰と会い、どのような話をしてどのような電信が飛び交ったのか?どのように反応し、どのようなメモを残したのか。もうとにかくウンザリするほど細かいやりとりが続く。
高校教科書ではドイツがポーランドに侵攻して第二次大戦が始まったとしか書かれていないのだが、この巻だけで高校世界史の500倍ぐらい濃密に詳しい。

英仏はなんとかソ連をこちら側につけたいのに、まさかの独ソ不可侵条約。ここに至るまで独ソは神経戦のような駆け引き。
ドイツがポーランドと戦争を始めれば戦争に参加しないといけなくなる英仏は戦争を避けるために必死の外交。ドイツとポーランドを話し合いの場につけようとスウェーデンの無名外交官(ダーレルス)も奮闘。だがシャイラー氏はこのスウェーデン人にとてつもなく辛辣。「素人外交官」だと酷評。

ヒトラーは知性も教養もある外交官をも手玉にとって騙し続けるのだから、ドイツ国民を騙すのは簡単。

英国が宣戦布告してすぐに、リヴァプールからモントリオールに向かう客船アシェニア号がドイツUボートに無警告で撃沈されアメリカ人28人を含む112人が死亡した件で、慌てたドイツは「アメリカの参戦を促すために英国がやった」と責任転嫁。ナチ党機関紙フェルキッシャー・ベオバハターは「チャーチル、アシュニアを撃沈」の大見出し。嘘をつくやつの声はでかい。
ヒトラーのやり方がまさに今プーチンロシアが今やってることだと感じながら読んでいた。
装甲艦グラーフ・シュペーがウルグアイ・モンテヴィデオ港で沈んだときの対応も、巡洋艦モスクワが黒海で沈んだときと似てる。

今回学んだことと言えば、ヒトラーはポーランドに侵攻したとしても英仏は何もできないだろうと、その日まで考えていたこと。
ドイツの戦争に巻き込まれたくないチアノとムッソリーニも困惑。ドイツ-ポーランド開戦後も独伊は相互不信。チアノ外相はドイツとの交渉ですっかりドイツ嫌いw

ドイツにおいてもポーランド侵攻を「ドイツの終り」と考える人はいた。ドイツ国民はニュースに冷淡だったし、将軍たちも「まだ早い」と思っていた。あと、説得されてやっと参戦を決めたイタリアをドイツ陸軍の将軍たちは誰も評価してなかったw 
イタリアは戦争に加わるつもりなかった。判断間違わなければムッソリーニはフランコみたく80年代まで生きられたかもしれない。

英国が対ドイツ宣戦布告しても戦闘は洋上だけ。フランスはなかなか動かなかったことを初めて知った。
英国は即戦争するつもりでも、国境でドイツ軍と対峙しないといけないフランスはすぐに戦争開始というわけにもいかない。

今回この第3巻で一番印象深かったのがノルウェー。高校世界史教科書では1940年4月のナチスドイツによるノルウェーとデンマークの占領は1行ほどしか書かれていない。

なぜノルウェーを占領した?ドイツは鉄鉱石をスウェーデンからの輸入に頼っていた。ボスニア湾が冬季は凍る。なので陸路ノルウェーへ運んで海路南下して運ぶ。だが、英国がノルウェーに基地を作るとマズイ。なのでドイツが占領。デンマークはそのついで。
ドイツの口実が「デンマーク・ノルウェーを英仏から守る」失笑。まるでプーチンロシア。

ノルウェー・デンマーク侵攻を「ヴェーゼル演習」と呼ぶ。イタリアは知らされてなかった。(演習というていで武力侵攻。これもウクライナ危機を連想)

デンマークは組織的戦闘がゼロのまま降伏。まさかドイツがやってくると危機意識もなかった。国王クリスチャン10世は動員も拒否。すぐそこにドイツの戦艦が来ても一発の砲弾も撃たない。結果、ドイツの模範的保護国となる。(デンマーク人の戦死は全土で13名?!デンマーク人の反撃はドイツが敗色濃厚になってから。デンマークのユダヤ人は迫害を受けずに済んだ。)

一方ノルウェーは激しい戦闘。オスロがドイツ軍部隊に占拠(主要な都市も)されると、国王ホーコン七世(デンマーク国王の弟)と政府閣僚、議員らは国立銀行の金塊と共に北部の雪の山中へ。命からがら逃げ惑う。
逮捕に失敗し首都帰還の説得にも応じない国王はヒトラーに命を狙われ滞在した田舎村も爆撃を受ける。

後に冬季五輪を開催したリレハンメルって英国軍とドイツ軍の最初の交戦があった場所だったのか。結局、国王はドイツ軍の空爆から逃れ英国巡洋艦グラスゴーでトロムソ(臨時首都)へ退避。強大なドイツ軍に抵抗したノルウェー軍だったのだがやがて降伏。国王はロンドンへ亡命。

この時、ノルウェー新政府首班になろうとした男がフィドクン・クヴィスリング。自分、この名前を今日まで知らなかった。ノルウェーでは「売国奴」と同義の言葉になってるらしい。士官学校を首席で卒業した優秀な軍人だったのにナチス思想に共鳴し、やったことが外患誘致。
当時から国民に圧倒的不人気。ドイツの傀儡クヴィスリング首班政府を国王は軽蔑の沈黙で一蹴し承認せず。(戦後、クヴィスリングは処刑。ドイツ占領下ノルウェーの国家弁務官テアボーフェンは自決。)

ドイツ軍によるデンマーク・ノルウェーの征服を描いた映画やドラマってないのかな?と思ってたら、2017年にホーコン七世を描いた「ヒトラーに屈しなかった国王」という映画があるらしい。いずれ見ようと思う。

あと、1939年11月のミュンヘン・ビュルガーブロイケラーでのヒトラー暗殺未遂事件と実行者ゲオルク・エイザーも「ヒトラー暗殺、13分の誤算」(2015)という映画になっている。いずれ見ようと思う。

あと、この本を読んでるとヴァイツゼッカーという外務次官の名前がよく登場する。ヴァイツゼッカーってドイツ連邦共和国(西ドイツ)の大統領だったヴァイツゼッカー?!と思って調べてみたら、リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー大統領の父親エルンスト・フォン・ヴァイツゼッカーだった。リッベントロップ外相の下で働いていたので戦後は収監された。

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