2022年11月5日土曜日

清水潔「殺人犯はそこにいる」(2013)

清水潔「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」(2013)を平成28年新潮文庫版で読む。
自分が今回手に取ったのは平成29年の2刷。申し訳ないがBOで110円で売られていたので「じゃ読んでみようかな」と積んでおいてようやく読み始めた。
新潮文庫はスピンと呼ばれる紐がついてるのだが、とじ込まれたスピンを見るとわかることがある。自分が手に入れた本はまだ誰も読んだ形跡のないほぼ新古書だった。

結論から言って、この「殺人犯はそこにいる」はスーパー名著。読み始めて4時間ほどで一気に読んでしまった。それぐらい面白いし、衝撃的だった。110円で買ってしまって申し訳ない。次の本が出たときは書店ですぐに買う。

清水潔というジャーナリストの名前はなんとなく目にはしていた。というのも、この人がつくった日テレの足利事件と北関東連続幼女誘拐殺人事件番組、そして逮捕された男性の再審請求と無罪判決、それらは自分もリアルタイムで見ていた。問題のパチンコ屋防犯カメラに映った男の映像も見ていた。
17年間を身に覚えのない冤罪で獄中で過ごした菅谷さんの無念。それは他人事じゃない。もし自分がそんな目にあったら?とてもじゃないが耐えられないし怒り心頭で憤死するだろうと思う。

清水氏は本庄保険金殺人事件では八木から「ワースト記者」と呼ばれる栄誉を得た。桶川ストーカー殺人事件では警察よりも早く真犯人にたどり着いた。
そして、渡良瀬川を挟んで栃木県足利市と群馬県太田市にまたがる半径10km県内で17年間に5人の幼い女の子が誘拐殺害され死体を遺棄された事件をたまたま調査開始。誰よりも早く菅谷さんの冤罪に気づき、さらに真犯人にまでたどり着いてる。
それはもうピュリツァー賞に該当するべき偉業。読んでいてそれはもう感心しかなかった。

それにジャーナリストとしての志が高い。大手メディアが警察発表を垂れ流す公報機関でしかない状況で、記者クラブに入っていない著者は反骨精神で孤軍奮闘。殺された女児たちを夢に見たり、霊を見たりするほどまでの執念。
マスコミを嫌悪する遺族たちの信頼を勝ち取っていく。河川敷で赤いスカートの少女と犯人らしき男「ルパン三世」を記憶しスケッチも描いた目撃証人ともただ一人接触。

県警、警察庁、科警研、検察庁、裁判所、霞が関、国会、大手マスコミを縦横無尽に斬りこんでいく怒りのデスロード。
相手は異常な論理を使って抗弁してくる。警察が流してくる情報(印象操作)にはろくなものがない。
協力してくれそうな元警察関係者や検察関係者がするりと掌を返して逃げて行く。それはもう恐ろしい闇。

とにかく読んでる最中はずっとムカムカしっぱなし。犯人とされた菅谷さんはまったく「ロリコン」ではなかったのに、執拗な巡査のせいでマークされ、刑事に連日怒鳴られ殴られ、さらに検事にも罵倒され、死刑になるかもしれないのに3人の殺人を認める供述をしてしまった。
その原因が当時のいいかげんなDNA鑑定。この当時、まだ世間はDNA鑑定なんてものを誰もイメージできなかった。菅谷さんも絶対的証拠があると告げられ困った末に自供に追い込まれてた。この様子が憐れ。

17年のつらい獄中生活の後に県警本部長や裁判官から謝罪を受けることになるのだが、取り調べた検察官と科警研所長は謝罪を拒否。
何が怖いって、司法当局の誰一人として「もしかして容疑者が実は犯人ではないのでは?」と考えなかったこと。なぜそこまで120%信じられるのか?疑問に思わないのか?
大学入試で数学とか勉強していれば「左辺=右辺」はひとつでも反例があれば成立しないという論理は持っているはずなのに。

栃木県警の元捜査員がとにかく質が低いし悪質だと感じた。犯人でない菅谷さんに証拠がないまま自供を強要したし、誘導しながら供述させた。
さらに、裁判で録音が公開された検察官による取り調べも悪質。この本は司法関係者、警察関係者のほとんどが実名で登場。

足利事件を調べていると、必然的に福岡県で起こった「飯塚事件」へと著者の足は向かう。
この本を読むと飯塚事件にも詳しくなる。

久間被告が捜査当局からマークされるきっかけのひとつでもある「アイコちゃん失踪事件」で被害者が最後にいた場所が久間の家なのだが、アイコちゃんの弟と一緒だった?弟は久間の息子と同じ幼稚園でお友だち?久間はペンキ塗りしてて家には妻もいた?それはとても女児への「声かけ案件」ですらない。

あと、八丁峠でのダブルタイヤ紺色ワゴン車の目撃者A氏の家を捜し出したのだが、A氏は取材と接触を完全拒否!?名刺の受け取りすらも拒否?!(そういうのむしろ異常な印象を残すのに)

巻末での著者あとがきによれば、この本を出版して多くの反応があったそうだが、飯塚事件についての記述にはとくに多くの反応があったらしい。足利事件は冤罪だが飯塚事件は違う!と。
IPアドレスをたどると福岡の司法関係者が発信元らしい。何かを守ろうと必死なのか?
(検察官は死刑執行の現場に立ち会うのも仕事?!それはアミダクジで決まる?!)

コツコツ積み上げたキャリアに傷がつくことをエリート公務員は特に恐れるらしい。ひとつでも上の階級で退職したい。なのでけっして誤りを認めない。組織一丸となって仲間の防御に徹するらしい。本当に怖い。

栃木県警、埼玉県警、検察、科警研、法務省は解体し全員ラーゲリに送るべき。中世だったら誤判した異端審問官は谷底に落とされる。(6人部屋の牢獄で菅谷さんのおかずを盗み食いしたやつは厳罰にするべき)

NHKに入社した人はアナウンサーであっても誰もが受信料の徴収に出向くという研修をすると聞いた。警察官僚、警察官、検察官、裁判官、刑務官もすべて、連日怒鳴られ獄に繋がれる体験を研修で課すべき。なんなら首に縄を巻いて刑場の板の上に登るところまでやるべき。
司法当局の全員にこの本を読ませて感想文を閲覧できる場所に掲示するべき。警察発表の公報しかしなかった読売新聞も何かするべき。

あと、以前に見たアマプラドラマ「チェイス」が、ほぼこの本をベースに作られていたことがよくわかった。あれはほぼ清水潔氏の功績をそのまま主人公たちに置き換えてる。
そして現在フジ月10枠で放送中の「エルピス」はほぼこの本の通りに展開してる。

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