2022年11月13日日曜日

ヒトラーに屈しなかった国王(2016)

ノルウェー映画「ヒトラーに屈しなかった国王」(2016)を見る。第二次大戦におけるナチスドイツのノルウェー侵攻とノルウェー国王ホーコン7世とノルウェー国民の抵抗を描いた映画。デンマークがほとんど組織的な抵抗をしなかったのに対し、ノルウェーは国を挙げて徹底抗戦という気概を見せた。

原題はノルウェー語だとKongens nei(国王の拒絶)、英語だとThe King’s Choice。監督脚本はエリック・ポッペ。全編ノルウェー語とドイツ語。
日本でも2017年に劇場公開されている。邦題はあまりセンスない。

高校世界史では1行ほどしか書かれていないデンマーク・ノルウェー侵攻だが、W.L.シャイラー「第三帝国の興亡」第3巻を読んで色々と調べていてこの映画の存在を知った。

1940年ナチス・ドイツはデンマークを制圧した後、4月9日にノルウェーへの侵攻を開始。ノルウェー国王ホーコン7世(イェスパー・クリステンセン)はドイツ軍による侵攻を知らされる。
王室は国政に何ら関わっていない。外交や政治は政府にまかせておけばいいという父。息子オーラヴ王太子と王室のありかたについて口論。
映画の冒頭でノルウェー王室の歴史について簡単に字幕と資料映像で説明。ハーラルという坊やが出てくる。この子が現ノルウェー国王ハーラル5世だ。

敵の侵入にノルウェー軍も困惑。オスロから命令はないけど配置に着く。慣れてない動作で大砲に砲弾をセット。
ドイツ公使ブロイアー(カール・マルコヴィックス)も事態に困惑。これは侵略では?
まあそうなのだが。ナチスドイツの各国外交官はもれなく誰もヒトラーやリッベントロップから何も知らされてない。

ブロイアーはノルウェー外務大臣コート(ケティル・ホーグ)を訪問し降伏文書署名を要請。しかしコートはこれを拒否。
沿岸を警備する軍はいきなり砲弾を発射しドイツ軍艦を炎上させる。やった!
王と王太子は軍服に着替えて王宮を離れる。これがわが家と長い長いお別れになる。列車は雪原を走りハーマル(ここが臨時政府)を目指す。
このへんの刻々と変化する事情が字幕と会話で示される。正直かなりわかりにくい。

侵攻は本当なのか?ずっとヒソヒソ話が続く。敵機が襲来して王と家族は急いで列車から避難。人々が逃げ惑う。そして爆音。子どもたちが泣く。老人が雪の中逃げ惑ったら足腰も痛かろう。
小国が戦争巻き込まれるときはこのようなものかもしれない。ウクライナからの映像もこんな感じだった。
ブロイアー独大使はノルウェー政府首脳たちが逃亡したことを知る。

ハーマルに到着した国王と閣僚は打ち合わせ。総動員令を発令したと報告。どうやって?「郵送で。」
この状況で郵便物は届くのか?すでに主要都市がドイツ軍によって占領されてるのに。

不意打ちだった?!これじゃあドイツと交渉にならない。王と王太子は口論。
ホーコン7世の兄クリスチャン10世が治めるデンマークが1日で降伏したことも知らされる。みんなしょんぼり。国家が消滅するかもしれない。

一方そのころオスロを占領したドイツ軍。ブロイアー公使はなおも狼狽。これ以上犠牲者を出さないようノルウェー政府と交渉したいのに王と首脳がどこにいるのかわからない。

村の農場が王宮で臨時政府。政府としたら敵と交渉するしかない。軍事攻撃の停止を条件に交渉に応じるとドイツ公使館へ伝える。
だがヒトラーには武力行為を止める考えなどない。
ブロイアー公使が必死で努力するのだがナチス国防軍将校たちがとにかく冷たい。双方連絡をとりあって協力して交渉する気がまったくない。ナチはこうやって外交官たちをないがしろ。(それは今のプーチン・ロシアも同じかもしれない)

オスロではファシズム政党の国民連合党首クヴィスリングが戦争の混乱に紛れてクーデター。全権掌握を宣言し旧政権と王政を批判。ドイツはイギリスの侵略からノルウェーを保護するというナチそのままの宣伝主張。そして自分が新政権の首相に就任しドイツに協力するとラジオで演説。閣僚名簿を発表。だがこいつは国民にまったく人気がなかった。

ブロイアー公使は「クヴィスリングじゃだめだ」とリッベントロップ外相に訴えるも、電話に代わって出たヒトラーがクヴィスリングを気に入ってる様子で返す言葉がない。
ナチスドイツって官僚機構の厚みがなくヒトラー総統の一存で何でも決まる。ああ、これは交渉が決裂してしまう。
クヴィスリングは欧州では最も有名な売国奴の代名詞。12世紀中国・南宋の秦檜に匹敵する売国奴の中の売国奴。ちなみにこの映画ではクヴイスリングはラジオ演説音声でしか登場しない。

ドイツ国防軍は圧倒的軍事力でノルウェー軍防衛線を突破。地元の義勇兵がほぼ少年兵。まるで中学生。ぜんぜん訓練された様子がない。
圧倒的軍事力のドイツ軍から国王を守ると言われても不安しかない。みんな困惑の表情だし頼りない。任務も理解できないし敬礼もできない。
王太子は自身が兵役任務に就かなくてはと焦る。王家の壮年男子がただじっとして何もしていないことに焦る。国王に熱く訴える。

ドイツ軍が迫ってる。子どもたちと王と王太子が一緒にいると万が一のことがあると王家が滅ぶ。子どもたちとの深夜の慌ただしい別れ。オーラヴ王太子は家族を手放す事態に放心状態。
国王は突然王になって息子の運命も変えてしまったことを詫びる。なんと悲しい場面だ。

少年兵たちとドイツ軍との間で夜の銃撃戦。村が燃える。王に敬礼したドイツ語のできる少年兵は手りゅう弾にやられて瀕死の重傷。

政府閣僚からの説得で国王はブロイアー公使との交渉に指定場所のエルヴェルムへ単身出向く。もうそこまで追い込まれてるのか。
国王に謁見したブロイアー公使はノルウェーが降伏すること、新政権首相にはクヴィスリングを承認することを必死の説得。だが国王は怒りの断固拒否。ノルウェーはドイツと違って民主主義国家だ!

多くの若者の命が犠牲になってしまう!と必死に食い下がる公使に「侵略者の使い走りの交渉人がっ!」「平和を願ってるのに降伏を要求?君はヒトラーと同類っ!」と罵声。
もう気の毒で見てらんない。外交官人生で最悪の時。
(ここまで必死にがんばったブロイアー公使は後に外交官の地位をはく奪され兵士として東部戦線に送り込まれソ連の捕虜になるなど散々な目に遭う。)

ドイツ軍は怒りにまかせて臨時政府の所在地を報復空爆と機銃掃射。国王と政府首脳がこれほど惨めに逃げ惑うとは。
そして、本格的な戦争開始。王と王太子はイギリス亡命。ノルウェー降伏。

人間ドラマと行間を説明する字幕から成る映画。英国とドイツのナルヴィク海戦などの派手な戦争シーンは皆無の歴史の一場面を描いた地味映画。
ノルウェー王とノルウェー国民かく戦えりというよりも、ノルウェー国王と政府とナチ外交官ブロイアーとのギリギリ交渉と人間ドラマ会話劇。

ホーコン7世はスウェーデンから独立したノルウェーに新設された王としてデンマークから迎えられた1代目国王。
ちなみに現英国国王チャールズ3世はノルマン朝から連綿と続くイングランド王家の血と、ギリシャ王家とデンマーク王家(シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク家)、ロシア王家(ロマノフ家)、ドイツ人(ザクセン=コーブルク=ゴータ家)の血を継いでる。ヨーロッパの王家はみんな姻戚関係にある。

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