2023年2月28日火曜日

牛首村(2022)

「牛首村」(東映)を見る。2022年2月18日に公開のホラー映画。監督は清水崇。脚本は保坂大輔。制作はアスミックエース。音楽村松崇継。
主演は映画初出演かつ初主演のKōki, この子がキムタクと工藤静香の娘なことは知ってたけど、まだ一度も動いて喋ってるのを見たことがなかった。

北陸地方最凶の心霊スポットとして実在する坪野鉱泉が舞台。
怪談好きJKが実況しながら廃墟探検。このパターン多いな。バズるころしか考えてないのか。異世界エレベーターに友だち閉じ込めるとか虐めだろ…と思ってたら、やっぱり大惨事じゃねえか。
しかも、この金髪JK見たことあんな…と思ったら、犬鳴村にも樹海村にも出てた大谷凜香じゃねえか。しかもぜんぶ役名がアキナじゃねえか。ホラー映画で真っ先に死ぬ役のスペシャリストか。

雨宮奏音(Kōki,)は同級生の香月蓮(萩原利久)から高校最後の夏休みの思い出づくりにいろいろ提案し誘われるのだがそっけなく断る。受験だし。この子がなぜか手首に怪我をしてる。そこ、なぜ説明がない?と思ってたら、爪のひっかき傷のようなもの。これって、最初の廃墟探索JKが巻き込まれた坪野鉱泉での事故シーンとシンクロ?

バイト先のカフェで蓮から見せられた心霊実況動画に映ってる女子高生が自分そっくり。嫌がるのに牛の首のマスクをつけられる少女が廃虚に閉じ込められた所で動画は終了してる。
いきなりスマホが反応するとか、日常あるあるで怖い。身近にある怪奇現象。
奏音は何かに憑き押されるように坪野鉱泉へ向かう。深夜高速バスで。蓮がやたら軽い男。富山湾の蜃気楼が思ってたのと違う…とか言うけど、奏音にはたくさんの霊が見える…。

漣が車をバックさせてきた山崎(松尾諭)に轢かれる。「そんなとこ座ってちゃだめだよ。」いやいや、それ警察に逮捕される案件だから。この山崎の車に乗せてもらって「牛の首」怪談の現場に連れて行ってもらう。
牛の首の話の正体になーんだと笑ってると、フロントガラスに女子高生がぶつかってきてビビるのだが、周囲を見渡しても何も見つからない。しかし、道路わきには花が供えてある。

そして坪野鉱泉に到着。これが廃墟ビル。YOUTUBE動画と同じ現場を探して内部を探検。自分そっくりの少女が閉じ込められたエレベーターには警察の張った警戒線。勝手に剥がしていいのか?よく内部に入っていく気になれる。
漣が屋上から地上に立ちションするとか軽すぎるバカ。手を洗わないのか。

山崎にアキナのアカウントに写ってた海岸を教えてもらって行く。すると「しおん…」と呟きながらフラフラと海へ入っていく倉木将太(高橋文哉)と出会う。
この男に連れられて山奥の村に行くと奏音の母堀内敬子と父田中直樹がそこに!
行方不明になった詩音という子は双子の妹?!奏音は妹は死んだと聞かされていたのだが、この村で生活してたらしい。将太は詩音とつき合ってたらしい。

「牛首村」では双子を忌み、片割れを神に返すという風習があったことを知る。こんなトリックに出てくるみたいな村いやだ。
この怨念が今も残っている?!という恐怖。現在と過去の時空を超える幻覚と心霊現象の連続。

4歳の時に奏音が行方不明になったとき、奏音を連れ戻してきたのは詩音。今度は奏音が詩音を連れ戻す番。けど、綾子(芋生悠)って誰?

怖いにほん昔ばなしホラー。ある意味Jホラー。
清水崇ホラーの狂ったような恐怖はなかった。と思ってたら、松尾諭がえぐい死に方するのかよ。萩原利久も関係ないのに理不尽に呪われて死ぬのかよ。
こんなんどうやって呪いを解くんだよ。

実際にこんな酷い風習があったのかもしれないなという恐ろしい民俗学ホラー。
詩音に人面痩浮腫が出るとこがおぞましすぎて怖い。なんか意味わからなくて怖い。
Kōki,って表記が出しずらいし面倒。早く変えるべき。自分はあんまりこの子に魅力を感じられなかった。演技は上手かったけど。

2023年2月27日月曜日

恒松祐里「きさらぎ駅」(2022)

映画「きさらぎ駅」を見る。2022年6月3日に公開。監督は永江二朗、脚本は宮本武史。主演は映画初主演となる恒松祐里。配給はイオンエンターテイメント。

2004年から「2ちゃんねる」への投稿から始まった都市伝説「きさらぎ駅」に基づいたホラー映画。大学生ヒロインがこの世に存在しない異世界駅へとたどり着き謎を追う。

女子大学で民俗学を専攻している堤春奈(恒松祐里)はよせばいいのに都市伝説「きさらぎ駅」を卒業論文の題材に選ぶ。タブレット片手にネットで調べものしながら新浜松駅から電車に乗って元高校教諭葉山純子(佐藤江梨子)を取材訪問。姪の凛(瀧七海)がお出迎え。堤さんは信用されてる様子。

2004年の1月8日に葉山さんが異世界に行った話を語り始める。
学校からの電車で帰宅途中。急に車内の喧騒が無音になり、電車がトンネルの中を走ってる。え、ケータ―が圏外?電車が知らない場所を走ってる。乗客がみんな眠ってる。

同じ車内で寝過ごしていた同じ高校の生徒宮崎明日香(本田望結)を起こす。すると「きさらぎ駅」という未知の田舎駅にたどり着く。他の乗客もみんなここがどこなのかわかってない様子。駅周辺に何もない。民家があっても人が住んでる気配がない。

粗暴な翔太(木原瑠生)、その女ギャル美紀(莉子)、大輔(寺坂頼我)という3人組がいたのだが、大輔を翔太はボコったら血管が浮き出たようになって変貌。残して二人は隣の駅まで歩いてみることにする。葉山と宮崎さんもついていく。

酔っ払いサラリーマン(芹澤興人)もついてくる。祭の太鼓のような音がする。するとサラリーマンは血管が浮き出て爆発w
完全に葉山純子主観のVR映像。ずっと画面が現実感のないゲームを見てるかのよう。
次々と恐怖アトラクション。謎じじい。狂った殺人鬼になった不良翔太。ずっとパニック。ずっとズンドコ太鼓。なんだこれ。
その話をひきつった表情で聴いてる堤。

「伊佐貫トンネル」を出た所で通りかかった車のおじさんが「ここは比奈」だと教えてくれ、葉山と宮崎さんは車に乗せられる。ふたりは血だらけ大怪我してるのにおじさんの反応がわりと普通。
やっぱりこのおじさんもまるでゾンビのような化け物に変貌。ふたりはパニックになりながら逃走。元の世界に帰りたい!

太鼓の音が聞こえてくる神社に光の扉を発見。そこにやっぱりゾンビ運転手。
葉山と宮崎は美しいまでにお互いに助け合う。私のことはいいから早く行って!

あれ?光の扉に駆け込んだ宮崎さんが消滅すると葉山は現実の世界(2011年1月)へ戻ってた。
堤は葉山が当時使ってたケータイを見えてもらう。電車に乗る直前のメールのやりとりを調べる。葉山は二度寝過ごしたことで異世界エレベーターに乗った?(その話を聴いていた姪がニヤリ)

堤は自分も同じ手順で「きさらぎ駅」に行ってしまう。(なんでだよ)
電車のメンツが葉山から聴いたのと同じ構成メンバーが同乗。同じセリフ。なぞるように同じ展開。堤がことごとく展開を予測して未然に防いでいくw メンバーたちを導いて隣の駅を目指す。なにこれ、やっぱりゲーム?

ここ知ってるの?取り繕う堤にちょっと笑ってしまう。なんか劇団のコントを見てるよう。ちょっとどころかすごく笑える。

恒松祐里がほぼ勇者。経験と知識がものをいう!すばらしいドリフコント!これを作った人に感心しかしない。

しかし、途中から堤の知らない聞いてない展開。一体どうするのが正解なんだ?視聴者も??
そういうことだったのか!いやあ、異世界よりも人間のエゴがいちばん怖い。長さとボリュームがちょうどいい。

終わったと思ったら…、姪の凛が「きさらぎ駅に行くよ!!」配信が始まってw
自分だったら電車で寝てる段階であの不良から最初にナイフを取り上げて始末する。てか、最初から何か武器を持っていけよ。

恒松祐里はなぜこんな映画に?もっとメジャーらしい良い企画を用意してあげろ。

2023年2月26日日曜日

集英社新書「英仏百年戦争」佐藤賢一(2003)

集英社新書「英仏百年戦争」佐藤賢一(2003)を読む。小説すばるに2002年1月から2003年5月号まで連載されたものを大幅改稿して新書化したもの。佐藤先生の本はどれもわかりやすく面白いので今後どんどん読んでいく。

自分つい最近まで百年戦争ってイギリスとフランスが100年戦争してたんでしょ?ぐらいの知識しかなかった。
だがそれは間違っている。百年戦争はフランス語を話すフランス人同士の戦争。そもそもこの時代にイギリスという国は存在しない。しかも、ブリテン島南部のイングランドはフランス国王に臣従するノルマンディー公国の属領。

ノルマンディー公国のギョーム2世が奪い取ったイングランドを、ウィリアム1世が臣下たちにキッチリ分け与えたことで誕生した王国がイングランド。フランス王とイングランド王は対等かもしれないが、フランス王からするとノルマンディー公は格下。

ヴァロワ伯フィリップがフィリップ6世となったとき、イングランド国王エドワード3世が「ちょっと待て。フランス王位は俺のものだろ」と言ってきた。フランスは古ゲルマンの部族法(サリカ法)によって女子は王権を相続できない。だが、エドワード3世の母イザベルはフランス国王フィリップ4世(美男王)の娘。当然に自分に王位継承権があると主張。

スロイス海戦クレシーの戦いでフランスは惨敗。イングランドの領地を臣下に分配して王権の強固なイングランドに対して、フランス軍は寄せ集め。長弓隊のイングランドに騎馬で立ち向かったフランス側はひたすら死者を増やしてしまった。
ポワティエの戦いでは黒太子エドワードの部隊に国王ジャン2世が捕虜になってしまう始末。王太子シャルル(後のシャルル5世)は巨額の身代金(国家賠償)を払うために奔走努力。

百年戦争は和平の成立してた期間も長い。
しかし、ヘンリー5世の登場で戦争再開。英語よりもフランス語が苦手という初のイングランド国王がヘンリー5世?この王になってからイングランドによる対外侵略戦争へ?
イギリスでは百年戦争はフランスに勝利したことになっていた?それはシェイクスピアのせい?自分はまだシェイクスピアの「ヘンリー5世」を読めてない。

アンジューもメーヌも、ノルマンディーもガスコーニュも、ブルターニュもブルゴーニュもロレーヌもまだフランス王国ではなかった。歴代の王たちがだんだん切り取って行った。それが王様の仕事。
ブルゴーニュ公国の女相続人マリーが神聖ローマ皇帝マクシミリアンと結婚しフランドル伯領保持に奮闘しなければ、オランダ・ベルギー・ルクセンブルクは今もフランスだったかもしれない?

自分は今何かを取り戻すかのように、世界史の本をじゃんじゃん読んでいる。一度読むだけでは覚えられないが、同じ箇所をいろいろな本で何度も読むことで、たぶんだんだん頭の中でイメージがクリアになっていく。

2023年2月25日土曜日

思い出のマーニー(2014)

スタジオジブリ制作のアニメ映画「思い出のマーニー」(2014)を初めて見る。1月に金ローでやってたので。
イギリスの児童文学作家ジョーン・G・ロビンソンの「思い出のマーニー」を原作とし、舞台を現代日本北海道の釧路地方に移し、登場キャラもすべて日本人に置き換えた日本人向けアニメ。

監督は米林宏昌。「借りぐらしのアリエッティ」の監督だった人だ。脚本は丹羽圭子、安藤雅司、米林宏昌の3人がクレジット。音楽は村松崇継。
自分はすでに原作を読んでいる。北海道に移し替えてどうやって描いてるのか期待して見る。

ヒロイン佐々木杏奈(高月彩良)は札幌の中学1年生12歳。笑うことができずいつも暗い顔。自分のことが嫌い。しかも喘息。それは可哀想。
高月彩良が最初からアニメ声優らしくない声で意外な感じがしてちょっと驚く。
杏奈が大人しいので、大人に見える。子どもなのに美人に見える。
頼子(松嶋菜々子)は育ての母(血のつながりはなし)。この人がちゃんと杏奈を心配してるし良い人。この人も暗い。杏奈のことで思い悩んでる。

医師(大泉洋)のススメもあって夏休みの間だけ大岩のおじさんおばさん(杏奈はよく覚えていない)の家に行く。1人でかっこいい特急車両とローカル線を乗り継いで。北海道の道東らしい風景。
駅でお出迎えのおじさんおばさん(寺島進と根岸季衣)もいい人そうだ。車窓から見えたあれは何?ああ、そうか。英国だと風車だけど、北海道だとサイロか。

与えられた部屋がすごく広い。しかも窓からの風景が絶景。これは喘息を癒すのに良さそうな場所だ。
郵便局に行った帰りに沼地の対岸に洋館があるのを発見。「え、知ってる気がする」近づいてみるけど人が住んでる気配がない。
帰ろうとしたら潮が満ちてて帰れない。するとそこに手漕ぎボートのおじいさん。無言で乗れと合図。知らないおじさんの舟に乗っていいのか?
おじさん「湿っ地屋敷に近づかないほうがいい」なんで?外国人が使ってたけど長く空き家みたい。

その晩、杏奈は夢を見る。屋敷の窓の側で少女が髪を梳いている。杏奈は屋敷のスケッチに出かけるようになる。
のぶ子という近所の女の子が馴れ馴れしくて嫌。こいつといるのがすごく厭そう。コミュ障杏奈はのぶ子を拒絶。たぶん生理的に嫌な風貌。(こいつのママも嫌なやつ)

行く場所はいつもあの屋敷が見える海辺。両親が亡くなって親族で自分を押し付け合う嫌な場面がフラッシュバック。
勝手にそこにあったボートで漕ぎ出す。夜中に子どもが一人で。それは危ない。

屋敷に近づくと金髪の美少女がこっちに駆け出してくる。ロープをこっちに投げて!
あなたは本物の人間?夢の中に出てきた子とそっくり。
この子がもう一人のヒロインであるマーニー(有村架純)。人と壁をつくる杏奈がマーニーとだけは仲良しになる。そしてその関係はふたりだけの秘密。満潮になるたびにふたりは一緒。ひとつずつ交互に質問。
有村もアニメ声優らしさがまったくない声質。

マーニーは嫌がる杏奈を強引に屋敷でのパーティーに誘う。ばあや(吉行和子)もなんだか意地悪そうで嫌。
マーニーとダンスを踊る。「私のこと探してね」
だが杏奈は路上で裸足で倒れているところを保護される。このパーティーは何なんだろうか?まるでシャイニングみたいな?
昼間に屋敷に行ってみるとやっぱり空き家。その後一週間はマーニーと会えなくなる。しかし、久子さんという絵を描くおばさんと出会う。「屋敷は改修工事が入るらしい」

東京から転居してきた赤い眼鏡の少女彩香(杉咲花)が登場。彩香が古い日記を読解。「あなた、マーニー?」なぜそう思った?!
マーニーは杏奈の空想の中の存在?!マーニーとは誰なのか?
原作読んだので知ってるけど、時空を超えた幻想怪奇展開。杏奈と和彦?それは原作になかった要素。廃サイロってこんな不気味な存在なのか?
そして久子さんが語るマーニーの悲しい真実。
これ、子ども向けな話なのか?ちょっと「鉄道員」という映画も思い出した。
ボートのおじいさんの存在感が原作よりも薄くなってた。
道東は十数年前の9月に一度行ったきり。夏に行ってみたい。

主題歌はプリシラ・アーン「Fine On The Outside」

2023年2月24日金曜日

新ヤング・インディ・ジョーンズ②「悪魔の黄金」(1993)

新ヤング・インディ・ジョーンズ②「悪魔の黄金」ミーガン&H.ウィリアム・スタイン作、富永和子訳の偕成社版(1994)で読む。日本語訳の本編さしえイラストは北殿光徳。
Young Indiana Jones and the Lost Gold of Durango by Megan Stine and H. William Stine Copyright© 1993 by Lucasfilm Ltd.(LFL)
今回のヤング・インディの舞台は1912年8月のコロラド州デュランゴメサ・ベルデ遺跡
電信技士は13歳の少年が大統領からの電報を待っていることを信じない。そこに悪党バトラー兄弟が脱獄してデュランゴに向かっているという電報。技師に代わって保安官の元へインディは電報を届ける。

家に戻ると父ヘンリーの友人考古学者ジェシー・ウォルター・ヒュークスという人物と出会う。(この人はメサ・ヴェルデ遺跡を調査したことで有名な実在した偉い考古学者らしい)

そこでロンリー・ウルフの異名を持つ15歳ぐらいの少年ジェイと出会う。この子はプエブロ・インディアン(この本が出版された当時はまだネイティブアメリカンはインディアンと呼ぶのが普通)と白人の混血(まだハーフという呼び方もない)。
考古学者を目指すインディ少年はとジェイと一緒にメサ・ヴェルデ遺跡(1200年ごろ姿を消したアナサジ・インディアンの住居群)を探検。

野宿してる間に脱獄した銀行強盗に食料も馬も盗まれる。それは真夏のコロラドでは命の危機。
実はジェイの父親はかつてバトラー兄弟と一緒に銀行強盗をした仲間。だが、逃走中にインディアンを射殺した件で仲たがい。父はメサ・ヴェルデのどこかに盗んだ金貨を隠したという。そして一緒に金貨探し。

そこで白髪の老人と出会う。自称アナサジ・インディアンの生き残り。
インディはガラガラヘビに噛まれる危機を老人に救われる。その場面が表紙イラストになってる。(だが、この老人の本当の正体とは?)

バトラー兄弟にせっかく見つけた金貨を奪われ、大木に縛り付けられる。そして逃げて行く。(なぜ貴重な馬を撃ち殺したのか意味がわからない)
そんなインディとジェイ、バトラー兄弟、そして謎の老人による金貨をめぐる争い。

映画「インディ・ジョーンズ / 最後の聖戦」(1989)冒頭に登場する「コロナドの十字架」エピソードに少しだけ触れる。そしてインディの帽子の件にも。

このシリーズは読者のために巻末で歴史背景解説があるのだが、それがすごくためになる。自分、メサ・ヴェルデ遺跡を今日までまったく知らなかった。

あと、心のきれいなインディ少年もいつかは悪い美女に騙されるようになるとか。

2023年2月23日木曜日

山田杏奈「早朝始発の殺風景」(2022)

2022年11月から12月にかけてWOWOWで放送された「早朝始発の殺風景」全6話を見る。青崎有吾による同名短編集(集英社)を原作とするドラマ。主演は山田杏奈奥平大兼

始発の電車、放課後に立ち寄ったファミレス、観覧車の中などで繰り広げられる高校生たちの気まずい会話青春密室群像劇。
演出は瀧悠輔、坂上卓哉。脚本は濱田真和。脚本監修として岡田惠和

第1話「早朝始発の殺風景」
けだるい朝、加藤木(かとうぎ)くん(奥平大兼)は高校へ通学。ナレーションによれば「濁った青春から僕たちが脱出するまでの物語」
昼休みに校長先生から校内放送。啄木町での通り魔事件への注意を促す。なぜか殺風景(さっぷうけい)さん(山田杏奈)がブチギレ顔。

加藤木と殺風景はなぜか5時半の始発電車でふたりきり。殺風景さんによれば「GW開けから毎日始発に乗っている。今日で10日目。」「でも加藤木くんと会うのは今日が初めて。今日はどうして始発に?」このふたりはなぜ始発に乗っているのか?

加藤木の言うことがいちいち殺風景には疑わしい。加藤木の話の違和感と矛盾点をいちいち突いてくる。まるで刑事のような眼差しで次々と質問してくる。
「ケータイ見せて」と迫ってくる。「キミは僕の彼女か?」「何も後ろめたいことがなければ見せれると思うけど?」
そして殺風景さんの恐るべき論理的推理力!まるで舞台芝居のような迫真の会話劇。
山田杏奈の目つきと口調がSっぽくてとてもいい。めちゃくちゃ鋭い。自分も学生時代にこういう子に精神的に拘束支配されたかった。

だが、加藤木も反撃。殺風景が始発で公園に向かう目的を推理し仮説として提示。
しかし、殺風景は衝撃の真相を告白。親友叶井(瀧七海)が公園で通り魔から理不尽な仕打ちを受けていた。殺風景は犯人を見つけ出しギタギタに切り刻むつもりだ…。

第2話「メロンソーダ・ファクトリー」
加藤木と殺風景は高校屋上で今後の捜査方針を相談。 
一方で同級生たち真田(吉川愛)、詩子(中田青渚)、ノギちゃん(尾碕真花)の仲良し3人組はファミレスで文化祭クラスTシャツ選定会議。

詩子は驚くべき秘密を抱えていた。これも驚きの脚本だった。
今回のメインキャスト3人はみんな演技が上手かった。それでも吉川愛の演技の自然さと上手さに圧倒された。山田杏奈も吉川愛もレベチの選ばれた存在だと思い知らされた。
第3話「夢の国には観覧車がない」
フォークソング部の遊園地での3年生送別会。寺脇(伊藤あさひ)が葛城(莉子)に告白しようと思ってたら、幹事の伊鳥(望月歩)とふたりきりで観覧車に乗る羽目に。伊鳥の狙いとは?という話。
1話、2話は衝撃的だったのだが、第3話はそれほどでもなかった。高校生ってここまで策士チェスプレーヤーみたいなの?

葛城さんがガチでフォークとニューミュージックが好きという設定がすごい。そんな女子高生いる?

第4話「捨て猫と兄妹喧嘩」
殺風景は叶井との想い出の観覧車から犯人を目撃。おとり捜査を提案するが加藤木から反対される。

麻(髙橋ひかる)は友人たちからカラオケに誘われたのだが、母の誕生日のために断る。友人から美味しいケーキ屋を紹介され母へお土産を買ったのだが、母は仕事で会食。
カラオケにも行けず、ひとりベンチでケーキになってしまう。「ケーキ美味っ」「でも、寒っ」
麻は捨て猫を拾う。久しぶりに会う兄直文(萩原利久)に相談。たぶん両親離婚で別々になってる。「直兄ぃの家で飼ってくんない?」「ムリムリ!」兄妹で口論。
なんか、このドラマの登場人物たちは誰も高校生に見えない。なんだかみんな大人っぽい。じつに色々なことに気づく。
この回もほぼ二人芝居会話劇。髙橋ひかるも個性的な顔してて演技が自然で上手。

第5話「三月四日、午後二時半の密室」
あっという間に卒業式シーズン。クラス委員の草間(藤野涼子)は先生から卒業証書を病気欠席した生徒に届けるようにたのまれる。仕方なく親しくもない煤木戸(茅島みずき)の家に届ける。

煤木戸はとても大人っぽいし意見をはっきり言うし取りつく島のない生徒。一方で草間は人がいい挙動不審おっちょこちょい。気まずいふたりの会話劇。
草間はやっぱり目ざとく色んな事に気づいてしまう鋭い名探偵。部屋を辞去しようというそのときに、風邪で数日寝ていた部屋らしくない違和感に気づく。
このドラマを見てると名女優は脚本がつくるものだなと思う。

最終話「啄木町の七不思議」
殺風景と加藤木はついに犯人と遭遇。叶井に写真を送って確認。間違いない。しかし犯人を罠にかけようとするそのとき、加藤木のおっちょこちょいのせいで犯人を取り逃がした?

あれ?なんだこの編集。すべて端折ったように話がイッキに飛んだ。ここで視聴者はふわっと放り投げられたような感覚。いったい何がどうなった?
犯人の自宅を突き止めた段階で推測できるけど。加藤木が何かを隠してる?殺風景を避けてる?

加藤木と殺風景の取った行動の答え合わせ。これはスッキリしない爽快感のない現実的解決。
それと犯人のキャラ造形が弱いと感じた。だがそこは深く描かなくていいという判断だったのかもしれない。
友人を暴行した犯人を追うというメインのストーリーに4本の日常系ミステリを絡めたドラマ全6話。
このドラマを作った人々は志が高い。すばらしいクオリティ。たぶん原作が良かったのかもしれない。脚本も演出もよかったかもしれない。多くの人に見られるべき作品。

第1話からめちゃくちゃ引き込まれた。山田杏奈の演技力に圧倒された。山田が素晴らしすぎて奥平大兼がかなり見劣りした。

主題歌はyutori「モラトリアム」

2023年2月22日水曜日

塩野七生「レパントの海戦」(1987)

塩野七生「レパントの海戦」(1987)を新潮文庫(平成10年18刷)で読む。これで「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」と読んできた三部作のしめくくり。

無敵のオスマン・トルコに対してついにスペイン王フェリペ2世率いる西欧連合艦隊が立ちふさがる。(コンスタンティノープル陥落から118年)

今回の主人公はキプロスから帰任したアゴスティーノ・バルバリーゴ。東方の情勢をヴェネツィア共和国の元老院に報告。この人が後のヴェネツィア海軍参謀長。国営造船所火災を機にトルコがキプロスを奪いにきていよいよ戦争。1571年の10月。

自分、レパント海戦というとスペイン王フェリペ2世だと暗記していたのだが、この王は特に何もしてなかったw 弟のオーストリア公ドン・ホアンという青白いひ弱そうな男と取り巻きを送ってきた。ヴェネツィア側は早くキプロスへ向かわないと!と焦るのだが、スペインはのらりくらり出航を遅らせようとする。ヴェネツィア海軍の司令官セバスティアーノ・ヴェニエルは激怒。この人、ずっと激怒。これが寄せ集め連合艦隊だ。

敵艦隊と遭遇しいよいよ臨戦態勢というときに、ヴェネツィア船員とスペイン兵士でもめ事。狭い甲板で帆の上げ下げと操船に忙しいのに、ウロウロする暇な兵士ほど邪魔なものはない。ケンカが起こって殺し合い。ヴェニエルはスペイン兵4人を処刑。すると今度はドン・ホアンが激怒。ダメだこりゃ。

しかし、8月にファマゴスタ要塞が陥落していたニュースがやっと届く。命は助けると言っておきながら、開城してみたら籠城軍とヴェネツィア人は老人子どもを含めて全員虐殺。ギリシャ人は奴隷。トルコ軍司令官ムスタファ・パシャは1年間抵抗した現地司令官ブラガディンを全身の皮をはぎ取り海に入れ、最終的に首をはねるという残酷さ。まさに鬼畜の所業。これにはようやくキリスト教国が一致団結。ガレー軍船の漕ぎ手までが怒りに燃える。

1571年10月7日正午、砲音が鳴り戦闘開始。海軍史上、ガレー船同士の海戦としては、最大の規模で戦われ、かつ最後の戦闘となった。そして最後の十字軍。それがレパント海戦。両軍合わせて500隻と17万人が正面から激突。

海戦は西欧神聖同盟軍の圧勝。だがキプロスは奪われる。この時代の航海技術ではトルコ軍を追いかける余裕もなく翌年に持ち越し。
だが、もうヴェネツィアはスペインが信用ならないし頼らない。ケンカ別れ。フランスもイギリスも参加せず。結果、ヴェネツィアはトルコとかなり不利な単独講和。これには西欧世界から非難ごうごう。

駐コンスタンティノープル大使バルバロも本国の決定を、帰任後の元老院で批判演説。
「国家の安定と永続は、軍事力によるものばかりではない。他国がわれわれをどう思っているかの評価と、他国に対する毅然とした態度によることが多いものである。」 
「トルコ人はわれわれヴェネツィアが、結局は妥協に逃げるということを察知していた。それは、われわれの彼らへの態度が、礼をつくすという外交上の必要以上に、卑屈であったからである。ヴェネツィアは、トルコの弱点を指摘することをひかえ、ヴェネツィアの有理を明示することを怠った。」 
「結果として、トルコ人本来の傲慢と尊大と横柄にとどめをかけることができなくなり、彼らを、不合理な情熱に駆ることになってしまったのである。被征服民であり、霞友の役人でしかないギリシャ人にもたせてよこした一片の通知だけでキプロスを獲得できると思わせた一時にいたっては、ヴェネツィア外交の恥を示すものでしかない。」
この老大使の言葉は現代の世界にそのまま当てはまる。キプロスはクリミアだし台湾。オスマントルコはそのままロシアだし中国。
ドイツがヴェネツィアと同じような行動を中国にしないか心配。

2023年2月21日火曜日

塩野七生「ロードス島攻防記」(1985)

塩野七生「ロードス島攻防記」(1985)を新潮文庫(平成10年21刷)で読む。

コンスタンティノープル攻防戦(1453)から70年。マホメッド2世(メフメト2世)の時代から3代下ってスレイマン大帝の時代になるとオスマン・トルコはシリア、アラブ、エジプトを支配する大帝国。東地中海の覇者。だが、喉元のトゲのような存在が聖ヨハネ騎士団の居座るロードス島

この島のことは高校世界史ではなんとなくしか見聞きしてない。薔薇の咲く温暖で気候の良い島。
もともとは聖地巡礼キリスト教徒を保護したり病院を運営したり、イスラムの奴隷となってるキリスト教徒を保護し故郷に戻すボランティア団体。ただし、騎士として参加できるのは貴族の子弟でキリスト教の修道士。妻帯は許されず清貧、服従、貞潔を信条とする。

コンスタンティノープルからシリア、エジプトへ向かうトルコ商船はロードス島の近くを通る。これを襲撃し物品を奪い、こぎ手奴隷となってるキリスト教徒を解放。カリフ・スレイマンはいよいよロードス島を攻略する準備がととのう。1522年の夏。

この本は前半まるまるロードス島と聖ヨハネ騎士団の歴史解説。ローマ教皇と西欧、神聖ローマ皇帝、スペイン、ジェノヴァ、ベネツィアといった国際情勢解説。そして147Pになってやっと戦闘開始。

ジェノヴァ近郊の貴族の次男アントニオ・デル・カレットという若い騎士目線。叔父ファブリツィオは先代の騎士団長。
そしてオーヴェルニュ地方の名家出身のジャン・ド・ラ・ヴァレッテ・パリゾン。
これらの人々が何らかの手記を残したので、この攻防戦のあらましがわかってる。

さらにヴェネツィア領ベルガモ出身の築城技師マルティネンゴの目線。弓矢で戦ってた時代が今では大砲を打ち合う時代。コンスタンティノープルもトルコの大砲で城壁が破られ陥落した。大砲に対抗できる城壁と砦を準備しないといけない。籠城戦といってもどれほど堅固でもいつまでも持ちこたえられるものでもない。こちらは堀を深く掘る。相手は地下道を掘って爆薬を仕掛けてくる。

なので援軍を出してもらわないといけないのだが、このときのローマ法王には政治力がなかった。神聖ローマもフランスもスペインも援軍を出す余裕がなかった。商業国家ヴェネツィアは現実路線。トルコとも取引してたので中立。ロードス島の陥落も時間の問題。

トルコ兵10万に対しロードス島城塞の中に戦闘員6000人で大激戦。トルコは倒した騎士の首を砲弾として相手に撃ちこむような残虐行為。
中世ヨーロッパのあの鉄の甲冑は接近戦になって相手に組み伏せられるともうなにもできないらしい。

だが28歳のカリフ・スレイマンはわりと寛大な和平を持ち掛ける。騎士団も領民も命と財産を保障。島を出るのも良いし、トルコの領民として数年は税金も免除。
そして5か月、トルコ側も多大な犠牲の後に和平成立。

ロードス島を退去したあと各地を転々とした聖ヨハネ騎士団は、やがてローマ・コンドッティ通りに建物を所有するようになる。これは現在もイタリアの治外法権国家。国連オブザーバー参加のマルタ騎士団。

自分、聖ヨハネ騎士団が後のマルタ騎士団だと読んでる最中に気づけなかった。ヴァレッテという名前を見ても、これがマルタの首都ヴァレッタの語源となった人名だと気づけなかった。悔しい。

2023年2月20日月曜日

塩野七生「コンスタンティノープルの陥落」(1983)

塩野七生「コンスタンティノープルの陥落」(1983)を新潮文庫で読む。
コンスタンティノープルの陥落(1453年5月29日)といっても高校世界史で1行しか書かれていない攻防戦の前夜と、砲撃、海戦、戦後エピローグを252ページで描く。

ローマ帝国は東西に分裂してすぐに西側が没落。330年にコンスタンティヌス大帝が遷都して以来1123年間、地中海世界の首都はコンスタンティノープルだった。
だが、最盛期に100万以上いた国際都市もすでに斜陽。15世紀には外国人を入れても10万人以下?!

冒頭の3章でさささーっとこの物語の登場人物たちを列挙。ビザンチン帝国の皇帝コンスタンティヌス11世、オスマン・トルコのスルタン・マホメッド2世、その側近、小姓。

そしてコンスタンティノープルに滞在していたジェノヴァ人、ベネツィア人、フィレンツェ人たち。ギリシャ人と区別してまとめて「ラテン人」と呼んでいる。医者、提督、大使、学僧。最初はあまりにスピーディーにつぎつぎに登場するので、てっきりコンスタンティノープル群像劇かと思った。思っていたよりも登場人物は多くない
実はこの人たちこそが生き残って後世に記録を残した。日ごとに変化していくコンスタンティノープル内部の様子を今知ることができるのは、日誌を書き残した人がいたおかげ。

トルコの21歳の若いスルタンが短気で残虐。ほぼ織田信長。その一方で東ローマ皇帝46歳は温厚に見えた。

自分、てっきりコンスタンティノープルは海から攻められたのかと思っていた。それも合っているけど、超特大の大砲で陸上から包囲し城壁と塔をどかんどかん砲撃していた。ハンガリー、セルビアが無理矢理トルコ側に参加させられ同じキリスト教徒を攻撃させられていた。その一方、西側キリスト教国は軍を派遣するどころでなく、ベネツィア、ジェノヴァ、ローマ教皇が派遣した傭兵はわずか。

中世はキリスト教徒といえど残虐なことをしていたけど、イスラム教徒のトルコ人もさらに残虐。捕らえられた船長船員たちは残虐な方法で殺されていた。
イェニチェリ軍団って督戦隊だったの?!
城壁を破って乱入したトルコ兵は略奪と殺戮。生き残った市民は老人と幼児は殺し、全員奴隷として売られる。(こういうの読むと、アルメニア人大虐殺はやっぱりあったのかもと思う。)

戦闘に参加したヴェネツィアが大損害を出した。だが中立を守ったジェノヴァもやがて降伏を要求され城壁も壊され土地も家屋も失う。コンスタンティノープルと黒海での通商を失って以後のジェノヴァは西地中海と大西洋へと向かう。

この本を読むことで、薄っすらしか知らない歴史の一場面をいきいきと思い浮かべられるようになった。イメージを固める助けにはなった。コンスタンティノープルの地形がなんとなくわかった。
コンスタンティノープルの陥落とビザンチン帝国の消滅によって西欧の人々は古代ローマという母胎から完全に切り離された。

だが、司馬、清張、吉村と同じようには劇的に感じなく、歴史小説としての面白さにおいては「この程度か」とちょっと失望するレベルだった。塩野七生は人気作家なので、もっと文章が上手いのかと思ってた。淡々と事実を列挙するのみで、あまり読者のツボを突いてこない。
けど、三部作の残り2作「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」は読もうと思う。

2023年2月19日日曜日

宮崎駿「ハウルの動く城」(2004)

宮崎駿監督の長編アニメ映画「ハウルの動く城」(2004 スタジオジブリ)を見る。まだ一度も見たことがなかった。今年1月に金ローで放送されたので録画しておいた。最近の映画だと思ってたら2004年の映画だと知ってびっくり。久石譲によるこのテーマ曲は当時よく耳にした。

開始数分を見る限り、宮崎駿によくある石炭と蒸気機関が未来をつくるという19世紀のドイツかフランスかという異世界が舞台っぽい。ストラスブールっぽいと感じていた。調べてみたらコルマールという街らしい。

キムタク声の金髪青年ハウルが初登場シーンからまるで結婚詐欺師か何かに見える。
本作のヒロイン・ソフィーは倍賞千恵子さん。
なんと魔女美輪明宏からいきなり老婆になる呪い。なにそれ酷い。しばらくお婆さんひとり旅が続く。

自分、昔から宮崎アニメの老婆の醜怪さが酷いと思ってた。たぶん宮崎駿が子どものころに見ていた明治生まれの年よりはこんな感じだったろうと思う。
ハウルの動く城って何なん?公開当時からこの異様なデザインが受け付けなかった。なぜこんなものが山道をさ迷い歩いてる?

ソフィー婆さんはなぜかこの魔法使いの城の内部にしれっと潜入。
神木隆之介くんの声がほぼ子ども。
キムタクの声が俳優キムタクらしくない。普段からこの声で演技をすればいいのに。

この国は戦争中。ハウルも国家に協力しないといけないとか19世紀的。
海辺の街に満身創痍の軍艦が曳航されてくるシーンを見て黒海艦隊モスクワを連想。

ハウルが意外に面倒な人。なんか岸辺露伴ぽい。家政婦に棚を掃除され激しく落ち込む。
王宮に「翔んで埼玉」の百美みたいな人がいる。
なんで自分に呪いをかけた魔女の介護みたいなことしてる?
魔法と魔法の戦いは何が何だかというストーリーで困惑する。正直自分はポニョ以上に意味のわからない映画だった。

2023年2月18日土曜日

横溝正史「犬神家の一族」(1972)

横溝正史「犬神家の一族」を読んだ。ついに読んだ。
市川崑の映画版(1976)を何度も何度も見てよく知ってる作品なのでもう読まないでいいかと思ってた。昨年の夏ごろに110円で平成18年角川文庫改版「金田一耕助ファイル5」が売られていたのを見つけてつい手に取って連れ帰った。

「キング」1950年1月号から1951年5月号まで掲載された作品。なんと1972年に角川文庫化されるまで単行本になってなかった?!
綾辻先生によればこの作品も発表当時はあまり評判がよくなかったらしい。以後、横溝正史は作風が世間の求めるものと合わなくなる。時代は松本清張のような社会派ミステリーが主流。

そして1976年の映画化で突如世間は横溝正史大ブーム。このころ国鉄のディスカバージャパンも始まってた。戦後経済成長がひと段落。ようやく日本人はあの時代を回想し懐かしむことができるようになっていた。古い因習に支配された田舎に目を向ける余裕ができた。(この時代は超能力、心霊写真、ノストラダムスの大予言までもがブーム。)

実は自分はこの本を高1ぐらいのときに持っていて読んでいた。当時は杉本イラスト表紙の角川文庫だった。何度も引っ越しするうちに無くなってた。たぶんどこかで処分した。また再びこうして買い求めてる。この金田一耕助ファイル版は巻末にまったく解説がなくて困る。やはり旧版を買い求める方がよかった。

この作品も他の横溝作品と同様に、映画と原作で大きく違っていることが多い。自分は市川崑版のテンポよく整理された脚本と、適切に大げさで劇的な演出が好き。だがそれでもこの原作本もこれはこれで好き。

映画では犬神家は信州で一代で成り上がった製薬業だったのだが、原作では製糸業だった。
今回読んでみて、犬神佐兵衛翁の遺言状が意外に長いなと感じた。
あと、昭和20年代にはもう「モーションかける」って言葉があることが意外だった。

ちなみに自分が「衆道の契り」という言葉を初めて知ったのがこの作品だった。映画を初めて見たときは人間関係がよくわからなかった。

映画では岸田今日子さんが演じてた琴の師匠の正体に、原作ではとある重要キャラが重ねられてて大びっくりだった。
那須神社の神主さんが慎みがなく思慮浅く宗教者にしては他人の秘密というものを重要に考えてない。このキャラの行動が犯人に影響を与えていたことも、今回初めて知った。

犬神家の系図が掲載されている。佐清が29歳、佐武が28歳、佐智が27歳、野々宮珠世が26歳、小夜子が22歳だと知った。

島田陽子さんの珠世はよかった。今現在、絶世の美女珠世を演じられそうな女優が思い浮かばない。今現在26歳の女優というと橋本愛、小松菜奈が該当する。27歳だと川口春奈。25歳だと中条あやみ、芳根京子。
だが、自分にとって絶世の美女と言ったら「海街diary」の撮影当時27歳のまさみしかいない。

PS. 市川崑による映画「犬神家の一族」(1976)で那須ホテルとしてロケ地に使用された長野県佐久市の井手野屋旅館さんが経営者夫妻高齢化により売却されるらしい。

実は数年前からここに泊まりに行くことを考えていた。だが、周囲に何があるのか?どこに足を伸ばそうか?などぼんやり考えていたらコロナになってしまった。ワクチン4回目打ったし、春になったら行こうかな…と考えてた矢先にこのニュースを目にした。

2023年2月17日金曜日

探偵ロマンス(2023)

1月から2月にかけてNHK総合で放送された「探偵ロマンス」全4話を見た。探偵作家江戸川乱歩誕生前夜を描くもの。江戸川乱歩こと平井太郎の若き日を描いてる。「なにそれ面白そう」ということで見る。

主人公平井太郎は濱田岳。そして探偵白井三郎役を草刈正雄
NHK大阪放送局制作。坪田文の作で脚本。朝ドラ「カムカムエヴリバディ」を手掛けたチームが集結して製作。同作に所縁のあるキャストが多数出演という触れ込み。
乱歩作品を読んでる人にはおなじみ「赤い部屋」もぶっこむ。そういう筋の金持ち偉い人たちの社交たまり場。この場を取り仕切ってるミステリアスな女主人?が松本若菜。ここ数年はすっかり人気女優と言っていいようだ。このドラマでもかなり活躍。

夜の帝都を騒がすピストル拳銃強盗を追う警察、新聞記者、そして平井。あえなく射殺されてしまう成金の令嬢が「瀬戸内海賊物語」(2014)に出ていた柴田杏花だ。自分、ずっと長い間この人を忘れていた。今は杏花という芸名で活動しているようだ。
初回から拳銃を撃ちあうアクション展開。草刈さんががんばってる。乱歩時代の帝都東京を雰囲気で描いてる。
しかし、期待に反して自分にはあまり面白く感じられなかった。初期乱歩の幻想と才気の感じられる短編が好きなのだが、このドラマはどう見ていいのかわからなかった。
D坂の古本屋「二人書房」の女主人で、平井の下宿の大家が本上まなみ
自分、この人が90年代末から2000年代前半にかけて、まずグラビアから活躍し始めCMで人気を経てドラマ、バラエティで活躍という時期を見ていた。

だが、人気の絶頂でかなり年の離れた編集者と結婚して以来、だんだん見なくなってた。自分が追いかけて見ることをやめたからかもしれない。女優が「結婚してショック」という傷つく体験をした初めてがたぶんこの人。なので今でもちょっと恨んでる。
当たり前だが、もう中年女性感がする。子どもももう相当に大きいはず。調べてないけど。
今回のドラマの驚きは、ロケ地。今まで乱歩作品を作ろうとすると、怪奇と幻想にのみ焦点を当てたレトロに逃げたり、現代に置き換えたりしかできなかった。しかし今回は帝都東京や浅草を、まるで中南米の歴史的町並みのような、石の都市のように描いてた。新機軸。

このロケ場所は最近だと「コンフィデンスマンJP英雄編」などでも使われている。もう震災以前の帝都東京を覚えている人もいないわけだし、こういう描き方も可なのか。平井の幻想に登場する地下水道のシーンもよかった。
個人的に今回のドラマで驚いたのが浅草オペラ館のお百こと世古口凌。「誰、このキレイな女優?」と思ってすぐ調べたら、戦隊ヒーローものなんかに出ていた26歳男性俳優だったw 

その情報を知った今でも、黒島結菜みたいでカワイイって思ってしまう。でも、他の作品だとやっぱりちゃんと男性モデル。もっさり長い髪型は似合ってて良いなと感じた。
カワイイ男の娘に好かれて「その女、誰?」みたいな、コメディでよく見る嫉妬と修羅場とか楽しいに決まってる。
こういう感じ、その手のマンガが好きなおねえさんがたにはたまらないんだろうと思った。
たぶん、これからの時代の「黒蜥蜴」はもう美輪明宏さんみたいな感じでなく、こういったイマドキ美少年感のする、韓国アイドルっぽさもある、こういう俳優が選ばれるかもしれない。
調べてみたらこの俳優は所属事務所に属してないフリーで活動中?だとしたら、こんな俳優をひっぱってきたNHKのキャスト担当者はすごい。
今現在の社会を反映したような内容になっていた。
事前に上白石萌音が出演するって聞いてたけど、このお百という踊子の歌唱をアテている声のみの出演だった。
オペラ館のチンドン屋役で出てる少女役の女優もまったく知らなくて「どこから引っ張ってきた?」と気になって調べた。
山下桐里という子役芸能プロ所属の若手女優らしい。バレエダンサーらしい。すでに22歳なのか。
衣装がリアル大正時代のようでいてリアルでもない。

石橋静河、泉澤祐希、森本慎太郎(SixTONES)、浅香航大、近藤芳正、大友康平、岸部一徳、尾上菊之助といった、NHKならではの豪華キャスト。
そして音楽は大橋トリオ。もう長いこと大橋トリオを聴いてなかった。忘れてた。
市川実日子が重要な存在のはずなのに、最後のみ登場のチョイ役すぎてびっくりした。イルベガンって結局なんなんだよ。

2023年2月16日木曜日

吉村昭「アメリカ彦蔵」(1999)

吉村昭「アメリカ彦蔵」(1999)を読む。平成11年に読売新聞社から刊行されたものを平成13年新潮文庫版で読む。吉村昭も著作が多くて、どんどん読まないと読み切れない。

主人公の浜田彦蔵(1837-1897)は幕末の船乗りで漂流民。アメリカ船に拾われやむなく渡米。後に通訳として帰国した人物。なぜかジョン万次郎ほどには有名になっていない。この本もあまり名前があがることがない。なぜだ?

天保八年八月、瀬戸内海播磨灘に面した播磨国加古郡彦太郎は13歳で突然母を亡くす。父親は幼いころに死去。
母は再婚してたので義理の父と船に乗る。母からは船乗りになることを禁じられていたけど生きて行くために炊として雇われるしか選択肢はない。初めて荷を運ぶ帆船「住吉丸」に乗る。壮年の船乗りばかりで13歳の少年に対しみんな優しい。
熊野の港で同じ村出身の船頭に誘われて江戸へ向かう新造船の永力丸に乗り込んでしまう。初めて見る富士。そして10月に品川沖。江戸で浅草や亀戸に参拝。

大阪兵庫に向かうのだが、伊勢に寄らずそのまま遠州灘を渡って潮岬を回って熊野灘で天候が急変。帆柱を切る事態に陥り、彦太郎と船頭たち17名はそのまま漂流。ああ、あの時船を移らなければ。

島を発見するも上陸するかためらう。人食い土人とかいたらどうしよう?また漂流。荷を積んでいるので食料はあるが、もう永力丸が壊れそう。
11月、そして12月と洋上。3本の帆柱の船が通りかかったので救助を求めた。風向きと逆なのに見事な技術で近づいてきて乗り移る。
どうやらアメリカ船なのだが、日本人船乗りはその異国人たちのことがわからない。イェドという言葉は江戸だろうとわかるのだが、ジャパンという言葉の意味がわからない。

12人乗りの船に17人加わったので水と食料を節約しないといけないことがわかる。やっぱり彦太郎はこどもなのでアメリカ人船員たちからも可愛がられる。バターを塗ったパンを食べろと渡されるのだが臭いが受け付けない。食べたふりしてこっそり棄てる。
ブタを屠畜してる様子を見てビビる。容赦なく残忍に生き物を殺す異国人に恐怖。自分たちもいずれ殺されて食べられてしまうのでは?!
嵐が来てるのに本を読んでたりしてる船員の態度と船の構造に驚愕。

嘉永四年(1851)2月にサンフランシスコ上陸。身分の高そうな紳士が彦太郎に靴を買ってくれる。街は石づくりの2階建て3階建ての建物。黒人を見て驚く。
日本人がいる!?と驚いてよく見たら、数人が同時に映る大きな鏡だった。そんな鏡を見るのも初めて。カジノみたいな場所で見世物にされて銀貨などをもらう。なぜみんな親切なんだろう?何が目的なんだろう?
壮年男子たちが何もしないわけにいかないので船の掃除や荷運びを手伝う。

いつのまにか彦太郎は彦蔵と呼ばれるようになる。トマスという若い船員と仲良しになる。いつか日本に行ってみたい!と日本語を覚えようとする。相互に語学を学ぶ。
そして軍艦セント・メリー号で清国の香港マカオへ行くことになる。途中寄稿したハワイで最年長の船頭万蔵が亡くなる。

香港サスケハナ号に身柄を引き渡されるのだが、この船は日ごろ清国人と接してるから東洋人に侮蔑的で荒々しい。食事も粗末で憤る。でも、ペリー艦隊が来れば合流して日本に帰れる!と耐え忍ぶ。

しかし、現地で出会った日本人に無理だと諭される。この男は彦蔵たち以上に悲惨な目に遭い仲間たちも死に、モリソン号でやっと帰れるかと思いきや、異国船打ち払い令によって大砲を撃ち込まれる。もう帰国は断念し現地でアメリカ人と結婚。彦蔵たちは絶望。
広東から南京へ行って清国の貿易船に乗って長崎へ行くルートを目指した者たちは途中の陸路で追いはぎ強盗に遭いボロボロになって戻ってきた。治安悪すぎ。

なかなかやって来ないペリー艦隊に業を煮やしたトマスは日本行を諦め、彦蔵をゴールドラッシュのカリフォルニアに誘う。このトマスくんが先見の明がある。2,3年後には必ず日本は開国して帰れるようになる!アメリカで西洋知識を身に着け日本の役に立つことを考えよう!結局、彦蔵は若い日本人水主2人と行動を共にする。

残りの人々はどうなったか?ひたすら淡々と記録が続く。吉村昭は残された記録を調べ歩いたに違いない。この辺は文学作品ではなくノンフィクションといった感じ。

上海で成功していた乙吉夫妻らの親切と粘り強い交渉でサスケハナを降りた人々は、やはり漂流して現地にいた薩摩藩士らと合流し清国の船で長崎へ。途中で逃亡行方不明者と死者を出しながらも9名が故郷に帰国。
間に入ったお役人たちに一人も狂ったやつがいなくてよかった。ちゃんと人間として同情する心があってよかった。吉村昭の他の著作「漂流」「大黒屋光太夫」の悲惨さにくらべるとかなりマシ。

ペリー艦隊はどうしても日本人漂流民を1人でも日本に届けたかった。仙太郎という人物ただ一人が選ばれた。22歳と一番若かったから。1人になってしまったせいで落ち込みが酷い。日本の役人に引き渡されることを極度に恐れ再びアメリカへ。結果、帰国が遅れた。

彦蔵らはサンフランシスコで職を世話してもらう。アメリカ人たちがみんな博愛と正義の心。漂流民の悲しい身の上に同情して親切。コックとしてタダ働きさせられてると知るや船長に抗議したりしてくれる。

やがてサンフランシスコ税関長のサンダースさんの世話になる。彦蔵だけが。なぜだ?最年少でかわいらしかった?
やがてニューヨーク、ボルティモアに連れていかれる。蒸気車や電信にビビる。(船で行ったのか?パナマ運河はまだなかったはず。どうやらパナマ地峡を蒸気車で横断したらしい。)

サンダースさんは彦蔵を大統領に会わせるというのだが、首長?将軍?会えるわけないやん?門番も従者もいないし、つつましい生活をしててあまり威厳のないこの人がアメリカの首長?嘘やん…と信じないw 彦蔵は第14代アメリカ大統領ピアースと面会してたって初めて知った。
彦蔵はサンダース家がカトリックだったので洗礼を受ける。

彦蔵らは勇之助という新潟からの漂流民とも面会。この人は12人漂流して唯一生存。後にレディ・ピアス号により下田で引き渡し。彦蔵たちも帰れる希望が出てきた。

カリフォルニアが大不況になりサンダース家の銀行も閉鎖で学費が払えなくなる。彦蔵は貿易会社で働く。サンダース氏は彦蔵を教育する機会を失ったことを嘆く。

1857年になって事態が変わる。国務省書記として勤めないか?という誘い。ワシントンに行きブキャナン大統領と握手。だが、その件は空約束だった。影響力を持たない議員の誘いに乗ってしまって後悔。ボルチモアのサンダース氏を訪ねるもボルチモアも大不況。
だが彦蔵は運がいい。以前勤めていた会社の経営者ケアリーさんが彦蔵がお金に困っていないか心配の手紙。
さらに清国と日本の沿岸調査のために軍艦に乗って日本に帰れるかもしれない。しかし彦蔵はキリスト教の洗礼を受けてしまったことで捕えられるかもしれない。ならばアメリカ国籍を取ろう。いろいろテンポが速い。

そして子どものころからずっと面倒を見てくれた老父サンダース氏との今生の別れ。彦蔵は船内で手紙を読み涙。
彦蔵はその後何人もの漂流日本人と出会い話を聴く。誰もがアメリカ人の服装をした日本人にビビる。漂流民が日本に帰れるようにするとなだめる。これまでに出会った船乗り仲間たちとも再開。
香港で別れた岩吉と再会。岩吉も貿易業で日本通詞となっていた。オールコック公使に付き従って日本に帰れるらしい。

彦蔵は外交官ハリスと会う。通訳として雇われる。そして長崎を経て横浜へ。安政六年(1859)6月、9年ぶりに日本の土を踏む。到着してひと月で義兄と感動の再会。義理の父は3年前に亡くなっていた。

居留地を設置する場所の件でドール領事とハリス、外国奉行兼神奈川奉行堀織部正とさっそく外交交渉。彦蔵は初めて幕府高官の堀奉行と相対する緊張。
筋道の通った主張を臆することなくする堀に感心と尊敬。条約の文言にこだわるドールとハリスに滑稽を感じる。実利を重んじる商人たちは横浜に商館を設置し始める。
ロシア人水兵殺傷事件ではロシア艦隊ポポフ総督の通訳も担当し水野忠徳、酒井忠行とも対面。日本語を聴いて話せる彦蔵は貴重な人材。

しかし、英国公使の通訳岩吉(伝吉と改名)が浪人に殺害。警備が厳重な大老井伊直弼も殺された。治安悪すぎ。外国人居留地は恐怖。
さらにヒュースケン殺害、そして東禅寺事件。今いちばん命を狙われているのは、日本人でありながら外国人の姿をしている彦蔵だ…。
彦蔵はアメリカに戻ることを決意。いつのまにか時代は安政から万延を経て文久へ。

サンフランシスコの有力者たちの署名を携えてワシントンへ。サンダースさんと感動の再会。
彦蔵は倉庫管理官の官職を得るためのアメリカ帰国だったのだが東部は南北戦争の戦時下。海軍には新たに任官の余裕はない。国務省が神奈川総領事通訳官にしてくれる約束はしてくれた。だが、彦蔵はなぜか憲兵隊に連れていかれる。何が起こってる?アメリカ人に以前のような大らかさと優しさが感じられない。

南軍の密偵に間違われただけだった彦蔵はなんなく釈放。知己が多いとこういうとき安心。日本に帰国する彦蔵はなんとリンカーン大統領と面会。
サンダースさんと今度こそ最後の別れ。しかし、戦時下で貿易をしてる余裕のないアメリカから日本への便がない。

なんとか日本に帰国するも日本の治安はますます悪化。攘夷派の浪人たちは外国と貿易する商人を天誅だと襲撃し首をさらす。長州を攻撃した軍艦に乗っていた彦蔵も長州の最重要ターゲットになってる。新任の領事と公使とも気が合わないしで辞表を提出。

彦蔵は南北戦争で価格が高騰していた綿花取引を開始。時代は元治になっていた。
彦蔵の元に商人や藩士が話を聴きにやってくる。海外の新聞記事を話して聴かせる。そして日本にも新聞が必要だと感じる。彦蔵は寺子屋で習っただけで漢字が読めないし書けなかった。居留地の眼科医ヘボンのところに出入りする岸田吟香に注目。
そして禁門の変と長州征伐、4か国連合軍による下関戦争。時代は慶応。リンカーンは暗殺され南軍は降伏し南北戦争が終了。

横浜居留地が大火。彦蔵は長崎のフレイザー氏の商社を任される。
グラバー商会と佐賀藩の高島炭鉱共同経営案もまとめる。このころ幕府から武器取引を禁じられている長州藩士が薩摩藩士を装ってやってくる。木戸、伊藤、井上、さらにアーネスト・サトウの訪問。鳥羽伏見の戦いで幕府軍が敗北。時代は一気に動き出した。

兵庫県知事となっていた伊藤博文の計らいで外国人ジョゼフ・ヒコ(彦蔵)は懐かしい故郷を訪問。自分が思っていたよりはるかにみすぼらしくてショック。義理の父の墓に自分の戒名を発見。
そして母の墓を建立。神戸の姫路藩邸で藩主酒井忠邦に招かれる。そして姫路訪問。船乗りの子でしかなかった自分が元藩士たちの上座に座らされている…。

故郷には3回行ったきりもう行かなかった。村人にとって彦蔵は赤の他人で心に厚い壁がある。
井上卿に誘われて大蔵省に勤めたけど、もう明治6年になると流暢な英語を話す官吏が少なくない。それに彦蔵は漢文の公文書を書けない。
気付いたら自分はアメリカ彦蔵と呼ばれてるらしい。40歳で松本鋹子18歳と結婚。絶えていた親類の浜田家を相続して浜田彦蔵を名乗る。
退職して新聞記者として台湾に従軍。それも止めて茶の輸出業。しかし詐欺に遭ってもう商売も止めよう。お金は十分ある。

隅田川を眺めて自分の人生を振り返る。自分は英語が話せたから日本とアメリカ両者の間で利用されただけで結局ずっと漂流民だったな…。
明治30年、61歳で死去。青山の外国人墓地に埋葬。新聞の訃報欄には「アメリカ彦蔵死す。日本で新聞の創設者」。

もうとにかく読んでいて吉村昭の文体が淡々と事実を列挙し、最小限の会話と心の声でつないでる。波乱万丈な人の人生は読者もずっと旅してる感覚。歴史の時空を超える。
読んでいて彦蔵の人生にまったく女性が登場しなくて疑問だった。司馬遼太郎なら芸者とのラブロマンスを面白おかしく盛る。

2023年2月15日水曜日

Perfume P.T.A. TV VOL.14 "Perfumeとあなた"でらっふらふホームパーティー!

毎年バレンタインデー恒例、Perfumeファンクラブ会員向け動画配信イベント企画が今年も2月14日よる8時30分(ネット環境不具合によりかなり遅延して)から配信された。
今回は「P.T.A.」発足15周年・「WORLD P.T.A.」発足10周年を記念した会員限定生配信。「P.T.A. TV VOL.14 "Perfumeとあなた"でらっふらふホームパーティー!」と銘打った企画。

まず、「P.T.A.」 お試し配信!これは非会員でも視聴できる生配信。YOUTUBE、LINE LIVE、インスタ、TikTokといった各社SNSで配信。

Perfumeの3人はパジャマでラフに生で動画配信。あ~ちゃんは「ぱふゅ~む」時代に戻ったかのようなヘアスタイル。
かしゆかは「チョコレイトディスコくつした」を穿いてる。
チョコレートベーグルをつまみながら、ヴェローチェのミルクティー飲みながらスタート。

海外にも配信されている。なので最初の試練。テンション高めの英語MC。
「#Perfume らっふらふ」というハッシュタグでつぶやくと3人が拾ってくれるしくみ。これはLOCKS時代からずっと一緒にやってる放送作家さんが命名。
3人はそれぞれのひらがなイニシャルのイヤリング。
かしゆかとのっちはそれぞれのわんこを膝に抱いた状態。みんなお眠わんこ。
のっちは最近ばっさり髪を切ってハウルみたいな、ハクみたいな状態。

かしゆかは最近沖縄と北海道へ行ったらしい。「海に入ったあと、雪を見たくなった」「行きたい宿が急きょキャンセルが出て飛んでいきました」あ~ちゃん「あの宿はセレブリティーが行くやつ」かしゆか「ニセコの近くの倶知安町。スキー繁忙期でいっちゃん高かった」

のっちはプレステVR2を予約したらしい。最新のVRはすごい!という話題。

あ~ちゃんはイタリアに行っていた。マネージャーとカフェしてるとき旅行を決意。運転免許取得に挑戦中だけど、試験の次の日にイタリア。
あ~ちゃんは1st写真集のとき海外を敬遠してたのに、すっかりアクティブ。

そしてPTA会員のためだけの配信時間。かしゆかは横になった状態からスタート。
イヤーブックを紹介。何万枚の中から写真を選んでる。作ってくれた人たちへの感謝。
そしてPerfume2023-2024カレンダーを紹介。
さらに「15個の企画」を発表。
  • アニバーサリーロゴ発表!
  • アニバーサリー特設サイトオープン!
  • デジタル会員証をスペシャル仕様に変更!
  • 「P.T.A.」LSGランダムキーホルダー発売!
  • ”あなた”のお願い叶えちゃうかもしれない ファンが叶えたい企画。まだ決まってない。家にきなよとか、アルバイトとか、銀座でママとかしてみたい。
  • 「P.T.A.」ファンクラブツアー開催!! 5年ぶり?ファンが求めてるものはライブ。
「あ~ちゃん誕生日おめでとう!」の時間。これで3人全員34歳。三十代は楽しい!を力説。
「P.T.A.15周年クイズ!」のコーナー。会報やブログから出題。かなりの難問をハッシュタグで会員から助けてもらいながら解答。

継続特典、Perfumeウォッチの紹介。3人とウォッチとわんこでスクショタイム。アイドルとしてのPerfumeによるファンサービス。

2023年2月14日火曜日

ナチスの愛したフェルメール(2016)

フェルメールの贋作を描いてナチスNO.2のヘルマン・ゲーリングに売りつけた稀代の天才贋作画家ハン・ファン・メーヘレンを描いたオランダ・ベルギー・ルクセンブルク合作映画「ナチスの愛したフェルメール」(2016)をやっと見る。

英語タイトルは「A Real Vermeer」 (オランダ語では Een echte Vermeer) 。監督脚本はルドルフ・ヴァン・デン・ベルグ。
オランダ・ベルギー圏のローカル色のある映画。それほど国際的に有名な俳優は出ていないのでそれほど見られてもいないが、メーヘレン事件に関心のある人はたいてい見てるっぽい。

ドイツが降伏して間もない1945年5月29日オランダ・、画家メーヘレン(ジェローン・スピッツェンバーガー)が、ナチス国家元帥ゲーリングにオランダの至宝であるフェルメールの絵画を売った罪で逮捕された。(ヒトラーが総統地下壕で自殺したのが4月30日、ドイツ降伏が5月7日)

フェルメールの絵画をナイフで切りつける幻覚シーン、収監されてる初老の男。というシーンから始まる。そして弁護人のいないまま裁判開始。
ナチス協力者及びオランダ文化財略奪者は国家への反逆で重罪。銃殺刑の恐れもある。
長期の懲役刑を求刑されたメーヘレンは、「全て自分が描いた贋作だ」と誰も信じない驚きの告白に転じる。

1920年代、若きメーヘレンの絵はそれなりに評価もされていたのだが、自身の作品が古典派の画風の継承にすぎないと批判されていた。時代はピカソのような斬新な絵が求められていた。自分に無力を感じるメーヘレン。若い頃から相当な量の酒と煙草。

芸術を愛好するブレディウス夫人に酒場での集まりで絵のモデルになるようお願いをする。テーブルクロスにささっとピカソのような絵を描きピカソと署名。こんなものはタダでも要らないと暖炉に焼き捨てる。
メーヘレンは婦人がた相手に絵画教室をやって糊口をしのぐ。そこにブレディウス夫人もやってくる。たぶん相当にお金持ち。

評論家ブレディウスの酷評のせいで不幸になる。妻とも息子とも離れ離れ。イタリアを放浪。絵も描かなくなる。
そこにブレディウス夫人。もともとはハンガリーからやって来たヨーランカ。不倫関係。

だが、自分が描いた贋作を本物として流通させて批評家たちを見返してやろうという復讐に闘志を燃やすようになる。ハルスの絵画修復を依頼され経験を積み実力を発揮。フェノール樹脂は熱で固まりアルコールテストにも耐える。独自に編み出した創意と工夫。ローマの蚤の市で手に入れた古いだけの絵を切り取り画材に転用。

女王陛下御臨席のお披露目で「エマオの食事」を切り裂いて恥をかかせるつもりだった?
オランダがドイツに占領されるとヘルマン・ゲーリングの目にとまる。もしバレたら危険すぎる。しかし画商テオの言葉をゲーリングは信じてしまう。

裁判で極刑が下されるかもしれないというそのとき、「絵を描かせてくれ」。
描いた絵でブレディウスを納得させるつもりが信じない。「エマオの食事」X線撮影で下絵が出て来た。その絵は15年前の絵だった。よってゲーリングに売った絵はメーヘレンが描いたものと判明。多くのフェルメール作品がメーヘレンによるものだと判明。
民衆は掌を返す。メーヘレンはナチスを騙した英雄。検事は赤っ恥。早く謝れ。

しかし詐欺罪は成立。禁固刑と自身の絵をフェルメールと称して売った差額の返却命令。

この映画は事前にメーヘレン事件の予備知識があったほうがわかりやすいかもしれない。自分としては肝心の裁判シーンが少ないように感じた。お色気シーンを盛ったテレビ映画のように感じた。実際の事実と違うことも多いだろうが、これを見たことでメーヘレン事件ってこんな感じだったんだと知ることができた。

2023年2月13日月曜日

真珠の耳飾りの少女(2003)

「真珠の耳飾りの少女」(2003)を今になってやっと見る。原題はGirl with a Pearl Earringなので邦題とほぼ同じ。ヨハネス・フェルメールの絵画「真珠の耳飾りの少女」を題材にトレイシー・シュヴァリエが書き上げた同名小説を映画化。

主演はスカーレット・ヨハンソン。監督はピーター・ウェーバー。脚本はオリヴィア・ヘトリード。日本では2004年に公開。配給はGAGA。
スカーレット・ヨハンソンが主演なことは知っていたのだが、画家ヨハネス・フェルメール役がコリン・ファースだったとは、見ようと思ったそのときまで知らなかった。

1665年のオランダ、デルフトの街。タイル絵師の父(失明してる)を持つグリート(スカーレット・ヨハンソン)は玉ねぎやキャベツを切り何かスープ料理か何かを仕込んでる。
この少女の顔が陶器のように病的に真っ白。眉毛が薄い。ほとんど笑顔もなく不気味。この時代の人はそうだったのかも。
鍋に野菜を配置する仕方が何か美的センス高い。この少女が美術的感性が高いことを示すシーンかもしれない。

母に呼び止められ画家のフェルメール(コリン・ファース)家の女中働きに出される。
この時代のオランダはてっきりプロテスタントかと思ってたのだが、フェルメールの家はカトリック。祈りの声が聴こえても耳をふさいで聴くなと指示。

でっぷり太った女中頭から簡単すぎる手短な仕事の説明。寝床も指示される。主人は画家だと知らされる。
フェルメール夫人(エッシー・デイヴィス)がかなり感じ悪い。女中に親切にしたら負けだとでも思ってるのか。
夫人からアトリエの掃除を命じられる。そこにはフェルメールの名画。少女グリートは画に感銘を受ける。

フェルメールの絵はなかなか完成せず売れず家計は火の車。フェルメール家の隣家が破産。「夫人が不機嫌になるわ。」その家では6人目の子どもが生まれる。
出産祝いと絵の完成祝いの招待状を雇い主ファン・ライフェン氏に届ける。運河を小舟で行く。「豪勢な料理じゃないと行かないぞ」

この映画、見る前になんとなく予想はしていたのだが、今まで見たこともない17世紀デルフトの街の人々の風俗画のような映画。ああ、フェルメールの時代はこんな感じだったのか。この映画を撮るにはすごく研究が必要だったに違いない。

「真珠の耳飾りの女」のお披露目。ファン・ライフェン氏は褒めてはくれたが、次の仕事の依頼はくれなかった。

「光の加減が変わるけど窓を拭いていい?」と問う。夫人とその母は怪訝な顔。
窓を拭いてる姿をフェルメールに見られる。驚いて作業を止めるがフェルメールは何かを感じ取ったらしい。グリートにポーズをさせる。
主人フェルメールの部屋にはカメラ・オブスクラ。「見てごらん」少女はハッと息を飲む。なぜ箱の中に絵が?!それはレンズを通して見た部屋。

この家の女はもれなく性格悪いが子ども(コルネーリア)も性格悪い。腹いせに洗濯物を汚しグリートの部屋を汚して父のタイルを破壊。
フェルメールはグリートに絵の感想を求める。グリートの観察眼の確かさを知る。そして絵具の調合の秘密を教え始める。絵の助手のような仕事をさせる。「そんな時間はない」「時間をつくれ」

雪の中をこどもの薬と絵具材料のお使いに出される。17世紀のオランダの冬はかなり寒そう。運河も洗濯ものもカチカチに凍る。
この家は子どものために乳母を住まわせてるのだが、乳母は食べ過ぎると女中から不満。乳母を地下で寝かせて、グリートは屋根裏にとフェルメールは指示。夫人はまたしても妊娠。
グリートは肉屋の息子といい関係。だんだんとラブラブ。

描きかけの絵の構図が悪いと考えたグリートの考えを的確に理解したフェルメール。グリートに一目置いている。
コルネーリアが夫人の鼈甲の櫛を盗んだ疑いをかけるのだが、グリートを理解するフェルメールはコルネーリアの寝床から櫛を発見。いい気味。
だが夫人は夫が屋根裏部屋にふたりで籠っていることに疑いの目。

子どもが増えて家計が困窮した母はライフェン氏を接待招待。集団肖像画のような仕事はない。愛らしい娘の絵を描くよう提案。フェルメールがグリートの肖像画を描くことは街の噂。ラブラブだった肉屋の息子からも「使用人はつらいな。だが深入りするな」と忠告。

この時代は女使用人が頭巾を取って男性に髪を見せることはしてはいけないこと?
耳飾りをつけさせるためにピアス穴を火であぶった錐で開けられる。モデル少女にいいことはなにもない。モデルはつらいよ。

お金が必要な母は理解してる。夫人の留守中に夫人の耳飾りを貸し出す。それをコルネーリアは見ていた。
ヒステリックな夫人はアトリエに押し入り、自分の耳飾りをつけたグリートの肖像画を見てしまう。世にも怖ろしい事態。この夫人が世にも無様で醜い。
原因をつくったライフェンと母とフェルメールは責任とれ。夫人のいる場所でグリートをちらちら見るな。
カネほしさに名画が誕生?グリートも別の奉公先がなかったのか?

室内、衣服、構図、色合い。この映画はフェルメールの絵画そのもの世界。

2023年2月12日日曜日

イーデン・フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」(1922)

イーデン・フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」(1922)武藤崇恵新訳の2019年創元推理文庫版で読む。
THE RED REDMAYNES by Eden Phillpotts 1922
この本は江戸川乱歩が絶賛したことで早くから日本でも知られていた。ちなみにフィルポッツはアガサ・クリスティーの隣家に住んでいて、十代のアガサにミステリー小説の助言をした人としても知られている。
実はこの本(宇野利泰の旧訳版)を高1ぐらいのとき買って持っていた。読まないうちに何度かの引っ越しの後に見なくなっていた。時空を超えてようやく読む機会を得た。

イーデン・フィルポッツ(1892-1960)は多くの作品を残したのだが欧米では忘れ去られた存在らしい。なのに日本で最近になって新訳がでたことは驚き。発表から100年経って読む。

この物語の主人公はスコットランドヤードの刑事ブレンドン。35歳の若さで出世し貯金も貯まって田舎で鱒釣り休暇中。ずっとこの若い刑事主観。この人がすごく思慮分別がある紳士。謙虚と自制心を英国人そのもの。

この刑事が絶世の美女とすれ違う。この美女がこの物語のヒロインであるジェニー・ペンディーン。
祖父がオーストラリアで財を成したレドメイン家。長男ヘンリー夫妻は海難事故ですでに死亡。その一人娘がジェニー。25歳なのに18歳に見えるという美女。

ジェニーの夫マイケル・ペンディーン(貿易商)は体が弱く、大戦中の兵役の件でジェニーの叔父ロバート・レドメイン(元大尉)と険悪。ジェニーとマイケルの結婚にも反対。
しかし仲直りをし一緒に出掛けていったのだが、バンガローが血の海。周辺の目撃証言によれば、ロバートは大きな麻袋をバイクに乗せて出かけて行きどこかに遺棄し、いちどアパートに戻ってから逃亡したらしい。

休暇中の刑事ブレンドンにジェニーから助けを求める手紙。この若い刑事はジェニーに恋してしまう。休暇中だけど地元警察と協力して捜査開始。
英国警察網の全力捜査によってもマイケルの死体が見つからないし、ロバートの足取りがまったくつかめない。
ロバートの婚約者とその両親によれば、ロバートは戦争神経症?さらにもとから短気でカッとなりやすい性格。

ジェニーはレドメイン家の3男ペンディゴー(貨物船の元船長)の家で過ごす。ドリアというイタリア人青年をボート操縦士に雇っている。ドリアが超ハンサムでブレンドンはジェニーを取られるんじゃないかと不安。

ロバートが逃亡したまま半年。だが突然ペンディゴーの家の周囲でロバートが目撃される。逃亡生活によって体が弱っているようだ。海岸の崖の窪みに隠れているようだ。
ロバートとペンディゴーの2人だけの会談がセッティングされるのだが、またしてもロバートはペンディゴーを殺害し逃亡?そしてまたしても死体もロバートも消え失せてる。

そして舞台はイタリア。陽光のコモ湖。レドメイン家最年長の古書蒐集家アルバートも危ない!?

なぜか中盤からブレンドンに代わって、アルバートの親友で高名なアメリカ人の元刑事ピーター・ギャンズが探偵として登場。ブレンドンに助言していく。ギャンズのほうが名探偵に相当。

ギャンズが登場してから探偵としてブレンドンへの講釈会話が長い。犯人をはめるための心理戦が始まる。

なにせ100年前の古典的作品。自分としては登場人物がわりと少ないので犯人が絞り込めて早々にわかってしまい、長く感じた。どう説明してもネタバレになってしまうのであまり詳しく話せない。
この作者は単純なミステリーに終わりたくなくて文学的にしたかったようだ。

ラストは犯人の独白手記が長々と続く。事件の背後であったことを詳細に説明。
江戸川乱歩が「万華鏡が、三回転するかのごとき」と激賞。昔から日本では評価の高い作品だが、それは言い過ぎのような気もする。実際年々評価を下げ、今ではほとんどフィルポッツは忘れられている。

2023年2月11日土曜日

加藤あい「世界SL紀行 イタリア サルデニア島」(2001)

加藤あいがイタリア・サルデニア島を旅した2001年放送の紀行番組「煙はるかに 世界SL紀行 イタリア サルデニア島 ゴイトといた三日間」が昨年10月に再放送されたので録画して見た。これ、10年ほど前にも再放送されたらしい。

実は自分、2001年の本放送時にVHSビデオテープに録画したものを当時5回か6回見ている。だがそれ以後まったく見てなかった。なので本当になつかしい。
たぶん実家の押し入れにまだある。当時は加藤あいはCMでとてもよく見かけたアイドル女優タレントだった。ドコモiモード、C1000タケダ、などなど、大手企業のCMばかりだった。

加藤あいは1982年12月12日生まれ。たしか、深田恭子と堀越で同級生の仲良し。深田がまず売れて、その後しばらくして加藤が売れた。自分が覚えているのは「池袋ウェストゲートパーク」。そのころ自分も加藤あいが好きだった。たぶん写真集が実家の押し入れにあるはず。

だがその後はまったく覚えていない。加藤あいの代表作というと「海猿」らしいのだが、自分はそのころにはもうまったく加藤あいを見ていない。実はあんまりタイプでもなかった。
もう15年以上はまったく見てないし気にもしてないし追いかけてもいなかった。昔ちょっと好きだった人の近況とか追うのはちょっと怖い。なので、本当に久しぶりに加藤あいを見ている。これを久しぶりに見た理由。それはこの番組のクオリティがとても高かったと記憶してるから。
イタリア・ミラノへ卒業旅行でやってきたという加藤あい。たぶん当時18歳ぐらい。
ホテルのベッドで寝ていると、GOITOという1893年ナポリで製作された蒸気機関車が語りかけてくる夢を見る…というてい。紀行番組でありながら台本のあるドラマでもある。ナレーションも加藤が担当。

チヴィタヴェッキアからフェリーでティレニア海を渡りサルデニア島カリアリへ。当時に加藤あいは、カリアリを見たとき「街が死んでると思った」と何かで感想を語ってたと記憶している。
とりあえずカリアリで鉄道博物館を訪ねてみる。古い蒸気機関車車両を見ていると、かつてGOITOに乗っていた伝説の機関士コンスタンティーノから話しかけられる。ここで元機関士のインタビュー映像。

ゴイトは108歳(放送当時)なのにまだ現役。マンダスからアルバタックスの観光用路線(冬場の特別運行)を今も元気に走ってるとのこと。これが標高1000mを越える山岳ルート。160kmほどの路線。ディーゼルに置き換わる1960年代まで蒸気機関車が主力だった。
マンダスまで線路を走る車(70年前の骨とう品)で69kmを北へ移動。鉄道を走る自動車に加藤あいは「わあ!」と声をあげる。 
マンダス駅のバールでカフェ・マッキャートを飲みながら駅員に聞いてみる。だがGOITOは今日は運行していない。車庫にあるGOITOと対面。二人の機関士がまるでジブリアニメに出てくるような感じ。なにせ100年以上変わらない同じ技術。

マンダスの隣町サンスペラーテを散策。たぶん日本人はほとんど訪れない街。ここでもやっぱりおじさんに話しかけられる。この人は地元の芸術家。この人からサルデニアの歴史と風土を学ぶ。
翌日、マンダス駅から2日間の鉄道旅行へ出発。夏と違って冬は地元の愛好家たちが数名乗る程度。乗客たちとチャオと笑顔で挨拶。
そして美しいサルデニアの風景の中をSLは走る。加藤あいを乗せて。

最初の停車駅オッローリ駅に到着。機関士は蒸気圧を確認し機械部に油を刺す。ここから先は勾配がきつくなる。
蒸気機関車に乗るのが初めてだという加藤。あいにくの雨で寒い車内。しっかりコートにマフラー。途中で汽車に驚く羊の群れ。
そしてヴィラノヴァトゥーロ駅で給水。眺めの良い絶壁で途中停車。
峡谷を抜け谷合にひっそりたたずむベッティーリ駅に到着。ここで乗客は降りて農家が経営する食堂へ。ここで暮す女性駅長のインタビュー。

山岳路線の最高地点の街セウイに到着。ここで宿に泊まる。バールの2階にある一泊2000円ほどの木賃宿。共同トイレに共同シャワー。
翌日は快晴。ゴイトはアルバタックスへ下っていく。機関車の調子が悪いらしいので補給小屋で緊急停車。鉛管のススを落とす。質の悪い古い石炭を使用したことが原因だった。機関士の経験とカンが蒸気機関車を走らせている。
さらに点検のために機関士が常駐するガイロ駅で一時停車。
何もない辺鄙なヴィラグランデ駅で休憩。最初はぜんぜん話さなかった地元イタリア人たちと会話帳を開いてコミュニケーション。
最後の難所、サルデニアの最高峰の山すそ(スパイラル式登坂ルート)を最大限パワーで登る。そしてようやく東海岸の海が見えて来た。そしてアルバタックスに到着。歓迎の出迎えを受ける。
これ、ほぼ20年ぶりぐらいで見たけど、やはりとても良かった。クオリティが高くて、時間をたっぷり使って雰囲気が良くて、なおかつ日本人がほとんどなじみのないサルデニア鉄道で、しかも100年もの蒸気機関車という貴重なものが標高1000mの風光明媚な山岳ルートを通るという、鉄オタでなくても興味を引く要素だらけ。

かつての自分も欧州の辺境田舎駅とか、大まかな計画だけでホテルに飛び込んで空き部屋があるかと聞いて泊まり歩く旅行をしたことがある。けど、もうそういうのはいいw もっと安心安全な楽な旅がいい。てか、もう旅もそこそこでいい。人生自体が旅なわけだし。
加藤あいは今何をしてるんだろうか?たぶん結婚して子育てしてる?
この番組から22年も経ってる。幻滅したくないのであまり調べる気も起こらない。ただ元気で幸せでいてくれることを願う。

2023年2月10日金曜日

塩野七生「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」(1970)

塩野七生「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」(1970)を新潮文庫(平成16年46刷)で読む。
110円だけ握りしめてBOでじっくり選んで連れ帰った一冊。塩野七生を読むのはこれが初めて。この作家のほぼデビュー作で毎日出版文化賞を受賞した代表作。タイトルがとてもかっこいい。

チェーザレ・ボルジア(1475-1507)を自分はなんとなく名前しか知らなかった。これも世界史のお勉強のために読む。このマキャヴェッリ「君主論」のモデルとなった人物を、おそらく日本人の多くがこの本を読んだことで知ったに違いない。

シエナのカンポ広場で駿馬を競わせる大会に颯爽と現れるピサ大学に通うスペインの血をひく青年がチェーザレ・ボルジア。父は神の代理人ローマ法王アレクサンドル6世。本来カトリックの聖職者に子はいないはずだがそれはタテマエ。なんとでもなる。

17歳なのにバレンシア大司教。そして、父を補佐するローマで緋の衣を着る枢機卿に選ばれる。チェーザレは「若者が好みそうなあらゆることに興味を持ったが、神学をはじめとする学問だけはしなかった。」という点だけは好感をもったけどw、ようは父親の権勢によって偉くなった青年。

この時代のイタリアは教皇領、ナポリ、トスカーナ、ベネチア、ミラノ、フェラーラなどに別れていた。ミラノ公国はルドヴィーコ・スフォルツァ。フィレンツェではメディチ家内紛、サヴォナローラの時代。そしてフランス王シャルル8世によるナポリ王位を要求するイタリア戦争。

あれ?シャルル8世というとアンボワーズ城の梁に頭をぶつけて死んだ王という印象が強かったので、てっきり背が高いのかと思っていた。逆だった。背が低く貧相だったらしい。イタリアの価値観からすると王になれるような威厳がないらしい。騎士道と十字軍に憧れる困ったフランス国王。しかも強欲。

この本、てっきり時代小説みたいなものを期待していたのだが、ほぼ当時の歴史家と資料から視点。なので司馬遼太郎のような盛った面白くかっこいい会話台詞などが皆無。ずっと客観的な事実の列挙。

なぜチェーザレとその部下、傭兵からなる軍が、エミーリアロマーニャやトスカーナの小豪族、小僭主たちを次々と刈り取っていけたのか?ナポリのアラゴン王家、ミラノのスフォルツァ家を追い落とすことができたのか?そのへんはよくわからない。
織田信長だってのし上がる過程には信玄や謙信といった難攻不落のライバルがいた。だがチェーザレはほぼすいすいと敵と領地を切り取る。

佐藤賢一「王妃の離婚」にも登場するフランス王ルイ12世がチェーザレの後ろ盾でもあったのだが、あまりに勢力が増すと煙たくもなってくる。そして父アレクサンドル6世が死去するとチェーザレの没落が始まる…。

自分がざっくり説明すると、父親の権威を借りて増長し、イタリアに「俺王国」を作ろうとした一代記。
チェーザレ・ボルジアという人に関心がある人は何か他の資料も読むことをオススメする。同時代にマキアヴェッリ、レオナルド・ダ・ヴィンチがいる。この本のボリュームと速度ではあまり頭に入ってこないまま終わった。

2023年2月9日木曜日

土屋太鳳「赤々煉恋」(2013)

土屋太鳳の主演作に「赤々煉恋」(せきせきれんれん)という映画もあるので見ておく。朱川湊人による短編ホラー小説集(創元推理文庫)のうちの1本を映画化したもの。
2013年12月21日に公開。監督は小中和哉。脚本は山野井彩心。配給と制作はアイエス・フィールド。

女子高生ヒロイン樹里(土屋太鳳)はまた月曜が来て気が重い。母親が秋本奈緒美さんだ。この女優を久しぶりに見た。
制服着て登校してるようで手ぶら。不登校か?近所の団地をぶらぶら。自分のお気に入りの場所に座ってるのだが、そんな場所にいれば誰もが怪訝な顔で見るだろ。

ああ、どうやらこのヒロインはすでに死んでしまっているようだ。幽霊なので誰も話しかけない。けど、自分になんとなく気づいてる人が吉田羊さんだ。
かつて自分が通った高校の教室にも行ってみる。だとすると学校は霊場なのかもしれない。幽霊は退屈なんだろうと思う。

で、ヒロインが自殺するに至った回想。ひきこもりの末にマンションで飛び降り。
生きてても死んでも人は孤独。かつての行動範囲をさ迷い歩くしかない。その感覚はリアル。

制服をコーラで汚されたクラスメートのミドリ(清水富美加)の身代わりで制服チェックをジャージでやりすごす。こんなゲシュタポみたいな教師がいるって80年代か90年代か。
高校1年のヒロインが好きだった潤也くんが吉沢亮。3人は屋上でランチする仲。
10年前だと吉沢亮はかなり子どもに見える。

樹里はミドリが潤也といつのまにか仲良くなってることに気づいて顔が曇る。ミドリから潤也へラブレターを渡されるように頼まれるのだが、明るくおどけて引き受ける。だがどうやら潤也にその気はないらしい。ミドリは涙。樹里はそんなミドリと一緒に泣く。そんな高校生によくある風景。

だが、樹里はひきこもるようになって不登校。あの明るかった少女になにが?なぜ自殺を?潤也もミドリも戸惑う。

幽霊樹里はなぜか自分以外の幽霊を見たことがない。だが怪物を目撃するようになっていた。それは心が弱った人間を自殺するように誘導する死神。樹里が虫男と呼ぶそれの声は故大杉漣さんだ。
こんな怪物が見えるのは自分で死を選んだ自分への罰?土屋太鳳の独白モノローグと街をさ迷い歩くシーンが続く。死はこんな無間地獄なのか。

樹里の母は大切な人を自殺で失った人たちの会に足を運ぶようになっていた。「自殺は殺人」「迷惑で愚か」「あの子を信じてたのに」という母の発言に幽霊樹里は反感。
「私のいちばんほしいもの、それは私に向けてくれる笑顔」だと悟る。死んでるのに。

樹里のことが唯一見えるリンゴちゃんが公園にやってくる。母親(有森也実)が負のオーラを出している。お金に困っている。子どもをひとり公園に置いて行ってしまう。
樹里はリンゴちゃんと一緒に楽しく遊ぶ。これは周囲の人が見てたらかなり異常に見えるかもしれない。なにしろ小さな子どもが見えない霊と話して遊んでるのだから。

買い物するからと子どもを置いていった母が手ぶらで帰ってきた。この母には虫男が取りついている。虫男は母娘に心中をするように導いてる。樹里は必死に引き留めようとするが実体がないので無力。
そこにベビーカーを押すミドリ(吉田羊)が通りかかる。ここで樹里から手紙を潤也に渡さなかったことが明かされる。吉田羊の役がなんのためにあるのかわからなかった。樹里の死後20年ぐらい経ってるってことか。

家では母親が一人で樹里の誕生日を祝ってる。なんと寂しい。こんなの大切な人を失ったことのある人は泣く。幽霊樹里も泣く。ここで母は樹里の声を聞いたような感じになる。「あなたを救えなかったママを許して…」「とってもさみしい」

翌朝、ミドリはマンションを見上げてつぶやく。「今日も樹里の夢を見た。あの頃、楽しかった」
これ、何かミステリーとホラー要素のある映画かな?と思ってた。まったくそうじゃなかった。自殺してしまったヒロインの後悔を映像化した非宗教的なしみじみ死生観映画。何が目的でこんな映画つくった?
若手アイドル女優の主演作としては主演女優をたくさん見れて良い作品。土屋がすっごく一人芝居を頑張ってる。女優鑑賞映像作品としては良い。なんかミュージックビデオみたいでもある。土屋太鳳が好きな人(そんな人をあまり見たことないけど)は一度見るべき。

主題歌はPay money To my Pain「Rain」