佐藤賢一「王妃の離婚」(1999 集英社)を読む。この著者の小説を読むのは初めて。中世フランスの離婚裁判を題材にした娯楽小説。佐藤賢一の直木賞受賞作。
難しそうかな…と敬遠していたのだが、同じ作者による「ヴァロワ朝」という新書を読み、ヴァロワ朝の歴代フランス国王を頭に叩き込んだ状態で初めて読む。
先王シャルル8世(在位1470-1498)は男児がないままに急死。予期せぬフランス国王の座がオルレアン公ルイに棚ぼたで回ってきた。新国王ルイ12世が最初にした事業が王妃との離婚だった。
国王が時のローマ教皇アレクサンデル6世に働きかけた結果、アンボワーズで王妃ジャンヌ・ド・フランスを被告とする離婚裁判が始まる。とはいっても裁判に関わる判事も検察官も国王の手飼いで圧倒的に王妃に不利。
離婚と言ってもカトリックの教義でそれはできない。婚姻が無効であったことを確認する裁判。
ジャンヌ王妃(ルイ11世の娘で先王シャルル8世の姉)は脚が不自由で醜女と噂された。20年連れ添って子がなく、ルイ12世としては離婚したい。そこにはアンヌ・ド・ブルターニュと結婚したい(ブルターニュ公領が手に入るという)野心。
ルイ・ドルレアンとジャンヌとの結婚(妻は生まれながらに王女なので格上)はルイ11世から強要されたものだし、ルイ11世は洗礼親なので近親婚に当たるし、ジャンヌとは夫婦の関係がなかったので、そもそも結婚は成立してないし!という言い訳のような理由。
かつてカルチェラタンの伝説とも呼ばれたパリ大学法学部のフランソワ・ベトゥーラスはカノン法と婚姻問題を専攻する托鉢修道士で学士。本小説の主人公。
聖職者でありながら、ベリンダ(スコットランド隊長オーエン・オブ・カニンガムの姉でフランソワはかつてラテン語の家庭教師をしていた。)は内縁の妻。
それが今や暴君ルイ11世にパリを追われナント司教座法廷常設弁護士として細々と生きる47歳。中世ヨーロッパではもう人生の残りも少ない晩年にさしかかってる。
フランソワはトゥールで王妃離婚裁判を傍聴。自分を追いやった暴君ルイ11世の娘ジャンヌの不幸はいい気味。
だがしかし、ジャンヌよりも権力をかさに曲がったことを押し通す新国王も許せない。ジャンヌの弁護を担当。いきなり処女検査(最後の決闘裁判という映画でも見た)の件で痛烈な反撃を開始。王妃を擁護する世論もあってフランソワはヒーロー視される。
国王夫妻の性生活を掘り返すので内容がえげつない。フランソワ弁護士の論点がえげつない。この時代は聖書が家族法で婚姻法の唯一のよりどころ。
フランソワはルイとジャンヌの婚姻が成立していたことを示すために、コシェ医師の証人喚問を要請。現在の居場所はよくわからないけど、たぶんカルチェラタンにいるのでは?と弁護士仲間とパリへ向かう。途中で王の放った刺客に命を狙われる。
コシェを大捜索するも発見できないまま裁判の行われるアンボワーズに戻らないといけないタイムリミット。だがしかし!このへんは娯楽時代小説。
フランス国王ルイ12世が出廷してから裁判は非公開となる。このすらっと背が高く人好きのするハンサム優男がフランソワに被害者妄想泣き落とし。こんな空虚な男がフランス国王とは…。
有力者たちを使ってフランソワを懐柔してこようとする。田舎弁護士からローマの高いポストまで用意。引き抜こうとする。だがフランソワは断る。そしてさらなる刺客が!
果たして裁判はどうなるのか?王妃の運命は?!
自分は初めて佐藤賢一を読んだ。読む前はフランス史を知らないと難しいのかな?と思っていたのだが、まったくそんなことなかった。中年男の再生の物語。まるで武士の時代小説のよう。おそらく藤沢周平みたいな感じ?(読んだことないけど)
ラストも味わい深い。まだ読んでいないという人(男女の性愛について掘り下げてるので15歳ぐらいから)には強くオススメする。
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