エラリー・クイーン「犯罪カレンダー CALENDAR OF CRIME」を宇野利泰訳2002年ハヤカワ・ミステリ文庫版で読む。
「1月~6月」「7月~12月」と2冊に別れている12本の短編集。おそらく1946年から1951年にかけて発表されたもの。早川書房から邦訳が初出したのが1962年。
これを手に入れたのが5年前の秋。2冊共にBOで108円ゲット。もうエラリーはどれを読んでもさして面白く感じない。なかなか開く気になれなかった。積読されていたものをようやく読む気になった。では順番に読んでいく。
1月 双面神クラブの秘密 The Inner Circle
ニューヨークのイースタン大学はまだそれほど歴史がない。1913年が第1回卒業生を出した年。なんとたったの11名。双面神(ヤヌス)クラブという年次回を開催していたのだが、その後の大戦への出征、不況による破産での自殺、飛行機事故などで7名となってしまっていた。
そのうち5名がさらに秘密クラブをつくってお金を出し合って基金を積み立てていた。そのうち3名が今年中に死亡。銀行家アップダイク氏からエラリー事務所への依頼。また1人殺されそう。だがメンバーの名前は教えてくれない。
アップダイク氏は交通事故で車が崖下に転落し死亡。これは秘密クラブメンバーが基金を独り占めしようとしてる?
アップダイク氏が妻に語った秘密クラブメンバーの共通点から、エラリーは犯人を特定。
これはアイデア1発勝負。アメリカ人以外には馴染みがないかもしれない。
2月 大統領の5セント貨 The President's Half Disme
エラリー事務所に偽の電信で呼び出されたジョージ・ワシントンの収集家、貨幣収集家、稀覯本収集家。一体なぜ?と不審に思っていると、そこにフィラデルフィア近郊の農場主の娘が登場。「呼び寄せたのは私!すぐに6000ドル現金を用意できないと先祖代々受け継いだ農場と屋敷を失う。」
買っていただきたいものがある。だがそれはまだ見つかっていない。先祖の残した日記に、ジョージ・ワシントン大統領夫妻が1791年に農場に立ち寄った際に、サーベルとコインを埋めていったと書かれている。それを探して!
これも今まで読んだ探偵エラリーらしくない。時空を超えた宝探し。ワクワクする楽しさ。
3月 マイケル・マグーンの凶月 The Ides of Michael Magoon
3月15日といえば全米で確定申告の締め切り日。その書類を前日に盗まれたとクイーン探偵事務所に駆け込んだ私立探偵マグーン氏が可笑しくてたまらないニッキ―。
そんなものを盗まれるわけがない。どうやら、探偵氏の契約をしてる富豪未亡人の悩みの種である娘の万引き癖をネタに強請ろうと考えた者が犯人か?
これも読者の予想を超える展開。短編として水準以上で感心した。
4月 皇帝のダイス The Emperor's Dice
なぜかコネティカットの田舎へと出かけるクイーン父子とニッキ―。父と馴染みのあるハガード家に招待されたという。汽車が遅延し迎えの車をよこしたマークがハガード家当主の銃撃死亡事故について語り始める。「死んだ父が握りしめていたのはカリギュラ帝のダイス2個。」
これもラストが予想外だしおしゃれ。
5月 ゲティスバーグのラッパ The Gettysburg Bugle
仕事帰りにゲティスバーグへと立ち寄ったエラリーとニッキー。途中で車が故障し雨でびしょぬれ。助けを求めた家が医者で村長で警察署長。なんとこのジャックスバーグ村には南北戦争の生き残りが3人もいるという。
だが、そのうち1人(97歳)は昨年の戦没将兵記念日の式典でラッパを吹いてる最中に倒れて死亡。だが検死解剖などはしなかった。
エラリーが村長宅に泊まった翌朝、さらに生き残り老人の1人が脳溢血で死亡。そして今年の記念日にも最後の老人が死亡。
この南北戦争の生き残り3人は戦争中に財宝を見つけていて最後まで生き残ったものが財宝を手にする約束だった?!
この話も面白かった。やっぱりラストに意外性がある。
6月 くすり指の秘密 The Medical Finger
資産家美人娘ヘレンに2人の求婚者。欧州出身のヴィクターはフラれたのだが諦めが悪く、つきまとう上に粗暴ないわゆるストーカー。ヘレンと結婚することに決まったヘンリーに殴りかかり取り押さえられたり。
ヴィクターはしおらしく謝罪して許されるのだが、目に陰湿な殺意があるのでエラリーの指示で刑事が尾行につく。
そして結婚式。新婦ヘレンが毒針が仕込まれた結婚指輪で死亡。普通に考えたら犯人はヴィクターしかいないのだが、あらゆる犯罪パターンに触れてきたエラリーは様々な可能性を考える。この本の6本中でこれが一番印象薄い作品。
以上6本、予想以上に面白く意外な展開に驚くことができた。アメリカの歴史と文化が月ごとに知れる良い短編。エラリークイーンの長編はダラダラ長くて退屈なものが少なくないけど、この短編集はどれもアイデアと才気があって面白かった。続いて「7月~12月」を読む。
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