ロッキングオンHのバックナンバーの中でも入手が難しい部類の1冊が
2007年4月号。偉大な跳躍を見せた2nd「CAN'T BUY MY LOVE」について語る8ページの特集記事だが、これは「Hello , Good-bye YUI」にも収録されなかったので紹介してみたい。グラビアではYUI がとても難しい顔をしているが、YUI がとても饒舌なのが印象的だ。これは削れる部分があまりなくて、まとめるのが面倒で長年放置していた。インタビュアーは古河晋。では以下、CAN'T BUY MY LOVE をもっと研究するために一部引用する。
前のアルバムも僕、すごく好きだったんですけど、今作は一言でいうと「強さ」を感じるアルバムですよね。YUIさんなりの言葉で言うと、前作と今作の違いというのは、どういうものなんですか?
「やっぱり1枚目はデビュー前、路上でやっていたということもあって、アコースティックで弾く曲というのをずっとイメージしながら作ってたんですけど。そこから全国ツアーとかを経験したことによって『もっと歪んだエレキをかき鳴らす曲も書いてみたい』と思って〝Rolling star〟を書いたんです。だからサウンド面でもいろいろ興味が出てきたということと、あとこれが10代最後だっていうこともあって『今しか感じられない思いを詰め込みたい』っていうのもあったので、そういうところの違いはあると思いますね」
一番の違いで言うと、路上で歌うことをイメージして作るか、ライヴハウスでお客さんがいるところをイメージして作るかっていうことだったんですか?
「でも、セカンドアルバムにも普通に歌ってアコースティックの音が心地よい曲もあったりするので、どちらも大切にしていきたいっていうのはあるんですけどね」
なるほど。僕が感じたカ強さっていうのは、歪んだエレキが入っているかどうかっていうことではないんですよ。もっと楽曲そのものが持っている本質的な強さみたいなもので。それは、詞を書いたりメロディを書いたりしながら感じてたところだったんじゃないですか?
「そうですね、デビューしたときやデビューする前に曲を書いていたときは、やっぱり無我夢中でわからずに書いていたこともあったかもしれないですし。でも、今は『こういうこともしてみたい』とか『こういう曲が書きたいんだ』っていうことを思って書くことが多いので、そういう違いがあったりとか。あとは曲に、普通に自分が日常で感じることも込めたいなと思って、今回は普通にライヴハウスに行く曲があったり、もしくは『渋谷で渋滞で』とかっていう曲があったりもします。日々、私が感じてることっていうのは、やっぱり曲にはいつの間にか込められていたりするところがあると思うので、それが今までよりも自然に出てるんじやないかなと思います」
僕は、セカンドの曲のほうが伝え方がフラットな感じがするんですよね。さっきツアーをしたことが大きかったという話がありましたけど、それによってお客さんに対して開いたっていうことだけではなくて、どちらかというと音楽を通して自然と自分と向き合えるようになった感じなのかなと。変な言い方だけど『人に対して開いてると同時に、自分に対してしっかり閉じてる』みたいな感じがするんですよね。
「なるほど。たとえば〝How crazy〟とかだと、映画を経験したり、たくさんの人が聴いてくれたことによって『YUIって意外とこんな人だったよ!』とかっていうのを知らないところで言われていることがあるっていうのを知って、すごく不安になったりしたんです。そういうので『わかったように言わないで』っていうような曲を書いたりとか。『そういうこともあるんだなー』とか思いながら、やっぱり日常でそういうことを感じたっていうことは曲にしたいと思って。でも〝How crazy〟で、一番伝えたかったのは『夢に純情じやいられない』っていうことなんですけど。あと『CAN'T BUY MY LOVE』っていうアルバムのタイトルにしても『私の愛するモノはお金なんかじや譲れない』っていう意味を込めてるし。で、人に対してそういうことも含めてるけれども、自分に対しても『これから愛するものと関わっていきたい』っていう気持ちが純粋にあるので、そういう言葉をつけて。だから、やっぱり音をたくさん聴いてもらいたいっていうことなんですよね」
だから〝How crazy〟という楽曲にせよ、『CAN'T BUY MY LOVE』っていうアルバムタイトルにせよ、攻撃的なアプローチに見えるかもしれないけども、自分にとって何か大切で、何を望んでいて、どういう意識で音楽やっているのかといったことを今回は明確にしているということだと思うんですよね。
「そうですね、そういう気持ちもありますね。それがあるから普段、曲に込めているメッセージや気持ちが素直に入るのかなとも思いますし。ファーストのときから好きなように音楽に向き合ってきたし、曲作リの仕方も変わらないし、詞の書き方も変わらないし、音楽に対しての向き合い方もぶつかリ方も変わらないんだけど、だから何が変わったかっていうと、いろんなことに興味を持ってやったほうが絶対身になるし面白いしっていうことで、ライヴハウスに行って感動したりする時間はすごく大切にしたいなと思ったんです。だから、攻撃的な感じがするかもしれないけど『純粋に音楽と向き合ってることが出てる』と思ってもらえたらうれしいなと思うんですけれども」
そういうふうに東京に来てから自分の行動範囲を広げたような感じもあったんですか?
「そうですね、路上のときから比べたらたくさん出会いがあったし」
地元にいたときはどうだったんですか?やっぱり、いろんなところに足を運んで出会いを大切にしたいっていうようなことを考えてたんですか?
「でも、たとえばストリートのライヴを初めて見たときに『自分もギターを弾きたい、曲を作りたい』と思って自分で声をかけたっていうところでは全然、今と変わってないなと思います。前は、単純にデビューしてまだ道が明確に見えてなかったりっていうので外に足を運んだりすることは少なかったかもしれないですけど、それが明確になった今では逆に『もっと取り入れたい、吸収したい』っていう気持ちがすごくありますね」
ミュージシャンとして、どういうふうにこの世界を楽しんで、どうやっていろんなことを吸収していけばいいのかが今は、はっきりと見えている感じなんですね。
「そうですね、言葉にするとそうだと思うな。でも、ほんとに単純にライヴに行くのが好きとかそんな感じなんですけどね。名前を知らない人のライヴとかにも行きたいですし、もうライヴハウス全部を回ってみたくて。で、そこで感動したらCDも買っておうちで聴くだろうし。それで『今、この瞬間をこういう人たちががんばってバンドしてたりする』っていうことで『だから自分もがんばろう』と思ったりするし。すごいロックなバンドとかで、ギターを弾いている人があまりにもテンション上がって、ワーッと弾いてたら額から血が出てたりとか、そういうのを見たりしてもすごい嬉しくなるんですよね。『おー、音楽好きなんだな』みたいな(笑)。そういうのを見て感動して嬉しくなりながら『私も負けじと音楽好きなんだよなー』とか思ったり。そういうことに刺激をもらったりしますよね。たとえば今回の〝RUIDO〟っていう曲にも『ライヴを観に行くっていうことは、やっぱりお仕事にしたくないな』という意味を込めてるんですけど」
このアルバムのサウンド面の変化とかグルーヴ感にも、そういう経験は結構、具体的に活かされているんでしょうか?
「と思いますね。たとえば『じゃあさー、じゃあさー、ディスコっぽい曲を作りたい』とかって言い出したり。『じゃあ、ロックバンドのサウンドなんだけど四つ打ちをやってみたい』って。で、やってみて『おー、すごいカッコいい!いいじゃないですか、このベースラインとか大好きです』みたいな。あと最初はストイックな曲にしようと思っていたのを、以前から〝Happy Birthday〟の曲も書いてみたいってずっと思ってたので『じゃあ、この感じをしっとりやるんじゃなくて明るい感じに乗せたらどうなるだろう?』っていうことで『いい響きだ!』とか思いながら〝to you you〟っていう風にしたりとか。だから『あ、こんな風にしたらどういうふうに聴いてもらえるかな』っていうところも考えるようになってますね」
なるほど。あと歌詞も「言いたいことはもうこれ!」っていうのがスパーンと伝わってくるような、かなりシンプルなものになっていますよね。その〝Happy Birthday to you you〟もそうだし、〝CHE.R.RY〟もかなりシンブルですよね。なんでそうなったんだと思いますか?
「なんででしょうね?」
(笑)。
「冗談です!え~と、そうだなー、〝CHE.R.RY〟とかは春をテーマにした曲を書きたいと思って『春のテーマといえば出会いと別れだな』と思って。だったら『出会いのほうで言うなら新学期かな。新しい出会いがあって、もしかしたら恋が始まって甘酸っぱいことにもなっていくかな?』って連想したりとか。あと街を普通に歩いてて、なんか喫茶店とか駅とかで携帯を片手に持ってる人とかを見て『誰かを待ってるのか、誰かからの連絡を待ってるかどっちかかなあ』とか思ってたら、それがCHE.R.RY〟と結びついたりして。そんな感じで曲を書いていたりするんで。だからシンプルといえばたしかにシンプルで。言葉とかもほんとに《恋しちやったんだ》とかって書きながら、とても新鮮でしたし」
なんか話を聞いてると、自分のなかにあるイメージを曲を作りながらどんどん転がしていって、肉付けしていくみたいな感じですけど、昔からそういう作曲方法なの?
「たとえば、ひとつの景色が見えたら「次は、こういう景色が見えるなー』「じやあ、ここが見えたらこの先はこういうふうに見えるなー』っていうのはよくありますね。いろいろなことを頭の中で考えたりとかして、結構、四六時中、曲のことを無意識に考えているところもあるかもしれないし。だからこそ実際に曲を書こうと思ったときに自由にできるのかもしれないし。そのへんは、いつも変わらず葛藤と試行錯誤と模索をしていたいとは思っていますね」
そういう曲作リの能力が、だんだん筋カアップしてるような感覚とかはあったりする?
「なんか筋カアッブっておもしろいですね。そうだなあ、やっぱリギターをどんどん弾くうちにいろんなコードを知っていくだろうし、好きなコード感も出てくるだろうし、このコードは使ったことがないから使ってみたいとかっていうのもあるだろうし、こんなサウンドもやってみたいとか、どんどんいろんな興味とかも出てくるので。そういう意味では、たとえぱ『目標まで達してもそこがまた出発点になって、また目標ができて』っていう感じでどんどん進んでいきたいということなのかなと思いますね」
なるほど。すごくそういう作業を今は、楽しんでるような感じがしますけど、以前は、音楽を作ることに対して、もう少し構えてた部分もあったんですか?
「以前は『こんな曲を作れたらいいな』とかだったのが、今だったら『こんな曲作ってみたい! だめかな?』みたいな感じになってるんですけども」
うん。たぶんファーストって、しっかりとYUIさんの原風景というか、自分の中で変わらない部分を表現できた作品だったんじやないかと思うんですよね。で、普通だったらそこから次のステッブにいくまで、もうちょっと試行錯誤する人のほうが多いような気もするんですよね。ファーストの原風景の世界をセカンドでもうちょっとじっくり煮詰めてみて「さらに世界を広げるにはどうすればいいか」とか悩むプロセスも経たりして、4枚目ぐらいではじけるっていうぐらいのペースの人が多いと思うんだけど。この『CAN'T BUY MY LOVE』って、もうデビューしてアルバムを作ったあとに1回ツアーをしたら、いきなりはじけたみたいな印象のセカンドアルバムなんですよね。
「それダメですか?」
(笑)ダメじゃないよ、全然。だから、すごい展開力ですよね。
「『展開しすぎてわかんなくなっちゃった』って言われないようにがんばります。でも、きっとみんなの中でもこんな曲が好きだとかあるじゃないですか?『四つ打ちが好きなの!』とか。そういうのもいろいろやってみたいんで、ぜひ言ってくださいね(笑)」
そういう風にいろんなことをなんでもやってみたいぐらいの感じなんだ?
「うん、やってみたいことは、とりあえず一回はやってみたいんですよね」
たぶんファーストの感じのほうが好きだっていう人もいるんだろうけど、あまりにもズパーンと新しいことをやっているので、しかもそれが力強いものになってるから、ファーストが好きだっていう人も強引に巻き込んでいってしまうようなパワーがあるアルバムですよね。
「そうですね。だから『全然変わってないけど変わった』みたいに言っていただけたら、すごくうれしいですね」
YUI が「ライブハウス愛」を語る部分からイッキにご機嫌に饒舌にくだけた表現でおしゃべりになっている。YUIにとってライブハウスへ行くことはお勉強や同業者の動向をチェックする目的もあるに違いないが、ライブハウスは楽しいものだ。
YUI が「天然」や「挙動不審」に見られる理由は、常に考えごとをしているからじゃないかと思う。いつもこの瞬間の出会い、会話、感情が曲にならないかと思索しているからかもしれない。サカナ一郎も24時間音楽について考えていると言っていた。YUIもそういうところがありそうだ。YUIの場合は疲れないようにする息抜きを知っているそうだが。
「やってみたいことは、とりあえず一回はやってみたい」
正しい気持ちだと思う。その気持ちを支持したい。(結婚以外)