2023年3月17日金曜日

W.L.デアンドリア「ホッグ連続殺人」(1979)

ウィリアム.L.デアンドリア「ホッグ連続殺人」(1979)を1981年真崎義博訳ハヤカワミステリ文庫(1998年19刷)で読む。これ、わりと有名作らしいので読む。表紙タイトルの上に「アメリカ探偵作家クラブ賞受賞」と銘打ってある。
THE HOG MURDERS by William DeAndrea 1979
ニューヨーク州スパータ市(シラキューズとロチェスターの間にある人口19万ほどの機械工場と大学のある街という設定)は大雪。
地元紙記者テイサムは運転中に前を走行する車に落下してきた表示板が直撃する事故を目撃。すぐに救助活動するも、若い東洋系女性が即死。
後日、記者の元に「HOG」と名乗る人物から犯行声明。それって殺人だったの?

さらにロン・ジェントリーという私立探偵、地元警視、精神科医、を登場させ、スパータで連続で発生してる凄惨な事故死について説明。

探偵の師匠でイタリア人犯罪研究家ニッコロウ・ベネデイッティ教授が登場。捜査チームに加わる。(この人、イメージ的にディクスン・カーのヘンリー・メルヴェール卿みたいな感じ?)
犯行声明を送りつける「HOG」を捜査。被害者は年齢性別もバラバラで共通点もない。

この小説、典型的な英米ペイパーバック文体。アメリカ人たちのスカしたやり取りがぜんぜん頭に入ってこないし状況が分かりずらい。会話でだけ事件を説明しててなんとなくしかわからない。日本人にはアメリカ人の生活や会話スタイルはアメリカ映画やドラマをたくさん見てる人でないとわかりづらい。

ベネデイッティ教授は被害者と関係者たちと「HOG」という名前にある共通点を指摘するのだが、それが「んなもん日本人にわかるかっ!?」という馴染みの薄いものばかり。

そして容疑者が山小屋で凍死した状態で発見。そしてベネデイッティ教授の到達した真相。
まあぶっちゃけ、読んでる最中そんなことも考えなくもなかった。なのでそれほど驚けなかった。
最後の1行を褒めてる人もいるけど、結局それも英米人が「ウマぃっ」と言いがちなやつ。
クリスティ「ABC殺人事件」のような連続殺人のひとつのアイデアではある。

2023年3月16日木曜日

橋本愛「ワンダフルワールドエンド」(2015)

2015年に公開された「ワンダフルワールドエンド」をやっと見る。主演が橋本愛だから。

橋本愛蒼波純のダブル主演。監督脚本編集は松居大悟。音楽はシンガーソングライター大森靖子が担当。製作はavex music creative inc.で配給はSPOTTED PRODUCTIONS。
蒼波純についてはあまり知らないけど、2015年ごろに松井玲奈が「乃木坂工事中」において推してるアイドルとして紹介してたと記憶してる。

17歳の女子高生の早野詩織(橋本愛)は事務所に所属して芸能活動をしてるのだが、それは動画ネット配信など。
この動画配信が坂道アイドルとかでもよく見るヤツ。ああ、テンションとノリが同じだって思った。

河川敷で撮影会など地道な活動。なぜか詩織ひとりだけゴスロリ衣装。必死のビラくばり。
カメラを首から提げたオタクファンが太ってたり異常にダサイ。
事務所社長が利重剛。この人は「管制塔」では中学生橋本愛のだらしない父親を演じていた。「さよならドビュッシー」では監督として橋本愛と仕事。

撮影会現場で詩織の唯一の女の子ファン木下亜弓(蒼波純)が黙って自分を見てる。この子がファンなの?って疑問に思えるテンションなのだが、動画見たりコメントしたりしてくる。
売れない劇団男の浩平(稲葉友)と同棲。ファンからのコメントに返信してるのに彼氏が布団の中でいちゃついて邪魔してくる。自撮り写真を撮ろうとするとき、男に「頭が映るからどいて!」アイドルにありがち状況。

ドラマの仕事が来た…と思ったら、下着みたいな水着でバラエティ?
ちょい落ち込んで部屋に帰ると、同棲男と亜弓ちゃんがゲームしてる?!これってファンに彼氏バレってやつか。
男を問い詰めると「家出してきたっていうし…」男が劇場から連れてきてた。中学生女子だぞ。この男とはあまり話が合わない。

詩織はミュージシャン大森靖子が大好き。亜弓といっしょにライブに行く。もう個人的に親密なつきあい。詩織はしゃべりが上手い。けど、亜弓ちゃんが無口で暗い。考えてることがわからない。
亜弓を住まわせる3人の生活に詩織が壊れていく。詩織は男にキレちらかす。そういうの女子中学生に見せるな。

女の子のことは女の子にしかわからないという映画だった。演出の意図もよくわからない。
その感情はLINE会話と大森靖子が歌詞で説明してくれてる気がする。
中学生にスマホ持たせるとやっぱりいろいろ良くない。スマホや動画配信とか高校生であってもいろいろ問題。

この映画、あまりセリフで説明しない。動画配信コメントとかもしっかり読まないと内容と展開を理解できないっぽい。たぶんおじさん世代はほぼ理解不能。どう見ていいのかわからない文法でつくられている。
レイトショーで見るような映画だ。それはめんどくさい前衛映画だ。

このアイドルはスマホだけの展開だった。活動休止もスマホで報告。アイドルの実態ってほぼこんな感じなのかもしれないなって思った。
アイドルを演じる制服姿の橋本愛が異常にかわいい。ああ、これが十代の肌の質感か。他に得難い存在。
ラストシーンの撮影場所が「さくらん」と同じ有名スポット。「さくらん」とほぼ同じようなシーンだったのはなぜなのか。

主題歌は大森靖子「呪いは水色」(avex music creative)。

2023年3月15日水曜日

小林泰三「アリス殺し」(2013)

小林泰三「アリス殺し」(2013)を創元クライム・クラブ版で読む。
小林泰三(1962-2020)この作者を初めて読む。驚いた。自分はずっと「こばやしたいぞう」だと思ってたのだが「こばやしやすみ」と読むんだそうだ。

「不思議の国のアリス」世界観の夢ばかり見るヒロイン栗栖川亜理は大学院生。たぶん理工系大学。同じ夢ばかり見るので夢日記をつけるようにした。夢の中でハンプティ・ダンプティ墜落死に遭遇。
論文を書くために実験をしないといけない。大学に行ってみると博士研究員が謎の墜落死。
これって、夢の世界と現実が連動リンクしてる?!
夢の中でグリフォンが生ガキを喉に詰まらせ死亡すると、現実世界でも教授が牡蠣を食べたことが原因で死亡?!

どうやら、現実世界の大学関係者や刑事たちも夢世界仮想現実空間でアバターとなって存在?
本格ミステリ小説ということで選んだのだが、まるで仮想現実SFラノベ。なんだこりゃ?頭の固い大人がこの本を手に取ってしまったら途中で投げ出すだろうと思った。
作中の登場人物たちが夢と現実を行き来するので、会話がまるで噛み合ってない。主人公以外ほぼ全員に常識と論理性がない。

しかも夢世界ではアリス(亜理)が容疑者にされていて、期限以内に真犯人を見つけ出さないと首を斬られる?!
さらに現実世界でヒロインの1年先輩が大学内で刺殺。これってミステリーとしてちゃんと着地点があるのか?読んでいて激しく不安になる。とにかくふわふわしてる。

だが終盤になると主要人物2人が相次いで殺される残酷なダークファンタジーホラー童話みたいな展開。グロ描写。ええぇぇ…。

そもそもミステリー小説の登場人物たちはみんな正体が定かでない。この異世界空間でアバターとして存在し、誰と誰が一対一で対応してるのかがわかっていないことはミステリー小説の文法。登場人物たちが経験則と推理から誰が誰か考えて行動してる。そこは本格要素。

ラノベのようでとてもついていけないとも途中で思った。けど、何か新しいジャンルの小説を読んでいる気はした。その真相に驚くことはできた。結果、読後に一定の満足感はあった。

2023年3月14日火曜日

永野芽郁「マイ・ブロークン・マリコ」(2022)

マイ・ブロークン・マリコ(2022)を見る。平庫ワカの連載漫画を原作とし、監督はタナダユキ。脚本は向井康介とタナダユキ。主演は永野芽郁。配給はハピネットファントム・スタジオとKADOKAWA。

街の中華食堂でラーメンをすすってるスーツ姿のシイノトモヨ(永野芽郁)はテレビのニュースで中学時代からの親友イカガワマリコ(奈緒)のアパート5階からの転落死を知る。
そして回想。JKの二人は将来一緒に住む夢を語ったりもした仲。

トモヨはたぶん営業職。職場の雰囲気がかなり悪い。たぶんパワハラのブラック企業。上司が人間として口の利き方がおかしい。てか人間以前。トモヨはやさぐれ悪態突きながら煙草。

少女時代のDVという現実も酷いが、社会人になった現在も暗い現実。
子どもは親が自分を殴るのは自分が悪いと考える。母が出て行ったのも自分のせいだと考える。それはすべてDV父のせい。
福祉行政の敗北。こんな国に生れる可哀想な子どもが少なくなったことは幸い。

必死の営業トークの声色が苦手。しかも泣き落としも入れる。人間こんなものまで強要され拒めなくなったら終わり。
飛び込み営業でなんとかドアを開けてもらえた人が吉田羊。ヒロインはこの人を知っている?え、マリコの両親の家に飛び込み営業で侵入。吉田羊はマリコのDV父の再婚相手だった人か。そしてそこにマリコの遺骨と遺影。

トモヨはマリコの飲んだくれDV父(尾美としのり)に包丁突きつけてマリコ遺骨を強奪。ベランダから土手に飛び降りて川に転落。そのまま河を歩いて渡る。まるで北朝鮮かベトナムの難民。そのまま自宅へ逃げ帰る。そのへん、そうはならんやろって思った。

少女時代からずっと不幸だった親友をやっと自分の側に連れて帰ることができてほっとしたトモヨ。中学時代からのマリコからの手紙を読む。トモヨも家庭に問題があって中学生のころから煙草。
児童が顔に痣つくってたり、タバコ臭かったりするのに気づかない教師たちも人間失格。

マリコは遺書も残さなかった。トモヨはマリコの遺骨を抱いて行くあてもない。おいおいと泣いていると、以前「行ってみたいね」と言ってた「まりがおか岬」のことを思い出す。

親友の遺骨を抱いて、中学時代高校時代を回想しながらの深夜長距離バスの旅。そんなの想像しただけで哀しく寂しい。
なにもないバス停で降りたとたんにひったくりバイクに何もかも持っていかれる。財布もスマホもマリコの手紙も。

その場にたまたま通りかかった親切な釣り人窪田正孝からお金をもらう。
なのにその金で食堂で飲んだくれ。目の前でリストカットするめんどくさいメンヘラマリコの幻影。
酔っぱらって他の客に絡んで釣ボートの中で野宿。

トモヨが日本人にしては感情の起伏が激しい。泣き叫び方が異常。
フルフェイスヘルメットのひったくり犯(婦女暴行魔)を遺骨の箱で殴ったところで相手を倒せないと思う。
「まりがおか岬」がなんら有名観光地に見えなかった。

「大丈夫ですか?」「大丈夫に見える?あたし」ラブ要素なしかよ!という駅でのアッサリした別れ。

自分、今まで永野芽衣をアイドル女優だと思ってた。初めて永野を女優として認識した。色気も感じた。この映画はほぼ永野ひとりでもっていた。
主題歌はThe ピーズ「生きのばし」。Theピーズを何年も忘れていた。

2023年3月13日月曜日

東野圭吾「同級生」(1996)

東野圭吾「同級生」(1996)を読む。講談社文庫版(2013年56刷!)で初期東野圭吾をどんどん読む。

修文館高校高校3年生の西原くん(野球部キャプテン)が登校してみたら、二組の宮前由希子が交通事故死したらしい話題でもちきり。道に飛び出してきてトラックに轢かれたらしい。
実はその少女が妊娠していたことが伝わるのだが、「お腹の子の父親はたぶん自分…。」
西原と由希子は一夜をホテルで過ごしたことがあった。

自分が父親なことも噂になってる。西原くんは少しずつ情報収集していく。噂話の発信源を探る。
どうやら事故現場で、生徒たちに生活指導で厳しく当たる古文教師の御崎藤江が目撃されていた。宮前が妊娠したという噂を聞きつけて、産婦人科を見張っていたらしい。この執拗な教師から逃れようとして宮前は交通事故に遭った?
高校教師がそんな場所にまで介入することに西原くんは反発。授業の前にクラスメートの前に真偽と責任を公開質問。だが、御崎は怒り心頭の様子で答えようとしない。

そして御崎は教室で絞殺死体となって発見される。となると、由希子が死んだことで御崎を怨んでいた西原くんは容疑者になる。刑事から由希子との関係やアリバイを調べられる。
やがてふたりの秘密を知る水村緋絽子が教室で睡眠薬を飲みガス自殺を図る。

登場人物がほぼ高校生たちだけという学園青春ミステリー。主人公が高校生にしてはやはりスカしてる。高校生なのに女子生徒と肉体関係を持ったせいでこんな事件に巻き込まれてるのにすごく頭脳明晰。

最後の方になって刑事と西原の会話でとつぜんストーリーの構造が変化したように見える。
え、悲劇のヒロインのはずの由希子が舞台の中心から退場させられ唖然。これは浮かばれないヒロインだ。

青春ミステリーに物理トリックは必要ない。ひねくれた自殺者を登場させるのも構造上美しくない。ストーリーと動機にもそれほど納得できず、やや期待外れ。あとがきで東野氏も「とても苦労した」と心情を吐露。
「小学生の時から教師が大嫌いだった」という告白はすごくよくわかる。自分も今も恨んでる教師が小中高大それぞれに何人もいる。

2023年3月12日日曜日

広瀬すず!のん!吉岡里帆!有村架純!第46回日本アカデミー賞

毎年恒例、日本映画界の1年を締めくくる祭典「第46回日本アカデミー賞」表彰式が3月10日(金)に開催。夜9時よりグランドプリンスホテル新高輪の国際館パミールより日本テレビが中継。じっくり見た。
新人賞は毎年複数選ばれる。今回は長澤まさみと同じ東宝シンデレラオーディションで選ばれた東宝芸能の福本莉子(22)が初めて呼ばれた。いくつも映画やドラマの仕事をしてやっと初めて呼ばれた晴れの舞台。
生見愛瑠(20)のように映画デビュー即受賞という例もある。自分、この子の顔と名前はなんとなく知ってて、美人だなとは思ってたけど、演技をまだ見たことない。バラエティ番組をあまり見ないのでよく知らない。あと、12歳男子の新人賞受賞者もいた。

プレゼンター西島秀俊からの「皆さんは日本映画の未来です!」は素敵な言葉だった。
新人賞は1度選ばれて、またこの賞とイベントに呼ばれるのが容易ではない。多くの受賞者が俳優人生で1度きりとなってる。今回は8人が新人賞に選ばれたが、この中から何人が数年後にこのイベントに再び帰ってくることができるだろう。
今回の女性司会は昨年度の最優秀主演女優賞・有村架純(30)。有村はすでにNHK紅白で司会をしたことがある。立派にお務めを果たした。自身も優秀助演女優賞として登壇。
今回は能年玲奈(29)が、「のん」へ改名せざるをえなかったレプロとのトラブル以後ついにテレビ番組に登場という歴史的な1日になった。しかも、2013年度NHK朝ドラで母と娘だった天野春子と天野アキが同じ舞台に!という奇跡的な感動的な名場面があった。

今回は「ケイコ 目を澄ませて」での岸井ゆきの(31)が初の最優秀主演女優賞。それは自分には予想できてなかった。受賞スピーチで言葉に詰まる姿にこちらも涙。

主演俳優が評価されるには、その映画が時代に合ったテーマで、かつ主演女優として見せ場が多くて難易度があって、なおかつ重厚な人間ドラマであることが重要。そんな映画が賞を受賞しやすい気がする。その点、のんは優秀賞が相当。

今回、最優秀賞を助演男優で窪田正孝、助演女優で安藤サクラ、主演男優で妻夫木聡、監督賞、優秀作品賞という主要部門を制した「ある男」(8冠!)が話題をさらっていった。今回は自分の事前予想が窪田以外ぜんぜん当たらなかった。
自分は今回、広瀬すず(24)が最有力かと感じていた。しかしまだ2017年度「三度目の殺人」での最優秀助演女優賞から5年しか経ってない。主演女優賞はまだまだこれからチャンスがある。

すずの目がキラッキラしてる。太陽のような笑顔。
なんと今回が6回目の登場だった。それは驚きだ。広瀬すず時代はまだまだ続きそうだ。
日本には出版社や新聞社、地方映画祭が主催する映画賞がいくつも存在する。一方で日本アカデミー賞は1978年より始まった歴史の浅い賞。その年に話題となった映画から多くの映画スターが一堂に会するお祭りイベント。照明、美術、撮影、録音などの裏方仕事スタッフをも選考し表彰。第1回からずっと日本テレビが放送。

日本アカデミー賞には批判する人々が多い。SNS時代以降さらに目立つようになった。
自分の感覚からすると、オールジャンルの映画賞で誰もが納得する賞なんてありえない。本家アメリカのアカデミー賞ですらもそう。自分だってすべてに納得はしていない。

アカデミー賞会員の投票と選考委員の意見と、表彰式に参加できるかどうか?という大人の事情もろもろの打ち合わせを経て、話題作の中からショー的に最優秀賞を選ぶというのが日本アカデミー賞。何も声高に文句を言う必要性を感じない。
不満を感じる人は自分で私財をなげうって映画賞を設立しては?と思う。たぶん最優秀を逃したところで哀しいとか悔しいとか感じる出演者はいないのではと思う。

2023年3月11日土曜日

パトリシア・ハイスミス「見知らぬ乗客」(1950)

パトリシア・ハイスミス「見知らぬ乗客」(1950)を昭和47年青田勝訳の角川文庫版(平成10年改版)で読む。
おそらく今作がハイスミスの処女長編で一番有名な作品。というのもヒッチコックによって映画化(1951)されたから。
交換殺人という、当時は新しかったジャンルのサスペンス。

もう日本ではあまりパトリシア・ハイスミス(1921-1995)を読んでる人を見かけない。邦訳で読めるものも多くない。だが、近年になって2作「キャロル」「水の墓碑銘」が映画化されている。たぶん知ってる人は知っている。
Strangers on a Train by Patricia Highsmith 1950
主人公の青年建築家ガイ・ダニエル・ヘインズは故郷のテキサス・メトカーフへ汽車で向かっている。列車の1等コンパートメントの中でチャールス・ブルーノーと名乗る青年と出会う。この男が馴れ馴れしく話をしてきて身の上話をしたり質問したりしてくる。ガイはちょっとウザいなと感じる。
ガイはつい妻ミリアムと離婚したいという話をしてしまう。妻は他の男の子を妊娠中なのに離婚に応じようとしない。
一方でブルーノ―は金持ちなのに自分に金をくれない父を偏執的に嫌悪している。
ブルーノ―は驚くべき交換殺人計画を持ち掛ける。

ここまではなんとなくヒッチコック映画のあらすじとか読んで知ってたイメージ通りだった。ハイスミスのいかにも英米文体がぜんぜん頭に入ってこなかったけど。

ハイスミスは推理小説やサスペンス小説を書いてるつもりでなかったらしい。極限状態に置かれた人間の心理と曲折を描いた文学作品を書いてるつもりらしい。
読んでていてぜんぜん面白い展開になってくれなくてイライラした。冗長すぎた。

ブルーノ―のミリアム殺害がまったく計画性がない。ほぼアル中サイコパス男の行動。完全犯罪を計画するような慎重さがない。ガサツ。
でもってガイにつきまとう。今度は父親のサム・ブルーノ―を殺害するようにガイに要求。要求通りにしないとばらす!あとは心理的に嫌なことが続く。

善良ないちアメリカ市民が列車でたまたま一緒になった男から一方的に好意を持たれ、「オマエの殺したいっていってた妻を殺してあげたわ」って言われる恐怖。主人公ガイには同情しかない。

正直、期待したほどおもしろくなかった。もう日本ではあまりハイスミスが読まれていないのもわかる気がした。自分はハイスミス2冊目だったのだが、しばらくハイスミスを読まなくていいかなと感じた。

2023年3月10日金曜日

世界飛び地大全(2006)

吉田一郎「世界飛び地大全」(2006)の2014年角川ソフィア文庫版で読む。オビには「学校で教えてくれない驚きの世界史」とある。なぜ飛び地があるのか?世界地理トリビアをまとめた本だが内容はまじめ。

アラスカやカリーニングラードといった超有名飛び地、西ベルリンや東パキスタンといった「かつて存在した飛び地」、ジブラルタルやセウタのような植民地飛び地、鉄道や港湾といったインフラ飛び地、ホテルや病院の一室、電波塔、石碑といったネタのようなユニークな知られざる治外法権飛び地まで紹介する雑学本。
オランダ・ベルギー国境にある入り組んだ細かい有名飛び地バールレ・ナッソー(バールレ・ヘルトホ)。
この本は厳密に当時の地図を掲載してるのだが、これだと国境線をハッキリ見ることができない。グーグルで見ると異常さがよくわかる。

自分、クロアチアのドゥブロヴニクに行きたいと思って以前調べた。ザグレブから高速バスが出てたかと思ったのだが、ドゥブロヴニクってクロアチアの飛び地だったの?
ボスニア・ヘルツェゴビナっててっきり内陸国かと思ってたら、ネウムという21kmだけ海岸線があった。今までまったくそのイメージなかった。

アンゴラ飛び地旧カビンダ(ポルトガル領コンゴ)、ナミビアの中の旧イギリス領で南アフリカ飛び地だったウォルビスベイ、オマーン領UAE領飛び地マダ&ナワ、とかは日本人にはまったく馴染みがなくて当然。
だが、スイス領内のドイツ飛び地ビューシンゲン、スイス領内のイタリア飛び地カンピョーネ・ディターリアも今までまったく知らなかった。

アメリカとカナダ国境にはポイント・ロバーツという岬飛び地があることは知っていたけど、ウッズ湖西岸、シャンプレーン湖プロビンス岬のような何もないアメリカ飛び地があることは今までまったく気づいてなかった。すぐグーグル航空写真で確認した。アメリカ、カナダ国境って道路がいっぱいあるけど、それほど簡単には行き来できないことに気づいた。道路にストビューがない。

カナダ・ニューファンドランド島のすぐそばにフランス領ミクロン島&サンピエール島があることもまったく気づいてなかった。フランスはこの海域に12カイリ領海と24カイリ接続水域、幅20km長さ375kmの回廊経済水域を確保してた。

チェコが租借してるドイツ領内の港モルダウハーフェン、メキシコ領内にあった旧アメリカ領リオ・リコとかも知られざる話すぎた。こういうエピソードを発掘してくる著者はすごい。
あと、ブータンは過去に意外に飛び地を持ってたんだなと知った。

2023年3月9日木曜日

鈴木絢音「言葉の海をさまよう」(2023)

鈴木絢音「言葉の海をさまよう」(2023 幻冬舎)を読む。

一見するとアイドルのエッセイ本だろうと想えるのだが、中身は「タ〇リ倶楽部」。
紙の辞書を愛用する乃木坂46の鈴木絢音が、辞書作りの現場の人々、三省堂書店の辞書編纂者、編集者、校正、印刷、製作デザイン、販促の担当者に話を聴くという対談本。
2021年から「小説幻冬」に掲載されたものを、鈴木絢音の乃木坂卒業を機に一冊にまとめられたものだと思う。

辞書の最前線にいる日本語のプロたちの、ここぞという場面で繰り出されるトリビアにうなる。
絢「母がマジとかヤバイというような言葉を嫌う。どうすれば?」
編纂「どちらも江戸時代から使われている言葉だと教えたらどうですかね」
絢「?!」
というようなやりとりが続く。へえ、の連続。
  • 雑誌グラビア写真ページはオフセット印刷ではないのでグラビア(凹版)と呼んではいけない。
  • イケメンという言葉は1999年創刊の「Men's egg」以降に広まった言葉。
  • 肉の表面を焼いても「肉汁を中に閉じ込める」ことはできない。
鈴木絢音が辞書に興味を持っているということよりも、そんな知識に驚く。3月7日より発売中。

2023年3月8日水曜日

吉川愛「ハニーレモンソーダ」(2021)

ハニーレモンソーダ(2021 松竹)を見る。村田真優によるコミックスが原作。監督は神徳幸治、脚本は吉川菜美。主演はラウール(Snow Man)吉川愛

少女たちの考える理想とする妄想ミステリアスかっこいい男子カイ(ラウール)。あんなに明るい金髪男とか、その地域でひとりいるかいないかの本物の反社不良しかいない。

その一方で引っ込み思案でおとなしい自分に自信のない美少女ヒロイン石森(吉川愛)。
そんな自分をかっこいい男子が選んでくれて強引にアプローチ。それは女子たちの妄想。
テンポよく、爽快な音楽に乗せて、開始数分で説明。ベタすぎる。BGMが普通過ぎる。そんなスウィーツ映画が多すぎる。

このヒロインが同じ中学出身ギャルたちから陰湿なイジメ。高校生にもなって何やってる。どんだけ底辺高なんだ。このヒロインは受験失敗してこの高校だったのか。自分に合った高校を選ぶって、なかなか大変な関門。
そんな弱気の自分を助けてくれる男の子。どんだけ他力本願なんだ。ヒロインの上目遣いがジトっとしてる。

美しいグループと極悪グループが見た目がハッキリしてる。美しいグループに選ばれて合流することでだんだん自分が変わっていく。

カイの元彼女芹奈役が堀田真由。初登場シーンからすごくイイ女感を漂わせてる。こんな大人の雰囲気で洗練された女子高生いるのか。
このふたりが別れたことは周囲も理由がわかってなくて困惑してる様子。

仲良しグループあゆみ役が岡本夏美。ヒロインのカイへの恋を応援してくれるのだが、違うクラスの芹奈ともなかよし。
芹奈も正義の心がある優しい子。一緒にいる性格の悪い女子たちを切ってカイグループで仲良し。

石森は芹奈に気遣いつつ探りつつ質問してみる。「カイくんのこと好き?」
このふたりは瞬時にお互いをやさしく気遣う。石森は芹奈に気をつかってカイを避け始める。カイの周囲も心配し困惑。
てっきり芹奈はヒロインを苦しめるわかりやすい三角関係の一角美人だと思ってたら違うのかよ。どんだけ優しい世界観なんだ。

夏祭りのお寺で芹奈と遭遇。あれ、女の子二人連れ?やっぱり芹奈とカイは何の関係もない。
その後に石森はカイと遭遇。自分を避ける石森にカイがぐいぐい迫る。「どうして私なんか…」
ここまで気遣いで相互に男子を譲り合う謙虚ヒロインと謙虚ライバルというスウィーツ映画を見たことがない。逆に新鮮。

と思ってたら、みんなで海に行ったときに、芹奈「今もカイが好き」
ええぇ…。でもやっぱりそうならないとドラマにならないか。
と思ってたら、カイが断ってきっぱり別れる。
それを知った石森から芹奈へのあまりの長文LINEに笑った。(ここ、もっと本気で視聴者を笑わせにかからないと。)

だがしかし、後半はいつものスウィーツ。カッコイイ人気者カイが地味なヒロインを不安にさせるという、ありがちベタ展開。
ヒロインの女ともだちたちが人生の先輩かのようにアドバイス。どんだけ大人なんだよ。
芹奈、あゆみ、瀬戸(坂東龍汰)、友哉(濱田龍臣)、みんな心優しいいいやつ。高校生ってこんなにみんな大人だったっけ。

このヒロインは男から見ても魅力的ではないか。ラブラブパートはMVみたいで見ていて恥ずかしい。
だが、誰も来ない秘密の部屋でふたりで昼寝とか、大人が見過ごしていいことじゃない。

しかし、このカイという少年は家族に関して秘密と心の闇を抱えていた。急にヘビー。そこがこの映画の最後の山場。ラウールの台詞の言い方がクセがあって個性的。芝居がかってかっこいい感じ。

スウィーツ映画にしては大人も見れる映画だった。吉川と堀田の顔が老けてて大人の女に見えるからかもしれない。
吉川愛がこの映画で日本アカデミー賞に初めて呼ばれたのは納得。

2023年3月7日火曜日

三島由紀夫「永すぎた春」(昭和31年)

三島由紀夫「永すぎた春」(昭和31年)を新潮文庫(平成10年83刷)で読む。これ、裏に書いてあるあらすじを読むと、自分と合ってなさそうで長年避けていた。おそらく通俗恋愛ドラマ小説。ようやく気合を入れて読んだ。

T大法学部の学生郁雄は大学門前の老舗古書店の娘百子が美人だというので見に行く。そしてあっという間に婚約。 
大学に行くと婚約者の実家部屋でお茶飲んでキス。まったく何という学生だ。で、大学を卒業してから結婚するまで1年3か月。子ども同然の二人の永い婚約期間が、1か月ごとのピリオドで描かれていく。

婚約したら郁雄は法学部の試験勉強期間。二人は会わないようにするのだが、百子は親戚の男(古書店同業者)と歩いているのを大学の窓から郁雄に目撃され嫉妬されたりする。郁雄がとても単純。その理由を知るとすぐ納得。

この本の重要な脇役登場人物が主人公の母宝部夫人。身分違いの婚約に反対したものの容認。だが、神田古書店本田の息子が「カゴ抜け詐欺」で捕まったことを婦人会的な集まりで知らされ慌てる。百子の実家に駆け込んで文句と苦情。(実は逮捕された男は親戚)

だが、夫の実弟(高級官僚)が汚職で捕まると逆に恐縮。百子を歌舞伎に誘って和解。
あとは、友人画家高倉(郁雄の中学からの友人)の婚約者との逢引き、熱海の別荘などのエピソード。

百子には東一郎という小説家志望の兄がいた。実家の2階にいる「雲の上人」。この人が終盤の重要人物。
病気入院してるときに看護婦浅香さんと恋仲。この二人を婚約させたのが宝部夫人だったのだが、浅香の母が「花柳界にいたに違いない」という貧しい婆さん。この婆さんが娘に結婚の持参金を持たせいために奸計を使う。百子に懸想する吉沢に金をせびり関係を取り持とうと密会させる。
この計画は百子が逃げ帰って失敗するのだが、あさましい母は宝部家を訪れて郁雄に百子と吉沢が一夜を共にしたように嘘をつく。だが、郁雄はすこしも信じない。

宝部夫人は怒り心頭。あんな女と親戚づきあいしたくない!東一郎に浅香を別れろ!と迫る。だが、東一郎は浅香を愛していた。別離を断ると、郁雄と百子の婚約も解消すると脅す。

どうしよう?二人は郁雄の数少ない大学の友人宮内(28歳妻子持ち若禿げ学生)に相談するも「駆け落ちしたら?」というような納得しがたいアドバイス。
東一郎は百子を誘って浅香母子の住む貧乏アパートへ。浅香さんから「母のしたことを何も恥じていない」「母がけしかけるから東一郎を愛してるようにふるまった」と衝撃の告白。東一郎ブチギレ。

12月の黄色くなった銀杏のキャンパスを歩く郁雄と百子。どうして兄東一郎は百子を浅香のアパートに連れていったのか?百子が思いもよらない心理を解説。
さすがT大法学部。世間知らずのおぼっちゃまかと思われていた郁雄22歳が、これほど人間心理の機微に深く考えが及んでいたとは…という衝撃で幕が下りる。

これ、朝ドラでやるようなドラマ。内容が平易で誰でもスラスラ読める。
あと、宮内の下宿を説明する場面で、三島は「積読主義」という言葉を使っていてびっくり。積読って昔からあった言葉なんだ。

2023年3月6日月曜日

長濱ねる「旅屋おかえり 長野編」(2023)

長濱ねるがNHKドラマ「旅屋おかえり 長野編」(1月30日31日放送回)にゲスト女優的に登場した。このドラマは安藤サクラが主演。

とくにチェックもしてなかったのだが、長濱ねる出演回のみ見た。これ、原田マハが原作だって知らなかった。読書好きねるは読んでるかもしれない。
諏訪、蓼科でロケしたらしい。画面を見ると撮影は去年の夏ごろ?
長崎娘ねるが長野娘役での出演。これがもう見るからに朝ドラヒロイン感満載。すごく朝ドラ演出、朝ドラカット、朝ドラ美術セット、朝ドラらしさを感じるドラマだった。

ねるはこれまで多くのNHKドラマ、バラエティ、イベントに出演。大きく貢献している。なので次の次あたりで朝ドラヒロインの有力候補者なのではないか?
あと、ねるの父親(馬牧場)役で橋本さとしさんが出演していた。橋本さとしってあの「TRICK」第1シーズンで「千里眼の男」だった橋本さとし?!
あと、長野の自然の中で美保純さんを見ると「北の国から」感がする。見たことないけど。
この人は安藤サクラがタレントとして所属する「よろずやプロ」の経理らしい。
ねるの演技の見せ場がたくさんあった。見ごたえあった。

あと、ねるは「舞いあがれ!」にも出演中。見てないけど。
そして、テレ朝「警視庁アウトサイダー」にも出演中(3月2日に最終回を放送)。これがテレ朝伝統のヘンテコ刑事課ドラマ。なぜにねるそんコスプレ?
ねるそん、もはや神。

MUSIC ON! TVで約2年に渡って放送されていた「legato ~旅する音楽スタジオ~」も今年2月で終了。
しかし、なんだかんだ欅坂OBでもっともテレビで見かける機会が多い。今後も成長を見守っていきたい。