2021年6月30日水曜日

新垣結衣「恋するハニカミ」(2006)

私たちは2021年5月に新垣結衣を失った。喪失の儀礼としてこれまでため込んだテレビ番組や雑誌資料を整理していかなくてはいけない。すこしずつ。どこへも出かけられないし。

2003年から2008年まで金曜深夜TBSで「恋するハニカミ」という久本雅美&中島知子WMCのバラエティ番組が放送されていた。これが、若手俳優やタレントの男女に「初デート」をさせるという趣旨の番組。
今日の恋愛リアリティーショーのはしりのようなものかもしれないが、90年代末から、男女を台本通りに出会わせてデートさせれば視聴者もドキドキできるのでは?というバラエティ番組が流行った。
カメラを持たせて現地へ行かせ、あとは大まかな指示によって若い二人に楽しんでもらうという番組。
2006年1月6日放送回は、すでに「ドラゴン桜」に出演し、NTT東日本のCMキャラクターを務めていた人気急上昇中の若手女優新垣結衣が出演。もちろん新垣めあてで録画した。

放送当時録画しDVD-Rに焼いておいたものをとりだして見る。これも状態がかなり悪い。ディスクドライブがギコギコ何度も読み取ろうとする。なんとかパソコンで抽出して見れる状態にした。これは中華圏動画サイトなんかで見ることも可能だが、見てみたところそれほど画質がいいものは残っていないようだ。
カメラを渡され指示された東急こどもの国線で「こどもの国駅」へとたどり着く。自分は一度も乗ったことのない路線だし行ったことのない駅。
で、現地で待っていたのが当時人気だった若手俳優小出恵介。たぶん当時慶応大生。
ガッキーが仕事とはいえ「初めての手つなぎデート」は小出。まだ「恋空」撮影に入ってない?
この小出とのハニカミ疑似デートはガッキーサイドからしたらたぶん黒歴史番組。たぶん現在のコンプライアンスでは許されない。
小出は2017年に不祥事が発覚してしまい大きな代償を払った。これは小出も気の毒だった。小出よりも上の世代の日本人はもともと性に対してルーズだった世代。それほど厳しく取り締まられてもいなかったし教育もされていない。そんな大人やマンガやテレビドラマを見て育ってる。慶応大という慢心もあったかもしれない。この番組も影響したかもしれない。
小出には極力触れずにこの番組で得られたガッキー情報に注視。
ガッキーは誰もが知っての通り、小学生まで那覇市中心地で育ち、中学3年間を南城市大里村で過ごした。本人によれば、動物園というものが周辺になかったらしく、よって、ほぼ初めての動物園だったという。それ意外。
小動物たちと戯れる。ガッキーは自宅で爬虫類のヤモリを飼い、後に犬も飼う動物好き。
そしてスケートリンクへ移動。意外なことに沖縄育ちのガッキーがスケート靴を履いてリンク上で平然としてる。初めてじゃなかったのか。その一方で東京育ちの小出はほぼダメダメ。
スベリまくりコケまくる小出を助けるガッキー。おそらく今日にいたるまでスケートガッキーを見れる唯一の映像?
新垣結衣17歳。当時はレプロの寮で同僚とマネージャーの3人暮らし。門限は18時。確実に異性と二人でどこかへ出かけたことなどなかったはず。
部屋へ移動し料理を開始。インドア派のガッキーはかなり料理好きだが、17歳のころはまだそれほどでもなかったはず。
小出「嫁入り合格点だよ」新垣「誰かもらって」という、今聴くと聴いてられない会話。ガッキーがあ~んと食べさせるなどの身に余る行為におよぶ。
ガッキーはどういうときに恋に落ちるのか?という質問をする小出。
ガッキー「その人が必要だなってわかったら好きなのかもって思う」
着物のレンタル着付けを体験できる場所へ。「恵ちゃんが似合うなと思うのを選んで」
あらかわいい。このあと写真撮影。ガッキーは二十歳の成人式のときのグラビア写真も残ってるけど、17歳着物姿はこうして残された。
だが、ハグしての撮影は余計。そして夜の鶴岡八幡の石段へ。指示台本にしたがってかなり恥ずかしいこともさせられる。

若手は仕事を選べない。そんなことを考えさせられる番組。15年の時を超え、ついに見終わった。
たぶん自分のほうが星野よりもガッキー史にくわしい。だが自分はガッキーのために死ぬ権利を失った。

2021年6月29日火曜日

英文法再入門 10のハードルの飛び越え方(中公新書)

中公新書2628「英文法再入門 10のハードルの飛び越え方」(2021年1月 澤井康佑)という本がたまたま目についたので手にとった。慶大文学部卒の予備校講師が書いた本。中公新書で英語学習本はめずらしいのもあって読んでみた。

英文法などというものを学ぶのは高校生のとき以来一度もなかった。「ドラゴン桜」を見てて英語学習シーンに触発された。こどもたちに質問されたときに答えられない大人は恥ずかしい。なんとか英文法のキモを押さえたい。

冒頭から著者は「日本語は複雑」ってゆうけど「英語だって複雑」という例を示す。その民族の外界との接し方と認識の思想概念が言語に現れている。原理原則と例外。語学を習得することはけっして楽ではない…という。やはり読んでいて頭痛い。
日本語にはない「a」と「the」、加算名詞と不加算名詞という概念。自動詞と他動詞。あのちんぷんかんぷんでつらかった時代を思い出す。誰もハッキリそれを教えてくれなかった。

この筆者は英文和訳において「5文型理論」(SVCとかSVO、SVOOとかSVOCとかいうやつ)と英和辞書の利用がとても有用なことを説く。
そういえば和英辞書の引き方も読み方すらも習った記憶がない。この本を読んで始めて英和辞書の読み方を知った。
この本に書いてある方法通りに訳せばほぼカバーできるのか。中学生のときに知っておきたかった。

さらに、「現在完了形」や「受動態」といった中学生を苦しめた概念も久々に学んだ。
YUI「CHE.R.RY」における「恋しちゃったんだ」「I have fallen in love.」とするべきか?「I fell in love.」とするべきか?
英語の得意な日本人生徒は前者に訳す。だが実はネイティブの人にとってはどちらも同じらしい。とくに現代アメリカ人は過去完了を使わなくなってる?それ、マジか。

それに、前置詞+関係代名詞 with whom も使われなくなりつつある。受験以来で英文法の本を読んでみて、忘れていたそんなことをいろいろ思い出した。

2021年6月28日月曜日

長澤まさみ「ドラゴン桜」(2021)

前作の「ドラゴン桜」(2005)から16年ぶりの続編「ドラゴン桜」(2021)全10話を完走した。

噂が出始めたのが一昨年の秋頃。TBSはこのころから当代きっての人気俳優ふたり、阿部寛と長澤まさみに打診し始めていたらしい。
だがコロナ禍によって、生徒たちを集めた教室シーン撮影が困難になり、企画は流れたかにみえた。多忙なまさみが今更このドラマに出るとは考えにくいと思った。
しかし実現した。今回の「ドラゴン桜」が実現したのは多くの人々の努力のおかげ。

2005年版の再放送があったり、生徒役キャストを小出しに発表するなどの話題作りプロモーションを経て第1回放送をリアルタイムで見た。
2005年版は今でも伝説のドラマ。出演者の多くが今も人気俳優女優。今回の2021年版はややキャストの豪華さにおいて劣るかな…と思いながらも見た。

前作で受験当日に母が倒れ入学試験に参加すらできなかった水野が弁護士として学園再建にやってくる…という胸アツ設定。
当時18歳だったまさみは34歳に。当時41歳だった阿部寛さんは57歳になった。

美少女まさみはスーツ姿のキリッとした美女になった。端正なワイルド美青年弁護士桜木は…細くなってさらに荒くれた印象。何かの仕事に挫折して野宿したり釣したり?なにしてんの。
この龍海学園高校が偏差値32なわりに生徒たちがそれほど荒れてない。服装も髪型もちゃんとしてる。不良な感じはしないしチャラい感じもしない。ギャルもいない。時代の変化を強く感じた。今の子はじつにルールだけは守る。

そして、ちょっと失望した。つまんない…。前回の軽妙な感じがない。制作会社と演出家が変わったので仕方ないかもだが。
なんだこの半沢直樹テイストは?学園売却?黒幕が暗躍?そんな要素要らない。それに、GTOみたいにもなってる。

そもそも前回のドラゴン桜は金曜夜10時枠。今回は日曜夜9時枠という違いもある。
前作と同じものを作っても…という作り手の気持ちはわかるが、結果、期待したライトなものと違って多くの視聴者が困惑。

江口ひろみさんの理事長がおかしい。教育に強い理念を持っているから東大特進クラス創設に反対?たかだか5人ぐらいの実験的企画ぐらいなら試してみてもいいだろ。東大進学者5名出したら理事長を退任とかいう設定もあまり納得いかない。
校長がちょい同性愛者ふうに描かれてるのもちょっと嫌。

それに地域最低偏差値私立高校の生徒から東大に行けそうな子を5人選抜できるとかありえないように感じた。だからこそマンガやドラマにできるのかもだが。
特進クラスメンバーの子たちの抱える問題がヘビーに感じた。
実家のラーメン店が闇金から金を借りてる設定の瀬戸(髙橋海人)。そんなの学園に弁護士がふたりもいるんだからすぐに相談しろよとイライラした。

バドミントン選手岩崎(平手友梨奈)は顔も怖いが親もサイコパスみたいで怖い。自身の夢を娘に押し付ける親。特別料金もかからずに特別な教育プログラムを受けさせてもらえるならラッキーと思えよ。
バドミントン仲間もコーチも悪質。見ていてイライラしたエピソードなのでこの箇所はしっかり見ていない。前作ドラゴン桜と明らかに作風が違う。

さらに、学年トップ生徒小杉(志田彩良)。もうすでに模試の段階で合格圏内。そんな生徒が東大に進んだとして、どこにドラマになる要素が?
この子の父親が一番異常。女に学歴は要らないという強い信念。高校を卒業させたら結婚させる…という決意を持ったおかしな親。
こういう人は学園関係者、教師、弁護士たちが並んだ会議室で持論をまくしたてる勇気なんて持っていないはず。そんなことをすれば恥をかく。普段はしれっと普通の人のふりして常識的見解をのべつつ自分の意のままにするはず。

さらに昆虫にしか興味を示さない原(細田佳央太)。通常なら普通高校に通えないレベルの生徒のように見えた。この子が実は数学や理科、英語が一般生徒以上にできることが判明する回があった。
ネットで「感動した!」とか言ってる人も多かったようだけど、それ、そうだったらいいな♪という理想とフィクションだから!
仮に入試をパスして大学に通うとして、すべてのルールを理解して指導教官にも気に入られ研究者となっていくには相当に高いハードルがあるはず。むしろその後がさらなるドラマになるはず。

天野(加藤清史郎)はほとんど印象がない。普通の常識のある真面目生徒。前作の奥野(中尾)に相当する生徒。弟が優秀という悩み。
そして今回の最大の収穫といっていいキャストが早瀬(南沙良)。ネットをザワつかせるほどの美少女。大評判。
ごく一般的な家庭で育ったふつうにカワイイ女子生徒。軽いノリで特進クラス。とくに東大に行く理由もない。それほど深刻な悩みもない。
前作で言ったらヒロイン水野に相当するポジション。バカで素直で明るい。1回ダメな例となって、言われたことを素直に妄信して受け入れる。大人たちにとって一番理想的な生徒だし社員。国家にとっても望ましい市民。

2005年版では真面目な水野ですらちょいギャルだった。JKというものはみんなカーディガンを着てるものだと思ってたら、いつの間にか時代はスウェットトレーナーJKがキテたの?!
この子がすぐムカついたり、褒められていい気になったり、悩んだり笑ったり、普通の女子高生すぎて逆に難しいという役。

南沙良、完全にノーマークだった。今どきのカワイイ子ではあまり見ないタイプ。アジア人らしさあふれる顔。
ニコラモデル出身でレプロ所属。ガッキーと同じ道。TBSへのレプロバーターだが、次の出演作が楽しみな注目の若手女優へと躍り出た。
そして今回のドラゴン桜において生徒役でもっとも共感を呼んだキャラは藤井(鈴鹿央士)だったと感じた。こいつが初登場した瞬間から性格が悪い。態度が悪いw 

自分は頭がいいと思っている。バカ高校に入ってしまったのはたまたま運悪くインフルエンザになったから。周囲の目を見返すためにも東大に行かなくては…という強い動機。先生をバカにするなど周囲に対して強がった間違った態度。
一見ひ弱そうなガリベン秀才に見えるのだが、カラダがでかくてチンピラ風生徒にも当たりで負けていない。むしろこいつがイジメる側。今回のドラゴン桜で一番しっくり納得がいくキャラ。思うように結果が出なくて悩む。

鈴鹿央士という若手俳優は「蜜蜂と遠雷」に出てた。広瀬すずにスカウトされたという逸話を持つ美少年だったのだが今回のドラゴン桜で大きく存在感が増した。結果、7人の生徒の中で一番目立ってたのは藤井。

藤井が対決に負けて「じゃあな藤井、もういいぞ」「バイバイ藤井」とか言われる(イジられる)シーンが最高に可笑しかった。藤井に「いさせてください…」と言わせようとする女子たちが真正のどSだったw 
育ちのよさそうな早瀬が藤井に対しては口が汚いのも笑った。「よく来れたね?頭打った?」とか「むかつく!ムッツリ野郎!」とか。

第1話から登場するチンピラ男ふたり組はドラマが進むにつれだんだん人気が高まってきたキャラ。(まだ俳優の名前を覚えるまでには至っていない。すまん。)
あれだけ質の悪い反社工作員チンピラだったのに、死ぬほどビビらされてすぐに桜木の舎弟。こいつらの行いと顔を見れば「そんなタマじゃねーだろ」と思わずにいられない。
乗せられて東大受験勉強まで始めてしまうという、ちょっとリアルさに欠ける便利な存在のマンガキャラ。
そして長澤まさみ。今回は自分が生徒たちを立てて導く脇役的存在であることを理解しつつ、そのようにふるまい、存在感を出す超一流の女優。まさみと共演できた生徒たちにも強い刺激になったであろう存在。生徒役の子たちはまさみの活舌のよさと声の大きさに驚いたそうだ。さすがだ。

桜木の授業の補助教員的役割だったのだが、第9話では弁護士として奮闘し、相手の汚いやり方に怒りで震える…というようなシーンはあった。
そもそも大規模リゾート開発のための土地買収っていまどき何言ってんの?そんな景気のいい話あんの?昭和バブルの廃墟リゾート地が日本各地で骸をさらしている。そんな計画に銀行は金を貸すの?

東大数学の鬼・柳先生(品川徹)との16年ぶりの再会に胸アツ。品川さんも16年ぶりの再登場。お変わりなく元気そうでなにより。ただ、前作からの再登場先生は柳先生のみ。前作は先生たちのキャラもマンガっぽくてよかった。今回の講師たちはゲスト的登場のみ。

今回、マンガっぽいキャラで強いインパクトを残したのが現代文(のちに古文も担当してることが判明)の太宰府先生(安田顕)。この人が出てきただけで笑ってしまった。
英語担当特別講師由利杏奈(ゆりやんレトリィバァ)はわりと常識的。それほどのインパクトはなかった。だが、英語記述式問題の書き始め定型文には感心。こういうの、知ってるのと知らないのとでは大きな差。自分は試験問題見てからその場で考えてた。公平な条件じゃなかった。

理科・社会にいたっては特別講師どころか先生役すらいない。そんなんでいいのか?
いや、高校を卒業するために必要な単位の授業は?そういった箇所はまったくなかった。
さすがにもう受験勉強裏技知識のようなものだけでドラマを10話つくれない。今回「マジカルバナナ」があったものの、それほど役に立ちそうもない。もっと視聴者といっしょに考えてみるような問題を出題してみてもよかった。

結果、第2話まではつまらないな…と感じていたけど、第3話以降はそれなりに楽しめた。そもそも長澤まさみという女優を地上波連続ドラマで見れること自体が貴重。ただ、黒スーツ以外の普段着水野が少しでいいから見たかった。

最終回の会議室シーンが時代劇みたいだった。思わぬ助太刀と復讐劇。今回嫌だったのがこういった半沢っぽいシーン。
山Pとガッキーを投入してくるとか、なりふりかまわない視聴率爆上げ作戦。とくにまさみとガッキーが手を繋いでるシーンは泣いた。16年ぶりの共演シーンに。

2021年6月27日日曜日

角田房子「甘粕大尉」(昭和50年)

角田房子「甘粕大尉」(昭和50年)を中公文庫(1979)で読む。この本はこの実物を見るまで存在もしらなかった一冊。
角田房子(1914-2010)を読むのは「閔妃暗殺」以来これで2冊目。

甘粕正彦(1892-1945)といえば麹町憲兵隊長時代に、関東大震災直後のどさくさに大杉栄伊藤野枝、そしてまだ幼い6歳の橘宗一を殺害した甘粕事件を起こした極悪人というイメージ。この本の最初の4分の1はそこを扱う。
日本史の教科書ではほんの数行しか書かれていないことを、この本で詳しく知った。当時の世相、連行されるときの様子。殺害場所と状況。関係者。

この本のために角田房子さんが取材をしたのが震災から50年。まだ当時の関係者に直接話を聴くことができた。
どうやら、いち憲兵大尉にすぎない甘粕正彦に事件を企画実行する権限などない。甘粕の家族たちからすれば幼い子どもまで殺害するとはぜったいに考えられないという。
裁判記録を見ても軍の犯行をまるまる一身で背負ってしまったらしい。警察官僚だった正力松太郎も後にそのことを漏らす。甘粕事件の真相はいまもスッキリしない。

甘粕は幼年学校から陸軍士官学校へ進んだ生粋の軍人。13歳から帝国軍人の心を叩き込まれてる。だが、怪我で歩兵を諦め憲兵になる。この時点で最初の挫折。
上官の命令を黙って実行しその責任を負い、黙ったまま死んでいく。なので軍人たちは誰もが甘粕の軍人としての態度を賞賛。幼児殺害は許されないが、国体を危うくする無政府主義を殺害したことは、この時代の人々にとってむしろ良いこととされた。多くの減刑嘆願が集まった。

懲役10年の判決を受けた甘粕は模範囚でたったの2年で出所。フランスへ渡る。妻も同伴で。どうやらその費用は軍から出ていたらしい。
甘粕は大杉の仇として命を狙われていたのもあるけど、軍としては何か喋られるとマズイ。マスコミから遠ざけたい。

フランス滞在中の甘粕がほぼ廃人。軍籍をはく奪され人生の目的も失う。愚鈍な妻とは話が通じない。外国で暮らす基本知識すらも皆無。フランス語を学習する意欲もない。そもそも外国が嫌いだしフランスの文化にも関心がない。
甘粕は「自由・平等・博愛」という言葉を憎んだし、フランスという国にも文化にもなんの敬意も持たなかったらしい。

たよりになるのは陸士で同期でフランス留学中の澄田𧶛四郎。この人は帝国軍人でありながらフランス語ぺらぺら。

金に困っていたはずがないのだが、なぜか弟たちにお金を無心してる。これが謎。アムステルダムオリンピックも見に行ったらしい。ひょっとして競馬にハマった?このへんはよくわからないらしい。
角野さんはパリ、オルレアン、ルーアンも取材。こんなところに滞在してたの?と侘しい甘粕の心情を察する。憂鬱そうな顔に眉間に深い縦皺の甘粕の顔が目に浮かぶ。青年の挫折。

甘粕が満洲に渡ったのが昭和4年7月。板垣征四郎、石原莞爾の時代。日本のために身を危険にさらしていきいきと働く。この人は一度死んだも同然。なので捨て身で物事に執着しないし思い切りがいい。
資金源も持つようになったのだが蓄財に無関心。弟の証言ではお金の計算などまったくできない人。借家住まいだし余分なお金を家族にも与えない。ほとんどが工作資金に使われた。

この本は3分の2ぐらいがまるまる満洲についての歴史。教科書に数ページ書かれたことを読むよりも、こういった本のほうが理解がすすむ。
満蒙問題解決のために石原の手先となって裏舞台で秘密工作を働く。甘粕にとって最高の瞬間は天津を脱出した廃帝溥儀を営口に出迎えたこと。

建国時から満洲帝国では多くの場面に顔を出す。人殺しの汚名と人々の好奇と嫌悪の視線に昂然と顔をあげる。重要な会議にも参加する。
民政部警務司長になる。日本軍の南京占領のときに祝賀旗行列に漢民族を動員したことに甘粕は怒る。「これでは漢民族の反感を買う!」

憲兵たちの誤解で逮捕された満人有力者も釈放。満洲人の気持ちの分かる日本人だった。満蒙開拓団に対しても「地元民の土地を奪う!」と激怒。
ただ、建国廟創設の件では天照を祀ることには強く反対しなかったらしい。

甘粕は満洲国協和会総務部長になると石原莞爾と仲たがい。「思想のない実務屋」と甘粕を批判する石原を危険視。
一方で甘粕は、石原の満洲国建国の理念は理想論と切り捨てる。シナ事変後に状況は変化している。理念に固執していいことはない。

満洲国代表団の欧州歴訪で貴重な外貨で利ザヤを稼いだ団員を叱り飛ばす。元憲兵なので他人をしっかり観察。時間にルーズなやつに異常に厳しい。

甘粕の満映の理事就任には関東軍が抵抗。甘粕は関東軍のバックがあったから満洲の政財界で羽振りをきかせた…というのは間違いらしい。甘粕個人の力で築いたものらしい。満映では人事に大ナタをふるう。
自信満々で作った映画を日本の文化人たちに見せたら、みんな寝てる!?ってシーンが可笑しい。ちょっと可哀想w

甘粕は日本の敗戦を早々に予見していた?東條と石原の会見をセッティングしたりもした。

カラーフィルムの開発を進めて日本の敗戦後に満洲に何かを残したかった?北京の街路樹を坑木のために斬り倒すことにも「愚行だ!」と激怒。美しい古都の木を切れば戦後日本が嘲笑される!戦いに敗れた後も日本の誇りを保たねばならぬ。なんか、甘粕さんは正義の人に思えてきた。

甘粕さんは日本人にはすぐカッとなって怒鳴るけど、満洲人には横暴な態度をとることがなく信頼されていた。だが、山口淑子によれば差別心はあったらしい。

そして敗戦。ソ連軍がやってくる。人生を賭けた満洲国建設も道半ばで潰えた。
周囲から監視されていたのに隠し持っていた青酸カリで自決。なんか、可哀想な人生だった。

2021年6月26日土曜日

竹内結子「いま、会いにゆきます」(2004)

「いま、会いにゆきます」(2004 東宝)を今になってやっと見る。竹内結子の死後になってやっと見る。初めて見る。
この映画、竹内結子と中村獅童が出会ってしまった悪夢を思い出すので見る気にまったくなれなかった。
原作は市川拓司。監督は土井裕泰、脚本は岡田惠和というおなじみの面々。

東宝の「世界の中心で、愛をさけぶ」の公開が2004年5月、こちらの「いま、会いにゆきます」が10月公開。時はまさに純愛映画、純愛ドラマブーム。

主人公巧(中村獅童)は1年前に最愛の妻である澪を亡くしてる。司法書士事務所で働きながら幼いひとり息子佑司とふたり田舎暮らし。そして男は病弱。なにか行動がおかしい。
序盤はそんな状況説明とお涙頂戴土井演出。TBSドラマの雰囲気がぷんぷんする。
開始25分、やっと竹内結子登場。竹内めあてで見るなら20分飛ばしてもかまわないw 
梅雨の季節、父子は廃墟でぼんやりしてる母親竹内結子を発見。この女は記憶を失っている? 

女は自分が誰なのかもわからず父子の母親を演じる。自分のことはわからないが言葉は話せるし常識はある。
男はこれまでのふたりの間にあった出来事を語って聞かせる。つまらないユーモアとひたすら身の上話映画。これは超絶退屈おとぎ話映画。セリフもダサイ。

展開も疑問。市川実日子に会いに行って願いを託すシーンとかおかしい。さめざめと泣くシーンとか鼻白む。澪は幽霊にしては実体がありすぎる。ゾンビなのか?

高校生時代の主人公とヒロインが浅利陽介大塚ちひろである。
東宝は大塚にちゃんと仕事を割り振ってた。なのにまさみだけが大ブレイクしていった。

小日向さんの存在感が「そのときは彼によろしく」とほぼ同じだった。田中圭がワンシーンのみのチョイ出演で驚く。

ちなみに、親子3人で記念写真を撮っているフィルムカメラはFUJICA AUTO-7 QD である。ジャンク品なら100円でゴロゴロころがってる。
あと、主人公の自転車の雑な扱い方が気になった。
澪側からの伏線回収シーンがだらだら長い。え、夢オチ?!未来の予知夢?なら納得。退屈でも最後までみるべき。

竹内結子は離婚してから後のほうが魅力的になっていったんだなと知った。
それと、竹内は昔から死の影がつきまとう役をやっていた。この映画も幼い子を残して死んでしまう無念の母。見ていてつらかった。
実生活も2度の結婚に失敗したってこと?自分はまだ竹内の死を認めていない。今もまだ悲しい。

2021年6月25日金曜日

平手友梨奈、本日20歳バースデー

平手友梨奈さんが本日、20歳のバースデー。

彼女を初めて見たときは14歳だったのにもう20歳。早い。
最近の平手さんはだいぶ見た目が変わった。「ドラゴン桜」では何か良くないものが憑いたような目つきをしてる。

スキップが苦手な南沙良ちゃんと練習につきあってあげてる平手さんが尊い。こういう一面を見るとまだまだかわいらしい。

2021年6月24日木曜日

松本清張「日本の黒い霧」(1960)

松本清張「日本の黒い霧」上下巻を文春文庫で読む。1960年に文芸春秋に連載され1974年に初文庫化された松本清張の代表作。2004年新装版で読む。

自分がこの文庫本を読むのはおそらく4回目ぐらい。章によってはたぶんもっと読んでる。初めて「下山国鉄総裁謀殺論」読んだときは五反野の現場にまで行ってしまった。ある意味、20代の自分にもっとも影響を与えた一冊であったことは間違いない。今回、人生で最後のつもりで読み返す。

下山国鉄総裁謀殺論
下山事件関連書籍はとても多い。謎が謎を呼ぶ未解決事件。背後にどす黒い渦が巻いている。ニセ総裁を用意して目撃させるとか手口が汚い。都合のいい捜査報告書をでっちあげる警察も酷い。怖い。
けど、国鉄の人員整理でGHQのリストと違うリストを用意しただけでここまで残酷な殺害方法をとるのかな?あれはたぶん裏切り者を殺すやりかた。満洲や右翼たちとの関係にはこの本ではまったく触れられない。

2021年の現在でも全体像のまるで見えてこない事件は世界中で起こってる。しっくりくる納得のできる説明がされる事件やスキャンダルのほうが少ない。安易に陰謀論に走ってはいけないことは、マトモな現代人なら多くの人が肝に銘じてる。
しかし、米軍というブラックボックスのあった時代なら、清張先生の推理と主張もそうかもしれないと思わされる。

「もく星」号遭難事件
これは今回読まなくてもいいかと思ったけど読み通した。昭和27年4月9日早朝、「もく星号」が三原山に衝突し乗客33名と乗組員全員が死亡した事故。
入間にあるジョンソン基地管制による高度指示のミス?米軍側の隠ぺい工作?

二大疑獄事件
昭電疑獄と造船疑獄。国民の血税で自己の欲を満たす政治家たち。犬養法相が指揮権発動し佐藤栄作幹事長を収賄での逮捕にストップをかけたことは日本の歴史上でもっとも酷い事例。汚い金はどこまでも汚い役回りを果たす。背後にはやっぱりアメリカの事情。これも歴史教科書でしっかり教えてほしい。

白鳥事件
札幌で刑事が狙撃され死亡した事件。この刑事が共産党員の検挙と逮捕に血道をあげる刑事だった。

ラストヴォロフ事件
狸穴のソ連代表部から二等書記官が失踪した事件。東京は昔から米ソの熾烈なスパイ戦の舞台。清張先生による実情の推測。

革命を売る男・伊藤律
これは正直とっくの昔に読む価値を失っている。少ない資料から清張先生が読み解いた推理が今日では正しくなかったことが判明してるから。だが今回読み返した。

以下、下巻へ。

征服者とダイヤモンド
終戦直後のドサクサで隠退蔵物資を自分のモノにして成り上がったやつらとか許せない。胸糞悪い。

帝銀事件の謎
これは小説帝銀事件を読んでいればとくに読み返す必要も感じない。だが、自分はこれを初めて読んだとき椎名町や聖母病院まで自転車で行って現場を見てきたw

鹿地亘事件
独立後なのにアメリカ諜報機関が日本人を拉致していたという酷い事件。自分がこの事件を知ったのもこの本が最初。これを読んだせいで、キャノン機関のあった池之端の岩崎邸も見に行ってしまったというw

推理・松川事件
松川事件に関する本はたくさんあるのだが、自分が初めてこの事件について読んだのもこの本。恐ろしいことを企画立案しそれを実行する冷酷非道なやつらがその後ものうのうと生きている。

追放とレッド・パージ
戦争の勝者として意気揚々と乗り込んできた米軍だったのだが、公職追放においても無能をさらす。「占領軍の追放指定の無知は、無力な小物を罰し、狡知にたけた大物を跳梁させる結果になったのであった。」
GHQ内部の事情と極東情勢の変化によって追放されるべき対象が変化。50年夏に始まるアカの追放は多くの悲劇を生んだ。これもしっかり教科書で教えるべき歴史の教訓。

謀略朝鮮戦争
さらにグダグダ無能をさらしたアメリカ。仁川上陸作戦の助言者は服部卓四郎?!

2021年6月23日水曜日

福原遥「ゆるキャン△2」(2021)

テレ東木曜深夜ドラマ「ゆるキャン△2」を完走。今年の春先からアニメ「ゆるキャン△」シーズン2を見てからの実写版シーズン2。
ストーリーもカット割りもほぼ同じなので、アニメと実写それぞれの色合いの違いを楽しんだ。

主人公たちは山梨県身延町の女子高生。ヒロインだと思ってた志摩リン(福原遥)は実は主人公でなく、浜松から転校してきた各務原なでしこ(大原優乃)がマンガアニメ版ではヒロインらしい。

リンちゃんは孤独を愛する孤高の独りキャンパー。現実として、寒さに弱い日本の女子高生冬場ひとりキャンパーは少数ではないか?
田舎のJKではよくある設定かもしれないのだが、この子はどこへでも原付で出かける。浜松へも伊豆へも。
自分が高校生のころはバイクに乗るのは不良という扱いで厳しく禁じられていた。時代は変わった。そそっかしい自分がバイクなんて乗ったらぜったいに事故を起こしてたはず。

キャンプ用具を買うためになでしこはバイトを開始。田舎なので高校生がバイトを探すのも一苦労。
(自分が高校生のときは欲しいもののためにバイトするなんて微塵も考えたことなかった。自分で怪我するのはともかく、他人を怪我させたくなかった。)
シーズン1にも自分が行ったことのある富士宮のYMCAグローバルエコビレッジが登場してうれしかったのだが、シーズン2も、欅坂46「避雷針」ロケ地めぐりで4年前に行ったことのある山中湖みさきキャンプ場が登場してうれしかった。

大垣千明、犬山あおい、斉藤恵那の3人がまったりして過ごす岬の先端部。ここ、自分も「みさきの先端はどんな風景だろう?」と気まぐれで行った場所だった。4年前の11月のことだった。

この3人が山中湖の標高を計算に入れておらず寒さで遭難しかける。自分が行ったときはさすがに氷点下にはならなかったがやはり寒かった。寒いとずっとたき火してるしかない。
(ちなみに、自分が経験したもっとも寒いと感じたキャンプは7年前のGWに北三陸譜代での一夜。北三陸では5月にも雪が降ることがあるということを当時の自分は知らなかった。以後ゆたんぽを持っていくようになった。)
今回は志摩リンはほぼ書店バイト。そのかわりに「野クル」こと野外活動サークル(千明、あおい、なでしこ)の3人に、リンちゃんの親友恵那がキャンプに行くシーンが多い。リンとなでしこ以外の3人もそれぞれ出番が増えた。
この5人は「これほど早くパート2があるとは思ってなかった」という。5人はさらに仲良く絆を強くしたらしい。それはよかった。

大垣千明(田辺桃子)はボケでありながらツッコミでもあるという三村のような存在で感心。お調子者。なぜかときどき隊長のような口調。バイトを始めたなでしこを本人不在の場所で「まかないの喰いすぎでバイト先潰れるんじゃね?www」は酷い。

犬山あおい役の箭内夢菜が、これは他の人も感じてるに違いないのだが、撮影終了後にさらに太ってる。セブンティーンモデルなのに。まるで五月人形のような風貌。
箭内のYOUTUBEチャンネルを見ると、本人も自覚はあるようなのだが、キツくてハードなトレーニングやダイエットをする気はないらしいw 
だが、太い子はそれなりに需要が高い。できることなら痩せる前に水着グラビアとか残しておくべき。

斉藤恵那役の志田彩良さんはドラゴン桜では病んだおばさんのような風貌のJKだが、ゆるキャンだと常にニコニコしてて可愛らしく見える。

この女子5人組がいっしょにいるというのに、「あこがれのセンパイ」や「かっこいい男子」というような異性についての会話が皆無なのは不思議。現実世界の女子同士の会話でそれがまったくないというのはありえない。
でも、アニメヒロインたちはいつもそういうものらしい。それ自体が虚構の世界。だから見ていて楽しいのかもしれない。

シーズン2最終回がまったく最終回らしくなく終わった。シーズン3は来年初春あたりにやってくるのかもしれない。せっかくキャンプブームなのにどこも行けない。
若い女の子が何か新しいことを始めるという日本アニメコンテンツがやたら多いという指摘があるらしい。だがそれがどうした?
中高年が独りで初めて入った居酒屋メニューを喰うコンテンツだってある。どの年代にとっても何か新しいことを始めることは常に新鮮。みんな新しいことを始めろ!熱中せよ!というメッセージは正しい。
ブームというのは人が増えすぎて困るがすそ野が広がることは歓迎したい。

2021年6月22日火曜日

ミッドサマー Midsommar(2019)

アリ・アスター監督の「ミッドサマー Midsommar」(2019 アメリカ、スウェーデン)は2020年のコロナ禍の日本公開でもかなり話題になっていた。だが、ビビッてなかなか見れなかった。やっと見た。

ざっくり説明すると、白夜のスウェーデンの村を訪れた大学生たちの地獄の体験w もうホントにこんな村は嫌だ!
日本公開当時から「上田と山田の出てこないTRICK」とプチネタバレの口コミが広まっていた。

映画は最初から不穏。ダニーは妹から心配なメールが来てその後連絡が取れない…。ダニーも精神が追い詰められて精神不安定で周囲に迷惑。恋人のクリスチャンに連絡するも迷惑がられる。妹は両親を巻き込んでガス自殺。重い女の家族トラブルに巻き込まれるのは大変だ。

クリスチャンは同郷の留学生ペレ(関暁夫みたいなやつ)とスウェーデン・ヘルシングランド地方のホルガ村コミューンへ、90年に一度の夏至祭へ行くことを決意。論文を書くために。ダニーは聴き分けなく不安を吐露。この女が不安定すぎて怖い。

向こうの若者は初対面でいきなり大麻やきのこをやってトリップ?だとしたら日本人の親は子どもを海外へ留学なんてさせられないじゃん。

映画開始36分でようやく問題の村に到着。これがまるでカルト教団の村。ヘンテコ儀式にヘンテコ奇声。ヘンテコなタペストリー。ヘンテコな神殿。
ずっと不気味だったのだが、最初の恐怖ポイントは1時間すぎにやってくる激グロ殺人儀式シーン。

まるでストラヴィンスキー「春の祭典」の世界観。こういう風習は人類が文明を築いたときからあったのかもしれないが、この村人は悪質。嘘つきだし騙して殺す。
これは近代国家ならやめさせないといけない風習。軍隊を派遣してでもぶっつぶすべき悪魔の村。ガイアナの人民寺院かもしれない。なんで村人全員そんなにも確信に満ちてるん?こんな村、嫌だ。

北欧の夏の明るい風土に陰惨なホラーが新鮮。とんでもないカルトホラー映画。こんな映画、なんで日本で公開した?もう二度と見たくないw
それにしてもアスター監督はグロ物体をはっきり見せすぎ。老婆たちが全裸で見守ってるなかで村娘とセッ●スさせられるとか狂ってる。全裸で走らされた役者も気の毒。けど、怖さの演出はほぼ完ぺきだと感じた。

よく知らない同級生に誘われたとしても、正体不明の不気味な村には、けっして行ってはいけない。こんな村人とは結婚してはいけない。就職もいけない。

2021年6月21日月曜日

夏帆「Red」(2020)

島本理生の同名小説(2014)を映画化した「Red」(2020 日活)を見る。夏帆が主演らしいから。これも昨年のコロナパニックのころの公開。
R15+指定。ビジュアルから判断して男女の性愛のようなものがテーマか?

おそらく鬱系恋愛ドラマではないか? 三島有紀子監督作でまだ1作も良いと感じられるものに出会えていない。その点で不安なまま視聴開始。
冒頭から不穏。雪の電話ボックスで涙ぐんでる夏帆。それを離れた場所から見つめる妻夫木。

娘と夫の真(間宮祥太朗)と幸せな結婚生活を送っているヒロイン塔子(夏帆)。幼稚園に娘を出迎えて夕飯の話などしてる。かなりの豪邸に住んでいる。おそらく旦那の両親と同居。かなりの資産家。孫にバレエも習わせそうとする。旦那は商社勤務で来週は北京。ムカつく上流階級w
この夫婦がなぜかいきなりオーラルセッ〇ス?!なにこれ。仕事で忙しい旦那を疲れさせない配慮?これは知らずに見ると気まずい。
そんな主婦ヒロインが次のシーンではなぜか寒々しい雪の夜に妻夫木と新潟へドライブ?それとも逃亡中?ふたりともぼんやりしてる。見ていて時系列が謎。

こんな窮屈そうな上流階級のくだらない社交パーティーから抜け出したい。というときにヒロイン夏帆の前に10年ぶりに昔の男・鞍田(妻夫木聡)が現れる。空き部屋でいきなり獣のようにお互いを求めあう。
夏帆を中学時代から知ってるのでこんな役をやるようになってるって、見ていてつらい。

旦那の家族に内緒で妻夫木と同じ建設業界に再就職?そしてまた旦那のいない場所でよろしく楽しむつもりか。不倫か。
再就職先の建設会社で夏帆は中途採用の即戦力。そこに柄本佑。「へぇ、かわいい」とか言ってじろじろ見られる。こいつが妻夫木と夏帆の関係をすぐ見抜く。いろんなこともすぐ見抜く。そして夏帆に体を密着させてきて二人の関係を根掘り葉掘り質問してくる。「セッ〇スした?」とか質問してくる。いろいろめんどくさい。
「するんならちゃんとやって?」「オマエ、意外とエロいな」
妻が職場でこんな楽しくやってるって、旦那は知らない方がいい。
妻夫木と柄本は人妻めぐってなに対立してんだ。なにイライラしてんだ。
新潟の依頼主のところへ出かける妻夫木にアシスタントとして夏帆が一緒に行くのだが、やっぱりお互いに激しく求めあう。なにやってんだ。仕事だぞ。

ベッドシーンがねっとり濃厚で激しくいやらしい。夏帆の片足を持ち上げたりする。夏帆の眼も潤んでる。最初から最後までフルタイム。隣近所に聴こえないように音量に注意しないといけない。女性監督だから夏帆もここまで許したのかもしれない。けど隠すところは隠すカメラワークが不自然過ぎてダメという人が多かったらしい。ちなみに夏帆は青いブラジャーまでしか見せてない。

正社員になって浮かれてるそのとき、迎えが遅れ、幼稚園にいる娘がジャングルジムから落ちて怪我。ひょっとして故意の自傷?旦那から激しく叱責。

妻夫木は4年前に悪性リンパ腫を発症?そしてまた再発?もう会わないようにしよう。
ヒロインは片親。父は別の女と出て行ったけど旦那の両親には仕事で海外に行ってることになってる。いろいろと嫌なことばかり。

仕事で新潟に行くも大雪で帰れない。旦那も仕事。留守番の子どもはどうする?ギリギリの状況。これが冒頭のシーンだったのか。
夫婦の修羅場。親がふたりとも忙しい仕事を抱えるとか、子どもに多大な精神的負担を与える。なんでこのふたりは結婚してしまったんだ?
そこに妻夫木が現れて夏帆を吹雪のなか運転して送り届けようとするのだが、明らかに体調がいっぱいいっぱい。

火葬場で幼い娘が泣いて母夏帆を引き留めようとするシーンが悲しい。娘を拒む夏帆の顔が怖い。見送る旦那間宮も哀しい。結果、このヒロインがすべて悪い。自分で不幸を選択してる。
結果、かなりの力作文芸作品。夏帆にとっても新境地。夏帆も今年の6月30日で30歳。

2021年6月20日日曜日

夏帆「ブルーアワーにぶっ飛ばす」(2019)

「ブルーアワーにぶっ飛ばす」(2019 ビターズ・エンド)を見る。脚本監督は箱田優子。TSUTAYA CREATORS' PROGRAMの応募作。

主演は夏帆。共演のシム・ウンギョンは2019年度日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞しているのだが、この「ブルーアワー」が日本での初出演作。おそらく、このふたりのコメディーロードムービーだと期待して見る。

CMディレクター砂田(夏帆)は仕事をがんばってる毒舌ツッコミ既婚女(こどもなし)。現場の空気を読みつつ大御所俳優に忖度仕事のクリエイター。この仕事を40過ぎてやってる人はいない。結婚してこども生んで面白い仕事をしてる人はいない…という現場。
仕事の打ち上げで管巻いてゲロを吐く。荒んでる。同僚のユースケ・サンタマリアとは不倫関係?
カラオケシーンの絶唱が地獄。夏帆もすっかり個性派女優。まだ20代なのに。
喫茶店で友人清浦(シム・ウンギョン)と「どう?」的な話。この女が日本語カタコトなのに日本人設定。悪乗りの調子者。
砂田は施設にいるばあちゃんの見舞いのために茨城に帰ることになっていた。
清浦は暇だし面白そうだしで茨城までなりゆきドライブ。ふたり、はしゃぎすぎ。行く道がロッキンに向かう高速。

茨城がどこいっても訛ったバカ高校生と子連れバカ主婦たち。けだるい午後。ゲリラ豪雨。実家の両親もクソ訛った田舎者。
南果歩演じる母親が老けすぎ。耳が遠くなっててテレビに大きな声でひとりごとツッコミしまくってるとか怖い。父でんでんが骨董の日本刀を自慢するとかも怖い。

田舎は田舎に住む他の住民たちの噂を批評するしかない。母が昔遭った痴漢の話始めるとか何なん?ふたりの周囲にはつねに他人の会話がノイズのよう。
なりゆきで清浦は砂田家に泊まる。小学生時代にノートに書いてたマンガを勝手に押し入れから探し出したりする。そういうあるあるシーン。風呂上りのTシャツ短パン姿の夏帆がいい感じ。

実家で両親と同居の田舎中学教師兄がキモすぎて妹ドン引き。女子生徒との性犯罪ジョークに恐怖しひきつってる夏帆の嫌悪感と演技がリアル。妹が兄と距離をとってる感じがリアル。他人に見せたくない兄感がリアル。

母も食事を作らなくなっていた。カップ麺とおにぎり。こうなるともう笑えない。みんなまるで知的障害でもあるかのよう。
都会で暮らしてきた娘は田舎家族の実態に恐怖のような感情を抱いていく。空気の変化のようなものがリアル。

気を取り直して田舎スナック。チーママホステス伊藤沙莉がモーニング娘を熱唱。来てる中年男客も下品すぎる下ネタセクハラがリアル。これはさらにテンション下がる。不味そうに酒を飲む夏帆の演技がリアル。
ディープ茨城の田舎をここまで酷く描いた映画は初めて見たw 闇田舎。ジブリアニメの田舎と対極。

施設でばあちゃんと久しぶりに会うシーン、爪を切るシーンはつらくて見てらんなかった。ずっと夏帆みたいな顔して見てた。
老いと終末もテーマなのか。日々農作業してると母親もこんなにも老けるのかと怖くなった。

だが、どこでも明るい人は周囲の人を救ってると思った。
92分という時間がちょうどいい。映画はこれぐらいの長さがいい。
ちなみに夏帆とシムさんはこの映画で高崎映画祭の主演女優賞。
音楽担当は松崎ナオ。主題歌は松崎ナオ「清く、ただしく」。

2021年6月19日土曜日

村上龍「限りなく透明に近いブルー」(昭和51年)

村上龍(1954-)が武蔵美大在学中の24歳の時に発表した「限りなく透明に近いブルー」(昭和51年)を講談社文庫(昭和60年第16刷)で読む。
累計368万部という驚異的に売れ続けてる本。群像新人賞、芥川賞を受賞しベストセラーになった有名作だがまだ未読だったので。

70年安保当時の村上龍は長崎佐世保の高校生。団塊の世代よりも若い世代。上京して住んだのがなぜかやっぱり米軍基地の街・福生

70年代の初めごろの福生は作家、ミュージシャン、芸術家など、若く野心的な若者が暮らして交流してた。その時代の福生を知るために読む。
文庫裏には「いわゆるハウスを舞台に日常的にくり返される麻薬とセックスの宴」とある。どんだけヤバい街なんだよ福生は。

この本を中学生の娘に買い与えるには親は慎重になるべき。あらすじに「麻薬とセックス」とあるのは間違ってる。正しくは「酒とドラッグと、黒人米兵を交えた乱交セックスパーティーと暴力の日々」。全体の半分がほぼそれ。
芥川賞作品はすべて読みたいと思うような真面目中高生はこの内容を理解できないだろうと思う。

「ペニスが」「ペニスが…」うるせえ!w ところかまわずゲロを吐くな。迷惑。
ドラッグとセックスの毎日でラリって放心してボロボロな男が、沖仲仕(港湾荷役)の肉体労働ができるわけないだろう。

この本を読む前は、「それまで誰も書きえなかった小説を書いた24歳の天才とやらを見せてもらうか?」とページをめくっていった。確かに24歳の青年でしか書きえない詩的な文体ではあった。
だが、それほど感心まではしなかった。時代の寵児のデビュー作は自分には刺さらなかった。芥川賞選考委員にはこの作品に賞を与えることに強く反対した人もいたらしい。
そもそも主人公の個性が読後にまったく思い出せない。そんなものはないのかもしれない。そんな時代だったのかもしれない。

たまに横田基地を横須賀にあると思ってる人を見かける。平然と「横須賀の横田基地」とか言ってしまってる人をこれまで数回見かけた。基地に無関心な人はそんなまでに無関心。

2021年6月18日金曜日

大瀧詠一の瑞穂町

大瀧詠一は今もその楽曲や歌唱は人気が衰えない。昨年は七回忌。そして今年の3月で「A LONG VACATION」の発表から40周年。「君は天然色」とか昨年からすごくよく耳にした。
大瀧詠一を聴きながら、どこか聖地巡礼でもできる場所はないのか?
2015年に白夜書房から発売された「大瀧詠一 WRITING & TALKING」をじっくり熟読。副読本にKAWADE夢ムック 文藝別冊「大瀧詠一40年史」もじっくり読む。
大瀧詠一は「はっぴいえんど」解散後の1973年1月に福生に引っ越した。これはインタビューなどをじっくり精査熟読すると、子どもが生まれたから郊外に引っ越しを決断したらしい。

この時期は伊藤銀次も福生に住んでいた。細野晴臣は入間に住んでいた。音楽、芸術、文士たちの多くが米軍基地の街福生に住んでいた。
その後、多くが福生を離れ都心に戻ったらしい。結局、最期まで福生に住んだのは大瀧だけだった。

2018年西多摩郡瑞穂町郷土資料館けやき館大瀧詠一展を開催した。日本全国から熱心なファンが集まったらしい。ネットで話題にもなっていた。
実はこのとき自分も友人と行った。貴重なレコードや大瀧詠一の私物なんかを展示室で見た。
我々は車で行った。公共交通だと最寄り駅は八高線の箱根ヶ崎駅?みんな駅からぞろぞろと歩いて向かったのか?
今も瑞穂町図書館では一部ポスターやレコード、雑誌などを展示している。
ここは16号線から瑞穂町むさし野に入る踏切。おそらく、大瀧はクルマで出かけたとき必ず通ったはず。

実は、大瀧詠一が住んでいた場所は福生とはいいながら、行政区分では西多摩郡 瑞穂町だった。瑞穂町の福生よりのエリア、米軍ハウスが立ち並んでいた一画に2棟借りてレコーディングスタジオにしていたらしい。現在の「むさし野」と呼ばれる場所に住んでいたことはファンには公然の事実らしい。(ネットでいろいろ調べた)
その名も飛行場踏切。東京都内の単線。それが八高線。

「ナイアガラ・ムーン」が録音され、「ゴーゴーナイアガラ」のラジオ放送が発信された「福生45スタジオ」はどこなのか?ここは多くのミュージシャンがレコーディングに、多くの著名人が訪問した場所。大瀧のファンは誰もが一度は巡礼したい場所に違いない。
だが、いろいろとネットの情報を漁ってみてもそこに行ったという人は見かけない。

日本のPOPミュージック史において伝説の福生45スタジオには記念碑でも建てるべきだと思うのだが、ひょっとすると大瀧の家族が今も住んでいる?なのでみんな今も口をつぐんでいる?
朝鮮戦争(後にベトナム戦争)で日本の米軍基地には軍人と家族用の住居が急きょ作られた。どれもが平屋で壁にペンキというアメリカンスタイル。

建てられて70年とか経つ。年々残存数が減っている。2000年代に入ってから一気に取り壊され、土地が細かく区割りされ、新たに箱のような住宅がギッシリと建ち並んでいる。日本のどこでも見かける普通の住宅地になってしまっている。
大瀧が移り住んだ70年代初頭の風景を見つけることはもう難しい。あの時代を感じさせてくれる風景はもうほとんど見当たらない。

「大瀧詠一 WRITING & TALKING」を読むとじつによく「福生」という言葉と「福生45スタジオ」のことが出てくる。多くの著名人が訪れている。
大瀧と同じ年だった高田文夫も大瀧邸を訪れている。東京渋谷出身で日大芸術学部卒の高田は福生がどこにあるのかも知らなかったという。

文献やネットをどんなにじっくり読み調べても、大瀧は自宅スタジオ周辺で行きつけの食堂とかカフェとか商店とか、そういう話は一切していない。家の近所で撮った写真もない。なので大瀧詠一聖地巡礼は無理っぽい。

WRITING & TALKINGを読むと、大瀧の家には和風な庭があるらしい。亡くなったときのFNNニュース映像では自宅らしき外観がちょこっと映ったこともある。
だが、もうこれ以上は掘り下げない。ただ、なくなりつつある米軍ハウス住宅を見て歩く。
もう福生といえど、東京西郊のふつうの住宅地と変わらない。歩いてみてもそれほど面白くもなかった。
人の住んでなさそうな家もたくさんあった。外壁がはがれ、崩れ落ちそうになってる家もあった。これでは虫やネズミが出るかもしれない。冬は隙間風で寒いかもしれない。
キレイにリフォームして入居者募集広告をだしてる物件もあった。このへんに住むにはクルマが必要だと思う。
「石畑」という古い地名表記も残ってる。地名から推測するに、耕地には向かなかった土地だったかもしれない。「ハウス支線」とかいう名前を今も使ってることに驚いた。