2021年6月7日月曜日

松本清張「渡された場面」(昭和51年)

松本清張「渡された場面」(昭和51年)を15年ぶりぐらいで読み返した。2回目なのだが、大体のストーリーしか覚えていなかった。

佐賀県坊城町(唐津の西30kmにある古い湊。呼子がモデルらしい)の旅館に、東京から文筆業の中年男小寺がやって来る。部屋にこもって原稿を書いている。だが、はかどってない様子。それをずっと女中の信子が観察。
信子は林芙美子を尊敬していて作家小寺に好奇心。ゴミ箱に捨てられていた原稿を小寺の留守中に書き写してしまう。

信子は唐津市にある陶器店の次男下坂と男女の仲だった。この下坂が地元で同人誌を出版する文学青年。月に何回かモーテルで逢う。信子は下坂に小寺の原稿を見せる。下坂は小寺を古い作家だと切り棄てる。

下坂は同時に福岡の女ともつきあっていた。同時に二人が妊娠。福岡の女のほうが美人で気が強いために信子は棄てるしかない。だが、子どもを下ろすことに同意しない。男は女を、福岡に母子を住まわせるアパートを下見に行くと称し、車で連れ出し山中で殺す…。

下坂は同人誌「海峡文学」に掲載した小説「野草」が評判を呼び、ちょっとした有名人になっていた。博多のバーで知り合った夫人は身重。この夫人の実家が信子を殺して埋めた場所に近い。実家に挨拶に行きたくない。いろいろ言い訳して先送りしてたのだが、文学仲間による懇親会的な旅行でまさにその場所へ行く。しかも、信子を殺す直前に轢いてしまい跛になった犬までふらふらと現れる。このへん、サスペンスホラーっぽい。

四国にある某県警捜査一課長香春は、県内で起こった金貸し未亡人強姦強盗殺人の捜査中。容疑者は逮捕されてもうすぐ裁判。だが、殺人自体は否認。そんなとき、たまたま読んだ文芸同人誌に、事件現場とまったく同じ風景が出てくる。その記述によれば、金子という画家が飼い犬を探す男と出会ってる。
事件現場に犬がいたのではないか?容疑者の供述によれば、札束をとじるのにつかったご飯を拝借したアルミ椀が紛失してる。犬を飼ってる別の容疑者が浮上。

だが、この容疑者が既に死亡してることが判明。ならば、事件現場近辺の旅館に画家か作家が宿泊したなかったか?小寺という作家が投宿し原稿を書いていたことが判明。だが、小寺は心筋梗塞で病死していた。
事件現場そっくりの様子を小説に書いた下坂が気になる。事件前後に佐賀から出た形跡がまったくない。なにがどうなって下坂の小説にその場所の風景が転写されたのか?

そして小寺の犯行がバレていく。その辺の清張の嫌なストーリーテラーぶりがさすがだ。清張にはそれほど面白くもない作品も少なくないのだが、この「渡された場面」という作品は、今まで読んだ清張の中でも上位に面白い。供述調書形式でバッサリ終わるのもセンスが良い。

だがやっぱり、小説に書いてある風景が事件現場とまったく同じだ!と断定する捜査一課長と刑事部長には「なんでそんなに確信持って断定できる?」と思わないでもいられない。田舎の風景ってどこもたいして違わないだろ。これが漫画家で、記述と風景画がほぼ一致してるのならまだ話としてわかる。
初めて読んだときは面白く感じた。2回目は上手さは感じたけどそれほど面白くは感じなかった。

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