2022年10月23日日曜日

樋口有介「海泡」(2001)

樋口有介「海泡」を読む。2001年に中央公論社より単行本、2004年に中公文庫化。そして2018年6月に大幅に改稿され創元推理文庫よりこの新装版が出た。カバーイラストは海島千本。
ちょっと古いミステリーはこういったキャッチ―でキレイなイラストで出すほうがきっと若い読者の目に留まる。文庫と同時に電子書籍でも発売。

これ、3回目のワクチン接種に出かけた帰りにそこにあったBOで110円で売られていたので即購入。(すまん)
なんと、小笠原・父島が舞台。大人になる過渡期の少年少女たちの青春ミステリー。ミステリーというよりもサスペンスのある青春小説。

主人公木村洋介(20)は大学のもとは東京の子だったのだが両親離婚。母と暮らしていたのだが母は再婚。わりと有名な画家の父が小笠原へ移住。洋介が中1の2学期。
島には学校がひとつしかないしクラスもひとつ。同年代はみんな同級生。

育った故郷へ帰省。竹芝から26時間という遠すぎる船旅の末に港に着くと、もう同級生に出会う。
樋口有介作品は作者本人の願望なのか、出てくる女性がみんな美女。美少女。宿泊客を出迎えに来ていた旅館の娘旬子(ボーイッシュ)も同級生で美少女。

さらに、トンネルで前村長の娘和希を見かける。この子も美少女。やはり東京へ進学している。主人公は東京で何度かデートもした。だが、和希もこっちに戻ってたとは知らなかった。噂によればストーカーから逃れてきているらしいのだが、そのストーカーも島のペンションに宿泊中?!

さらに、白血病で余命宣告されたクラスNo.1美少女翔子(明治から続く財閥令嬢。洋介よりやや遅れて島に転校してきた)をお見舞い。かつて島の男子はみんな夢中だったのだが、やせ細っていて心が痛む。
この子が大金持ち。自分で探偵社に調査を依頼する。身の回りの世話をする女性も同居。さらに看護婦。父は小笠原まで水上艇でやってくる?

さらに、画家父の家(実家)には銀座の画廊から送られてきたヌードモデル雪江(24ぐらい?)も同居。やっぱり美人。最初の出会いが裸。(エスパー真美かよ)
さらに親友の漁師浩司が通うスナックには東京からやってきたバイト可保里(やっぱり美人で20代)がいる。

樋口有介の主人公はたいていかっこよくてモテ男。その気がなくてもムフフなことが向こうからやってくる。複数の女性とふつうにセッ○スする。20歳学生とは思えない。まるで40男のような落ち着きぶりと常識を持つクール紳士すけこまし野郎。
和希の妹夏希は高校生なのに不良娘。島にやってきた男たちと遊ぶし、主人公の画家父(60)ともセッ○スしてる関係。(樋口有介作品の登場人物は性が乱れすぎケースが多い。)

で、島一番の秀才だった藤井は医学部受験に失敗して島に戻ってるのだが、ちょっと頭がおかしい。意味不明なことを言うようになってる…。(これと同じようなキャラは「風少女」にもいた)

やがて和希が島の山の上から崖下に転落死してるのが発見される。自殺か他殺か?
この国の中枢にまで入り込んでる一族の翔子には、和希が妊娠していたという情報も入ってくる。
島に滞在中の噂のストーカー真崎(東京の不動産会社役員)に洋介は直撃。ストーカーというのは噂にすぎず実は恋人?!和希のお腹の中の子の父親は真崎?
この真崎もやがて墓地で頭を割られた死体となって発見。凶器はスパナ?藤井の実家は自動車整備工だ。

この小説、いちおう殺人が発生して主人公と白血病で寝たきり少女が調査してるけど、普通に青春小説になっている。
やっぱり樋口有介作品なので20歳の登場人物たちがみんな30代中ごろの男女のような会話をしている。バカ会話ですらもオシャレ。みんな簡単にセッ○スする。まるで村上春樹。

犯人さがしミステリーがなくとも十分に読んでいて楽しい娯楽作。だんだん見えなかった人間関係が明らかになっていくサスペンス。アガサ・クリスティーの田舎ラブコメみたいな作風かもしれない。(なぜにこの本も映像化されていないんだろうか)
何かじっくり読める面白い本を探してる十代二十代にオススメ。

あと小笠原の住民は、明治以降に八丈島から移り住んだ「旧島民」、戦後の小笠原本土復帰(1968)後に移住したよそ者の「新島民」、あとは明治以前からの米英系「在来島民」の3種類あるということを学んだ。

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