2022年9月16日金曜日

樋口有介「ピース」(2006)

樋口有介「ピース」を読む。2006年中央公論新社の単行本(書き下ろし)で読む。
BOで樋口有介を物色すると、これが最も目にすることが多い。おそらく一番売れた?
自分は今まで青春ミステリー樋口有介しか読んでない。だがこれは帯を見ると、田舎で起こった連続バラバラ殺人を扱ったミステリーらしい。

群馬出身の樋口有介は上京後に一時期秩父の山の中で暮らしていたらしい。秩父暮らし経験を活かしたのがこの本。
寄居、長瀞、両神で発見されたバラバラ死体という事件。被害者もバラバラ。歯科医、スナックのピアニスト、生コン工場の臨時雇い、それぞれに何も接点がない。ただ、秩父周辺で1か月ごとに発生している。
自分、これまでに何度も秩父方面に出かけたことがあるのでイメージしやすい。

被害者たちがこれまでの自分の思うようにならなかった人生を心の声で独白。そして犯罪に巻き込まれる直前まで描かれる。これは犯人側に動機がない連続殺人か?

そして品のない秩父出身の老刑事。バーの常連客。少年院にいた孤独青年、地元タウン誌記者。それぞれの主観。多くの登場人物たち。やたらこまかい設定。何がどうなってるのやら?

終盤に突然犯人が明かされる。そのサイコパスな動機が空前絶後。そこになんとなく気づけた老刑事のカンのよさがすごい。次の被害者は小学校の先生か?!
人間、どんなことで恨まれるかわからないが、こんなことで殺されたらたまったもんじゃない。

ずっと犯人らしき人物をなんとなく示しているようなのだがそれはミスリード。最後でさらに事件の黒幕的な事物が示される。ちょっと事件の全体像をもやっとぼかす。それはそれで余韻を残すのかもしれないが、これはちょっと無理がある気がする。この老刑事が暇にしても色々と各方面綿密に調査しすぎのような気がする。

オールド・グランド・ダッドというバーボンが老刑事の口を滑らかにする「安い酒」として登場する。これ、自分も最近40度のやつを飲んだことあった。樋口有介はいろいろと庶民的。あまりお行儀のよくなさそうで、お高く留まってない作家で親近感。

社会派刑事ドラマ映画を見ているような感覚。ミステリー小説とはいえない。最後のほうになってかろうじてサスペンスホラー感はした。綿密に推敲を重ねた感じがしない。傑作とまでは言えない。
レビューではわりと酷評してる人が多い。おそらく「鮮やかなどんでんがえし系ミステリー」を期待して読んだ人たちだろうと思う。サスペンス風味のある田舎人間模様を描いた文芸書だと思って読んだ人なら、たぶんそれなりに評価しただろうと思う。

単行本の表紙イラストはこの本の雰囲気を何も伝えていないが、読者に内容を何も予想させないという点では良い。文庫版は読者に想像する余地を与えていて逆に良くない。

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