2022年5月31日火曜日

三島由紀夫「真夏の死」(昭和27年)

三島由紀夫「真夏の死」(新潮文庫)を読む。三島が自選した短編11本を収録した1冊。では順番に読んでいく。

煙草(昭和21年)
少年時代に楽しい美しい思い出は何もないという独白。上級生からタバコをすすめられ…という短編。たぶん平岡公威くんのひ弱だった学習院時代の想い出。
同級生から「ちぇっ、ガチな奴はちがうよ」と言われる箇所があって驚いた。ガチって昭和10年ごろからあった言葉なの?!

春子(昭和22年)
運転手と駆け落ちして戻ってきた叔母の春子(30ぐらい?)とその義理の妹路子と19歳少年の同じ家での暮らしと奇妙な関係。春子と路子の関係を知ったとき自分もびっくらこいた。

サーカス(昭和23年)
サーカス団長の少年少女団員へのサディスティックな扱いが酷い。小説というより詩。

(昭和26年)
お互いに相手に翼があると妄想した少年少女。詩を感じた美しい文体。

離宮の松(昭和26年)
1歳の子を背負って浜離宮公園へ行った16歳少女。これは浜離宮公園に行ったことのあるほうがイメージしやすい。
面白かった。これも誰か短編映画化するべき。

クロスワード・パズル(昭和27年)
熱海のホテルのボーイと、客夫妻(?)の謎の婦人とのやりとり。戦後から数年の熱海は新婚カップルだらけ。

真夏の死(昭和27年)
夏の海水浴での海の事故で子ども二人と妹を一度に亡くした夫婦の体験した衝撃、怒り、悲嘆、そして忘却。心情を克明に描く。とても20代の若者の書いた小説とは思われない。

花火(昭和28年)
自分そっくりの男から持ち掛けられたバイトとその顛末。運輸大臣から意味も解らず「御祝儀」をもらってしまった恐怖。これはオチも無く謎が解き明かされないまま。

貴顕(昭和32年)
元華族の画家の友人治英の半生。そして死。これが読んでて一番つまらなかった。日本語は美しいけど。

葡萄パン(昭和38年)
なんだこれは。三島が若者たちに取材して得たイメージ。今現在の人が読んでも当時の流行の若者のことはよくわからない。

雨のなかの噴水(昭和38年)
「女の子を振ってみたい」という思いから一通りのことをやって別れ話を切り出した少年。とめどなく涙を流す少女。少女の最後の反撃の一言が傑作。この短編集で思わず笑ってしまった唯一の短編。
現在の和田倉公園の噴水がこの小説が書かれた当時と同じかは定かでない。ちなみに自分は昔この公園でインタビューを受けてる瀬戸内寂聴さんを見かけたことがある。

以上11篇のなかで一番面白かったのが「雨のなかの噴水」。まったく古さを感じない。誰か5分ぐらいのショートムービーを撮ってほしい。あと「翼」も好き。

たぶん一番の人気作は「真夏の死」だと思う。だが、自分的に一番高評価なのは、川端康成が褒めたことで三島がプロの作家になる決意を固めた「煙草」だった気がする。たぶん川端の少年時代も三島と同じひ弱少年。ふたりは気が合ったんだと。美しい日本語の語彙力において両巨頭。

ちなみに、日向坂46の宮田愛萌も「真夏の死」を読んだと自身のブログで書いている。宮田が一番気に入ったのは「サーカス」だったらしい。

2022年5月30日月曜日

加藤小夏「警視庁・捜査一課長シーズン6」第6話

加藤小夏がテレビ朝日系「警視庁・捜査一課長シーズン6」第6話(5月19日放送回)に登場。またしても重要参考人的な登場の仕方。

しかもドラマ開始冒頭から斉藤由貴刑事に路上で話しかけられて小夏さまご立腹という場面。お許しください、小夏さま!ああ、美しい!w 
透明感が感じられる色白美肌。なぜかずっとこんな偏光眼鏡をしている。これが最先端のおしゃれなのか。小夏様の役どころは事件に関わってしまったフリーライター。気が強くプライド高そうで反抗的。

取調室って威圧的で誰もが不快に感じるに違いない。「ちょっと署まで」とかカジュアルに言うなら署に接客用の座り心地のよいソファのある明るいカフェとか備え付けておけ。
女性警察官が殺害されるという事件。この有能女性刑事役の人は篠原真衣という38歳の女優だ。今回初めて名前を覚えた。なんと2007年のアサヒビールイメージガールだ。今もモデル女優としてがんばってるとか、それはいいことだな。
今は捜査会議で事件関係者が顔写真つきで大きなモニターに出力されるのか。小夏様、かわいい。

ま、ぶっちゃけそれほど集中して見てないので話の内容はよくわかってない。加藤小夏はまだテレビで見れる機会も多くないのでここに書き記して忘備録とする。早くブレイクしてほしい。

2022年5月29日日曜日

怪盗ルパン「三十棺桶島」(1919)

引続きもらい受けて来た3冊の最期の1冊、モーリス・ルブラン怪盗ルパンシリーズ「三十棺桶島」(1919)を南洋一郎訳ポプラ文庫(1988)で読む。表紙と挿絵は若菜等。

怪盗ルパンにこんなタイトルの本があることを、この実物を見るまでまったく知らなかった。「黄金三角」と「虎の牙」の間にある長編作品。この作品でもルパンはスペイン貴族ドン・ルイス・ペレンナとして登場。
L'ILE AUX TRENTE CERCUEILS by Maurice LEBLANC 1919
ヒロインのベロニク・デルジュモンはブザンソンでブティックを経営しているのだが、たまたま見た映画「ブルターニュ地方の伝説」という映画に出てくる一場面で、自分が少女時代に使用していたV’dH組文字サインが書かれた小屋が一瞬出てきて驚く。

探偵を雇って調べさせ、問題の小屋があるブルターニュ地方のビスケー湾に面した村へ行くベロニク。小屋には確かに自分のサイン。そこで手首のない老人の死体を発見。何やら不気味な絵(ベロニクら4人の女が磔されてる)と文字の書かれた紙も発見。慌てて村の警官を連れて戻ると死体はどこかへ消えていた。

謎の文字メッセージを読み解き浜辺へ導かれるように出ると、がっしりした体つきの40女が自分の知ってる子守歌を唄ってる!?このオノリーヌという女はベロニクが誰であるかを知っていた。

ベロニクはかつて偽ポーランド貴族ボルスキー(色魔)にコロッと騙され恋に落ちそして駆け落ち結婚。だが夫からの虐待が始まり結婚は破綻し逃亡。
ドルメン(巨石)研究で有名な考古学者であるデルジュモン博士(結婚に反対)はちょっと頭がおかしくなって、ベロニクの幼い息子を連れてヨットでイタリアに渡ろうとして嵐で沈没。博士と息子は死んだと思われていた。

オノリーヌによれば父と息子は過去を悔やんで「三十棺桶島」でひっそりと暮らしてるらしい。島には悪魔の呪いと祟りの予言があるものの、ベロニクはオノリーヌと一緒にボートで島へ。

だが島では異常事態が起こっていた。息子(10才ぐらい?)と家庭教師のマル―が発狂し、博士と料理女を射殺。さらに逃げようとした島民のボートに爆弾を投げつけ波間に浮かぶ女子どもも全員射殺。あまりに残虐。それを見たオノリーヌも発狂し崖から身投げ。
さらに隠れていた3人の老婆も殺され木に磔けされて発見。まるで「八つ墓村」のような狂った大量殺戮展開!まるでホラー映画。

島でひとりぼっちになってしまったヒロイン。(まるでトリックの仲間由紀恵)
二つの島を結ぶ地下トンネルの途中にある牢獄に閉じ込められている息子のフランソワ少年と再会。島民を皆殺しにした狂った少年は自分の息子じゃなかった!

さらに、縛られていた家庭教師マル―(ハンサム)も発見。この人は少女時代の親友マドレーヌの兄。どうりでなんとなく見たことのある顔だったわけだ。
フランソワやマル―によれば、どうやらベロニクが島に来る前日に何者かが島にやってきていきなりふたりを襲撃し監禁したらしい。敵は姿を見せないのだが、女と子どももいる。

一味はやはりデルジュモン父娘に恨みを抱くボルスキーとその先妻とその息子。その手下。邪悪な殺人鬼たち。島に伝わる伝説の宝「神の石」を狙ってる。そして悪魔の子レイノルズによってマル―は崖から転落して死亡。

ルパン(ペレンナ)はいったいいつどのように登場するのか?期待を裏切らない面白い登場の仕方だった。ユーモアのある展開だが、子どもが読むにはいろいろと残酷。

そしてこれまで放置されていた不思議な出来事をルパンが明かす終盤。「わがはいが○○したのだ」
これがそうなる?という大時代的なつっこみどころ。果たして神の石の正体とは?!
今日までのフランスのエネルギー政策の最初の一歩だったかもしれない。

なにこれ。異常に面白い。なぜ今までまったく読んでなかったのか。雰囲気が横溝正史の「三つ首塔」や「八つ墓村」っぽいと思ってた。調べてみたらこの小説は横溝正史に影響を与えたらしい。江戸川乱歩ぽくもある。
不気味で呪われた島とか、地下通路とか、そういうの乱歩や横溝の専売特許かと思ってたら、こっちがオリジナルなのか。

あと、怪盗ルパンシリーズは過去の登場人物たちも出てくるので順番に読むことが望ましい…ということがわかった。

2022年5月28日土曜日

怪盗ルパン「虎の牙」(1921)

モーリス・ルブラン「虎の牙」(1921)を南洋一郎訳ポプラ文庫「怪盗ルパン」シリーズで読む。
1988年出版という古本。カバー絵と挿絵は若菜等。図書館リサイクル無償配布本としてそこにあったのでもらってきた3冊のうちの一冊。

2億フランの遺産相続をめぐる連続毒殺事件。親の遺産を引き継いだコスモ氏が遺言状を書いた後に不明の毒を注射され死亡。
パリ警察の若手うできき刑事が奇怪な歯型のついた板チョコを持ち帰り、「Fau」というメモを書いてから苦しみだし絶命。やはり同じ毒?

遺産相続の権利がある母エルムリーヌの妹エリザベートの息子フォーヴィユ老人とその息子も「殺される」と恐れていたのだが自宅で毒殺。その息子(前妻との子)も毒殺。若いマリアンヌ夫人が事件当日怪しい行動をしてアリバイがなく、現場に落ちていたリンゴの歯形が一致し、遺産目当ての殺害容疑で逮捕。
姉妹のいとこの息子ガストン・ソーブランも共犯者に浮上。逮捕直前に逃走。

「黄金三角」と同じようにルパンはスペイン貴族ドン・ルイス・プレンナとして登場。この人も遺産相続権があるということで容疑者としてマークされる。
プレンナ(ルパン)はルーマニアの伯爵の家だった屋敷に住んでいるのだが、屋敷つきの女秘書ルバスールの行動が不審だ。プレンナの行動を監視してる?部屋に閉じ込める?

ルパンは仲間のマズルー警部と謎の手紙の宛先だった村へ向かう。古城で夫婦の白骨死体を発見。そしてそこにガストン。その傍らにルバスール。

容疑者の本命が相続権ある者たちの間で行ったり来たり。だが関係者の毒殺や自殺でついに相続人候補者がプレンナだけとなって逮捕される。だが、ルパン(プレンナ)はフランス首相と知り合い。特別な計らいで釈放してもらって真犯人と、囚われのルバスールを追う。飛行機で上空から車を追う。

この本、巻頭に登場人物表があるのだが、そこにもう殺人魔として名前が書いてあるのはいただけない。読む前に表を見て犯人の名前を知ってはいけない。最後で「オマエ誰?」と驚けなくなってしまう。
あと、ルパンが叢に隠れた古井戸に転落するシーンがあるのだが、挿絵だと石積みの枠が80cmほどもある。これでは落とし穴にならないのではないか?

「怪盗ルパン」シリーズをとりあえず2冊読んだのだが、ルパンはなんら怪盗でもコソ泥でもない。祖国フランスを愛する快男児紳士。
そして、江戸川乱歩の怪人がでてくるジュブナイル作品は「怪盗ルパン」の影響を受けているように感じた。

あと、フランス軍に従軍したルパンがモロッコの土民軍の叛乱をひとりで制圧して「ルパン王国」を名乗り、勝手にフランス共和国に編入するというのは今日の読者は疑問に思うかもしれない。植民地主義を批判する韓国人は読むと頭に血が上るかもしれない。

2022年5月27日金曜日

怪盗ルパン「黄金三角」(1918)

小学生のころ、図書室の江戸川乱歩「少年探偵団シリーズ」はだいたい読んだ。だが、同じポプラ社からシリーズで出ていたホームズとルパンにはまったく手を出さなかった。子どもには19世紀末のイギリスやフランスをイメージすることはほぼ無理だった。

数年前から読み始めたコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズはほぼ全作読み終わった。そしてついに、フランスのモーリス・ルブラン(Maurice Leblanc 1864-1941)を読み始めた。

ポプラ社「怪盗ルパン」全集(1958)のポプラ社文庫版(1988)で読むことになった。カバー画と挿絵は若菜等。
SNSなどでチェックしてみてもこの版で読んでるという人は見当たらなかった。
この版で読んだ理由、それは、図書館リサイクル本を無償で手に入れたから。そこに置かれていた3冊すべて持ち帰った。

子どものころに「怪盗ルパン」シリーズに夢中になったという人はたいていこのポプラ社の児童向け本で読んでいる。
訳者は南洋一郎(1893-1980)。なんと明治26年生まれ。現代の子ども向けに一部改変されていたとしても、登場するフランス紳士たちが自分の事を「わがはい」と呼ぶなどやや珍妙。

では、手に入れた3冊の内、まず「黄金三角 Le Triangle d'or」から読む。

第一次大戦中の1915年、義足で頭に包帯を巻かれた傷病兵青年士官パトリス・ベルバルくんはカフェで不審な外国人の会話を聞いてしまう。その場所で傷病兵仲間たちと身を潜めて待ち伏せしてると看護婦コラリー嬢が男たちに拉致誘拐されそうになってる現場に出会う。

だがコラリーは様子がおかしい。夫はフランス財界の大物で銀行家エサレ・ベイ氏。ずいぶん年の離れた夫婦。実はエサレ・ベイはトルコ人でその背後に敵国ドイツが?こいつは祖国フランスにとって裏切り者のスパイ?!

パトリスは忠実な部下ヤボン(片腕が無い巨人の黒人傷病兵)を従えて、フランスとドイツにまたがる国際的陰謀へと立ち向かう。
フランスの資産である3億フランの金貨がドイツに運び込まれることを阻止し、悪党に殺された両親の謎を追う。
だが、コラリーとパトリスは屋敷のなかの密室に閉じ込められ、やがてガスが充満という大ピンチ。

そこにふらっとスペイン貴族だというドン・ルイス・プレンナという謎紳士が登場し二人を助ける。この人がとても頭が良い。犯人は狂った老執事シメオン?!
自分、怪盗ルパンを初めて読むのだが、おそらくこのプレンナという紳士がルパンなんだろうと簡単に想像した。

で、アイツの正体は?ルパンはいつどこで登場?金貨の隠し場所は?という、この時代によくあるようなスパイスリラー展開へ。
ルパンはドイツ人スパイと知恵比べ。事件をまるっと解決し、爽やかに去っていく。
終盤、子どもが読むにしては次々と人が殺される。人の命が軽い。忠実な部下ヤボンが死んだのに、パトリスがその死をまったく悼んでいないのは違和感だった。

てっきり怪盗ルパンシリーズをピカレスクロマンだと予想していたのだが、ルパンは盗賊というよりも、偉大な祖国フランスのために活躍する快男児ヒーロー。大衆娯楽講談。毎回この程度のクオリティなら、それは人気者になるはずだ。

手に入れた本があと2冊ある。面白ければ今後もポプラ社版で読み進めたい。だが、ひらがなが多い児童向け書籍は大人が読むにはむしろ読みづらい。わりと読むのに時間がかかった。

2022年5月26日木曜日

原田知世「私をスキーに連れてって」(1987)

「私をスキーに連れてって」(1987 東宝)を見る。まったく初めて見る。
ホイチョイ・プロダクション原作、フジテレビ制作。監督は馬場康夫、脚本は一色伸幸。
1月にBSプレミアムで放送された。録画しておいたもので見る。自分がこの映画を見ようと思った理由は原田知世さんが主演だから。大スターアイドル女優だった原田知世さんは十代から多くの主演映画を残している。

主人公三上博史は書類作成の仕事をさっさとやっつけると残業もそこそこに即帰宅。スキーを車に積んで志賀高原に直行。仲間と合流。なんだかとても楽しそうな非日常。これがバブル時代を代表する日本映画。
当たり前だが登場人物たちがみんな80年代の雰囲気だ。その中で原田知世さんが圧倒的にかわいい。その友だち鳥越マリさんの会話が今では使わない言い回しをしているように感じた。
高橋ひとみさんは80年代都会的美人代表。(スキーロッジでバニーガール姿?!)
原田貴和子さんも今ではあまり見ないので貴重。布施博も最近あまり見かけない。故沖田浩之さんを見るのが久しぶりだ。
三上の取引先部長がバリバリ働く田中邦衛さんだ。
俳優に限ったことじゃないけど、どの仕事も長く続けてると故人だらけだ。

三上と原田がいい感じになるのだが、三上には別にアタックしてる女もいる。原田は「なんだ、彼女がいるのか…」とやや失望顔になる。三上はそれと気づかず東京での連絡先を聞き出す。

しかしそれは嘘の電話番号。この当時の東京の局番が3桁だ。この時代はまだケータイはない。子機受話器ですらそうとうにデカい。
布施は医師らしいのだが、手術中に三上の恋の件でふざけながら笑い話電話とか、今では許されないシーン。BGMも80年代ドラマっぽい。
三上は後に原田に偶然再会。なんと同じ会社の秘書課の子だった!
恋を応援するために友人たちが全力で応援という展開へ。
なんだか、どこかのアジアの国のドラマを見てるような雰囲気。ふざけてるときの会話が中国韓国のドラマみたい。メイクもOLの服装も今とセンスがまるで違う。

スキーの技量に圧倒的格差があるにしても、三上の原田へのスキー指導の仕方が典型的な昭和おじさん。さしでがましいようだがアドバイスさせていただいていい?というスタンスじゃないと今の若い子からは嫌われる。

新商品発表会にその商品が届かない!というピンチが会社に起こる。(竹中直人キモ社員の奸計)
その連絡してくるヤツがおかしい。そんな強い言い方したってどうにもならないだろ。急げつったって安全第一だろ。こっちは軍人じゃないんだぞ。

思いつめた原田は滑走禁止コースをスキーで行ってしまい大ピンチ!高橋ひとみと原田貴和子ペアに至っては雪山を車で行くとか大迷惑。みんな冬山の恐ろしさを知らないバカ。まるでマンガ。

あの場面で「助かった~」とかまだ早い。さらなる大量遭難になっていたかもしれない。
それにあの状況で間に合ったとして、今なら不法行為を調べ上げ騒ぎ立てるマスコミとか出てきそう。これをいい話にするな。そのへんはおおらかな時代。
直後の竹中直人の演技演出がおかしい。その傍らにいる男も情報量ゼロの演技でそこにいる。なにこれ。

主題歌は松任谷由実「サーフ天国、スキー天国」。この映画自体がユーミンミュージックビデオみたいなもの。正直、今も見る価値がある映画かどうかはわからない。
ただし、原田知世さんは今の瀧野由美子みたいでかわいい。石原さとみかもしれない。
この時代の若者たちがそろそろ定年退職か…というのが今現在。この映画を見て育った子どもたちは大人になるとバブル崩壊と氷河期。

昔はスキー板を持った若者を新宿駅西口や新幹線駅で見ることがよくあった。今ではスノボを持った若者すら見かけなくなった。

2022年5月25日水曜日

W.L.シャイラー「第三帝国の興亡」第1巻 ヒトラーの台頭(1960)

もうだいぶヒトラーとナチスとドイツの歴史に詳しくなってきたので、ついにこの本を読む。W.L.シャイラー(1904-1993)による大作「第三帝国の興亡」全5巻(1960)を1961年東京創元社版で読み始めた。
The Rise and Fall of the Third Reich by William L. Shirer 1960
現在書店に並んでいるのは2008年松浦新訳版だが、自分が読んだのはなんと井上勇訳版だ。昭和36年に出たものなので相当に古い。この人はエラリー・クイーンやヴァン・ダイン、クロフツみたいな英米ミステリーの翻訳だけしてた人じゃなかったんだ。

この本が書かれた当時はまだ第二次大戦が終結して15年。この時代は戦争の傷がまだまだ癒えていない。誰もがナチスドイツとヒトラーを歴史として本にするには早いと考えていたらしい。シャイラー氏はその当時出回っていた本や保管されていた膨大な文書からこの本を執筆。当時はとてもよく読まれていた本だったらしい。
第三者の目線でドイツ国内やナチス内部で何が起こっていたのかを発見された資料から分析し、怒り呪詛し、熱く語る。

アドルフ・ヒトラーがまだ画家にもなれず建築家にもなれず何者でもない徒手空拳の痩せた青白い若者時代から書かれている。それどころか祖父の代から書かれているのだが、父アロイス・ヒトラーを祖父が認知しなければ、ヒトラーの名前はアドルフ・シックルグルーバーだった?!

ナチスの前身ドイツ労働者党の創業メンバーたちは反ユダヤで機関紙フェルキッシャー・ベオバハターに集う。ナチ党歌をつくった飲んだくれ詩人ディートリヒ・エッカート、錠前屋アントン・ドレクスラーはともかく、ヒトラーは「元浮浪者」、アルフレート・ローゼンベルクは「凡庸な知識人」、ユリウス・シュトライヒャーは「下劣なサディスト、有名な人妻泥棒」、ボディガードだったウルリッヒ・グラーフは「肉屋の見習い素人レスラー」など、その装飾説明枕詞からして酷評と罵倒の連続。(マックス・アマンは粗暴だが有能なオーガナイザーだとして貶してはいない)

そもそも何者にもなれなかった連中が国を憂いたりするな!というスタンスw 社会で成功できなかった負け犬にアメリカ人は厳しい。(成功者は現体制に満足してるので社会を改革しようとしないんだけど)

この本を映画化するとしたら、最初のクライマックスが1923年11月8日の晩、バイエルンの三頭独裁政治スリートップ、バイエルン総督カール、ライヒスヴェア司令官ロッソウ、州警察長官ザイサーを監禁したビヤホール・プッチ。
自分はこのシーンの映像作品をまだ見たことがなく、こんな感じだったのかと初めて知った。ルーデンドルフ元将軍は過去の名声が何の役にも立ってない。そして警官隊と発砲、衝突。
ヘス、ゲーリングは逃亡。レームら幹部は投降逮捕。しかしルーデンドルフは無罪放免。

ヒトラーは9か月たらずで釈放。その間に書かれた本が「我が闘争」。ルドルフ・ヘスが口述筆記。この本の実物を自分は見たこともないのだが、「第三帝国の興亡」第1巻では多く引用されている。そのすべてがプロイセンとビスマルクから受け継ぐ無責任な誇大妄想。たぶんローゼンベルクとエッカートからの受け売り?
著者シャイラーはフィヒテ、ヘーゲル、ニーチェをも批判。ドイツ人をやたらほめたたえた同時代人を批判。

1931年のヒトラーの側近たち5人がグレゴール・シュトラッサー、エルンスト・レーム、ヘルマン・ゲーリング、ヨゼフ・ゲッベルス、ヴィルヘルム・フリック。
このうち2人は粛清、1人はヒトラーと最期を共にして、あとの2人は戦後にニュルンベルク裁判を経て処刑。
(フリックって誰だっけ?と思ったら、ノイラートの後任としてベーメンメーレン保護領総督になってた人)

ヒトラー政権誕生前夜の政治劇はこの本を1回読んだだけじゃわからない。ヒンデンブルク、ブリューニング、シュライヒャー、パーペン、ヒトラー(シュトラッサー)の権力闘争。
パーペンとシュライヒャーは共和国時代最後の無能な軍人首相としか認識がなかったけど、海千山千の権謀術数のはてに敗れ去った者たちだったと知った。著者はみんなバカだと思ってるらしいけど。

この時代の政党は暴力団のようなもの。テロの応酬。ナチは政権に食い込んだ時点から凶悪なことやってた。プロイセン内相になったゲーリングが好き勝手やってる。多くの労働者を取り込んで一大勢力だった共産党は国会議事堂放火事件で壊滅。

権能付与法(全権委任法)を強引に議会で通過させる。老いたヒンデンブルクはもう抵抗もしない。各州政府の機能も喪失。社会民主党の議員たちも弾圧され党は消滅。バイエルンのカトリック人民党も解党。新たな政党をつくることも禁止。ナチだけが唯一の政党。
労働者は団体交渉権を失い労働組合も解散させ実業界財界を喜ばせたのだが、財界人も脅迫して企業をどんどん国有化。(自分、この本でドイツ再軍備に貢献したシャハト経済相の存在を初めて認識)

そして「長いナイフの夜」事件。(この名前は当時はまだ存在しなかった?一切出てこない)
ヒトラーやSSから邪魔になったSA幹部たちの大量粛清。身元がわかってるだけで116名が殺された。(1957年ミュンヘン公判では1000人以上が殺されたとされた)
SA自体はヤクザみたいなものだから自業自得かもしれないが、過去の恨みから殺された人、過去を知りすぎて殺された人、不道徳とされた同性愛者、粛清リストの名前と似ているだけで間違われ惨殺された人たちは憐れ。もうこの世の地獄。

そしてヒンデンブルク大統領は86歳で死去。ヒトラー(45歳)は首相と大統領を合わせた邪知暴虐の王(総統)になる。

この本、読むのに相当に苦労するかな?と思ったけど、予想外に読みやすい。わかりやすい。歴史の教科書で数行の箇所も詳しく活き活きと教えてくれる。引続き第2巻も読んでいく。

ドイツがめちゃめちゃにされてる間、ずっと軍はなにやってる?って思ってた。早い段階で戒厳令かクーデターでナチとSAの全員拘束とかしてくれたらよかったのに。

ヒトラーは約束という概念が軽い。相手を釣る手段にしかすぎなくて、相手を譲歩させればこっちのものぐらいにしか考えていない。後にほぼすべての約束を反故。
これは今の中国ロシアにも当てはまる。ナチを増長させたのは国内の野党勢力もそうだったのだが国際社会が結束できなかったから。世界は一丸となってまずロシアの子分ベラルーシを集中的にやっつけるべき。

2022年5月24日火曜日

宮崎駿「魔女の宅急便」(1989)

宮崎駿監督の「魔女の宅急便」(1989 スタジオジブリ)を金ローでやっていたので録画しておいた。見た。
自分、「魔女の宅急便」だけは十代の頃に1回見たきりで以後一度も見ていなかった。本当に久しぶりに見た。

13歳になったら魔女の子は家を出て魔女修行に出かけるという話。原作は角野栄子。
ヒロインの家族たちや村人たちとかもうなにもかもまったく覚えていなかった。
魔女もラジオ天気予報で門出の日を思い付きで選ぶのか。

主人公キキは箒にまたがって夜空を飛んでいく。舞台は日本人のイメージする架空の想像上の欧州。てっきり英国風だなと思っていたのだが、地上を走る車が右側通行だ。
空を飛んでるとお高く留まった先輩ツンツン少女魔女と出会う。ユーミンの音楽を止めるよう言われる。
突然の雨で雨宿りした貨物列車にの機関車の先頭に「NB」と書いてある。自分はドイチェ・バーンぽいと思ってた。

ヒロインが一晩寝て起きると列車は海岸を走ってる。進む先には大きな町が。貨物車の屋根からヒロインが空へ飛び出す瞬間から数分の間が天才の所業。見る者の想像を超える。久石譲の音楽がとても合ってる。
この街がどこか?昔からいろいろと考証されている。ドブロヴニクでは?ゴットランド島では?自分のファーストインプレッションとしてはリスボンを連想した。コペンハーゲンかもしれない。今ではいろいろな証言インタビューなどから、様々な街をロケハンしていいとこどりして創られた街であることがわかってる。

この街がかなりの都会。ひょっとするとマルセイユほどある。人々の服装や走ってる車などから判断すると50年代?60年代?
この街の人々が魔女を目撃して驚くのだが、我々の感覚からすると驚くレベルがそれほどでもない。「まあ空飛ぶ女の子もいてもおかしくないだろうな」というレベルの驚き。

ヒロインはパン屋で寝起きするようになる。13歳少女の自立と自身の特殊能力を活かした資本金ゼロ起業がテーマ。
見ているといろいろ不安になる。もしも途中で事故に遭って届け物が破損したら?指定時間に間に合わなかったら?保険をかけなくて大丈夫なのか?
で、実際、届け物を突風にあおられ落としてしまう。鳥の群れからの襲撃に遭う。
仕事の依頼先で年寄りの世話仕事もする。やっとニシンのパイを焼きあげ雨の中を必死に届けたのに、届け先(貴族の家か!という豪邸)であまり歓迎されない。宮崎駿に言わせればこれがお金をもらうプロの仕事…というエピソード。映画として1回落ち込むシーン。それどころかスランプモード期間が長い。

ほぼ初めて見るぐらいにまるで何も覚えていなかった。ツェペリン飛行船みたいなものとかまったく覚えていなかった。こんなディザスタームービーだったっけ?
ほぼすべてが新鮮だった。

このアニメ映画を見た少女は荒井由実の「ルージュの伝言」と「やさしさに包まれたなら」を歌えることが多い。
日テレの鳥人間コンテストもこの映画とも連動?
あと、自分は昔この映画のサントラを持っていた気がする。いつのまにかなくなってた。

2022年5月23日月曜日

ヒッチコック「鳥」(1963)

アルフレド・ヒッチコック監督の「鳥 THE BIRDS」(1963 パラマウント)を見る。有名な映画だが今回初めて見る。

今まで見て来たヒッチコック映画はすべて大人のサスペンスという感じだったのだが、これはどうやら動物パニック映画。他とは毛色が違うんじゃないか…と避けていた。BSでやってたので録画しておいたものを見る。
原作はダフニ・デュ・モーリエによる同タイトルの短編小説だそうだが、その作家を自分はまったく知らない。

「めまい」と同じくサンフランシスコが舞台。空には鳥の群れ。
自分はこの「鳥」という映画を、鳥の大群が出現し人々を襲ってパニック!という映画だと思ってた。予想に反してミステリアスな男女のおしゃれ会話が続く。

メラニー(ティッピ・ヘドレン)という美人がペットショップ(鳥のみを扱う)店でミッチ(ロッド・テイラー)というイケメン男性に妹へのプレゼント用の鳥について話しかけられる。
男は気が変わってその場を去っていく。メラニーは車のナンバーから男を割り出してプレゼント用ラブバードのつがいの入ったケージを持ってアパートメントへ行くのだが、向かいの部屋の男によれば、サンフランシスコから北に100キロばかり行ったボデガベイという港町に帰っていて月曜まで戻らないという。

メラニーは異常な好奇心と行動力でミッチの家を探しボートで訪ねて鳥かごを家に置いていく。すぐにミッチは気づく。その後ボートでカモメに襲われたメラニーは頭に怪我。なんかちょっと変わった男女の出会い。酒場で手当てをしてもらうと男が刑事事件専門の弁護士であることを知る。
ここまでいろんな人が登場するのだがみんな素朴でいい人たち。だが、ミッチの母親(ジェシカ・タンディ)は初めて会った時からなにやら警戒心丸出しで固い表情。メラニーはミッチの家族に夕食に誘われる。

ミッチと家族のことを知る村人アニー(スザンヌ・プレシェット)と同級生だと嘘をついたりもするメラニー。いろいろ強引にアニーの家の貸し部屋一晩泊まったりする。ミッチと母親、そしてアニーの話を聴いたりする。なんだかいろいろと不穏な感じもする。

屋外でパーティをしてると突然に鳥たちが襲撃してくる。部屋にいても暖炉の煙突から大量の鳥たちが侵入してくる。何か異常なことが起こってる?保安官を呼び出してもどうにもならない。

まてよ、そういえば鳥たちの襲撃現場にはいつもメラニーがいる。と思ったのだが、近隣住民も鳥に襲撃され惨殺されていた!?
小学校でもバードパニック。さらにカモメの大群で街はパニック!やはりメラニーがこの街に来てから鳥たちがおかしくなってる?
子どもたちを守った教師アニーも死亡。

この映画、何を描いているのか?何を意図してるのか?一向に展開が読めなくて原因がわからなくて見ていてストレスが溜まる。ひょっとしてそれが狙い?

公開時にとても話題になった映画らしいのだが、今となっては映画としてどうなの?と思わざる得ない。正直かなり退屈した。
ヒッチコックはこの企画と脚本でできる最上の仕事はした。しかしそれでもどうもならない。ストーリーを深読みしようと思えばいくらでもできるけど荒唐無稽。どんな生き物だって異常に大量にいれば何だって怖いに決まってる。

2022年5月22日日曜日

罪とか罰とか(2009)

ケラリーノ・サンドロヴィッチ脚本監督の「罪とか罰とか」(2009 東京テアトル)を今になってやっと見る。
ケラ主催劇団ナイロン100℃の1996年公演「ビフテキと暴走」を原案として、成海璃子主演で映画化したもの。公開から13年経ってやっと見た。

自分の感覚では成海璃子はそれほど人気女優というわけでもなかった。なので必ずしもチェックしないといけない映画でもなかった。それに売れないアイドルが一日警察署長をしてて事件に巻き込まれるというパターンが今更感がしてスベってる予感がしてた。

冒頭コンビニシーンから文芸作品ナレーションふう。なぜか気の弱いサラリーマン段田安則の人物描写から始まる。朝立ち寄るコンビニ店員役で市川由衣が出てて驚いた。
歩いてると目の前にアパートから転落して死亡する女性(佐藤江梨子)。段田は救急車を呼ぼうと道路の反対側の公衆電話に行こうとしてトラックにはねられ死亡(?)。そのトラックの助手席に麻生久美子。かなりシュールな展開。いかにもぶっとんだ劇団芝居っぽい。その様子を目撃していたのが成海璃子。

大倉孝二奥菜恵がバカカップル。大倉粗暴。高圧スタンガンでコンビニ強盗を計画?その同居人が山崎一。こいつが作業員が電気設備をチェックしてるふうでコンビニの見取り図をスケッチして下見をしてた。このやりとりがテンション高くて騒々しい。あまり映画らしくない。

成海璃子が自分の乗ってる雑誌が買えずに万引きをして捕まるという掴みがまず嫌だし哀しい。アイドルという存在はみんなに夢を与える存在のはずなのに。
安藤サクラさんが売れっ子グラビアアイドル役でビキニ姿をさらしててびっくり。

万引きを不問にするために成海が一日警察署長をやらされるという設定が嫌。マネージャーが犬山イヌコ。アイドルオタがステロタイプすぎ。六角精児が巡査部長。
ドラマとして間合いとテンポが独特すぎ。

警察署で元恋人の春樹(永山絢斗)に再会。こいつ(棒演技)は刑事でありながら殺人鬼。
鳴海と永山の会話が謎。鳴海は永山が殺人鬼であることも知っている。かつて永山が人を殺したとき自首を制止してた。その後も複数の殺人。なんだこのブラック設定。鳴海と永山の会話芝居がかなり下手に感じる。
永山の子ども時代を語る母親役が池谷のぶえ(ワンシーンのみ)でびっくり。今よりもかなり太ってる。

雑誌編集者役で行定勲監督が出ててびっくり。さらに赤堀雅秋も出ててびっくり。(こいつは見た目が生理的に受け付けない)
この雑誌編集部が全員軽薄。入江雅人も酷い。誰も成海の訴えに耳を貸さない。みんな死ねばいいのにと思った。(演劇人やってると周囲はこんな軽薄で酷い人だらけなのかもしれない。)
なけなしの千円札を飲み込む自動販売機も極悪。メンタル弱ってる人を追い込むな。

リアリティのないヘンテコおじさん警察官たちと、押しに弱い成海のヘンテコやりとりと、他人の不幸で笑おうっていう舞台芝居を映画として見る映画。やっぱりスベリまくって寒かった。

あとなんでこんな時系列にした?って思ったら、伏線回収することがすべてなのかよ。
なんで女の家にチェーンソーがあるんだよ。寝不足でトラックを運転するな。
あと、コンビニ強盗現場で傍観だけしてた警官は即刻懲戒免職するべき。指示待ち警察官も適正を欠いてるとしか言えない。証拠隠滅するな。

権力を握って嫌なやつらをみんな拘引して留置所にぶちこむとか、それは夢のようだな。何も考えずに見るべき映画。

2022年5月21日土曜日

カミュ「転落・追放と王国」

アルベール・カミュ「転落・追放と王国」を佐藤朔・窪田啓作訳新潮文庫(1968)版で読む。カミュ晩年の2作品。晩年と言ってもこの人は46歳の若さで亡くなっているが。では、順番に読んでいく。

転落(La Chute)1956
パリで弁護士をしていたというクラマンス氏の告白。アムステルダムのバー「メキシコ・シティー」で客を相手に独白。
この人の話が何も面白くないw たぶんちょっと頭おかしい。人間の虚栄とか偽善性とかを自身の経験談に基づいてとめどなく吐き出すように一方的に喋る。相手が聴いてるのか読者はよくわからない。

語り口がドストエフスキーのよう。ひたすら止まない。破戒坊主の辻説法のよう。何か人生の真理のようなものと持論を勝手に展開。自分は読んでいてかなり困惑した。小説というより哲学エッセイのようなもの。きっと読む人によっては心に響く。

追放と王国(L'Exil et le Royaume)1957
6篇の物語によって「人間の疎外」を描く短篇集。正直どれもが読みにくい。
  • 不貞 すでに冷め切った夫婦の行商旅行の場面。
  • 背教者 異教徒が殺される場面。
  • 啞者 小さな工場でのストライキの場面。
  •  小学校教師がアラブ人殺人犯を預けられる話。
  • ヨナ 画家とその家族の風景。
  • 生い出ずる石 ブラジル熱帯地方の工事現場。
読んでいてまるで頭に入ってこない。それはたぶん日本人にはなじみのない風景ばかりなのと比喩表現。しかも短編は状況がわかる前に読み終わってしまう。

おそらく日本人読者に一番響くのは「客」じゃないかと思う。これは状況がわかりやすいし場面が眼に浮かぶ。
老憲兵が殺人犯を連れてきて一晩泊めて翌日送り届けるという命令を受ける。主人公教師がちょい反抗的。金と食料を渡して、警察署へ行く道と逃げる道を教える。最後のアラブ人の行動が「なぜ?」と思わないではいられないが。

あとは「背教者」と「啞者」が短編小説として印象的。

2022年5月20日金曜日

玉城ティナ「鉄オタ道子、2万キロ」(2022)

テレ東深夜ドラマ25枠で1月期に放送されていた「鉄オタ道子、2万キロ」全12エピソードをリアルタイムで完走した。
テレ東が飯テロにさらに鉄オタ要素を加えたらさらに視聴者が食いつくんじゃね?という企画。監督脚本は古澤健だったのか。

自分は北海道や東北、北関東などあちこち行ってるのだが、そこにひっそりといい感じでたたずむ駅があると写真を撮りに立ち寄ったりしていた。なので親しみと共感を持って見た。
あと、自分がこのドラマにつき合った理由は玉城ティナ。ヒロイン大兼久道子(玉城ティナ)は東京のインテリア販売企業のキャリアOL女子28歳。鉄道オタで日本全国へ鉄道の旅。実は「Yui」というペンネームで雑誌「旅と鉄道」に寄稿しているライター。
基本どこへでも単身でかけていく。ずっと孤独な一人旅。心の声をナレーション。

こういうドラマ、近年すごく増えたのだが、基本なにも起こらないw これでドラマの視聴者はついてこれるのか?深夜に帰ってきた若者が何か食べながら見る番組なのでそれでいいのかもしれない。
だがそれでもやっぱり心配になるほどにストーリーや内容といったものがない。内容が薄すぎてなさすぎて、後になって人に話したくなるようなものが何もない。人と人とのドラマ性がない。
北海道から鹿児島まで、鉄オタの間ではわりと有名らしい日本全国の秘境駅に行き「ここどこだよ」とつぶやくのがこのドラマの開始ルール。
秘境駅なので周囲に何もないし人もいない。人がいるとすればそれは同業者鉄オタ。
近くをぶらぶらと歩いてみて、たまに人と出会えば会釈したり挨拶したり、当たり障りのない世間話。そんなんでドラマが持つのか?こんなドラマ、日本にしかないのでは?

地方ローカル線は時間帯によってはむしろ逆に混雑することもあるのだが、利用者自体が少ないのが秘境駅たるゆえん。電車(汽車)も利用者が少なくて採算がとれずに困ってる。てか東京の込み具合が異常。
このドラマの玉城以外のレギュラー出演者がさ迷える鉄オタ栗原類。失業中だがしっかり日本中鉄道撮影旅行中。なぜか鉄道や駅よりも周囲を目的も無く散策し写真を撮る。こいつは全12回のうち4回に登場。道子がYuiであることを知らないYuiの紀行文読者。
そして「旅と鉄道」編集長の六角精児。この人は道子と電話やり取りでしか登場しない。日本中の秘境駅のことなら何でも知ってる。
ディストピア秘境駅筒石駅でぶつぶつ独り言を言う太った男がやってきたときはヒロインと同じようにプチ恐怖w
鉄道と秘境駅だけでは弱いので、ヒロインに駅弁を食べさせて飯テロ要素も盛り込む。なりふりかまわないのがテレ東。

このヒロインがそのへんに腰を下ろして駅弁の包みを開く。心の声で食レポしながら。これもテレ東。たまに猿の鳴声にビビったりもする。
冷たいごはんを食べるのは東アジアで日本だけ?
どこか遠くの誰も知らない場所へ行って、駅弁を喰う。そしてその周辺をカメラで撮りながら散策。それはそれで旅のスタイル。地ビールをビンのまま飲むとかROCK。
このドラマ、自分の見た所、あまり話題になっていなかった。ツイッター見てもそれほどのリアクションはない。それどころか、玉城ティナは顔が個性的だからなのか、少年たちにあまり人気がない?もっとゴールデンのドラマとか話題作映画とかに出てほしい。

冒頭オープニング主題歌はmeiyo「チャイニーズブルー」。道子の東京キャリアウーマンの側面のみをスタイリッシュに切り取ったオープニングは良い。
自分、日本各地でこのドラマと似たようなことをしてるけど、埼玉県北部とか神奈川県の山の方でこれをやると、ときどきすごくこちらを観察してる人に出くわす。不躾に「何を撮ってる?」「何に使う?」「こっちにスマホ向けたよね?」めんどくさい。

埼玉、神奈川の人は自分たちを田舎だとは思っていない。よそ者がカメラで何か撮影しながらウロウロしてると不審者だと思うらしい。山間の集落は子どもすらいないからまだいいのだが、山のすぐそばまで住宅地になっているようなエリアだと、小さな子どものいる家族層もいて、子どもの安全上わりと敏感。

よそ者に積極的に不躾に声をかけて、不審者を追っ払ってやったわ~っていいことをしたような気になってる。たぶん他人は電磁波で攻撃してくると思ってる人に違いない。借金から逃げてるか、前科があるか、それともよほど世間様に見られたくない何かのある地域。
「鉄オタのメッカ」という表現の是非よりも、そっちの注意喚起をするべき。中途半端な田舎には行くなと。

2022年5月19日木曜日

岩波新書826「ドイツ史10講」(2003)

岩波新書826「ドイツ史10講」坂井榮八郎著(2003)を読む。これが岩波新書新赤版の「史10講」シリーズの最初の一冊。著者はドイツ近代史の専門家で東大、聖心女子大教授らしい。イギリス史、フランス史と読んで、今回ドイツ史に到達。みんな相互に連動してるので一緒に読まないといけない。

第1章ではタキトゥスによって伝えられたアウグストゥス帝時代の紀元9年「トイトブルクの森の戦い」エピソードから始まる。ゲルマンの族長アルミニウス(ドイツ名ヘルマン)がローマ・ウァールス軍を撃退した古戦場はどこか?

日本の邪馬台国論争のようにドイツではこいつが長年の論争だった。かつてテオドール・モムゼン(1817-1903)も推定した場所でもあるニーダーザクセン州オスナブリュック市の北約20キロで、1987年にローマコインが発見され、本格的な考古学調査が始まった。
結果、壮年男性の遺骨なども多数発見。トイトブルクの森古戦場に同定された。自分はこのエピソードを知らなかった。

そしてメロヴィング朝フランク王国カールの戴冠。この時代、フランク帝国とはいっても統治機構が整備されていたわけでなく、当時の人々には国家とはエクレシア(教会)と同義だったということも学んだ。

そして第2章から神聖ローマ帝国なのだが、これは高校時代から苦手分野。あまりイメージができないしよく覚えていない時代。
ザクセン朝、ザーリアー朝、シュタウフェン朝、そして大空位時代。まったく忘れてた。
諸侯たちによる地域主権国家の神聖ローマ帝国では王位と帝位は安定しない。

そしてルクセンブルク家からカール4世(ボヘミア王)。自分、昔バックパッカー旅行でプラハも行ったのに、このへんの歴史を何も知らないままだった。
え、ハプスブルク家が繁栄し皇位を独占していったのは政略結婚と相続?!

今回この本を読んだことで、ナポレオン戦争後のドイツとプロイセン、ビスマルクとドイツ帝国についてさらによく理解が進んだ。

明治時代の日本人はドイツに留学してたのだが、それはアメリカ人も同じでやはり留学先はドイツだった。19世紀末のドイツはそれぐらい先進国だった。
大学卒→国家資格→就職という社会を最初につくったのがドイツ帝国?!

ヴィルヘルム2世の時代になって英国と関係が悪化し、英仏協商、英露協商によって、気づいたらドイツは孤立。仲間はオーストリア。
だがオーストリアは1908年にボスニア・ヘルツェゴビナを併合しセルビアとの関係を悪化させていく。そして第一次大戦へ。ああ、ここからドイツの転落。欧州を焦土にして敗戦。
どうしたって払えない賠償金。ルールをフランスに取られてハイパーインフレ。国民は早々にワイマール共和国を見放していた。
そしてあの男が出現してから失業率も改善。全権委任法で立法と行政、そして司法のすべてを手にする。

なぜドイツでナチスが生まれた?「テクノクラートこそが大衆人の典型」(オルテガ)

第二次大戦後の西ドイツの復興は意外に早かった。工業資産が残ってたしマーシャルプランを受けられたし。だが、東ドイツは大きなハンデを負う。悪魔のようなソ連に占領されたからw
ガス水道施設や線路(枕木ごと)持っていかれたw 重要企業も接収されソ連向けに生産。

著者が留学していた1960年代の西ドイツでは東ドイツの国名を口にする事すらタブー?!「いわゆるDDR」という表現のみが許容?!

西ドイツのコール首相が民主的手続きをすっとばして東西ドイツ統一を急いだのは、1848年のフランクフルト国民議会が統一憲法をゆっくり審議してるうちに国際情勢が変わってしまった苦い経験を活かした英断?!

コール首相の前のシュミット首相と言う人をまったく覚えていない。
調べてみたら、戦後の西ドイツ時代から現在まで、ドイツの歴代首相は現在のオーラフ・ショルツで9人目。CDUとSPDで二大政党制みたいになってる。
一方日本の戦後の首相は35人…。

2022年5月18日水曜日

ヒッチコック「汚名」(1946)

アルフレッド・ヒッチコック監督の「汚名」(1946)を見る。BSプレミアムで放送していたので録画しておいた。初めて見る。原題は「Notorious」。制作はRKOラジオ映画。

フロリダ南部地裁での裁判シーンから始まる。多くの記者がスピードグラフィックを携えて待ち構える注目の裁判ぽい。アメリカの裁判は被告が強い口調で裁判長に食って掛かるシーンがある。この被告がジョン・ヒューバーマン。国家反逆罪で有罪判決。娘のアリシア(イングリッド・バーグマン)には尾行がつく。

FBIエージェントのT・R・デブリン(ケーリー・グラント)が接触。いきなり一緒にドライブに行くのだがアリシアは完全に酩酊状態で100キロ超え。あぶない。やさぐれやんちゃ娘。
で、白バイ警官がバイクでやってくるのだが、そんな大きな制帽をかぶってバイクで100キロ超えて追いつけるのか?
デブリンは身分を明かすと警官は敬礼して去っていく。アリシアはこいつ政府の手先?という目。

デブリンは「父親の罪を償うチャンス」としてアリシアにブラジルで活動してるスパイとの接触を依頼。断るアリシアに父と娘の会話を盗聴録音したものを聴かせるのだが、この時代はレコード盤?!まだオープンリールテープも普及してない時代。
デブリンとアリシアはリオデジャネイロへ。機上でアリシアは父が毒薬カプセルで自殺したことを知らされる。

デブリンの上司たちはアリシアに大物スパイで父と友人だったセバスチャン(クロード・レインズ)にハニートラップ潜入捜査をさせるよう指示。え、エージェントとして訓練もしてない素人なのに?それにすでに愛してしまってるデブリンは心配。
そして乗馬クラブでセバスチャンと親交を結ぶことに成功。セバスチャンの家でのパーティーに呼ばれる。パーティー参加者の名前と国籍を探るように言われてたけど、自分なら3人ぐらいしか名前を覚えられないw

ついにアリシアはセバスチャンから結婚を申し込まれる。デブリンとアリシアは愛し合ってるのにお互い何も言えない。
セバスチャンの母がクローゼットや倉庫の鍵をアリシアに渡すのに慎重。とくにワインセラーの鍵は渡そうとしない。ワインの中に何が?デブリンと相談した結果、セバスチャンの持ってる鍵束からセラーの鍵だけかすめ取る。セバスチャンの監視の目をかいくぐりアリシアはデブリンをセラーに案内。ワインボトルの中から謎の砂を発見。
そこにやつが来た!デブリンはセバスチャンに誤解させるためにアリシアとキス。「無理矢理キスされた!」欧米って日常的にこういうことがよくあるの?
だがセバスチャンは鍵束からセラー鍵がないのに気づいて妻の正体に気づいてしまう!アリシアの身に危険が!

アリシアは毒を盛られて体調不良。医師が診察するのだが、医師がそのコーヒーカップを取ろうとした瞬間のセバスチャン母子の対応を見て何かを察する。

この時代はまだスパイといったらドイツ人?アクションとか一切ない地味で渋いスパイ映画。というより三角関係メロドラマ。サスペンス要素はワインセラーの鍵の演出でかろうじて感じられる。
今の時代の若者が見たとして、このラストを見たら「え、終わり?」だと思う。よほど細かい演出やカットにこだわって見る人には高評価らしい。

2022年5月17日火曜日

有村架純「花束みたいな恋をした」(2021)

「花束みたいな恋をした」(2021)をようやく見る。
菅田将暉と有村架純のダブル主演。おそらくこの二人が最初にありきの企画。
監督は土井裕泰坂元裕二のオリジナル脚本による恋愛映画でなかなかの話題作になっていたのは聞いていた。フィルムメイカーズとリトルモアの制作。配給は東京テアトル。

菅田将暉は「糸」という若者が出会ってラブラブという映画を見たばかりだし、監督はが土井裕泰だしTBSっぽそうだしでなかなか見ようという気分になれなかった。あと、自分はそれほど坂元裕二脚本ドラマを見ていない。あんまり自分と合ってない気がする。(だがそれは完全な間違いだった)

おじさんたちの作った若者の恋愛映画。大学生の男女が出会ってラブラブ同棲して就活して社会人になって破局…という恋愛ドラマ映画をそんなに見たくない。だが、有村架純が主演なので見ておきたい。清原果耶も出てることだし。
音楽は大友良英。有村に大友の音楽だと「あまちゃん」を連想。
2020年、とあるカフェで2組のカップルがそれぞれの相手に、とある別のカップルを批評。そのカップルは1つのイヤホンを片方ずつ共有して同じ音楽を聴いているのだが、「それはLとRそれぞれ別の音楽を聴いていることになる」という。
この映画は菅田と有村の恋愛映画だと聞いていたのだが、なんともうすでに別れてしまってそれぞれ別の相手とデートしてるネタバレ風景から始まる。
LとRの件はかつて菅田有村カップルで話題になったに違いない。この冒頭がおしゃれだし、新鮮だし、良質コメディを想わせる。

2015年に遡る。八谷絹(有村架純)は21歳大学生。トーストはバターの側を下にして床に落とす。たぶん実家暮らし?
ひたすら視聴者に語り聞かせる独白。元カレと焼き肉(おごってもらったのか?)して終電を逃してネットカフェ。飛田給に朝帰り。そんな生活。
合コンの数合わせにでかける。世間を高い所から見下ろしてるつもりの悟ったかのような批評を繰り広げる。心で毒づく。

そして山音麦(菅田将暉)の独白。通行量調査のバイトをしている。イラストを描くことが趣味か?ストビューに自分が写っていることを発見し興奮する。大学で自慢する。これもどうでもいい問題を語って聴かせる。
卯内さん(八木アリサ)という美人女子大生に誘われてこちらもカラオケ合コン。
これが東京の大学生活だ!という風景。そんなふたりが共に終電を逃したことで明大前駅で出会う。またしても「明け方の若者たち」と同じく明大前か!明大前が今キテるのか!

終電を逃した見知らぬ人々が深夜営業のカフェで語り合う。その場に押井守がいることに気付いて大興奮w サラリーマンの2人が「ショーシャンクの空に」とか実写版「魔女の宅急便」などどうでもいい映画で盛り上がっているのをよそに、押井守で共感し合ったのがサブカル全力オタク麦と絹w 

好きな作家や映画、音楽など熱く語り合う。穂村弘をだいたい読んでいるw 長嶋有もほぼほぼ読んでいるw 現代の作家の名前がスラスラ何人も挙げられる女はすごい。
それ「モテキ」の藤本とみゆき。男女で趣味が何もかも一致することなど現実にはあり得ない。
この出会い場面が新鮮だが、同じお笑いライブのチケットを取ってたのに行けなかったということが判明するのはさすがに怖くなるだろ。普通。
自分も環八のガスタンクの写真を撮ったことある!w

急などしゃ降りの雨。絹は麦のアパート(調布駅徒歩8分)へ。本棚のセンスを確認。「ほぼ家の本棚じゃん!」
この映画、ふたりが恋人になるまでがほぼ完璧に面白い。ほぼ理想の出会い。バカ話センスも思想もすべて一致。自分の描くイラストも褒めてくれる。何時間でもファミレスで時間を共有できる。
ふたりはデートを重ね、麦のアパートでなんどもセッ〇スするようになる。村上春樹か!
海を見に行った後になぜに「炭焼きさわやか」で並んでる?あまりの行列に諦めて途中離脱。リアル。

就活の圧迫面接に傷ついた絹に、麦は「一緒に暮らそう!」
駅から徒歩30分の多摩川沿いの部屋を借りて同棲生活。
絹は寝る間も惜しんで就活してたのにともに大学を卒業後フリーター。

イラストレーターとして生計をたてられないか?と男は考えていたのだが、その仕事は安いものでしかない。3カットで千円。時給にしたらいくらだ?
絹の両親(戸田恵子、岩松了)、麦の父親(小林薫)が相次いでふたりのアパートにやってくる。就職への圧力をかけられる。麦は親からの仕送りを絶たれる。

絹は簿記の資格を取り医療事務の仕事を始める。麦は終わりの見えない就活の末に営業職として就職。仕事は5時に終わると聞いていたのに多忙。だが仕事にやりがいを感じて完全社畜化。
ふたりは漫画や読書やゲームや映画にも時間をさけなくなる。ここから先は悲哀。日本の若者の現実がリアル。もう見ていて何も楽しくない。
かつて何かも価値観が一致していたのにすれ違い。絹はまた単独行動に戻る。麦がビジネス書を読んでるのを見て決定的にがっかり。ふたりはもう3か月もしてない。

絹のイベント会社転職の件でふたりは口論。労働観で大きく食い違い。この会社の社長(オダギリ・ジョー)が見るからにギョーカイ人だしうさんくさい。
麦は楽しい仕事がしたい。けど麦は「責任ある仕事じゃない」とか言い方もキツくなる。人は変わる。もう同じ価値観を持っていない。

口論の末に勢いで絹にプロポーズ。絹はそのプロポーズを「思ってたのと違う」と断る。
大学のセンパイの死でもふたりは同じ感情も持てない。恋愛と結婚は違うと悟る。労働観と結婚観の違いがお似合いラブラブカップルを引き裂く。
もう見ていてつらくなる。悲しい。ああ、やっぱり見たくないタイプの映画だ。せめて映画でぐらいバカみたいに楽しいものが見たい。

ふたりはもう会話もないまま友人の結婚式に参列。別れ方がわからないけど別れを決める。
この男は男に養ってもらうことを目的とする女とつき合うべき。この女は同じ業種の男と付き合うべき。
別れを決めてからまた以前のような楽しい会話をしてカラオケ。ファミレスで語り合う。「4年間楽しかった」

土壇場で男はやっぱり別れたくないと言い出す。「恋愛感情なくても結婚してやっていきたい」
女は「そうかもしれないな」と思うのだが、ファミレスでかつての自分たちとまったく同じようなカップル(清原果耶と細田佳央太)を見ていたたまれなくなって泣く。
ああ、このカップルさえこの場に来なければ。こんなん自分も泣く。このシーンが衝撃のクライマックスだし名シーン。

2020年にぐうぜん同じカフェで一緒になり、背中越しに手を振って去っていく。これがクソみたいな日本における花束みたいな恋ってやつか。
ラストでまたGoogle ストリートビュー画面が効果的に登場。深い味わい。
さすが人気脚本家の書く本は上手いわ。日本映画界の偉いおじさんたちの計算通りに効果的な恋愛映画。
若い男女が出会って別れての4年間「いろいろあった」としみじみするTBSらしい映画。それはなんとなく予想ついた。
もうライブコンサートに行かなくなったし流行りものを追いかけなくなった自分もこんな感じだと思った。もうあの楽しかった日々には戻れない。
そして資本主義で幸せになれる若者がごく一部しかいないことも考えざるをえない。

だが、これは大名作だったかもしれん。土井監督と坂元をちょっと見直した。これは恋愛もの日本映画として胸を張って海外に紹介してもよい。爽やかな余韻。
だから炭焼きさわやかだったのか。炭焼きさわやかを全国区にした長澤まさみは偉大。

有村架純はこの映画で同年の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をゲット。若手女優にとってこういう賞が経歴に加わることは大きい。有村が先輩として尊敬し私淑する前年の受賞者長澤まさみの手からトロフィーが渡ったシーンは感動的だった。

2022年5月16日月曜日

ハインライン「銀河市民」(1957)

ロバート・A・ハインライン「銀河市民」(1957)を野田昌宏訳ハヤカワ文庫SF(1972年)の2005年新装版で読む。表紙イラストは前嶋重機氏。
CITIZEN OF THE GALAXY by Robert A. Heinlein 1957
太陽系から遠く離れた惑星サーゴンまで輸送され、市場で奴隷として売られる痩せこけた少年ソービーは老乞食バスリムに安価で買われる。
この義足老人がいい人。薄汚れたソービーを洗いご飯を食べさせ生傷と虐待で傷ついた心をも癒す。そして一緒に物乞い家業。ソービーはバスリムを父ちゃんと呼ぶようになる。

だが、バスリムはソービーにいろいろな言語のメッセージと男の顔を覚えさせる。ときに紳士のような姿でいたりする。これはさすがに知恵のないソービーでも普通の乞食でないと気づく。

そして父失踪。サーゴンは警察が監視する社会。どうやら父はスパイで警察に殺された?そしてソービーも警察に追われる。何もしてないのに。
意味も解らないまま暗記させられたメッセージを星間貨物船シス号の船長クラウサに伝えると、この船長の尽力もあって密航に成功。
あとは船内の人間関係と人類学。そしてソービーは、かつてバスリムと軍人仲間だったブリスビー大佐に託される。

ブリスビーはバスリムから伝えられたメッセージから「九惑星の奴隷交易を援助しているものが、われわれの世界にいる」ということをつかむ。

ソービーの身元が判明してから急展開。地球の超お金持ち一族。貴種流離譚だったのか。

ハインラインはアメリカらしいSF作家。初年兵ものからビジネスの世界まで描く。アメリカ人は十代のころから司法、法律契約と株式と経営の概念にどっぷりつかる。日本人がかないっこない。
それと、この文庫版の表紙イラストはあまり小説の内容をイメージとして伝えていない。こんな感じがウケるんだろうけど。

2022年5月15日日曜日

E.T.(1982)

2022年になってついに、スティーヴン・スピルバーグ監督「E.T.」(1982 ユニバーサル)を初めて見る。公開から40年越しで見る。
自分がこどものころからもうメチャクチャ有名な映画だったのだが、きっとこどもっぽい内容だろうな…と今に至るまで放置していた映画。それにそもそもETが可愛くないw
ただ、ジョン・ウィリアムズのテーマ音楽は大好き。

結論からいって、もっと早く見るべきだった。ずっと引き込まれて115分間まったく飽きずに見れた。見終わったあとに笑顔になれた。夢があってよい。

子どもたちの演技がとても良い。エリオット少年、幼い妹ドリュー・バリモア。
あと、スピルバーグの映画ではミドルティーン少年たちはみんな不良。町の少年たちの顔が悪そう。

山間の盆地にある新興住宅地が舞台なのだが、どの家もみんなでかい。敷地すらもデカい。ガレージもデカい。道幅も広い。明らかにアメリカ人は日本人よりも裕福な暮らしをしている。

スクールバスの中がカオス。カエルの解剖をする小学校の教室もカオス。笑えた。
基本、子どもたちの演技なので、セリフがなくてもパントマイムとして十分に面白い。英語がわからない日本の子どもたちであっても面白いと思う。
この家庭に父親がいない。メキシコの話題をすると母親のメンタルがおかしくなる。父はメキシコに行ったまま帰らないってこと?

異星人と少年の心温まる交流を描く前半。ETがかわいくないカメみたいな顔で受け付けないw
物置で出会った何か生き物に、人間の食べ物、お菓子、コカ・コーラを与えてはいけないと思ったw

あの腰に鍵束をチャラチャラさせて何かを探してる男たちの一団はなんだ?と思って見ていた。
この映画、なぜか大人たちが腰から胴体にかけてしか映らない。たぶん子どもたち目線ってことか?

どうやって一般家庭内の会話を盗聴してる?FBIか何かか?と思ってたら、家にNASAの宇宙飛行士みたいなのがやってくる展開がシュール。なんだか急に雰囲気が変わってきた。そりゃそうなるよな…という急なリアリティ路線。感染症対策?厳重な防護服。
後半になると他の大人の登場人物たちも顔が映る。あれだけ多くの医師が真剣に治療するのにET死亡?!

もう最初から最後まで、ジョン・ウィリアムズの音楽がフルオーケストラでガンガン鳴ってる。まるでワーグナーの楽劇を一本見終えたような充足感。まるでドラマと音楽が対等かのよう。音楽に合わせて映像がつくられたかのようにすら感じた。

ハロウィンってこの時代からもう化け物や死人の仮装をしてたのかと驚いた。
あと、マウンテンバイクってこんな昔からあったのかと驚いた。
クライマックスシーンはちょっと泣いたw 子どもも大人もみんな楽しめる名作!

2022年5月14日土曜日

長澤まさみ 水川あさみ「女自転車ふたり旅」(2009)

2009年12月29日にBSプレミアムで放送された長澤まさみ水川あさみ「女自転車ふたり旅」を暇すぎて見返した。どこにも行けない時はこういう番組を見るしかなかった。

ちなみにこの番組はDVDソフト化され販売されている。本放送では70分ほどだったのにDVDでは収録時間が2時間ほどある。自分はDVD版を見たことがないのでどこがどう違うのかを知らないが、たぶん未公開シーンがあるに違いない。

まさみにとって自転車は静岡磐田時代から慣れ親しんだ身近な存在。風を切って走るとストレスを吹き飛ばしてくれるらしい。
この時期のまさみは、どう言っていいのかわからないのだが、化粧水を塗りたくったような肌の質感。肌の水分が多そう。すごく色白。
ハワイ諸島の中で最大の島ハワイ島は四国の半分ほどの大きさ。
コナのホテルの前で水川と待ち合わせ。ちょっと遅れたまさみに水川は「まさこ、遅いよ!」
ちなみにこの時期のまさみは「親しい人にはまさこと呼ばれたい」と言っていた。まさみは当時22歳。

自転車を借りてハワイ島西海岸を出発。右手に広がる風景は溶岩の大地。ちょい上りの道で早くもまさみはキツそうな表情。暑そう。
ロードサイドでチキンを焼いていた店に寄り道。店の主人からハワイの感想を求められたまさみ「暑い」の一言。ちなみにまさみはこのハワイ滞在中に喉がガラガラ声。何かのアレルギーか?
チキン屋のおじさんから日本人は普段何を食べているの?という質問にまさみは「みそスープ」と回答。
午後5時にクア・ベイに到着。おでこまさみ、かわいい。
2日目、ハヴィに到着。地元ガールズに遭遇。フラダンスのスクールに飛び込みで入門。まさみは子どものころからダンスに慣れている。

3日目、日系2世野菜農家と出会う。初対面のその場でトマトをもらう。自己紹介すると「マサミとアサミ ほとんど同じ」と突っ込まれる。甘いという玉ねぎやコーンを生のまま半信半疑で口に入れる。「甘っ!」
農家のおじさんがオススメしてくれたワイピオ渓谷へ。ハワイ島の北部は夜間は冷えるらしくふたりはしっかり上着を着ている。

そこで警備していた人の伝手で車を用意。渓谷の下まで降りる。王族も住んでいたという豊かな土地。ノニの臭いをかがされて「Bad smell !」

まさみとあさみは「ラスト・フレンズ」で仲良くなった。20代前半にしてはやりとりが独特で、仲良し少女同士が戯れてる感じ。傍から見るととても子供っぽい。大人の女性として知的なコメントとか一切しない。ふざけっぱなし。大人の視聴者にはヘンなふたりに見えたかもしれないな…と今回見て感じた。
ハワイ先住民の主食タロイモ畑というものを初めてみた。ちょっとイメージと違う。
タロイモから作ったポイという謎食をいただくまさみ。まさみは磐田でおおらかに育ったのだが、わりとA型らしい几帳面さもみせる。とうもろこしの毛は入念に取り除くし、ポイを指につけて舐める場面で一瞬の躊躇が見られた。
 
ホノカアの街の食堂で夕食。店の主人からマウナケア山(4205m)の話を聴く。
4日目、マウナケア山で夜明けを見るために午前3時に地元ガイドと出発。山に入る前にハワイ人として入山の許しを得る儀式のようなものをする。

しっかりダウンジャケットを着ている。車で天文台のある場所まで行ける。日の出の絶景に言葉を失うふたり。
5日目、旅のゴールである東海岸の街ヒロに到着。「こっちは道も広くて景色もいい!すごく気持ちよかった!」というまさみ。

いつかまさみとあさみが自転車旅した同じルートをたどりたい。巡礼道をたどりたい。と思って12年。もうまったく海外に行くこともなくなったし、もうそんな気力もない。

この自転車旅について、まさみは後にラジオでも語っていたのだが、相当にキツいものだったようだ。たぶん、一番体力がなかった時期。すごく痩せてるし色が白い。
健康的なまさみも好きだが、ちょっと不健康そうなまさみも、どういうわけかさらに魅力的w
この数か月後の「笑っていいとも」出演時には、あまりの細さで観覧客と視聴者をざわつかせる。「岳」撮影時と「わが家の歴史」記者発表のころはガリガリ。あきらかに痩せすぎだった。

この時期のまさみはよく「ほうれいせん」と揶揄されたりもした。短編映画「冬の日」のときは誰が見ても顔のコンディションが悪かった。だが、それはすべて「モテキ」の跳躍のための助走。