2016年12月23日金曜日

ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」(1929)

「僧正殺人事件 THE BISHOP MURDER CASE」(S・S・ヴァン・ダイン 日暮雅通 訳 創元推理文庫)という本を108円で見つけた。

この本、自分が中学時代にアガサ・クリスティやエラリー・クィーンを読んでいた時分に一度手に取りかけたけど読まなかった本。
以来ずっとこの手の海外古典ミステリーに関心を失っていたのだが、今年になって乱歩や横溝の本を探していて、この本も目に付いた。

カバー裏を読むと「江戸川乱歩が賞讃し、後世に多大な影響を与えた至高の一品」と書いてある。巻末の解説を読むと、
童謡見立てアイデアはミステリ巨匠たちを刺激し、アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」(1939)、日本では横溝正史の「獄門島」(1948)「悪魔の手毬唄」(1959)など、その系列の名作群が生まれている…
とある。
この本は1999年刊行「乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10 ③」(集英社文庫)を改稿したものです
という版。じゃあ、創元推理文庫ってあまり108円じゃ見当たらないしキレイだし、ということで夏に買っておいたものをようやく読んだ。

1920年代のニューヨークがあまりイメージできない。第1次大戦後の好景気で近代的ビルが立ち並び始めたころ?
街に車は走っているようだが、人々はどんな服装をしているのか?

このミステリーはウィラード・ハンティントン・ライトという美術評論家がS・S・ヴァン・ダインというペンネームで書いたという作品。
主人公のアマチュア探偵はギリシャ古典の翻訳をしているし、数学と量子物理の大学教授たちの邸宅が舞台になっている。
本物の知識人たちによるひたすら続くスノッブ会話に閉口w 1920年代当時最先端の科学と数学が話題に登る。

ラストはそれなりに意外で衝撃的ではあった。

「おれ、知識人~」って会話をすべてバッサリカットしてくれれば3分の1は節約できた。だが、この時代の知識人たちの雰囲気を伝えるのには必要だったかも。

チェスのルールがよくわからないし、邸宅の様子もよくイメージできない。
そもそも日本人にはマザーグースが一体何なのかもよくイメージできない。
やっぱ、自分の趣味とあわない作品だったかも…。

「私」という人がたまに出てくるのだが、存在が希薄すぎて驚く。オマエ、誰?!って。そこにいるのにほとんど会話に参加しない。ちょっと不思議。

このラストは自分が中学生のころに読んだエラリー・クィーン「Yの悲劇」を思い起こさせる。
この時代の探偵は、司法(陪審制)で裁けない殺人鬼に自殺を選ばせるのが常套だったようだ。知識人探偵は古今東西の例をたくさんあげつらって自己弁護w 金田一さんならそうはしない。

古典的名作ということで読み終わってそれなりの満足感はあった。これからは「読んだことある!」って胸を張って言える。だが、やっぱ日本人には横溝正史が一番しっくりくるな。

2 件のコメント:

  1. 謎の作家S・S・ヴァン・ダインがベストセラーを連発したので、対抗馬としてクイーンがデビューできた。それからクリスティー、カーと本格黄金時代の幕をあけた・・・んじゃなかったかしら。
    12作すべてのタイトルを「MURDER CASE」で統一。探偵は過剰に知識を披露しなければならないという戦前の日本の作家に与えた悪影響を考えれば、ヴァン・ダインは衝撃の作家だったに違いないですね。最高傑作は「グリーン家」と「僧正」。「グリーン家」は「Yの悲劇」「金田一少年」やもろもろの館推理小説の元祖。
    でも探偵より先に読者に犯人が分かってしまうという重大な欠点があります。こういうのは後続の作家の方が絶対有利だと思う。
    エラリー・クイーンと比較するととにかくスタイルが古い。12作全て犯人が警察に掴まる前に死んだような記憶がある。

    クイーンの「ギリシャ棺」「オランダ靴」「Xの悲劇」あたり愉しめるからぜひ探してください。「ギリシャ棺」は分厚いから108円は無理かな。

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  2. さすがすごく詳しい。グリーン家も捜してるけどまだ未発見。あと、面白かった記憶のある「Yの悲劇」をずっと捜してるのに見つからない。もうamazonで買ってしまうかも。
    ギリシャ、オランダも捜してみます。

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