2025年9月24日水曜日

ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動(1999)

ジョン・アール・ヘインズ&ハーヴェイ・クレア「ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動」扶桑社文庫(2024)上下巻という本があるのできまぐれで読みはじめた。
VENONA Decoding Soviet Espionage in America by John Earl Haynes and Harvey Klehr  ©1999 by Yale University 
アメリカ共産主義運動とスパイ活動を専門とする歴史研究家による著作。邦訳の監訳は国際政治学者で京大名誉教授の中西輝政。2010年にPHP研究所より邦訳されたものの扶桑社からの2024年10月新装文庫化。

「ヴェノナ文書」とは1940~1944年のソ連の暗号をNSA(米国家安全保障局)が解読したもの。1995年になってようやく公開された。
ソ連は自国の暗号を絶対に解読不可能だと信じていた。だが、ワンタイムパッド(1回使用したら破り捨てる暗号表)を戦争中の混乱でやむなく2回使ってしまった件が穴となり、NSAの天才コードブレイカーたちに解読の手がかりを与えてしまった。(この件も英国ポーランドがエニグマ暗号器を突破した偉業なみに讃えられていい)

あとは暗号文に登場するコードネームをFBIがアメリカ社会にしれっと溶け込んでるスパイ工作員やエージェントを1人ずつ特定。(今も特定できていないネーム多数)
スパイ世界の実態は歴史の闇に埋もれるものだが、まさかここまで全体像が解明されていたとは!ソ連も長らく気づいてなかった。

ドイツと日本に気を取られていて、気づいたらルーズベルト・トルーマン民主党政権の中枢はソ連のスパイだらけだった。政権はソ連に操られていた。戦争が起こってから諜報部門の部局を急造したせいで採用する人材の身辺調査が不十分だった。
そのへん、アメリカは呑気だった。ソ連をいっしょにドイツ日本と戦ってくれる同盟国ぐらいの意識だった。もう、バカかと。

この本、ソ連にとっては英雄でアメリカにとっては裏切り者の、アメリカ共産主義者列伝とでもいうぐらいの膨大な人名録。
アメリカ共産党、レンドリース法、トロツキー暗殺事件、マンハッタン計画。正直、人物が多すぎて、読んでる最中から名前を忘れていく。

それにしてもKGBに情報を渡し指示を仰いでいた共産主義スパイエージェントがみんな優秀過ぎる。移民でやってきて政官財で地位を築いてる。米国務省や財務省のかなり上層にまで出世してた。スターリンに情報を流してた。
そこは感心だが、頭がよく優秀だったからアメリカ資本主義の腐敗に嫌気がさし、共産主義とスターリンに憧れを抱いていたんだろう。

スターリンはソ連内のスパイ容疑者まるごとNKVDが連行して頭部に銃弾一発で処理するだろうけど、民主主義アメリカはそうはいかない。スパイ容疑が確実でも盗聴や私信の盗み見では証拠にならないので有罪にできない。偽証で獄に入れる以外に選択できない。そこ、双方でつりあってなくて不公平。(今の日中関係みたい)

この本でソ連のスパイと判明した人々の膨大なリストと相関図がある。逮捕されたり逃亡したり不幸な死に方をした人もいるけど、悠々自適な暮らしの後に天寿を全うしてる大物スパイもいる。ほとんど野放し。

マッカーシーの赤狩りはぜんぜん苛烈じゃなかった!w ローゼンバーグ夫妻は核技術をソ連に伝えてたのは事実だった。死刑相当だった!(ソ連はいずれ原子爆弾を作れただろうけど、そこに至るまでの時間と労力とムダ実験をスキップできた)

たぶんアメリカのインテリジェンス部門は、日本国内で北京に情報を流して北京から指示を仰いでる政権与党と野党の幹部、財務省と外務省、経団連の中の犬たちの目星はついているに違いない。いつか文書が公開されて天誅を与えられてほしい。

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