2025年9月14日日曜日

ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」(1959 /1966)

ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」を早川書房ダニエル・キイス文庫版(2014年77刷)で読む。
この作品は1959年に中編として発表後、1966年に長編に改作。小尾芙佐訳(1978)の1989年改訂版。
FLOWERS FOR ALGERNON by Daniel Keyes 1959,1966
80年代から多くの著名人が名作に押す人気作だが、自分は今回初めて読む。コロナ期だった3年前にBOで55円購入。カバーはキレイだったけど本自体はだいぶヘタっている。前の所有者が付箋をあちこちに貼ってそのままという一冊だった。

何も予備知識がないままに読んだ。自分がなんとなく想像していたのとだいぶ違っていた。どういうわけか自分はもっとオシャレな感じを想像していた。読み進めるにつれ、これはつらい運命の青年だ。

本作の主人公チャーリー・ゴードン青年はパン屋で働く32歳。少年期から知能の発達が遅れていじめられたりからかわれたりと残酷な運命。父親は理解力のある優しいよくできた人物だったのだが、母親がヒステリック。妹もヒステリック。養護学校へ行かざるを得なかった。

大学で知能テストをすればネズミにも負ける。
しかし脳の手術をしたらたちまち天才へ変身。パン屋の同僚たちから煙たがれ仕事を辞めざるをえなくなる。大学の研究室、教授たちをも知能で圧倒。数か国語をマスター。学術書も読み論文を書いてしまう。
しかし、チャーリーの内面では深刻な悩み。そして急速に発達した脳はやがて委縮し退化が始まる…。

父との再会、母と妹との再会の場面はもう読んでるのがつらかった。

人類の寿命が延びて経済規模が拡大するにつれて人々の格差がどんどん広がった。脳機能の性能格差が決定的に扱いの差を分けるようになる。能力主義がさらに脳にちょっとの障害を持つ人さえも不利な窮地に追い込む。昔から格差はあったに違いないが複雑化した社会ではますます格差が目立つ。正視できない残酷な結果が待っている。

著者のダニエル・キイス氏には世界から多くの手紙が届いたそうだが、日本からも主人公チャーリーに強く共感を感じる人が多かったらしい。幼少から頭が悪いといじめられた人、脳の機能が低下し出来ないことが増えていく老人、まさにこの物語でチャーリーが経験したこと。たぶん、家族に発達障害の子や認知症患者がいる人は読めば泣いてしまう。

この本を読んだことのある人とない人の間には、世の中の認識と見え方に、能力の劣る人との接し方に大きな差があるに違いないと感じた。
人の一生とは何なのか?短い間でも天才になれたチャーリーは幸せだったのか?これはショックな本。
自分はこの本を誰にでも薦めようとは思えないが、街でバカや変な人を見るとイライラするという人には読ませたいと感じた。

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