THE DAUGHTER OF TIME by Josephine Tey 1951
この訳は本邦2冊目の邦訳。日本での最初の邦訳は1953年村崎敏郎訳ハヤカワ・ミステリ版。このとき江戸川乱歩が激賞。なので昔からミステリー小説愛好家にはよく知られた作品。
自分、この本を高1の時読んでいる。今も覚えてるのだが高校の図書室で借りて読んだ。高校時代はほとんど図書室を利用した記憶がないのだが。
読んだ当時はとても太刀打ちできない本だと感じて途中で読むのを止めたのかもしれない。今回読んでまったく内容を覚えていなかったから。
ここ数年、自分はシェイクスピア「リチャード三世」「ヘンリー六世」を読んだ。そして英国史に関する本を何冊か読んだ。満を持してこの本に再挑戦する。
骨折で入院したグラント氏は、見舞い差し入れの新刊本を読む気が起こらない。だがなぜか「とある肖像画」に興味を惹かれる。「この人物は何者?」
その肖像画の人物は英国史上最も嫌われた国王リチャード三世のものだった。この男が幼い甥2人を殺害した王位簒奪者には見えない。
そしてベッドで歴史教科書を熟読。必要な本は友人にお願いして買ってきてもらう。
自分、英国人は英国史に詳しいと思ってた。だが、この本に登場する人物は誰もリチャード三世をシェイクスピアで得た極悪人という知識以上のものをもっていない。肖像画を見ても看護婦も医師もリチャード三世だとはわからない。それは意外。
書店で手に入る本、図書館で借りてきてもらった本を読んでみたら、リチャードが兄王エドワード四世の遺児王太子エドワードとリチャードを殺害する理由なんて何もないことを知る。それに、正史とされる記録を書いたトマス・モアは当時5才。それは伝聞。リチャード三世が極悪人だというイメージはたぶんでっちあげ。シェイクスピアのせいでそのイメージはさらに広まる。
この本、ミステリー小説を読む層には有名で、高木彬光はこの本の影響で「成吉思汗の秘密」(1958)を書いた。たぶんコリン・デクスター「オックスフォード運河の殺人」(1989)も同ジャンル。ベッドディテクティブ探偵小説の最初の一冊。
しかし、英国史に何も詳しくない読者にはちんぷんかんぷんだろうと思う。プランタジネット朝、ランカスター家とヨーク家、エドワード四世、リチャード三世、ウォーリック伯、クラレンス公、ネヴィル家、そしてヘンリー・チューダーことヘンリー七世とか名前を聴くだけで頭痛い。
だが自分が今回読み返してみて、想ってたほどには難解じゃなかったし親しみやすく書かれてるなと感じた。
でもやっぱりミステリーというよりは、歴史ミステリー好き読者に向けた知的読み物だろうと思う。実際、令和日本の若いミステリー読者にはあまり響いていない。松本清張の日本史物が好きな自分には十分に面白かった。この夏やっと読めてよかった。
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