2024年8月18日日曜日

井上靖「蒼き狼」(昭和35年)

井上靖「蒼き狼」(昭和35年)を新潮文庫(平成24年94刷!)で読む。
こいつは今年のまだ寒かった時期に立ち寄ったBOで110円購入。

モンゴル帝国の創設者で殺戮者の鉄木真(チンギス汗)を描いた歴史小説。
世界史上最大の大帝国を築く以前、鉄木真の生まれる以前、モンゴル高原の代々の王の系図が口承で示される。こういうのを覚える役目の人はすごいと思うのだが、寒い冬はひたすら一族で同じ話しかしてないと、意外と簡単に覚えて次世代で繋いでいけるものかもしれない。

まず、近場の部族同士の抗争。ほぼヤクザの争い。日本の弥生時代、古墳時代にもこういったことあったかもしれないが、敵対するグループは男なら嬰児であっても皆殺し。財宝と女はみんなで山分け。
農耕民族なら生かしておけば農作業で使えるのに、遊牧民族は捕虜すら邪魔。ひたすら殺戮。人の心が見えない。そういえばこの時代のモンゴル人にはまだ仏教は浸透してない。

金、ホラズム、西夏、裕福な国があると知ったら攻め込んで征服し、財宝と女を奪い男たちは皆殺し。叛乱の兆しがあれば一兵団を送って屠る。実にシンプル。殺戮一代男。
古代ローマの将軍たちもナポレオンもヒトラーも成吉思汗に比べたら甘ちゃん。

女はほぼ子どもを産む家畜のような酷い扱い。女性に個性がほぼない。側室は何人いてもいい。妾は何人いてもいい。最愛の側室・忽蘭は気が強いが従順だし貞淑。

司馬遼太郎の戦国時代歴史小説とまるで質感が違う。ユーモアエピソード皆無で硬派。登場人物たちが記号のようで、読んでいてあまり面白くない。

日本ならもっと気象の変化とかが合戦にどう影響したか?相手をどうやって調略したか?など詳細に書かれるはずなのだが、そこはモンゴルの草原。ステップ気候。
敵が遠くからやってくれば見える。なので篠突く雨の中を出立して奇襲…といった日本おなじみの要素が皆無。ひたすら大軍を送り込んで殺戮。

井上靖の筆致にあまり季節とか草原の様子とか牛や羊の様子といった自然への賞賛や眼差しが感じられない。それはまるで正史をわかりやすく日本語に書き下したような感じ。
巻末で作者解説がある。那珂通世の「元朝秘史」と「成吉思汗実録」その他を参照したらしい。

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